あんてぃりーねのゆぐどらしる☆だい☆ぼう☆けん☆ ~泣き虫が伝説になるまで~   作:だいだろすちひろ

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 さぁ、サクッと短い話数で終わらせて3章に行きましょう!(フラグ)


2.5章 アゼルリシア山脈攻防戦
アゼルリシア山脈進行


 

 

 

 

 

 

 辺り一面に広がる銀世界。

 

 岩すら姿を隠し、草木は白さに埋もれていく。

 

 ヒュウヒュウと吹きすさぶ風の音が鳴り響き、そこに見える銀世界に相応しいだけの冷気を様々な場所に運び続けていく。

 

 そして、その風の音に紛れて、鈍い重厚な音が響き渡り出す。

 

 時を刻む毎に、その音は大きくなっていく。いや、正確には増えて行っているのであろう。鈍い重厚な音の数が増えていき、それが重なっていく事によって、実際に聞こえてくる音よりも大きく聞こえてきている。

 

 時が刻まれる―――音は更に増え、音量を増していく。

 

 その増えていく音に比例していくかの如く、先程までの銀世界に穴が出来ていき、その美しい姿を歪に変貌させていっている。

 

 銀世界の穴が―――足跡が無数に増え続け、ある場所を目掛けて進んでいく。

 

 足跡が進むその先には、ある生物が蹲り、目を閉じながら静かな時を過ごしている。

 

 そして、先頭の足跡がピタリと止まっていく。それに続き、後ろに続いていた足跡も、一つ、また一つと動きを止めていった。

 

 全ての足跡が止まっていくと共に、鳴り響いていた音もまた止んでいく。

 

 辺りに一瞬の静寂が訪れ、目を閉じていた生物が―――白き竜がゆっくりとその瞼を開いていった。

 

 白き竜は蹲ったまま目だけで辺りを見渡していく。その瞳に映るは、武器を手に持つ巨人達の軍団。

 

 数十、いや、数百はいるかもしれない巨人達を見渡した後に、白き竜がその巨体をゆっくりと気だるそうに起き上がらせる。

 

 そしてその瞬間、巨人達が大声量で吠える。まるで時が満ちたとでも言わんがばかりに吠え上げ、白き竜に向かい駆け出していく。

 

 押し寄せてくる巨人達を見つめながら、白き竜がその背にある大きな翼を広げていき、周囲に突風が吹き渡る。

 

 その巨大な翼を広げ、白き竜がその巨体を天に舞いあげる―――かに思われたが、白き竜は飛び上がらない、それどころかその場から動きもしない。

 

 巨人達の武器が白き竜に打ち付けられ、それと同時に巨人の大きな首が宙を舞っていく。しかし、それを意に返さぬ様に、別の巨人が武器を振るっていく。

 

 そしてまた巨人の首が宙を舞う。その巨体が二つに分かれ宙を舞う。

 

 白き竜の強大な鍵爪が、強大な咢が、巨人達を次次に葬っていく―――が、それに比例して、白き竜の体も徐々に傷つき疲弊していく。

 

 しかし、それでも白き竜はその場を動かない。その姿はまるで、その場所に打ち付けられているかの様な姿にも見え、何かを守っているかの様な姿にも見える。

 

 白き竜が必死に鍵爪を振るっていく。必死に強大な尾で叩き潰していく。必死に咢で食らいついていく。

 

 しばらくして、白き竜の動きが止まっていく。それに続いて先程まで鳴り響いていた轟音もピタリと鳴りやんでいく。

 

 動きを止めた白き竜が辺りを見渡していく。

 

 そこには夥しい量の巨人たちの死体と、巨人達の鮮血で真っ赤に染まった、先程まで銀世界であった場所。

 

 白き竜がゆっくりと蹲っていく。

 

 そこにある”希望”を抱きながら。

 

 白き竜は瞳を閉じ、眠りに付く。

 

 そこにある希望に”思いを馳せながら”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――以上が本国上層部からの伝達だ。何か質問がある者はいるか。」 

 

 アゼルリシア山脈付近に建てられている、法国軍の軍事拠点。現在その拠点内にある会議用の大天幕の前には、大勢の法国軍人が列を正し整列している。微動だにせず整列しているその姿は、正に周辺国家最強と言われるに相応しい精強さが滲み出ている。

 

 そんな精強な法国軍人達の列の前で、部隊長、バルマー・アルス・ウズルスが此度決行される事が決まった作戦の概要を軍の兵士達に説明して行っている。

 

「...質問は無いようだな。それでは、作戦の内容は以上になる、予定通りに本国からの物資が届けば、三日後には貴様らは戦場の真っただ中だ。それまでにシフトを組み、各々非番を儲け心と体を休めておくように。説明は以上だ、別れ!」

 

「別れます!」

 

 ウズルスの説明が終了し、整列していた兵士達が各々散っていく。持ち場に戻る者、そのまま非番に入って行く者など、それは様々であろう。

 

 そしてそんな散り散りになっていく兵士達の中に、自らの持ち場に戻っていくリーネの姿があった。

 

(大変だ...戦争が始まっちゃう。早く”知らせないと”。)

 

 普段見せない様な真剣な表情を作りながら、リーネがトボトボ持ち場に戻っていると、後方からウズルスの声が聞こえてき、呼び止められていく。

 

「アンティリーネ、少し良いか?」

 

「え?あっはい!部隊長、なんでしょうか?」

 

「今回の作戦はお前のお母さん...ファーイン様が作戦の主となる。自分の母親が敵本陣に打って出るのだ、心配だろう...。しかし安心しろ、お前のお母さんは強い、フロスト・ジャイアントになぞ遅れは取らんさ。」

 

 そのウズルスの言葉を聞き、真剣だったリーネの表情が少し和らいでいく、呼び止められた時は何事かと思ったが、どうやらこの男は自分を心配し気遣ってくれている様だ。ウズルスは他の法国軍人とは違い、自分にとても優しい、別れた後の自分の表情を見て元気づける為に駆けつけてきてくれたのだろう。

 

 それ程深刻そうな顔をしていたのかと、リーネは自分の頬を擦っていく。先程の表情は母への心配の為ではない、もっと別の事に対してだ。母の強さは良く知っている、心配が全くない訳ではないが、それでも、この山脈の生物に母が敗北するとはリーネは思ってはいない。

 

「近々本国から物資が届く、その中には、ファーイン様のみ使用する事が許されている秘宝も含まれているんだ。その秘宝で身を固められたファーイン様に勝てる者など存在しない。しかも陽光聖典も援軍で駆けつけてくれ、ファーイン様の周囲に配置される、盤石の布陣だ...だから、心配するな。」

 

「気を使って頂きありがとうございます、部隊長。」

 

「お前も私達と同じ前線の部隊に配属される...まぁ、お前の場合は後方の兵糧、物資班だがな。上手く隠しているつもりだろうが、お前は私よりも強いのだろう。」

 

「はい―――え?はっ、いや、そんな事は...。」

 

「はは、見ていれば分かるさ、あれだけの荷物を運び続けても汗一つ流さずに涼しい顔をしている。フィジカルは相当な物だろう。隠す理由は...まぁ色々あるのだろう、次からはその辺の演技も上手くする必要があるぞ?でも、いくら強くても、お前はまだ子供だ...無理はするなよ。」

 

「...はは、はぁ...ご忠告ありがとうございます、部隊長。」

 

「よし、良い顔になったな。それでは持ち場に戻れ!」

 

 そうリーネに言葉を掛けた後にウズルスは大天幕まで戻っていく。その後ろ姿を見送りながら、リーネがペコリと頭を下げていき、再度お礼の言葉を吐いていった。

 

 ウズルスを見送った後に、リーネは振り向き、またトボトボ歩を進めだす。そして歩を進めた先は自分の持ち場―――ではなく、拠点周囲の森林内であった。

 

 森林の影に隠れたリーネが右手を上げて空中に手を伸ばし出した、すると伸ばした右手が空間に吸い込まれるように消えていく。その後空間から右手が引き出され、その手には大きなどんぐりの様な物が握り締められていた。

 

「ふぅ、無限の背負い袋(インフィニティ・ハヴァサック)ごとアイテムを持ってきておいて正解だったわね。」

 

 そう言葉を呟きながら、リーネがどんぐりの様なアイテムに口を近づけて、何やら言葉を発しだした。

 

「ヨンサマ...ヨンサマ、聞こえる?」

 

『ん?おぉ、リーネか。聞こえるぞ、今日はどうしたんだ?』

 

「良かった、キチンと持っててくれたのね。」

 

『おう、キチンと首から下げて肌身離さず持ち歩いてるぞ!このアイテム凄いからな、持ってないと取られちまう。んで?どうしたんだ?』

 

 リーネが使用しているこのどんぐりの様なアイテムは所持者同士でメッセージを飛ばす事が出来るアイテムである。ヨンサマとは連絡を取る手段が無かった為、ユグドラシルからこちらの世界に持ち込み、ヨンサマに渡しておいたのだ。

 

 ヨンサマに対して、リーネが深刻そうな口調でメッセージを飛ばしていく。

 

「ヨンサマ、良く聞いて。法国の軍が遂に動きだすの、三日後には作戦が始まって、山脈は戦場になるわ。だから絶対に地中から出てこないで、軍に見つかったら間違いなく殺されちゃう...皆にもそう言って欲しいの。」

 

『法国...お前がいる人間の国だったな...そんなにヤバい戦いになるのか?』

 

「間違いなくね、ジャイアント掃討が今回の作戦なんだけど、それだけじゃ治まらないかも知れないわ。ドラゴンも巻き込んで山脈がぐちゃぐちゃになるかも知れない。」

 

『マジかよ。しかし、三日か...今から全氏族に伝えるのは無理かも知れないな。』

 

「全氏族に伝える必要はないわ、ペの氏族だけでいいの...出来そう?」

 

『あぁ、それなら大丈夫だ。』

 

 今回の大規模戦闘中にクアゴアの様な亜人が法国の軍に見つかれば間違いなく殺されてしまうだろう。だからこそ、作戦が終了するまでは地中で大人しく隠れていてもらうしかない。他の氏族には少し可哀そうに思えるが、リーネの中にはそんな気持ちさらさらない。自分の友達はヨンサマであって、面識があるのはペの氏族の皆だけである。クアゴア全てに思い入れがある訳ではないので、面識のない他の氏族まで救ってやろうとは思ってはいない。

 

『よし、分かった。ありがとなリーネ、知らせてくれて。言う事聞かない奴は黒の悪魔が頭を叩き潰しに来るぞって脅しておくぞ。』

 

「もう!またそれを言う!あれは知り合いに騙されたのよ、掘り起こさないでよぉ。」

 

 ヨンサマと友達になった後に、連絡手段が無かったのでアイテムを渡す為に一度、ぺの氏族の住処にリーネは訪れた事があった。

 

 大方の場所は聞いていたので、住処は直ぐに見つかったのであるが、その際ヨンサマの時と同様にクアゴアもぐら叩きを初めてしまった。血相を変えて飛び出してきたヨンサマのお陰で被害は出なかったが、ぺの氏族は皆リーネに怯えてしまっている。最近では他の氏族にも噂が流れてきている様だ。

 

『はは、お前が悪いんだからしょうがないだろ?俺達の住処に近づくときはバレない様にこの間みたいに、へんそう?でもしてきてくれ。』

 

「うぅ、ツーヤさんめぇ...私で遊んでぇ...。」

 

『...リーネ、お前なら大丈夫だとは思うが...死ぬなよ。ドラゴンもジャイアントも、お前が思うよりはおっかない奴らだ。』

 

「うん...ありがと。それじゃあね、ヨンサマ、落ち着いたらまた遊びましょ。」

 

『あぁ、じゃあな、リーネ。』

 

 そのヨンサマの言葉を最後に、アイテムの効果は切られて行く。

 

「ふぅ、これであっちはどうにかなるかな?後はヨンサマ次第ね...もうちょっとお話したかったけど、もう時間がないわね、持ち場に戻らなきゃ。」

 

 そう独り言を呟きながら、リーネが少し速足で持ち場まで向かっていく。三日後の戦いに思いを馳せながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 作戦の決行が軍全体に伝達されてから三日後、特に異常事態も発生せずに、問題なく物資が陽光聖典の増援と共に本国から届いた。

 

 辺りでは兵士達が部隊毎に固まり、残り少ない山脈進行までの自由時間を各々が過ごしている。

 

 リラックスして地面に座り込む者、この後の作戦に緊張し、身を強張らせる者など、それは様々である。

 

 そんな兵士達の隙間を縫うようにして、リーネが少し速足で歩を進めて行っている。歩を進めていくリーネの視線の先には一つの天幕が見える。その天幕は今回の作戦の要であるファーインの住まう天幕であり、時間も差し迫っている為に、母と少し親子の会話でもしようと会いに行っている所だ。

 

 作戦が開始されればもう母と子ではない、作戦中は上官と部下である。気楽な会話は恐らく出来なくなると思ったリーネが寂しさを募らせ母の居る天幕内まで入って行った。

 

「お母さ~ん、入るよ~。」

 

 天幕内に向けリーネが言葉を発していくが、返事は返ってはこない。不思議に思ったリーネが返事を待たずして天幕内に立ち入っていく。

 

 そして、天幕内に立ち入ったリーネの目に飛び込んできたのは、膝を着き、祈りの姿勢に入っている母の姿であった。

 

 母が祈りを捧げているその左右には小さな像が三つ置かれていた。そして母の前方、祈りを向けている先には左右の三つの像より大きな三つの像が置かれている。その像の前で祈る母の斜め左後ろには、煌めく様な美しい剣が一本地面に置かれていた。

 

 ゴクリとリーネが喉を鳴らしていく。それは母の祈りの姿にではない、地面に置かれている美しい剣と母の身に纏っている真っ白な鎧に圧倒されてしまったからだ。

 

 母が身に纏っている白き鎧―――風神の鎧。

 

 地面に置かれている美しい剣―――水神の剣。

 

 その装備に目が釘付けになっていく。

 

 それも当然だ、なぜなら、リーネにはこの装備がどれ程の価値があるのか分かるのだから。

 

(これが、法国の秘宝...六大神と言われる、ユグドラシルプレイヤーの装備なのね、これ、間違いなく神器級(ゴッズ)よね。六大神は神器級(ゴッズ)で身を固められる程のプレイヤーって事なのね。)

 

 神器級(ゴッズ)で身を固めるなど、生半可なプレイヤーではない、神器級(ゴッズ)など、一つ作るだけでも途方もない労力が必要である。リーネですら、未だに一つも持ってはいないのだから。

 

 少しの間思考し、固まっていたリーネが我に返っていき、祈り続けている母へとゆっくり近づいて行く。

 

 しかしそれでも母は微動だにしない。深く深く祈り続けている。声を掛けるべきかリーネが迷っていると、目の前の母から祈りの声が聞こえてきた。

 

「この身の守の神、輝煌天使ねこにゃん―――」

 

(ねこにゃん!?何なの、そのふざけた名前は!絶対ユグドラシルプレイヤーだよその人!やめてお母さん...そんなふざけた名前の人に本気で祈らないでよ。)

 

 余りにもあんまりな名前に祈り続けている母の姿が哀れになって来たのかリーネが心の中でそう呟いていく。

 

 そんな娘の心の声など聞こえる筈もなく、母の祈りの言葉は続いていく。

 

「我が系譜の神、ルビアス。我ら漆黒の主の神、スルシャーナよ。此度この身が、神々の力を振るう事を許したまえ。」

 

 そう祈りの言葉を呟いた後に、母が更に祈りの姿勢を深くしていく。

 

 近づき声を掛けようと思ったリーネだが、どうやら声を掛けられそうな雰囲気では無い為に、諦めて部屋を出て行こうとしたが、リーネの足元には水神の美しい剣が無造作に置かれている。

 

 ほんの少し魔が刺したリーネがその水神の剣に手を伸ばし、触れていった。

 

 その瞬間、何かが”噛み合った”様な不思議な感覚にリーネは陥っていく。そしてその不思議な感覚に続いて、更に不思議な感覚がリーネに押し寄せてきた。

 

 何やら自分が知っている情報が脳に流れ込んでき、リーネがその感覚に戸惑っていきだした―――その時。

 

「何をしているのかしら。」

 

 その言葉を聞いた瞬間―――背筋が凍った。いや、そんな生易しい物ではない、冷たく鋭利な氷の刃でその身を切り刻まれたかのような感覚が全身を駆け巡り、体が硬直していく。

 

 顔を強張らせながら、リーネが声の方向に視線を向けていった。そこには、先程まで祈っていた母が祈りの姿勢のまま、顔をこちらに向け、氷の様な殺気を放ちながら、こちらを鋭い眼光で射抜いていた。

 

「もう一度言います。何をしているのかしら。その秘宝に触れる許可は誰が出したのですか?答えなさい、アンティリーネ兵士見習い。」

 

「あ、あう...そ、それは...。」

 

 その言葉に対して言葉を返していこうとするが言葉が口から出てはこない。今まで感じた事がない強烈なプレッシャーにリーネは飲まれ、言葉を発する事すらままならない。

 

(何で!?どうして!?言葉が出てこない!心臓を鷲掴みにされたみたい...何なの!?お母さんより、私の方が強いのに!?)

 

 今現在のリーネのLVは母よりも高い筈である。つまりはリーネの方が強いのだ。その筈なのであるが、このプレッシャーは一体なんだとリーネが混乱していく。

 

 どんな生物も、すぐに強くなる事は出来はしない。その強さに見合うだけの経験と死線を潜り抜けてきて初めてそれに見合う強さに行きついていく。

 

 ユグドラシルと言う世界で安全に、そして急激に力を付けてきたリーネにそんな物が在る筈もない。期せずして力を手に入れてしまった少女に、本物の力が濁流の如く押し寄せてくる。殺気と言う氷の様なプレッシャーが身を蝕んでいき、本能が刺激されて行く。

 

 恐怖と言う概念にリーネが蝕まれて行く。

 

「答えられないのですか?」

 

 そう言葉を発した直後に、母が―――ファーインが祈りの姿勢を辞めて立ち上がろうとする。

 

「ひ...。」

 

 立ち上がったファーインに対して、小さな悲鳴をリーネが上げ―――その瞬間、先程まで険しかったファーインの表情が緩やかな物へと変わっていった。

 

 それに続き、氷の様なプレッシャーも掻き消えていく。

 

「...ここから先は遊びではありません。死と隣合わせの戦場です。自らの生を掴み取るために、他者の生を踏みにじっていく...地獄です。その事をもう一度頭に入れて、気を引き締めなさい。分かりましたね。」

 

「は、はい。」

 

 そう言葉を残し、水神の剣を手に持ち、ファーインが天幕外に出ていった。

 

 ファーインが天幕外に出た後も、しばらく放心していたリーネであったが、なんとか立ち直り、額を叩いて気持ちを注入していく。

 

「めっちゃ怖かった...お母さんヤバすぎ怖すぎ...あれが法国の切り札としてのお母さんなのね。」

 

 今まで見た事もない母の姿に圧倒されて行ったリーネがそう独り言を呟いていく。親子談義をしたかったが、もうそんな雰囲気では無くなってしまった。

 

 時間も差し迫っている為に、天幕外に出て整列を始めようとリーネが歩を進めだしたが、先程の謎の現象がふと脳裏を過ってきた。

 

(なんだったんだろ?なんか頭の中に急に浮かんできたのよね...”エインヘリアル”?ワルキューレのチートスキルよね?まぁいいや、早く行こ、遅れたら今度こそぶっ叩かれるかも...こわ。)

 

 ブルリと身を震わせた後に、大急ぎでリーネが天幕外まで整列する為に駆け出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アゼルリシア山脈の山道を、法国の軍が進行していっている。

 

 空を見上げて見ると、ここ最近ずっと懸かっていた薄暗い雲は姿を消し去り、爛々と輝く太陽が存在を主張しながら、周囲に少しの暖かさを齎している。いわゆる晴天と言う奴だ。

 

 そんな眩い日差しの中で、一際豪華な武装をした人物が、魔法詠唱者風な格好をした人物達と共に、最前列で歩を進めて行っていた。

 

(はぁ、やってしまったわね。)

 

 その豪華な武装をした人物―――ファーインが心の中で溜息をついていく。

 

 この溜息の理由は、先程娘に対して特大の殺気を浴びせてしまい、怖がらせてしまった事によるものだ。時間が経つにつれてじわじわ罪悪感が押し寄せてきている。

 

 神の血を引き、強大な力を覚醒させたと言えども、ファーインとて人間である。生死の懸かった戦場を前にして普通の精神状態でいられる筈もない、いやがおうにも神経はピリついていくだろう。自分の敗北は軍の―――法国の敗北である。

 

 それはすなわち人類の敗北でもある。

 

 自らに圧し掛かる巨大なプレッシャーが、ファーインの神経を極限まで尖らせていたその時に、無遠慮に踏み込み、神の秘宝にまで許可なく振れた者がいたのだ、殺気を向けられても当然かもしれない。しかし、それでも。

 

(あれは駄目よ...駄目よ私...怯えさせてしまったわ。もしかして嫌われた!?え、嘘嘘、それはないわよね!?あぁ...もう泣きそう。)

 

 様々な絶望が脳裏を支配していくが、この様な精神状態では駄目だと、頭を振りながら己を律していく。

 

 山道もそれなりに進んできている、まだジャイアントやドラゴンの生息域には到達はしてはいないが、危険区域に入っているのは間違いないであろう。

 

 ここから先はいつ戦闘に入っても可笑しくはない、余計な思考に囚われていれば足元を掬われかねないので、娘の事は一旦忘れて、法国の切り札としての自分へと気持ちを切り替えていく。

 

「...そろそろ小休止にした方が良いかもしれませんね。」

 

「左様ですか?他国の兵士ならともかく、我らが法国の兵士ならばこれくらいで堪えはしないと思いますが?」

 

 ファーインのその言葉に、護衛の陽光聖典の隊員が疑問の言葉を口にしていく。法国の兵士達は精鋭揃いだ、これくらいの行軍でへたばる筈もなく、実際後ろを振り向いて行けば、まだその顔には余裕が透けて見える。

 

 その隊員の疑問に対して、ファーインが自分の考えと共に現状置かれている状況を説明していく。

 

「確かに後方の兵士達は体力的にまだ余裕があるでしょう。しかし、向かう先をご覧ください。」

 

 ファーインの視線の先には山道を登り終えた先―――アゼルリシア山脈頂上部が見えてくる。そこには辺り一面を白く染め上げる程の雪景色が広がっている。

 

「この山道はそうでもありませんが、ここから先はご覧の通り雪が積もっています。あれ程の量です、足を取られ満足には歩けないでしょう。積雪の中では休止を取る事も容易ではありません。なので、比較的雪の少ないこの辺りで体を休め、万全の状態で頂上部に向かうべきだと私は思います。」

 

 ここ数日の突然の大雪によって、山脈には大量の雪が積もってしまっている。アゼルリシア山脈は元々寒冷地帯ではあるがここまで雪が積もる事は稀だろう。季節も相まって気温もかなり低めな為、余り長居は出来ない、今回の作戦はスピード勝負である。この極寒の中で夜を迎えるのは非常に危険だ、一夜位ならどうにか凌げるかもしれないが、二夜、三夜となると、ファーインはともかく、他の兵士達は凍え死んでしまうだろう。

 

 故にジャイアントの住処まで最短で進んでいき、即座に掃討し帰還する必要があるだろう、なので休止で余り時間を取られる訳にはいかないのであるが、後列の体力を考えるならここで一度休止を取り体を休めた方が、この後の行軍の進行率は良くなる様に思えた。 

 

「了解致しました。それではその旨後列に伝えてきます。」

 

「えぇ、お願いします。」

 

 そう言葉を言い残し、陽光聖典隊員が指示を伝えるべく、後列まで速足で向かっていく。その隊員の後ろ姿を見送っていると、別の隊員が喋り掛けてくる。

 

「厄介な雪ですね、本当に...時にファーイン様、なぜに手甲を付けておられないので?風の神の鎧には手甲は付いておられないのですか?」

 

 言葉を発していった陽光聖典隊員がファーインの手に視線を向けていく。その手には手甲が装備されてはいなかった。風神の鎧の豪華な風貌には非常にアンバランスなその光景に不思議に思った隊員が疑問を投げ掛けていく。

 

「あぁ、これですか?勿論手甲はありますよ、只単に私が装備していないだけです。此度の戦場は私も()()ですので...万全を期しているのですよ。」

 

「は、はぁ。」

 

(この隊員は私の事を余り知らない様ね、新米隊員かしら...いや、知らなくて当然ね、あの子を産んでから戦場には立たなくなったのだし、そう考えると十数年は戦場に立ってはいなかったと言う事ね...月日が経つのは早いわね...あら?どうしたのかしらあの子、何時になく真剣な表情ね。緊張しているのかしら?)

 

 ファーインが思いに馳せながら後列を見渡していると、指示を伝えに言った隊員の前で普段では考えられない様な真剣な表情を見せる我が子が目についた。その隣に立っているウズルスも自分と同じ事を思っているのだろう、我が子の表情を見ながら驚いた様な顔をしている。

 

(いつもあれくらい真剣だったらいいのだけれど―――)

 

「ファーイン様、亜人です。」

 

「―――そうですか、露払いをお願いできますか。」 

 

「御意。」

 

 そう言葉を交わす二人の視線の先には、みすぼらしい恰好をした亜人が少数で固まりこちらに近づいてきている。恐らくは逃亡中の亜人であろう、標的はジャイアントであるが、ここでみすみす亜人を見逃すなどあり得ない為、駆除する様隊員に指示を出していく。

 

火球(ファイアー・ボール)。」

 

 駆除するべく唱えられた隊員の魔法が亜人達に炸裂していき、亜人が宙を舞いながら山道の外―――崖下まで吹き飛んで行く。

 

(第三位階をこうまで易々と使用できるなんて、本当に陽光は優秀ね...あら?ふふ、凄く驚いてるわね。そうよね、あの子にとっては魔法は余り馴染みのない物だし、驚くのも当然よね。)

 

 陽光聖典の優秀さを褒め称えている最中にファーインの目に飛び込んできたのは、驚愕に目を見開く我が子の姿であった。アンティリーネにとっては魔法は余り馴染み深い物ではない、これからの為に魔法についても少し勉強させた方が良いのかとファーインが思っていた―――その時、ピューイと言う甲高い音が崖下から鳴り響き、ファーインの耳に届いてきた。

 

「―――ファーイン様!」

 

「~~~――しまった!斥候か!」

 

 そう、鳴り響いてきたのは崖下からだ、そしてその方角は先程吹き飛んで行った亜人達の方角である。あの亜人達は逃亡していたのではなかった。集団で進んでいく武装した集団達を発見した者達から送り出されてきた斥候であったのだ。

 

 油断した。そうファーインが思ったのもつかの間、少し遠く―――山脈頂上部付近から大きな影が姿を覗かせていた。

 

 大きな影が大きな岩を投げつけてきている姿が。

 

「後列散らばりなさい!投石です!」

 

 そのファーインの叫び声のすぐ後に、鈍い風切り音と共に岩石が後列付近に飛来してき、轟音を立て衝突していく。

 

 その衝撃で山道がぐらぐら揺れていく。

 

「不味い!後列、状況の報告を!被害は!?」

 

「兵糧の一部がやられました!人員被害は出ておりません!」

 

 ウズルスのその言葉を聞き、ファーインがしてやられたと盛大に舌打ちをしていく。続いて人員の被害が出てはいない事に安堵していっていると。

 

 聞きなれた声が大声量でファーインの耳に届いてきた。

 

「うわああああーーーー!」

 

「―――アンティリーネェェェーーー!!」

 

 聞きなれた声が聞こえてきた方角に視線を向けていったファーインの目に飛び込んできたのは、悲鳴を上げ崖から転落して行っている我が子の姿であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アゼルリシア山脈の山道を後列の物資班に配属されたリーネが、大きなリュックを抱えながら行軍して行っている。

 

 肌を刺す様な寒さと共に、シャリシャリと雪を踏みしめる音が歩を進める度に鳴り響く。ユグドラシルでは寒さなど感じる事はなく、ちょっとしたバットステータスが付与されてしまうくらいであるのだが、現実はなんとも過酷な物だ。はぁと息を吐けば真っ白な吐息が口から漏れ出し、白い吐息の先に見える山脈頂上部は一面の銀世界である。

 

 今からあの場所まで行かなくてはならないのかと考えていくと非常に憂鬱な気分になっていく。あの雪の量だ、間違いなくこの山道よりも寒いであろう。

 

(うぅ、寒い...現実はクソゲーね。はぁ、お腹空いたなぁ。)

 

「はは、相変わらず余裕そうだな、アンティリーネ。」

 

「あ、部隊長...と?」

 

「あぁ、こちらの方は陽光聖典の隊員の方だ、どうやら小休止に入るらしくてな、前列から指示を伝えに来てくれたんだ。各員聞け、これより小休止に入る、ここから先はこの山道よりも厳しい状況になっていくだろう、しっかり休憩しておくんだ。無論、警戒は怠るなよ!」

 

 ウズルスの指示を聞き、各員が各々荷物を置き休憩に入る。当然リーネも休憩に入って行くわけだが、この寒さの所為でお腹が空いてしまった為に、休憩の前に栄養補給をしておこうと個人の首掛けリュックを漁っていく。確か非常食が支給されていた筈だ。

 

 リーネが必死にリュックを漁っていると、ウズルスが喋り掛けてくる。

 

「アンティリーネ、こちらの方がこの間話した、お前のお母さんの補佐に付かれる陽光聖典の隊員の方だ。」

 

「初めまして、アンティリーネ嬢。此度は貴女の母君の補佐を行わさせてもらう。この大役見事果たしてご覧に入れよう。」

 

「は、はい!よろしくお願いします。」

 

(何この人?何かカッコつけた言い回しね。陽光聖典って皆こうなのかな?)

 

「はは、この方達がいれば心配ないぞ、アンティリーネ。この方達は俺なんかと違ってエリート中のエリートだ。あの第三位階を十全に扱い、敵を瞬く間に殲滅していくんだからな。」

 

「―――!!?」

 

 ウズルスが得意げにそうリーネに説明していると、先程までは普通だったリーネの顔が急に強張り、真顔になっていく。その表情はいつになく真剣な表情に見える。

 

(うん?どうしたんだコイツ?いつになく真剣な顔つきになったな、いや、それも止む無しか、第三位階の使い手なぞ、中々お目にかかる事も無いだろうからな。緊張して当然か。)

 

 第三位階魔法の使い手を前にして緊張していると思われているリーネであったが。

 

(だ、第三位階!?エ、エリート!?ちょっと...待って...笑わせないでよ。)

 

 本当は盛大に笑いを我慢していた。

 

(耐えるのよ私!この人達は至って真面目なんだから!笑っちゃ駄目...我慢、がまん...。)

 

「はは、アンティリーネ、お前は魔法には余り詳しく無い様だな。第三位階ともなればあの火球(ファイアー・ボール)すら使用する事が出来るんだぞ。」

 

「......ぷす。」

 

「ん?はは、より一層真剣な顔になったな。どうだ、凄いだろ、この方達ならばファーイン様の護衛に相応しいと思わないか?」

 

「...ぷす...ぷす...。」

 

(がまん...がまん...がまん。)

 

 ユグドラシルの重鎮であるリーネに得意げに魔法の説明を始めていくウズルス。その言葉を聞きながらリーネは必死に笑いを堪えていく、歯を食いしばりながら必死に。

 

 そして笑いを堪えすぎるが余り、必死に閉じている口からぷすぷす息が漏れ出している。

 

 その姿を見ていたウズルスが、流石に様子がおかしいと声を掛けようと口を開こうとした時―――前列から爆発音と共に爆炎が舞い上がっていく。

 

 その音に驚きウズルスが前列に視線を向けていくと、爆炎に吹き飛ばされ、崖下に転落していく亜人達の姿が目に入ってきた。

 

「亜人の襲撃を受けていたのか!見ろ、アンティリーネ、あれが火球(ファイアー・ボール)だ!」

 

(がまん...がま...え?あれが火球(ファイアー・ボール)?あんなに範囲広かったっけ?)

 

 ウズルスの言葉を聞き、リーネが目を見開いていく。

 

 その理由は、自分の知っている火球(ファイアー・ボール)よりも明らかに広い効果範囲の為だ。ユグドラシルの火球(ファイアー・ボール)はあそこまで広範囲を爆撃は出来なかった筈だ。

 

 驚愕に目を見開くリーネであったが、その理由に即座に行きついていく。

 

(もしかして魔法範囲拡大(ワイデン・マジック)?それでも範囲が広すぎる気がするわね...あ!分かった、何かしらの効果範囲拡大のスキルを追加で使用していったのね!ふふん、やるじゃない。)

 

「―――なさい!投石です!」

 

「え?」

 

 頭の中で色々と思考していたリーネの耳に突如母の叫び声が届いてくる。

 

 その言葉に続き、飛来してきた岩石が後列に降ってき、大きな衝撃と共に山道がぐらぐら揺れていく。

 

「うわわわ、ととと、危なか―――あ。」

 

 山道のぐらつきにリーネが足を取られ山道の端までよろめいていく、そしてそのよろめいた先には―――地面は無かった。

 

「ちょっと!?嘘!?うわあああーーー!」

 

「アンティリーネェェェーーー!!」

 

 ファーインの叫び声が虚しく木霊する中、リーネが崖下まで転落していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アンティリーネ!アンティリーネェェェーーー!!」

 

「ファーイン様、落ち着いて下さい。」

 

「―――落ち着けですって!?よくもまぁそんな言葉が―――」

 

 陽光聖典隊員の無神経な言葉に怒りを滲ませた言葉をファーインが吐きかけたが、突如崖下から響き渡ってきた轟音にその言葉はかき消されていく。

 

 その轟音にファーインだけでなく他の兵士達も皆一様に目が釘付けになっていく。

 

 全員の視線の先―――崖下に向かい山脈から発生した雪雪崩が鈍い音を立てながら押し寄せてきているのが見える。

 

 そしてその後に起きた光景に、今度こそ本当の意味で全員の目が釘付けになっていった。

 

「~~~――これは...いったい。」

 

「ファーイン様!」

 

「ウズルス部隊長。」

 

 全員の目の前では、押し寄せていた雪雪崩が轟音をあげながら、まるで噴水の様に空中に舞い上がっている。

 

 何かに押し戻されているかの様なその光景をファーインが呆然と見つめていると、後列からウズルスがファーインの元まで駆け寄ってきた。

 

「申し訳ありません、アンティリーネが...直ぐに捜索隊を派遣します。」

 

「部隊長殿、それはなりません。今回の作戦は特級の代物です。人員を割く余裕はないかと。」

 

「な!?しかし―――」

 

「...えぇ、その通りです、ウズルス部隊長。戦場で気を抜く方が悪いのです。この状況で下手に戦力を分散するのは危険すぎます...あの子一人よりも、部隊を優先すべきです。」

 

 ファーインがそう言葉を吐いていき、崖下を見渡していく。そこには先程の雪の噴水はもうなく、静かな風景が広がっていた。

 

 続いて先程投石された場所まで振り向いていく。そこには既に先程の巨人の姿は無かった。

 

(巨人がいなくなっている...なぜ?先程の光景に恐怖を抱いたから?という事はあれは巨人の仕業ではないと言う事かしら。雪雪崩は向こうの山脈付近から押し寄せてきた、雪雪崩を引き起こせる程の衝撃を起こせる者など...ドラゴン?いや、ドラゴンでも普通は無理でしょうね、考えられるとしたら...霧の竜の女王(クイーン)か?あのドラゴンが暴れているなら可能性はありえそうだけど...考えても無駄ね、取りあえずは目先の事に集中しましょう。)

 

「娘の事は心配なさらずに、ああ見えて悪運が強い子です。生きていると私は信じていますので...なので、即座に作戦を成功させてあの子の捜索に向かいます。」

 

「即座に?いくらファーイン様でもジャイアントの集団を簡単には...。」

 

「可能です。もう一度言います、即座に作戦を成功させてあの子の捜索に向かいます。よろしいですね?」

 

「...御意。」

 

(ふん、あぁそう。もうあの子はいらないのね...そういう事よね神官長(クソッタレ)共。)

 

 本国から陽光聖典の増援がくると聞いて、ファーインは自分の補佐と同時にアンティリーネの保護も兼ねていると睨んでいたがそれは外れた様だ。

 

 この隊員の態度を見るに間違いなく神官長達からその様な命令は受けてはいない。奴らは見限ったのだろう、いつまでも目が出てこない混ざり物を。

 

 本命が復帰した以上、もうスペアは必要ない。死んだら死んだ時、その程度だったという事だ。

 

「それでは先を急ぎましょう。また投石を開始されては厄介ですから。」

 

(あの子は強い...身体能力だけなら私を遥かに凌駕している。崖から落ちた程度、ちょっと痛い位だわ...そうよ、そうに違いないわ...アンティリーネ、無事でいてちょうだい。)

 

 ファーインが全体に指示を出し、行軍が再開されて行く。娘の無事を祈りながらも、法国の切り札としての自分が、歩を進めながら頭の中で情報を整理しだす。

 

(もし仮に霧の竜の女王(クイーン)がこの山脈の騒動に絡んでいるとしたら...厄介ね、霧の竜の女王(クイーン)の難度は最低でも180...それもかなり前の調査だし、200は見ておいた方が良いかも知れないわね。私以外ではどう足掻いても対処は出来ない、戦闘にならないよう祈るしかないわね。)

 

 ファーインは必死に進んでいく、最悪の状況を想定しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 見渡す限りの雪景色、幻想的にすら思えるその風景の中に大きな物体がポツリと見えてくる。

 

 強い存在感を纏うその物体は、この世界の者なら誰しもが名前くらいは聞いた事はあるであろう、そうドラゴンだ。

 

 そのドラゴンはピクリとも動かない、地面で体をくるませ瞳を閉じている。恐らく絶賛睡眠中なのであろう。

 

 そしてそんなドラゴンの耳に遠くから大きな音が届いてくる。

 

(ん?何だ?)

 

 のそりと言う言葉が相応しいかの様な動きでドラゴンが体を起こしていき、音の方角を見つめていく。その視線の先には噴水の様に吹き上がる雪が見えてくる。

 

「あぁ?何だあれは?はぁ、全くこの山脈は、おちおち感傷にも浸らせてはくれないって事か。」

 

 そう言葉を吐きながら、ドラゴンがぶるりと体を震わせた後、その背に生えている翼を大きな音を立てて広げていく。

 

「たく、どこのどいつだ?訳の分からん事をしてやがるのは...俺は今、余り機嫌が良くないぞ、見つかったのが運の尽きだったな。」

 

 そしてドラゴンがその大きな羽を羽ばたかせ、盛大に空まで舞い上がっていく。

 

 向かう先は当然、先程の謎の現象が起きていた場所だ。

 

「ふん...少しは俺を楽しませてくれよ。」

 

 そう独り言を呟きながら、目的の場所までドラゴンが空中を飛んで行った。

 

 

 





 大寒波が押し寄せてきて、ぶるぶる震えながら、口から出る言葉は、サミーソーサーやサムシングエルス...若い子達がきょとんとしております。

 どうもちひろです。

 中途半端な2.5章が始まってしまいました。
 できるだけ早く終わらせていきたいと思います。
 お付き合いいただければなと思いますね。

 ここまで読んでくれてありがとうございます。
 次回は多分長くなりそうです。
 来週土曜には投稿出来るよう頑張ります。

 次回も読んで下さいね。それでは、シュバ!

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