Against All Odds   作:錫箱

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加護(上)

 

 

 

 

【証言一:当該模擬競走に出走の二人組。共に高等部一年】

 

「よくわかんね」

「わかんねーけどびゅいーって来たよな」

「ん。ガチでビビったわ。ヒマ(註:出走者いずれかの愛称と思われる)とか声ひっくり返ってた」

「ねー。でも一ハロンですっ転んでんのウケる」

「ウチらも転びながら走ったらあんなに速くなるんかな」

「鬼痛そうでウケる」

「んはは」

 

【証言二:シリウスシンボリ】

 

「バンソーコー貼られるのがあんなに嬉しそうなヤツは見たことがなかったな……ああ。日曜にもう一回同じ条件で走らせてみたが、今度は最初の二ハロンに三十秒も使いやがった。上がりもそのくらいだ。本人に訊いても首を傾げるだけだ。ふざけてやがる。ああ、最下位だよ」

「アンタは昨日いなかったな。そうか、オークスだったか? はっ、デキる男は違うな。いいか? 基礎訓練を引き受けるとは言ったが、アイツが本当に一ハロンを九秒フラットで走れる能力の持ち主──それを能力と言っていいのかは微妙だが──もしそうなら、話は変わってくる」

「私のチームには箝口令を敷いた。すぐに漏れるようなことはないとは思うが、いずれにせよこの学園からデビューしようという以上は時間の問題──」

「そうだ。本人にも念を押して、可能な限り隠し通せ。猛烈に嫌な予感がする」

「ああ、じゃあな。次からは部室じゃなく携帯に掛けろ」

 

【証言三:岡澤浩一郎(及びその門下生)】

 

「平地のダート一ハロンを九秒フラット? んなウマ娘は地球上にいねぇよ。なんでそんなこと聞くんだ」

「シルキーサリヴァンでも十秒ジャストすよね。ゴムトラックでもそんな記録無いしょ」

「ドクターフェイガーが三十年ばかし前に二ハロンを二十秒六で走ってたかな。芝の短距離戦、かつパンパンの良馬場で下り坂が絡めば九秒台半ばまでは詰まるかもしれないが、今の日本の状況じゃそこまでは持っていけん」

「重力を味方につけたい」

「すでにお前らの友だよ。というかシゲ()、質問の意図をまだ聞いてねぇぞ意図を。あ、おい、どこ行くんだ」

 

【証言四:吉良英明(二次試験監督者)】

「君か。二分以内で頼む」

「入学試験番号六二一五番のハンマーソング? ああ、覚えている。二次試験午後の部の発走前、電動ゲート内の開閉部分やセンサー類を強く圧迫して不具合を発生させた生徒だな。試験委員間での協議の後、その場にいた他の受験生からの同意も取得して不問に付したが」

「一ハロン時点で係員をコースに入れて中止したレースに、展開も何もあるか。私とて即座に先頭集団を止めに走ったのだから、出遅れた受験生がどう走ったかなど確認していない」

「通過タイム? 九・〇秒だな──何を慌てている? 先程述べた通り、彼女の所為でセンサー類が破損したのだ。正確に計時できているはずもなかろう。結局次の試験までに換装したよ」

「まだ何か? ……はあ。答えが既に君の中に在る質問に答える気はない。もう二十秒オーバーしている。切るぞ」

 

【証言五・マヤノトップガン】

 

「だから言ったじゃん。つかまえといたほうがいいと思うな」

 

(備考:TV出演のため学園を離れていたフジキセキの見解は得られず)

 

 

【証言六・ハンマーソング】

 

(空欄)

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

【──一番外からダンスダンス、ダンスパートナー先頭に立つか──ライデンリーダーは、ライデンリーダーは後方に沈んでいく……!二百を切って──】

 

 心肝寒からしめるとはああいうことなのだろう、と畠山は無意識に頬を擦りながらぼうっと一連の出来事を回顧していた。

 あの日、転倒したハンマーソングはそのままコースを退出。擦り傷の手当をしたのちベンチに座らされてシリウス門下生たちのトレーニングを見学する運びとなった。彼女は畠山の顔を見て申し訳無さそうに

 

「まっすぐ走るのって案外難しいですよねぇ」

 

 とだけ言い、あとは肘や膝に貼られたガーゼを嬉しそうに眺めているだけでほとんど言葉を発しなかった。畠山は彼女の方へ向き直ることもできず、ただ沈黙して隣に座すばかりだった。

 結局、あの瞬間のハンマーソングがどのように走ったかを畠山は見てはいない。見ないほうがよかったのだ、とさえ彼は思うようになっていた。あの身体が、スタートからの百五十メートルだけで後続を六バ身以上突き放す光景を、見ずに済んでよかったと。

 一度理解してしまえば全てが崩れ去る。

 

【──ダンスパートナー突き放す、二番手ユウキビバーチェ、更に内からワンダーパヒュームが上がろうという勢い──】

 

 翌日の深夜、シリウスシンボリから送られてきた二回目の模擬レースの映像を見てどれほど安堵したことか。そこには畠山のイメージ通りのハンマーソングが映っていた。細い手足をギッコンバッタン振り回しながら頭をみっともなく上下させ、上級生たちの数バ身後ろを必死に追走する姿が。

 そうだ。再現性がないのなら気のせいということだ。入試の異様なタイムについても、試験監督の吉良曰く計時装置が壊れていた結果だという話だし、今回の件だってフライングスタートしたということにしておけばそこまで不自然ではない。あの身長ではバリヤー式発走機などいともたやすく潜れてしまうだろう。

 

 全ては幻だった、と彼は考えることにした。

 

んなわけねぇだろうが──

 

 

 

 身体の中で何かが裂けるような感覚。けたたましい破裂音。

 気がつくと、彼は床に散らばったプラスチックのバインダーの残骸を見下ろして独り立ちすくんでいた。ゆっくりとそれから視線を剥がし、周囲を見回す。

 

 深夜2時の灯影。

 清潔なリノリウム、没個性なマンション・2LDK。

 クロスのかかっていない裸のテーブルに卓上調味料。

 誰かが覗いているかもしれないドアスコープ。

 

 

【──しかし、しかし先頭はダンスパートナー! 一バ身から二バ身! ダンスパートナーです! 見事に見事に、樫の舞台に舞ってみせました! ダンスパートナーです! 二着にユウキビバーチェ、三着にどうやらワンダーパヒュームか──】

 

 幽霊すら侵入をためらいそうなほど薄い40型TVスクリーンが、数日前に彼が送り出した教え子のさみしい背中をチラッと映し出した後、勝者を称える画角へと変わっていく。

 二分後、男はのろのろと床に散らばった紙片を拾い集め始めた。

 

「ごめんよぉ、ごめんよぉ」

「おれが君だったらなぁ」

 

 彼の口から時折こぼれる掠れた呟きの向かう先を誰も知らない。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 トレセン学園近郊の早朝に特有の風景として、向上心に満ち溢れた生徒たちから成るロードワーク集団が公園やら河川敷やら商店街やらを駆け巡る様子が挙げられる。同じレースチームに所属している者たちと徒党を組んで走っていることもあれば、気心の知れた友人同士が時折会話を挟みつつゆるゆると走っていることもある。むろんそれら有象無象をキッと睨みつつ全速力で走り抜ける一匹狼もまた、彼女らの一員には違いない。

 ぞういった青春の香り溢れる光景に加えて、たまに近隣に住む学園OGや筋肉ムキムキ一般ヒト科男性の類がそれぞれの目的のためにひいひい言いながら追走していることもある、なかなかにカオティックなモーニングルーチンの集合体なのだ。

 

 午前七時四十五分頃。

 そろそろ学園の生徒たちが引き上げようという時分、空いた川の土手を独り走っている円筒形のシルエットがあった。

 円筒形である。高さ九十センチ、直径六十センチほどのそれから頭と手足が生えている。ひょろひょろした手でもって円筒形の外壁を抱えるように支え、時折その内部でガンガン(膝が内壁にぶつかる音でもあろうか)響かせながら窮屈そうに走っている怪人物。目撃者が口を揃えて「トイレットペーパーの妖精」「昭和の宴会芸」と呼ぶ、これ。信じがたいことにこれが本日の主役、我らがハンマーソングちゃんであった。

 先日ようやくチームに再加入し、自室を得、練習場所を得た彼女はどのようにトレセン学園での一日を過ごすのか。本日はそれを切り抜いて俯瞰することとしよう。

 

 

【通勤中の岡澤浩一郎トレーナーによる聴取】

 

『よっ。また今朝は違う缶穿いて走ってんだね。それどこで拾ったんだ?』

『(呼吸)おはよーございます。二つ前の橋の下ですね。(呼吸)底に穴が開いてると、どうしても拾っちゃいます。不憫で』

『うんうん。遅刻せんようにね』

『はぁ゛(激しい咳)……はぁい!』

『また今度でいいから先週ウチから持ってったドラム缶も返してくれよな』

『(無言で走行スピードを上げる)』

『おい!!!』

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 朝六時四十分頃。とっても素敵な部屋の、ふかふかのベッドの上で彼女は目覚める。寮生活五日目、今日も今日とて最高にいい気分。

 この部屋の素晴らしいところはまずもって天井の電灯が点くことだ。電気を点けなくたって、仏壇も大きな箪笥もない広々とした部屋の窓からいっぱいに朝日が射し込むのも良い。一部屋に二人詰め込まれるのが寮の基本仕様らしいが、幸か不幸か同居人はまだ存在しない。広々とした一人の空間は、それだけで思春期の少年少女をアガらせてやまない。

 さて、朝一番の窓を開けるとそこに広がっているのは隣の市営住宅の壁ではなく、栗東寮一号棟の周囲を取り囲む美しい逍遥道だ。

 

「おはようございまーす。お元気ですかー」

 

 優しい声がけが善い生育の糧だという。窓枠の下に安置したドラム缶に水をやってから、彼女はタンクトップと短パンからトレーニングウェア(畠山に発注してもらったウェアがまだ届かないので私物のジャージである)に着換え、ナップサックに着替えと筆記用具と「相棒」(ぬいぐるみ)を詰めたら出立するのである。

 

 朝食も凄い。例の和を極めたような食堂に行くと、毎日数十人がものすごい量の白米をかっこんでいる。ベーコンや卵にさばの味噌煮、よくわからない菜っ葉も頼み放題らしい。

 ハンマーソング本人は今まで朝食に納豆一パックかスナックパン一つ以外の物を食べたことがなかったので、最初のうちは何を食べたらいいのかわからなかった。入寮二日目の朝、他の生徒たちが注文している物から登場回数が多いやつを見繕て片っ端から注文してみたところ、さばの味噌煮とさわらの味噌煮とさといもの味噌煮こみと生卵が大量に出てきてしまい衆目を集めた。

 

【命名:味噌煮ちゃん】

 

 翌日以降「味噌煮でーす!」と叫びながら入室するとややウケることがわかったが、それと同じくらい迷惑そうな顔もこちらに向けられるのでこの日は自粛した。

 

 食事が終われば次は朝の自主練である。畠山やシリウスからは何も言われていないが、周りの強そうな生徒がみんな走りに行くので彼女も同じ行動を取る。周囲の人波をもう少し注意深く観察すれば、自主練に向かう生徒は朝食を控えめ、もしくは流動食に近いものなど胃腸への負担が少ないメニューで済ませていることや、腹ごなしの軽い運動から徐々に負荷を上げるなどの工夫をしていることが分かるはずであったが、アホは食った直後に全力で走る。寮から飛び出して学校の敷地を出るまでにはもう、

 

「痛いですぅお腹が。痛いお腹ですよぉ──ー」

 

 このような倒立した有り様に成り果てている。消化不良のリスクなど飛び越えてそもそも脇腹が痛い。が、それでも走り続ける。そんな彼女を後発組がどんどん追い抜かしていく。ジョギングコースとして知られる河川沿いの遊歩道にたどり着く頃には脇腹の痛みは収まっているが、前段で紹介したとおり周囲には誰もいない。

 そんなさみしい気持ちの時に、ふと、川に架かる橋のたもとに目が行くとする。宿無しが拵えたらしい一夜城があったりするのだ。

 城の側に使われていない木やブルーシートなどの端材が落ちていたら、ワクワクしてしまうのだ。

 万が一それが──哀れみを誘う穴あきドラム缶だったら、もう駄目だろう。

 そんなわけで本日のハンマーソングは、八キロメートルのジョギングコースのうち約一・二キロメートルほどの区間を、財産を取り戻さんとして怒れる宿無しを引き連れて走行することとなった。残念ながら腐ってもウマ娘。ドラム缶を頭から引っ被るというハンデ(斤量)を貰ったとて、ヒト科宿無し氏の脚力ではハンマーソングに追いつくことはかなわなかった。

 学園への帰途、賊は缶の頬(どこだろうか)に口を寄せてこう囁く。

 

「よしよし、お前の中身と故郷もすぐ見つけてあげますからね」

 

 すると缶は彼女の頬にザラザラと錆を擦り付けて応えてくれるのである。相思相愛といって差し支えない。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 持ち帰ったドラム缶は駐輪場の後ろに置いておくと比較的安全であると彼女は既に学んでいる。ギリギリで予鈴までにクラスルームに滑り込んでも大して目立たないのがトレセン学園の良いところの一つだ。この学園では誰もがべらぼうに先を急いでいるのだから。

 というか今日に関しては担任教師がなかなか姿を見せず、なんと一限目の開始を告げるチャイムよりも後に教室に滑り込んできた。

 

「ごめーんみんな。朝礼とかいいから直で一限やっちゃおっか」

 

 そう言いながら入室してきた、瓶底眼鏡に芋臭さを極めた緑色の長袖ジャージ、加えてものすんごい猫背というシルエットがハンマーソングの在籍するクラスの担任である。眼鏡に加え、花粉が酷いと言ってほとんどマスクを外さないため人相がよくわからない。噂によれば年がら年中この格好だそうで、わかっているのは推定三十歳前後の鹿毛のウマ娘であるということと、名を牧原某ということくらいである。担当教科は国語。音読ばかりさせるが生徒からの評判はそこそこ良い。

 

「口は回るに越したことないからね」

「私の持ってくる詩とか小説をさ、無理に好きになってもらう必要はないんだ。なんとなくでいいから、いつか思い出して口ずさみたくなるようなフレーズに出会えるといいよねって話」

 

 そう言いながら教科書ガン無視で古今東西の詩作や短編を持ってくる。時には持ってこさせる。

 繰り返しになるが評判はいい。教師本人のビジュアルがもう少しマトモなら人気も出ていたであろう。しかしながら授業が終わると即座にピューと何処かへ行ってしまうため交友を深めるタイミングもない。

 

「みよすべての罪はしるされたり、

 されどすべては我にあらざりき、

 まことにわれに現われしは、

 かげなき青き炎の……ふぅぶぇえええっくしょぉい! あ゛ーすみません」

 

「いいのいいの」

 教師は開け放たれた窓枠に腰掛けて足を組んでいる。その眼前、最前列の席で堂々と寝入っている生徒にも、はたまた鼻をちーんずびびとかんでいるハンマーソングにも大して関心はないようだった。

「萩原は地面の下に伸びる竹の根のフラクタルに何を見たんだろうね。ま、わかんないけど。寒い?」

「いえ全然」

「私はこれ読むと冷えるよ。みんなも騙されたと思ってガンガン冷えていこ? 次、配るね」

 

 そうは言っても五月末のぽかぽか陽気だ。その後も授業は音読と感想の交換で大方が占められ、この内容で寝落ちた者がついに一人しかいなかったのはこの教師の持つ独特の空気感にあてられてのことだったろうか。

 

 

 国、数、英、走、と午前中の授業はどこにでもあるような時間割で進み、昼食休憩の時間になる。自宅や寮のキッチンから生まれた弁当を抱えて二人、三人と徒党を組んで構内に散らばる者、購買ステークス(障害OP)に挑む者、学園の食堂に向かう者。ハンマーソングはといえば、ナップサックを抱えてカフェテリアに走っていく。つい一週間前までパンの耳にマーガリンと水道水で昼食を済ませていた彼女にしてはえらく出世したものである。なんのことはない、タダ飯のアテがあるからこそ行くのだ。

 

「おつかれですマヤノさん」

「んー。好きなの選んでいーよ」

 

 広大なカフェテリアのど真ん中に不自然な空席のテーブルが五つほど円形を成しており、マヤノトップガンはそのうちの一席にぽつんと腰掛けてジェノベーゼを延々と巻いていた。

 なんと、ここ数日ハンマーソングの昼食費はマヤノトップガンの食堂パスカードから捻出されている。形ばかりの名誉のために述べておくと、タカっているのでも拝み倒しているのでもない。

 

「お金はあとでトレーナーちゃんに返してもらうから好きなの行っちゃってね。マヤ一番高いやつがいいと思うな」

「さすがに……さすがに……」

 

 そういうわけである。二分悩んだ末に彼女はナントカ・ドリアをタブレットから注文した。前々から気になっていたドリアとドリアンの違いを学ぶためにも避けては通れない選択肢だったのだ。二択で来たのは平皿に盛られた米料理、残念。

 そのまま二人はしばらく押し黙ったまま食事をした。ハンマーソングの側はときどきマヤノの顔色を伺っているのだが、いつ見ても眉と口の角度が「興味なし」「不機嫌」「拒絶」の角度で固定されており、なかなか攻め難く見える。

 その割に、勇気を絞ってマヤノがテーブルに広げている雑誌の話や午後からの予定の話題を振ってみると、ごく普通に過不足のない返答が返ってくる。

 小柄ながら素晴らしくバランスの取れた肢体につややかな肌、太陽燦々オレンジイエローの頭髪、そのへんの小学生男子が全員五秒で恋に堕ちそうなキュートフェイスともあれば、お昼休みにはウマスタかアックアックで笑顔を振りまきながら踊る動画を投稿するなり、同じくらい派手な同級生たちとつるんでカフェテリアの端に駐屯するなりしていてしかるべき存在なのに、ハンマーソングは未だにマヤノトップガンの隣に畠山以外のヒト型の生物がいるのを見たことがない。

 この日、ハンマー君は無謀にもそのあたりの事情について突っ込んでみることにした。マヤノの繊細さを考えれば、知り合って数日の仲で到底問うてよいことでないのは承知の上である。距離感が狂っている。

 

「マヤノさんってどうして畠山トレーナーに教わろうと思ったんですか?」

 

 予想に反して、返ってきた反応は俊敏かつ穏便なものだった。

 

「『俺に一年間くれ。つまらないなら面白くしてやる』って言ったから」

「ははぁ」

「んー、あとはね。色々チームに入ってみたりしても、だいたいメンドくさいことになってたんだよね。奈瀬さんのとことか、あの人(トレーナー)の隣に立つのは私だー、みたいなコたちばっかりでイヤだったな」

「ひえぇ」

「その点トレーナーちゃんはアレだからね。キモいから大丈夫」

「ふふふ」

「なーんか、みんなマヤと欲しいものが違うんだなって。勝ちたいーとかテレビに出たいーとか、そーいうのならわかるんだけど」

 

 未だフライト経験のない非行少女は頬杖を突いてカフェテリアの景観を眺めていた。いつもの不機嫌ヅラに薄く塗布された落胆のようなものが見て取れる。

 

「ジブンも好きになりきれないままでさ、みんなを夢中にさせられるわけないのにね」

「へぇ」

「その点ブライアンさんは凄いんだってマヤわかるんだ。いつでもハッキリした……オノレ? と戦ってる感じがして」

「ほうほう」

「ユーコピー?」

「アイムオンリーユアコピー」

「そこはアイコピーっていうの」

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 






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