すらっぎーあにみずむ!!!~動物が人になる現代世界で動物嫌いがヌルヌル生活~   作:囚人番号虚数番

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決意

朝5時半の朝の街。朝焼けのギリギリ前の薄暗い街に動く人も少なく、私の移動を見る人は誰一人いない。この孤独感が今の私には心地よい。

 

けたたましい金属音に交じり、無機質な声が私達の過ごした街の駅の名前を読んだ気がした。周りの風景もよく見れば見慣れた街。

 

電車が踏切に差し掛かった。建物の影、未だ宵闇の裏通りは人もおらずここしかないと思った。踏切が降り、電車が通過する。その裏で私は電車を飛び降りた。粘液を多く分泌し、摩擦で焦げを防ぎつつ慣性を使い線路に並行する道を高速で滑走する。

 

「ん〜……ぐへ。と、止まったー」

 

50mほど滑り曲がり角の壁に激突して止まる。ちょっと痛むが怪我はしてない。何事もないように私は建物の屋上を経由して家に帰る。

 

村で電車に轢かれかけた時咄嗟に避けられないと判断し即座に電車の下に潜り込んで裏側にくっついた。電車は私に気が付かず近場の駅を通過し進む。快速?だっけ。たまに来る止まらない電車に乗っちゃったみたい、降りるにもなかなか止まらないし途中で寝ちゃった。それと裏側に張り付いたのは失敗だ。うるさくて頭と腕が痛い。耳も壊れそう。

 

で、何となくで家に着いたはいいものの……

 

 

 

ガチャガチャ

 

「……あかない」

 

鍵をもっていなかった。元々戻ってくるつもりもなかったから仕方ない。何とかして開けようとするも私だけじゃ何にもできないや。途中で太陽は高く上り人が動きだしてるから遠出も出来ない。仕方がないので扉の前で座って解決を待つ。

 

力がうまく入らない。眠気とはまた違う気怠さが強く感じる。そのまま硬い壁にもたれかかり静か目を閉じる。

 

「(お腹すいた……)」

 

昨日のお昼から何も食べてない。力が出ないのはきっとそのせいだ。粘液の出も少しづつ落ちてきている。死ぬわけじゃないけれどもちょっと苦しい。夜になったら電車に乗って、誰にも秘密でまた海に帰ろう。

 

 

 

「……帰り、たいよ……………………」

 

私の目からさらさらの粘液が漏れ出す。手で目をこすっても粘液は止まらない。おかしいな、粘液を止めようとする度にたった一枚の薄い扉の先での記憶が頭の中いっぱいに広がって止まらない。

 

けれど、だからこそ駄目なんだ。草加は私が嫌いだから一緒に居られないんだ。それでも好きな人に嫌われるのは辛い。でも草加が優しいのは私が過ごした短い間だけでも十分に知っている。だからこそ私は今まで隠してくれた悪意包み隠さず突き放してくれた草加に応えたいんだ。

 

何のとりえもない私にただ一つ、少しだけど出来る事。それはあの人を思うこと。あの人の幸せを願うこと。

 

なのに……今だに私は求めてしまうの?

 

「(好きだからだよ……会いたいからだよ…………!死にたくないよ!ずっと一緒に生きていたいよ!)」

 

本当は分かってるんだ。私は動物とは違う、人の体を持った人でなし。その動物もなめくじは海から這い出た生き物だ。進化は一度選んだ道は取り消せない。海に帰るというありもしない郷愁は虚像の追憶でしかない。

 

「(うぅ……会いたい……)」

 

会えないと思っていてもつい願ってしまう。そんな事を思っていると誰かが私の方を叩いた。見上げると新聞やチラシを持った水族館の人、海音さんがいた。海音さんは持っていた物を全てを落とし私の肩を掴んで揺らす。心配なんてしなくていいよ、そう言い返そうとするも上手く言えない。

 

「カツユちゃん、大丈夫?」

 

「……」

 

「カツユちゃん?」

 

「…………ぁ……」

 

「…………うーん、これは一度私の内で保護すべきだね」

 

ー--

 

「……で、お姉さんはランニング次いでに草加の家に届く郵便物を取りに来る途中だったの。たまーにチラシが入ってないか確認を頼まれて」

 

「大変だねー」モグモグ

 

私は家から離れ、お姉さんの家で朝ごはんを食べる。海音さんはご飯を食べながら携帯で仕切りにどこかに電話している。食べながら携帯を使うのはだめ、でも連絡先の名前に草加の名前があったから気が付かないふりをした。ご飯が美味しいから私も見ないことにする。

 

海音さんの部屋はふわふわで初めての雰囲気の部屋。ゆるくて綺麗で気分もいい。朝ごはんもシリアルって固めの粒みたいなの。お菓子みたいでこれはこれでおいしい。

 

器の底が見えて、海音さんが私にどうしてここに来たのかを聞いてきた。

 

「たまたま電車に乗っちゃって、そのまま一人で久々に帰ってきた」

 

「一人で……それに鍵も荷物もない。お金は持ってる?」

 

「ううん、勝手に乗った」

 

「……」

 

「……辛いことでもあったなら何でも相談してね」

 

「私は意外と平気ですよー」

 

「本当に?」

 

海音さんは怖い目で見つめる。出会いからしてよくわからないんだもん。今は隠し事は駄目みたい。でも、あれは果たして誰かに話してもいいのかな。

 

「……誰にも教えないで」

 

崖際での話はあまりいい思いはしていない。だからご飯を途中に挟みながらゆっくりと答える。昨日の昼からの事を全て話した。崖から突き落とされて途方に暮れてここまで来た過程。草加との生活で見た物。それと迷ったけれども草加に嫌われたというのも話した。

 

全てを話し終えた時海音さんは悲しそうな目で大変だったね、と言ってくれた。別にいいよ。なんだかんだで動物の頃から嫌われるのは慣れてるし。でも……

 

「草加にだけは嫌れたくなかったなぁ」

 

駄目だ、落ち着いても思い出してもやっぱり涙が止まらない。私は泣き止むまで静かに海音さんに抱かれていた。

 

「そっか、それで家出してきたんだ」

 

「……うん」

 

「辛かったよね、頑張って偉いよ」

 

「うぅ~……」

 

「よしよし」

 

頭を撫でられる。その手が温かくて優しくて、なんだか心が落ち着く。昨日から泣いてばっかりだ。今までの嫌な事を全部吐き出すように私は海音さんに抱きつきながら泣いた。泣いて泣いて、時計が半周し一通り泣いたあたりで落ち着いた。海音さんは私が落ち着いてからもずっと抱きしめてくれている。

 

少し恥ずかしくなり離れると今度はまた携帯に連絡を始めた。指の動きがさっきと違う。連絡先の名前は「古渡」、海の村でお世話になったお姉さんだ。そっか、草加の携帯は朝に音が鳴るとうるさいから鳴らないようにしてたんだ。お姉さんなら知り合いだからきっと伝えてもらえる。

 

着信音が切れ、暫くの静寂の後に電話が切れる。しかし連絡先を変えても繋がらなかったらしく留守電に私と村に向かう旨の連絡を入れた。

 

海音さんは電話を終えると、すぐに私に向き直りこう言った。

 

「カツユちゃんの事情はよくわかった。君は草加の下に帰るべきだよ」

 

私だって草加とまた会えたのなら望ましいだろう。でも崖から落とされてまで拒絶されたら……私だってどんな顔していいか分からない。草加の為に最後に帰る場所へ行ってたのに。どうしたらいいの。いっそのこと、私なんていなければよかったのに。

 

「君は悪くないよ。でも覚悟は必要だね」

 

海音さんは私の肩を掴み真剣な、だが慈愛に満ちた表情をする。そして、海音さんの口から出た言葉は私の薄々感じていた物を言葉にした。

 

「君は今から大切な人の古傷を抉るんだから」

 

空になった食器を片付けて荷物をまとめ始めた。私ににも適当な上着を私に渡し、海音さんは準備を続ける。

 

「お風呂場借りていい?昨日お風呂入ってない」

 

「どうぞ。廊下の先の右、トイレもそこにあるよ。一人で入れる?」

 

「うん。もう一人で大丈夫」

 

私は最後かもしれない再会の為に私は準備を始める。一時間後かけて入念な準備をし、私達は家を出て駅に向かった。

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