あんてぃりーねのゆぐどらしる☆だい☆ぼう☆けん☆ ~泣き虫が伝説になるまで~   作:だいだろすちひろ

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 想像以上に遅れてしまいました、申し訳ない。

 ちひろは復活しました。

 そしてこのタイトルの適当さよ...。


3章 ナザリック攻略戦
鳥と悪魔と粘体と半森妖精


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 薄暗く陰気な雰囲気が立ち込める。

 

 ここは【ヘルヘイム】、クラン【ナインズ・オウン・ゴール】が拠点とする世界で、肩身の狭い異形種プレイヤー達の憩いの世界でもある。

 

 そしてここはヘルヘイムの荒野―――フィールドである。

 

 周辺に目を向ければ、複数のモンスターが動き回っているのが目につく。

 

 カエルの様な見た目をしたモンスターと大きな蛇のモンスター。それぞれがAIの元、組まれた行動パターンに従って、周辺をうろついている。

 

 戦うべきプレイヤーを探しながら。

 

 そしてそのうろついているモンスターの一体―――カエルの様な見た目をしたモンスターが急に地面に倒れ伏す。

 

 地面に倒れ伏す前に”ドッ”と言う音を響かせながら。

 

 続いて大きな蛇のモンスターも、同じように地面に倒れていった。

 

 その際、先程と同じように、ドッと言う音が聞こえてきた。

 

 倒れ伏したモンスター達が光の粒子となり消滅していく。消滅と言う言葉の通り、これは誰か―――プレイヤーの手により攻撃され、倒されて行ったのだろう。

 

 しかし、周囲に人影はない。もしこれを行った人物がいるのなら、それは超遠距離から正確に攻撃を繰り出せる人物だろう。視認できない程の距離から、獲物を射抜き、仕留める。

 

 それはまごう事なき、神業である。

 

 倒れ、光の粒子になったモンスター達から可愛い効果音と共に、金貨やクリスタルが辺りに散らばっていく。

 

 しばらくするとその散らばった金貨やクリスタルの元に人影が映し出される。恐らくは先程モンスター達を射殺した人物であろう。散らばった金貨やクリスタルを戦利品として回収しにきたと言った所か。

 

 人影が大きくなってくる。その影は二つ合った。

 

「うわぁ、マジで当たってる。凄すぎない?」

 

「へっへっへっ、どう?凄いっしょ♪このぺロロンチーノ様に掛かればこれくらい朝飯前だぜ!」

 

 二つある影の一つはアンティリーネ。

 

 異形種姫などの数々の異名を持つ、ヘルヘイムの重鎮にして最強の一角を担うプレイヤーである。

 

 その隣でヘラヘラ笑っているこの人物の名前は”ぺロロンチーノ”。ぺペロンチーノではなくぺロロンチーノである。

 

 鳥人(バードマン)と呼ばれる種族―――異形種で、クラン、ナインズ・オウン・ゴール切手の弓使いであり、後方支援最強の男だ。

 

 ぺロロンチーノの神業に、アンティリーネ事リーネが、驚愕を露わにし褒め称えていると。

 

「コンソール捌きなら負けないぜ?この指でどんだけのエロゲやって来たと思ってんの?俺の指裁き、もといキーボード捌きで幾多のエロイン達をヒィヒィ言わせてきたんだからな!」

 

「...チッ...最低。」

 

 褒められている事に気を良くしたのか、ヘラヘラとした雰囲気が更に増していき、ペラペラとそう言葉を発しだす。

 

 しかし口から出てくる言葉は酷い物だ。間違っても女性に―――うら若き乙女に対して吐きかけて行っていい言葉ではない。

 

 ペラペラと最低な言葉を吐き続ける相手に対し、ゴミでも見る様な視線を浴びせながらリーネが盛大に舌打ちをしていく。

 

 しかしぺロロンチーノの言葉は止まない。たかだか舌打ちくらいでこの男が動じる筈もないのだ。ゴミを見る様な視線も、この男にとっては御褒美みたいな物である。エロゲーマーの精神は鋼で―――いや、七色鉱で出来ているのだから。

 

「ユグドラシルももっとエロ系モンスターを増やすべきだよな。ロリロリ吸血鬼とか最高かも!よぉ~し、お兄さん頑張っちゃうぞ~♪」

 

「~~~――...あ、そう。ペロさんの趣味にとやかく言うつもりないけどさ、私を襲うのはやめてね。可愛いからってお尻でも触ったらぶん殴るから。」

 

 手をわしゃわしゃさせながら、気持ちの悪い言葉を吐き続ける相手に対し、嫌言をチクリと言っていく―――言っていくが。

 

「は?何で俺がお前のケツ触んなきゃならない訳?俺は”ロリ”が好きなの、”ババア”は及びじゃないの。」

 

 爆弾が投下されて行く。

 

「バ、ババア!?私はまだ15歳よ!」

 

「何言ってんのお前?15ってババアじゃん。俺は10歳までしか認めない。もう5歳若くなってから出直してきな。でも心配すんなよ!ロリは愛でるもの、俺は紳士だからな、お触りは厳禁だ。」

 

 胸を張り、自信満々に相手がそう言い放つ。うら若き乙女の自分に対してババア呼ばわりしてくる相手に対し、信じられない物でも見るかのような視線を向けていく。

 

 続いて沸々と怒りが沸いてくる。だんだん腹が立ってきた。

 

「しんっじらんない!!!何なのこの人!?普通そんな事言わないでしょ!?」

 

「図星突かれたからって怒るなよぉ、おばさん。」

 

「羽毟って焼き鳥にするぞ!この糞鳥!」

 

「いやん怖い♪」

 

「あっ!待てぇぇぇ!」

 

 怒りの余りぶん殴ってやろうかと近づこうとしたが、危険を察知したのかぺロロンチーノがその背に生えている立派な羽を広げ急遽上空まで浮上していく。

 

 流石はぺロロンチーノと言った所か、危険を察知してから上空に逃げるまでのタイムラグは殆どない、離脱する際も確実に迎撃できる姿勢と角度で上空まで逃げていく。

 

 仲間に対してそこまで警戒して飛ぶ必要もない訳だが、日頃の癖が抜けていないのだろう。弓使いとして、いついかなる時も相手を射抜くのが彼の仕事なのだから。

 

 ぺロロンチーノ―――ふざけた言動とお茶らけた仕草で勘違いされがちだが、彼は非常に優秀な人物だ。癖の強いクランの中でも取り分け癖の強い男であるが、その実力はクランでも上位に位置する。つまりは凄く強い、リーネと同じガチ勢の一人である。

 

「この変態が!実力と性格がマッチしてないのよ!もう...かくなるうえは。」

 

 上空では自分に向かい、ババアだなんだと叫び続けるエロ鳥の姿が見えてくる。体をくねらせ気持ちの悪い踊りを披露する相手に対し、ふぅっと溜息を一つ吐く。

 

 続いて鋭い眼光を向けていく―――切り札を切る。

 

「ぜぇぇぇんぶ!”かぜっち”に言いつけてやるうぅぅぅ!」

 

「すいませんでしたぁぁぁぁーーー!!」

 

 切られた切り札【かぜっちに言いつける】がぺロロンチーノに炸裂していく。

 

 その効果は絶大だったようだ、上空を陣取り、変態踊りを披露していた相手がまるでミサイルの様に地面まで急降下してくる。

 

 砂煙を盛大に巻き上げながら相手が自分の元まで滑ってくる。そしてその姿勢は見事な物だ、両手を地につけ、額は地面に埋もれるが如く擦りつけられている。

 

 これこそが、リーネの切り札である、かぜっちに言いつけるに対抗するべく切られた、ぺロロンチーノの切り札【土下座】である。それもスライディング土下座だ。

 

 地面を滑る様に疾走していた相手がピタリと自分の目の前で止まっていく。自分の足元に、寸分の狂いもなくだ。こんな所でも高い技術を見せつけてくる相手に対し、勿体ない物を見るかのような目で見降ろしていき―――右足で盛大に頭を踏んづけていく。

 

「ねぇ、ペロさん...いいや、ペロロンチーノ。あなた言っていい事と悪い事の区別もつかない訳?あなた何歳なの?今年二十歳だったよねぇ。親しき中にも礼儀ありって言葉もあるのよぉ。ババアは流石に駄目でしょ?ねぇ聞いてる?」

 

 ぐりぐりぐりぐり踏んでいく。そうしていると、小さな笑い声が耳に届いてくる。非常に気持ち悪い笑い声が。

 

「...へへ...うへへへ。」

 

「う、嘘でしょ...よ、喜んでる...。」 

 

 そう、変態紳士であるぺロロンチーノからすれば、女性に頭を踏み付けられるなど、最早ご褒美にしかならない。それは15歳のババアであっても同じだ。できれば10歳以下のロリに踏まれたい所であるが、ロリに踏まれてしまえば理性が吹き飛んでしまうかもしれない。

 

「へ...何で?何で喜んでるの?」

 

「おっ、良いねその声。ドン引きしてるのが分かる。それも紳士たる俺にはご褒美だ。ありがとうございます。」

 

「気もちわるーーーい!!」

 

 悲鳴が上がる。その悲鳴はヘルヘイムの薄暗い大地に山彦の様に木霊していった。

 

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

 

「怒んなよ~、軽いジョークじゃねかよ。」

 

「軽い?あれで?」

 

 一しきり漫才を続けた二人であるが、気を取り直して目的の場所まで向かっていく。

 

 今日は別に二人と言う訳では無い。他のメンバーとも遊ぶ約束がある為に、待ち合わせの場所まで二人は向かう。

 

「男は皆エロゲ好きなんだよ、モモンガさんだってああ見えて家ではエロゲしてんぜ、絶対。うへうへ言ってるって。」

 

「...そう、あの骨はもう駄目ね、手遅れだわ。」

 

 その様に談笑をしながら歩を進める二人。しばらく歩いた後、目的の場所が見えてくる。そこには二人の異形種の姿が見える。

 

「ほら、下らない事してたから、待たせてるじゃない。ヘロヘロさんとウルさんに謝んないとね。」 

 

 待ち合わせの場所で首を長くして待っているであろう二人―――ヘロヘロとウルベルトに申し訳なさが出てくる。

 

 ヘロヘロ―――古き漆黒の粘体(エルダー・ブラック・ウーズ)と言うスライム系統の最高位に位置する種族であり、漆黒を思わせる黒い塊が常時姿を変貌し続けている様は不気味さを際立たさせている。

 

 ウルベルト―――正式名称は”ウルベルト・アレイン・オードル”であり、山羊の顔に禍々しい眼帯を着用した、最上位悪魔(アーチ・デヴィル)であり、ワールド・ディザスターと言われる特殊な職業(クラス)に就く人物で、クラン最強の魔法詠唱者(マジック・キャスター)である。

 

「―――それでですね、うちの上司がですね。仕事をこれでもかと振ってくるわけですよ。もうきつ過ぎて...へろへろですよ。」

 

「うちも大概ブラックですけど、ヘロヘロさんの所には負けますね。おっ、馬鹿二人が着いたみたいですよ。」

 

「聞こえてるし、このエロ鳥と一緒にしないで。ていうか”建やん”は?」

 

 目の前の二人を見つめながら、周囲を見渡していく。今日は建御雷も来る筈であったのだが、姿が見えない。彼が遅れるのは珍しいなと思っていると。

 

「建御雷さんは今日用事が出来たみたいで来れないってさ。」

 

「...そう、残念。寂しいけどウルさんで我慢してあげる。」

 

「ほう、言うじゃねえか”ちんちく”。」

 

 その言葉を聞き、二人の間に剣呑な雰囲気が流れる―――などと言う訳では無く、それどころか、二人はどこか楽しげだ。

 

 たっち・みー、モモンガ、アンティリーネの三人から始まったクラン。気づけばそのクランは九人になり、”ナインズ・オウン・ゴール”と言うクラン名まで出来上がった。

 

 あれからもう二年になる。クランの人数の増加は留まる事を知らず、現在では二十八人にもなる。

 

 それだけの人間が集まれば、必然的に気の合うメンバー同士の集まりも出来てくる。いわゆる仲良しグループと言う奴だ。

 

 今のクランの中で特に仲の良いグループは、数少ない女性メンバー同士のグループ。建御雷と弐式炎雷のコンビ。これは昔からだが。モモンガとぺロロンチーノのコンビ。そしてこの二人、ウルベルトとリーネのコンビである。

 

「その口黙らしてやろうか?あん?」

 

「お、良いわね。PVP?前は良くやったわよね...懐かしい。言っておくけどウルさん。昔の私と思わない事ね、今の私に勝てるのは、ワールド・チャンピオンくらいよ。」

 

「この間建御雷さんに負けてたじゃねぇか。」

 

「たまには負けるわ。うん、たまには。」

 

 会話を続けていた二人が急に距離を取っていく。続いてコンソールを開き操作を始めた。二人が操作する内容は勿論、フレンドリィ・ファイアの解禁―――PVPモードへの移行である。

 

 飛行を発動させ、空中に陣取ったウルベルトが右腕を上げていく。非常に仰々しい動きだ。中二病的な動きとも言えるその動きはやけに堂に入っている。

 

 その動きを見据えながら、姿勢を尖らせる。鷹の様に鋭い眼光で空中に陣取る相手を見据えていく。

 

 そして右手が振り下ろされ、魔法による爆撃が開始される。

 

 仲良しコンビの決闘が―――PVPと言う名の遊びが始まっていく。

 

 魔法最強化(マキシマイズ・マジック)魔法三重化(トリプレット・マジック)で強化された魔法が雨あられの様に降り注ぐ。その魔法の雨を、まるで舞踊でも踊るかのように華麗にかわし続けていく。それも只かわすのではない、着実に相手の―――魔法詠唱者の懐に潜り込む為に接近していく。

 

 ワールド・ディザスターの魔法の嵐を回避し続けるなど普通のプレイヤーには不可能だろう。しかし、今魔法をかわし続けているのはヘルヘイムの恐怖の象徴とまで言われる化け物プレイヤー、異形種姫アンティリーネなのだ。

 

 この二年で、プレイヤースキルは飛躍的に向上した。クラス構成も隙の無いよう組まれており、生半可なプレイヤーでは最早手も足も出ない程だ。

 

 そんなプレイヤーなら、これくらい出来て当然だろう―――それ位は相手も分かっている。

 

「!!」

 

 華麗に魔法をかわし続け、地面を踏み抜いた瞬間に、けたたましい爆発音と共に地面が爆発していく。

 

 誘導―――予測。どちらかは分からないが、相手は自分が踏み抜く場所を正確に見抜き、その場所に爆撃地雷(エクスプロードマイン)を仕掛けられていた。爆音と共に煙が舞い上がる。ダメージは大した事はない―――が、視界が悪くなる。目的は恐らくこれか。

 

 視界を正常に戻す為に、煙を振り払っていく。そして振り払われた後に見えてきたのは巨大な炎の塊だった。

 

 直撃する―――そう思われたが。

 

「シッ!!」

 

 バァンと言う効果音の元、炎の塊がきびすを返し、弾き飛んでいく。弾き飛んで行った先は魔法を発動させていった人物―――ウルベルトの元だ。

 

 魔法を弾き返していった部分、リーネの左腕には小型の盾が手首に装着されている。この盾はこの二年間、一生懸命素材を集め、試行錯誤を重ねた自分の愛盾。

 

 神器(ゴッズ)アイテム”リーネシールド”である。

 

 この盾には反射(リフレクション)の効果が付与されており、パリィの要領でタイミングを合わせれば魔法を弾き返す事が可能である。

 

 しかしタイミングはシビアであり、簡単ではないのであるが、現在のリーネにはどうやら朝飯前の様である。

 

 弾き返された魔法がウルベルトに向け飛来していくが、瞬時にウルベルトの姿が掻き消える。転移魔法による回避を行ったのだろう。そして転移した先―――その周囲には空間にひび割れが点在していた。

 

「お?嘘だろ、マジで―――うおぉう!?」

 

「あちゃあ~、避けられたか、流石ウルさん。」

 

 空間のひび割れ―――空気振動衝撃(エアリアル・ブレイカー)の効果を確認していった瞬間、慌てて周囲を見渡していった所、目と鼻の先を足が通過していきウルベルトが悲鳴を上げていった。

 

 ウルベルトが転移で逃げる所までは読んでいたので、パリィの瞬間にスキルを発動させておき足場を作り空中を駆け抜けていた。

 

 見ればひび割れを右手で掴み、頭上に悲しみのアイコンを点灯させているリーネが見えてくる。ついさっき殺人キックをお見舞いした人物のアイコンとは思えない。

 

「やっぱお前頭おかしいわ、普通出来ねぇからなそんな事!」

 

「ふふん。次は私のダークネス・ボディブローをお見舞いするわ!」

 

「くうぅ、なんつうカッコイイ技名だ!」

 

 軽い言葉を交わしながら、二人はPVPを続けていく。

 

 前は良くこうやってPVPをして遊んだものだ。戦士と魔法詠唱者、お互いが自分と正反対の相手との立ち回りを勉強する為に切磋琢磨し続けた。

 

 なぜこの二人がここまで仲良く遊んでいたのかと言うと、それはウルベルトがある人物の友人であった為だ。ウルベルトはその人物と非常に仲が良かった。その人物の推薦で、このクランに参加したのだから。

 

 そして、リーネもその人物と非常に仲が良かった。いつも三人でつるみ、冒険した。沢山沢山悪さもした。たまには返り内に合う事もあったが、それでも良かった、なぜなら、また三人でやり返しに―――遊びに行けるのだから。

 

「二人共~、そろそろ終わらせてくださいよ。私とぺロロンさんは暇なんですけど。」

 

「は~い。」

 

「あいよ。」

 

 ヘロヘロの言葉に二人が了解の意を示していく。

 

 このままでは長期戦になりそうであったので、次に先に攻撃を受けた方が負けと言う事で二人は頷きあう。

 

 そして最後の攻防が始まっていく。楽しい楽しい遊びが終わりに近づいて行く。

 

 リーネとウルベルトはとても仲がいい。その中の良さはクランでも一番かも知れない。

 

 ウルベルトはある人物と非常に仲が良かった。そしてリーネもその人物と非常に仲が良かった―――その繋がりがあったから、この二人は今でもとても仲良しだ。

 

 二人は、ある人物と非常に仲が良かった。

 

 その人物は―――”ツーヤ”はもういない。

 

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

 

 空中から轟音を上げ何かが飛来してき、地面に衝突していく。舞い上がった砂煙が消えていき、そこに居たのはウルベルトだ。続いて空中からリーネが降りてくる。その両手は盛大にvサインを作っている。

 

 このPVP、勝ったのはアンティリーネ。

 

 魔法発動の一瞬の隙を付き、ウルベルトの腹部に強烈なボディブローを炸裂させていった。PVPを観戦していた二人が決闘を終えた二人の元に歩み寄っていく。

 

「うわぁ、痛そうですね。ウルベルトさん大丈夫ですか?」

 

「ゲームじゃなかったら悶絶してますよ。もう俺でも手が付けられませんよコイツは。」

 

 喋り掛けてきたヘロヘロに対しウルベルトがそう言葉を返していく。

 

 最早ウルベルトを持ってしてもリーネは手に余る。現在のクランのメンバーで彼女の相手を務める事が出来るのはたった二人だけ、たっちと建御雷くらいだ。

 

「はい私の勝ち~。ヘロヘロさんイエーイ!」

 

「ああ、おめでとう。イエーイ。」

 

 ヘロヘロとリーネが勝利のハイタッチをしていく。

 

 パチパチと手を叩きあう二人に混じろうとぺロロンチーノもウェーイと手を上げていくが―――その手は盛大に弾き返される。

 

「触んないでよ、変態。」

 

「嘘だろ!?ヘロヘロさんと俺で態度違い過ぎないかお前!?」

 

「あのねぇ、ペロさん。私はね、敬意を示す相手は選ぶ女なの。私の事をババアなんて呼ぶ相手には雑に対応するのは当然の事でしょ?むしろ、さんてつけてるだけありがたいと思って欲しい。」

 

 子供を諭す様にぺロロンチーノに喋り掛けていく。

 

 そしてその言葉にピクリと反応していったのはそばに居た二人だ。聞き捨てのならない言葉が聞こえてきたからだ。

 

「おいおい、ぺロロンさん。確かにコイツはちんちくりんだが、ババアは酷くないですか?」

 

「なんでだよ!だってババアじゃん!15歳ってババアじゃん!」

 

「ウルベルトさん、この鳥はもう駄目ですね。たっちポリスに連行しましょう。」

 

「...アイツは駄目だ、甘すぎる。ぶくぶく処刑人に処刑して貰った方が良いのでは?」

 

 二人の会話を聞き、不味いと思ったのかぺロロンチーノが空中に避難しようと身構えるが、時既に遅し。にゅるりと黒い粘体が動きだし、ぺロロンチーノの懐に潜り込む、そしてそのまま羽交い絞めにされていく。

 

 その動きを目にし、リーネが感嘆の溜息を吐いていく。

 

 見事な運足だ。文句一つ付けようがない、正に達人の域―――いや、そんな言葉でも収まらないかもしれない。

 

 少しの隙も無く、無駄を全て省いた動き。動きと動きの間の繋ぎ目がまるでないかのようだ。

 

 最も恐ろしいのは動きに移る際の予備動作が殆どない事だ。何かの動きをする際、その動きに移るまでの動作―――動きが必ず発生する。

 

 しかしヘロヘロの動きはそれを極限まで削っている。故に初動が分かりづらい、気づけば既にヘロヘロは動いているのだ。そしてスライムと言う粘体生物の体がその動きの読みづらさに拍車をかけていく。

 

 息をすってそれを吐くかの如く自然にそれ程の動きをしていくヘロヘロにリーネは戦慄していく。ぺロロンチーノ程の猛者が簡単に懐に潜られ、拘束されるのも頷けると言う物だ。

 

(この人本当に何者なの?体捌きだけならたっちさん超えてるわね。たっちさんは何も言わないけど絶対この人の異常さに気づいてるでしょ。盾のお姉さんといい、ヘロヘロさんといい、隠れた猛者はいる所にはいるのよね。)

 

「おいぃぃ!は・な・せ!は・な・せ!」

 

「ナイス、ヘロヘロさん。このままぶくぶく処刑人の元まで連行しようぜ。多分そろそろ留置所に皆集まってんだろ。」

 

「いやぁぁ!それだけはやめて下さいぃぃぃ!」

 

 羽交い絞めにされているぺロロンチーノが喚き散らす。と言うより最早泣き叫んでいるレベルだ。必死に拘束から抜け出そうとするがモンクであるヘロヘロの身体スペックに叶う筈もなく、そのままズルズルと引きずられて行く。

 

「もう、皆で今から楽しく遊ぼうと思ってたのに最悪。たっちさんとかぜっちに処刑と言う名の正義を執行して貰ってきなさい。」

 

「ふざけんなぁぁ!処刑が正義であってたまるかよぉぉーーー!ヘロヘロさん、慈悲をーーー!」

 

「15歳の女の子にババアとか言う人に慈悲はありません。さぁ行きますよ。ウルベルトさんお願いします。」

 

「あいよ。ゲート。」

 

 そしてウルベルトが最高位の転移魔法を唱えていく。禍々しい時空の穴はまるで地獄の入り口を連想させた。まぁ、連行されるぺロロンチーノからしてみれば、それは正真正銘地獄への入り口なのだが。

 

「はぁ、全く。いつの世も嫌な思いをするのは私みたいな善良なかわい子ちゃんなのよね。ペロさんみたいな変態の所為で世は荒廃するのよ。度し難し、度し難しってやつよ。」

 

「訳分かんねぇ事言ってんじゃねぇよぉ!あぁ、やめてぇ!姉貴は嫌だ!いやだぁぁ!」

 

 そして抵抗も虚しく、ぺロロンチーノはゲートの中まで引きずられて行った。茶釜送り完了である。

 

「じゃあな、ぺロロンチーノ。更生するのを祈ってるぜ。」

 

「いや、更生しないでしょ?多分明日にはヘラヘラしてるわよ、あれ。」

 

「はは、ちげぇねぇな。それがあの人の良い所でもあるんだが...あんま怒んなよ、悪気はねぇんだ、あれ。」

 

「何が?別に怒ってないわよ。ああいう人って知ってるし、面白いからからかってるだけだから。ウルさんこそ、あんまり気を使わなくていいんだよ。」

 

「けっ、ガキが言うじゃねぇか。全く、いつからそんな物分かりが良くなっちまったのかね。」

 

「あの日から...かな。」

 

「...だな、あの日からお前、我儘言わなくなったもんな...嫌な事思い出させてわりぃな。」

 

「ほら、またそうやって気を使う。私は良いの、ウルさんも処刑見たいでしょ。行って来て良いわよ。私もちょっとブラブラしてから留置所に行くから。」

 

「へいへい、湿っぽいのは俺ららしくねぇもんな。んじゃ先に帰っとくわ。」

 

 二人にとっての嫌な思い出、そして悲しい思い出。それを振り払うかの様にウルベルトが頭を振ってかき消していく。

 

 そしてクランのメンバーが集まっているであろう留置所に向かう為にゲートをくぐる。その際に、非常に小さな、誰にも聞こえない様な声量で一つ言葉を吐きながら。

 

「気を使ってんのはお前だろ...あんま無理すんじゃねぇよ。」

 

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

 

「あ~あ、行っちゃった。私やりたい事あったけど、しょうがないよね、雰囲気壊したくないし...それで嫌な空気になったら嫌だし。」

 

 ウルベルトを見送った後に、そう一人ごちる。自分としてはやりたい事はあったのであるが、はしゃぐ二人にその様な事も言える筈もない。

 

 辺りを見渡しながら、何をしようか考えていると。

 

「忍。」

 

「ぎゃああああ!!」

 

 考え事をしている最中に突然耳元で謎の単語が聞こえてくる。急な声に驚き、叫びながら振り向いていく。そして振り向いた先には誰も居ない―――かに思われたが、良く見れば空中で回転している忍者らしき人物が見えてきた。

 

 回転しているそれはそれは綺麗に。飛んでいる、見事な放物線を描きながら。

 

「あ、あ、ごめんなさい!」

 

 驚き振り向いた際に反射的に手が出てしまった。裏拳の要領で当てられた拳によって、忍者が吹き飛んで行く。

 

 そしてそのまま地面に落下する。ギュラギュラギュラギュラ回転しながら転がっていき時折バウンドしながら吹き飛んで行く。最早ギャグの様なその光景に少し笑いそうになってしまう。最終的にその人物は岩に直撃し動きを止めていったが、そのままピクリとも動かない。心配になって駆け寄っていくと。

 

「だ、大丈夫ですか?急に喋り掛けてくるから。」

 

「ニィィィン!忍法やせ我慢!!」

 

「あぁ、元気ですね。良かった良かった。」

 

 元気に立ち上がる相手を見て安心していく。続いてその風貌に目が行く。真っ黒な忍者装束、額当てまで付けており誰がどう見ても忍者な人物。この様な人物に知り合いはいない。一体何者だと考えていると。

 

「お初にお目にかかる、忍者プリンセス。」

 

 おや?と思い辺りを見渡す。もう一人忍者がいるのだろうか。キョロキョロリーネは辺りを見渡すが誰も居る気配はない。不思議に思いながらも向き直れば、忍者が未だこちらをジッと見つめている。

 

「は?え、私の事?」

 

「忍。そのとおりでござる、忍者プリンセス、アンティリーネ殿。」

 

「はは、遂に私も忍者になったか。はは...もうやめて、これ以上変な通り名増えるの嫌なんだけど。」

 

「これは拙者が呼んでるだけでござる。気にする事なかれ。名乗りが遅れた、拙者はギルバート・リーと申す。」

 

 ギルバート・リー、ユグドラシルでは超がつく程の有名人だ。その知名度は異業種姫を超えてくるだろう。

 

 驚きと共にリーネの纏う雰囲気が変わっていく。剣呑な雰囲気を纏いだす。

 

「あら、そっちから来るとは思わなかったわね。こそこそと良くもまぁ、ここまで大ごとにしてくれた物ね。アンタの所為で私のユグドラシル生活は波乱万丈よ。」

 

「ほう、気づいていたでござるか。」

 

「あのね、私こう見えても古参プレイヤーな訳よ。長い事居るんだし、出来そうな奴はだいたい検討は付くわ。アンタくらいしかいないでしょ。」

 

「流石は忍者プリンセスでござるな。それに波乱万丈でござるか。それはそれは良かったでござるな。やったかいがあるという物。」

 

「あ?殺す(PK)ぞ、てめぇ。」

 

「忍法不死身でござる。忍、忍。殺されても直ぐに復活するでござるよ。しかし、口が悪くなったでござるな。誰の影響でござろうか、あの悪魔の影響か?これはまた好都合、そちらの方が映えるでござるな。」

 

 少し強めに脅しを掛けていくが未だ相手は軽い雰囲気を崩さない。しかしこの反応は予想通りだ、ユグドラシルで殺された所でちょっとしたLVダウンが起こるだけ、むしろPKした事で警戒でもされればこれから先出会うのは困難になるだろう。なので実際にそんな事はしない。

 

(ムカつくわねコイツ。ていうか映えるってなによ、私をどうしたい訳?)

 

「忍、忍。」

 

(せめて理由くらい聞きたいけど、なんかはぐらかされそうね。)

 

「忍、忍。」

 

(本当、いい迷惑。)

 

「忍、忍。」

 

「―――ん?あぁ、呼んでたの?ていうか”ねぇねぇ”見たいに言うのやめてくれる、分かんないからそれ。」

 

「忍。」

 

「......。」

 

(会話にならないじゃないの!私コイツ嫌い!)

 

 成立しない会話。ギルバートとは会話にならないと言う噂は良く聞くが、正にその通りだったようだ。

 

 ギギギと有名な擬音が聞こえてきそうな程、歯噛みしていくリーネに対し、ギルバートが喋り掛けてくる。

 

「アンティリーネ殿、貴女を利用している事は拙者としても心苦しい。」

 

「あ?喋れるじゃん、いつもそうしてくんない?」

 

「しかしこれからも貴女を利用させてもらうでござる。その代わりと言ってはなんだが、拙者に出来る事なら出来るだけ貴女の力になりたいと思っている。」

 

「じゃあこの悪評消して。」

 

「それは出来んでござる。忍、忍。」

 

 帰ってきた言葉に、チッと一つ舌打ちをしていく。しかし考えようによってはこれは悪い事ではない。ギルバートの持つ情報は絶大だ。味方に付ければその恩恵は計り知れないだろう。

 

 相手は自分を利用する。自分も相手を利用する。良い関係とは言えないが、悪い関係とも言えないだろう。

 

「グレンデラ沼地。」

 

「ん?グレンデラ沼地?グレンデラ沼地ってあの毒沼の?ツヴェークの巣窟でしょ?」

 

「左様。頭の片隅にでも入れておくと良いでござる。何やら()()()()があるかもしれんでござるよ。」

 

「面白い物?」

 

「忍、忍。それでは失礼するでござる。」

 

「あっ、ちょっと待って。いきなりだけど、一つ頼み事してもいい?」

 

「...忍?」

 

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

 

 辺り一面に広がる沼地。薄暗く日の光も届かない湿地帯で不気味な声が鳴り響く。

 

 グエグエグエグエと不気味な声を発しているのは、ツヴェークと呼ばれるモンスター達である。高LVのツヴェーク達が、湿地帯で蠢いている。

 

 そんなツヴェーク達に気づかれる事も無く、一つの影が姿を表す。その影から覗かせる眼光は鋭い。

 

(ふむ、頼み事とは人探しでござったか...しかし、”リク”でござるか。どこにでも居そうな名前でござるな。情報としては、恐らくカンストプレイヤー、そして白金の鎧を着ていると...カンストプレイヤーが白金の装備など装備するでござるか?なんともちぐはぐな奴。)

 

 鋭い眼光で先を見据えるギルバートが先程の頼まれ事に対して思いを巡らせる。

 

 どこにでも居そうな名前、LVに見合っていない装備、なんとも奇妙な人物だと。

 

(アンティリーネ殿、このギルバートの名に懸けて、全力で事に当たらせて貰おう。そして―――。)

 

 ギルバートの見据える先―――巨大な沼地の中央には大きな建物が見える。

 

 大きな建物が―――墳墓の様な物が。

 

(拙者の言葉を聞き流すか、はたまた信用し調査に来るか、それは貴女次第。そしてこれを発見し、貴女はどうする?)

 

 不気味な声が鳴り響く中、ある人物に思いを馳せていく。

 

 これからのユグドラシルを掻き乱し、盛り上げていくであろう人物に。

 

(この規模のダンジョン、一筋縄ではいかんでござるよ。しかしそれでも、これくらいはこなして貰わねば...アンティリーネ殿、貴女はユグドラシルの伝説になるのだから。)

 

 

 





はだしのリーネ「ギギギ...グギギ。」

ウルベルト「どうした?遂に逝っちまったか?」

 
 第三章 開幕 ナザリック攻略

 ・アンティリーネ15歳。

 少しフランクな感じになりましたね。
 お姉さんらしさが出せてたら嬉しいです。

 ・ツーヤ・タ・メーヤ = ヤーメ・タ・ヤーツ  
 
 さよなら、ツーヤさん。
 アンティリーネは泣いてたらしいですよ。

 
 どうもちひろです。

 遅くなり申し訳ない。
 そして今回も前回ばりの会話ばかりの退屈な回で本当に心苦しいです。
 お話を進めていくにあたって、細かい部分も入れた方が良いのかな?と思ったので書きました。
 実際どうなのかは分かりませんが、後に生きてくればいいなと思います。
 次とその次は現地のお話で進めたいなと予定しています。
 アイツやアイツやアイツが出てくる予定なので、そこで少しでもオバロ成分を摂取してもらって、ナザリックの攻略に臨みたいなと思います。
 次回ももしかしたら少し遅れるかも...
 
 それでは、読んでくれてありがとうございます。
 ギギギ...グギギ!!
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