すらっぎーあにみずむ!!!~動物が人になる現代世界で動物嫌いがヌルヌル生活~ 作:囚人番号虚数番
「カツユ、新学期の準備は出来た?」
「うん。ランドセルも持った」
漁村の実家の朝7時にて。夏休みも終わり季節は秋の中盤。夏の暑さは引き寒さが段々とカツユはこの村の学校へと入学する事になった。アニマにも人と同様に専用の義務教育を受けなければならない。僕の夏休みの終了と前に彼女には僕が教えた。
結果は……一応彼女の素の知識量はアニマの中でもあまり高い方ではない。知能自体は悪くはない。美術はともかく、一応生活の中での事象は小学生の計算は出来るようにはなっている。これからの彼女の学校生活に期待だ。
彼女は赤いランドセルを背負っている。彼女の体形で小学生、というのは一見無理があるものの、入学前の身体測定ではしっかり小学生であった。何故。しかし彼女の友人は小学生であったためむしろ好都合だ。
「おっともっだち、おっともっだち」
「(ワクワクしてるのが隠しきれてない)」
ランドセルの下から生える尻尾がいつもよりヌルヌルと蠢き粘液が滴り落ちる。いつもより調子がいいのがはっきりしている。僕も夏の一騒動以来友人とは会っていないから少しだけ期待しているから良く分かる。
と、玄関前にずっといるわけではいけない。時間というのは僕らを待たず経つものだ。靴紐を結びなおし僕らは家を出る。
「行ってきます」
家を出て通学路をカツユと手を繋いで小学校へと向かう。入学初日に必要な書類提出の為だ。僕の親でもよかったのだが僕も彼女が学校に無事に通う事が出来るか心配だったのだ。そんな不安もどこ吹く風、彼女は鼻歌交じりで歩いている。
「緊張しないの」
「ううん、むしろすごく楽しみ。恵奈ちゃんと一緒に絵を描くんだ」
「そう、勉強はどう?」
「うーん、難しいかも。早くみんなに追いつきたいかな~」
意外と堅実だ。てっきり抵抗を持たれるよりはいい。彼女は知識こそ人より劣るが学力は普通だ。順当に行けばきっと間に合う。
そんな事を考えているうちに学校の正門前までたどり着いた。まだ早い時間だからか生徒の姿は少ない。と、思ったら後ろから聞き覚えのある声がした。
「良かったわね。あんたもここに来れて」
振り返るとそこには恵那がカツユと同じくランドセルを背負い登校している最中だった。
「おはよう、今日から私もここの生徒です」
「そうね。あとしばらくぶりだけど元気にしててよかったわ。崖から落ちた、とか噂で聞いたのに、噂は嘘だったようね」
「(あぁ、その節はご迷惑をおかけしました……)」
自らが引き起こした事件とはいえ無垢故に痛いところを突かれた。あの時の事は今でも思い出すだけで冷や汗が出る。
「お兄さんも学校では私が彼女をお世話します。安心してください」
「よろしくお願いたします」
僕は頭を下げ、彼女らと別れ一般の入口へ向かう。別れ際にカツユは手を振りながらこちらに向かってきた。そして僕の前で立ち止まる。
「講義がんばれ!……さて、行こうか。恵奈ちゃん」
「だね。席まで案内してあげる」
そう言って彼女は校内へと消えた。僕もまた彼女らとは別に校舎の中へ入る。職員の指示で諸処理を行っていると外から足音が聞こえ始めた。男の生徒数人の大きく元気な話声も混じり登校の時刻なのだろう。
「では、これでよろしくお願いします」
手続きが全て終わり玄関からの足音が鳴りやむ。教室に教師が入っていくのが見え、丁度始業と被ったらしい。帰り際に彼女の教室を覗いてみる。
丁度カツユが教卓の前に立ち黒板に名前を書いていた。人とアニマの入り混じる小さな教室の生徒は彼女の粘液と新入生という特殊な立ち位置に驚いている。だが一部の彼女の友人はいつもの事だと見慣れた風に素直に嬉しそうであった。
「よろしくお願いします」
最後に彼女が挨拶で締め一つ空いた席に座る。教師が話を始めて僕がもう帰ろうとした時、彼女が小さく手を振った。がんばれ、そう言ってくれている気がした。
彼女の今度は僕の番だ。
ー--
現在位置 大学
カツユを見送った後電車に乗って大学へと向かった。新学期となった大学はガイダンス期間特有の普段見ないような人やアニマが行き来する珍しいとなっている。僕の受ける予定の講義は午後からである。いつも通り教室を調べつついくつかの教室棟を巡る。
大学の中を人とアニマの集団とすれ違う。以前であれば人目を気にしてルートどりを気にしたりしていた。だがしばらくアニマと実家周辺で関わり続けたからか麻痺、というか距離感がある少し縮まった気がする。あまり気にしなくなって心が楽だ。
これも全て実家の環境……そこに向かう切っ掛けをくれたカツユのお陰だ。思えば僕は彼女を人の社会へ出すために手助けをしていたつもりがいつの間にか救われていた。彼女がいなければいつまでも強い罪悪感を抱えたままだっただろう。彼女と出会って半年も経たないうちに僕は少しだけアニマへの認識を変えられた。
だから今度は僕からアニマへと踏み込む。小さな一歩から始めようと僕は計画したのだ。
「まさか自分からここに来るなんて。不思議なこともあるね」
僕が立つのは校内のアニマ棟前。アニマ棟での講義は人用には殆ど無縁な物が多い。しかし今学期となってたまたまここに用のある講義を取ってみたのだ。当然アニマの中に人がいるのは目立つ。それでも僕はやっと手に入れたきっかけを活かしたいと思ったのだ。
「(先輩や古渡にどう説明するか……いいや、入ってから考えてもいいか)」
かくして僕は新たな挑戦と出会いを求め、アニマ棟へと歩を進める。