すらっぎーあにみずむ!!!~動物が人になる現代世界で動物嫌いがヌルヌル生活~   作:囚人番号虚数番

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水族館に来ました

現在時刻 休日

 

現在位置 句蔵駅前

 

『海音先輩、今どこでしょうか』

 

『あとふたえき』

 

『分かりました。改札には先に入ってもよろしいですか』

 

『ついた、入った先で合流しよう』

 

携帯の連絡を頼りに先輩を待つ。句蔵駅はそこまで大きくはない。海音先輩と合流するために改札を通る。すれ違うアニマの目線から目を逸らしつつ僕は目的のホームに向かった。

 

「草加、ここ怖い。うるさい」

 

「駅だからね。もう少し我慢してて」

 

勿論カツユも連れている。電車の音と数多の人通りに怯える彼女を後ろに伝れ、白く濡れた跡をタイルの床に残しながら一番端のホームへと降りる。階段を下りた先には赤髪の女性がいた。

 

「こんにちは、先輩」

 

「あ、おはよう。カツユちゃんもおはよう」

 

「おはよう」

 

カツユは僕の後ろに隠れて顔だけ出して挨拶をする。その様子に苦笑した海音先輩が僕の横に並んだ。

 

「今日は誘ってくれてありがとうね。でもいいの?あそこはアニマも多いのに」

 

「いいえ、それも確かめたくて。相談も兼ねてますからね」

 

ここで電車がホームに到着した。ブレーキの高い金属音にカツユが粘液の分泌で恐怖を現した。これはアニマ用の特殊車両に乗るべきだろう。乗るべき車両に移動する。

 

「相談なら喫茶でもよかったのにね」

 

「不満点があるなら先輩の入場料は僕が持ってもいいですよ」

 

「大丈夫だよ、私も久しぶりに見てみたかったから丁度いい」

 

車両に乗り込んで扉が閉まる。3人で電車に立ち、体に慣性を感じるといよいよ出発を感じる。休日と目的地から中は狭い……と思いきやカツユの体質が電車と非常にミスマッチしていて目線を墓地に捨てそれなりのスペースを確保した。

 

カツユは音と振動に最初こそ怯えていたものの一駅が経過したころには楽しそうに移り変わる景色を眺めていた。窓を見ると段々と風景に輝く青が見え始める。

 

ー--

 

現在位置 水族館

 

寒色の照明と黒い床、輝く水槽には無数の人が群がり中を見つめる。過剰に冷えた空調も涼し気な風景と相まってある種趣がある。僕はここに訪れるのは初めてだ。しかし水族館は何度か訪れたことがある、その中でここは大きな水族館だ。

 

チケットを買って3人で入場する。小さな円柱の水槽に沢山の魚入った水槽が何本か入口から見える。成程、中々綺麗だ。カツユは小さくおぉ……、と小さく感嘆の声を漏らす。

 

「綺麗……」

 

カツユはそれらの水槽に近づいてそっと水槽の表面に触れる。色とりどりの魚に見入り、ただそのままでいる。僕と海音先輩も彼女を囲み眺める。

 

「近海の魚ですか。綺麗ですね」

 

「へー、近くの海なんだ……ってカツユちゃん?」

 

僕らが水槽に関心を示している最中、カツユは既に別の水槽に興味を示していた。珊瑚の海の水槽の方が種類も豊富だし、納得である。

 

「ねえねえ、これなんて魚だろうね」

 

「ナンヨウハギ、ここのパネルに説明があるよ。ほら、読める?」

 

カツユは解説のパネルに視線を向ける。漢字交じりの文章だからか難しい顔で読んでいる。辿々しく読める文字だけを読み途切れ途切れに読み上げる。そして諦めたのか僕らに助けを求めてきた。

 

「はいはい。えっと、この魚は……」

 

仕方なしとカツユに代わり読んであげる。その様子を横にいる先輩は温かい目で見ていた。カツユに興味があるのだろうか?

 

「すっかりお母さんだね、草加君」

 

「……アニマは手がかかりますから」

 

興味があるのは僕でしたか。確かに、最近の行動は行動だけ見れば捉えられても仕方ないかもしれない。

 

「ふふふっ、アニマは苦手って言ってたのにそんなことないじゃん」

 

「生活方法は彼女も人とほぼ同じですからね。後その話は後でにしましょう」

 

順路を辿り先に進むと熱帯魚のコーナーに入る。明るく白く照らされた水槽には多種多様な魚が展示され、見ていて飽きない。是非とも小一時間ゆったり眺めていたいところだが相応に人も多い。しかもその中には獣耳の生えたアニマも相応にいた。

 

首輪を付け尻尾を振る猫、羽を縮こませて歩く鳥、その他色々なアニマがこの狭い空間にも多くいる。はっきり言って気持ち悪い。頭では人と分かってはいるものの僕にはあれが動物としか思えない。隷属が、隷属以外の何であろうか。

 

「草加、イソギンチャクだって。これも魚なの?それとも……あれ、お姉さん、草加は?」

 

「もうちょっとゆっくり行きたいって。だからあそこの椅子で少しまってよっか」

 

「……いいや、平気だよ。僕も今来た」

 

彼らをまたせまいと道を塞ぐ彼らを突っ切って間に合わせた。で、イソギンチャクがなんだ、そう思い僕が水槽を覗くと鮮やかな水槽とは場違いに黒い何かが視界に入る。ナマコだ。

 

「先輩、あそこのって先輩と同種ですか?」

 

「うーん、覚えて無い。なにせ動物の頃の感覚はもう覚えてないの」

 

「ねえねえ、これじゃない?」

 

するとカツユが解説を見つけてくれた。へえ、成程。ナマコには人間の持つ一部感覚器や臓器が存在しないらしい。これは普通に感心する知識だ。同時に僕は先輩に視線を向ける。

 

「先輩、アニマって元の動物をどれだけ再現してるんですかね」

 

「さあ、でも私には目とか耳とかはあるよね」

 

そうか、そうだよね。彼女の顔を改めてみても当たり前にちゃんと器官はある。無駄な心配をしているとカツユが僕のスマホを借りたいと頼む。渡すと彼女は水槽の写真を撮り始め、一通り撮り終えると満足したようで先に進んだ。僕のスマホを勝手に借り、水槽の魚を撮った。彼女は満足し、また僕らを置いてまた先へと進んだ。僕らも先に進もう。

 

 

 

「あ、でも心電図だけは駄目だった覚えがあるような……」

 

「先輩!?」

 

ーーー

 

 

そうして水族館を一通り周り昼食時となる。軽く軽食を食べた後、カツユをふれあいコーナーに連れて行った。ここでは子供だけで参加可能なイベントが開催されており彼女をここに参加させた。

 

残る僕と先輩は彼女の帰りを待つ30分の間、適当な椅子に腰を掛けて待つ。

 

「いい水族館だね。思ったより大きくて今度はもう何人か連れてきても良さそう」

 

「ええ、そうですね。でも今日は二人きりでなければ……いいえ、今のうちに本題に入りましょう。彼女が帰ってきてしまいます」

 

元々僕がここに訪れたのは先輩への相談とある種の観察実験の為だ。事実いつもより活発で楽しそうにしていた。単に出かけたお陰もあるけれど、僕はその中から疑問への答えを探そうとしていた。

 

「カツユにはどうにも水に関して執着があるんです」

 

ここ数日の彼女、主に識字をし始めた頃から何故か何かと水に執着する。元から体質的に水分量が多い環境を好む彼女だ。しかし公園で飛び込み始めてから彼女は不自然なのだ。

 

「ウミウシや貝ならまだ分かります。でもただの蛞蝓に水なんて雨以外には関わりがない。それに、これを見てください」

 

僕は先輩に彼女の奇行を残した写真を見せる。彼女の描いた水彩画とある彼女の行動についてだ。

 

「このきれいな絵をあの子が描いたの?絵画の才能があるね。でも確かに海水魚の絵と……何、このなめくじ……のようなもの?」

 

「それは僕にも分かりかねます。でも不思議なんですよ。これを描き上げる以前はまだカツユは『海』の概念を知りません」

 

一応まだ時間が時間だ。単に知らない可能性もある。しかし、彼女に以前渡した図鑑や資料収集のために使ったパソコンの履歴から絶対にありえない。彼女にも検索履歴の一部をリストアップしたものを先輩に見せる。先輩はデータをじっくり観察しながら静かに考えている。

 

「何でも無いならいいんです。しかしネットでもあまりデータが出てこなくて先輩に相談してみました」

 

よくお世話になる有志のアニマ用サイトにすらこの現象の記述は少ない。思春期のアニマが人間と動物へのコンプレックスから悩むことはあるらしい。けれど精神的に未成熟な彼女には些か早い。

 

しばらく2人で沈黙する。周りのカップルや集団の声が煩い。だが口を開いた先輩の言葉は確かに聞こえた。

 

「……『回帰性』アニマ以前の生物の世代を超えた帰郷への本能」

 

回帰?鮭や鳥の持つ特性で彼らは生まれた場所に帰るのだ。しかしアニマに回帰性があるのか?そんな特異な特性があるのならなぜ情報が出てこないのか。

 

「アニマは飼い主や家族、友人に依存しがちなの。哺乳類がよく人といるのはそのせい、これは知ってる?」

 

「……ええ」

 

「そして回帰性は生物としてより原始的な程強くなるの。私達みたいに変わった動物は丁度受け始めるあたり」

 

先輩は小さな水槽を覗き込む。

 

「回帰性の影響の一つに水への関連を見出し昇華を試みる、らしいの」

 

「らしい?」

 

「教育学部の友達からひと伝えに知った話だからね。例も少なくてまだ良くわかってないってことも教えるよ」

 

僕の隣に再び隣に座る。出処の分からない状態ならあくまで参考にしておく。しかし厄介な本能であるもののよく分からないというのなら一度調べてから調べよう。

 

イベントも残り10分、そろそろカツユも戻ってくる頃だろう。そろそろ水族館も終わりも近い。お土産に何を買おうか、暇つぶしにパンフレットを読みながら適当に考えていると。

 

「一度実家に帰ってみたら?」

 

「……アレを連れて?」

 

「うん、夏休み位に。まだ親御さんに連絡してないんでしょ?」

 

…………図星である。

 

僕は同居人が一人増えたことを未だ家族に伝えていない。一応家族もアニマに対しての理解者だ。様々な問題に関しても全てを受け入れてくれる可能性は高い。しかし、同時に理解できないものに関しては非常に心苦しいのだ。

 

「嫌ですよ。何で紹介する必要があるんですか。少なくとも今はまだいいでしょう」

 

否定はしたが詭弁である。僕は先輩から目を反らし、見え見えの反応に先輩は優しい目を向ける。そして嫌なら良いんだよ、と優しく付け加えた。

 

「アニマの体質に合わせて生活を変える、アニマの飼い主には基本だって意見もあるみたいだし。それに草加君なら地元からも大学に通えるでしょ?」

 

「出来なくはないですが……はい、検討しておきます」

 

僕としたことが屈辱的な選択をしてしまった。同時に時間は三十分、彼女が僕らを見つけて戻ってきた。

 

「おまたせ。草加、何かあったの?」

 

「いいや、何でも。そろそろ帰ろうか」

 

帰りの順路を辿り通路を抜けると大水槽の優しい青が魚を照らす。群れをなす回遊魚と色とりどりの巨大魚が自由に泳ぐ。2階までもの高大きさの水槽を僕らはまた下から見上げる。

 

すぐ隣には同じくカツユ、それと先輩が同じく水槽を眺めていた。

 

「今日はありがとね、草加君」

 

「いえ、こちらこそ相談に……」

 

「カツユちゃんには元気に接してあげてね」

 

僕らは出口のゲートをくぐり水族館を出る。

 

 

 

 

ーーー

 

ーお土産屋

 

 

 

「カツユ、駄目。それは体質的にあまりにも向かない」←カツユ抑え

 

「駄目?」←人形コーナーに行きたい

 

「うん、悪いこと言わないからせめてビニールのに出来る?」

 

「やだ、不気味で気持ち悪い」

 

「先輩、どうしましょうか」チラ

 

「…………アレとかどう?真ん中に展示してある大きいの」メソラシ

 

「大きい……の…………?」

 

 

『廃棄珊瑚パーツ一式 Broken body』  作 古渡珊瑚」

 

「(えぇ……)」

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