あんてぃりーねのゆぐどらしる☆だい☆ぼう☆けん☆ ~泣き虫が伝説になるまで~   作:だいだろすちひろ

29 / 81

 前回のあらすじ

 アイちゃん、ちょろイン。

 
 特訓回です。
 退屈回とも呼ぶ。


凡才と天才

 

 

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

 

 ゲコゲコ…ゲコゲコ…。

 

 酷く不快感を抱かされる音が聞こえてくる。

 

 ゲコゲコ…ゲコゲコ…。

 

 悍ましくも醜悪な見た目をした存在から放たれ続ける。

 

 ゲコゲコ…ゲコゲ―――。

 

 いつまでも続くかと思われた不快な音が突如消える。

 

 同時に醜悪な見た目をした存在も、糸が切れた人形の様に倒れ伏す。

 

 ビチョリ…と、これまた不快感を抱かせる音だけを残し。

 

 ゲコゲコ…ゲコゲコ…。

 

 しかし、不快な音が消えたのは一瞬だけであった。

 

 別の場所―――少し遠い場所からまた聞こえてくる。

 

 ゲコゲコ…ゲコゲ―――。

 

 そしてまた同じように、ビチョリと言う不快音だけを残し倒れていく。

 

 音が止む。また別の場所から聞こえてくる。

 

 そして―――また音が止む。

 

 ビチョリビチョリビチョリと不快音が鳴り響く。

 

 黒い残像が現れる度に鳴り響く。

 

 それと同時に、無数の死体が辺り一面に散らばっていった。

 

 散らばっているとは言うが、それは不規則な形ではない。

 

 規則正しく繋がっている。

 

 それはまるで道のように、一つ一つの死体が道を歩く足跡のようにも見える。

 

 それはある方向に向け進んで行っているかのようだった。

 

 道は続いていく。

 

 足跡は増え続けていく。

 

 不快音と共に増え続ける。

 

 死体と言う足跡が繋がっていき、その進路には…

 

 墓地らしき―――残骸が見えた。

 

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

 

 ―――ヒュウゥゥ。

 

 乾いた風の音が耳を突く。風が通ったその後に、砂埃が舞うエフェクトがもれなく起きる。

 

 「ハァッ!もらった―――」

 

 「―――よっと。」

 

 「~~~――!!?」

 

 ヘルヘイムの荒野に二つの声が、乾いた風に混じり舞っていく。ここは荒野の最端であり、この先には水晶がひしめく幻想的な平原がある。その水晶がひしめく平原を超えた先には、毒沼の大湿地が広がっている。

 

 「はい、どうも。」

 

 「ぐぺっ!!?し、しまった、立て直しを―――」

 

 「せい!!」

 

 「―――あ…。」

 

 荒野に舞う二つの声。その正体はアンティリーネことリーネと、ヘロヘロである。

 

 現在()()()()()()()二人が、空き時間を利用し、PVPと言う名の特訓を行っている最中であった。

 

 そして決着は既に着いた様だ。

 

 リーネの渾身の刺突を、ヘロヘロが右手で手首ごと掴んで行った。一瞬バランスが崩れてしまったリーネの足を薙ぎ払った後に、ヘロヘロがリーネを投げ飛ばす。

 

 鈍い音を立て背中ごと地面に叩きつけられたリーネは立て直しを図るが―――せい!ヘロヘロのその掛け声と共に、顔面に正拳突きが迫ってくる。

 

 そしてそれはリーネの鼻先でピタリと止まった。

 

 「勝負あり!ですよ、アンティリーネちゃん。」

 

 「…くっそぉぉ~…くやちぃぃ~。」

 

 その言葉を聞きヘロヘロは朗らかに笑う。続いて悔しさを滲ませたリーネが地面から立ち上がる。

 

 「完璧に捉えたと思ったんだけどなぁ…くっそぉぉ~。」

 

 「ええ、ええ。()()()()()よ。素晴らしい突きでした。」

 

 「…ヘロヘロさん、()()()()のね…。」

 

 「う~ん…読んでたと言うのもそうなんですが…付け加えるのなら()()していた、と言う感じですかね。」

 

 誘導という言葉を聞いた途端にリーネの雰囲気が変わる。ジィ~と言う擬音が見えそうな雰囲気でヘロヘロを見つめる。もったいぶんな、早く言えとでも言いたそうな雰囲気である。

 

 苦笑いをしながらヘロヘロがリーネに説明を始めた。

 

 「いいですかアンティリーネちゃん。確かに戦いでは―――それもPVPの様な一対一のの戦いに置いて、読み合いと言うのは凄く重要な要素です。戦局を左右する程のね。それは剣術、武道だけに留まりません。肉体を使うスポーツ、頭を使うスポーツ、数々の局面でそれは重要視されます。」

 

 淡々と語りだすヘロヘロの言葉を、リーネは黙して聞き入る。その様は非常に真剣だ、普段のおちゃらけた面影は欠片もない。

 

 「そしてその読むと言う行為は簡単な物ではありません…まぁ、ユグドラシルではと言う言葉が続きますが。特に僕達の様な()()()()()()とする者達は難易度が更に跳ね上がります。なぜか分かりますか?」

 

 黙して聞いていたリーネが考え込む素振りを見せる。そして一つの答えを出した。

 

 「……ユグドラシルでは…もしかして、ゲームだから?」

 

 「そうですね。その通りです。武道や剣術では、相手の目線、相手の呼吸、動作に移る際の微弱な筋肉や腱の動きなどを見極め、次の一手を予測し割り出します。ユグドラシルは確かに、ゲームとしては最高峰の動きの繊細さを実現できていますが、現実と比べるまでもないでしょう。先程のあれは、失敗すれば手痛いしっぺ返しが待っていると分かっていましたから、正確さに自信のない読みよりも、あえて誘導という方法を取ったんですよ。」

 

 「うぅん…誘導…誘導ねぇ。」

 

 「ふふ。アンティリーネちゃん、さっき懐に潜り込みたかったんでしょ?ええ、ええ。それはそうです、だってそれが君のスタイルですからね。でもしなかった、なぜですか?」

 

 「え…?だってヘロヘロさんモンクだし…潜り込んでも捌かれるでしょ?くっつくにしても、キチンとした過程を踏まないと意味無いし…くっついた私の間合いはヘロヘロさんの間合いでもある訳じゃないですか、だから―――」

 

 「だから剣士の利を取った。剣と言う距離を使った…そうですね。」

 

 自分の言いたかった言葉を先に言われたリーネが押し黙る。正にその通りだったからだ。押し黙るリーネを置き去りに、ヘロヘロの言葉は続いていく。

 

 「そして斬りつけながら、態勢が揺らいだ所に潜り込み、完全に崩したかったんですね。ええ、ええ、分かります。でもしなかった、いいえ―――」

 

 「うん…できなかったんです…なんかあの突き出された左手が…なんというか、邪魔で…というか、言葉にはできないんですけど、なんか()()()()がして…踏み込めなかった…斬りつける()()()にも行けなかったんです。」

 

 「だからこそ最長の距離を使った刺突という事ですよね。アンティリーネちゃん、僕達近接戦闘者にとっては自らの持てる間合いと言うのは凄く狭い。スキルや装備に左右はされるでしょうが、結局の所、間合いに入らねば打てぬが道理です。利を追求し過ぎずに、間合いを見極めなさい。攻守共に…ね。」

 

 いつもと少し違うヘロヘロの雰囲気に、リーネは少し気圧される。上手く言葉にはできないが、師匠が弟子に物を教えている様な雰囲気を感じた。

 

 「間合いを…見極める…ねぇ。」

 

 「そうです、僕達は魔法詠唱者達のように多種多様な事は出来はしない。ブラフも奇策も比べるまでもないでしょう。だからこそ、利を取りに行けば直線的になりやすい。そして、誘導…先程、左手がと言っていましたが、あれよりも更に前、戦いが始まった時から仕込みは色々と始まっていたのですよ?」

 

 「戦いが…始まった時から…。」

 

 「そうです、様々なイレギュラーも想定しながら、実はずっと誘導していたんですよ?君の性格も加味しながら、最終的にあの刺突を誘発する為にね。色々な過程を踏み、君は刺突と言う選択肢に辿り着いた。そう思うでしょうがそれは違う。刺突は君が選択した物ではありません。刺突を()()()()のは―――()()()()()僕です。来ると分かっている物に対処する事など造作もありません。」

 

 リーネは息をのむ。

 

 地力が違う―――いや、違い過ぎる。

 

 ヘロヘロとの隔絶した実力の違いを思い知らされたリーネはまた押し黙っていく。

 

 知識、技術、経験、全てが違い過ぎる。

 

 それだけではなく、ヘロヘロは自分のできる事と出来ない事を完全に割り切り、その少ない行動手段を有効活用し、最善の一手に繋げている。

 

 勝てない筈だ。そう思った、そう思わされてしまった。

 

 黙ってしまったリーネの姿を見たヘロヘロがハッと我に返る。ちょっと偉そうに言い過ぎてしまった様だ、どうにかフォローを入れねばとやんわりとした口調で喋り出す。

 

 「まあまあ、偉そうに言いましたけど、ちょっとしたズルみたいな物ですよこれは。だからそんなに気を落とさないで、ね?。」

 

 「…ズル?何が?」

 

 「読みと誘導の件ですよ。ほらほら、モモンガさんを思い出してくださいアンティリーネちゃん。モモンガさんって先程の、読みと誘導の権化みたいな人でしょ?」

 

 「んん?…まぁ確かに。」

 

 「でもそんなモモンガさんでも、初見の相手ではそれは無理です。一度ワザと負けて相手の全てをさらけ出させます。そして情報が全て出揃った後に、自分の行動の後に、この相手はどう動くか、どう考えるかを読み、行動の誘導を始めるでしょ?」

 

 「…はあ…そうですね。」

 

 「そう!つまりですね!誘導には情報が必要と言う事です!僕はアンティリーネちゃんとはそれなりの付き合いですから、行動の癖なんかは把握してますよね?つまり情報は揃っているから誘導するのも簡単ですよね!いやぁ、大して凄くも無い事を、さも凄い事の様に語るのは僕の悪い癖なんですよね。」

 

 「…ふふふ。」

 

 「ははは。」

 

 少しの間を置いて、リーネから笑い声が零れだした。ヘロヘロは思う、どうやらフォローに成功したようだと。自分としては助言をしただけに過ぎず、余り気を落として欲しくはない。

 

 そんなヘロヘロの気遣いを受けたリーネは。

 

 (いや、簡単じゃないでしょ…何言ってんのこの人?頭大丈夫?)

 

 若干イラっと来ていた。

 

 (さっき言ってたじゃん、魔法詠唱者とは幅が違うって。モンクっていう狭い幅でモモンガさんと同じ事やってるわけでしょ?滅茶苦茶凄くないそれ?)

 

 嫌味かという言葉が脳裏を過るが、それは瞬時にかき消していく。先程ヘロヘロも言った通り、それなりの付き合いではある身だ。彼がその様な嫌味を言う人物でない事は分かっている。彼なりに気を使ってくれているのだろう、悪気はないのだ。まぁそちらの方が質が悪い気もするが。

 

 「…はぁ…押忍!勉強になります!押忍!」

 

 「え…?お、おす?どうしたの急に。」

 

 「こういう時は押忍って言うのよ!ゴンも押忍って言ってたわ!」

 

 「は、はぁ…ごん?」

 

 「漫画のキャラよ!押忍!」

 

 「あぁ、そういう事ですね。本当に、影響されやすい子だなぁ。」

 

 とは言いつつも、調子の戻ってきた姿を見てヘロヘロはホッと胸を撫で下ろす。助言はしたが、余り考えすぎて貰っても困る。彼女の戦闘センスは抜群だが、まだ()()()()にはない。少しずつ着実に進んで行けばいいだけだ。

 

 「まぁ、実際の話、誘導の後に、僕は()()に入ってましたから、反応速度が高くて当然なんですけどね。」

 

 「待ち?」

 

 「そうですよ?()()()()()()()()()()ですよ?()()()()()()()()()()()()()ですから。」

 

 待つ?本当に~?そんな気持ちが心の中で渦を巻くが、実際に自分はやられてしまった立場なので反論する余地が無い。

 

 疑問しか沸かないヘロヘロの言葉を聞いていると、ふっと自分の顔付近に拳が飛んでくる。

 

 ピクリと反応していったリーネはその拳をパシンと左手で掴んでいく。

 

 「あぶな!何すんのよ!?」

 

 「ふふ…ほらこういう事ですよ。」

 

 「…ほ?」

 

 首を傾げるリーネに、ヘロヘロは説明を始めていく。

 

 「今の様に、只受け止めると考え行動に移した時と、戦闘の流れを思考しながら行動する時とでは、反応速度に差が出ます。思考は多ければ多い程、次の行動に移すまでの足かせになっていく。」

 

 淡々と説明を続けるヘロヘロの言葉に聞き入っていく。実際、先程反射的に手を出した時の反応速度は戦闘時よりも早かった様に感じる。

 

 「いいですか?どの様な攻撃も間合いに入らねば打てはしません。来る攻撃にだけ着手し、只々待つだけの者を切り崩すのは存外、難しい物ですよ?達人が使えば、そのただ待つというだけの行為が、()()()()()()()程です。ほら、茶釜さんがいい例です、タンクとして、相手の攻撃を()()()()()()()()()()()()()()()ます。だからこそ、運動が不得意な茶釜さんでもあれ程の反応速度を出す事が出来ています。まぁ、センスもあるんでしょうけどね。」

 

 淡々と語るヘロヘロの言葉は終わりを迎える。ヘロヘロの言葉は納得できるだけの説得力を持っていた、それと同時に思うのだ―――こいつは一体何者なんだと。 

 

 「ていうか、前々から思ってたんですけど、ヘロヘロさんってリアルで何か武術を嗜んでたんですか?ユグドラシルで学んだって言うのは流石に無理ありますよ?」

 

 「え…あぁ…空手の道場に少々()()()()()()がありましてね…その名残ですよ。」

 

 「はぁ~、やっぱり。天才空手家!ヘロヘロだったんですね。」

 

 「―――!!いえ…そんな大それた者ではありませんよ…。その辺にどこにでも居る、只の()()の一人でしたよ…。」

 

 おや?何やらヘロヘロの雰囲気がおかしいと感じる。褒めたつもりが逆に暗い雰囲気になってしまった。

 

 「…そ、そうなんだ…いやでも、凡才は言い過ぎじゃないですか?」

 

 「そんな事はありませんよ…本当の()()と言う物を目の当たりした者からしたら…ね。」

 

 「………。」

 

 (あ、あかーん!ヘロヘロさんが闇堕ちしそうな雰囲気だしてる!このままじゃダークサイド一直線よ!突ついちゃいけない所を突ついちゃった私!?)

 

 どんどん深く堕ちていくヘロヘロの雰囲気に比例するように、空気もまたどんどん重くなっていく。

 

 そんな空気の中、あたふたするリーネに気が付いたヘロヘロが言葉をかけていく。

 

 「はは、重い空気にしてすいませんね…少し昔の事を思い出してしまいました。思い出しついでに昔話でも聞きますか?」

 

 「へ?聞きたいですけど…聞いても良いんですか?」

 

 「勿論ですよ。何か急に喋りたくなりましたから…そうですね。」

 

 そしてヘロヘロは静かに語り出した。

 

 「昔僕の通っていた道場にですね、十年に一人の天才と呼ばれる子がいました。その子は神童と呼ばれ、周りから持て囃されていたんです。あぁ、でも決して傲慢ではありませんでしたよ。その名に恥じない様に、血の滲むような努力もしていました。こっそりと言う言葉が続きますけどね。」

 

 「……。」

 

 「そしてしばらくして、その道場に新しい子供が入門してきたんですよ。年齢は天才と言われた子より少し下でしたね。そしてその子は―――()()()()()()()()だった。」

 

 「―――!!」

 

 「程なくしてその子はメキメキと頭角を現しました。天才が血の滲む様な努力をして歩んできた道を、まるで散歩でもするかのように進んで行く。なまじ才能がある所為で、その凄さがその子には他の人達よりも深く感じ取られた…、そこには全ての人間が羨む程の眩い才能と…全てをあざ笑うかのような残酷な才能がありました…そして。」

 

 「……そして?」

 

 「そして十年に一人と言われた天才は、百年に一人と言われる天才に心を折られ…空手の世界から消えました…いや、心が折れたと言うよりも、自分が凡才だと気づいたんでしょうね…神童などおこがましいと…それは()()の為にある名なのにね。」

 

 そうしてヘロヘロの話は終わった。

 

 リーネは思う。いや、ちょっと重くないか。気軽に聞いていたつもりもない訳だが、なんというか、人には歴史があると言う様に、ヘロヘロもそれなりの挫折を味わっているという事なのだろう。

 

 そんな挫折を味わいながらも、ゲームとは言え、クランの為に拳を振り続け、こんな自分に助言までくれている事に深い感謝が沸いてきた。

 

 「押忍!そんな辛い過去がありながらも稽古を付けてくれてありがとうございます!」

 

 「ははは、何を言ってるんですかアンティリーネちゃん。この話は僕の話ではないですよ?あくまでも道場の天才と呼ばれた子の話です…ね?」

 

 「はえ…?ふふ、そうですね。そういう事にしときます。」

 

 「ええ、ええ、そうです。そういう事にしておいて下さい。まぁ、凡才の身ではありますが、教えられる事は教えていきますよ?」

 

 「押忍!助かります!見ていて下さいヘロヘロさん!強くなって私は、いつかたっちさんを倒してみせますよ!」

 

 「あぁ、たっちさんですか、()()()()()()無理ですね。絶対勝てません。」

 

 「何てこと言うのよぉぉぉ!!!」

 

 「いや、ちょっと待ってくだ―――痛い!痛い!ちょ、蹴らないで。」

 

 気合に水を差されたリーネがヘロヘロのケツを蹴り飛ばす。一発、二発、三発、何度も蹴りつけていく。

 

 「痛い!痛い!痛いってば!」

 

 「痛くないでしょうがぁぁぁ!それが天才の言葉って奴!?見下してんじゃないわよぉぉぉ!!!」

 

 「ちょ!?だからそれは僕じゃないって事になったでしょ!?よく聞いて下さい、今のままではって言ったんですよ!」

 

 その言葉を聞いた途端、ピタリと蹴りが止まっていく。

 

 「どういう事?説明を早く。」

 

 「もう…急に冷静にならないで下さいよ。感情豊かな子だなぁ…まぁ、そこが皆に好かれてる所なんですけどね。」

 

 「えへへ、そう?」

 

 「はぁ…いいですか?ワールドチャンピオンと言うクラスを取り除いたとしても…たっちさんは化け物、言わば化生の類(けしょうのたぐい)です。それは当然です、化け物みたいな強さを持つからこそ、大会で優勝し、ワールドチャンピオンになれたんですからね。」

 

 「まぁ…確かに…。」

 

 「たっちさんの実力は…あくまで対人戦での実力になるでしょうが…僕を凌ぐのは間違いない。地力が違い過ぎる上に、ワールドチャンピオンとか言う頭のいかれたクラスのおまけつきですよ?普通に考えて無理でしょう?分かりますね?」

 

 正論を言われ、リーネがしゅんと暗い雰囲気になっていく。

 

 「しかしです。アンティリーネちゃん、君が普通でない事もまた事実です。」

 

 その言葉を聞いた瞬間、パァっと明るい雰囲気にリーネはなっていく。

 

 面白すぎだろこの子と思いながらも、ヘロヘロは言葉を続けていく。

 

 「んん!君の型には決まった形が無い…いや、正確に言うと、既存の武術や剣術に偏った型が無いと言うべきかな?君の剣は、どのような状況にも臨機応変に対応していく…言うなれば戦場の剣とでも言うんですかね?少なくとも、僕はその様に感じています。」

 

 (まぁ、そりゃあね。お母さんに教えてもらったものだし、それを主軸に私がアレンジしたものだもの…流石天才やるじゃない。)

 

 フンス!とお次は何やら偉そうな雰囲気を醸し出す。

 

 今の話のどこに彼女の感情を刺激する部分があったのか少しヘロヘロは考えるが、無視して話を続けた。

 

 「今まで戦ってきた方達には少し同情しますよ、既存にない型を振りかざし、戦えば戦う程に順応していくんですからね。」

 

 (うんうん!うんうん!)

 

 「でもそれにも限界があります。」

 

 「んもぉぉぉう!だからさぁ!上げて落とすのやめない!?ヘロヘロさんそう言うのやめない!?」

 

 お次はまた怒り出した。全く忙しい子である。

 

 「そうですね、なら単刀直入に言いましょう。アンティリーネちゃん、ここいらで少し()()を取り入れて見ませんか?」

 

 「武術?中国拳法とか?あちょーって言いながら青龍刀でも振り回せばいいの?」

 

 「凄い偏見だな…それも少し見て見たい気もしますけど…中国拳法は少し深すぎます…中途半端に取り入れれば足を引っ張る事になりかねませんし…深く知り過ぎれば型に取り込まれてしまう。それは望む所ではありません…。あくまで君の柔軟な型を生かす為の、言うなれば補佐ができる様にしていきたいんですよ…んん?そういう事なら、中国拳法もあながち…運足や…カオなどに分類される体術なら…。」

 

 説明を続けるヘロヘロが何やらぶつぶつ言いだした。内容が纏まらなくなってきているのだろうか。

 

 「ヘ、ヘロヘロさん?」

 

 「ん?あぁ、そうですね。あれもこれもと言うのは駄目な思考です。それで、どうしますか?アンティリーネちゃん。武術を取り入れて見る気はありませんか?」

 

 リーネが左手で口元を覆う。少し間を置き、答えを出していく。

 

 「…強くなれるなら…たっちさんに届くなら…教えてもらいたいです。」

 

 「そうですか…一朝一夕とはいきませんよ?いいですか?」

 

 「押忍!望む所です!」

 

 「…いい返事ですね、鼓膜が破れるかと思いましたよ。君の剣術の補佐が出来そうな武術に一つ心当たりがあります…上手く行けば…()()()()()()()()()よ?」

 

 「武器が?それってどういう―――」

 

 「たらら~んっとな!お待たせご両人♪」

 

 二人の会話を切り裂くかの如く、ある人物が華麗に姿を表した。

 

 そう、二人が待っていた人物―――弐式炎雷だ。

 

 「あぁ、ニシやんお疲れ様。そういやニシやん待ってたんだった。」

 

 「ちょ!?おま!?酷くねぇか!?頑張ったんだぞ俺!」

 

 「あぁ、ごめんごめん…それで…()()()()()()

 

 頑張ってきた相手に対し、少々雑な対応に弐式が不満を漏らしながらも、自らが目にして来た事を二人に伝えていく。

 

 「俺の扱い雑過ぎんだよなぁ…まぁそれは良いとして…あったぜ…恐らく隠しダンジョンだ。しかも未発見だぜあれ。」

 

 内容を聞いた二人に緊張感が走っていく。ギルバートに言われて来てみれば、面白い物とは想像以上の代物だったからだ。

 

 「隠しダンジョン…それも未発見の…ね。それは想像以上ね…。」

 

 「ギルバートの言っていた面白い物とは隠しダンジョンの事だったんですね。」

 

 「なんか墳墓みたいなダンジョンだったぜ…なぁ、リーネ、これはちょっと…ここで俺達だけで決めて良いレベルの案件じゃねぇぞ?」

 

 「そうね…一度戻って…クラン会議を開くべきね。」

 

 リーネの言葉に、ヘロヘロと弐式が頷く。

 

 「そうと決まれば、善は急げだぜ。夕方には全員集まるだろうよ。取りあえず留置所にいるモモンガさんとウルベルトさんには先に伝えとくか。」

 

 「うん、それが良いと思う。ヘロヘロさん、一旦留置所に戻りましょう。」

 

 「えぇ、分かりました。」

 

 そして三人は帰路につく。雑談を交えながら。

 

 「しかし悪いな、ちょいと時間食っちまった…。結構待ったろ?」

 

 「ん~、意外と早かったわよ。ヘロヘロさんに特訓して貰ってたしね。」

 

 「それと雑談も少々ですね。」

 

 「ふ~ん、何の話してたんだ?」

 

 「え?それは内緒だよっと。」

 

 「お~い、仲間外れか~い。儂頑張ったぞ~。」

 

 雑談を交えながら帰路につく中、ヘロヘロは思う。酷く懐かしい話をしてしまった事を。誰にも話した事はなかったのだが、不思議だ、なぜかあの子には聞いて貰いたくなってしまった。

 

 「アンティリーネちゃん、武術を教える前に、一つ言っておきます。”武術とは弱い者が強い者を倒す為にある”。僕の師匠が良く言っていた言葉です、それは剣術でも一緒です、これから先、どの様な難敵が現れようとも、自らの武を―――鍛え上げた技術を信じなさい。心に刻み込んでいて下さいね…忘れては駄目ですよ?」

 

 「はいはい、忘れませんって。」

 

 「軽い返事だな…絶対忘れるでしょう。」

 

 「だから忘れないって。それよりヘロヘロさん、あの右手の秘密教えてくださいよ。あれあれ、突き出してたやつ、絶対なんかあるでしょ?」

 

 「それよりって…んもぉう…はぁ、駄目です、あれは()()()()、いやまだまだ…まーだ早い!!」 

 

 「おっ、やっぱ気になんな、どんな特訓してたんだ?俺も混ぜろよぉ~。」

 

 仲良く雑談をしながら、三人は帰路につく。そしてヘロヘロは思う、また懐かしい言葉を言ってしまったと。

 

 (忘れるな…か、挫折した僕がどの口で…はぁ、でも懐かしいですね…本当に…()()()…君は今どこで何をしているんだろうね。)

 

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

 ガヤガヤと留置所の中に多くの声が混じり合っていく。

 

 悍ましくも厳つい見た目をした者達が―――異形種達が集まり喋り合っている。

 

 この光景を見た者達は恐らくこう言う事だろう―――地獄か。

 

 「裏切ったな!!()()()()()()()んだ!!」

 

 多くの異形種の集まりの中にあって、取り分け濃い見た目をした人物、骸骨の魔法詠唱者―――モモンガがそう言い大きな声を上げていく。

 

 「いやいや、違うんスよ、モモンガさん。どうしても欲しかったんですよ。」

 

 モモンガの言葉に、バードマンと言う異形種―――ぺロロンチーノがそう答えた。

 

 「カッコイイっしょ?ほらほら。」

 

 ぺロロンチーノがそう言いながら体を動かしていくと、体の周りから金粉が舞い散るかの様なエフェクトが起きていく。

 

 これは特殊な条件でしか手に入れる事が出来ないエフェクトであり、モモンガが裏切りと言っているのもこのエフェクトが原因だったりする。

 

 「何が違うんですか、ねぇウルベルトさん!」

 

 「そうです、ぺロロンさん…これは重大な規約違反だ…これは犯罪ですよ?極刑は免れません。」

 

 「マジで!?いくら何でも滅茶苦茶だよそれ!」

 

 このエフェクトのどこが裏切りなのかと言うと、このエフェクトは課金エフェクトと言い、リアルマネーで買わなければ手に入れる事が出来ない物だからだ。

 

 モモンガ、ウルベルト、ぺロロンチーノは無課金同盟を組んでおり、そんな中、ぺロロンチーノが課金に手を染めてしまった事を二人は咎めているのが現在の状況だ。

 

 二人に詰め寄られるぺロロンチーノが後方に後ずさる。このままでは茶釜の刑(極刑)に処されてしまうだろう。

 

 「マジもマジ、もちのろんですよ、ぺロロンさん。」

 

 「ちょ、ちょっと待ってよ―――お、おう?何だよ?」

 

 後ずさっていたぺロロンチーノの肩がトンと叩かれる。

 

 誰だ?と思い振り向けば、そこにはアンティリーネ事、リーネの姿があった。

 

 リーネとぺロロンチーノの目が合った瞬間、うんうん、とリーネが頷いていく。

 

 「あぁ…そう言う事かよ…残念ですよ、ぺロロンさん…まさかあんたがそっちに堕ちちまうとはね。」

 

 「裏切者に慈悲は無し…死を持って償え。」

 

 二人の声のトーンが低くなる。野太く、重みのある声音に変貌していく。

 

 「ちょっとちょっと!待って待って!これと一緒にしないでよ!つーかおめぇもよ、うんうん、じゃないんだよ!!」

 

 そう言われたリーネが、ぺロロンチーノの肩から手をどかす。

 

 そしてコツコツと歩み出した。向かった先はモモンガの所であり、ついた瞬間、ガシっと言う音が聞こえそうなくらいの勢いで、モモンガの肩を右手で組んでいく。

 

 そしてモモンガの耳に口を近づけ、囁く。

 

 「こっちはいいわよぉ~♪こっち来いよぉ~♪」

 

 悪魔の囁きがモモンガを襲っていく、嫌だぁ、嫌だぁとモモンガが頭を振りながら囁きを振り払っていると、再度、悪魔は囁く。

 

 コンソールを開けと囁いてくる。

 

 訳の分からないままモモンガがコンソールを開いていく。

 

 「モモ~ンガさん、モモンガさん、それ~そ~こに~♪課金のボタ~ンが~♪」

 

 「おぉぉい!!”魔王”を歌いながら課金させようとすんな!音楽の授業かよ!懐かしすぎるだろう!」

 

 マイファーザー、マイファーザーと言う歌詞が聞こえてきそうなリズミカルなテンションでモモンガに課金ボタンを押させようとする。

 

 しかし、そこは流石モモンガと言えよう、強靭な精神力でその囁きを振り払っていく。

 

 無課金者と廃課金者との戯れが行われて行く中―――ガチャリ―――扉が開く音が聞こえてくる。

 

 その瞬間、騒がしかった室内が一瞬にして静けさに包まれて行く。

 

 静かになった室内にぞろぞろと異形の者達が入ってくる。

 

 ナインズ・オウン・ゴールの残りのメンバーと―――

 

 「遅くなりました。これで全員揃いましたね。」

 

 ―――クラン長である、”たっち・みー”が。

 

 先程とは打って変わった静寂の中、全メンバーが各々、首を縦に振っていく。

 

 その姿を見渡した後に、たっち・みーが一人頷いていく。

 

 そして言葉を発していった。

 

 「それでは、クラン会議を始めましょう。」

 

 

 

 

 

 





 五月五日は何の日かと聞かれたら”ピエロの日”だと答えます。

 どうもちひろです。

 予定のクラン会議まで行けませんでした。
 今回は特訓回という事で…強くなって貰わなくては困るからな、ちひろが。
 
 次回はクラン会議になります。

 それでは!シュバ!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。