すらっぎーあにみずむ!!!~動物が人になる現代世界で動物嫌いがヌルヌル生活~ 作:囚人番号虚数番
「草加ー……草加ー……どこー?」
泣きながら一人で森をさまよう。草加に崖から突き落とされた瞬間、私は即座に厚めの粘液で全身を包んだ。そして糸状に出した粘液を壁に貼り付けてを噴出し落下を防いだ。でもまさか草加にされるって思って無かったからボーっとしててちょっと背中打っちゃったけどね。
勿論粘液を使って崖の向こうに戻れるし家にも帰れる。突き落とされた崖は粘液を使えば簡単に上まで跳べるのは実証済み。でも今は少しだけ時間がほしい。一番好きな人からあれだけ嫌われていたのに帰れないよ。
「草加…………うぅ……私、一人は嫌だよ……」
悲しみに暮れ宛てもなく歩き続ける。足は痛いし薄着のままだから寒くなってきた。持ち物も草加に預けたままだったから戻る訳にもいかない。だから今は歩くしかない。
「(寒い……眠い……)」
「……ヘクチッ」
風邪かな。粘液は体温でちょっとあったかいけれど海や川の水はかなり冷える。体が震えて意識も朦朧としてきた。思えば粘の分泌も水に溶けすぎたせいで体調がおかしい。あまりにも粘液の出が少ない。
舗装されていない不安定な森をふらふらと歩く。次第に日が落ち視界も悪くなってきた。明かりも無く、星の明かりだけが私を照らす。あの崖の上で草加と眺めていたい月明りの綺麗な夜。あの丸い月を見ているとハンバーグが食べたくなってきた。お腹もすいたし体も疲れた。昼間から何も食べて無いなー。
……お腹すいた、帰りたい。帰りたいのに帰れない。ならせめて、最後は私の本能(からだ)が望んだ場所へ。それ位ならみんなも許してくれるよね。
月の明かりを頼りに最後の力を振り絞って最後の場所へと足を動かす。裸足で木の枝を踏み折り、滑る苔の上を歩き、石の上、そして坂を下り潮の香のする方へ。暗闇の道なき道を歩き続け、私の望む場所を目指す。
途中、私は場違いに柔らかな土を踏んだ。目を凝らして地面を見ると人の手の入った作られたそこそこの広さの土。土臭い中に塩の香る畑に私は何故か痛む程に冷える体と体の何倍にも大きなキャベツの姿を想起した。
「あはは、ここだったんだ」
ああ、懐かしい。ここはキャベツの畑だ。私の生まれた場所だ。いつかここも絵に描きたいけれどもういいかな。そう思いながら畑に足を踏み入れると脚を取られて転んだ。土が口に入るけれど起き上がる気にもなれない。私、死ぬかも。懐かしいな。生まれ変わってもうこんな暑くなった。私は光景を見ながら私はそのまま目を閉じた。
ー--
私は長い夢を見た。走馬灯だっけ、過去の記憶が朧げに夢に写る。
夢の始まりは狭い緑の葉っぱの中で這いつくばる今となっては醜く非力なナメクジであった。それは只の生き物で今よりも意思のない何か。生きる意味はなく残す物は白い筋。何回か死にかけたこともある。でもそれだけで楽しかった。
景色のさらなる混濁と共に私に手と足が生えた。私のいる場所もついこの前まで住んでいたあの家の中。潰れたキャベツの中から出ると扉が開いて草加が現れた。これが私と草加の初対面だ。驚きと困惑が複雑に混じったあの顔は今も忘れない。その後の訳も分からず草加とともに狭い部屋で過ごす時間は楽しかった。
でも改めてみると良く分かる。草加も時々みんなと同じ目をしていた。
あの目の正体は生まれた時は良く分からなかった。けれど違和感として体が覚えていた。人の世界を知り、誰かと関わりを持つにつれてより強く感じるそれに日々苛まれながら草加と生活していた。
だけど私は文字と共に遂にンターネットを知ってしまった。人の知恵、歴史、悪意、履いて捨てる程度の圧倒的な情報量は私に十分すぎる答えを与えてくれた。
『不快害虫』
「……」
……思い当たる節は十分にあった。暗い部屋で光るモニターの前で一人絶望する。私がなにかに触れる度、私がどこかを歩む度、後ろに残る跡に誰もが嫌な顔をしていた。
「……はは」
自照気味に笑う。ああ、これか。嫌われてたんだ、私。生きてるだけで駄目なんだ。そっとブラウザを閉じて……何をしたっけ。検索履歴を消した後、草加に抱き着いて眠った。でも目から粘液が止まらなかったから体がべちゃべちゃになっちゃった。これも朝になったらきっと草加は嫌がる。でも初めて感じた孤独感に私は耐えられなかった。
その日から私は愛されるように私は普通のいい子のアニマであろうとした。できないとは知りながらも一応努力はしていた。でも結局こっちはあんまり効果が無いってすぐに知った。貰った図鑑に載っていた私によく似た、だけど重いからの付いたカタツムリ。見た目はそう変わらないの私とは大きく扱いが違う。でも多分これはただの嫉妬。羨ましいけどすぐに諦めた。
本題はこっちだ。私は同時に脳裏に焼き付いた本能の景色を夢に見るようになった。草加達に海と教わる前に時々見たこともない広く青い湖が不思議と残って、そこが妙に心地良く、私に似た生き物も何匹もいた。アメフラシ、うみうし、貝、図鑑にも載っているそれらの生き物は私に似た殻の無いぬめりを帯びた柔らかだった。私は本来あそこに居るべきとすぐに悟った。
ここがどこか、どこに迎えばいいのか、私には見当がつかなかった。だから私はせめて忘れないように夢に見えた景色を絵に記す事にした。予想外だったのは草加に描いたものを見せた時、上手だと褒めてくれたことだ。
この時になれば草加も嫌悪が薄れてきていた。一度私の好奇心から公園の池に飛び込んだ時に防いでくれたり、ぬるぬるな私に触れる回数も増えている。あの頃は初めて愛されている実感がして嬉しかった。副産物として絵も上手になったから後で友達を作るのに役に立った。
でも意外にも奇跡とは起きる物だ。草加が海に連れてってくれた。私が心から望んだ念願の海である。初めて波打ち際を歩きながら私はこの感動を忘れないよう絵に記したっけ。ああ、ここが私の居場所だ。実物を見た夜に絵を描いていてそう思った。
でも私の感じる孤独感は意外と早く解決した。こっちに来てお友達が出来たからだ。
正直、心の底から嬉しかった。草加のお友達じゃない同族のお友達だ。最初は少し警戒して近寄れなかったけれど、一緒に過ごす内に仲良くなった。あの子達は私を本当の意味で理解してくれた。
対象的に草加は段々と元気がなくなっていった。アニマが嫌いな草加がこのアニマしかいないこの村にいるのは嫌だったみたいだ。理由は私も分からない。私は仕方がないとして、周りに迷惑は無かったから目を逸らしていた。
だからこれも仕方ないんだ。友達の男の子は本当に行方知れず。だけど草加は私を拒絶した。
……どうして。
私が何か悪いことした?粘液で汚しちゃったりしたのは悪い、だけど何で私まで嫌われてもいい。だけど騙すなら嘘でも最後まで愛して欲しかった。
お友達が出来て楽しかった。色んな所に行けてわくわくした。色んな事がしれて幸せだった。
でも今は一番好きな人から拒絶され、一人だ。一人は寂しい。
アニマになって私を知って初めて気がついた。
誰でもいいから愛して欲しかった。
「……私を愛してよ」
自分の言葉と共に目が覚める。土だらけの体を起こすと夜明け前の綺麗な朝焼けだった。
「……帰ろう」
海まではあと少し。海に帰って幸せになるんだ。私は土に足を取られながら走る。雑草を踏み倒し、木々を避け、海を目指して走り続ける。
そして……
「……あっ」
私が線路を横切ろうとした瞬間、始発電車の金属音が耳に入る。それはまるで私を嘲笑うかのように響き渡った。