すらっぎーあにみずむ!!!~動物が人になる現代世界で動物嫌いがヌルヌル生活~   作:囚人番号虚数番

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小さき者、いざ人の世界へ

午前6時、春の陽気とはかけ離れた高湿かつ粘りつくような感覚とともに目が覚める。昨日寝込むまでは決して感じなかった胸の圧迫感と人肌の体温。薄く目を開けて横を見ると白く残る足跡が扉の外から続き開けっ放しの扉から風呂場へと伸びる。

 

カツユは粘液の都合上ビニール袋で簡単に防水した布団に隔離しておいた。洗いやすいように廊下に近い場所に寝かせていたから、つまり?

 

回らない頭にエンジンを掛けて現在の状況の理解をする。すると脳内演算が終わる前に胸の上で何かが動いた。

 

「んぅ……あっ、起きてた?」

 

「おはょぅ……どうしたの……」

 

「閉塞感が乏しいと眠れないでしょ?」

 

それは分からなくもない。中途半端に一部が飛び出ていると何となく落ち着かないのだ……ってそうじゃない!

 

「かわいいなぁ……って布団があっ!?」

 

反射的にカツユを押しのけ布団を剥ぐ。布団の中はびしょびしょに濡れ、自分の服もローションを全身に塗りたくった後のように汚れていた。

 

そういえば思い出した。

 

「アニマの元動物の本能はある程度の抑制はできるものの基本は制御が不可能である。例えば粘液を分泌するアニマは睡眠中等無意識では分泌の制御が不可能になる、特に生まれたてのアニマの場合は顕著で暴走の可能性もあり非常に危険である」

 

先日カツユについて調べていた時に注釈で出ていた情報だ。彼女も確かにこの条件に該当する生まれたてのアニマだ。シャワーの後で下着姿で洗濯機を回しながら愚痴をこぼす。見返すと例の有志のサイトには専用の抑制剤や対処法、専用グッズが一覧になり二度と同じ悲劇を繰り返さないためにもこれはありがたく使わせてもらおう。

 

ガラッ

 

「ねーお風呂そろそろ空きそう?」

 

「うわぁ!?」

 

やけに通りのいいカツユの声が風呂場に響く。悪いのは僕だけどいきなり開けるのは無いんじゃいかな。すぐに扉を閉めいそいそと服を着た。

 

「はい、どうぞー」

 

ガラガラガラ

 

「はーい」ボイン

 

扉が開くと同時に濡れた服を持った全裸のカツユが脱衣所に入ってくる。僕は少しの恥ずかしさを感じながら彼女から目を逸らして朝食の準備に向かった。

 

……本当に暴力的な肉体を持っているな、彼女は。

 

ーーー

 

朝食を食べ終えた後、外出の準備を整える。彼女に洗濯と乾燥を終えたパーカーと緊急として自身の下着とズボンを履かせた。

 

総合的な感想として体格を考慮しなければイイ感じにストリート系と言い訳できるのでは?体の素材がいいからか僕が着るより似合っている気もする。

 

「いいじゃん。似合ってるよ」

 

「そうかな?」

 

当の本人はその魅力を理解できていないらしいのもアニマらしい。服の裾を弄りながら不思議そうに自身の身なりを観察している。

 

「服は人前で脱いじゃいけないからね」

 

「えー」

 

靴も適当に僕のでいいか。僕はカツユの手を取り玄関を出る。が、一歩踏み出した途端彼女は歩みを止めた。

 

「お、おお……?」

 

「どうかしたの?」

 

「景色が高い。小さくなってたんじゃなかったんだ」

 

高い、とは。ここは確かにアパートの二階で落ちたら危険な高さだろう。もしかして、部屋から出してなかったから今まで高さ関係を勘違いしていた?それなら彼女は今からより驚くことになるだろう。

 

彼女を連れてしばらく、街の様子にいちいち興味深い反応を示す彼女と歩いて20分程して目的の大型スーパーに着いた。カツユとの生活に必要な道具がここなら一か所で全てが揃う。

 

「ほへぇ~」

 

「あっちこっち見てたら迷子になるよ」

 

店内に入るとカツユはまるで遊園地に来た子供のようにあちこちを見て回る。僕はそんな彼女を微笑ましく思いながら必要な物を見繕う。調べた情報ではタオル類を追加で数枚、それと彼女の為の生活雑貨をそろえた。

 

それからアニマ専門のコーナーでカツユの粘液対策の為の道具も買う。粘液の溶解剤と分泌抑制剤、防水スプレーをカゴに入れる。多くのアニマが哺乳類なせいか両生類以下の類に属する生物の商品が少ない、サイトではそう書かれていたもののここはどうやら違うらしい。現に明らかに獣でないアニマが棚の前で商品を手に取っていた。

 

「ううう……まさか保湿剤と抑制剤が切れてたなんて……」

 

小さく聞こえた誰か嘆きを参考に自分も予備として2個目をかごに放り込んだ。

 

あとは彼女の為の洋服を揃えるだけだ。とはいえ女性の服をこんな安い店で揃えるのは気が引ける、まあ僕も選ぶセンスは不明だけれど後でちゃんとした服を買う。だから服を買う為の服を今買う訳だ。それに僕の服の数にも限界がある。

 

あとは彼女の為の洋服を揃えるだけだ。とはいえ女性の服をこんな安い店で揃えるのは気が引ける、まあ僕も選ぶセンスは不明だけれど後でちゃんとした服を買う。だから服を買う為の服を今買う訳だ。それに僕の服にもストックがある。

 

女性用衣服のコーナーに向かいカツユに合いそうな服を探す。やはりというべきかアニマ用の衣類は少ない。仕方なく手頃な価格帯のものをいくつか手に取る。するとカツユはその中の一つを指さした。

 

「ねえ、これなんかどう?」

 

「ん、どれ……」

 

彼女が選んだのはパステルカラーの配色で子供らしいデザインのいわゆる女児服である。渡された服と彼女の体格を見て評価を考える。身長と顔つきだけであれば彼女は程よく子供らしい。しかし……その、一か所があまりにも莫大で、犯罪臭が凄まじくならないだろうか。

 

「ダメかなぁ」

 

「うーん、正直厳しい。もう少し大人っぼいデザインの方が君には似合うと思う。ほらこれとか」

 

「むぅ」

 

不満げに頬を膨らませるカツユに苦笑いしつつ次の候補を選ぶ。今度は先ほどのものよりも少し落ち着いた印象の清楚なワンピースだ。これならばギリギリ大丈夫かもしれない。

 

「どう?」

 

「うん、これはこれで」

 

「よかった」

 

僕はほっと胸を撫で下ろす。結局はカツユが気に入ったなら一度試着させることにした。幸いなことにこの店には個室の更衣室があった。

 

「買う前にここで着替えてね。タグ、余計な物がついてるけど邪魔だからって取らないでね」

 

「はーい」

 

カツユは早速とばかりに更衣室に入る。中からは衣擦れの音だけが聞こえる、なんとも言えない緊張感に息を飲む。

 

「終わったよー」

 

「はいはい……あれ?」

 

更衣室のカーテンを開けるとそこには下着姿のカツユがいた。その肌色の多さに僕は思わず顔を背けてしま……うっ!?

 

「ちょ、ちょっと待った!服は!?」

 

「あれ、手伝ってくれるんじゃないの?」

 

「それは難しいよ、戻って!」

 

これは想定外、確かに彼女の着替えは最初だから僕の手助けをしていた。しかしここは公共の場だ。彼女が一人で着替えてもらえなければ困るのだ。しかし僕が彼女に伝える前に彼女に腕を引かれ狭い更衣室の中に一緒に入ってしまった。

 

そしてそのまま後ろ手で扉の鍵を掛けられる。その動作に僕の心臓は大きく跳ね上がった。

 

「な、何してるの」

 

「だって、早く終わらせたいしお願い」

 

そう言って彼女は自身の体を僕に押し付ける。柔らかい感触に更に触りたいとも感じてしまう。うん、仕方ない、あまり長いこといるのは迷惑だしとっとと済ませよう。

 

「わかったよ、じゃあまずは上の服から」

 

「ありがと」

 

彼女は僕の手を借りながら袖から手を通した。彼女の背中に体が密着し、胸の代わりに女性の匂いが鼻腔をくすぐる。いけないと思いつつも僕はつい意識してしまう。

 

「えへへ、なんだか恥ずかしいね」

 

耳元で囁かれる甘い声音に脳髄まで溶かされそうになる。彼女の着付けはなんとか無事に終了した。肝心の服のサイズは彼女の体系にピッタリだった。ただ、やっぱり一か所のボリュームが大きすぎたけれど。

 

その後、下着やその他必要なものを追加でかごに入れ、会計を済ませた後は店を後にする。

 

「次はどこ行くの?」

 

「そうだなぁ……」

 

時計を見ると昼食には少し早いだった。立ち寄るなら混雑する前が好ましい、今から昼食にしてもいいだろう。それに、道順的に都合がいい。

 

「よし、それなら何か食べて行こうか」

 

「やったー」

 

喜ぶカツユに手を取られ僕達は近くの飲食店に入った。そこは僕のよくお世話になるカフェであり、休日昼間の店内の席はいつもより埋まっている。成程、この状態なら彼女も相談に乗ってくれるだろう。

 

「わーい、ここだー」

 

「あんまり騒がないでね」

 

店のドアを開けようとするカツユの手を掴み引き留める。彼女は不思議そうな顔を浮かべた。

 

「どうして?」

 

「こういうところはね、皆で食べる場所なんだよ。だから他の人に気を使って静かにしないと」

 

「ふーん、難しいんだねぇ……」

 

カツユは渋々納得したように小さくうなずいた。そして僕らは扉を開ける。昼食前の静かな店内の中、跳ねた赤髪で細身の店員が僕らに気が付き駆け寄ってきた。

 

「いらっしゃいませ……って草加か、久しぶり。隣の子はアニマ?まさか君に限って?」

 

「ええ、本当に厄介な事になりました」

 

彼女はカツユの前に立ち、優しく微笑みかけた。カツユはその女性を見て目を輝かせる。

 

「初めまして、私は海音。よろしくね」

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