すらっぎーあにみずむ!!!~動物が人になる現代世界で動物嫌いがヌルヌル生活~   作:囚人番号虚数番

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ちょっとした休息のついでに

時刻は11時、カウンターに通されカツユと並んで座る。お昼前だから客の出入りもまだ少ない。僕はブラックコーヒーとサンドイッチ、カツユには適当におすすめセットお腹に貯まりそうなものから適当に頼んでおいた。

 

「先輩、最近の喫茶店はどうですか?」

 

「いつも通り繁盛してる。マスターもそろそろ私以外にバイトが欲しいとか愚痴られた」

 

彼女は白野 海音(しろの うみね)、一つ上の大学の先輩だ。地毛の赤髪が特徴で誰とでも気があう。しかしアニマとしての特性か陽キャの中では地味であり縁の下の力持ちかつ日陰者の救世主だ。

 

「あなたなら誰とも『肌が合う』のは間違いないです。いなくなられたら困りそうですよね」

 

そんな彼女の正体は棘皮動物門ナマコ網、彼女はナマコのアニマである。彼女は元の生物の特性上、基本無害である。ああ、無毒だという意味でも彼女は無害である。たまに無神経だったりポンコツだったりするけれど基本は誰にでもいい人だ。

 

「ほい、ご注文のサンドウィッチとコーヒー。それと小さい子のオムライスセット」

 

海音は手際よく僕の前にコーヒーを置き、カツユにはケチャップで可愛くデフォルメされた猫の絵が描かれているオムライスとクリームソーダを運んだ。

 

「うわー可愛い!」

 

カツユはその絵を見て目を輝かせている。情緒が幼いあたり、僕の中での彼女は肉体だけが成長している説は信ぴょう性の裏付けをした。

 

「あぁ……かわいいぃ、おいしい」

 

カツユは自分の分のオムライスを食べながら崩れ行くその絵に見惚れていた。海音さんも注文が入っていないからかカウンター越しに彼女の写真を勝手に撮影していた。そしてスマホの画面を見ながらニマニマしている。

 

「先輩、SNSへの投稿拡散は止めてくださいね」

 

「ああ、しないよ。君とアニマの組み合わせが珍しくて。もしかしてうっかり?」

 

「はい、事故ですね。今日はその相談もあってここに来ました」

 

僕は先輩にカツユとの出会いから今までの経緯を話す。彼女も軟体動物と同じだけ珍しい海洋生物のアニマだ。種族は違うが彼女の有様がどこか似ているらしく親身に話を聞いてくれた。

 

「なるほどねぇ、その子の体質改善ってわけね」

 

「えぇ、まあそんな感じです。それで何かいい方法はありませんかね?これ以上部屋を汚されるのは僕もいささか問題なんですけれど」

 

「まあ、無理だろうね。アニマには色んな体質があるけれど抑制には反動がつきものだし。まだ私の内臓喀血癖みたいに自制出来る物ならいいんだけど」

 

再びカツユを二人で眺める。つい先ほどまで屋外にいたせいか乾燥を抑える為に粘液が多く分泌されている。パーカーは濡れ、粘液はテーブルや床に垂れている。海音さんに布巾を借りて机の粘液まみれになった部分を拭き取った。それでも足りないのか2枚目を用意してもらった。

 

「この子の場合だとまず服をどうにかしないとダメかなぁ。外見は悪くなるけどラバースーツ的な」

 

「却下ですね。社会的に死にます」

 

「だよねぇ。あとは粘液対策用の洗剤とか売っているからそれを使うしかないかも。一応薬局でも売っていたはず」

 

「ありがとうございます。今度行ってみようと思います」

 

「ねぇ、草加。ラバースーツって何?」

 

オムライス食べ終えてクリームソーダを飲みながら無垢な目のカツユが聞いてきた。

 

「え”っ!?ええっと……」

 

「クスクス、草加君?よかったら私が代ろうか?」

 

先輩はニヤリと笑った後、僕の肩に手を置いて言った。これは間違いなくろくでもない事を考えている。

 

「いいえ、止めておきます。カツユ、世の中には知らない方がいい事もあるんだよ」

 

僕は苦肉の策として誤魔化す事にした。彼女はきょとんとした顔で首を傾げていたがそれ以上は何も言わない。僕の反応に先輩は温かい目でこちらを見てきた。あなたが始めたことでしょう、これ。

 

「真面目な話、同居はいいとして草加君はカツユちゃんの粘液をしているだよね」

 

「はい、放置していると跡が残るきついです。シャワーを浴びてもしっかり流さないといけないくらいで」

 

「結論を言うと薬剤で対処できる以上の分泌は諦めた方がいいね。アニマが粘液を作る体にした肉体的事情、多分肌の乾燥のしやすさとかがあるから駄目だと思う」

 

やはりそうなのか。対処以上に意味はなく、根本的解決は不可能と。

 

「ま、厄介なだけで怪我の危険はないから君にはいいんじゃない?」

 

「それはそうですね。僕の相談に付き合ってくれてありがとうございまいた」

 

時刻はお昼ごろに差し掛かる。人の出入りが増え始めて彼女と話している余裕もなくなってきた。僕らも長居は迷惑だ。お会計をして店を出た。

 

午後昼半ばの暑い日差しが照り付ける中、僕らは街を歩く。逸れないように手を繋いで。ぬるりと湿り気を帯びていた指の間に指を差し込みしっかりと握られる。

 

「手汗でベトベトする」

 

小さくカツユが呟く。どう考えても手汗で済む分量ではない。十中八九粘液だ。加えて手元とは別に服の中からぴちゃぴちゃと水音、足元からは泥道を歩いているような粘性のある粘液の散る音が歩行に合わせて聞こえる。

 

あまり視線を合わせない方がいいのは承知だ。だが同時にそれは周りも同じで通りかかる通行人からの視線が痛い。仕方なく彼女の姿を視界に入れる。

 

「っぇ!?(うわぁ……)」

 

思わず彼女から手を振り払う。彼女は全身から分泌される粘液が白い糸を引いていた。全身から分泌される粘着質な粘液が日光を反射させてキラキラと光り、頭から足元までを覆っている。体を覆う粘液は衣服に付着してべったりと張り付き、その下のある種完全で歪な体系を顕わにして粘液以外にも色々と目を引いていたのか。

 

彼女は一瞬キョトンとしたがすぐに理由を察して申し訳なさそうな顔をしている。

 

「暑いからどうしようもないんだ。いつもより多く出さないと乾燥でかゆくて」

 

元が蛞蝓なら皮膚の感想は致命的だ。アニマとなっても特性が引き継がれおそらく乾燥防止の為だろうが、それでもここまで大量に出す必要はあるだろうか?それにこの状態で街中を歩き回るのも辛いものがある。

 

「早く家に戻ろうか。ここだと人が多いし」

 

「ほいほーい」

 

再び僕らは並んで歩き出す。足元が粘液でかなり滑り、時々足をとられかける。一方でカツユは自分の何倍もの量の粘液を足元にまき散らしているにも関わらず平然としている。時々ローラースケートのように歩行を止めて慣性だけで動いていた。相当に彼女の体は粘液に順応しているらしい。

 

僕も真似して足を粘液に乗せてみても滑るだけ、技術の取得には時間が必要そうだ。しかし彼女にはそんな俺が滑稽に見えたのか見せつけるように滑りを繰り返した。

 

「ふんふーん♪」

 

まあ、迷惑にならず楽しそうであるのならそれでいい。鼻歌交じりで上機嫌に粘液を撒き散らす。おかげで通行人は皆一様に目を背け、中には露骨に目を逸らす人も居るようだ。

 

だが僕としては煽られたのなら少し付き合ってやろう。そう思い、僕は彼女を真似てもう一度粘液に足を乗せる。そして想定外に勢いよく踏み出した。

 

「あっ」

 

バランスを崩した。転ぶ!そう思った時にはもう遅い。体勢を立て直す事も出来ずに転倒する、はずだった。

だが実際は僕の体を何かが支えてくれた。それはカツユの粘液まみれの腕だった。

 

「大丈夫?」

 

心配そうな顔でこちらを見る。彼女の腕から滴った粘液が僕の頬に落ちてくる。正直、不快だ。だが……

 

ズルッ

 

「あっ」

 

粘液まみれの腕のせいで体を支える手が滑る。僕の体が今度は後ろに倒れていく。だが僕の背中に柔らかい感触が当たった。

 

 

「危なかった」

 

 

カツユが僕の後ろで尻もちをつく形で受け止めてくれていた。粘液まみれの体が密着し、子供の体と大人の胸元の柔らかさが直に伝わる。

 

粘液が潤滑油となり彼女の肌はぬめりを帯びていて気持ち悪いけれど……何だか複雑な感想だ。

 

「あちゃー、よごれちゃった。大丈夫?」

 

「うん、これは僕の不注意だから。それより早く離してもらえない?」

 

いつまでも抱き着かれるのは恥ずかしい。地面に気を付けて立ち上がる。だがカツユは僕が立ち上がり歩いても一向に離れようとしない。それどころか彼女は余計に強く抱きしめてきた。

 

「このまま帰ろ?どうせ帰ったらシャワー浴びないといけないんだしさ」

 

そう言ってカツユはさらに強く抱擁してくる。粘液で濡れた肌が触れ合い、ぬるりと粘液が垂れる。

 

「わかった、分かったから」

 

これ以上は勘弁してくれ、自分の体がどれだけ不味い状態か理解していないのか。そう思って彼女の体を引き剥がそうとするが、粘液で滑って上手く引き剥がせない。

 

結局そのままの状態で帰宅する羽目になった。

 

 

 

 

 

因みに買い物のビニール袋の外側がめちゃめちゃになっていた。

 

 

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