すらっぎーあにみずむ!!!~動物が人になる現代世界で動物嫌いがヌルヌル生活~ 作:囚人番号虚数番
今日は海から離れて山に行く。というのは山には川という物があるらしいのだ。私は朝ごはんの焼いたお魚をほぐしながら草加に聞いた。いきなりで草加は驚いていたけれどね。
「草加は行ったの?」
「小さい頃ね。行くなら僕と一緒に行こう。あそこは野性の動物とか危ない所が多い。大人と一緒にね」
「大人って草加と珊瑚のお姉ちゃんも?」
「うん。多分古渡は好きだと思う。コンクリートだと足が削れるって」
お姉ちゃんは私と違ってカチカチですべすべの体だった。足も靴の代わりに同じく白い固い靴。とっても綺麗で、だけど脆い体と一緒だから足の長さがちょっと変になってた。山に登るなら草加と一緒が一番だね。
骨のない魚の身にしょうゆを回しかけ、ご飯の上に卵を割って魚と一緒に食べる。うん、おいしい。この食べ方だと醤油が無駄にならないって教えてもらった。草加も同じ食べ方をしてる。
「……カツユ、いつ川を知った?」
「この前恵奈ちゃんのお友達に誘われたの」
「そう、まだ知らない事は多いんだね」
「ちなみに今日」
草加の箸の動きが止まる。どうしたのかと思ったら席を立ち、カレンダーの赤い日を確認してから戻ってきて座った。
「……分かった。次からはもっと早く教えて」
ー--
現在位置 裏山
海から人の活動領域を挟んだ緑豊かな山地。環境保護の為開発が進められず、放置されて久しい。たまに散歩や軽めの登山に訪れる者もいるが基本誰からも忘れられている。一方でアニマにとっては本能を刺激する場所であり、野生を求める動物は少なからず存在する。
待ち合わせは学校から見えるあの廃墟、学校に人が集まる道から逸れて待ち合わせの場所に向かう。山にはこれがいいって草加が袖の長いを着せてくれた。何だか生地がぬるぬるを吸ってなんだか変。何となくみんなの反応の理由が分かった気がする。
「カツユ、本当にこっちなの?」
「うん、こっち」
ここは草と木の暗さで中は見えない。私はあまり目がいい方じゃないけれど、一度来たから道は案内できる。木の位置を頼りに恵奈ちゃんとの待ち合わせ場所を目指してあの建物へと進んだ。
暗い建物に入り屋上の扉を開く。約束通り恵奈ちゃんが待っていた。彼女は私たちを見ると手を振ってくれた。
「おはよう二人とも。お兄さんもおはようございます」
恵奈ちゃんは草加に挨拶する。年上の人には意外と礼儀正しいんだね。草加もいつものちょっと無表情で軽く頭を下げてた。私も一緒に挨拶する。
「おはよー、恵奈ちゃんは水着持ってきた?」
恵奈ちゃんは海でも川でもぶかぶかな服で水で泳ぐ。白いTシャツとショートパンツ、下着は付けてない。
「無いわ。あなたこそ今日は着てきたのかしら」
「着てきたよ」
私は服の裾をたくし上げて下に来た水着を見せる。恵奈ちゃんは私の体をじっくり見てきた。でも胸まで見る必要はないよね。草加も目を逸らしてる。
「さ、さあ!他の子も待たせてるし私達も早くいくわよ!」
「れつごー」
「えぇ……待ち合わせ、別にあるの……」
ー--
現在位置 川
海へと続く小さな河川。川底の石が削られたり土が入り込んだりしており、流れ自体は穏やかだが深さによっては危険である。川の中には魚もいるため、上流では釣りを楽しむ人もいる。
途中数人の友達を連れて川に着くと私たちはすぐに準備を始めた。と言っても用意するのは軽い準備運動だけ。草加がみんなの荷物を持ってくれてるけど、それでも手ぶらに近い。恵奈ちゃんも同じだよ。
初めての川の景色は思ったより綺麗だった。流れる水が太陽の光を反射してキラキラ輝いてる。川の周りは森で囲まれていて、木々の隙間から光が差し込んでくる。
私達は早速靴を脱いで川に足を入れた。冷たい水の感触が気持ち良い。そのまま膝くらいの深さまで歩いていって
「あっ」
石で滑って転んだ。私のぬるぬると違って自分のじゃないから感覚が違う。草加が助け起こしてくれた時にはもう全身びしょ濡れだった。
「砂浜とは勝手が違うんだから気を付けて」
石だらけの地面は砂と違って滑りやすい。でもここは普通の水だ、海と違ってしょっぱくない。
「もう、何してるの?ほら、これ使って」
恵奈ちゃんも自分のタオルを渡してくれる。ありがたい。気を取り直して今度は慎重に川の中を進む。最初は浅瀬で足をつけるだけだったけれど、慣れてくると少し深い所に行ってみたくなる。少し進んだだけで水深は脛辺りまで。川は緩やかなカーブを描いて向こう岸に向かっているみたいだ。
「ぷはっ。川は狭いけど川で泳ぎやすいわね。たまにはこっちで遊んでみようかしら」
恵奈ちゃんが顔を出して言う。すると誰かが彼女目掛けて水を飛ばした。
「きゃっ」
恵奈ちゃんはびっくりして顔を手で覆う。そして指の間から犯人を睨むと、そこにはニヤついた男の子がいた。
「もー、みんな!今度はこっちの番よ!」
恵奈ちゃんが反撃に出る。そこから二人の攻防が始まった。恵奈ちゃんは水をすくい上げると相手に向けて投げつける。だけど相手が上手いのか上手く当たらない。逆に恵奈ちゃんは相手に直接当てようと追いかけ回す。
自然とみんなが彼らに加勢し、みんなでの水の掛け合いになった。
「えい」
私も二人に負けじと水をかける。恵奈ちゃんは一瞬驚いたもののすぐ笑顔になって、混戦を通してみんなと一つになれた、気がした。
ー--
冷えた体に軽く上着を羽織りがらみんなでお昼を食べて休憩中。各々が持ち寄ったお弁当を食べる。私は草加の作ったおにぎりが二つ。素朴な味がしておいしい。恵奈ちゃんはスーパーで買ったパンだった。他の子もコンビニのお弁当や手づくりだったりみんな違う物で面白い。
「じー……」
「……あんた、一口食べる?」
「恵奈ちゃん、いいの?」
「まあ一口なら……ほら」
恵奈ちゃんは千切ったパンを私にくれた。赤いイチゴのジャムが小さくついて甘くておいしい。私からしゃけのおにぎりを一つお礼に渡した。私はもう一つ食べて、ちょっと大きいからお腹いっぱい。
「ごちそうさま」
みんなより少し早めに食べ終えた私は先に遊んでいる男の子たちに合流した。彼らは下流の方で虫網とカゴをもってる。何を捕まえてるのかな?川の水に従って彼らの成果を見てみる。
「魚?」
大きな黒い何かが水面を跳ねていた。彼が少し動く度に虫かごの中からバシャッという音が聞こえる。抗うように暴れる魚に目もくれず彼は淡々と岩と岩の隙間をじっと見つめている。
「あそこに魚がいるの?」
「うわっお前かよ。急に話しかけんな」
彼の視線を追ってみると確かに小さな穴があった。
「あそこにデカい岩投げ込むと魚が気絶して取れるんだよ。これ秘密な、父ちゃんが絶対にダメって言われた奴だから」
「やったの?」
「いいや、噂だから出来たらって」
ふーん、じゃあ私が代りに試してみよう。適当に大き目の石を取り粘液で包む。それを非常に粘性の高い弾性を持つ粘液の糸を付け、伸ばした。伸ばせば伸ばす程糸はエネルギーを持ち、微かに軋むような音を立てながら少しづつ伸びていく。
「えい」
そしてその石を飛ばした。凄まじい勢いで飛んでいった石は、彼の言った通り大岩を貫通し、反対側の岸の岩肌に衝突して砕け散る。
「お、おお……!」
彼は岩を砕いてしまった私に驚いている。私自身も驚いた、こんな威力が出るなんて予想外。でもあえて自慢げに男の子を見ると彼は素直に感心した様子で拍手していた。
「お前すげえよ!流石だな。この前は弱いとか言ってゴメンな」
「うん、ゆるすよ。気にしてなかったし」
すると男の子は私の手を引いた。他の子が浅瀬で友達と水を掛けあうのを横に川の流れに逆らって木々の合間に向かっている。私は山の方に来るのは初めてで、だから勿論この先を全く知らない。でも皆が遊んでる所からどんどん離れていくと流石に不安になる。
「ね、ねえ、どこにいくの?」
「上流!」
ー--
川、か。思えば僕は不思議と海よりも川で遊んでいた。決して広くはないが海と違いここにはあまり人は来ない。当たり前だがアクセスも施設も(トイレのみ)ここより便利である海水浴場に訪れたほうがいいに決まっている。
しかし川のせせらぎと薄暗い木漏れ日の下、僕には何故かここが落ち着くのだ。と、格好良く理由付けしたものの単に日陰で涼しく、塩分の害が無いから好んでいただけだ。本を持ち込んだりやカツユじゃないが絵の課題など、何かとつけて物を持ち込むときに劣化しにくいイメージがある。だから僕は川で何人もの子供の声が響くこの光景に新鮮さを感じている。
「(ここも長く来てないな。小学生が最後だったっけ。あれからは大体海で遊んで、中学からは友達との付き合いで偶に)」
今かつて学び舎を共にした彼等はどこで何をしているだろうか。一人は今地元にいたけれどなにせここは田舎だ。夏休みでも規制するものは少ないだろう。
しかし、まさかこの川にも訪れる事となるとは本当に思わなかった。カツユに友達が出来るのは正直嬉しい。これはアニマ関係なく喜ばしい。だけど……同時に酷く忌々しい。
空はあんなに青いのに僕の心は晴れない。見上げた空から視線を少し降ろすと風に揺れる緑の山。あそこは今だ人の手の入らない動物の領域。踏み入った者の話は生まれてから誰一人として聞いていない。つまり清々しい景色の陰に陸の深淵がある。
「(一応登山道はあるけれど閉鎖になった__
瞬間、心臓の鼓動が早くなる。不味い。深入りし過ぎた。正気を、保たないと。
……いさん、お兄さん?」
「っ何!?」
カツユの友達に話しかけられて正気を取り戻す。彼等は川から上がり心配そうにこちらを見ていた。体も乾いている所からふと時計を見ると30分が経過していた。
「えっと、皆一体どうした?もう帰るの?」
僕が問いかけるもそうではない。むしろより一層不安げに顔を青ざめさせている。すると僕の前に恵奈が立ち、深刻そうに今の状況を簡潔に伝えた。
「カツユと男子が一人いなくなった」
瞬間、また頭が真っ白になっていく感覚に襲われた。恵奈が言うには彼等と一緒に遊んでいた子の一人とカツユがいなくなってしまったらしい。最後に見たのは下流で遊んでいたらしい。しかしいつの間にか彼等はそこにおらず、粘液の残る砕けた岩だけが残っていた。
「足跡は森に続いて上流に続いてた。私達が気が付かなかったのはそのせい。いなくなったはアニマの男子、あんな馬鹿に力なんて見せたら……」
上流は今だ人の手が入らず久しい野生の動物の住処だ。そこにアニマとはいえ十分な装備も無しに子供が二人きりでいる。最悪の事態を想像するのは容易かった。
「………」
「お兄さん?」
「探してくる」
彼女に携帯を渡して一時間しても戻らなかったら警察に通報するように伝えて走り出す。
川の流れに沿って上流に向かう。木々の間を縫うように駆け抜ける。足場が悪く、ぬかるんだ泥に足を取られそうになるが、それでも速度を緩めない。
途中何度か枝や根っこに引っかかって転びそうになったけど、なんとか体勢を立て直し走る。
「カツユ!どこにいる!」
僕は叫んで彼女の返事を耳に捉えようと必死になる。
声が聞こえる距離ならいい、しかしもしそうでないとしたら。不安が頭をよぎるが首を振って振り払う。
「(大丈夫、きっと無事だ。あいつはそんな奴じゃない)」
僕は自分に言い聞かせるようにして、さらに奥へ進んでいった。彼女や男の子が行きそうな所があるだろうか。
遥か昔に訪れた記憶を頼りにこの先の道順から考えられる場所を思い浮かべる。そして一つの結論に至る。本当は思い当たらなければよかった。だが疑問に思いながらも僕はそちらに向かって走るしかない。
「カツユ!」
記憶を頼りに走ると急に開けた空間に出た。木々が生えず地面も平坦で広い、同時に続く地面も無い崖。そして朽ちた花の置かれた簡素な石の墓標。そしてその背後にはカツユが崖の先を向いていた。
「カツユ、勝手にいなくなっちゃ駄目で……」
そこで言葉に詰まる。いなくなったのは二人、なのにここには彼女一人しかいない。彼はどこに行ったのかと尋ねようとするも、僕の目の光景に次の言葉を出せずにいた。
「草加、ごめんね」
彼女は小さく呟く。僕は恐る恐る男の子の行方を尋ねた。すると彼女はゆっくりと振り返り、寂しそうな顔で
「下に降りたっきり、あの子の事はもう知らないよ」