あんてぃりーねのゆぐどらしる☆だい☆ぼう☆けん☆ ~泣き虫が伝説になるまで~ 作:だいだろすちひろ
課金楽しすぎワロタwww
※web版でちょびっとだけ登場したクラス名を使用しております。
詳細な内容も良く分からないので、オリジナルクラスとして使用させていただきました。
※今回のお話は非常に長いです。
申し訳ありませんm(_ _)m
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空を見上げれば、薄暗い雲に覆われ日の光を拝む事は出来ない。周囲に目を向ければ、辺りもその雲と似た様に薄暗く、気持ちも同じ様に沈んで行ってしまいそうだ。
そんな風景の中に佇む、古めのアパートに、コツコツと足音が鳴り響く、足音は少しの間続き、ある場所で唐突に音を止める。
音が止んだ場所には古びた扉、そして、その扉の前に佇む一人の人間の姿が目に入る。
甲高い悲鳴の様な音を立てて分厚い扉が開いていく。恐らくこの音は、金具が歪んでしまっている為だろう。
陰気な異音が鳴り響く―――帰宅を祝う様にして。
アパートの中に入れば、人感知システムにより、天井に明かりが灯っていく、中はそれなりに清掃が行き届いていて綺麗な物だ。家具などは少なく、必要最低限と言う言葉が相応しいかも知れない。見方によっては質素とも映るかも知れない。
「たく、今日は本当は休みの筈だったろ。只でさえ少ない休日を...。」
部屋の中で一人の男が不満を口にしている。しかし、その声は非常に聞き取り辛い声だ、籠っているかの様な、何かに覆われているかの様な声に聞こえる。
それもその筈、男の口にはガスマスクが付けられており、口部全てを覆っている。声の進行方向に障害物があるのだ。これが先程の聞き取り辛い声の理由であろう。
不満を口にした後、男がマスクを右手で掴み取り外す、その後は左手で目部に取り付けられていたゴーグルも取り外していく。そして、その二つを優しく―――慎重に―――目の前の机にそっと並べて置いた。
この二つはそれなりに貴重品である、壊れては大変な為、丁寧に扱っていく。
「さてっと、準備でもするか、せっかくの連休だったがしょうがない。一応明日も休みだしな。」
服を脱ぎ棄て、ラフな格好に変貌を遂げた男、鈴木悟がそう言葉を吐いていく。その声には先程の不満を塗りつぶすかの様な、少しの喜びの感情が含まれているかの様に感じられた。
汚れた体を濡れタオルで拭いながら、この後の事を考える、そうして、感情が少しづつ大きな物になっていく。そう、今からの時間こそが彼にとっての楽しみな時間、至福の時なのだから。
体を拭い終わった後、黒ずんだタオルを壁に掛け、一目散に椅子に身を放り出す。この部屋の中では恐らく一番高級な物品だ、強めに座ったが大きな音を立てる事はない。
そして椅子に座った後、すぐに右手で二又のコードを手に取り、それを自らの首の後ろ―――後頭部付近に差し込んでいく、慣れた手つきで。
「よし、それじゃあ行きますか!」
その言葉と共にヘルメットを被り、視界が変貌を遂げていく、目の前には様々な映像が映し出されていく、そしてその中の一つの項目にタッチした。先程までの暗い雰囲気はもうそこには無い、キラキラと少年の様な目をしながら、鈴木悟が一つの世界へと旅立つ。彼にとっての本当の時間が今から始まるのだ。そのタッチされたウィンドウにはこう文字が映し出されていた。
―――【YGGDRASIL】―――
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視界が変わる、目の前に映し出される映像はいつもの見慣れた風景、クランの集合場所だ。そしてすぐに三人の人物が目に入ってきた。
「おはようございます...っと、もう良い時間だった、こんばんわですね。エンシェント・ワンさん、あまのまひとつさん、リーネ。」
INしてすぐに、いつも通りの挨拶を、鈴木悟―――モモンガが簡単に済ませる。挨拶を貰った三人からも口々に、こんばんわと挨拶が返ってきた。
自分が思っていた以上に少ない様だ、他のメンバーはこの後やってくるのだろうか?それとも、もう帰った後?そう思っていると、三人のメンバーの雰囲気が少し真剣な事にモモンガが気づく、何かの会議中だったのか?と思い、疑問をモモンガが問い掛けていった。
「やけに静かですね?何かの会議中でしたか?」
「ん?あぁ、会議って程のもんじゃないですよ。リーネが新しいクラスの実験をしてたみたいでですね、その話を聞いてた所です。」
「それに伴ってなんか色々あったみたいだよ、モモンガさん。いや、ホント、ユグドラシルは広いわ。」
「?」
邪魔をしてしまったのではないかとモモンガが少し決まずそうな声音を出したが、それに対し二人のメンバーが、軽い口調で言葉を返して言っている。
前者がエンシェント・ワン―――頭部には真っ黒な笠を被り、その笠の周囲が細長いお札で覆われている、顔正面のお札だけが異様に長く、胸元まで垂れる程だ。
その白い札には金色の文字で呪印の様な物が敷き詰められていて、胴体はスタイルを強調するかの様にフィットした光沢のあるエナメル製の生地でできた黒いノースリーブを着用しており、盛り上がった胸部と腹部の六つの小山が自らの存在を強烈に主張している。
露出された手には前腕部付近まで覆う、皮の禍々しいグローブを付け、下半身は黒に金の刺繍が施された袴を履いており、草鞋を着用している。
【妖術師】のクラスを収める人物であり、種族は【霊幻道志】と呼ばれる、アンデッド系統の種族だ。
後者があまのまひとつ―――体全体をゴツゴツとした黄色い甲殻で覆われており、人間大の二つの手に加え、両の肩口から大きなハサミの形をした手が生えている。一言で表すなら二足歩行のカニだ。
【生産系】のクラスを収める人物であり、クランのアイテム制作を引き受けている。その為、戦闘は余り得意ではないが、できなくはない。いつか生産職で固めたいと言葉を漏らす人物だ。
「そうよ、モモンガさん、色々あったのよ...色々とね。」
二人の言葉の後すぐに話題の人物、リーネが、おもむろに椅子から立ち上がる。そして右手で髪を掻き上げながら遠くを見つめ喋り出した。ナルシスト風な仕草と言動に、若干イラっときたモモンガだが、内容も気になるのでその色々の詳細を訪ねる。
「へぇ、じゃあ取りあえずクラスから聞こうか?何取ったんだ?」
今回は結構迷走したみたいだな、と言うモモンガに対して、その言葉を聞き、リーナがまたもや気取った仕草を見せる。メンドクサいから早く言って欲しいと思っていると。
「それは【ベルセルク】よ!」
「...あっ、そうなんだ。ふぅん。」
「何よぉ!適当に流さないでくれない!?」
【ベルセルク】はステータス上昇値も高く、スキル保有数も多い、一見非常に優秀なクラスに思えるが、余り人気は無い、理由は複数あるが、一つは、その保有するスキルが少し癖が強いのだ。有名なスキルに狂戦士状態というスキルが有り、これは物理攻撃力が大幅に上昇する代わりに、防御力―――物理カット率も同じだけ下がると言う諸刃の剣的要素が含まれている。
似たようなスキルに血の狂乱という物があるが、あれよりは発動に至る為の条件が無い分、使いやすいと言えるかも知れないが、カット率低下と言うデメリットがある分一概にどちらがいいとは言えないかも知れない。
この様に、売りであるスキルの扱いが非常に難しいと言うのが難点である、そしてもう一つが下積みが非常に邪魔と言う点にある、下積みを積み、LVを圧迫した結果、派生クラスに有用そうな物はベルセルク位だろう、中にはペナルティを受けるクラスも混じっている以上、このクラスの為だけにLVを割くのか?という疑問が出てくるからだ。
この二つの事から、評価を下すなら微妙といった所か、しかし、ある一定のプレイヤーには妙に人気のクラスだったりする。
そのプレイヤー達は皆一様に黒い甲冑に身を包み、漆黒のマントをたなびかせながら巨大なグレートソードを振り回しているのだが...あれは一体何なのだろうか?
「いや、何とも言えなかったからついな、下積みが厄介じゃなかったか?」
「う~ん、まぁでも、私人間種だし、種族LV無い分、多少の下積みは仕方ないかなって思えちゃうのよね、派生クラスが全くない訳じゃないし、何よりちょっと尖ったクラスに興味もあったの、ベルセルク単品で取れれば破格なんだろうけどね。」
「それはあんまりだろ。」
単品と言う言葉にモモンガが素早くツッコミを入れていく、それはあんまりだと―――モモンガとて、そんな事が可能であるならば欲しいクラスはゴロゴロある。
下積みという面倒でLVの圧迫を行う行為無しで取得出来れば確かにそれは破格だろう。特にベルセルクは下積みしてまで欲しいかと言われれば微妙だ。
ユグドラシルはLVの上限が定められているゲームである、上限がある以上、限られた数字の中でクラスを積み重ねていくしかない。その関係上、下積みと言うのは非常に邪魔になる、異業種には特にだ。
だからこそ、有用な上位クラスを見据えた後に、下位の―――下積みのクラスの有用性を吟味し、それを踏まえた上で、先を見据え、見合ったものかを天秤に掛けていく必要がある。
どのクラスも、メリットとデメリットは存在している。それを組み合わせ、調整していかなければならない、どちらに大きく振れるのかを。それがユグドラシルの常識であり、だからこそ、ユグドラシルは楽しいのだ。
「お前なぁ、人間種の癖に贅沢だぞ?こっちは種族LVだけで40LV使ってんだからな。」
「何よぉ、本気で言ってないわよ、下積み無視なんて出来たら滅茶苦茶になっちゃうもんね。私だってそんなの嫌よ、それもうクソゲーじゃん。」
「まぁまぁ、二人共、そこまでで良くないですか?あまのまさんも言ってたじゃないですか、なんか色々あったらしいですよ?」
なぁ、リーネ?とワンが札で隠れた顔をリーネに向けて喋りかける。その瞬間言葉が止み、雰囲気が変わっていく。
「そうなのよ、モモンガさん、朝からとんでもない経験したわ...まぁ、そのおかげで色々と反省したと言うか、鼻をへし折られたと言うか...。」
ゆっくりと元居た席に座り、静かに語りだす。反省と言う言葉を聞きモモンガの中に浮かんだのはPK関連の事だ、最近は調子に乗り、徐々にエスカレートしていた行動に対し何も思わなかった訳ではない、しかし、自分達だってたまにはそういう事もするし、ユグドラシルはPKを強く推奨しているゲームでもある為、余り強く咎める事は出来なかった。
「PKでもされたのか?だったら...報復しに行くか?いや、反省したと言ってる位だ、その気はないと言う事か。」
自分のこう言う所が駄目なのだろうなとモモンガは思っていく、こうやって直ぐに自分達がやり返しに行くから、コイツがどんどん調子に乗っていくのだろうと。
そう心の中では分かってはいるが、やめられない、なんだかんだモモンガはリーネの事が可愛いのだ、恐らく他のメンツも一緒だろう、だからこそ守ってあげてしまう。最近では報復される事も少なくなってきていた、リーネは自分が怖いから報復が来ないと勘違いしているみたいだが、それは違う、周りが怖がってやり返しに来ないのはたっち・みーが居るからだ。
「うん、その気はないよ、モモンガさん達に守ってもらってばかりじゃ駄目だもんね。」
「凄いな、お前がそんな事を言うとは、俺は夢でも見ているのだろうか...益々その色々が気になって来たな。」
「酷くない、その言い方...うん、そうね、どこから話したらいいのかな?取り合えずは今日、私はヘルヘイムの死の山脈付近で皆が集まるまでの暇つぶしをしてたわけ、ついでに最近取得したベルセルクの使用感も試したかったからね、そしたら異業種狩りを発見しちゃって、助けに行ったの、それで―――」
♦
「いや~、お嬢ちゃんありがとう。ホント助かったよ、まさかここで襲われるとは思わなんだ。」
「いえいえ、お礼を言われる程の事じゃないですよ。虐める方が悪いんですから。」
お嬢ちゃん異業種の間で評判いいよ。そう助けられた存在―――異業種―――が感謝の気持ちを表してきている。自分は結構酷い事もしているし、そんなに褒められてもな、と思うが言葉には出したりはしない。感謝の言葉は素直に受け取るべきだ。
「それじゃあ、気を付けて下さいね。道中まだ馬鹿な人間種がいるかもですから。」
ありがとね~と、再度、異業種がお礼を言い、手を振りながら帰っていく。最近は少し減ってきたが、まだまだ異業種への風当たりは強い様だ。
「私って本当、異業種贔屓よね...現実に戻った時は気を付けた方が良さそうね、普通に話しかけちゃいそう。」
初めてユグドラシルにやってきた時、助けてくれたのは異業種の二人だった、そして現在は異業種の集団の一員であるのだから、贔屓しても当然かもしれない。
しかし、現実は違う、異業種は人類の敵であり、戦うべき相手だ。ユグドラシルの様なゲームと―――プレイヤー達とは違うのだから。
助けた異業種が帰るのを最後まで見送った後に、やって来たのは退屈である。元々暇つぶしでこの辺りをうろついていたのだ、PKも終了した以上、退屈が再度押し寄せてきても何も不思議はないだろう。
リーネは辺りを見渡す、折角この辺りまでやって来たのだから、何か―――そう何か有意義な時間にしたいと思う。この辺りには確かミドガルズオルムの中位種が生息していたのではなかっただろうか。
目の前の山脈を登っていけば更に上位種もいるのだが、今の自分のLVはかなり低い、装備は現状、自分の持つ最高級品であるが、それを踏まえても、一人ではキツイと思われた。
しかし、中位種くらいなら自分一人でもどうにか戦えるし、何より猛毒の牙と蛇頭骨が欲しい。この二つは非常に優秀な―――状態異常付与の―――消費系アイテムが制作できるからである。在庫も残り少なくなってきている、生息域に侵入している以上、狩って帰るのも一つの手だと―――が。
(静かね...、モンスターの気配が全然ない。POPしてない?そんな事あるのかな?)
不気味な程に静かなフィールドを見渡し、リーネが思う。
確かに、ここら一帯はPOP率もそれほど高くなく、狩場としては優良地帯とは言えないだろうが、これは流石に異常だ。思い浮かぶのは先程のプレイヤー達―――異業種、人間種、両方―――彼らが狩りつくしたと言うのであれば話も分かるが、恐らくその可能性は低いと考える。異業種は人間種にPKされかけていた、どちらもその様な暇は無かったであろう。
疑問が後から次々と沸いてくる、やはりPOP率の問題だろうか?バグで一時的にPOPしなくなっていると言う線も考えられる。しばらく思案した後に、離れた場所も探索してみようと思い歩を進めだした。もしかすると、どこか一塊に―――集中的にPOPしている可能性もあるからだ、POP数が限られている以上、そうなれば、狩って再沸きさせない限りは広範囲にPOPする事は無いであろう。
周囲を警戒しながら、リーネが歩を進めていく、急に沸かれては堪った物ではないからだ、今日の装備は自分の持つ装備では最高級品なのだから。デスペナはまだいいが装備全ロスなど流石に笑えない、課金外装に課金素材まで使用しているのだから。
そう思いながら周囲を見渡していると。
(ん~?あれは、人間種?まだ他にもいたの?)
前方から視覚に映し出される人影、気づいてからは早かった、瞬時に【
息を潜め、静かに目を見やる、そして、徐々に姿が近づいてくる。、
異様な存在だった、金髪の長身の―――恐らく女性プレイヤーであろうか、まだ少し遠い為に詳細な姿は分からない。しかしそれでも、遠目でも分かる程の異様さ―――特徴が見てとれる、それは左右の手に持つ大きな盾だ。
異様な―――歪な形をしている、まるで大きな盾が真ん中から切断されたような形、それを左右の手に持っている。間違いなく前衛のタンク職だろう。
リーネが潜みながら考えている間にも、そのプレイヤーはゆっくりとこちらの方向に歩んできている。そこには、気づかれている気配は見てとれない。
(凄い盾...あれ間違いなく高級品よね?...もしかして
手に持つ盾と比べて明らかに劣る他の装備、特に鎧などは露骨に質が低そうだ、
そして、思案し続けていたリーネの頭の中に、ある一つの言葉が浮かんだ―――
―――あの盾が欲しいと貰おうと。
その極悪な考えに至ってから、即座に課金アイテムを用いて相手のLVを図っていく、消費系である為、少し勿体ないが、魔法や看破スキルを使えないので致し方無い、それに、相手の身なりを見る限り、探知される可能性は極めて低いと思われるが、こちらの方が確実だからと言うのもある。
(ん~?おっ、ラッキー、私より1LV低いじゃない♪ごめんなさいね~♪でも人間種がヘルヘイムに来るのが悪いんだし、しょうがないよね♪私達だって他のワールド行けば条件一緒だし、まっ、関係なく行ってるけど、だから自殺点なんて名乗ってるのよね。)
リーネの言っている事は、ある意味正しい、他の―――人間種が跋扈するワールドに行けば今度は自分達が狩られる番なのだから、人間種に異業種が目の敵にされている様に、異業種の巣窟に人間種一人で来る方が悪いのだと。
考え事をしている間に、盾の女がすぐそこまで近づいている、その姿を見つめながら、もしもの時の為に、様々なアイテムを、即座に出せる様に課金アイテムに登録していく。
そして、盾の女が射程圏内に入った。
(さようなら♪盾の人♪装備ありがとね~♪)
その瞬間、リーネの雰囲気が豹変した、野生の生物が獲物を見据えた時のような、獰猛な気配を―――殺気を身に纏い、前傾に尖らせた姿勢で、まるでミサイルの様に飛び出していく。
その視線の先―――狙いは人間種のクリティカル部分である首だ。一撃で葬れなくとも、首への攻撃により様々な状態異常が付与されるだろう。最強に思える人間種だが、肉体は脆弱なのだ、それが人間種の最大の穴であり、弱点なのだから。
状態異常の耐性を保有している可能性もあるが、全ての対策は出来はしない以上クリティカル部分を狙うのはセオリーだろう。
突如現れた存在に、盾の女が気づくのが目に入ってくる、そして盾で防ごうと右肩が上がる―――しかし、もう遅い。
(捉えたわ!最高のタイミング!ここからの回避は不可能よ、盾の人―――)
―――【右頸部への突き刺し】―――
完璧なタイミングで寸分の狂い無く繰り出された、ショートソードによる右刺突、それは対象に接触し、けたたましい金属音を上げた、そう―――
―――金属音を上げた。
(...は?ガキン?)
目に映るのはショートソードの刀身、それは綺麗に前方に伸び、間違いなく盾の女の頸部に突き刺さっている、そう、突き刺さっている筈だ。言い知れぬ恐怖が全身を駆け巡っていく、思考が瞬時に回転し、そして結論付ける―――異常事態だと。
態勢を整えるべくたたらを踏んで後方に飛びのこうとする―――が。
(~~~―――!!剣が、抜けない!どういう事!!?)
突き刺さった刀身が引き抜けない、混乱が渦を巻く、そして気づく、相手の―――盾の女の姿勢に―――
右肩が―――鎧部が上部に上がっている。
右顎部が―――額当て部が下部に下がっている。
刀身平部が―――先端部が挟まれている。
(~~~―――!!ありえない!!コイツ―――)
右肩―――鎧の突起部辺りと、右顎部―――額当ての顎部を使用し、刺突を頸部到達寸前に挟み込み―――受け止めた。
(まずい!!離れないと!でも剣が抜けない、どれだけ力のステータス高いのよ!!)
剣を引き抜こうと躍起になっていると―――声が聞こえてきた、非常に綺麗な声が。
「あら?なんの用かしら―――」
―――お嬢ちゃん。
言葉が終わった瞬間、衝撃が走る、それも途轍もない衝撃が。衝撃と共に腹部辺りが軋みを上げ―――
―――リーネの体が後方に吹き飛んだ。
♦
ギュラ、ギュラ、後方に吹き飛ばされ、一転、二転と転がる。
ギュラ、ギュラ、三転、四転、受け身を取れず転がり続け―――付近の岩場に激突した。
衝突のお陰で体が前方を向き直した、これは運が良かっただけではあるが、それでも、運も実力の内と言う言葉もある。この機を逃すリーネではない―――だが。
(!!?視界が―――視界モニターがぼやける!まずい、殴打による意識の朦朧!)
強烈な腹部への打撃―――殴打により、めまいのバッドステータスの付与、それに伴う視覚阻害、続いて思考が新たなる命令を体に下す、他の部位の確認をせよと。
(~~~―――!!手が、動きが鈍い!まずい、殴打の影響が四肢にまで―――)
これが、人間種の最大のデメリット、肉体の部位による、殴打、斬撃、炎症、凍結、様々な要素が重なり、複数のバッドステータスが付与される。これを全て対策する事は不可能だ。アイテムやクラスによる耐性を確保できたとしても全ては賄えない。
これがもし、現実の世界なら強烈な痛みにより失神しているかも知れないだろう。幸いユグドラシルにはそこまでの状態異常は存在してはいない。
目の前には右足を正面に突き出している盾の女の姿がぼやけながらも映されている、恐らく前蹴りを食らったのだろう。HPゲージを見てみるとそれなりの減少が起きている、そして思う、蹴り一発でこれかと。
(クリティカルを貰った!!糞!武器は―――ある!まだ戦える!)
右手にはショートソードの姿が目に映る、離さなかったのは奇跡だ、万全の状態ではないが、武器があるならまだ戦える、集中力を高め、追撃に備える、来るなら来い、全部捌ききってやると思っていると。
(...なんで?追撃が来ない?)
盾の女は追撃をしては来ない、絶好の機会の筈だ、それなのになぜ?時間経過により徐々に視界モニターが映像を鮮明に映し出してきた。四肢の動きも正常化しつつある。追撃が来ない意味を考えていき、一つの答えに行きついた―――その瞬間、リーネが歯ぎしりする、舐められているのだ、相手は、あの女はこちらを大した脅威だと認識していない、追撃の必要などないと、そこまでの相手ではないと、存外にそう言っているのであろう。
(傲慢ね!舐めやがって!分からせてやるわ!)
時間が経過した為、状態は正常に戻った、そしてすぐに姿勢を低く丸めていく、いつもの姿勢だ、相手を一直線に見つめるがその間も相手が構える様子はない、それならばそれでいい、遠慮なく
体の内側が見えなくなるほど丸まり、そして一直線に駆け出す、先程よりも早いのでは?と思える程の速度で、そして姿勢は先程よりも低い、狙うは足部か?それとも盾の隙間―――腹部か?どちらにせよ悪手に近い行動に思えた。
自分の直線状を馬鹿正直に突っ込んでくる相手に対し、盾の女が呆れた様な雰囲気を醸し出し、叩き伏せようと行動に移ろうとした瞬間―――
―――低滑空していたリーネから、盾の隙間部に小さなボールが投げ込まれた、そしてボールが弾け、どす黒い煙幕が周囲に広まっていく。
♦
「あら?小癪ね、背後でも取るつもり?」
―――【右盾横振り】―――
右手の盾を振るい、爆風が起きる、煙幕が一瞬にして吹き飛ばされ視界が良好に戻る。
「残念だったわね、お嬢ちゃ―――」
視界に飛び込んできたのは一本の短刀、煙幕発生の瞬間投げ入れたのだろう、正確に喉元に向け投げ入れられている。タイミングは完璧だ、今回も、そして―――それすら当たらなかった。
「残念ね、お嬢ちゃん。」
軽い金属音を上げながら短刀が進行方向を変えていく、盾に方向を変えられて。振ってからでは間に合わなかったタイミングの筈であった、しかし弾かれた。
そこに目を向けて見れば、盾の角度が変わっているのが見えてくる、盾の女は振ったのではなく、当てたのだ、盾の端を。
過度に動かす必要などない、盾は顔付近まである大楯である、ほんの少し横にずらせば―――、斜めに倒せばいいだけの事だ、前腕と肩部と腰の捻り、振るには三つの動作がいるだろう。遅くて当然なのだ、それだけ多くの動作をしているのだから、だから手首のスナップだけを使えばいい、それならば一つの動作だけで済む、振り払う必要などない、ほんの少し当ててやれば軌道は変わるのだから。
そう、するべき時に、するべき事を、最小の動きで、最短を走ればいい。ただそれだけだ。
軌道を変えられた短刀が右頬を掠め斜め後方に飛んでいく、盾の女の視線は変わらない、顔をそむける必要すらないと言う事なのだろう。
奇襲は―――奇策は通用しなかった、さぁ、次はどうする?そう思い周囲を見渡す―――が、少女の姿は見えない。
(あら?居ないわね?もしかして逃げ―――)
そう思った瞬間、左足付近に人影が見える、見れば少女の左手が自分の左足を掴んでいる姿が映った。
(!足を取りに来た?切り崩すつもり?まさか、最初からこれが目的?)
低い姿勢、それは手に持ったボールを体で隠す為でも、短刀を投げ入れる為でもない、初めから足を取りに来ていたのだ、スライディングの要領で―――
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(―――って、思ってるんでしょ!)
リーネの左手が盾の女の左足を掴む、そして理解する、切り崩すのは不可能だと―――想像通りだと。
(さっきの力、明らかに特化してる、そりゃそうよね、タンクだもん、力に入念に振るのは当然よね、私の力で切り崩すのは不可能、そんなのは、分かってるわ!)
左足を掴む手に力が入る、そして態勢が回転するかの様に円を描こうとし、下半身が跳ね上がる、盾の女の左足を軸に、遠心力によって右足が弧を描き、顔面に向け振り上げられる。
―――【右足
地面擦れ擦れから上段―――盾の女の顔を目掛けて右足が迫る、狙いは顎部、人間種のウィークポイントだ、間違いなくクリティカル判定が出る、それに伴う状態異常も、狙いすました攻撃が盾の女に直撃し―――
―――またもや、金属音がなり響く。
「...う、嘘...。」
右足は直撃した―――右の大楯に、まるで動きを読んでいたかの様に最短距離を走り、当たる筈の無かった盾に衝突した。
「あら。可愛らしい声ね、ふふ、もっとおしゃべりしたらいいのに、私好きよ?あなたの声。」
怖気が走った、堪らずリーネが距離を後方に取り態勢を整えていく、その際に手足が震える様な感覚に陥る―――が、実際には震えてはいない、ユグドラシルはゲームだ、その様な感覚は搭載されてはいない。
(何なの!?コイツ!?もしかして、この辺にモンスターが居ないのってコイツが狩りつくしたから?まさか...そんな事できる筈が...ヤバい、ヤバすぎる。)
盾の女を見つめながら、頭の中で警報が鳴り響く、リーネの中の危険センサーがギュルンギュルン言い本体に伝えてくる。
逃げろと―――勝てないと。
思考を巡らせ、脳内で様々な行動を考えていくが、悉く阻まれる姿しか浮かばない。まるでたっち・みーと相対しているようだと思い―――すとんと胸に落ちてくる物が在った。たった数度の攻防、しかしその短い戦いの中で、その思いと共に、ある一つの結論が自分の中で出たのだ。
この目の前の女は、たっち・みーと同じく、”強さ”という概念において、一つの”極地”に達している存在だと―――分かってしまった、分からされてしまった。
(勝てない、どうにもできる気がしない、逃げなき―――)
逃走の二文字が脳裏を過った、そして一瞬にして膨れ上がる、怒気、これは盾の女に対してではない、逃げようとした自分に対してだ。影から奇襲し、返り討ちにされ、逃亡する、どれほど無様だろう。
そしてそれによる周りの蔑みの声、自分だけなら良い、自分だけなら我慢できる、しかしそうはならないだろう。
仲間も―――大切な仲間達も笑いものにされるだろう、所詮は異業種だと、何が自殺点だと。そんな事は言わせない、許さない。だからこそ、ここで逃走はありえないのだ。
決意を新たに勝利への道筋を模索していると―――
―――盾の女から声を掛けられた。
「ねぇ、お嬢ちゃん、お嬢ちゃん噂になってる子よね?強い仲間に囲まれて好き放題したくなる気持ちも分かるけど、もう終わりにしない?私今回の遠征で結構消耗してるのよ。HPも三割切ってるし、消費アイテムも底を付いちゃってる状態なの。お姉さん優しいのよ、怒らないから、いい子だからお家に帰ろ?ねっ?」
その言葉を聞き怒気が更に増していく、こちらを完全に舐め腐っているからだ。沸々と怒りが沸いてくるが、それと同時に、しょうがないという気持ちも沸いてきている、、それだけ実力差があるのだろう、自分は戦いの土俵にすら上がれていない気もする、だからこそ、舐められて当然だという気持ちも沸く。
そして相手の―――盾の女の言葉に対し言葉を返していく。
「あれれ~、もしかして私が怖いの?おばさん。」
言ってやった!言ってやったぞ!!その言葉を聞き盾の女の雰囲気が少し変わる。
「...あら?手癖、足癖が悪いだけじゃなくて口も悪いのね、残念だわ、じゃあ、お望み通り―――」
―――殺り合いましょう。
そう言葉を言い終わると共に、盾の女が突進してくる、しかし速度はそれほど早くはない、その代わり、タンク職特有の重量感のある力強い動きだ。
その突進を横跳びに、ひらりと回避し、攻撃の一手を取ろうとする―――しかし
「あら?上手に避けるわね、お手本みたい、そして―――安直ね。」
盾の女が言葉を発した次の瞬間、右足を地面に踏みつけた―――瞬間、地響きが鳴り響き地面が揺れる。
【
周囲の地揺れの影響で着地点に降り立ったリーネの態勢が崩れる、着地の瞬間を狙われたのだ、態勢を立て直す暇もなく、右から盾が迫って来ている―――盾で殴り飛ばす気だ。
「【水燕の歩方】!!」
ヌルリという風にリーネの体が動き、瞬間切れのある動きに変貌する、水面を飛行する燕のような切れのある動きで盾を回避していく、これはリーネが収めるクラスの一つのスキルであり武技の流水加速に少し似ている、素晴らしい回避能力を持つが一日の使用回数のある貴重なスキルだ。
「ふぅん、そう避けるのね、でも大丈夫かしら?こんな攻撃に、そんな貴重なスキルを使って、後が持つのかしらね?」
軽い言葉が聞こえてくる、相手からは余裕の色が消える気配はない―――が、そのまま油断していてもらえた方が好都合だろう。スキルによる超高速移動によって一瞬にして盾の女の背後に回り込む。
盾の女の速度では振り向き防ぐのは間に合わない、斬りつける為に踏み込み―――
「そうね、それがセオリーね、だからもう一度言うわ、安直よ。」
―――二度目の足踏みが地を揺らす、次は踏み込みを狙われた。死角からの動きに対して正確に踏み抜かれた地揺れが再度襲い掛かる。
着地の際よりも確実に地揺れの精度が上がっている様に感じられる、信じたくはないが既にタイミングを把握されつつあるのだろう、態勢の振れにより剣が空を斬っていく、そして崩れた態勢―――目線の先に盾が現れた。
―――【右盾昇打】―――
崩れた態勢により、地面を拝む筈だった自分の目線の先に突如現れる大楯。その盾が下から打ち上げられ、凄まじい衝撃と共に顔面が上方に跳ね上げられた。揺れる視界の先にはヘルヘイムの薄暗い空が垣間見える、しかし、その空すら長く拝む事は叶わない、またもや、視界一杯に大楯が姿を表した―――それは正しく盾だった、先程までの歪な盾ではなく綺麗な一つの大楯、”結合”している、”二つの盾”が、そして、それは無慈悲に打ち下ろされる。
―――【大楯振り下ろし】―――
跳ね上げられた顔面が、盾の振り下ろしによって、今度は下方に叩きつけられる、そして勢いを殺すことは叶わずにそのまま顔事、地面に激突していった。
(~~~―――!!)
奇襲は成功しなかった、そして今度はスキルを用い、正攻法で立ち向かうが通用しない、背後を取っても一撃当てる事も叶わないのだ、手も足も出ない、まるで相手になっていない。まるで予知されているかの様な、誘導されているかの様な感覚さえ覚える、スキル?反射神経?そんなチャチな物では断じてない、もっと恐ろしい物の片りんを味わったような気がした。
先程も思った事がまたもや脳裏を過る、ヤバすぎると、手を出すべきではなかったと。しかし、疑問が浮かぶ、こんな存在がユグドラシルに存在するなど自分は知らなかった、有名な奴はそれなりに頭に入っているが、こんな盾を使う人物は知らない、なぜこれ程の存在が噂にもならない、なぜ無名なのだ。
ゆっくりとリーネが立ち上がろうとしている、視界がぼやける、二度クリティカルを貰っているのだ、当然と言えるだろう、悪くなった視界の先で盾の女の大楯が二つに分かれた、状況によって結合できるのであろう。
そして―――やはり追撃は来ない。
「もういいでしょ?お嬢ちゃん、お姉さんの方が強いの。分かるよね?」
悔しい、これが現実なら涙を流しているだろう、ユグドラシルに救われた、無様をさらさずに済むのだから。そんなリーネを他所に盾の女が尚も喋り掛けてくる。
「動きが直線的で分かりやす過ぎるのよ、お嬢ちゃん、皆、強いスキルが欲しい、強い装備を作りたいとすぐ言うわ、確かにそれも重要よ、でもそれだけじゃ駄目なのよ?どんな強力なスキルや魔法でも、発動までのプロセスが―――過程が重要なのよ、安直な行動では駄目よ、今のお嬢ちゃんは力に振り回されている様に感じるもの。」
はい、優しいお姉さんからのアドバイスは終わり、授業の続きと行きましょう。と言い言葉を締めくくっていく。
過程?その言葉を聞きながら、意味を考えていく、”過程”、たまにモモンガからも言われる言葉だ。頭の中に靄が掛かりそうになり、思考を途中で放棄していく、この女相手にその様な状態で戦う事は出来ないからだ、それに、これは揺さぶりという線も考えられるからだ。
今は盾の女に集中しなければならない。
そう思った後に、HPゲージに目を見やる、現在六割と言った所か、思ったよりは多いと思い、そして思い出していく、LV差補正が掛かっているのだろう、リーネの方が盾の女よりLVが高いのだから。LVの差はたった1であるがこのゲーム―――ユグドラシルに置いてその意味は大きい。
(無様ね、私。LVが下の相手にボコボコにされて―――でも、逃げないわよ!)
盾の女は喋り終わった後も優雅に立っている。状態が回復するまで待ってくれているのだろうとリーネは思う。優しい女だ、しかしその優しさがこの女の弱点だとも思う。
(お優しい女ね!遠慮なく休ませて貰うわよ。)
視界が正常に戻っていく、それと同時に右肩を軽く回した、問題ない回復した。目の前では盾の女が、もういいの?と聞いてくる。
「うん、もういいわよ、おばさん。」
「もう、また言う、本当に口が悪いわね―――っと。ふふ、全く理解してないじゃない、話聞いてたのかな?」
会話の刹那の横薙ぎ、剣は盾に阻まれ通らない、そして金属音が鳴り響いた瞬間、盾が光り輝き、甲高い音と共に衝撃波が襲ってくる。
(これは!【
リーネが衝撃波に巻き込まれ吹き飛ばされた、衝撃波によるダメージはそれ程は入ってはいない、そう―――先程の衝撃の分は。
(!追加の...属性ダメージ!これは...神聖属性!?【
先程の正統派な姿からは思っても見なかったスキルと属性のコンボ、このようないやらしい戦法を取ってくる人物とは思ってはいなかった、いや、思わされていたのか?幅が広すぎる、対策が纏まらない。
(それでも...殴打よりマシね!これならいける!)
行動阻害も何もない、追加ダメージは痛いが、逆を言えばそれだけだ、攻撃を続行しようと、スキルを使用し、速度によるかく乱を行いながら盾の女に接近していく、そして攻撃に移ろうと、右足を踏み込みかけたが―――盾の女の右足が少し構えたのが目に飛び込んできた。
(何度も同じ手を食うわけないでしょ!タイミングはもう分かった!)
瞬間、動きを止める、攻撃は―――踏み込みは行われない。盾の女の右足が地面を踏み付ける、地揺れが発生する瞬間を見計らったリーネが前方に飛び上がる。
そして、地揺れが発生する―――かに思われたが、地揺れは起きなかった、代わりに地面が変貌を遂げ、土の塊が土柱の様に伸びてき、リーネの腹部に直撃していった。
―――【大地の柱】―――
同じタイミング、同じモーションで繰り出されたスキルによって、リーネの体が後方に吹き飛んでいく。
「駄目駄目、全然駄目よ、お嬢ちゃん、二回見せたのよ?何度も同じ手を使う訳がないでしょ?」
刷り込まれていた―――地揺れの脅威を、足踏みに警戒心を抱かせ、地揺れが確定事項であるかの様に思わされていた。技術だけではない、この女は戦略も特級だ。
吹き飛んだ先で指を、コキコキと鳴らす、問題ない、動く。瞬時に思考を切り替え、攻撃に転じようと臨戦態勢に入ろうとし、盾の女が指を鳴らしているのが目に入る―――そして、ゾワリと悪寒が走る、何かは分からない、しかし不味い気がする、気がするだけだが、この感覚は無視できない、未だかつてない程、研ぎ澄まされた感覚が警報を鳴らす。
後方に―――下がれと。
「アァァァーーー!!」
雄たけびを上げ、臨戦態勢に入りそうだった体を無理やり動かす、そして後方に飛び退き、後退していった。その瞬間―――上空から鉄の塊が落ちてくる、重量感を感じさせる、鈍く低い音を立てながら、鉄の塊がリーネの元居た場所に降ってき、地面に激突する。
「そうそう、それでいいのよ、お嬢ちゃん、行動を無駄にしては駄目なのよ、だから一つの行動の後には繋ぎが来ると思いなさい、だから...まだ、油断しちゃ駄目だからね?」
その言葉を聞き、前方の鉄の塊に目を向ける。
上空から降ってきた鉄の塊には、幾多の顔―――絶望に泣き叫ぶ顔が一面に敷き詰められている、そして、奏で出す、怨嗟の声を。
(これは!!【呪詛の分銅】コイツ!押しつぶす気だったのね...まずい!もっと離れないと!)
怨嗟の声が大声量で吐き出される、呪詛の声が響き渡る―――【絶望のオーラ】―――がまき散らされる。瞬時に気づき、離れた為、効果範囲内には入ってはいない。仮にあのまま攻撃に転じていたら、分銅に頭上から押しつぶされ、絶望のオーラによる状態異常の嵐だったであろう―――すなわち、敗北である。
(まさか、コイツ【
ありえない現象に思考が混乱で覆われる、あり得る筈がないのだ―――普通は、そう普通は、だ。リーネはまだ知らない、この世界には―――ユグドラシルには、隠されたクラスなど山ほど存在するのだ。愚直なまでに我を貫き通した者にしか得られない、一つの事を極めた者しか得られない力もまた存在する。
「あら?私を相手に考え事?お姉さん悲しいわ。」
しまった、思考の渦に飲まれた隙を付かれ、盾の女の接近に気づくのが遅れた。瞬時に思考を切り替え、回避に移ろうとする、しかし、そこで盾の女の右足が踏み込みの姿勢に入っているのに気づく、どっっちがくると思考が混乱し、一瞬の硬直が生まれ―――右足が踏み込まれる事は無かった。
(!?どういうこ―――)
どういう事だと思ったのもつかの間、盾が右から顔面に向け迫って来ているのが見えてくる、地揺れでも岩柱でもない、フェイントに使われたのだ。ここで初めて自分の身に起こっている事に気づいていく、警戒心を刷り込まれ、一つの行動に対して複数の選択肢を
警戒心を持たせる、たったそれだけの事だが、この意味は途轍もなく大きい。
盾が自らに向け迫って来ている、盾は不味いと思い回避行動を取ろうとするが、盾の角度が広いのに気づいていく、いわゆる大振りと言うやつだ。この角度なら恐らく受け流せるだろう、最悪被弾してもクリティカルは免れそうだ、下手に回避に転じ、地揺れや、岩柱の餌食になるよりはこちらの方が
盾の角度を見極め、剣が高速で盾をいなそうと走り―――リーネの視界が回転する、いや、正確にはリーネが回転した。
「ふふふ、本当に可愛い、何度も言ってるでしょ?お馬鹿さんね、手癖、足癖、口に続いて頭も悪いのかしら?ねぇ、お嬢ちゃん―――」
―――足元お留守よ?
―――【足払い】―――
ちりばめられた脅威、足踏みの脅威と盾の脅威の二段構え、この戦いに置いて最も警戒心を刷り込まれているであろう盾を用いてのフェイント、全神経を盾に集中させられたのだ、足元まで気は回らないだろう。
リーネの足が払われ体が宙を舞う、かろうじて受け身を取ったが、眼前には銀の足甲が飛び込んできた。
―――【
足甲のつま先部が顔面に直撃し、首が逆くの字を描く、そして、そのままリーネが後方にはじけ飛ぶ、もう今日何度目か分からない、HPゲージが三割を切った、そう、まだ、三割だ、非常に優しく手加減をしてもらっているのであろう。そして、吹き飛んだ先でリーネがうつぶせになり―――そのまま動かなくなった。
♦
「あら?どうしたの?手加減してあげてたからHPには余裕がありそうだけど...やり過ぎたかしら?えっ?嘘、泣いてない?大丈夫?」
ピクリとも動かない相手に対し少し心配になり、盾の女がゆっくりと近づいていく、声を聴く限りはまだ子供だ、少し大人げなかったかも知れないと思いながら様子を見に近づいて行く。
歩を進め、少女の場所までたどり着く―――が反応がない、これは本当に泣いているかも知れないと思い、肩を叩こうと近寄った、すると。
「...ぎ...だ...ふり...。」
何かを呟いている声がポツポツと聞こえてきた。しかし良く聞こえない、声音を聴く限りは、恐らくは泣いてはいないだろうと思い、少し安心する。
「?どうしたの?お嬢ちゃん?お姉さんやりすぎちゃったかな?ごめ―――」
盾の女が、謝罪の言葉を掛けようと口を開く、そして目に入る。
手に握られている―――ロケットの様な物が。
「!!?しまっ―――」
「秘儀!死んだふりぃぃぃぃぃーーー!!」
その掛け声と共に手に握られていた、ロケット爆弾が盾の女に直撃し、轟音を上げ、盾の女が吹き飛ぶ―――かに思われたが、煙の隙間から、欄々と輝く盾の姿が目に入ってくる。
完全に意表を着いた攻撃、それすら防いでいく技量に感服していくのが普通なのであろうが、しかし、刮目するのはそこではない、ロケット爆弾は吹き飛ばす事を前提とした、ノックバックに特化したアイテムである、盾で受けたとは言え、それを受けてなお、盾の女はどっしりと地面に構えている。
揺らがない―――盾の女は倒れない。
(~~~―――!!やるじゃない、お嬢ちゃん!私の性格を把握した上での奇襲、見事よ!でもね、私は皆の盾なの、盾は倒れる訳にはいかないのよ!)
盾の女の心の中に浮かぶ言葉達、タンクとしての秩序が、盾としての信念が木霊し、より一層大地を踏みしめる。
(しかし、視界が悪いわね、凄い煙―――まさか?)
舞い上がる黒煙を見つめていた盾の女の頭の中に、ある記憶が蘇ってくる、応戦を始めたばかりの時の煙幕の記憶が。
(小癪ね、お嬢ちゃん、良いわ、捌いてあげる。次は何が
煙幕ボール、短刀、ロケット爆弾、この娘は中距離への遠投アイテムを好んで使う癖がある事を、短い戦いの中で気づき、この後に遠投アイテムが飛んでくる可能性に瞬時に行きついていく。
最初の煙幕の時と同様に、右盾での振りを行い、煙を晴らしていく、それと同時に後方へ飛び上り、距離を保っていく。アイテムを弾いた際の隙を付かれ、懐に潜られるのは不味いからだ、少女との距離は近すぎる、なので、一度間合いを確保する必要があるのだろう。
吹き荒れる爆風によって煙が晴れていく、そして目に飛び込んできたのは遠投アイテムなどではなく―――いつの間にか、一冊の魔導書を手に持った少女の姿だった。
♦
(ははは、何しても無駄じゃない...こんな化け物に勝てるわけないよ...。)
強烈な蹴りを顔面に受けて、リーネが宙を舞いながら吹き飛んでいっている、その際中に心の中に諦めの言葉達が溢れ出てくる。
(もう訳分からないよ、全部読まれてるんだもん...チートじゃん、ずるいよ...大体、過程って何よ...私だって色々考えて戦ってるんだもん、何が違うのよ。)
地面に墜落し、ギュラギュラと回転していきながら、盾の女に言われた言葉が脳裏に過っていく、自分とあの女の何が違うのかと。先程靄が掛かっていた、過程と言う言葉について考えて行った時に、ふとモモンガとの会話が思い出された。
『モモンガさんって何でそんなにごちゃごちゃ考えて戦ってるの?超位魔法でばーんってやればいいじゃない。』
『アホかお前、超位魔法なんかそうそう当たる訳ないだろう、発動までにやられるぞ。』
『むぅ、知ってるわよ、それ位!だから召喚とかして壁作ってやればいいじゃん!』
『いや、だからな、そんなの誰でも考え付く事だろ?AIのモンスターとかならともかく、PVPはプレイヤー相手だ、
『そんな時こそ、課金アイテム~、課金しちゃいなさ~い。』
『ぐっ、それを言ったらお終いだろう、まぁ、なんだ、俺なら超位魔法の発動の可能性ををちらつかせて、相手の行動を誘導するかもな、相手は俺が課金アイテムで短縮できないの知らないし、警戒させるだけさせて罠にはめる、その為の過程として使えるなら、超位魔法も悪く無いかも知れないな。』
(意表を突く...過程...そう言えばこの時言ってたんだっけ?)
モモンガとの会話を思い出しながら、しばらく転がり続けたリーネだが、やがて勢いは止まり、そのまま地面にうつ伏せになる、立ち上がりはしない、未だ思考の海に潜り続けていた。
『俺は弱いからな、色々試行錯誤して戦わないと勝てない、自分のできる全てを使い、騙して罠にはめる、様々な過程を経て、最後に相手を倒すんだ、ていうか剣士も一緒だろ?違うのか?』
『えぇ~、一緒じゃないよ、魔法みたいに色々できないもん。』
(違う...一緒だ...)
『そうなのか?昔たっちさんは相手の動きを読んだり、攻撃を誘導したりしなきゃいけない見たいな事言ってた気がするぞ。』
『そんな事言ってたっけ?多分聞いた事ないよ?』
(違う...言ってた...忘れていただけ。最近聞いて無かったから...最近稽古をつけて貰って無かった...いいや、私がしていなかったから...PKばかりして、教えて貰った基礎すら台無しにして...。)
何度も言われていた筈である、戦いに置いて大切な事を何度も、それを忘れ、努力すら辞めてしまっていた自分に呆れが出てくる。思考の海に沈んでいたリーネの耳に、盾の女の声が微かに届いてき、我に返っていく。
聞こえてきた声は、大丈夫?や、やり過ぎた?などの言葉だ、あの優しい女の事だ、恐らくはここまで様子を見に来るだろう。
このまま今までの事を謝ってしまうのが一番良いだろう、盾の女は間違いなく許してくれる、でもリーネはそれだけは嫌だった。
(嫌だ!逃げたくない!私は、私はいつか、たっちさんを超えたい!たっちさんを倒せるくらい強い女になるの!それがあの時、私を助けてくれたたっちさんへの一番の恩返しだから...だから...逃げたくない...この女に、
今まで誰にも言った事がない、かつて決意した言葉が、忘れていた気持ちが自分の中で雄たけびを上げていく。奮い立った気持ちが、勝利への道を模索し始めた、今盾の女は、この戦いに置いて最も油断しているだろう、ここしか勝機はない、ここを逃せば盾の女に一撃与える事すらできず、そのまま敗北する。
今の自分にできる事を必死にリーネは考える、たっち・みーに教えて貰った事を思い出しながら高速で思考を回転させていった。今の自分には、たっちや盾の女の様に器用な事はできないかもしれない、だから、今できない事は忘れて、今の自分の全てを使った方法を模索していく。
そして、気づけば盾の女が自分の元まで辿り着いている、やはりこちらを心配していたのだろう、優しい言葉を掛けて貰っている。信じていた通りに、盾の女が自分の間合いまで入り込んだ―――ここが勝負時である。
(ごめんなさい...たっちさん...もう、忘れないから。)
うつ伏せている少女の表情は見えはしない、しかしそこには覚悟の表情が作られている様に感じる。
かつて、あのたっち・みーすら唸らせた少女の心に、忘れていた闘志に、今―――
―――火が灯る。
「!!?しまっ―――」
「秘儀!死んだふりぃぃぃぃぃーーー!!」
♦
舞い上がる煙が一瞬にして晴れていき、盾の女の姿が鮮明に映し出されていく。きちんと自分との距離を確保している盾の女の姿が。
(流石ね、本当に流石だわ、ぐうの音もでない、でも、とんでもなく凄いアンタだからこそ、そうすると思ったわ!)
―――【
甲高い音と共に、魔導書に封印されていた魔法が発動し、盾の女に轟雷が舞い落ちる。
「―――課金アイテムね!」
盾の女が何かに気づいたかの様な叫び声を上げていく、そしてそれは正解である、先程から瞬時にアイテムを使用出来ているのは課金アイテムのお陰だからだ。
【
先程の叫び声は、最初のロケット爆弾の時点でそこに思い至らなかった自分への罵声なのかもしれない。
舞い落ちた轟雷がけたたましい音を鳴らしながら弾け続け、辺り一面に目を覆いたくなるような光が溢れる。
轟雷による属性ダメージ―――鎧を装備している盾の女には有効な手である筈だが、それ程ダメージが入った様には見えない、その理由は耐性の付与にある、鎧と言う金属を纏う事により、弱点となってしまう属性への耐性を、完全耐性とまではいかないが付与されているのであろう。
轟雷が消失していくが、盾の女のHPを削りきるには至らなかった様だ、ただ、轟雷が舞い落ちた瞬間の光によって、盾の女が一瞬だけリーネの姿を見失った様に見えた。
そして、轟雷が完全に消失していくのをリーネが見つめる―――構えに入った状態で。
そう、ロケット爆弾の煙幕は盾の女に距離を取らせる為にあった、この作戦には距離が必要であったから、一種の賭けの様な物であったが信じていた通り、盾の女は距離を取ってくれた。轟雷は盾の女を一瞬硬直させる為にあった、この斬撃は盾の女に当てるのは至難の技だからだ、正確には狙いに当てるのはだが。
そう、ロケット爆弾も、魔法も、全ては―――この一瞬の為。
―――【レイザーエッジ】―――
複数の斬撃が盾の女に向かい飛来していく、下段から救い上げられる様にして放たれた斬撃が、対象に衝突し甲高い金属音を上げ―――両の盾が上方にかち上げられていった。
盾の女の両手が大きく開いていき、懐が露わになっていく。
(あぁ...そう。弾くのね、この私の盾を。)
―――【水燕の歩方】―――
その瞬間、スキルを発動させ瞬時にリーネが隙間に入り込んでいく、確かにその盾は脅威だ、防御にも攻撃にも使用できる、そして、その”大きさ故”に、小さな体を生かし、被弾を減らすリーネにとっては天敵とも言えるだろう。しかし、その大きさはデメリットにも成りうる、その”大きさ故”に懐に潜られてはまともに使うのは困難だ。
「これが過程ってやつなのよね!おばさん!」
完璧に懐に潜り込んだリーネが、その言葉と共に切り刻む、一撃、二撃、三撃と切り刻んでいく、盾の女のHPは最初から三割を切っていた。このまま押し切れる―――その筈だった。
リーネの左右から両盾が迫って来ている、否―――両手が迫って来ている。
(!?一体何を!?)
迫る両手に一瞬戸惑うが攻撃の手は緩めない、悪あがきだ、この距離では、その大楯は真価を発揮しない。
そして両手が迫り―――そのまま強く抱きしめられた。
(!!?はぁ!?ちょっと、どうい――)
思考する暇もなく、リーネの目にあるゲージが見える、それはHPゲージだ、ゲージが徐々にだが減っていっている、それを見て理解していく、この女は自分をこのまま力任せに圧死させるつもりなのだと。
(そういう事ね!でも、そんな簡単にいかないわよ!脱出を―――!?)
そう思った瞬間、リーネの周囲に青白い靄が沸き上がり出したのが見えた、神聖さを思わせる綺麗な靄が自らの体を包み込んで行っている。
そして、それに伴い、HPの減少が早まっていく。
(属性ダメージ!?盾の力ね!?まずい、どんどんHPが減っていく!)
想像していた以上にまずい状況に焦り、即座に脱出しようと試みる―――が、両手が動かないのだ、その理由は関節部も同時に圧迫されているからだ、乾いた笑いが零れそうになる、どこまでもこの女は技巧派だと。
「ふふ、噂以上だったわよ、お嬢ちゃん、これで授業終了ね、満点はあげれないけど、まぁ、合格点はあげてもいいかな。最後のは中々良かったわよ。」
「―――最後?何を言ってるの?」
(?)
盾の女の言葉に対してリーネが言葉を返していく、そして、これはゲームなのでありえない事なのだが、リーネの表情が、心なしか笑っている様に見えた、そしてその笑みは、少女が無邪気に作る表情ではなく、獰猛な―――
―――戦士の笑みにみえた。
「授業はまだ終わってないわよ!おばさん!」
獰猛な戦士の笑みを作ったリーネの言葉の後すぐに、盾の女の後頭部付近に途轍もない衝撃が走っていく、理由は分からないが、何かが後方から飛来してきた様に感じられる。
そして、理由は即座に判明していった、後方から飛来してきた物体が盾の女の視界の先に、空中を舞いながら落ちてきているのが見えてきたからだ。
くるくると短い鉄が舞い落ちている、そう短い鉄が、短刀が―――
―――【
(あれは、最初の煙幕の時の―――)
一瞬の混乱が、一瞬の隙が盾の女に生まれていく、そしてそれに伴って、盾の女の両手の束縛が一瞬だけ緩んでいき、両手に隙間が生まれていった。
―――【狂戦士状態】解放―――
ベルセルクの持つ諸刃のスキルによって、リーネの力が爆発的に上昇していく、このスキルは癖が強く、逆に敗北の一助になりかねない、だがしかし、今ここに勝機は見えた、使用するにはここしかないだろう、この戦いの全てがこのスキルに集約されていく。
積み重ねた全ての過程が今―――花開いた。
「一手違いだったわね!!おばさん!!」
―――【両肘開き打ち】―――
両肘を外側に開いていき両の手を弾き飛ばしていく、狂戦士状態の開放によって爆発的に高まった力が盾の女の両手を凄まじい勢いで弾き飛ばしていく。
凄まじい勢いで手が―――盾が天を仰ぐ。
―――【剣柄部での顎部かち上げ】―――
攻撃を無駄にしない為の次の攻撃が、盾の女に炸裂していく、次の一手への迷いの無さが行動を洗練させていき、攻撃と攻撃の間の継ぎ目がまるで無いかの様な動きへと変えていった。
そしてその攻撃は斬りつけではなく、柄部での殴打であり、人間種のクリティカルポイントでもある顎部へのかち上げだ、その攻撃を受けて、盾の女の意識が朦朧していく、視界がぼやけていき、四肢の動きが鈍い物へと変わっていく―――しかし、盾の女は倒れる事はない地面を踏みしめ耐えている、が、態勢は揺らぐ。
「~~~――!倒れない、倒れる訳にはいかない、私は盾よ!」
盾の女が、盾である事に拘り続ける、確かに、ここで倒れてしまえば勝敗に直結するだろう、しかしそれだけでは無いように思える、只々愚直な、突き抜けた信念がそこには有る様に見えた。
この戦いに置いて初めて揺らいだ盾の女に、更なる追撃が向かっていく、リーネが構えに入っている、そう、この構えは。
(レイザーエッジ!?まずいわ、いや―――きなさい!お嬢ちゃん、全部捌いてあげるわ!)
ケンセイの極限の斬撃が盾の女を襲おうと刃を研ぎ澄ます、超高速で盾の女に剣が向かっていっている。
両肘による開き打ちで盾を弾き、剣柄部による殴打で朦朧にし、態勢を揺らがせた、そして続く攻撃は先程盾を弾き飛ばしたレイザーエッジ―――盾の女が瞬時に構えに移ろうとする、それもそのはずだ、そのスキルは強力であり、先程一泡吹かされた代物なのだから、警戒して当然なのだ、そう警戒して当然だ。
もう一度言おう、積み重ねられたプロセスは―――過程は今、花開いた。
盾の女に向かい剣が高速で走っていく―――がスキルの発動は未だ行われない、そして、最短を走り、ありえない速度で剣の前まで移動してきた盾の手前で、ピタリと剣が止まる。
(!?すんどめ―――)
剣を弾き返そうとした盾の前で剣が止まる、それを不思議に思いながら、盾の女の視界が回転していった、いや正確には―――盾の女が回転した。
「ありがとうね、最高の授業だったわ、ねぇ、おばさん―――」
―――足元お留守よ。
―――【足払い】―――
警戒していた攻撃、いや、警戒させられていた攻撃に注視しすぎ、足元まで気が回らなかった、それでも普通の状態なら足払いを成立させるのは不可能だろう、しかし、今盾の女は普通の状態ではない、殴打により四肢が揺らいでいるからこそ成立させる事が出来たのだ。
盾の女が宙を舞い、そのまま地面に落下していった、この戦いに置いて初めて、盾の女が倒れた。
盾の女が天を見つめている、しかし、その先は、空は見えない、なぜなら障害物があるからだ、そしてそれは迫ってくる、猛スピードで―――剣の柄が迫ってくる。
「...ちぇっ、やるじゃない―――」
―――お嬢ちゃん。
―――【柄部振り下ろし】―――
剣柄が鈍い音と共に盾の女の顔面に衝突していく、意識の朦朧が塗り替えられ更に行動阻害に陥っていく、そして。
―――【柄部振り下ろし】―――
追撃が始まった、振り下ろし、振り下ろし、振り下ろし、三撃、四撃と続いていく、それは盾の女のHPがなくなるまで続いていった。
そしてHPが尽き、盾の女が光の粒子となり消滅していく―――
「...ねぇ、お姉さん...最後のは何点だった?」
―――死闘は幕を閉じた、リーネの勝利で。
♦
盾の女との死闘の幕が閉じられ、リーネが大きく安寧の息を吐き、ヘルヘイムの薄暗い空を見上げていく。
あの女は途轍もなく強かった、そんな存在に打ち勝った事に対する、勝利への余韻に浸ろうとした―――したが。
「はぁ、ボコボコにされたわね、あのお姉さん怖すぎ...あと優し過ぎよね、PKしに来た相手に何であんなに優しく教えてくれるのかな?」
余韻はやって来きはしない、その代わりに感謝の気持ちが沸いてくる。盾の女はしきりにこちらの事を気にかけてくれていたからだ、確かに少々やりすぎな面もあった気はしたがそれでも、仲間に囲まれ強くなった気がしていた自分に、本当の強さとは何かを教えてくれていた気がする。
「でも本当、教えるの上手だったな、そこは間違いなくたっちさんより上ね、リアルでは何かを教えてる人なのかも知れないわね。まぁ、それは良いとして...うわぁ~、マジマジと見ると本当に豪華ね、やっぱりこれ神器級でしょ?」
独り言を呟きながら、リーネがある場所に目を向けていく、そこには盾の女の装備が無防備に散らばっているのが見える、これはドロップ品だ、そして―――戦利品でもある。
「...ふぅ、どこにあったかな?...あ、あった。」
コンソールを開きアイテム欄を探す。先程までアイテムを瞬時に使えていたのは課金アイテムのお陰である。今探しているのは、コンソール内の無限の背負い袋の中にしまってあるアイテムだ。普段は使わないから中々見つからなかったが、ようやく見つけたようだ。
「帰還しなさい、持ち主の元に。」
手に握られていた物は、カード。そのカードを使用した途端、ドロップアイテムが光り輝きだし、そして消失していく。これはPVPなどで、負けてデスポーンした相手にドロップ品を返却するために使用されるカード―――【
ドロップ品の返却も終了した事だし、そろそろ拠点に戻るかと思いながら、今度からアイテム位は返してあげても良いかなとも思っていく。
「今日は朝からとんでもない経験したわね...久しぶりに、たっちさんに稽古して貰おう、でも、その前に謝らなくちゃね...無暗なPKも辞めよう...いや、極力控えよう、うん、私偉いわ!極力控えるわ!」
極力かよと言う言葉が聞こえてきそうであるが、ナインズ・オウン・ゴールはお上品なクランではない、たまにはそう言う馬鹿もしたくなる、自分達は馬鹿な行動が大好きな馬鹿の集まりなのだから、だから、暴れるときは全力で暴れるのだ、やられる方は堪った物ではないが。
さぁ、帰ろうとリーネが歩を進めていく、決意の言葉を吐きながら。
「...お姉さん、授業料はキチンと払いますよ、お姉さんよりも強くなって、たっちさんよりも強くなって。」
♦
「そんな事があったのか。」
リーネの言葉を静かに聞いていたモモンガがそう言葉を吐く、色々と言っていたが濃ゆすぎじゃない?と思いながら、そして、その話の中に出てきたプレイヤー、―――盾の女に戦慄する。それほどの存在がユグドラシルに存在していた事に、正確には何の知名度も無い事にだ、モモンガは周りから慎重だとよく言われる、自分ではそうかな?とも思うが、確かに、情報収集などは欠かした事はない、しかしそれほどの強者は聞いた事は無いのだ。
リーネはなんだかんだ強いのだ、最近はPK三昧でPVPでの成長は止まっていたが、それでも、あのたっち・みーが、一から鍛え上げた人物であり、戦闘センスを認められる程だ、それを一方的にボコボコにできるなど尋常ではない。
「いや、本当にあれはヤバいよ、モモンガさん、間違いなく、あのお姉さんはたっちさんとかと同じ次元に居る人だよ。子供と遊んでる位の感覚で戦ってたから奇策でどうにかなったけど、実際は手も足も出なかったもん。」
「うわぁ~嫌だな~、どうせ魔法耐性も高いんだろうな、俺スケルトン系だから殴打とか最悪じゃないか、頭蓋割れちゃうよ?俺。」
会いたくないな~と、モモンガが戦々恐々している様を、リーネが見つめながら、盾の女を思い出していく、あの強さは明らかに異常だった、ワールド・チャンピオンのたっちなら難なく勝てるだろうが、それを差し引いてしまえば、あの実力は脅威だ。
ワールド・チャンピオンと言う最強のクラスを外し、同じ条件下で戦った場合、たっち・みーとて楽には勝てないだろう。
「ユグドラシルは広いな、うん。襲われたら土下座でもしようか、お~た~す~け~ってな。ははは。」
(えぇ...土下座した後なにするの?気になるけど、何か怖いからいいや...モモンガさん怖すぎ、ヤバすぎ。)
想像も出来ない様な恐ろしい事を企んでいそうなモモンガを見ながら、若干引いているリーネであるが、それと同時に、モモンガさんなら何か勝ちそうとも思う、特になんの確証も無いが、この人には―――モモンガには実力を超えた怖さがあるからだ。
「あのお姉さんは急に襲ってきたりしないと思うよ?でも、モモンガさん顔怖いからね、モンスターと間違えて襲われるかもだね。」
「顔怖いとか言うなよ、ていうか、クランのメンバー皆顔怖いからな。」
「俺は札で隠れてるから怖くないですよ♪」
「俺も覆面してるから平気平気♪ていうかこのシルエット見てよ、カニだぜ?逆に可愛いだろ、甲殻類万歳♪」
「ほら、モモンガさんだけだって、顔怖いの...まぁ、モモンガさんの顔とかどうでもいい話は置いといて、ビルドもある程度固まったし、前から話してたクラスを取得しに行きたいなって思うのよ。」
「どうでもいいって、酷いなお前、ていうかお前から言いだしたんじゃないか...まぁいい、分かった、なら皆と相談して計画を立てよう、ヘルヘイムから出なくてはいけない以上、フルメンバーで行きたいからな、お二人はそれでいいですか?」
モモンガの言葉を聞き、二人が顔を見合わせ、その後二人が返事をしていった。
「俺は別に良いですよ、モモンガさん、人間種にのみ許される戦士系の強クラスの取得、燃える展開ですね。」
「俺が行った所で何も役に立たないとは思うけど、別に良いよ、日付決めてくれたらそれまでには皆の装備打ち直しておくわ。」
「二人共ありがとうございます、取り合えずはたっちさんに話して計画を進めていこう、できるだけ早く行けるといいな、【
リーネ「一手違いだったわね!おばさん!」
―――【両肘開き打ち】―――
一方、その頃別の場所では...
グサ...
ターバン「油断大敵だぜ?おっさん。」
アラフ「くそがきがあぁぁー!」
不動「私は不動!不動のナザミ!」
巨盾「俺は巨盾!巨盾万壁セドラン!」
盾の女「私は...名前はまだ考えて貰って無い!盾の女!」
三人「三人合わせて!オバロ戦隊!盾レンジャー!」
ずばばばーん!
どうも皆さん、メリー苦しみます。ちひろです。
どうですか?皆さん?盛大に苦しんでますか?ちひろは毎年殺意を抱いてます。
年末も近づいてきて忙しく、中々時間も取れなかったので更新できませんでした。
・オリキャラ 盾の女
何か滅茶苦茶強い人です、リアルでは格闘技?武術?まぁ何かしらそういう事に精通している人でして、肉弾戦はピカイチだったりします。リーネちゃんが最後に教えるの上手だったと言っていたのもリアルでの事が関係していたりします。
まぁ、このSSに置いて別に重要な事でもないので、この先描写されるかは謎ですが、機会があれば書いて見たいですね。
モンスター狩りつくしたの?見たいな描写があったと思いますが、実はこの人は一人でここまで来ていません、都市にて傭兵NPC契約をして六人パーティーでヘルヘイムまで来てます。散々頑張った後にNPCの雇用期間が切れて一人になり、帰りに襲われた感じですね。PVPだと死ぬほど強いですがモンスター相手だと結構苦戦したりする見たいですよ。対人戦のスペシャリスト見たいな人です。
どうでもいい話ですが、この人は可愛い物が大好きです、特にブサカワが好きで、見るとキャーキャー言う見たいです。
最後にこの長い話をここまで読んでくれた皆さん本当にありがとうございます。
そしてお疲れ様でした。
先程も言いましたが年末で忙しくなり時間も中々取れないので年内での更新はこれで終了かもしれませんね、できればもう一話くらいは書きたい所ですが普通に無理でしょう。
今回も読んでくれてありがとう。また読んでくださいね。