あんてぃりーねのゆぐどらしる☆だい☆ぼう☆けん☆ ~泣き虫が伝説になるまで~   作:だいだろすちひろ

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前回のあらすじ

モモンガの脳みそは腐っていた。


急に冷え込んできましたね、只でさえ打つのが遅いのにいよいよ遅くなってきます 泣

風邪を引かないよう気を付けなければ...

少し投稿が遅れてしまいました、今回も頭が爆発しそうでしたが頑張って書けました。

寒いので皆さんもお気をつけて、それでは。 シュバ!


HYDRA

 

 

 

―――現実と隔離された世界―――

 

 

―――夢の中―――

 

 

―――呼び起される記憶―――

 

 

―――映し出される映像―――

 

 

「―――――様!前線が!」

 

 

”いつの時”だろう?”夢の世界”の主は思う―――

 

 

―――”多すぎて”分からない。

 

 

目の前から”侵略者の軍勢”が押し寄せてきている。周りを見渡せば”死体の山”が見える”侵略者”と”人間”の―――

 

 

―――人間の方が多い様に見える。

 

 

「――――。」

 

 

これは”自分”―――夢の主―――が発した言葉だ、なんと言っているのだろう?

 

 

そこまでは呼び起せては貰えない。

 

 

ふと”自分”が天を仰いだ、どうやら夜の様だ、空には沢山の星々が眩く煌めいている。

 

 

”美しい”確か自分はこう思っていた筈だ、手の届かない場所にある星々に見惚れた―――

 

 

―――手が届かないからこそ”美しい”と

 

 

そしてまた前を向く、前方には”侵略者の軍勢”が変わらず押し寄せてきている。

 

 

自分はこう呟いた筈だ―――

 

 

―――いつ”終わるのだろう”...と。

 

 

この”地獄”はいつまで続くのか?いつになったら終わるのか?そして―――

 

 

―――”いつか終わる”...そう思ったに違いない。

 

 

先の見えない地獄―――

 

 

―――微かな希望

 

 

自分は再度天を仰いだ。

 

 

変わらず星々は煌めいている、変わらず美しい。

 

 

そう、美しい―――

 

 

―――手が”届かない”から。

 

 

気づけば、自分は星に手を伸ばしている。

 

 

そして思う、あぁ、そうだ―――

 

 

―――”一緒だ”...と。

 

 

”微かな希望”でさえも、あの星の様に”遠く”。

 

 

”届かない”と知りながら、”手を伸ばす”。

 

 

視線が、再度前方を向く、そして―――駆けだした。

 

 

自分は駆ける、―――”侵略者の軍勢”に。

 

 

切り刻む―――”侵略者の軍勢”を。

 

 

鮮血が舞い散る―――血潮が舞い踊る。

 

 

その舞い散る血潮に塗れ―――踊り狂う。

 

 

いつまでも、そう、いつまでも...。

 

 

この”血潮”に”流れる”―――”運命”と共に。

 

 

この”血脈に刻まれた”―――”因縁”と共に。

 

 

戦いの坩堝の中―――踊り狂う。

 

 

あぁ―――そうよ。

 

 

踊りましょう―――踊り狂いましょう。

 

 

いつまでも、そう―――いつまでも。

 

 

―――”いつまでも踊りましょう”―――

 

 

―――”空虚”な”渇望”を―――

 

 

―――”嗚呼”―――

 

 

―――”追いかけて”―――

 

 

 

 

 

「戻ってきた...。」

 

 

見知った部屋、見慣れた天井。間違いない、ここは”自分の部屋だ”―――帰ってきた。

 

 

窓から日差しが刺しているのが見える、もう朝の様だ。この日光と暖かさが、それを証明してくれている。そしてそれが、ここが”元”の世界だと証明する―――

 

 

―――ユグドラシルには暖かさという”感覚”はないのだから。

 

 

「ん~?何で微妙に時間経ってるんだろ?分かんないな~。」

 

 

空間の歪みに包まれ帰ってきた少女―――リーネがそう一人ごちる。モモンガとの話し合いから随分と強くなったようだ、もうそこに驚きはない、少しの疑問さえ口に出せる程。

 

 

そう思っていると、少し”遠く”から”足音”が”聞こえてきた”―――

 

 

―――今までは”聞き取れなかった”足音が。

 

 

感覚が研ぎ澄まされている?それも確かにあるかも知れない、しかしそれが”大きな”理由ではないのだ。もっと別の―――大きな理由がある。

 

 

「お嬢様。」

 

 

扉を叩く音が先に聞こえ、その後にナズルの声が聞こえてくる。その声は少し”震えている”かの様に感じた。そして、その声の震えが物語っている。間違いない、”今日”自分が家を追い出されるのであろう。

 

 

「入っていいよ。」

 

 

失礼します。そう言い、ナズルがドアを開け、ゆっくりと部屋に入ってきた。その顔色は悪い、それもそうだろうと思う。昨日の今日だ、どういう顔で接しればいいのか分からないのだろう。

 

 

「ナズルおばちゃん。”お母さん”に会わせて。」

 

 

単刀直入に切り込まれる鋭い言葉がナズルを斬る。本人も予想外だったのであろう、目を白黒させているのが見てとれる。

 

 

(ごめんね。ナズルおばちゃん。ビックリするよね普通。)

 

 

昨日まで意気消沈していた少女が、次の日に発する言葉ではとてもではないがない。自分は”向こう”で、七日過ごしていて、尚且つモモンガとも語り合った後なのだ、違って当然だ。その姿を見て、罪悪感が沸いてくる、騙しているようで少し気が引けているのだ。

 

 

「お嬢様...それは―――」

 

 

「会わせて。」

 

 

有無を言わさぬ言葉がナズルに飛んでいき、ナズルが押し黙る、頭の中に渦巻く色々な言葉達、それは肯定の言葉達ではない、合わせるべきではないと、傷つくのは目に見えているのだから、断りの言葉を吐こうと少女に向き直し、そして気づく―――

 

 

―――少女の”強い瞳”に。

 

 

「お嬢様...強くなられましたね...いつの間にこんな...分かりました。」

 

 

「ありがと。ナズルおばちゃん。」

 

 

ナズルが部屋を退出する、少女の強い”瞳”を目に焼き付けて。

 

 

「...ふぅ...覚悟してよね。お母さん。今日は言いたいこと全部言うんだから!」

 

 

子供なめんなよ~泣きわめいてやるぞ~!おー!少女がそう言いながら決意の拳を天に掲げる、ただでは転んでやる気はない、腹を割って話させてやるぞと。

 

 

 

 

 

 

ここは屋敷の前の広い庭―――いつもの訓練の場所―――である。そこにリーネとファーインが訓練中と同じように相対していた、その後ろにはナズルの姿も見える。

 

 

「何かしら?さよならの挨拶でもしに来たの?そうね、挨拶くらいはしなきゃね。さよ―――」

 

 

「”お母さん”は私の事が”嫌い”なの?」

 

 

~~~――!!想像していなかった言葉にファーインが面を食らい、押し黙る。

 

 

驚愕が押し寄せる、この”子”はこんな事を聞ける子ではなかった。この”一週間”ちょっとで一体なにが起きたというのか。

 

 

フィジカルの向上は”分かる”だが、それでもこの”精神的成長”はなんだ?これは”まずい”自分の”計画が破綻”する。言いくるめなければ。”卑屈”にさせなければならない―――

 

 

―――もう余り”猶予”はないのだから。

 

 

「...そんな事を言いに来たの?呆れた...もういいわ喋る気も失せたか―――」

 

 

「はぐらかさないで、きちんと答えてよ。」

 

 

怯まない、”強い瞳だ”、このまま退くきは毛頭ないと言う風に質問が投げつけられる―――

 

 

―――残酷な質問が。

 

 

「~~~――!!...あぁ、もう...分かったわ。”嫌い”よ。大嫌い...」

 

 

これで満足?そうファーインが答えを示し、明確な拒絶の意志を伝えていく。そして聞こえてくる、静かに、だが、はっきりとした声で。

 

 

「私はお母さんが好き。大好き。」

 

 

聞こえてきた言葉は、残酷な言葉、そして―――尚も言葉は綴られる。

 

 

「ずっと一緒に居たい。もっと話したい。一緒に遊んでもみたい―――」

 

 

途切れない言葉、終わらない言葉、少女の本心の―――

 

 

―――押しとどめていた言葉。

 

 

見守っていたナズルが驚愕に目を見開いている。ここまでの言葉が出てくるとは想像していなかったのであろう―――言葉は途切れない、終わらない、そして―――

 

 

―――黙りなさい。

 

 

終わらない言葉を”一刀に伏す”―――

 

 

「黙りなさい!!!」

 

 

―――修羅の雄たけび

 

 

 

 

 

 

この”血”が私は嫌いだ、この”力”が私は嫌いだ。

 

 

この”血”に流れる”宿命”が―――

 

 

―――有無を言わさぬ”定め”が

 

 

血みどろの”因縁”が―――

 

 

―――私は嫌いだ。

 

 

―――”神の血”の”宿命”が―――

 

 

―――”神人”の”定め”が―――

 

 

―――”世界の調停者”達との”因縁”が―――

 

 

―――私は嫌いだ―――

 

 

どれだけ”戦って”きただろう?

 

 

―――神の血を引く者の宿命に沿って―――

 

 

どれだけ”救って”きただろう?

 

 

―――”人”を”神人”の定めを掲げて―――

 

 

どれだけ”怯えて”きただろう?

 

 

―――”世界の調停者”達の”因縁”に―――

 

 

戦って...戦って...戦ってきた、神は何も言わない―――

 

 

―――助けてはくれない。

 

 

終結する事の無い”戦い”―――永劫に続く”地獄”。

 

 

その果てに待っていたのは”裏切られ””囚われ””孕まされた”自分。

 

 

あぁ...そうだ...相応しい―――

 

 

―――血に振り回された自分への終着点に。

 

 

それは相応しい―――無様で滑稽な姿だ。

 

 

子を産む寸前に自分は救い出された、漆黒聖典だ、余計な事を、やっと―――

 

 

―――終わると思ったのに。

 

 

ほどなくして”子”は生まれた、女の子だ、どうでもいい―――

 

 

―――自分はもう終わりたい。

 

 

隣でずっと泣きわめく”赤子”の声が耳をつんざく―――

 

 

―――煩わしい、のんきな者だ、自分の”血”も知らずに。

 

 

赤子が動いている、どうやら親を探しているのだろう、そして―――

 

 

自分の指を、赤子の指が握った―――

 

 

―――世界に”色”が付いた。

 

 

感じた事も無い感情に包まれた、血塗られた”修羅の女”には”相応しく無い”感情だ、抑えが効かない、どこまでも―――

 

 

―――どこまでも膨らんでいく。

 

 

”アンティリーネ”貴女とあって、”私の世界に色が付いた”

 

 

人生と言う名の”途切れた道”を、”綺麗な”色の”絵具”で継ぎ足していった―――

 

 

―――色鮮やかな”明日”が動きだした。

 

 

そして、耳に聞こえてくる言葉、”神官長”達の言葉―――

 

 

―――”この子も強くなるだろう”。

 

 

ふざけるな!ふざけるな!ふざけるな!ふざけるな!、この子には”歩ませない”、血みどろの道を!修羅の道を!、お前達の”道具”になんかさせない!、私は”母親”だ!私はこの子を―――

 

 

―――守る!

 

 

 

 

 

 

「貴女に何が”分かる”の!何も”知らない”癖に!”大人”の考えに”口を挟む”んじゃない!」

 

 

―――響き渡る怒号―――

 

 

―――震える大地―――

 

 

―――神人の気迫―――

 

 

それでも尚―――

 

 

―――リーネは”退かない”

 

 

「大人の...?考え...?知らないよ!!大人ってなに!?分かる訳ないじゃん!!私子供だもん!お母さんの考えなんて知らないよ!私はお母さんが―――好きなんだもん!」

 

 

子供の癇癪だ、只の、感情に任せた―――

 

 

―――そして修羅が血を吐くかの如く吠える。

 

 

「何で、何で...そんな事を言うの...私がどれだけ―――”我慢”したと思ってる!!」

 

 

言ってしまった―――”計画は御破算”だ。

 

 

”嫌われねば”ならなかった”卑屈に出ていかせねばならなかった”―――

 

 

―――そうでなければ”守れなかった”からだ。

 

 

神の血は強大だ。”研鑽を積めば”英雄の領域に入れる程に。そんな”存在”を”法国”が見逃すはずがない―――

 

 

―――逃がさなければならない。取るに足らない存在として。

 

 

だが”女”が一人で易々と生きれる程この世界は甘くはない。多少の”力”はいるだろう。自分の身を守れるくらいには―――

 

 

―――その為の”訓練””調整”だったはずだ。

 

 

”卑屈”にさせなければならなかった。これが一番辛かった、無邪気に、明るく、普通の女の子として振舞って貰いたかった。でもそれはできない、家を追い出す為にはそうするしかないから。

 

 

そして追い出した後、冒険者にでもなって”戦い”に身を投じられては厄介だ、”血”が”覚醒”するかも知れない。

 

 

だからこそ”自分は駄目”なんだと思わせねばならなかった、自信を持たせては”駄目”なのだ。

 

 

”調整”は順調に進んでいた―――”両方”、なのになぜ”急に覚醒が始まった”、なぜ急に”これほど強い瞳”をするようになったのだ。

 

 

まずい、猶予は無い、この子にはあの”クソッタレ”の血も混じっている、覚醒してしまえば、自分以上の力を得る可能性を秘めている。大罪人達の”血の覚醒”―――

 

 

―――調停者達が黙ってはいない。

 

 

言ってはならなかった、隠し通さなければならなかった、この子の為ならば、自分の気持ちなど―――安い物だ、そう思っていた、なのに。

 

 

「なんでそんな事を言うの...?私がどれだけ我慢したと...どれだけ”腹の底”から声を出して”泣いた”と思ってるの...―――”アンティリーネ”。」

 

 

名前、”最も言ってはいけない言葉”が漏れ出した、頬に大粒の涙を伝っていく、言葉は戻らない―――

 

 

―――零れた水は戻らない。

 

 

「えっ...?”名前”?我慢した?なんでお母さん―――」

 

 

―――泣いてるの?

 

 

「―――!これは!」

 

 

「お母さんは私の事が好きだったの?なんで言ってくれなかったの?何で隠したの?何で?」

 

 

言葉が止まらない―――リーネは止まらない。

 

 

「お母さんの気持ちなんてわかんないよ!言われなきゃ!!わかんないよぉぉ!」

 

 

瞬間、重低音が鳴り響く、リーネの地団太によって―――

 

 

―――地面が”割れた”音だ

 

 

目の前の光景が信じられない。見守っていたナズルさえも悲鳴を上げている。そして、その光景を目の当たりにし、ファーインが膝から崩れ落ちた―――

 

 

「あっ...嘘...もう遅かったの?」

 

 

足踏み一つで地面を割る。それは”英雄”どころか”逸脱者”の域ですらない、そう神の血を覚醒させた―――

 

 

―――”神人”の域だ。

 

 

 

 

 

 

遅かった...既に手遅れだったのだ、血は覚醒した...。

 

 

”六大神の血”が”八欲王の血”が―――

 

 

―――大罪人の血が。

 

 

ファーインが膝から崩れ落ち、打ちひしがれている。血が覚醒してしまった以上、待っているのは血濡れの道だ、そして、この力が”調停者達”にバレれば間違いなくこの子は殺されるだろう。

 

 

”六大神”の血だけならまだ救いはあったが、大罪人の―――”八欲王”の血はまずい、やつらはその血の覚醒を許さないだろう、この事が露見すれば、この子だけではない、法国もどうなるか分からない。

 

 

「何で!?何で!?何で!?私辛かったのに!寂しかったのに!お母さんだって私の事分かってないじゃない!!」

 

 

「...貴女を守る為よ、”血の宿命”から。」

 

 

泣きじゃくり、喚き散らす子供に向かい、言葉を吐く、聞き取りやすい声で―――なだめる様な声で言葉を綴る。

 

 

「守る?意味わかんない...いみわ―――!!」

 

 

子供の癇癪は長い。口で言っても何も聞いてはくれないだろう、なので行動で示す。

 

 

なだめる為に―――ゆっくりと抱きしめる。

 

 

「お、お母さん...?」

 

 

母の温もり、感じた事のない暖かさが伝わる、でもなぜだろう?”酷く懐かしい”気がするとリーネは思う。そんな記憶”どこにもないのに”と。

 

 

徐々に泣き声が静まっていく、それを見計らって、ゆっくりと言葉を続けていく。優しい声で、子供に言い聞かせるように。

 

 

「アンティリーネ。あなたはこの力をどう思うの?どう使う?”何に”使うの?」

 

 

「えっ?そ、それは。」

 

 

母からの急な質問に、答えを返そうと口を開くが、言葉に詰まる。力の使い道、ついこの前までは大した力を持っていなかった自分が、簡単に答えられるような質問ではない。悩んでいると、母が喋りかけてきた、答えを教えてくれるのだろう。

 

 

「それは戦争よ。亜人達とのね...それは終わる事のない地獄よ。」

 

 

「は...?せんそー...?」

 

 

「そうよ。人は―――人間は追い詰められているの。このままでは滅んでしまうかもしれない。戦って勝ち取らなければならないのよ。未来を。」

 

 

答えを聞き絶句する。話のスケールが大きすぎるからだ、そんな事思った事も無い、確かに、モンスターなどの被害は少なからず出ているだろう。それでも、”法国の軍隊”がどうにかしてくれているとナズルから聞いた事があった、それなのに急に滅ぶなど言われても理解が追いつかない、だって、”ここは”、”法都”は―――

 

 

―――”平和”そのものじゃないか。

 

 

「だからその力は確実に欲しがられる。そして”人類救済”と言う名の”鎖”に囚われ、永劫の戦いに身を投じなければならないのよ。」

 

 

優しく優しく耳元で綴られる言葉。高ぶっていた感情が落ち着きを取り戻していく。背中が撫でられる感触が伝わってくる。さすってくれているのであろう。言葉はまだ続く。

 

 

「私は...”お母さん”はずっとそうやって戦ってきたの。私が人類の”守護者”だと、人類を守ると。でもそれは―――終わらない地獄なの。」

 

 

「え...?え...?」

 

 

初めて聞く話だ、そして驚愕の事実。母が背負っていた物の大きさが言葉として圧し掛かかってくる。それがどれほど重い物かは子供のリーネには分からない。そして思い出されるモモンガの言葉―――大人は自分の事は語らない。

 

 

「あなたに同じ道は歩ませない!絶対に!戦う必要はないの、私が戦う!私が人類を―――あなたを守るわ!だから―――」

 

 

「意味わかんない。」

 

 

「えっ?」

 

 

「意味わかんない!そんなに辛いならお母さん一人で戦う必要ないじゃん!私も戦う!一緒に守るもん!」

 

 

今度は母が絶句する。そうさせたくないと言っているのに話が全く伝わっていない。

 

 

「い、いや...アンティリーネ。あのね―――」

 

 

「いやいやいや!もう決めたもん!私も戦う!だからずっとお母さんといるもん!」

 

 

放たれ続ける一方的な言葉。聞く耳持たないとは正にこの事であろう。これぞ子供。理不尽の塊である。

 

 

このガキがぁ―――次第にファーインの額に青筋が経ってくる。そして

 

 

「いい加減にしなさい!我儘ばかり言って!その力は危険なの!”竜王”達に知れたらあなたの身が危険なの!いう事聞きなさい!」

 

 

「我儘ばかり言うのお母さんじゃん!勝手に決めるし!私の事だもん!だいたい竜王って何!?そんなの聞いて無いもん!どこの”トカゲ”さんなの?ぶっ飛ばすから大丈夫よ!」

 

 

「できるわけないでしょ!だいたい―――」

 

 

「―――――!!」

 

 

屋敷の庭に罵声が飛び交う。後方でずっと二人を見守っていたナズルがその光景を見ながら呆然と立ち尽くしている。初めは圧倒された。アンティリーネの自分の気持ちをぶつける様に。ファーインの血を吐く程の決意に。

 

 

そして気づく。状況の変化に―――

 

 

―――あれ?これただの”親子喧嘩”じゃね?っと

 

 

「信じられないわ!本当に!誰に似たのかしらこの分からん坊わ!」

 

 

「お母さんでしょ!?お母さんああ言えばこう言うもん!!」

 

 

「それはあなたの事でしょうが!!」

 

 

「お二人共!落ち着いて下さい!」

 

 

その言葉を聞き二人が言葉を止めナズルに対して振り向く。ギロリという風に神人級二人に睨みつけられるが恐怖はない、今なら止められる、この空気ならとナズルは思う。

 

 

「そのまま言っても平行線です。答えは出ないでしょう。ファーイン様はお嬢様と一緒に居たいのですか?」

 

 

「...急に何を言うの?...居たいに...決まってるでしょ?でもそれはできない...法国の闇に囚われてしまうわ。貴女も良く分かるでしょ?」

 

 

娘と一緒に居たい、それは母親としては当然の言葉だ。そして続く言葉。お前なら―――漆黒聖典なら分かるだろうと。

 

 

「お嬢様も一緒ですよね?」

 

 

「当たり前じゃん!そう言ってるじゃん!出てけって言っても出て行ってあげないんだから!」

 

 

二人の睨み合いが―――口喧嘩がまた始まる。

 

 

そしてナズルは思う。あぁ本当に―――そっくりだと。

 

 

「よし!私はいい事を思い付きました!とりあえずお昼にしましょう!」

 

 

「...何を言っているの?貴女?頭でもいかれたのかしら?」

 

 

「これは手厳しいですねファーイン様。しかしご覧になってください。」

 

 

ナズルにそう言われ隣を振り向く。そこにあったのは目をキラキラさせながら。お昼ご飯?お母さんと~?とご機嫌になっている自分の娘の姿があった。

 

 

―――あぁ。本当に。子供は勝手だ。言いたい事だけ言って有無を言わさず話をやめる。

 

 

ご機嫌な蝶になったリーネが母に話しかける。

 

 

「ねぇねぇ。お母さんとご飯楽しみ!お母さんも楽しみでしょ?」

 

 

―――あぁ。本当に。子供は卑怯だ。人の心にズカズカ入り込んでくる。

 

 

「はぁ...えぇ、そうね...楽しみだわ。」

 

 

でしょ~っと言い喜んでいる様を見ながらファーインの毒気が全て抜かれていく。今まで言い合っていたのが馬鹿らしく感じてしまう、あぁ、本当に、子供は―――

 

 

―――自分の娘はこんなにも、可愛いと。

 

 

「ファーイン様。お許しください。貴女様の気持ちお気づきできませんでした。罰は―――」

 

 

「もう良いわ。気づかれても困りましたしね。けれど、私はあの子を戦争の道具にはさせないわ。その気持ちは変わらない。」

 

 

「その気持ちは私も同じです。ゆっくり時間をかけてお話すればよろしいかと。」

 

 

そんな時間あるのかしらね。ファーインとナズルが二人で話し合っているとリーネがこちらをじっと見ていた。

 

 

「?どうされました?お嬢様?」

 

 

「私!お母さんの料理食べてみたい!」

 

 

―――爆弾投下

 

 

「はっ?えっ!?無理よ!料理なんかした事ないわ!」

 

 

「それはいい案です!お嬢様!せっかくだから大好物のオムレツを作ってもらいましょう!」

 

 

オムレツ!!?卵すら割ったことがない自分にオムレツ!?途轍もない提案が目の前の女から飛び出してくる。目の前にいる存在の姿が恐ろしいドラゴンに、いや竜王に見えてきた。ナズルとはこれほど恐ろしい存在だったのかとファーインが戦慄している。

 

 

やった~!オッムレツ!オッムレツとリーネがはしゃいでいる。どうやら決定事項のようだ。

 

 

「~~~――!!...あぁ、もう...知らないわよ!本当に!」

 

 

そう言うと二人は笑った。満面の笑みで。そして屋敷に三人で戻り出す。ゆっくりと歩を進めていく、その姿は正に―――家族そのものであった。

 

 

お昼ご飯に出てきた母の手料理は、それは酷い有様だった、形は崩れ所々焦げている。リーネはそれをゆっくりと口に矛んでいく、涙が零れた―――美味しいと―――今まで食べたどんな料理より美味しいと。

 

 

二人が慌てている。それでもリーネは食べるのをやめない。ゆっくりと、ゆっくりと噛みしめる。母の手料理を―――私たちは今、本当の家族に―――

 

 

―――親子になれた

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ。お母さんも一緒に寝よ?」

 

 

ここはリーネの部屋。気づけば外は暗い。長い一日も終わりを迎えようとしているのであろう。部屋にはベッドに入り就寝準備をしているリーネとその隣で椅子に腰かけるファーインの姿が見てとれた。

 

 

「駄目です。そこまで子供じゃないでしょ?一人で寝るのよ。」

 

 

「え~。だってお母さんとお休みしたことないもん。」

 

 

ぐちぐちと甘えてくる自分の娘にたいしファーインは思う。甘えが板についてきている。ここは少し突き放さねばならないっと。

 

 

「駄目です。それに昔、貴女が小さい頃いつも一緒に寝てたのよ?」

 

 

「?そうなの?知らなかった。」

 

 

「覚えてはいないでしょうね。小さかったもの。よく歌を歌って上げてたわ。貴女は寝つきが悪くてね。一時間でも二時間でも寝付かなかったんだから。」

 

 

えぇ?そうなの?とリーネが驚きの言葉を口にする。自分は寝つきが良い方だと思っていたからだ。そして母に話かける。

 

 

「ねぇ。ねぇ。その歌歌って。良い子に寝るから。」

 

 

「はぁ。余計な事いうんじゃなかったわね...いいわよ。歌ってあげるわ。」

 

 

目の前では娘が喜びの言葉を口にしている。そしてファーインは歌いだす。綺麗な声で。寝かしつけるように。

 

 

自分の好きな歌を―――自分の歩んだ道のような歌を。

 

 

 

 

 

―――破滅さえ厭わないで―――

 

 

 

 

人は一体どこへ向かうのだろうか?希望か―――

 

 

―――絶望か。

 

 

 

 

 

―――ねぇまだこの手に残る欠片だって貴女のもの―――

 

 

 

 

 

この力は私の物?それとも神々の物?答えはいまだに出ない。

 

 

 

 

 

―――何もかも失くしても捧げる物が在るの 未来だって命でさえ―――

 

 

 

 

 

全て捧げた、戦う為に、人類の為に、そして失くした自分の未来を。

 

 

 

 

 

―――焼け尽きた感情も 不毛な祈りも 縋る無様も 貢ぐ愚かも―――

 

 

 

 

 

感情は焼け切った、縋り、そして祈った、救済を、どれだけ祈れば―――

 

 

―――天に届く?

 

 

 

 

 

―――病んだ声も 穢れた両手も 傷で裂かれた心も―――

 

 

 

 

 

この手は血に濡れた、心も裂かれた、それでも―――

 

 

―――アンティリーネ貴女に出会えた。

 

 

運命は不思議なものだ、錆びついて止まっていた自分の世界、それに色を付け、朝を告げてくれた―――

 

 

―――鮮やかな朝を。

 

 

 

 

歌は続いていく―――そして。

 

 

「あら...もう寝たの?」

 

 

目の前にはすやすや眠る我が子、歌はまだ途中なのだけど。そうファーインは呟きリーネのデコを擦る。

 

 

「寝つき...良くなったのね。」

 

 

そして歌を―――続きの歌詞を綴る。

 

 

 

 

 

―――もう貴女しか見えない―――

 

 

 

 

 

アンティリーネ、貴女には、血に縛られる姿は似合わない、貴女は自由よ。

 

 

 

 

 

その自由という翼で―――

 

 

 

 

 

―――貴女の”空”をおいきなさい。




リーネ「ねぇお母さん。なんでお母さんはこの歌知ってるの?」

ファーインママ「それはね。ちひろさんに聞いて見なさい。」

白金の鎧を着たちひろ 「私が!世界を作る!」

リーネ 「ねぇお母さん。この人これ言えば良いと思ってるよ。」


※歌詞の引用があったので楽曲コードを使用しております。


どうもちひろです。

今回は捏造オンパレードだったと思います。しかし、実際この大陸の人間達は少々詰んでるとちひろは思っています。その感想がこの終わらない戦いです。法国が居なかったらマジで瞬獄殺だと思ってます。

ママの気持ちとかは捏造...いや、あえてこう言いましょう、妄想です。絶死さんは余りにも救いがありませんでした、妄想の中でくらい救われても良いと思います。

ママ心変わり早すぎじゃないと思うかもしれませんが、レエブンパパですら指握られただけで頭ぱっぱらぱーなったし、女親のママならもっとぱっぱらぱーなる筈です。なるんです!

このSSでは、神人は六大神ならグレーゾーン、八欲王ならレッドゾーンです。六大神ならやりすぎなければ許すよ、世界ぐちゃぐちゃにしたら殺すよ、見たいな感じで考えてます。八欲王なら、あちゃ~、あぁ~もう、アウト☆君アウト☆みたいな感じです。

最後に今回はママにHYDRAを歌わせたいだけの回でした。著作権とか大丈夫なの?って思ってたらガイドラインにあったのでどうにかできました。多分きちんとできたと思います。

今回も最後まで読んでくれてありがとう。また読んでくださいね。

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