すらっぎーあにみずむ!!!~動物が人になる現代世界で動物嫌いがヌルヌル生活~   作:囚人番号虚数番

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命名「カツユ」

彼女が風呂から出て来た。体が濡れたままリビングに来ようとする彼女を止めバスタオルで体を拭く。流石に体を洗った後だからか粘液は分泌される前でありドライヤーを使うとサラサラとした茶髪となっていた。

 

「いーやー、熱くて乾燥するー!」

 

本人は水分が飛ぶのを嫌がっていたけれど床を濡らさない為には体は乾かさなければいけないのだ。幸い物理的に無力だったお陰で暴れられても痛くはない。お陰で僕のブカブカの服も安全に着せられた。

 

さて、少し不機嫌な彼女をリビングで待たせて夕食を作らないと。一応調べた限りだと元の害虫……動物は雑食だ。肉類は好まないのかと心配していたがアニマだと多少の偏食は見られるものの肉体的にはあまり関係ないらしい。

 

「……もしかしたらカタツムリだったらコンクリートとか要求されていたのかな?」

 

余計な考えと並行してひき肉と野菜、調味料の構成を考える。キャベツが無くなったのならこのまま肉と調味料だけを使ってハンバーグに変更だ。

 

玉ねぎを刻んでレシピ通りに買ったものと冷蔵庫の中身を混ぜ合わせる。タネができたら丸めて焼き、仲間で火が通ったら残った油で野菜、それから簡単なソースを作る。それらを盛り付けてから適当に冷蔵庫から余り物を見繕い机に運んだ。

 

部屋の扉を開けた途端、匂いに反応し彼女がこちらを向く。皿に盛られた料理に強い関心があるようで何よりだ。僕も料理は一般程度だけれど何だか嬉しい。

 

「お、おおお!?温かい。食べられるの?」

 

「え、うん(反応するのそっちなの?)」

 

思えば彼女は元は野外を這う一匹の虫だ。用意された食べ物が熱を持つのは一種の新しい概念なのかもしれない。

 

「どんなのなんだろ……」

 

「待って!」

 

食事に手を伸ばす彼女の手を止める。楽しみを眼の前で奪われて僕を理解できない様子で見てくる。承知の上だ。

 

しかし人間からの見解としてそれらは素手で食べるのに適さない食品なのだ。止めた手にフォークを握らせて手を離す。

 

「説明が足りなかったよ」

 

以前大学の知り合いから聞いた話がある。新しく生まれたアニマは高い学習能力があり。人間社会へはすぐに適応できる。一方、知識は脆弱でペットとして飼われていない限り生まれた直後は四則演算が出来れば良いほうだと聞いた。

 

自分のハンバーグを適当に小さく切ってフォークで刺す。そしてそれを彼女の口元に近づけた。一瞬戸惑ったようだがすぐに口を開けて食べてくれた。

 

「どう?」

 

「おいしい!もっとちょうだい!」

 

喜んでくれたみたいで良かった。これで彼女も使い方を分かってくれるだろう。仲間で火は通っているし味も問題ない。我ながら上手く出来たほうだ。

 

彼女の方も一度使い方を知ってからフォークを器用に使い食べている。と、ふと彼女に最初に食べてもらった時、あのフォークは元々自分用のだと思い出した。そして同じものを僕は使った。

 

……間接キス、まああちらが気にしていなければそれでよいのだが。

 

さて、食事を楽しむのはいいとして僕は彼女と今後関わる上でまだ大切なことを考えていない。彼女の「名前」だ。多くのアニマの保護はペットが多くを占め、だから名前の自己認識がある場合が大抵らしい。彼女はその例外だ。

 

しかしいざ名無しの命名となると困るところが多い。態度には出していないがかなり悩んでいる。猫や、なんならカブトムシ程度までなら適当につけられるだろう。だが彼女は蛞蝓、不快な見た目で寄生虫も多い害虫にどう名付けろというのだ。僕はペットとして飼う物好きではないのに……

 

「(悲しいけれどまだ犬猫が数段良く思えてきた……)」

 

チラチラと自分のフォークを見ながら夕食を食べる彼女を見つつ僕は内心でこんなことを考える。

 

しかし彼女の食べるものを観察していると肉以外に野菜が多い。付け合せの人参やとうもろこしが肉よりも早く終わっていく。数日前のカレーも出してみるとどうにも煮物と誤認しているらしく米にかけず野菜を食べようとしていた。正しい食べ方を教えてあげてもやはり野菜を優先して食べていた。

 

……というより少し気になる事ができた。

 

「君の中で白米って野菜に入るの?」

 

「これのこと?」

 

ご飯茶碗を片手に首を傾げて聞き返してくる。

 

「野菜とは言わなくても穀物に分類される米をどう認識してるのか気になって」

 

「???」

 

分からない、と言った表情だ。というより話の意味を理解していない。「野菜=穀類」と思っている節があるのではないかと期待して訪ねたのだが。

 

「甘くて美味しい。でもこれが野菜なの?形は卵みたいだね」

 

……聞きたく無かった。同時に彼女の頭の中での一つの解釈も浮かんできた。ああ、もしかして、スマホで画像を検索して彼女に見せる。

 

「これの先の部分の中身」

 

彼女に見せたのは稲穂の画像。調理前より更に前、植物の形態であれば彼女も納得しそうである。

 

「ふーん、ここがねぇ、不思議。でも野菜と思えば野菜かな?」

 

言わせた感が否めないもののありがたい意見だ。改めて自分も白米を口に含む。うん、美味しい。

 

しばらくして食事も一通り終わり片付ける。彼女はハンバーグは勿論全て食べ切り、おかずも野菜類も大きく減った。流石はなめくじといった所だろう。

 

机を拭いて洗い物の後、僕はノートパソコンを出す。隣に彼女を座らせる。何故か膝の上に座ってきた。既に少し湿り気を感じるものの初対面程の滑りは無い。見た目だけは小さくて膝に乗せて抱くのには最適な形状で、このまま続行する。

 

「どうしたの?」

 

「なめくじについて調べながら君の名前を決めます」

 

「おー、待ってました」パチパチ

 

彼女は小さな手であざとく拍手する。むちむちヌルヌルな彼女は悔しいけれど少し可愛い。しかし無視してパソコンを起動した。

 

「で、とりあえず希望を聞きたいのだけれど方向性とかある?動物だった時の記憶とかで印象に残っていることとか」

 

「うーん、無い。ずっと草の中とか土の下にいた」

 

うん、やっぱりこうなってしまうのか。妥当な物だと花や普通に無難な名前だろう。しかし適当な花の名前を眺めても僕の知る花はどれも人の名前には相応しくない。彼女の反応もあまりピンと来ていない様子だ。

 

そうとなれば陳腐だが彼女の種族名から取るか。しかし、なめくじの別名は聞いたことがない。そこでネット検索をかけてみる。すると中々良さげな呼び名を見つけた。語感だけなら外観にも合っている。

 

「カツユ、君の名前にどう?」

 

「かつゆ?なんか強そうな響きだね」

 

強そうと言えるのかは彼女の感性に任せるとして満足そうな反応で嬉しい。これで僕の肩の荷も降りるというもの。

 

早速彼女にその名前を伝えてみる。

 

「それじゃあこれからよろしくお願いします。カツユ」

 

「こちらこそよろしく」

 

さて、残りは名字になるけれど多くの人は自身と同じにする場合が大半だ。僕もそれに倣おうと思う。けれど一応彼女にも確認をしておこうかな。

 

「一応聞いておくけど名字は僕と同じでいい?」

 

「んー?じゃー名前はなめくじから取ったし私の好きな草の名前からにする?」

 

なるほど、その手があったか。好きな草、というのは彼女の混入したキャベツの事だろうか。和名を調べると球菜や甘藍と出てくる。そして名前と組み合わせて名前を考えると

 

カンラ カツユ

 

予想よりも語感がいいし普通の人の名前らしい。あとはこれに適当な字を当てて

 

甘楽 かつゆ

 

パソコンにテキストを入力し彼女に字を見せる。

 

「……?」

 

「読める?」

 

「いいや、さっぱり」

 

これは……アニマにおける重度に知能レベル低い状態だ。識字不能、野生動物かつ爬虫類以下に多い段階。

 

「カンラカツユ、君の名前だよ」

 

彼女、いやカツユの代わりに僕が名前を読み上げた。カツユは何度か自分の名前を繰り返し呟き嬉しそうだ。

 

「カツユ、かんら、うん。カツユだよ」

 

自己を再確認するように何度も繰り返している。そして何かに気づいたように顔を上げた。

 

「ありがと、名前をくれて」

 

「どういたしまして」

 

彼女の笑顔を見て少し安心した。はっきり言って、アニマは心底嫌いだ。彼女はそれに加え粘液もまき散らす。だが同時にたった一、ニ時間のうちに愛嬌と自身の責任感により攻略されつつある自分に呆れながら僕らの生活は始まった。




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