あんてぃりーねのゆぐどらしる☆だい☆ぼう☆けん☆ ~泣き虫が伝説になるまで~   作:だいだろすちひろ

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 ちひろは生きてますよ。 

 
 前回のあらすじ

 ぺロロンチーノ、茶釜に処刑される。


それがしの名は

 ♦

 

 

 

 

 

 

「アオちゃ~ん、ほら~、うりうり~♪」

 

「きゃはは、ママ~、くすぐったいよ~♪」

 

 アゼルリシア山脈に来ているリーネが、娘である小竜”アオイ”と楽しく遊んでいる。

 

 なんともほのぼのする光景である、アオイもドラゴンであるがまだ幼く体も小さい。お腹を擦られてキャッキャ喜ぶ姿はまるで子犬の様だ。

 

 種族は違えども、そこにあるのは確かな親子の姿。目を細めたくなる様な、心温まる光景がそこにはあった。

 

「うりうり~、うりうり~♪URyyyーーー♪」

 

「きゃははは♪」

 

 そしてこの二人が、アゼルリシア山脈と言う危険地帯でなぜこれほどほのぼの出来ているのかと言うと、ここがオラサーダルクの縄張りであるからだ。

 

 生態系の頂点であるドラゴンの縄張りには簡単に侵入者などやっては来ない。二人がここまでのんびり出来ているのはそのおかげだ。

 

 その肝心のオラサーダルクであるが、今はここには居ない。今ここにいるのは二人だけである。

 

「―――っと、うひゃ~、派手にやってるわね。」

 

 二人が無邪気にはしゃいでいた時、山脈に轟音が轟く。音の方角に目を見やれば、大きな砂煙が目についてきた。そしてその煙の中から二匹の巨大な生物が空中に飛び出てくる。

 

 そう、巨大な二匹のドラゴンが。

 

「...やっぱ、アイツ強いわね。今日の相手は山脈の五本指には入るって言ってた筈だけど。初めて会った時偉そうにしてただけの事はあるわね。」

 

 飛び出てきたドラゴンの一匹はオラサーダルクである。竜王を決める苛烈な戦いは今も尚続いている。特に今日の相手は次期竜王候補の一角である相当の猛者の筈であるのだが。

 

 一方的だ。どちらがなど言うまでもない、オラサーダルクが次期竜王候補の一竜を一方的に打ちのめしている。

 

 相手のドラゴンも必死に抵抗しているが勝負になっていない。まるで相手になっていない。

 

 最早蹂躙に近いのではと言う程の光景をリーネは遠くから見つめ続ける。

 

「いやぁ~、凄いわねこれ、怪獣大戦争みたい。」

 

「かいじゅう...だいせんそう?」

 

「そうよ、ママの大好きな作品なの、怪獣王って言うすっごく強い奴がいるのよ。そしてそこに出てくるの、おっきな体の金色のドラゴンが!首が三つあるのよ!凄いでしょ!」

 

「ぴょえ~、凄い。首が三つってお顔も三つあるの?」

 

「そうよ、そしてその口から、雷をバババババ~ってだすの!」

 

「ぴょ!?凄い!アオもそんな竜になれる?」

 

「う~ん、それは無理かなぁ~。ていうか、あんないかつくなったらママ嫌だなぁ。」

 

「そうなの?じゃあならない!!」

 

 可愛い。アオを見ているといつも思う言葉が脳裏を過る。本当にこの子は素直で、優しくて、良い子だと。ドラゴンらしくはないが、産みの親のドラゴンもかなりドラゴンからかけ離れた性格をしていたらしいのでその性格を受け継いでいるのだろう。

 

 そして今日ここに来た目的はこの子と遊ぶのが目的ではない。この子を、この笑顔を守る為にここに来たのだ。

 

(ダルクは強い、それでもアイツにも限界はある。いつまでもアオを気にかけて戦ってはいられない。ムンウィニアが出張ってでもくれば...アオを守りながら戦うのは至難の技ね。アイツの話をする時のダルクは目つきが違う。簡単に捻り潰すとか言ってるけど、恐らく、実力は拮抗している。)

 

 ムンウィニア=イリススリム。

 

 山脈最強のドラゴンに最も近いオラサーダルクに匹敵する程のメスのドラゴン。

 

 非常に好戦的なドラゴンで、エルミレと言う抑止力がいなくなった今、彼女の暴走を止める手立てはない。

 

 オラサーダルクと並び、竜王候補の一竜でもある。

 

(私も常に一緒には居られない。情けない話ね、親失格なのかな...えぇい、今はそんな事考えてる暇じゃない!)

 

 親としての責務を果たせない自分に罪悪感が沸いてくる。そしてその思いを頭を振りかき消していく。

 

 今日はそんな事を考える為にここに来たわけではないのだ。目的を忘れてはいけないと自分に言い聞かせ、一つのアイテムを取り出していく。

 

「ぴょぴょ?ママそれ何?」

 

「ふふん、てれれてってて~♪”カインアベルの血晶(けっしょう)”♪今日はアオのお世話係さん達を呼びます。」

 

 カインアベルの血晶―――ゴブリン将軍の角笛などに代表されるモンスター召喚用のアイテムである。

 

 カインアベルと言う名前の通り、召喚されるモンスターは吸血鬼であり30LVのヴァンパイア・ブライト、それも専門職に特化した者達が呼び出される。

 

 ヴァンパイア・ブライト、タイプ侍、タイプ矢伏(レンジャー)、タイプ魔法詠唱者の三体からなるモンスターが召喚され、時間経過で消える事はなく、消滅するまで存在し続ける。

 

 30LVでは少し心もとない気もするが永続召喚系アイテムでこのLVは破格だ。ゴブリン将軍の角笛などはゴブリンが10体以上出現するがそのLVは10前半程である。というか、どの召喚アイテムでもそんな物だ、そう考えると30LVは破格だと言えるだろう。

 

 これ以上のLVのモンスターを永続的に使役する為にはユグドラシル金貨を用いた傭兵モンスター召喚などの方法を取らなくてはならなくなる。そして実はリーネはその傭兵モンスター召喚用のアイテムも、モンスターデータもなに一つ保有してはいない、それはなぜか。

 

 大きな理由はリーネが所属しているのがクランである事が挙げられる、モンスターを召喚した際、その召喚したモンスターは留置所などの施設に収納する事が出来ず、野ざらしにせざるを得ないからだ、簡単に言えば置き場がないのである。

 

 そしてクランで大規模に活動する際も、人数が足りないチームに傭兵モンスターを入れるよりも、傭兵NPCをレンタルして組み込んだ方が安上がりであるし、モンスターと言う特色が強い存在よりも、キチンとしたビルドが組まれた専門職のNPCを組み込んだ方がチームとしてのバランスは良いからだ。

 

 高い金を払ってデメリットの多い傭兵モンスターを召喚するか、安い金で時間の制約はあるが傭兵NPCをレンタルするかを天秤に掛けていった際、やはりクランである以上はNPCの方に振れてしまうだろう。

 

 これがギルドであった場合は話がガラッと変わってくるのであるが、残念ながらリーネ達はギルド拠点を保有してはいない。

 

「ふぅ...緊張するな、大丈夫かなこれ。」

 

 鼓動が高鳴る。なぜならこれは諸刃の剣かも知れないからだ。

 

 ユグドラシルではこちらの指示に忠実に動いてくれる召喚モンスターであるが、ここは現実である、フレーバーテキストが現実化してしまう様な状況下で、必ずしもユグドラシルと同じようにモンスターが忠実である保証はない。召喚した瞬間、襲い掛かってくる可能性だって無きにしも非ずだ。

 

 ゴクリと唾を飲み込み、リーネはアイテムを発動させていく。

 

 その瞬間、血晶が砕け散り、辺りに鮮血が飛び散る。飛散した鮮血は血溜まりとなり、しばらくしてゴポゴポと言う効果音と共にある形を形成しだす。

 

 真っ赤な血が脈打ちながら、吸血鬼の姿に徐々に変貌していく、その光景を見つめ続けているリーネはと言うと。

 

(グッロォォォ!!アベルちゃん!グロすぎるってこれぇぇ!このアイテムには、暴力的なシーンや、グロテスクな表現が含まれていますって表記しといてよぉぉ!)

 

 盛大にドン引きしていた。

 

 最近よくやるレトロゲー―――版権切れの100年程前のゾンビゲーみたいに、キチンと表記しとけと心の中で喚き散らす。

 

 見る人によっては失神するくらいグロイ光景を引きつった表情で見つめていき、次第に姿形が鮮明になっていく。程なくして、完全に吸血鬼の姿が形作られた。

 

 黒い長髪を後ろで結び、刀を腰に差し、侍の服装をした吸血鬼。

 

 金の短髪でボーイッシュな見た目で、弓を手に持つ矢伏の吸血鬼。

 

 腰に届く程の銀の長髪を風になびかせ、豪華なローブを身に纏った吸血鬼。

 

 三体の吸血鬼が目の前に出現する。

 

 はぁ、と感嘆の溜息をリーネは吐く、三体の吸血鬼の共通する部分に対して。

 

 それはその美貌だ。美しい、同性である自分ですら見惚れる程の美がそこにはあった。これが魔性の美と言う奴なのであろうか。

 

(っと、いけないいけない、気を緩めるには早いわね。さてと、成功なのかな、襲ってくる気配はないけど。)

 

 成功か否か、重要な所はそこだ。成功であった場合、これから先、アオの安全はかなり高い確率で保障される。

 

 この三体はお世話係兼護衛役である。この三体のLVは30LVであり、この世界の言葉に言い換えるならば、難度90という事になる。

 

 難度90、それは人間で言えばアダマンタイト級冒険者の一部や、英雄と言われる一騎当千の猛者達と同格の強さである。

 

 そう、人類最高峰の猛者達と同格なのだ、数値上では。

 

 吸血鬼は強い。種族特性として魔法を扱える事に加えて、高い身体能力を有している。ハッキリ言って人間など比べ物にもならない、数値上では英雄と互角でも、身体能力で言えば英雄を遥かに凌駕している。

 

 ジッとこちらを見つめ続ける三体の吸血鬼をリーネは見渡していく。その中で一人の吸血鬼に目線が行く。それは侍の吸血鬼だ、この吸血鬼がこの中で一番ヤバい。

 

 肉弾戦が得意な吸血鬼の特性にガッチリとフィットしていくビルド。リーネが思い描く吸血鬼のビルドの中で二番目に強いだろうと思えるビルドだ。

 

 一番はバトルクレリックなどに代表される神官戦士だろう。只でさえ肉弾戦も出来る神官戦士が、吸血鬼の高い身体能力のかさましで、本職の戦士と比べてもなんら遜色のない程の域にまで到達する。

 

 それに加え、回復魔法、信仰系の攻撃魔法、バフやデバフの支援魔法に、吸血鬼の特性から来る魔力系魔法まで使ってくるという、最早やりたい放題っぷりである。

 

 残念ながら神官戦士の吸血鬼は召喚できなかったが、侍でも十分だろう。

 

 物理特化の侍と、周囲の探索に長けた矢伏、そして支援魔法と攻撃魔法を扱える魔法詠唱者の三人がいれば、アオに危険が迫った時、例えフロスト・ドラゴンが相手でも逃がす事くらいは出来るだろう。

 

「お初にお目にかかります、我らが主よ。」

 

「うわ、喋った!あ、そっか現実だから喋るか。」

 

 長い沈黙を破る様に、目の前の三体の吸血鬼の一人、侍の吸血鬼が言葉を発した。ユグドラシルでは召喚モンスターが喋るなどと言う事はない、現実とゲームの違いに驚いていると―――何やら様子がおかしい、自分の言葉を聞いた途端、相手の表情が変わった。その表情は、なんと言うか悲痛な表情に見える。

 

「主の許可なく言葉を発してしまうなど、僕失格...この罪、命を持って償います。」

 

「は?」

 

 侍の吸血鬼が急に訳の分からない事を言いだす。

 

 罪?命?何言ってんだコイツと思いながらリーネが戸惑っていると、気づけば侍の吸血鬼の右手には小刀が見える、恐らく脇差と呼ばれる物だろう。

 

 その脇差を両手に握り―――突如自分の腹部に向け振り落とす。

 

「切腹ぅぅぅ!!!」

 

「ちょ!?ちょ、ちょっと待って!!」

 

 脇差が腹部に突き刺さりそうになる寸前、ピタリと手が止まる。腹部に突き刺さる寸前で、皮一枚だがギリギリ静止させる事が出来た様だ。

 

 ぶわりと額から汗が噴き出てくる、それも変な汗だ、冷や汗とでも言うのだろうか。何でこんな訳の分からない事をするのか相手に問いただそうとするリーネであるが、テンパり過ぎて中々言葉が出てこない。

 

 少し呼吸を整え、意を決した様に相手に問いかけていく。

 

「あ、あのぉ~、何でそんな事するの?」

 

「許可なく言葉を発し、主を不快にさせました、なので死んで償おうと。」

 

「それぐらいで死ぬなぁ!生きろよぉ!頑張って生きてよぉ!そんなんで死なれたら罪悪感で私押しつぶされちゃうから!」

 

「...なるほど、生きろと。」

 

 ホッと胸を撫で下ろす。これからお願いしたい事が色々とあるのにこれくらいで死なれては堪った物ではない。

 

 リーネの必死の訴えに相手も理解してくれて―――

 

「忠義を尽くす主を不快にさせた、その罪を背負いながら、武士として生き恥を晒し続けろと...そう言うのですね。腹を切る事すら出来ぬ武士だと、笑われながら生きて行けと...それが罰なのですね。」

 

「うん、全然違う。取りあえず一旦落ち着こうよ、ね?ね?」

 

 ―――はいなかった。よく見れば侍の吸血鬼の言葉の後に、残る二人の吸血鬼がうん、うん、と頷いている。今の会話で一体何を理解したというのか、当事者のリーネですら何一つ理解できていないというのに。

 

(え?何?何なの?何かこいつら怖いんだけど、目つきが何かおかしいわよ、陽光聖典が光の神に祈ってる時とおんなじ目してるんだけど―――あ、ちょっと、アオ!)

 

「こんにちは!アオだよ!」

 

 トコトコと三体の吸血鬼に向け、アオが小走りで近寄っていき、元気よく挨拶を行っていく。活発なのはいい事だが、怖い物知らず過ぎる。見た感じこの三体から敵意は感じないが確証はまだない。

 

「...ドラゴン?」

 

「あ、あぁ、この子は私の娘なの、貴女達にはこの子のお世話と―――」

 

「ぴょ?挨拶が返ってこない?アオの元気が足りないから?よぉ~し、こんにちは!こんにちはぁ!!こんにちはぁぁ!!!」

 

「―――アオ、ママは今大事な話をしてるのよ、元気なのはいい事だけど、少し静かにしてね、いい子だから出来るよね?」

 

「うん!分かった!静かにする!!」

 

 そういいながら、口を両手でみゅーんと押さえていく。何なんだこの可愛い生き物はと思いながら、相手に向き直っていく。話の続きをする為だ。

 

「まぁ、早い話が私はこの子にずっと付いていてあげれないから、貴女達にお世話を任せたいの、あとこの辺りは物騒だから、護衛も兼ねてるわけ。出来る?」

 

「はっ!主よ、その大役見事果たしてご覧に入れましょう。」

 

「いや、そこまで気合を入れなくても...ていうか、主はやめて欲しいかな、私はアンティリーネ。アンティリーネ・ヘラン・フーシェよ。リーネって呼んでもいいわよ。」

 

「リーネなど、恐れ多い。アンティリーネ様、その大役我ら三人の命を懸けて果たしてご覧に入れます。おい、お前達。」

 

 侍の吸血鬼の言葉と共に残る二人の吸血鬼が一歩前に出る。先程から思っていたが、恐らくこの吸血鬼がこの三体の中のリーダー各なのであろう。自分との会話も全て請け負っているし、その様に考えながら何をするのか見ていると。

 

 すっと三体が片膝をつく。そしてゆっくりと頭を垂れていった。

 

「我ら三人、これよりアンティリーネ様に全身全霊を持って仕えさせて頂きます。我ら三人の命、如何様にもお使い下さい。ここに我ら三人の忠義を捧げます。」

 

「「捧げます!!」」

 

 その言葉の後に更に深々と頭を垂れていく。

 

「...ひゃ、ひゃい、よろしくお願いしまちゅ。」

 

 忠義の言葉に対し、噛み噛みの震え声でリーネは言葉を返していく。しかし恥ずかしさは微塵もない、むしろ言葉を発す事が出来た自分を褒めてあげたいほどである。

 

 頭を垂れ続ける三体に頭を上げる様にお願いしていき、その後アオの元にまで向かっていく。あるアイテムを渡す為に。

 

「アオ~、ママね、この後用事があるから帰らなきゃならないの、ごめんね。このアイテム渡しておくから、何かあったら使うのよ、ママとお話出来るから...何かされたら直ぐに呼ぶのよ、良いわね?」

 

「ぴょ?分かった!」

 

 三体に見つからない様に、こっそり通信アイテムを渡していく。あの様子を見る限りまず間違いなく大丈夫だとは思うが念には念をと言う奴だ。

 

「それじゃあ、私用事があるからさ、帰るけどアオの事よろしくね。」

 

「はっ、お嬢の事は心配なさらずに、全力でお守り致します。」

 

 その言葉を聞き、乾いた笑いを漏らしながら転移のアイテムを起動させていく。さて、どこに転移しようか。そう、どこにだ。

 

 ぶっちゃけて言うと、リーネにこの後の用事などない。単純にこの場から逃げ出したかったからあのような事を言っただけだ。あれ以上は耐えられない、あれ以上あの三体の相手は出来そうもなかった、精神が崩壊してしまいそうだったからだ。

 

 転移アイテムによってリーネはその場から消えていく。そして転移してきた場所は大きな森林地帯の付近である。ここは最近地点登録を済ませていたある森付近である。

 

 美しい自然を目の前に、リーネは大きく深呼吸をする。大きく息を吸い、そして吐き出していく。それを幾度か繰り返していくと少し気持ちが和らいでいく。

 

 そして美しい自然を見渡しながら、ポツリと一言呟いた。

 

「え...何、アイツら...アイツら...マジだ。」

 

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

 

「さてと、急に暇になったわね、こんな筈じゃなかったんだけど。丁度ここまで転移してきた事だし冒険の続きでもしようかな。」

 

 持て余した時間をどうしようかとリーネは考えて行く。そしてその後に続く言葉、冒険の続き。

 

 これは言葉通りの意味である。最近彼女は時間が出来ては色々な所を巡り、冒険をしている。この世界には彼女の知らない事は山ほどある、故に彼女は知りたいのだ、どんな場所があり、どんな生き物が存在しているのか。見た事の無いアイテムはあるのか、ダンジョンはあるのか。

 

 それは飽くなき未知への探求心。ユグドラシルと同じ、未知を既知の物に変えていく冒険である。その行為は、やはり彼女は生粋のユグドラシルプレイヤーと言う事なのであろう。

 

 周辺国家―――人類の生存圏の中ですら未知の領域は沢山ある。エイヴァージャー大森林、カッツェ平野、トブの大森林、アゼルリシア山脈もその一つであるのだが、あそこは大体冒険し終えている。

 

 リーネの視線の先、少し遠くに見えるのはどこまでも続く森林地帯、”トブの大森林”。アゼルリシア山脈に続き、リーネが目指すのはトブの大森林の探索である。

 

 ゲンガーに貰った転移アイテムを駆使し、少し進んでは地点登録し、後日また探索に来るというやり方で、少しずつ進んで行くと言うのが彼女の冒険の方法だ。この方法なら帰るまでの時間を計算しなくて良いのでじっくり冒険する事が出来る。

 

「広い森...なんだかワクワクするわね。よし、それじゃ冒険に出る前に変装をしよう。今日は何にしようかな、久しぶりにジャンバラヤをこよなく愛する女、アサギリにでもなろうかなぁ。」

 

 外で活動する際定番となってしまった変装をしようとする―――しかし、今日はなんだかアサギリと言う気分ではない、何か別の、そう今まで変装した事の無いキャラに変装したいなと思っていく。

 

 色々と頭の中にキャラが浮かんでくるが、どうにもしっくりくる物が出てこないそんな中、ふと脳裏に先程の吸血鬼三姉妹が浮かんでくる。

 

 ピコンと頭の上に電球が浮かぶ、そうだ、今日は吸血鬼で行こうと。

 

「いいわね、趣味でヴァンパイアの恰好をしている謎の女エルフ、うん、良いかも!」

 

 そう思ってからは早かった、無限の背負い袋から少し大きめの化粧ポーチの様な物を取り出していき、更にその中から変装道具を取り出していく。このポーチも無限の背負い袋の様に四次元使用になっている様だ、中からワラワラと道具が取り出されていく。

 

 カラコン、付け耳、ピアス、メガネ、カツラ、そして様々な衣服。そのどれもがマジックアイテムである。そんな色とりどりのアイテムの中に不釣り合いな、泣いているのか笑っているのか分からない不気味な仮面がなんか紛れているのだが、あれは一体何なのだろうか。

 

「よっと~、つけまどうしよっかなぁ、今日はいらないか、ならこれで完成ね!」

 

 あっという間に変装が完了していく、実に手馴れた物だ。赤と黒を基調とした豪華なドレスに身を包んだヴァンパイア風味のエルフの爆誕である。目は赤く、肌も白いが、牙は無く、耳はキチンとエルフの特徴を残している。

 

 そして最後に決めるのは名前―――キャラクター名であるが、ここが一番の難関でもある、アンティリーネはその辺には拘る女だからだ。

 

「何が良いかな?吸血鬼かぁ、レミリ...なんか違うな、エヴァンジェ...私あんなロリじゃないもん、あっ、キスショ...ボン、キュッ、ボーン!私はツル、スト、ペタン...うぅ、あっ、赤夜(あかしや)も...だからボン、キュッ、ボーン!!」

 

 色々名前は浮かんでくるがどうにもしっくりこない、主に自分の体形の所為ではあるが、しかしなぜ女吸血鬼はあれほどロリとボン、キュッ、ボーンが多いのだろうか。最早二択なのでは?と別の方向に思考がシフトしそうになっていく。

 

「もう切り札使っちゃう?これ以上考えても”無駄無駄”な気がしてきたわ。でもアイツ男だからなぁ...あっ、そうだ”エリザベス”にしよう。」

 

 どうやら名前はエリザベスで決定したようだ。一瞬、最高にハイな名前が浮かんできたが、やはり男の名前は抵抗がある様である。

 

「うん、良いかも!じゃ、髪は銀髪ショートに変えてぇ...よぉし、準備完了ね!今日は時間もあるし、じっくり冒険するわよぉ!」

 

 準備は整った、意気揚々とリーネは森林に向けて歩を進めていく。

 

 今から始まるのは冒険―――アンティリーネのトブの大森林大冒険だ。

 

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

 

 辺りの風景を見渡しながらゆっくり歩を進めていくリーネ。小走りでもすれば一瞬で森林まで到達できるがそんな無粋な事はする気はない。じっくりと色々な物を見て周り、興味が沸く物を散策していく。それこそが冒険の醍醐味であるからだ。

 

「特に面白そうな物はないわねぇ。ちょっと遠回りしてみようかなぁ、もしかしたら何か発見があるかもだし―――ん~?人だ、この辺り人が居るんだ。村でもあるのかな?」

 

 辺りを散策しながら歩いていると、遠くに人影らしき者が見えてくる。目の前にはトブの大森林が見える、つまりはこの辺りはそれなりに危険な場所だと思われるのだが、村でもあるのだろうか。もしそうならトブの大森林は自分が思っているよりは安全な場所なのかも知れない。

 

 人影に向けてリーネは歩を進めていく。そしてやはりその影は人間だった。挨拶でもしようかと近づき続けていたリーネだが、挨拶をする前に先にあちらが気づいた様だ。

 

 中年に差し掛かる位のみすぼらしい恰好をした男性だ。そしてその人物が、急に顔を青くし慌てふためきだす。

 

「ひっ!ヴァ、ヴァンパイア!!」

 

 目の前の人物が急に慌てふためきだした、足はガクガク震え、終いには尻餅を着いていく。その光景を見ながらリーネの頭に浮かぶ物、それは?マークだ。

 

 いや、ヴァンパイアじゃないでしょ、この耳見なさいよ、どう見てもエルフじゃない。ヴァンパイアの恰好をしたエルフでしょぉ~、やだなぁこのおじさんは、といった風だ。

 

「赤い瞳、白い肌、間違いない、噂に聞くヴァンパイアだ!アンデッドがでたぞぉ!!」

 

「ふぅ、やれやれだぜ...よく見なさいおじさん、この耳を、エルフの耳でしょ、そして...い~、ほら、牙もない。私はヴァンパイアじゃないわ!」

 

「は?ヴァンパイアじゃない...エルフ?君は一体...。」

 

 来た!その言葉を待っていたと言わんばかりに偉そうに腕組をしていく。そして放つ、今日のキメ台詞を―――アンティリーネ・ヘラン・フーシェ渾身のギャグを。

 

「私は...趣味でヴァンパイアの恰好をしている者だ!」

 

 シーンとその場が静まり返る。ヒュウ~と言う風の音が鮮明に聞こえてくる程だ。

 

 想像していなかった静寂に、リーネはあるぅえ~?となっていく。昔ウルベルトに見せた際は彼は大爆笑していた、ツーヤもそのギャグはどこでも通用すると太鼓判を押してくれていた筈だ。

 

 締めが弱かったのかもしれないと、腕を組んだ姿勢のまま長い耳をぴょこん、ぴょこんと動かしていく。どや顔のまま、ぴょこんぴょこんと。

 

 するとどうだろうか、腰を抜かし尻餅を着いていた目の前の人物がゆっくりと立ち上がった。やはり締めが弱かったんだと思うリーネの元にその人物がズシズシ歩いてくる。

 

 おかしい、笑い声が聞こえない、なんだか目も笑っていない。

 

 どや顔のまま固まるリーネの頬に、ツゥと汗が一筋流れていく。ズシズシ近づいてくる人物を見つめているリーネだが、流石に分かった。これは良く見る表情だ。良く母が自分に向ける表情だ。そうこれは―――

 

「君は何を考えているんだ!こんな所でアンデッドのマネなどしおって!冒険者に殺されても文句は言えんぞぉ!」

 

 ―――これは怒られる時の表情だ。

 

「あ...はい。」

 

「何でこんな馬鹿げた事をしたんだ!!」

 

「あ、いや...笑ってくれるかなぁって...。」

 

「笑える訳ないだろ!寿命が縮まったよ!!」

 

「あ、はい...ごめんなさい...本当にすいませんでした。」

 

 ペコリと謝罪の意を込め、頭を下げていく。その間も相手の言葉は止まず、再度頭を下げていく。ペコリと頭を下げ続ける、次第にブンブンと頭を下げ続ける。

 

(ハゲマントの所為で怒られたぁ...くそぅ、くそぅ。)

 

 そして相手の怒りが収まるまで怒られ続け、頭を下げ続けていた彼女の瞳から一粒の涙が零れ落ちたそうな。

 

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

 

「村作り?」

 

「あぁ、そうさ、俺達は今この辺りに村を作ろうとしている所だ。」

 

 そう言う男の指さす先には数人の男女が汗水を垂らして農作業をしている姿が見える。そして周囲を見渡せば簡易的ではあるが家の様な物も目についた。

 

 確かに男の言う様にここは村に見えなくもない、まだまだ質素ではあるが、これから発展していくかも知れないという思いを抱かされる。なぜなら村人全員の目に活気がみなぎっているからだ。

 

 先程盛大に怒られた後、男に連れられ村まで立ち寄ったリーネ。村人も最初は驚いていたが男が事情を説明してくれた事で皆納得してくれた。非常に呆れた顔をされてしまったが。

 

 ちなみにこの男の名前は”トーマス・カルネ”と言うらしい。機関車みたいな名前だなと思ったが口には出さなかった。

 

「凄い...本当に...トーマスさん、私感動しました!」

 

「おっそうかい、感動する程の事でも無い気がするが。それでもそう言って貰えると嬉しいよ。」

 

 人が集まり、村ができる、そして更に発展し、人が増え、更に大きくなっていくのだろう。自分の知らない事がまた一つ埋まっていった事にリーネは嬉しくなる。これだから冒険は楽しい、未知への探求は止まらない。

 

 そうやって感動していたリーネであるが、一つ疑問が浮かんできた。ここは人類未開の地、トブの大森林の近くだ、つまりは非常に危険な場所の筈なのであるが、村人を見る限り戦えそうな人はいない。どうやって危機を脱しているのだろうという疑問だ。

 

「ねぇトーマスさん、見た感じ防護柵みたいなのも無いし危なくないんですか?モンスター来たら襲われちゃうよ?」

 

「ん?はは、エリザベスの言う事も最もだな、でもこれが大丈夫なんだ。この辺りはトブの大森林に居る”森の賢王”の縄張りの近くだからな、そいつを恐れてモンスターが近寄ってこないのさ。結果的に防護柵代わりになってるって事さ。」

 

「も、森の!”拳王”!?そんなヤバい奴が居るんですか!?」

 

「あぁ、居る。と言ってもその異名が着いたのは本当につい最近だけどな、命からがら逃げだしてきた冒険者がその異名を付けたのさ。」

 

 その言葉を聞きながら、リーネの中に渦巻く感情―――未知なる存在に対する好奇心と拳王と言われる覇者に対する恐怖心だ。

 

 高鳴る鼓動を感じながら、ゆっくりと深呼吸をしていく、そして徐々に鼓動の高鳴りは治まっていった。決心はついた、覚悟は決まった。

 

「よし!トーマスさん、頑張って下さいね!私応援してますから。それじゃ私は行きますけど、たまに様子を見に来ても良いですか?」

 

「おう、構わねぇぞ。またなエリザベス。後くれぐれも森の中には入るなよ、そして他の村にはその恰好で行くなよ。」

 

 最後の最後まで恰好の事を突っ込まれ、苦笑いをしながらリーネは村を後にする。さぁ、冒険の続きだ、そして今日の冒険の目標は決まった。

 

「よーし!それじゃあ張り切って行って見ましょうか!」

 

      アンティリーネの大冒険 

  

      ―――Mission①―――

 ―――大森林覇者【森の拳王】を見つけろ――― 

 

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

 

「がぁーーー!!」

 

「!!?キャン、キャンキャン!!」

 

 大森林覇者、森の拳王を探してトブの大森林の中をリーネは探索中である。そしてその道中に悪霊犬(バーゲスト)に遭遇したリーネであるが、がぁーっと一喝する。探知阻害の指輪を付けているので野生モンスターですら力を感じ取る事は出来ないのであるが、スキルは別である。今使用したのは戦士職のスキルの一つ【威圧Ⅰ】という物で、絶望のオーラの様に相手に恐怖を与える事ができるスキルだ。

 

 この世界では規格外も規格外なリーネの威圧に、悪霊犬(バーゲスト)が耐えられる筈もなく、子犬の様にキャンキャン言いながら逃げ出していく。

 

「ふ、100LVの私と戦うには力不足だった様ね、ケルベロスになってから出直してきなさい。」

 

 そうやって一しきりドヤった後探索を再開していく。トーマスの村から直ぐに森に侵入出来たなら話は早かったのであるが、あそこまで言われて目の前で森に侵入出来る筈もなく、村から外れて迂回するしか方法は無かった。

 

 それでもリーネに悪感情は無い、今日は時間もある、どの道ゆっくり森の中を探索したかったのだから丁度いいとさえ思えた。

 

 森を進むにつれてモンスターの姿が少なくなっていく、それはすなわち森の拳王の縄張りに近づいている事を意味しているのだろう。

 

「森の拳王か...流石に100LVって事はないと思いたいな、お母さんからもそんな奴の話は聞いた事ないし。どんな奴なんだろ、やっぱり馬に乗ってるのかな?だったら騎乗魔獣用の阻害アイテムとか準備しといた方が良いかもね。」

 

 今回の相手は未知数だ、負けるとは思ってはいないが油断する気もない。森の拳王について得られた情報は少ない為考えられる色々な事に対して準備をしていく。

 

 そして気づく、森の雰囲気が変わった、先程まで少しは感じ取れていた野生動物の気配がパタリと消えていったのだ、つまりは―――

 

「縄張りに入ったのかな?さぁ、出てきなさい、ヤバかったら全力で逃げれる準備は出来てるわよ!」

 

 ―――縄張りに侵入した可能性が高い。そして気を引き締めているリーネの耳に突如声が聞こえてくる。

 

「それがしの縄張りに侵入する愚か者よ、その命で償うと良いでござる。」

 

 その言葉と共に凄まじい速度で何かが飛来してくる。

 

 蛇の様な鱗に覆われた長細い尻尾が鞭の様にしなりながら、リーネの顔面に向け打ち付けられようとしていた―――だがしかし。

 

「おっそ。」

 

 ひょいっと可愛い効果音でも聞こえてきそうな程軽い感じで顔を背け、悠々とその尻尾を躱していく。躱された尻尾は再度襲い掛かってくる事はなく、そのまま木々の後ろにゆっくりと戻っていくのが見えた。

 

「見事、それがしの縄張りへの侵入者よ、先程の見事な回避に免じて、今逃走するのであれば逃がしてやるが...どうするでござるか?」

 

「ござる?ギルバートみたいな奴ね、隠れてないで姿を見せなさい。」

 

「言うではござらぬか、侵入者よ。ではそれがしの偉容に瞠目し畏怖するがよいでござる!」

 

 その言葉が聞こえてきた瞬間、森の茂みを踏み分けながら、森の拳王がその姿を表した。その姿が視界に入った時、リーネが大きく目を見開く。

 

 そう、想像の斜め上を行っていたからだ、森の拳王の姿はリーネの想像の遥か斜め上を行っていた。

 

「ふふふ、その雰囲気、驚愕と恐れが伝わってくるでござるな。怖気づいてももう遅いでござるよ。」

 

「う、嘘でしょ...だって...拳王って...。」

 

 ゆっくりと森の拳王が距離を縮めてくる。拳王だし、馬に乗ってるかもと思っていたが確かに馬程の大きさはありそうである、いやもっと大きいかも知れない。

 

 しかし、これは。

 

(は、は、は...ハァムスタァーーー!?)

 

 そう、目の前に現れたのはくりくりとした可愛い目をし、口からはちょこんと齧歯類特有の前歯を覗かせる、大人気愛玩動物、ハムスターであった。違う所を上げればその蛇の様な尻尾とその巨体か、ハムスターは確か手乗りサイズくらいだった筈である。

 

「うわぁ、楽しみにしてたのに、これはないわよ。強さも余り感じ取れないし。」

 

 ここまで楽しかった冒険であるが、その熱が一気に冷めていった。ワクワクドキドキした気持ちが昇天し、天に帰っていった気分である。

 

 勿論これは勝手に舞い上がり勘違いした自分が悪いのであるが、それでもハムスターはあんまりだろうと思う。

 

 ごそごそと無限の背負い袋からメガネの様なアイテムを取り出していく、これはLV看破用のアイテムである。力を余り感じ取れないので、これで確認しようという所か。

 

「LV30...あ、いや違うわね。こほん、戦闘力たったの30か、ゴミめ。」

 

「なんと!言うに事書いてゴミとは!もう許さんでござるよ侵入者!命を持って償うでござる!」

 

「いあつ~、れべるいち~。」

 

 その瞬間、森の拳王の全身の毛が逆立ち、そのままひっくり返り無防備に腹部をさらけ出す。

 

「こ、降参でごじゃるー!それがしの負けにござるよぉ!」

 

 その姿を生易しい目をしながらリーネは見つめていく。そしてゆっくりと右手を天に突き上げていく。今日の冒険の目標は達成したのだ。

 

 そう今日のアンティリーネの大冒険に一片の悔いなし。

 

       アンティリーネの大冒険 

  

       ―――Mission①―――

       ―――Complete―――

    ―――覇者はハムスターだった――― 

 

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

 

「姫!それがし、これから姫に忠義を尽くすでござるよ!」

 

「やめて、姫はやめて、ここでまで姫とか言われたくないから。後忠義もやめなさい、重いから、それすごく重いから。上司からの重圧に押しつぶされたモモンガさん見たいになっちゃうわよ私。」

 

「モモンガ?誰でござる?」

 

 森の拳王を退けたリーネであるが、どうやらその森の拳王こと大きなハムスターに懐かれてしまった様だ。

 

 姫~、姫~、と纏わりついてくるハムスターに若干嫌気がさしてくる。突き放しても引かない相手に対し、どうしようかと考えていく。

 

「しょうがないわねぇ、光栄に思いなさい、アンタを私の軍団に入れてあげるわよ!」

 

「おお!流石は姫でござるな!軍団をお持ちでござったか、それがしは入れて嬉しいでござるよ!」

 

「まぁ、あんまりいないんだけどね。でも今日でアンタを入れて”4人”増えた訳よね。クランらしくなってきたわね。所でアンタ名前はなんて言うの?」

 

「?名前でござるか?無いでござるよ、それがしはそれがしにござる。」

 

 マジか!と心の中でリーネはツッコミを入れていく。これからは軍団の一員として仲良くやっていかなければならないのだ、名前が無くては色々と不備がありそうである。

 

「そっかぁ、困ったわね、ハムスターだけじゃ可哀そうだものね。」

 

「ハムスターでござるか?」

 

「そ、アンタの種族名よ。多分ハムスターでしょ、違うの?」

 

「それがし自分の種族など知らぬでござるよ、それがしは物心ついた時から一人でござったゆえに。それがしの種族はハムスターと言うのであるな。」

 

「いや、ちょっと待ちなさい、違う、アンタの種族はハムスターじゃないわ、正確にはハムスターの亜種かもね、そうアンタの種族は―――」

 

 ハムスターは手乗りサイズの筈だ、間違ってもこんなバカでかくはない。あんちゃんことあんころもっちもちと動画を見たのでそれは確かである筈だ、つまりはコイツは。

 

「アンタの種族は”ジャイアント・ビッグ・ハムスター”よ!」

 

「おお!それがしの種族はジャイアント・ビッグ・ハムスターなのでござるか!流石は姫、物知りでござるな!」

 

 ドヤァと言う様な表情できっぱりとそう言い切った。間違いない、むしろそれ以外考えられないだろう。自分の素晴らしい頭脳に惚れ惚れしていき気を良くしたリーネは更にこのハムスターの名前を考えてやる事にする。

 

 ハッキリ言う、ネーミングセンスには自信がある。リーネシールドなどがそのいい例だ、あれほどの名前は中々付けれないだろう。間違ってもどこかの骸骨には不可能だ。

 

「気分がいいわ!アンタの名前私がつけてあげるわ!」

 

「なんと!姫直々にござるか!?光栄でござるよ!」

 

「そうね、アンタの名は...。」

 

「それがしの名は...?」

 

「アンタの名は...。」

 

「それがしの名は...?」

 

 閃きが舞い降りた、その名も”ダーク・インフェルノ・スパイラル・ハムスター”である。

 

 カッコイイ、なんて惚れ惚れする名なのだろうか。力強く、それでいて禍々しい名前だ、ウルベルトがこの名を聞けばあまりの自分のセンスに嫉妬する事であろう。

 

(これしかないわね、間違ってもモモンガさん見たいにセンスがない人は思いつかない名前だわ。仮にモモンガさんだったらなんてつけるのかな?あの骸骨センス皆無だものね。でっぱ?だいふく?ハム太郎?)

 

 様々な名前が脳裏に浮かんでいく、そしてそのどれもがセンスの欠片もない物ばかりだ、まったくあの骸骨はと思いながら、ある名前が更に浮かんでいく。そして思う、ああ、間違いなくこの名前を付けると。何やら確信的な物があると。

 

「...ハムスケ―――」

 

「おお!それがしの名はハムスケでござるか!!」

 

「―――あっ!いや、それはちが!」

 

「良い名前でござる!それがし嬉しいでござるよ!」

 

「あ、あのね、それは間違いで...。」

 

「ハムスケ♪ハムスケ♪でござる!」

 

 くりくりした目を輝かせながら、ハムスケが小躍りを始めた。よほど嬉しかったのだろう、ずっと踊っている。

 

「姫!この忠臣ハムスケ、この名に恥じぬ様に姫に忠義を尽くすでござる!」

 

「...ふ、やるじゃない。その言葉忘れないわよ。」

 

(さようなら、ダーク・インフェルノ・スパイラル・ハムスター。)

 

 この姿を見て訂正できる程、流石のリーネも図太くはない。付ける筈だった渾身の名前に脳内で別れを告げていく際―――ピクリとリーネの目が鋭い物に変わっていく。それに少し遅れてハムスケの目もだ。

 

「姫。」

 

「分かってるわ。私に探知されるなんてザルも良い所ね、誰?出てらっしゃい。」

 

 その言葉を言い終わった後に、少し遅れて何者かが姿を表す。そしてその姿は人間ではない。

 

「あのぉ~、君達ちょっといい?」

 

「...ドライアード?」

 

「あの、君達に危害を加える気はないんだよ、ちょっとさぁ、”頼み事”聞いてくれない?」

 

 突如姿を表したドライアードの言葉に、?マークが頭上に浮かぶ様な表情をし、リーネとハムスケは目を合わせる。

 

      アンティリーネの大冒険 

  

     ―――追加Mission発生―――

   ―――ドライアードの頼み事を聞け――― 

 

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

 

 茂みを掻き分ける音が聞こえてくる。その音に続き小さな足音も。

 

 その場に目を向ければ、小さな人物が見える。姿形を見るに、それは人間の様に見えた。

 

 その人物は茂みを掻き分け、更に奥に奥に進んで行く。森林の奥へと、トブの大森林の中へと。

 

「そろそろいい所まで来たんじゃないか?”リグリット”が言うにはこの辺りの様だったが...もっと奥だったか?」

 

 独り言を呟きながら、その人物は歩を進めていく。

 

 その姿は非常に小柄だ、見た感じ少女の様に見える。間違ってもこんな危険な場所にいて良いような風貌ではない。

 

「どんな病も怪我も治す効能を持った薬草か、マジックアイテムの研究に使えるかもしれんな。」

 

 少女は歩を進めていく。森林の奥へと、只ひたすらに。

 

 奇妙な仮面を被った少女が。

 

 

 

 

 





 どうもちひろです

 着々と団員が増えてきてますね。
 アンティリーネの長い人生に寄り添っていけるような楽しくお馬鹿なメンツの紹介です。

 ・ハムスケ
 
 ようやく登場!もうかなりの話数言ってますがやっとですね。
 原作では、200年前には居なかったみたいな事をイビルアイは言ってました。
 なるほど、このSS100年前だしいけるでしょと思い出しました。
 戦闘能力については良く分かりません、100年前から既に完成されていたのか、それとも成長途中なのか、取りあえずは原作に近い位の戦闘能力を持ってますよ。
 ハムスケって身体スペックだけでも馬鹿げてるのに魔法まで使えるのずるいですよね。
 全種族魅了とかあの世界では結構な壊れだと思うんですが、そう思うのはちひろだけでしょうか?

 ・ヴァンパイア・シスターズ
 
 お世話係&護衛役として登場させました。
 吸血鬼なのは単純にちひろが吸血鬼が好きだからです。
 ユグドラシルでは綺麗な見た目をしているのは、ヴァンパイア・ブライトだけで後は皆醜い見た目をしているらしいです。
 せっかく出すなら綺麗な方が良いのでヴァンパイア・ブライト三体にしようとこのSSを書く前に考えていたのですが、なんかパンチが弱いなと思い、無理やりこの様な設定を作りました。
 原作では間違いなく、この様な、タイプ侍などはいないと思います。
 これはちひろのオリジナルです。

 長女が侍で名前は「あけみ」です。
 次女が矢伏で名前は「かなめ」です
 三女が魔法詠唱者(魔力系)で名前は「ともえ」です。

 ・暇人アンティリーネ。

 このSSではオーバーロードを除く色々な作品が鈴木悟さん達の世界には存在してます。
 アンティリーネは基本暇人なので、メンバーがいないときは一人で版権の切れた100年前のアニメや漫画を見たり、コンシューマーゲーム何かをしたりしてます。(特にRPGが好き見たいです)
 なのでこのように、不意にパロった台詞を吐く事があります。


 ここまで読んでくれてありがとうございます。
 お疲れさまでした。
 
 一体あのドライアードは何者なのでしょうか。
 そして謎の少女の登場...彼女も一体何者なのか。

 次回 ゆぐどらしる☆だい☆ぼう☆けん☆
 第十九話 「VampireMaiden」に続く~

 次回もまた読んでくださいね。
 それでは、シュバ!
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