白夜の中の渡り鳥   作:凍り灯

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お久しぶりでございます。
大変お待たせしま…四年ぶり!?………果たしてこの作品を覚えてる人はいるのか?という疑問しかないのですが、ちゃんと完結まで書いておりますので(残り5話)、気が向いたら軽く流し読みでもして貰えれば幸いです。







薄暮に惑う

 

 

 

 

 

ずっと白夜の中にいた。

暗闇ではない、眩しい陽の光の下、それに目を眩ませながら死ねると思っていた。

 

だと言うのに、いや、だ(・)か(・)ら(・)こ(・)そ(・)あの暗闇の恐ろしさを忘れていた。

陽が陰った後に全てを包み込む、何より恐ろしいものを忘れていたなんて。

 

結局は、"それ"だった。

 

私は、暗闇に大切なものを置いてきた。

あの瓦礫の下(憎い故郷)に置いてきてしまっていた。

だけど本当はずっとそばにあった。そんなものはないと言い張っているだけで、振り向けば嫌でも思い知らされる場所にあったのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白くなれ、白くなれ。

私から溢れ出る雪はこんなにも真っ白なのに、目の前は何もかもが真っ黒。望んだ眩(まばゆ)い白はやってこない。

あの白夜(はくや)のような、明けのない白い夜がこない。

 

心臓の鋭い痛みが身体中の血管を伝ってを這いずり回り、けれどもその痛みにのたうち回ることもできずにただ辺りを白く染め上げるために能力を行使する。

暗い、暗過ぎる。ここは、なんでこんなに黒ばかりなのか。

 

…いや、わかっている。全て、全て…全ては私が作り上げたまやかしだ。

 

駄々をこねる猛吹雪とは裏腹に、どこか冷め切った自分が顔を出し、冷静に、今の無様な自分を見下ろし吐き捨てた。

「いい?あなたは失敗したの、わかる?」

…わかっている。

己の人生の全てを捧げた。それがシュガーのためだと、あの子のために必要な事だと思っていた。それはきっと正しかったはず。上手くいっていたのだ、今までは。

 

ああ…!けれども結果はこ(・)れ(・)。

私一人だけが、こうしてここにいる。全部が意味のないものに変わり果てた。パンクハザード、あそこでもっと私が上手くやれば、結果は違っていたのかもしれないといういのに、私は若様の期待を裏切った。

その結果が、その結果が、その、結果が………

 

 

────ごめんなさい。

 

 

もう、謝罪の言葉を吐くことすら、自分には許されない気がして。

暗く狭い地下室で蹲(うずくま)り、ただ己の無能さを呪う。

 

大丈夫。大丈夫。まだきっと。

「いいえ、あなたはもうお終い」

うるさい!私のことなんてどうでもいい!今までそうやって生きてきた!全ては若様のために…シュガーのために…!

感情が無茶苦茶になる。それを見下ろしている若い頃の、まだ"人の形"をしていた私が無表情に終わりを告げようとしていた。

大丈夫、まだ、どうにか出来るはず、まだ、大丈夫。

「本当に?」

大丈夫。だいじょうぶ、だいじょうぶ。わたしは死んだっていいの、だから。

「またそうやって嘘をつくの?」

嘘?

なんの話…?嘘なんていくらでもついてきた。若様のために。

「そうやってまた嘘をつくのね」

 

…"嘘"?

 

 

何に…誰に対して…?あなたは…私は、何を言っているの…?

 

 

────その時、暗闇の中に光が射した。あれだけ求めた真白な光。眩しさに目を細め、逆光で顔の見えない誰かを見上げた。おかしい。こんなにも明るいのにまだ暗く、よく見えない。もっと光が欲しい。

その想いを叶えるかのようにさらに強い光が"誰か"の後ろから射し込んでくる。

 

重なる。

黒いサングラス、暗闇の中から見下ろす、男。

黒いゴーグル、暗闇の中から手を伸ばす、男。

重なる。

不敵に笑った、その顔。

不器用に笑う、その顔。

重なる。

それでも見捨てなかった、その姿が。

それでも見捨てなかった、その姿が。

 

いつだってつきまとう。

つきまとっている。

あの頃から、私に。

 

────憎い。

知っていた。

この人は私からすべて(家族)を奪ったのだと。

────嬉しい。

知っていた。

奪われたすべては、と(・)て(・)も(・)ま(・)と(・)も(・)な(・)も(・)の(・)で(・)は(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)ことぐらい。

────苦しい。

知っていた。

私はずっとずっと、もうまともではなくて。全てを失って与えられた13年前のあの夜に、壊れてしまっていた。

 

刷り込まれた感情が、別の対象へと移り変わっただけの話だった。

それはまるで鳥のインプリンティ(刷り込み)ング。

馬鹿(鳥頭)な私はすぐに忘れ、新しい"親"について回っただけの愚かな(雛鳥)女。

 

…たった今、あの憎しみを忘れたままに共に連れてきてしまっていたのだと思い出してしまった。だから今この瞬間、ようやく孵(かえ)り咲き、この心臓に嘴(くちばし)を突き立てる。

 

 

そうだ…私は…────若様(ドフラミンゴ)が憎かったのだ。

 

 

「そうよ。ようやく、気が付いたのね」

こんなこと、こんなこと、こんな、こと…────

「────気付かなければよかったのに?馬鹿ね。どちらでも同じよ」

 

 

「もうあなたには、何も残っていないのだから」

 

 

愛すべきものも、憎むべきものも等しく。

何も、ない。私には…私は、どう、すれば。

 

『──────そうだ、だからもう自由に生きていいんだ、モネ』

 

お前を縛るものは、もう何もない。

 

黒いグラス(ゴーグル)を投げ捨てたその"誰か"に。

そう、言われた気がして、私はゆっくりと目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めたモネは、驚くほど落ち着いていた。

 

それが見掛け倒しなことはすぐわかる。

 

渦巻く感情が、俺に流れ込んでいるからだ。

今までとは違い、表面だけしかまともに取り繕うことが出来なくなくなった彼女の内側は、ずっと分かり易くなった。

 

所謂、"殺気"と言う奴だ。

…動物というのは、思っている以上に人の感情に機敏だ。だからチューイはまだモネを怖がってか、近づこうとしない。

 

そんな状態でも、薬はちゃんと飲んでいる。言い付けはまだ守ってくれている、従順すぎる程に。じっと静かに見つめて来る彼女を少しだけ見返した後に、俺はサイドテーブルに置いた丸盆を持って黙ってキッチンへ引き返そうとした。

 

「ねぇ」

 

ドアから出る直前に、彼女に呼び止められる。

キリリと張り詰めた緊張感を感じ取った俺は、背を向けたままその場で立ち止まった。

 

「どうして、私を助けたの」

「…どっちもか(パンクハザードと昨日)?」

「どっちもよ」

「背後からの抱きつき…能力によって凍死させる気か」

「…!」

 

静かに殺気立っていたモネを、俺はあくまで穏やかに振り返り見やる。

そしてゆっくりと近づき、ベッドの傍(かたわら)のマホガニーの椅子に腰かけるまで、彼女はずっと変わらずに殺意をまとっていた。飛び掛かる直前の獣のように。

 

あくまで急ぐことはせず、俺は彼女の顔を覗き込んで口を開く。

金色の瞳が、相変わらず美しかった。

 

「俺を殺したいか?」

「ええ」

「…それだけじゃ、ないんだろう…?」

「あなたはそういう詮索をしない人だと思っていたけれど…乙女の秘密を暴くものじゃないわ」

「モネ、俺の見聞色は少々特殊だ。人の強い感情、意志、それらが絶えず流れ込み続けてくる…それは俺に取捨選択などは出来ず、例外なく全てだ。人も、動物も、何もかも…どう鍛えようが、制御は出来なかった」

「…」

「お前の中には憎しみと、恐怖…対して感謝と、安堵。大暴れしてくれたあの時から、常にない交ぜに吹き荒れている。俺を殺したいが、同時にしたくない、そんな矛盾だ」

「…私は、戻らなくてはいけないの」

「望むならば、俺など無視して行けばいい。だが俺を殺す理由は?その無差別な憎しみは、言うまでもなく、お前自身を破滅に導くかもしれない」

「………ええ、そうでしょうね」

「"自暴自棄"だ。それだけだよ、モネ」

 

そ(・)れ(・)だ(・)け(・)、ですって?

 

俺の言葉に反応するように、彼女の心の中の"声"が聞こえた。そしてモネがあの時のように殺意を振り上げ、刃となった羽が瞬く間に迫り────しかしそれは俺の目の前で止まった。

荒い呼吸を抑えようとするモネ。汗が吹き出し、瞳孔が開き、綺麗な金色が俺の眼を射貫く。

 

…彼女は刃を止めた。

衝動を抑え込んだのだ。何(・)か(・)によって。

 

そうして、俺から気まずそうに目を逸らし、元のベッドの上へと戻って姿勢を正した。

 

「────それが、お前の答えなんだろう?…逆撫でする言葉を選んで悪かった」

「知った口を聞くのね…人の心を覗き込んだ程度で」

「医者は知ったかぶりの集まりさ」

「怒られなさい、世界中の医者たちに」

 

…少し、調子が戻ってきたようだ。

全く動じない俺の様子を見たからか、モネは窓の外をぼんやりと眺めながら口走る。

 

「…責めないのね」

「それは勝手に家中を探りまわっていたことか、俺の部屋を水浸し(雪が解けて)にしたことか、俺とチューイをぶっ飛ばしたことか、医者としての忠告を無視したことか…昨日とたった今、殺人未遂があったことか」

「全部よ」

「…欠片も腹が立っていないかと言われれば嘘になるが、そもそも俺の判断ミスだ。配慮が足りなかっただけだろう…タカを括っていたのさ、お前ならば大丈夫かもしれないと」

「…買いかぶり過ぎね」

「全くだ」

 

そうして二人の間に沈黙が降りる。

窓にぶつかる風が建付けの悪いガラスを震えさせ、ガタガタと不安を煽った。

嵐はまだ去る気配はなく、彼女がここにきた時の長閑(のどか)さはとうに消え失せ、代わりに抗いようのない激しい波が青をかき混ぜ続ける。

空の青も、海の青も等しく。

 

沈黙に耐えきれなくなったわけじゃない。

ただ、ちゃんとここで話をしておかないと後悔する気がして、俺は渇き始めた口をひらく。

本当に久しぶりに、己の心の奥に"恐怖"が芽生えたのを無視して。

 

「…何かを探し回っていたのは、勘づいていたさ。言ったろう?強い感情は、否応になく俺に流れ着く…お前が探し物が見つからなくて苛ついているのを理解していた」

「便利な物ね」

「そうでもない。…モネ、俺たちがこの部屋で話し始めて、近くで死んだ鳥が何羽いるかわかるか?」

「…もしかして、それすらもわかるの?」

「32羽だ…たった今、33羽になった。死に際の絶望も一緒に、俺に流れこむ…他にも、凶悪な鳥どもに殺された獣の声も聞こえている。意志が強ければ、虫であろうと。34羽」

「それは………確かに、あまり羨ましいとは思えないわ。でも、有用ね」

「36羽…そうだな…有用ではあるが、手放せるならば手放したいと、今でも思っている────だが生まれついたものはそう簡単に切り離すことは出来ない。腫瘍(しゅよう)とは違う」

「私の手足のように変えられるならば、是非とも欲しかったわ、昔ならば、だけれど。…もう、今はいらない」

「………ドレスローザか」

 

"ドフラミンゴ"、と言わなかったのは、せめてもの配慮だった。

俺の言葉を受け取った彼女は、目を伏せ、息を小さく吐き出して落ち着こうと努力している。

ようやく彼女は、俺の目ではなくどこか遠くを見ながら言葉を零し始める。

 

「もう何もないの」

「…」

「命を捧げていたわ。若様に。それ以上に、妹のために何もかもを切り捨てた」

 

感情の嵐。

静かな口調と裏腹に、その内心が今この諸島を飲み込む嵐と同じように吹き荒れている。

耳を削るような風音、かと思えば急に後ろ髪を攫(さら)い上げ、天高く昇っては落ちる。秩序など、あるものか。

 

「私個人の感情なんて不要だった。必要なのは人を騙すための、真意の読めない"自分"。他人なんてどうでもいい。全部あの子が生きるための場所を守るために利用するだけの存在…それかただの邪魔者でしかなかった。それでも、そんな私でも、私はあの人を王にしたいと願った。素晴らしい日々だったわ…命よりも大事と思える人のために、己を捧げていくあの頃が…────そう、思っていたの」

「…」

 

モネは、震えの止まらない両(・)手(・)を顔の前にかかげ、そしてぐしゃりと指で前髪を潰すように顔を覆う。

 

────違う、手なんてものは、もうない。

今のは…彼女のイメージが流れ込んできただけだ。

目の前の顔は、大きな白い羽で覆われて見えない。けれども俺には、彼女自身が強烈に思い浮かべるイメージによって、その顔も、表情も、よく見えた。見えてしまった。

 

 

震える手と違い、その子(・)供(・)の顔は、何の感情も浮かべてはいないということを。

ここまではっきりと見えることは、俺にとってもとても珍しいことだった。

 

 

「違ったわ」

「…」

「憎かったの」

 

もう殺意すら、そこにはなかった。表情と同じように。

 

「私を支配しようとする全てが」

 

そうして頭に浮かんだ(流れ込んできた)のは顔の見えない黒い大きな大人、それに怯える幼子が二人。

震えて過ごした小さな姉妹。

暴力を振るわれる毎日。

その悪い大人を、"父"と呼ぶ小さなモネ。

 

「憎かったの」

 

「妹を傷つける全てが」

 

 

キリリリリリリリリリリリ…

 

 

キリリと張り詰めた糸に覆われ町。

 

『海賊だッ!!』

『ドンキホーテ海賊団!?なんでこんなところに…!』

 

殺される人々。

家で怯えるだけの私たち。

あの男が私を蹴り飛ばす。

 

『こういう時ぐらい役に立ちやがれッ!!!』

『ダメ…!お姉ちゃん!!』

 

殺された…憎きあの男(父)。

キリリキリリと、無様に真っ白な糸で切り裂かれた糞みたいな父親。

私たちがその糸で死ななかったのは偶然だった。

 

『シュガー!危ない!!』

『…え?』

 

崩れた家、運よく瓦礫の隙間に逃れた私たち。

寒さが身を蝕む。気色悪い匂い、死の匂いが心を蝕む。憎い男の血の匂い、自分から流れる血の匂い。死に近づく匂い。

 

『ねぇお姉ちゃん』

『大丈夫よ…!大丈夫、大、丈夫…』

『お姉ちゃん…!』

『きっと、きっと誰かが………』

 

来るはずなんてない。

けれども、つまりそれは妹が助からないということ。

瓦礫に押しつぶされかけながら諦めの感情に支配され、ただ抱きしめあって震えるだけしか出来なかったあの夜。

 

 

キリリリリリリリリリリリ…

 

 

『子供の泣き声?』

『この瓦礫の下だ』

『生き残りがいたとは、な』

 

現れるはずのない"白夜(あの男)"が私たちの目の前に現れた。

眩しくて目が眩むような、暗闇を忘れてしまうほどの────

 

 

────父親を思い出すかのような、気色の悪い薄ら笑いを浮かべた男(若様)。

 

 

『…ほう?いい殺意だ…どうだ、俺たちと来るか?』

 

 

全てを捧げると誓った相手は、誰よりも憎い男(父)に似ていた。

 

 

「あの日から、私は妹のためにと全てを捧げた。自分の感情を殺し、強者に従い、それこそが素晴らしいのだと思い込んだ。そしてあの人は私たちに悪魔(悪魔の実)の力を与えた。どちらも強力だったけれど、わざわざ妹の方により恐ろしく、より重要な力を与えたわ。

…今思えばあの人は私の本心なんてわかっていたのでしょうね…私は…自分の心すら忘れていたっていうのに。妹のためにともっと働けるようにしたのね、悪意と呼んでもいいかわからない無邪気さで。

それでも私は気が付くはずもなくって、心と体を圧し潰して働くことに生きがいを感じていたの────でもね」

 

羽の隙間、そこから覗く大人になった彼女の顔は────

 

「────もうないの」

 

相変わらず、全てを削ぎ落した顔をしていた。

 

「生まれ故郷も、この手で殺してやりたかった父も、全てを捧げた憎い(愛しい)男も、妹も」

 

虚ろになった金色の二つの瞳が、俺を見つめる。

 

「────どうして、私を助けたの?」

 

最初の問いと全く同じその言葉。

ひどく純粋に、透き通って重く、ゆえにこそどうしようもない絶望だった。

 

 

────死より恐ろしいものはない。俺はそう信じていた。

死は明けない"夜"だ。日が昇ることはなく、その先はない。

昇ることのない暗闇の、その真ん中でもがき苦しみ抗えずに夜に溶かされる…人はそうやって死んでいく。

 

今でもその考えが、間違っているとは思わない。

 

彼女もまた、同じなのだと俺は確(・)信(・)を(・)得(・)て(・)い(・)る(・)。けれども今それを言って、押し付けていいものだろうか?

 

数えきれないほどの人の強烈な意思を浴びて来たとはいえ、それを一々読み解くほど強靭には生きれなかった。…絶望した目の前の彼女にかける言葉がすぐ浮かぶほど、人の心に寄り添ったこともなかった。

医者とは言え、所詮は荒れくれものを相手にしてきただけの、野蛮な人間でしかないのだ。

 

────結局俺に出来ることは真摯(しんし)に、"優しい嘘"などではなく、本心を伝えることだけでしかない。柄にもなくそう思った────それが間違いだと知らず。

 

「…生かした責任は俺にある。お前が望むならば、俺は出来得る限り力になると約束する」

「…」

「モネ、お前は…生(・)き(・)る(・)こ(・)と(・)渇(・)望(・)し(・)て(・)い(・)た(・)。だから助けた…」

 

最初、モネの姿すら見ることが出来ていなかった炎と氷の島の空の上。

そこで彼女がそ(・)れ(・)を求めたからこそ、俺は応えた。

 

「生きたい奴は生かす」

 

ただ年月を重ねただけの俺が、それでも医者としての"矜持(きょうじ)"とか言うのを言葉で言い表すならばこれだろうと思う。生きたいと思わない奴らを助けてやるほど、俺はお人よしではない。

 

「俺は…人の痛みを共有することが出来ても、心の底から理解することは出来ない…どこまでいっても他人だからだ。だが、あの時お前は確かに、生きたいと思っていたんだよ、モネ」

 

俺の言葉に、ただモネは悲しそうに微笑むだけ。

 

「そう…残酷なことを言う(生きて欲しいって言ってくれない)のね、ルート」

 

その言葉に俺は何も言うことが出来ずに口を閉ざす。

 

何かを、間違えた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

────そこからの彼女は…例えるならば、動く抜け殻のようだった。

 

立ち上がる事も問題なく、食事も行い、たまに手伝いを申し出ては、日常を生きている。

それだけだった。

 

時たま悲しいように笑うだけで、多くに興味を失い…ただ廃教会の奥、切り立った崖上から見える景色をふらりと見に行っては俺が連れ戻す。そんな生活が続く。

 

「クルルルルルル……」

 

チューイが心配そうに寄り添うことは何度もあった。しかし何も言わずに撫でるだけの彼女を見上げるチューイもまた、何かを察しているのか心が晴れることはなく、活発さが失われている。

 

────時間が必要だ。

 

幸い俺たちには、幾らでも残っている。

俺だって人の心に寄り添う方法なんぞわからない。そんな人生を歩んでこなかったからだ。こんな場所に一人隠居してる時点でお察しだろう。

どうにか、してやりたい。

柄にもなく、俺はそう思えるようになっていた。手遅れかもしれないと感じながらも。

 

けれど少しずつでいい。少しずつ、また笑えるように焦らずやるべきだと、その時は思っていた。

 

そしてそれは、やはり俺の間違いだったのだと思い知ることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 









改めまして、再びこの作品を読んでいただきありがとうございます。
もう誰も読まんやろ…と勝手に思っていたのですが、意外にもそうではないという声をいただいたために再起し最後まで書き切りました。(ちょろい)
投稿は1日おきに行う予定ですので、もう少しだけお付き合い下さい。

再び二人と一匹の行く末をどうか見届けてくれればと思います。

そしてそんなちょろい作者に感想などをいただけ(以下略)


■ルート
周辺の"声"全てを拾ってしまう生まれつき特異な見聞色持ち。
例えるなら頂上決戦時のコビーや空島のアイサのように見聞色が未熟な状態をさらに酷くしたもの。
しかしどう鍛えようとも取捨選択は出来ず、人間、小さな動物問わず彼らの強い感情…特に死の瞬間の叫びを昼夜問わず聞かされ続けていた。
そのため幼少から常に疲れ果てた成人のような心で生活を送っており、結果として感情の起伏がやや乏しくなってしまう。それでも死がどれほど恐ろしいか知っているために、生きようと足掻き続けた。

白髭海賊団の元で多少の人間性を取り戻すことに成功するも、大きく心が動くような人間にはなれなかった。
はずだった。

そうして心が動いたがために、何かを間違えた。


■モネ
暗闇が嫌なのに光も拒んでる。
瓦礫の下から出たいのに、幼い私たちを引き上げたのは、憎い父に似ている薄ら笑いを浮かべた男だった。それを思い出してしまったから、差し込む光も嫌で仕方ない。
だから雪で白く覆い尽くして丸まった、なんの解決にもならないのに。このまま押し潰されてしまいたい。

その消えたいという感情すら嘘なのだと、ルートは言う。


■チューイ
ベガパンクの被造物である小さいドラゴン。
彼にとってモネは難しい存在ではない。
ただ可愛がってくれるから懐いた。それ以上はなく、けれども今はモネの不安定さに気落ちしている。


■ドンキホーテファミリー
13年前、北の海(ノースブルー)のモネの故郷の街をとある理由から襲撃、生存者はほぼ存在せず。姉妹を虐待していた父親もイトに切り裂かれて死亡。
モネとシュガーが生きていたのは偶然であり、ドフラミンゴは自分に向けられたモネの殺意と怒りにかつての自分を思い出し、ファミリーに迎え入れた。


■時間軸
モネが目覚めるちょうどその頃にドンキホーテファミリーが崩壊しています。
買い出しのために他の島に行くたびに新聞は確保、けれどモネの精神面の著しい悪化を危惧してルートが隠しました。
見聞色によって、モネがあまりに不安定なままだと分かっていたため。

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