すらっぎーあにみずむ!!!~動物が人になる現代世界で動物嫌いがヌルヌル生活~   作:囚人番号虚数番

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なめくじ、大学へ

平日、大学に行く日だ。今日は講義が入っている。アニマとの同居人である前に僕は学生だ。勉学には励むべきであるのだ。

 

ついでにアニマの被害、偶発的に扶養者になってしまった学生の為の相談所がある。ナマコ先輩曰く癖の強いアニマだとそこまで役に立たないと定評があるらしい。けれど今は藁にもすがりたい。

 

という訳で今はカツユを連れて大学に向かっている。雨天、湿度70%、普段よりもじめじめとした空気である。昨日は晴天で尚且つ暑い中で歩いたせいでカツユの粘液が酷かった。しかしその点今日は乾燥とは真反対、多湿で彼女の粘液も分泌していない。その代わりだから二人で同じ傘の下に入り朝の通学路を通った。

 

 

 

現在位置 句蔵大学(くぐらしりつだいがく)

 

大学の朝は早い。1限目に出席する学生が教室のある建物に入っていた。僕は授業自体は2限目からだ。大学での相談をするために早く来ている。

 

大学にも勿論アニマの生徒はいる。通学中でもたまに獣耳や尻尾の生えた人とすれ違った。校内でも元ペットのアニマが登校している……せめて同じアニマなら彼らの様に手のかからない個体が良かった。

 

「ここは何なの?」

 

隣でカツユが聞いてきた。彼女は義務教育から最も離れた無学なアニマである。いずれ彼女も何かしら学ぶ必要がありそうだ。

 

「学校、勉強する所。カツユも文字を学ばないといけないね」

 

さて、確か学校の相談所は……アニマ棟の5階だ。あの棟は最近増えてきたアニマの生徒用の隔離として改築された棟である。実験棟とも言うべきか、アニマの研究をする機能とアニマへの教育が一つにまとめられた施設である。今もあの建物に鳥類が2階の専用入り口から入って行った。

 

「カツユ、行くよ」

 

先輩との付き合いで以前何回かあの棟には入った事がある。人の気配に交じり、だが獣臭い棟の空気は混沌とした獣達が醸し出す。僕は獣に人の気が分かる筈なかろう。だからあそこには自らは絶対に入りたくなかったのに。

 

彼女もあそこの気配の違いに気が付いたのか僅かに粘液が肌から地面に落ちた。高層の棟を仰ぎ見て難しい顔をしている。すると彼女は傘から出て走り出した。

 

「今ならアレ、出来るかも。いつもとは逆だけどちょっと試してみる」

 

静止も間に合わずカツユは雨の中を雨量以上の粘液を分泌しながら駆けてゆく。心なしかいつもよりさらさらとしていて雨にすぐ溶け出している。彼女はある程度走ってから立ち止まり鳥類用の入口をじっと見ていた。

 

「カツユ、待って何するの!?」

 

「最近粘液が気分に合わせて変になるからもしかしたら」

 

彼女は粘液を掌から多量に分泌する。しかしいつもとは違い流れ落ちず圧倒的な粘土から塊となる。塊は膨らみ内部からの増え続ける粘液に耐え切れず勢いよく粘液が上に飛び出した。

 

飛び出した粘液は鳥類用の入り口に着弾した。相当な粘性があるらしく彼女の腕と着弾した点までが一本の粘液の糸の様につながった。

 

「そーれ」

 

そしてゴムのような弾性を持った糸が収縮しカツユは中に浮き上がる。そして収縮した先の鳥類入口に彼女は着地した。

 

「おー、やっぱり上手くいった。草加も早く来て」

 

「……えぇ…………」

 

やはり人外にマトモな感性を求めてはいけない。改めて覚悟して正面入り口から僕は棟に入る。人外ばかりのこの場所に人が来るとどうしても目立つ。誰かからの視線が無いのは分かっているもののどうしても空気が肌に合わない。

 

エレベーターでカツユの居る階に向かい、彼女と合流した後に5階で再び降りる。そして目当てのフロアマップに従い相談所にやってきた。

 

「ええええ!?置いてないんですか!?」

 

僕らが着いたと同時に受付で声が響く。しかも偶然か知った声である。

 

「少量で良いんです。購買にセメント作成キットと大型の水槽の貸し出し、駄目ですか?」

 

それは無茶な願いだろう。迷惑になっているし相談されている人も困っている。自分の相談の邪魔にもなるだろうしアレにはさっさと退いてもらう。

 

「古渡、またセメントと1m水槽が足りなくなったの?」

 

「ええ、4個目を少々……あれ、葵先輩?」

 

古渡珊瑚(こわたり さんご)、名の表す通り珊瑚のアニマだ。華奢な体で整った顔立ち、文字通りの石灰質で陶器のように白い肌、そして誰もが目を引く鮮やかな髪と球体関節が特徴だ。

 

社会的な関わりとして、彼女は僕の幼馴染でもある。アニマは基本苦手だが彼女は目に見えて人ではない容姿から最早アニマですらない何かと思っている。だから今だに今でも縁がある。

 

「先輩と私以外のアニマに興味が出たんですか?」

 

「不本意だけれど抱かざるを得なくて。ほら、この子だよ」

 

後ろに連れていたカツユを前に出す。

 

「こんにちは」

 

「こんには!私は珊瑚、よろしくね!」

 

彼女を前にした古渡は彼女の手を取る。しかしすぐに違和感を感じたのか硬直した後恐る恐る手を離した。彼女はカツユから流れ出る粘液にゃっと気がついたらしい。今日が雨の日で大変良かった、ふだんはあの倍はある。

 

「あのー……君、セメントの話は一応専門の部署に通しておくから。次の君、どうぞ」

 

「あ!ありがとうございます!先輩はこの子の相談ですか?」

 

「うん、じゃあまた今度……あ、やっぱりカツユ、甘楽カツユを相談の間預かって欲しい。まだ講義までしばらくあるよね」

 

「いいですよ。後で迎えに来てくださいね。あ、あとお昼も!」

 

彼女は快く了承してくれた。カツユも特に嫌がらず、むしろ嬉しそうにしている。迷惑にならないように注意して僕は彼女から離れカツユを置いて部屋を出た。

 

それから10分ほど相談所でアニマ関係の手続きについて相談した。

 

名目上の相談所かと心配していたが予想以上に捗った。いままで深夜に夜な夜なしてい手続きのお陰で意外にもこのあとの作業は少なく抑えられ、序に相談しながら下書きだけしてしまった。あとはこれを再びパソコンで打ち込めば手続きは終わる。

 

一方でカツユの体質については何も答えが得られなかった。ただ専用の洗剤や抑制剤の使用を推奨されるだけで、まだ個人サイトの方が有益であった。

 

しかし今は面倒な手続きが終わったことを喜んでおこう。思わぬ成果に心躍らせカツユを回収しに階を降りる。彼らはどうやら一階のカフェテリアで休息中だと連絡が来ていた。

 

エレベーターを降りて朝の人の少ないカフェテリア、食堂等は空いていないけれど勉強スペースとしては使われる。しかし、人気のなさに反してその席には二人が座っていた。

 

「先輩、遅いよー!」

 

カツユは机にべったりと頬をつけてだらけている。彼女の向かいに座りつつ隣を見ると古渡は本を読んでいた。

 

「ごめん、待たせたかな」

 

「大丈夫。むしろ人懐っこいいい子じゃん」

 

「草加、何してたの?」

 

カツユが駆け寄ってきた。僕は彼女の頭を撫でながら答える。

 

「相談事、もう終わったから行くよ。古渡、2限後にカフェ前、Aセット?」

 

「Dの大!よろしくね!」

 

古渡は本を閉じて立ち上がり、僕らに手を振る。僕とカツユは彼女に別れを

告げると相談所を出て自身の講義へと向かった。

 

恐らく彼女は大学生ばかりの中では目立つかもしれない。しかし粘液まみれの彼女を受け入れる義務は残念ながら僕にある。段々と増えつつある人気を気にしつつ別の棟に向かった。

 

「ねえ、珊瑚って何?」

 

移動の最中、カツユが聞いてきた。そういえば彼女は陸上の生き物だ。海という概念があるのか怪しい。

 

「うーん、水の中の生き物だよ。この辺りにはいないかな」

 

「へー、じゃあ何でかな。あの人、不思議な感じがするの」

 

不思議とは?と聞くと彼女は言葉を濁す。よく分からないけど、でも彼女自身も全く理解できていないようで首を傾げている。アニマは人間とかけ離れた容姿のものが多いが古渡は特に際立っている。そして彼女はアニマというより人形に近い見た目をしている。

 

だが意を決して彼女は口から言葉を出した……が

 

「ちょっと美味しそうだった」

 

「美味しそう」

 

「うん、美味しそう。なんでだろ」

 

「……(まさかとは思うけど、100円の牛乳一本も追加で奢ってあげよう)」

 

後に調べて知った事だがやっぱりナメクジはコンクリート、石灰分のカルシウムを体に取り入れるらしい。そして古渡の肉体の大部分は珊瑚由来の石灰である。彼女は無意識にそれを察したのだろう。幸運なのはその食欲が飼い主の僕に向かなかった事だけである。

 

しかし、だからこそ彼女がそう思うならそれで良いかと思いつつもアニマの本能に自身の身が少し不安になった。

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