すらっぎーあにみずむ!!!~動物が人になる現代世界で動物嫌いがヌルヌル生活~ 作:囚人番号虚数番
現在位置 実家
……ああ、もう朝か。遠くから始発電車の出発した音が聞こえた。カーテンを開けると綺麗な朝焼けが僕の顔を照らす。昨日のまま疲れ切った僕の体をまた動かさなければいけないのか。再び布団に潜る。布団にもぐっても眠れないだろう、しかし今の僕には逃避以外の行動はとる気になれなかった。
僕は崖から逃げ帰ってから何もしなかった。連絡をするでもなく、夜な夜な探すことも無い。本当に布団に包まり僕は過去を嘆いていた。食事も喉を通らず、何も食べていない。親が家を空けている事が今以上に喜ばしい事はない。何もせずにベッドに体を投げ込んでいても許される。
しかし僕の意識は罪の意識で落ちる事はない。罪悪感とはぬぐえない物で空が青くなっても押しのけた感覚は褪せることなく今も変わらず手にこびりついている。上塗りされたといった方が正しいだろう。僕のアニマへの意識は常にこれと共にあった。
……このままずっとこの部屋にいたい。けれど僕が何もせずともその内警察や捜査隊が彼女を探し当てるだろう。当然その過程で僕はまた……いや、今度こそ逃れられないかもしれない。
僕の過去の事件は地域の新聞の小さな記事にもなっている。そのパソコンに切り抜きを取り込んで今も残してある。当時は今よりも遥かに隠ぺい体質の田舎だった。だから幸運にもいざこざの内で通報が遅れいざ調査に来た時は死体も行方不明で状況証拠も連日の雨で消えていた。結局、僕は押し倒した事実を隠し通して無罪のままに今日まで生きていた。
しかし今は状況が違う。カツユの友達に山に来た事が見られていて、尚且つ僕しか真実を知らない。いずれ真っ先に僕が疑われるのは明白だ。
「許してくれ、許してくれ……」
しかし時間は残酷だ。眠れないのは仕方がない、頭を動かすために一度朝食をとろう。重い足取りでリビングに向かうと誰かのいる気配がした。玄関を確認すると女性物の靴があった。
「先輩?」
「……古渡」
リビングから古渡が出てきた。空いた扉からは朝食のいい香りが漂ってくる。
「どうやって入った?」
「玄関空いてました。連絡が来て先輩のお世話を頼まれましてご勝手ながら」
「……ありがとう(まさか、いや母さん達か)」
計算外の古渡の襲来はよくあった。家は近いしお互いに仲は良かった。しかし今は一人でいたい気分だ。それでも口に出せば感づかれてしまう。何も言わずに2人分の朝食の並んだテーブルに着く。彼女が作ってくれたのはトーストにハムエッグ、それとコーヒー。簡素な食事は弱った精神にはありがたい。
「どうぞ、いただきましょう」
「あぁ」
二人で黙々と食事を進める。会話は一切なく、ただ淡々と時間が過ぎていく。僕からは単に人と話す気分ではないから無言を貫いている。しかし彼女の側は妙にそわそわしている。勿論先に沈黙を破ったのは古渡だった。
「先輩、カツユちゃんいませんね」
やはり聞かれるか。ここで答えなければ怪しまれる。嘘をつくにしても本当の事を混ぜないとボロが出る。コーヒーで目を無理やり覚ませ、適当にあしらおう。
「知らないよ。今頃適当に遊び歩いてるんじゃないか」
彼女は僕の言葉に僅かに不審な反応をした。都会ならともかく田舎のこの村で一晩家に帰らないとなると誰かの家にお世話になる位だ。僕としても無理な言い訳だろう。だが幸運にも彼女はそれ以上の言及はしなかった。
「そうですか?ならいいんですけど……。そうだ!先輩聞きたいことがあるんですよ!」
「ん?何だよ急に」
いつの間にか朝食を食べ終えていた古渡は食器を片付けながら話す。
「先輩、お盆ってどうしますか?」
その言葉を聞いて一瞬息が詰まる。
「どこかに旅行とか?」
「いいえ、せっかくの帰省ついでですしお盆休みにはお墓参りしませんか?」
「……肝試しがしたいだけでは?」
僕の反応を見て慌てて首を振り否定する。
「違いますよ!そんなんじゃありません。だって私より成績いいじゃないですか」
成績って、それで判断しれていことなのか?それに僕は大学に入学してからは墓参りなどしたことは無い。大抵母か祖父母が代理で行っていた。線香を焚いたり花を添えたり墓石に水をかけたりは大分前に一度か二度したくらいである。
「悪いがあまり詳しくは無いな。まぁでも行ってもいいかもな。考えるくらいなら……」
「本当ですか!ありがとうございます!」
大げさに喜ぶ彼女を尻目に僕は内心ため息をついた。まだ行くとは断言してないのに。最も僕は行けそうにない。中途半端な返事の当たり精神的には相当に参っていて妙に押しに弱くなっている。
「じゃあ先輩はお花担当できますか?私買った事無くてどれ選ぶかとか分からないんです」
「この時期だから専用コーナーに固まってるだろう。適当に買うか店員に頼めばいいだろ」
「先輩だって何年か前に仏花買ってたじゃないですか」
ガタッ
「……」
聞き捨てならない単語が耳に入り立ち上がる。平静を取り戻しかけた心臓が再び鼓動を早める。まさかあの頃の事を見た上で覚えているだなんて計算外にもほどがある。僕が覚える限り、それは一度だけの事でしかも誰にもバレないように……
「先輩?どうかしましたか?」
「…………ゴメン、何でもない」
僕は一旦座りなおす。僕はトーストを小さく折り畳みカップに残ったコーヒーと共に一気に流し込む。
「えっと、なんだっけ。花を買いに行くんだよね。でも何で僕なんだ?」
「え、えっと……大学行く1か月前くらいに菊の花をもって山に行ってましたから」
信じがたいがこれで確定した。古渡の言葉に僕は凍り付く。僕の背中に冷や汗が流れる。まさか見られていたのか。
「深夜に先輩が一人、誰もいない山に登っていくのを見かけて隠れて何してたんで……先輩?」
僕は空のカップを持ち俯いたまま静止する。本当の事を吐き出せたのならどれだけ楽なのだろう。今この瞬間、何年も続いた罪から逃れられる好機が来た。
同時に積み上げてきた物のすべてが崩れる。それを理解しても尚、僕は口を閉ざしたままだ。何故なら僕には彼女に伝える勇気も資格もないからだ。今までの人間関係、隠し通した時間、そして僕へ訪れるであろう殺しへの罰。もし真実を伝えれば世間はどう思うだろうか。きっと軽蔑されるに違いない。
「…………い、いやな事聞いちゃいましたよね」
「……実は僕も昨日から寝てない。調子も悪いし寝るから帰ってくれ」
結局僕はまた逃げ出すことを選択した。逃げてもいずれ見つかる物だと分かっていても今ではない。古渡はしばらく何かを言いたそうにしていたがわざと聞こえないふりをした。
「ごめん、古渡」
僕は誰に言うわけでもない謝罪を口にする。自分の情けない姿に腹が立つ。でもこれでいい。これでいいんだ。これ以上カツユに関わってはいけない。思い出しても、悔いてもいけない。時間をかけて抑えるのはいつもしてきたことだろう。自分に言い聞かせるように心の内で何度も呟く。
Prrrrr Prrrrr
だが場違いにも電子音が家に響く。僕のスマホの着信だ。部屋に置きっぱなしだったから僕の手に取った時には着信は切れていた。着信は先輩からで何度か来てたらしく何度も着信の履歴がある。幸い早朝と深夜だけ着信音を切ったのが仇となった。
はっきり言ってアイツの対応ですら苦労していたのだ。先輩とはいえ見なかった振りをして眠っていたい。
「5分おきに連絡、しかも朝6時からって……」
しかし余りの異常な通信頻度に理由を知りたくなった。そうこうしている内にまた着信が僕の携帯に来る。が、今度はすぐに着信が切れリビングでまた別の着信が鳴る。僕に用が無いなら別にいい、けれど古渡にまで連絡とは……!?
「……まさか!」
只ならぬ悪寒と死亡よりもある意味最悪なケースが僕の頭をよぎった。まさかあの高さを生きて、しかも移動したのか!?僕が彼女の安否を探ろうと携帯を操作する……
「先輩!?なんて事を……何でカツユちゃんを!?」
その直前だ。扉を勢いよく開けたかと思うと古渡は僕の頬を叩いた。
「な、何を……!?」
「それはこっちのセリフです!一体どういうつもりなんですか!」
突然の事に頭が追い付かない。彼女は涙を浮かべながら僕を睨みつける。
「ど、どうって……」
「カツユちゃんから電話です!出てください!」
彼女はスピーカーをオンにする。止めてくと言う暇もなく声が流れ出す。
「待って、止め__」
『許さないで』
嫌に落ち着いた声だった。
『ごめんね。私のせいで汚れちゃって。
今帰るから』
「あの事件は僕がアレを殺したんだ。カツユも昨日僕が崖から突き落とした」
「アニマなんて大っ嫌いだ」
「……」
「何ふざけた事言ってるんですか先輩!」
「知らない電話番号からの留守電です。今時公衆電話からなんて初めてです」
「」
「許してくれ……許してくれ……」
スーパーで花
最後くらいいじゃないか。