あんてぃりーねのゆぐどらしる☆だい☆ぼう☆けん☆ ~泣き虫が伝説になるまで~   作:だいだろすちひろ

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 前回のあらすじ

 軍団増員
 
 NEW 卵から生まれてくる子

 予定 ヤングダルク


運命分岐点

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 アゼルリシア山脈での攻防戦から早一か月。法国軍による作戦は成功に終わり、事態は徐々にだが収束していっている。大きな被害を受けたジャイアント達は力を蓄える為に影に潜み、大人しくしている様だ。そんな状態のジャイアント達を支配下に置く為に、強い力を持ったドラゴン達が攻勢にでる物かと思われたが、そうはならなかった。

 

 霧の竜の女王(クイーン)亡き後に空いていった竜王と言う玉座を求め、山脈の名のあるドラゴン達が争いを始めたからだ。竜王とはその名の通り、ドラゴンの王。人間にとって王と言う名が特別な様に、ドラゴンにとってもまた、その名は特別で、殺し合ってでも欲しい物らしい。

 

 そのせいで山脈が今も尚慌ただしいのであるが、亜人達の下山はそれ程でもない。勿論全くない事は無いが、それでも山脈の騒動に比べれば少ない様に感じる。ドラゴン達はジャイアントの様に、亜人達を無理やり傘下に入れ、劣兵として送り出している訳では無い。この山脈の亜人達にとってはドラゴンは天災の様な物だ。自分達にはどうする事も出来ずに、只過ぎていくのを待つだけ。それは今に始まった事ではないだろう。昔から慣れ親しんだ物であり、いつも通りの光景なのかも知れない。

 

 なので今は只待っているのかも知れない、天災が通り過ぎていくのを、竜王が誕生し、このドラゴン達の争いが終わるのをだ。それまでは息を殺し、細々と暮らしていくのだろう。

 

 これが今のアゼルリシア山脈の現状である。そしてそんな中、法国軍はと言うと、一応は拠点を残し、稀に表れる亜人達を間引いている状況だ。間引きといっても作戦前よりは遥かに少ない。なのである程度の兵を残し、主力は本国に帰還して行っている。ファーインとアンティリーネもその帰還組の一員だ。

 

 その帰還したアンティリーネ事リーネだが、なぜか今、ここアゼルリシア山脈にいた。正確にはここはアゼルリシア山脈付近であるが、その山脈付近に、いつもの姿ではなく、黒髪に黒目、果ては耳はエルフと同じ長さにまで伸ばした、いわゆる変装をした姿で、元気な声を上げながら、ある人物と楽しそうにはしゃいでいる。

 

「いくわよ!ヨンサマ!これが~、アッ!ドロップキックよ!」

 

 そのある人物とは、クアゴアのソナタ事、ペ・ヨンサマである。作戦は終了し、法国軍の多くは本国に帰還して行っている。やっと地中から出てこれる様になったヨンサマの所に、非番を利用して遊びに来ているのだ。

 

 そしてなぜこんな遠くまで遊びにこれているのかと言うと、それは転移アイテムのお陰である。ゲンガーから貰った転移アイテムに地点を登録しておき、いつでも遊べる様にしておいたのだ。

 

 久しぶりの友達との遊びに上機嫌になりながら、ヨンサマの前でゲンガー流ドロップキックを披露していく。

 

「重たそうな蹴りだな、両足で蹴り飛ばすのか。でも当たるかそれ?避けられそうだ。」

 

「当たるかじゃないわ、当てるのよ!」

 

「簡単に言うなよな。」

 

 ドロップキックを見たヨンサマがそう喋り掛けてき、続いてドロップキックの練習をしていく。そんなヨンサマであるが、以前みた時より明らかに体格が良くなっている。恐らく以前食べた金属の効果が表れてきているのであろう。体全ての部位が太くなり、身長も既にクアゴアの平均を上回っている。まだ成長段階であるのにこの体格だ、これから先もっと逞しい体に変貌を遂げていくだろう。

 

「そうそう、そんな感じよ。クアゴアって肉体が武器なんだし、プロレスとか相性良さそうだもんね。体が硬いから攻撃を受けきるプロレスにはぴったりだわ。」

 

「なぁ...受けきる意味はあるのか?避けちゃ駄目なのか?」

 

「受けきるのがプロレスらしいわよ。私の友達がそう言ってた、そいつはたまに避けるけどね。」

 

「避けてるじゃないか...。」

 

 受けるんじゃないのかとぶつくさ言いながらも、ヨンサマが一生懸命プロレスの練習をしている。クアゴアはその体が武器の様な物だ。鋭い爪に鉄鉱石すら噛み砕く強靭な顎と歯を持ち、腕力も人間など遥かに凌駕している。リーネの言う様にモンクなどの肉弾戦を想定したクラスを取得していくのが理に適っているだろう。まぁ、プロレスがぴったりかは分からないが。

 

 一心不乱に練習をしているヨンサマに、次の技を伝授していく為に、リーネが場所を移す事を提案していく。

 

「よし、ヨンサマ、次はラリアットの練習よ!あそこに大きな木が見えるじゃない、あの木で練習しましょ!」

 

 リーネが指さした方角に視線を移せば、そこには大きな木が見えてくる。しかし、そこは丘の上付近であり、今から行けば少し時間が掛かってしまいそうである。練習するのは良いがあそこまでいくのは手間に思えた。

 

 そんなヨンサマの気持ちを察したのか、リーネがおもむろにヨンサマを背に担ぎ出す。そして、ホッっと一声上げながら盛大にジャンプしていった。

 

「おぉーーー!リーネ、お前やっぱり凄いな!俺結構重いと思うぞ!」

 

「ふふふ、私にかかればこれくらい問題ないわ。」

 

 丘までの長距離を、ヨンサマを抱えた状態でひとっ飛びしていく。綺麗な放物線を描きながら、二人が丘まで飛んでいく―――飛んでいくが、丘に近づいて行くにつれて、何やら違和感が押し寄せてくる。何と言うか、微妙に高さが足りない様に思えてくる。

 

 丘に少しづつ少しづつ近づいて行き―――ヨンサマが悲鳴を上げる。

 

「おい!おい、リーネ!ぶつかるぶつかる!壁にぶつかる!」

 

「問題ない。」

 

「問題あるわ!俺が死ぬわ!!」

 

 丘の上まで届かずに、崖の部分に激突しそうになる二人であったが。

 

「アッ!空気振動衝撃(エアリアル・ブレイカー)♪」

 

 崖に衝突する寸前に、リーネの足元に亀裂が出来ていき、それを足場にもう一度ぴょんとジャンプしていく。二段ジャンプの要領で、飛んで行った二人が無事丘の上まで辿り着き、綺麗に着地していく。

 

 アゼルリシア山脈の一件から一か月は経つ。既にある程度スキルの変貌は把握済みである。ユグドラシルではこの様に、足から亀裂を発生させたりは出来ない。しかし現実になった事により、テキスト通りに様々な部位から亀裂を発生させる事が出来る様になっていた。ユグドラシルでは微妙なスキルであったが、現実になる事により、途轍もない応用力を秘めた万能スキルに変貌を遂げている様だ。

 

「よっと!到着♪」

 

(かなり使いこなせる様になったなぁ。感覚があるからユグドラシルより格段に使いやすいわね。でも気を付けないと、これに慣れたら向こうで使いこなせなくなっちゃうな。その辺は要注意かも。)

 

「うおぉぉい!死ぬかと思ったぞ!やめてくれよな、俺はお前と違って簡単に死ぬんだぞ!」

 

「へへへ、驚いた?ドッキリ成功♪」

 

 相手にとっては洒落では済まないドッキリを仕掛けていき、意地悪な顔でそう言葉を返していく。そして怒ったヨンサマと追いかけっこをした後に、先程の続き―――プロレス技の練習をまた二人で始めていく。

 

 ドスンドスンと周囲に鈍い音が鳴り響いていく。その音と共に巨木がミシミシ揺れている光景を見つめながら、人間が食らえば潰れちゃうなとリーネが思っていると、練習をやめたヨンサマがこっちを振り向いている。

 

 どうしたのだろうと思い声を掛ければ、どうやら少し疲れてしまった様だ。一旦休憩を挟もうとヨンサマが提案してくる。その提案に了解の意を返していったリーネがある事を思い出し無限の背負い袋(インフィニティ・ハヴァサック)漁り出す。

 

 そしてあるアイテム―――鉄鉱石を取り出していった。

 

「じゃじゃん!ヨンサマにお土産よ、アダマンタイトあげる!」

 

「うお!マジかよ!ありがとな、でももう俺は成長期が来てるからな、食っても強くなれないんだ。」

 

「えっ、そうなんだ...いらない?」

 

「んな訳あるかよ、俺の為に持ってきてくれたんだろ?ありがたく貰うさ!」

 

 パァっとリーネの顔が明るくなっていく。友達にプレゼントをあげるなど初めての事だったが、喜んでもらえた様だ。ニコニコ笑顔を作りながらアダマンタイトをヨンサマに手渡そうとしたリーネであったが―――手渡す寸前に、にやりと悪い笑みを浮かべていく。どうやら、また何かいたずらを考え付いた様である。

 

「ふふふ、ヨンサマ、もう疲れは取れたでしょ?休憩は終わりよね?」

 

「ん?あぁ、そうだな、もうそろそろいいかな―――って!おい!?」

 

「それなら良かったわ!特訓さいか~い!」

 

 そう叫びながら、手渡す筈だったアダマンタイトを盛大に放り投げていく。鉄鉱石とは思えないほどの速度で空中までアダマンタイトが飛んでいく。遠くに、遠くに飛んでいく。

 

「あれを取って戻ってくるのが今からの特訓よ!頑張ってね!」

 

「お前ぇぇぇ!覚えてろよぉぉぉ!」

 

「いってらっしゃーい♪」

 

 ニシシといたずらっ子な笑い顔で、叫びながら走っていくヨンサマの後ろ姿をリーネは見送っていく。盛大に罵声を飛ばしながらも、ヨンサマは一生懸命鉄鉱石を追いかけていった。

 

 

 

 

 

 

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 目を覆いたくなる様な眩しい日差しが、アゼルリシア山脈を照らしていく。今日は晴天だ。空を見上げれば雲一つなく、いつもなら冷たい風も、日光のお陰かどこか暖かく感じる。

 

 そんなアゼルリシア山脈の麓に、山脈を目指し歩を進めていく人物の姿が見えてくる。

 

 立派な体格をした偉丈夫が、その体格に見合うような立派な全身鎧を身に纏い、山脈に向けて歩を進め続ける。

 

 その身に纏う全身鎧は白金で作られており、降り注ぐ日光を浴び、爛々と輝き続けている。

 

 その風貌から察するに、恐らくは何処かの国の―――それも上級な騎士だろうか。高名な冒険者と言う線もあり得そうだ。

 

 黙々と歩を進め続けていたその騎士風の人物の足がピタリと止まっていく。続いてその兜で覆われた顔で周囲を見渡し出した。

 

「...ここは余り変わらないな、最後に来たのはいつだっただろうか。」

 

 そして周囲を見渡した後に、ポツリと独り言を呟いていく。何やら懐かしがっている様な様子だ。

 

「久しぶりだと言うのに、この姿とはね。まぁ、私も簡単には外に出られない身だ。優しい彼女なら許してくれるだろう。」

 

 この言葉を聞くに、恐らくこの人物はこの山脈に誰かを訪ねて来たようだ。しかし、この山脈は亜人やドラゴンが跋扈する土地。人間などが住んでいる筈もないのであるが、一体この人物は誰に会いに来たと言うのだろうか。

 

 騎士風の人物が独り言を呟いた後、しばらく立ちすくむが、気も済んだのか、再度山脈に向け歩を進めようとした。

 

(―――なんの音だ...あれは、鉄鉱石...なぜあんな物が飛んでいる...それに...亜人が追いかけている?)

 

 歩を進めようとした瞬間に、遠くから物音が聞こえてき、そちらに振り向いていく。

 

 振り向いた先には風切り音を上げながら、飛来していく物体が遠目に見えてくる。騎士風の人物の言葉通りならその物体は鉄鉱石なのであろう。高速で飛来していく鉄鉱石を、常人なら視認する事すら難しい程の距離から、正確に正体を見破っていく。

 

 鉄鉱石が飛んでいると言う異常な事態に、騎士風の人物が困惑していると、その鉄鉱石を追いかける様に、一匹の亜人が走っている姿が見えてくる。その亜人が走っている姿を騎士風の人物は姿が見えなくなるまで見つめ続けた。

 

「...どういう状況なんだいこれは。鉄鉱石が飛んできた方向は...あの辺りか。」

 

 意味不明な状況に困惑する騎士風の人物が、飛んできた方向に視線を移す。そしてしばらく見つめ続ける。考え事をするかの様に、ジッと。

 

「気になるね。鉄鉱石といい、亜人といい。飛んできたと言う事は誰かが飛ばしたのかな。少し様子を見に行って見ようか。」

 

 そう独り言を呟きながら、好奇心に惹かれた騎士風の人物が、山脈とは別の方向に向け歩を進め―――突如ふわりと浮き上がる。

 

 目的の場所を見つめながら、空中を散歩でもするかの様に、騎士風の人物は飛び去って行った。

 

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

 

「...ヨンサマ遅いな...遠くに投げすぎたかな?」

 

 鉄鉱石を追い駆けていったヨンサマを暇そうに待つリーネがそう独り言を呟く。少し強く投げすぎてしまった様だ。ヨンサマは一向に返っては来ない。

 

 地面に座り込み、ポカポカ陽気に晒されながら大きく口を開け欠伸をしていく。今日はいい天気だ、このまま帰ってくるまで昼寝でもしようかと思いながら頬を指でポリポリ掻いていく。そしてその指に付けている指輪に目がいく。

 

(この指輪を付けて正解ね。探知阻害を行ってると、強さが分からなくなるみたい。私が怒っちゃうと皆怖がっちゃうからね、ヨンサマもダルクも何も感じなくなったって言ってたし、良かった。でも逆に気味が悪いとか言ってたわね、二人共感覚鋭すぎ。)

 

 この世界はユグドラシルとは違う。自分の強すぎる力は他の生き物達にとっては物凄い重圧になる様である。特にドラゴンなどは感覚が鋭敏な分それが露骨に出てくる。オラサーダルクがぶるぶる震えていたのがいい例だ。

 

 自分が少し不機嫌になったくらいで二人を怯えさせたりなどしたくない。二人共友達で、対等の関係だ。言いたい事も言えず、口喧嘩の一つも出来ない様な関係等はご免である。

 

 指輪を見ながら、盛大にまた大きな欠伸をしながらウトウトしていると。

 

(―――んが?帰ってきたかな...え、誰?)

 

 寝落ちしそうになっていた所に気配を感じていき、そちらの方向に振り向いていく。そこにいたのはヨンサマではなく―――全身鎧を身に纏った大柄な人物であった。

 

 見事な鎧である。爛々と輝くその色は銀とは少し違う様な気がする、その輝きは恐らくは白金か。作りも非常に細かで、明らかに高価な物である事が伺える。

 

 その人物を訝し気に見つめていく。

 

 ここはアゼルリシア山脈付近、人間にとっては危険地帯である。見た所目の前の人物は一人の様に見える。こんな危険地帯に一人で来れる人間など生半可ではない。それが可能な人間を頭の中で考えて行き、一つ思い当たる事があった。

 

(もしかして冒険者?鎧もなんか豪華だし、噂のアダマンタイト級冒険者かな?)

 

 アダマンタイト級冒険者―――その称号を持つ者はこの世界では一騎当千の猛者達であり、周辺国家でも最強の一角に数えられる程だ。

 

 英雄と呼ばれる人外達に匹敵する程の強者であるならば、単独でここまで来れても不思議は無い様に思える。続いてここまで来る理由を考えて行き―――リーネの瞳に危なげな光が灯る。

 

(もしかして異業種狩り?いや、ここじゃ亜人狩りなのかな...ヨンサマとぺの氏族の皆を虐めたら許さない。)

 

 冒険者がここまで来る理由、それは亜人討伐などのモンスター退治であろう。山脈の調査と言う線もあり得そうだが、冒険者はモンスター退治の専門家達である。討伐と言う線で考えた方がしっくりくる。

 

 見据える目が徐々に鋭い物になっていく。もし仮にヨンサマに危害を加えるつもりならば、この人物には少々痛い目を見て貰う事になるだろう。殺すまではしないが、腕の一本位は覚悟して貰いたい。

 

 ちなみにオラサーダルクは余り心配されてはいない。なぜならアイツは滅茶苦茶に強いからだ。自分にとっては大した事は無くても、ドラゴンと言う最強種であるオラサーダルクが人間に殺される姿は想像がつかない。逆にこの人物を頭からバリボリ食べてしまいそうだ。

 

 地面からゆっくり立ち上がりながら、相手を見つめ続ける。先手を打って取り合えず一発ぶん殴った方が良いのだろうか。気絶させるくらいは容易いので、気絶させ、転移アイテムでどこか遠くに捨ててこようかなどと思いながら拳を握り締める―――が、それよりも先に向こうから喋り掛けてきた。

 

「驚いたな、この辺りにエルフが居たと言う記憶は無いんだが。君はこの山脈に住んでいるのかい?」

 

「...別に住んでないわ、友達に会いに来てただけ、ていうかおじさん誰よ?ここに何しにきたの?」

 

「私かい?私は...私は”リク”。ここには知り合いを尋ねに来ててね。そうしたらこの辺りから何かが飛んで行ったから、気になって見に来ただけさ。」

 

「知り合い?こんな所に?おじさん...じゃなかった、リクさんは知り合いに会いに来ただけで、別に亜人を殺しに来たわけじゃないのね?私の友達は亜人なの...傷つけたら只じゃおかないから。」

 

 少し剣呑な空気を纏いながら、リクに対して強い口調でそう言い放ち、その後リクの雰囲気が少し変わっていく。その姿は少し驚いている様であった。

 

「友達...亜人とエルフが。成程、あの亜人は君の友達だったのか。そうか...君の名は何と言うんだい?」

 

「え、私?私は...私は”リサリサ”。」

 

「リサリサ、種族の垣根を越えて、手を取り合える君は本当に素晴らしいと私は思うよ。私にも、昔様々な種族の友人がいた、一緒に旅をした、懐かしいね。いや...それを懐かしむ資格など私には無いのかも知れないがね。」

 

「?」 

 

「いや、こちらの事だ、気にしないでくれ...ほら、そろそろ君の友達が返ってくるよ。」

 

「は?何言ってるの?」

 

 友達が返ってくると言うリクがゆっくりと指を指していく。振り向きその方向を見てみるが、そこにはヨンサマの姿は見えない。

 

 どこにいるんだと目を細めながら見つめていると。

 

「もうしばらくしたらここまで辿り着くと思うよ。」

 

(そう、懐かしむ資格など私には無い...そうだね、リク...少し長居し過ぎてしまった。そろそろ行くとしよう。)

 

       ―――世界移動―――

 

 リクの周囲に淡い光が浮かび上がり、そのまま姿を消していく。そして姿を消すその瞬間まで、リクは目の前で一生懸命友達を探している人物を見つめ続けた。

 

(リサリサ、君のその道は茨の道かもしれないよ。君は私の様な過ちを犯さない様にね。しかし、エルフか...一体どこからここまで来ているのか。あの男の作った国からか?あのエルフの...オッドアイの軽戦士―――)

 

        ―――八欲王―――

 

(~~~――!!)

 

 リクの姿が搔き消えた瞬間、身を震わす程のプレッシャーがリーネを襲っていく。

 

 突如身を襲った心臓を突き刺す様なプレッシャーに目を見開き、全力で後方に振り向いていく―――が、そこには既に誰も居なかった。

 

(何なの、今の!?アイツは、リクはどこ!?)

 

 余りの出来事に放心状態になっていく。その場から動こうにも、足が地面に打ち付けられている様に動かない。息を少し荒げながら、リクの居た場所を見つめていたリーネの手にネチョリとした感触が伝わってくる。

 

 手を見て見れば、その手は汗で滲んでいる。今日は確かに晴天であり、暖かいのであるが、それでも汗をかく程の気温ではない。しかしそれでも、その手は汗で滲んでいる。

 

気圧(けお)された!?嘘でしょ、あんな奴に!?)

 

「お~い、リーネ~、飛ばし過ぎだぞ~。大変だったんだからな―――おい!どうしたんだお前、顔色悪いぞ!?」

 

「...え?何言ってるの、ヨンサマ、大丈夫よ。ていうか、ヨンサマ私の顔色とか分かるの?」

 

「嘘つけ!さっきと全然違うじゃないか!昨日今日あった仲じゃないんだ、他の人間なら分からないが、お前の顔色くらい分かるさ。強がってないで座って少し休めよ。」

 

「...うん、ありがと。」

 

 ヨンサマに介抱して貰いながら、地面に座っていきながらも、頭の中に渦巻くのは忽然と姿を消した先程の人物―――リクの事だ。

 

 先程受けた身も凍るようなプレッシャー、あれは以前受けた母からのプレッシャーすら上回っている様に感じられた。それが意味する事は母以上の強者である可能性。

 

 そして、今の自分より強者である可能性。

 

 そんな存在がこの世界に居るのかと考えて行った時―――考えられるのは一つだけだった。

 

(リク...間違いない...アイツが私と同じ、世界を行き来しているプレイヤー。それも多分カンストプレイヤーね。こんな所に普通に表れるとは思わなかった...危なかったわ。反応を見る感じ、異業種姫とは気づかれてなかった見たいね。変装しててよかった。)

 

 母や自分を凌駕している存在―――人間などこの世界には居ないだろう。考えられるのはただ一つ、それはプレイヤーだ。

 

 警戒はしているつもりだった。それでも、やはりどこか楽観的な部分があった―――頭の片隅にはいつも、自分を害せる者などこの世界には居ないと言う思いがあったのだろう。しかし、今回の件でその思いは完全に消し飛んで行った。

 

 自分はユグドラシルの嫌われ者、異業種姫だ。ある一定層からはやけに人気はあるが、それでも人間種のプレイヤーは自分を敵視している者の方が多いだろう。現実である以上は即座に殺し合いとはならないとは思うが絶対はない。

 

(リク...覚えたわよ。向こうに返ったら情報を集めた方が良いのかな...でもどうやって集めよう...私情報屋の知り合いなんていないよ。)

 

 自分の交友関係の狭さに悲しくなっていると、隣でヨンサマが心配そうな顔でこっちを見ているのが目に入ってきた。続いて自分もヨンサマの表情が分かる事に気づいていき、その事に嬉しくなり、少しほほ笑みながら、ヨンサマとお喋りを始めていった。

 

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

 

 リサリサの元から転移で移動していったリクの姿が山脈の頂に見える。

 

 白金の鎧を輝かせながら、一歩、また一歩と目的の場所に向け歩を進めていく。やがて目的の場所に辿り着いたのだろう。ピタリと歩を止め、目的の場所を―――知り合いを見つめていく。

 

「やあ、久しぶりだね、エルミレ。悪いね、知らせは聞いていたんだが、中々外に出れなくてね。来るのが遅れてしまったよ。まあ優しい君なら許してくれるね。」

 

 リクが言葉を発するその先には、大きな白い竜の―――エルミレの亡骸が見えてくる。

 

 死後一か月は経っているだろうその亡骸は、以前山脈の頂に蹲っている。寒冷地帯である山脈のお陰で、未だ原型を保ってはいるが、亡骸の至る所に傷みが見えてくる。徐々に腐食が始まっている。

 

 リクの知り合いとはエルミレの事だったのだろう。言葉を聞くに、エルミレの死去を聞き、最後の挨拶を済ませに来たと言う所か。

 

 リクの言葉にエルミレからは当然の如く言葉は返っては来ない。

 

 それでも、尚リクは語り掛けていく。

 

「君は君の竜生を全うできたんだね。生ある者はいつか死ぬ、そして死んだ君という存在は土に帰り、それを糧にこの山脈は育まれて行くだろう。君の死は確かに私も悲しい、それでも君は、君の大好きだったこの山脈に帰る事が出来た、その事が私は嬉しい。」

 

 エルミレに対して―――死んでいった友に対して哀愁の漂う言葉を投げ掛けていく。

 

 そして徐々に言葉に含まれている感情が変わっていく。悲しみとは別の感情が含まれていく。

 

「命は循環されて行く、世界の理に基づいて。私は、そんなこの世界が好きだ。だからこそ、この世界を荒らす者を私は許しはしない。私が世界を守る。」

 

 そこに含まれていたのは、怒りか、それとも憎悪か。

 

 言葉に熱が入ってきたリクがはっと我に返っていく。ここには最後の別れを告げに来たのだ。そんな場で彼女に掛ける言葉ではないだろう。

 

「悪いね、エルミレ、私の悪い所が出てしまったみたいだ。もう行くよ、今までありがとう...またいつか会おう...友よ。」

 

 その言葉を最後に、リクがその場を去っていく。

 

 そして去り際に悪い所と言う言葉が脳裏を過り、ある人物の事を思い出していく。

 

(リサリサには悪い事をしてしまったね。なぜかあのオッドアイのエルフの面影に彼女を重ねてしまい、いらぬ殺気を向けてしまった。いつか会えたら謝らなくてはね。)

 

 亜人を友達に持つエルフの少女―――リサリサ。

 

 転移する際に彼女の姿を見つめていたら、なぜか八欲王の姿が重なり、感情が高ぶってしまった。何一つ特徴は似てはいなかった筈なのだが。

 

(見た目も雰囲気も何も似てはいなかった筈なのにね。不思議な事だ。不思議と言えば、リサリサからは何も感じなかった...不気味な程何も。)

 

 本当に不思議な娘だと言いながら、リクの周囲に淡い光が漂いだす。そして転移を行い、山脈から姿を消していった。

 

(いつかまた会おう、リサリサ。その時はゆっくりと話したいものだね。君が信用に足る人物であるならば、私の本当の名前を教えてもいい。リサリサ、私の本当の名は―――)

 

  ―――ツァインドルクス=ヴァイシオン―――  

 

 





 どうもちひろです。

 今回は特に長々と書く事はありませんね。(いつもそうしろ)

 強いて言えば、この話の仮タイトルは「運命の分かれ道」でした。
 カッコつけたかったので分岐点にしたのですが、意味は合ってるのでしょうか?分からない。

 もう少しで死の運命に分岐する所でしたが、なんとか危機は脱しましたね。
 これを機に彼女も少しは危機感を持ってくれるんじゃないでしょうか。

 次回は幕間を投稿し、三章に入ります。
 そう、皆さまから、「うん、知ってた。」と言われる三章に・・・。

 2.5章まで読んでくれてありがとうございます。
 そして、感想を下さる皆さま、誤字脱字報告を下さる皆さま、評価を下さる皆さま。
 本当にありがとうございます。
 文章力や、お話の構成力なんかは、実際、今のちひろにはどうしようもない事です。
 なので、出来ない事は忘れて(努力しないとは言ってない)今のちひろに出来る事を全力で頑張って、次章も書き上げていきたいなと思います。

 次章も読んでくださいね。それでは、シュバ!
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