あんてぃりーねのゆぐどらしる☆だい☆ぼう☆けん☆ ~泣き虫が伝説になるまで~   作:だいだろすちひろ

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 前回のあらすじ

 ヘロヘロは凡才だった。


馬鹿やりたいよ

 

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

 リーネの提案により、急遽開かれたクラン会議の為に、全メンバーが都合をつけ、留置所に集合した。

 

 会議の議題は言わずもがな、弐式が発見した”未探索ダンジョン”の事であり、ギルバートの言う”面白い物”の事だ。

 

 「未探索ダンジョン…ですか…それはまた。」

 

 「それがギルバートの言う面白い物って奴なの?」

 

 「面白い物っていうかヤバい物よねぇ~、やまちゃん。」

 

 想像以上の内容にたっちも驚きを隠せない。たっちに続き、”やまいこ”と”ぶくぶく茶釜”もそう言葉を発していった。

 

 言葉を発したのはその三人であるが、残りのメンバーも、言葉には出さないが皆同じ思いなのだろう。一瞬どよめきが起きていった。

 

 「一体どこで発見したんですか?」

 

 全員の疑問を代表するかのようにして発言をしたのは、山羊頭のデーモン―――ウルベルトである。

 

 ウルベルトの問いに対し、発見者である弐式炎雷が立ち上がり、メンバー全員を見渡した後に説明を始めていった。

 

 「ヘルヘイムの大湿地帯…その湿地帯の奥の毒沼の中ですね。」

 

 「湿地帯の毒沼?もしかしてあの毒耐性ツヴェーク達の巣窟の?」

 

 「そうッス。それであってるぜ、茶釜の姉さん。」

 

 おぉ、と再度どよめきが起きる中、弐式に静かに問いかける人物がいた。

 

 「凄いですね。しかし、どうやって調査をしたんです?上空を飛んで調査をしたプレイヤーはいたのは知ってますし、その映像を見た事もあります。その映像にはダンジョンなどありませんでした。」

 

 問いかけていったのは”タブラ・スマラグディナ”。このクラン内での頭脳派に数えられる人物だ。

 

 「疑う訳ではないんですけど―――」

 

 タブラの後に口を開いたのは、同じく頭脳派の一人である”ぷにっと萌え”である。

 

 「ツヴェーク達って直ぐに鳴き声で仲間を呼ぶじゃないですか。ワラワラと集まってくるツヴェーク達を相手に探索は…ぶっちゃけ厳しいなんて物じゃない気がしますけど。」

 

 ヘロヘロさんとリーネも着いていったのかいと聞かれた弐式が首を横に振っていく。その弐式の姿を見たぷにっとが顎に手を置く。

 

 「だよね…三人いても厳しいからね…。なら傭兵NPCでも大量に雇っていったのかい?いや…それでも無理か…袋叩きに合って終わりだ―――」

 

 「ちっちっちっ♪」

 

 ぶつぶつと言いながら思考の海に潜ろうとしているぷにっとを弐式が浮き上がらせる。思考の海から浮上してきたぷにっとが弐式の方を見れば―――何やら偉そうに指を振る弐式の姿があった。

 

 「刑事さん、あなたは一つ致命的な事を勘違いしているよ。」

 

 その姿に、若干イラっときているぷにっとに対し弐式は不敵に告げていく。

 

 「ツヴェークは静かににじり寄って、首を切り裂いて一撃死させれば、仲間に敵襲を知らせたりはしないのだ!!」

 

 えっへんと鼻息荒く弐式が胸を張っていき―――ぷにっとは絶句した。

 

 「シュシュッと参上~♪そしてブシュっと即死させればいいんだよ。簡単だろ♪」

 

 「…いや…もう…なんなのこの人…頭おかしいよ…。」

 

 頭を抱えだしたぷにっとの元に近づく人影が一つ見える。リーネだ。

 

 頭を抱えたぷにっとの肩をポンポン叩きながら、リーネが喋り掛ける。

 

 「刑事さん…あなたは一つ忘れている事がある…この男は頭がおかしいを飛び越えた、真性の変態なのよ。」

 

 「どうもぉ~♪変態で~す…ってこらぁ!誰が変態じゃ!」

 

 昔はしおらしくて可愛かったのに良い性格になったのぉ、と言いながら弐式がファイティングポーズをとっていく。シュシュシュと左手でジャブの様な物をする仕草を取る。負けじとリーネも、あちょーと言いながら中国拳法お馴染みのポーズをとる。

 

 周りからは笑い声が聞こえてくる。その光景を目にしたクラン長―――たっちは良くないなと思いながら、言葉を発していった。

 

 「ほらほら、脱線してきていますよ。リーネ、()()()()()()()()()()()だろう。皆時間の都合を付けて集まってくれているんだ、ふざけるのはやめにしなさい。」

 

 「あ…ご、ごめんなさい。」

 

 たっちの言葉と共にリーネが萎れていく。メンバーを見渡したリーネが、すいませんでしたと頭を下げた後に、自分の席まで戻っていく。

 

 部屋の中には先程の笑い声はもうない、そこにあったのは沈黙だ。

 

 そんな重い空気の中――チッと舌打ちが鳴る音が聞こえる。その音はリーネの席の隣から聞こえてくる。静寂の室内に、それは非常に大きく皆の耳に飛び込んできた。

 

 「…良いじゃねぇかよ…()()()()()()()()()()()()よ。全員が集まれるのもそんな簡単じゃねぇんだ。はしゃぎたくなる気持ちくらい分かってやれねぇのかよ―――」

 

 「ウルさん、ウルさん。」

 

 剣呑な雰囲気を纏い喋るウルベルトのローブをリーネは引いて行き、それに気づいたウルベルトが振り向いていく。

 

 ローブを引っ張る手は―――震えている様に感じられた。

 

 「たっちさんの言う事が正しいよ、今のは私が悪かったんだし…。()()()()()なかったね、もう子供じゃないんだもの…きちんとしないと…()()()()()()()()よね。」

 

 ギシりとウルベルトが歯ぎしりを立てていく。拳を強く握りながらも、フゥ、と一つ、大きな深呼吸をしていく。

 

 少しの間を置いた後、ウルベルトは再び喋り始めた。

 

 「ガキに気を使わせるのがテメェのやり方かよ。」

 

 「ウルさん!もういいよ!私が悪いで終わったじゃない!」

 

 「…彼女もこのクランの一員です…気を使う事を強要はしていませんが、今回はクラン会議です。最低限のマナーは弁えて貰わないと。」

 

 「強要はしてないだぁ?どっちつかずの言葉で濁してんじゃねぇぞ、テメェ―――」

 

 「はい、そこまでにしましょう、二人共。」

 

 一触即発という言葉が相応しいかの様な雰囲気を瞬時に遮断していくかの様な言葉が二人に投げかけられていく。

 

 投げかけたのは―――モモンガだ。

 

 「たっちさん、また話が脱線してきていますね。これでは進みません。ウルベルトさん、あなたの優しさは、気持ちは十分伝わりました。彼女にもそれは伝わってます。これ以上は()()()()()()()だ。」

 

 二人に沈黙が落ちる。その姿を見たモモンガが、少しの間を置いた後、淡々と喋り出した。

 

 「先程の話を纏めましょう。弐式さんはツヴェークを葬りながら、沼地の奥に向かい、未探索と思われるダンジョンを発見した。」

 

 「え、えぇ、その通りッスモモンガさん。」

 

 「しかしタブラさんの話によるとかつてその付近を調査した者達は発見できていない。」

 

 「そうですね、映像を見たが、何か特別な物がある様には見えなかった。」

 

 「ふむ…そうですか…。あ、あとぷにっとさんの件はもう良いです。弐式さんが変態なだけです、納得してください。」

 

 「嫌だぁ!納得できないよぉ!!」

 

 「ちょ!酷くね!?結局俺は変態なん!?」

 

 二人の反応を見た瞬間、周囲からはどっと笑い声が上がる。

 

 モモンガは思う、少し空気が良くなった。これなら良い具合に議題の進行が出来そうだ。そう心の中で思いながら、間を空けずに喋り続けていく。

 

 「新しい情報が欲しいですね。弐式さん、そのダンジョンとはどの様な風貌でしたか?見つけづらい様な、分かりづらい様な物だったんですか?」

 

 「いんやぁ~?結構デカかったし、見落とすって程でも無かったかな。まぁ、薄暗い場所だし、分かりづらいっちゃあ、分かりづらい…のか?」

 

 「ほぉう…デカかったですか?」

 

 弐式との会話を続けるモモンガの雰囲気が少しずつ変わっていく。何やら役者めいた感じに変わってきた。

 

 もう少し詳しくと、少し仰々しい身振りで問われた弐式が、内容を語っていく。

 

 「えぇ、一言で言うと”墳墓”ッスよあれは。ていうか、視界モニターの頭上にもそう表示されてましたしね。」

 

 「ふむ…視界モニター…それはフィールド名の隣ですか?」

 

 「そうそう、だから()()()()()()()()()()んだよ。フィールド名の隣に、()()()()()()()()()()()からさ。」

 

 「そこにはなんと表示されていたんですか?」

 

 役者めいたモモンガから問われる弐式。話を急かされている様にも思えるが、なぜか悪い気はしない、それどころか言葉がポンポン出てくる。

 

 「”ナザリック地下墳墓”、まんまダンジョン名でしょ?」

 

 地下?墳墓?ナザリックってなんだ?等の声が周囲から聞こえてくる。例に漏れず、モモンガもそんな名前は聞いた事も無い。一瞬思考の海に潜り込みそうになるが、瞬時に己を律する。話はまだ終わってはいないのだ。

 

 「なるほど、確かにダンジョン名に聞こえますね。かなり近づかないと表示はされないでしょうし、流石は弐式さんですね、ツヴェークの群れの中、お疲れ様でした。」

 

 「うへへ、そうッスか?誰も褒めてくんないんッスよぉ~。終いには変態とか言われるし。」

 

 「そしてタブラさん。」

 

 「はい、なんでしょうか、モモンガさん。」

 

 弐式から視線を逸らしたモモンガがタブラの方向を向く。

 

 そしてまた喋り出す、少し仰々しく。

 

 「弐式さんの言う通りならば、その墳墓はそれなりの大きさでしょう、空中から調査して発見できなかったとは考えずらい。」

 

 「ですね、私もそこが気がかりです。」

 

 「なのでこう推測します。そのダンジョンは特定条件下でしか発見できない様なダンジョンなのでは?と。」

 

 ダンジョンの一部には特定条件下でしか発見できない物もある。有名な所で言えば、ニブルヘイムの氷結城は吹雪の中でしか現れはしない。 

 

 なるほど、そう言いながら、タブラが何やら一人でブツブツ喋り出した。そしてそう間を置かずに答えに辿り着いた様だ。

 

 「毒の沼地を走破してきた者の前にしか出現しない…もしくは特定高度以下に限定されている…とかか。」

 

 「なるほど!そこまでは思いつきませんでした、それなら理屈が合いますね!」

 

 仰々しくモモンガが驚いていく。実際の所、モモンガもその推理には到達していた。只言わなかっただけだ。

 

 この話題を―――疑問を投げ掛けてきたのは他でもないタブラだ。タブラが疑問を持ち、考えていたのであるから、答えはタブラに出して貰いたかった。

 

 モモンガが最後まで言っても良かったのだが、それではタブラも()()()()()()()()だろう。頭脳派とは頼もしい面もある分、難しい面もある。あそこでズバッとモモンガが答えを行ってしまった場合―――タブラの事だからヘソを曲げる事は無いとは思うが、喜びの声を上げる事も無かっただろう。だからこそ、これで良いのだ。実際の所、現状の情報だけで正解を見つけるのは無理なのだから。

 

 タブラの口が回り出す。音符が跳ねるかのようなトーンでメンバーに説明を始めていく。楽しそうだ、そう思い、モモンガは心で一つ安寧の息を吐いていく。

 

 「―――と言う事なのだろうさ。」

 

 メンバーからは拍手が起きる。どうやらタブラの考察と言う名の演説は終わったのだろう。

 

 一息ついているモモンガに、タブラから声が掛かった。

 

 「ありがとう、モモンガさん。()()()()()()()()()()()()よ。上手だねぇ。」

 

 「あ、え…?何の事でしょう?」

 

 「ふふ、さぁなんの事だろうね。」

 

 はぐらかすモモンガに不敵にタブラが笑い返していく。その笑いに内心ドキドキしながらも、取りあえずは悪い空気は払拭できたかと、自分を褒めていく。

 

 (どうにかなったぁぁぁ!どうにかなったぞ俺ぇぇぇ!偉いぞ俺ぇぇぇ!頑張ったぞ俺ぇぇぇ!)

 

 「つーことでさ、まぁ、今日の会議の議題はこのダンジョンの説明とこのダンジョンをどうするかなんだが…単刀直入に言うぜ…この後突入にいかねぇ?」

 

 (はあぁぁぁ!?弐式さぁぁぁん!)

 

 弐式の爆弾発言により、辺りは騒然となる―――かに思われたが、そうはならなかった。

 

 未探索ダンジョンと聞いた時は沸き上がったメンバー達も、思いのほか反応が渋い。

 

 それもそのはずだ、未探索という事は、そこには何があるのかも、何が起こるのかも、どんな敵や罠が待ち受けているのかも分からないのだ。いわば、完全なる未知であり、全滅する可能性が非常に高いからだ。ユグドラシルのダンジョンはご丁寧に適正LVを表記したりはしてくれない。そんな甘っちょろい事をする様なゲームでも、する様な運営でも無いからだ。

 

 渋い言葉が飛び交うそんな状況において、強気な発言をするメンバーも中にはいた。

 

 そう頭の中まで筋肉と言われる女性が、言葉を放っていく。

 

 「ふぅん…面白いじゃないか、未探索のダンジョンなんでしょ?どの程度の難易度なのか―――殴って確かめるのも悪くないんじゃない?」

 

 ガチンと両手のガントレットを打ち付けながら、脳筋聖女のやまいこがそうきっぱりと言い放つ。なよなよとした男共が女々しくも小声で喋る中、正に堂々とした振る舞い。

 

 見るがいい、世の男共よ、これがやまいこだと言わんばかりだ。

 

 「その意見には俺も賛成ですね。危険があるからこそ、リターンもまた大きい。いつまでも未知のまま―――新品のままあるなんて思わない事ですね。ギルバートが知っている以上は、この情報もいつ他の誰かに渡るかは分かりませんからね。」

 

 やまいことウルベルトが賛成の意見を上げていく。モモンガとしても、どちらかと言えばその言葉には賛成したい。初回ボーナスを取りこぼすのは勿体ないとも思わないでもないからだ。

 

 しかし。

 

 (だよなぁ…皆渋るよなぁ…。その気持ちも分かるさ。)

 

 二人の言葉を聞いても、以前反対派の方が根強い。

 

 「…よう、ちんちく、お前はどっち派なんだ?」

 

 「え…、私…私は―――」

 

 やりたい!そう言葉が喉から出かけた、そう―――出かけた。

 

 「ど、どっちでもいいかな。()()()()()()()()()()()()よ。」

 

 「…あぁ、そうかよ。」

 

 そんな反対派の意見が根強い中、皆の意志を変えていったのは、ある一人の人物の言葉だった、ある一人の―――侍の言葉。

 

 「良いじゃねぇか、一発かましてやろうぜ?」

 

 一人の侍―――武人建御雷の言葉。

 

 「未知のダンジョンだろ?上等じゃねぇか、こんな美味しい展開そうそうねぇぞ。なんでも初見が面白いんだからよ。」

 

 「面白いは良いんだけどさ、全滅したらどうすんの?アイテム全部おじゃんだよ?」

 

 「また作りゃいいじゃねぇか?簡単な事だろ?なぁ、ぷにっとさん。」

 

 ぷにっとの反論を建御雷がばっさり切り捨てていく。

 

 そしてメンバー全員を見渡し、再度言う、やろうぜと―――やらなきゃ損だぜと。

 

 一人の侍の真っ直ぐな言葉に当てられたのか、徐々に賛成派の数が増えてくる。賛成派がある一定の人数に達した瞬間に、クラン長であるたっちから声が上がる。

 

 「ふふ、それでは、賛成者の方が多いみたいなので、このクラン会議が終わり次第、件のダンジョンに突入といきましょうか。」

 

 たっちの声に賛同者達から歓声が沸き起こった。反対派も未だにいるのであるが、熱意に押し流されてしまったようである。

 

 たっちは歓声の中辺りを見渡す。そしてメンバー全員に聞こえるよう喋り出した。

 

 「それでは皆さん、良い機会ですから、このクラン会議のついでに、私から一言。」

 

 歓声の中、たっちは言葉を投げ掛け―――

 

 「まず、()()()()()()()()()()()と思います。」

 

 ―――爆弾を投下していった。

 

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

 

 頭の中が真っ白になっていった。信じたくはない言葉が聞こえてき、脳が情報が伝達されるのを遮断していったかのように。

 

 しかし、その遮断も一瞬の事であった、むしろ遮断された分、懐かしい思い出が一瞬にして頭の中を駆け巡っていく。それと同時に脳内で言葉を叫ぶ。嫌だ、嫌だ、嫌だ。まだ皆と居たいと、あんな思いはもう嫌だと―――リーネの脳は叫んでいく。

 

 目の前では、たっちが何か言いたげにしている。手を上げながら、騒ぐ皆を抑止しようとしている。しかし、その意味を考える余裕は今の自分にはない。

 

 そんな中、一人の人物の声がざわめきを叩き切っていく。

 

 「勝手な野郎だ…糞だな、お前。」

 

 「ウルベルトさん!言い過ぎですよ!」

 

 流石に言い過ぎだと感じたモモンガがウルベルトを窘めていく。窘められたウルベルトの視線がモモンガに向けられるが、そこには敵意の気配は感じない。ふぅ、と本日二度目の深呼吸をウルベルトは行っていく。

 

 「…確かに暴言でした…しかし、流石にあんまりでしょ、モモンガさん。」

 

 モモンガにそう言った後に、隣に座ったままのリーネにウルベルトは視線を移す。そして喋り掛けていく、お前も何か言ってやれよ。そう喋り掛けていった―――が。

 

 返事が返ってこない。異変に気付いたウルベルトが席を立ち、リーネの傍まで歩んでいくと。

 

 ぐす…ぐす…。

 

 それを聞いた時、ウルベルトの中で何かが弾けた。

 

 「テメェェェコラァァァ!!泣かしてんじゃねぇぞぉぉぉ!!」

 

 「ウルベルトさぁぁぁん!待ってぇぇぇ!」

 

 キレたウルベルトがたっちに掴みかかろうとしたのを、モモンガが羽交い絞めにしていく。それに気づいた他の―――近くに座っていた―――メンバー、ぺロロンチーノとヘロヘロがモモンガに加勢し、ウルベルトを取り押さえた。

 

 「ウルベルトさん、それは駄目だ!押さえて下さい!」

 

 「それやっちゃあ、()()()()()()()()なんよ!」

 

 「離せよ!テメェ!()()()()()コラァァァ!!」

 

 羽交い絞めにされながらも喚くウルベルトから視線を逸らさないたっち。たっちはこつこつと足音を立てながら歩み出す。喚くウルベルトの横を通り過ぎ、泣いているリーネの前に膝をつく。

 

 「すまない、リーネ。言葉が足らなかった様だ。馬鹿な私を許してくれ。」

 

 「ぐす…ぐす…え?」

 

 言葉の後にリーネから反応が返ってきたのを確認したたっちが、ほっと息を吐く。そして立ち上がり、周囲を見渡し、言葉を発していく。

 

 「皆すまない、私の言葉が足りず、混乱させてしまった様だ。前から思っていた事だが、ここまで人数が増えた事です、今の名はこの集団に相応しくないと思うんです。ですから、一度解散して、今度はクランではなく”ギルド”として再結成をしたい…そう思ったんです。」

 

 騒然としていたメンバー達から歓喜の声が上がっていく。周囲からは、だったらそう言えよなと言う声もちらほら聞こえてきたが、その言葉は無視し、再度たっちはリーネに向き合う。

 

 「そう言う事だ、リーネ。不安にさせてすまなかった。」

 

 「…皆いなくならないの?」

 

 「あぁ、クランからギルドに変わるだけだ。」

 

 「本当…?」

 

 「本当だ。だから泣き止んでくれ。」

 

 ごしごしと目をこすりながら、リーネは顔を上げていく。涙は出ていない、表情も変わってはいない、しかし泣いていたのは事実だろう。声は嘘をつかないから。

 

 わしゃわしゃとリーネの頭を撫でた後に、たっちは自分の席に戻る。

 

 その際、ウルベルトと目が合った。既に羽交い絞めは解かれている。そんなウルベルトの横をたっちは横切っていった。

 

 言葉を投げ掛けながら。

 

 「すまない、今回の件は全面的に俺が悪い。謝罪は後で個人的にまたする。」

 

 「はん…いらねぇよ、んなもん。次泣かしたら許さねぇ…。」

 

 「次泣かしたら許さないか…確か()()()()()()()たな。」

 

 「次泣かしたら()()()()()()()!!三度目はねぇ…これでいいか?」

 

 「そうか…分かった、肝に銘じておくよ。」

 

 その言葉は、二人にしか聞こえてはいない。

 

 メンバー達の歓喜の声にかき消されて行った。

 

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

 ウルベルトの暴挙を止めたモモンガは現在安寧の中にいた。どうにかなった、今日だけで二度そう思ったのだから。

 

 (ふい~…なぁんか疲れちゃったなぁ…一時間も経ってないのにとんでもない密度だったぞこの時間。)

 

 会議が始まってからの時間をモモンガは振り返っていく。そして思う、色々あり過ぎだろと。

 

 (まぁでも、最後の騒動はたっちさんがいけないよなぁ…。)

 

 「モモンガさん。」

 

 (いや、でも最後まできちんと話を聞かなかった皆も悪いのか?)

 

 「モモンガさん、モモンガさんってば。」

 

 「あぁん?なに?お次はなによ!?キャパオーバーだよ俺はもう!」

 

 「うわ!怒った!?なによう!怒んなくたっていいじゃない!」

 

 物思いにふけっていたモモンガを現実に引き戻す言葉にイラっときたモモンガが、怒りながら振り向く、そこに立っていたのはリーネだ。先程とは違い、声音も明るい、だいぶ本調子に戻ってきたようである。

 

 「何だ、リーネか。別に怒ってないぞ?若干イラっときただけだ。」

 

 「怒ってんじゃんそれ!木偶の棒みたいにボ~っとしてないで、話聞かなきゃ。」

 

 ストレートな悪口に、またもやモモンガはイラっとくる。さきほどまで泣いていた奴の言葉とは思えない。そんな事を思いながらも、ふと思う、コイツはいつも、どんな時でも、自分には態度を変えないと。

 

 「木偶の棒で悪かったな。ていうかお前、俺にはいつも素だよな。他のメンバーには気を使う癖に。」

 

 「え?当たり前じゃない、だってモモンガさんだし。」

 

 開いた口が塞がらない。実際には開いてはいないが、その様な表現が相応しいかの様な雰囲気を醸し出す。このクソガキがぁ。そう思っていると。

 

 「モモンガさんはさ…私がどんな事言っても、どんな我儘いっても…いなくならないでしょ?」

 

 「…分からんじゃないか。」

 

 「い~や、分かりますぅ、私が我儘いっても…本当に駄目な事をしたら、怒って窘めてくれるじゃない…そしてまた―――一緒に笑ってくれるものね。」

 

 「お、お前…恥ずかしげもなくよく言えるなそんな事。」

 

 「さっき言ったじゃない、素だって…、ほら、たっちさんがまた何か言うよ。」

 

 リーネが指を指していく。その方向にモモンガは視線を移す。そこには、皆の前に立ち何やら喋ろうとしているたっちの姿があった。

 

 「皆さん、私は今度はクラン―――いえ、ギルド長に推薦されても辞退します。まぁ、まだ選ばれてもいないし、自意識過剰化かと思いますが。」

 

 たっちの言葉を聞いたメンバー達が各々顔を見合わせる。そしてそのメンバーの疑問を代弁するかのように、タブラが口を開く。

 

 「それならばたっちさん、ギルド長はどうするんです?誰か推薦したい人物などがいるんですか?」

 

 その言葉にはモモンガも同意する。たっち程の立派な人物の後を告げる者などいないだろう。もし推薦される人物がいるならば、その人物は大変に可哀そうだとモモンガは思う。

 

 タブラの言葉を聞いたたっちが全員の顔を見渡していく。

 

 そしてこう言った。

 

 「私は個人的には”モモンガさん”を推薦します。」

 

 たっちの言葉の後に。ほう。良いんじゃないか。彼なら任せられる。など、数々の肯定の言葉が聞こえてくる。

 

 「あ~、成程ね。それなら大丈夫かな。ねぇ、モモンガさん―――モモンガさん?」

 

 他のメンバーと同じく、モモンガならしっくりくると思うリーネがモモンガに喋り掛けていく―――が返事は返ってこない。

 

 そう、返事は返ってこない、なぜなら。

 

 「…………。」

 

 モモンガは失神していた。

 

 「あれ?モモンガさん?モモンガさ―――」

 

 「…ウボァー!」

 

 「うわ!?え、なに!?ウボォーギン!?」

 

 キャパオーバーの脳に無造作に放られた本日最大容量の情報の所為で、一瞬だけ失神してしまったモモンガが奇声を発しながら現実界に舞い戻ってきた。

 

 急に奇声を発したモモンガの所為でリーネはビクつく。

 

 「ウボァー!」

 

 「あぁ、ウボァーって言ってるのね。ウボォーって聞こえた…ていうかモモンガさんそれ皇帝じゃない。」

 

 頭を抱え叫ぶモモンガを他所に、たっちは尚も喋り続ける。

 

 「まぁ、唐突な話ですし、モモンガさんに承諾を得ている訳じゃない。誰か他に立候補したい人はいますか?」

 

 しーんと場は静まり返る。どうやら立候補者はいない様だ。

 

 (不味いーーー!不味い不味い不味い!)

 

 汗の出ない筈の体から冷汗が流れる様な感覚にモモンガは襲われて行く。この状況は非常に不味い。会社でよくある。何か質問はありますか、からのしーんの流れだ。つまり、この後に喋る者は誰もいないという事である。

 

 「はいはいはい!」

 

 タフなボーイくらいの勢いではいを連呼していったのは、勿論モモンガである。

 

 「たっちさん待って下さい!急な事で皆混乱してますよ!ねぇ皆さん!」

 

 そう言いながら、辺りを見渡すモモンガ。そこでふと目についたのは、無課金同盟の二人、ウルベルトとぺロロンチーノだ。

 

 ギルド長と言う世紀末に放り出されそうなモモンガを助けてくれるであろう救世主達である。

 

 「良いんじゃないですか?最高の人選だと思いますが。」

 

 「俺もそう思う。モモンガさん贔屓とかしねぇし。」

 

 (裏切ったなぁぁぁ!!!)

 

 Welcome to this Crazy time このイカれた時代へようこそモモンガ。

 

 「ちょっと待って!俺はたっちさんみたいに皆を引っ張ってはいけませんよ!」

 

 「そこは皆サポートするでしょ。そうですよね、皆さん。」

 

 その言葉を聞き、うんうんと全員が頷くのが目に入ってくる。無課金同盟にすら裏切られ徐々にモモンガが追い詰められていく。思い返してみれば、約一名は既に裏切者だった。薄情者どもめと思いながら周囲を見渡す。

 

 「ん?どうしたの?」

 

 「…いや、なんでも。」

 

 助け船を求めて周囲を見渡していたモモンガとリーネの目が合った。しかしモモンガは何も言わない、ことこの状況において、これほど頼りにならない奴もいないからだ。実際今もコイツは何やらコンソールをいじり遊んでいる。無関心が過ぎるだろう。

 

 冷汗が流れ続ける様な錯覚に陥るモモンガ。すると、隣からふぅ、と言う溜息が一つ。リーネの方からだ、モモンガは気になり振り向く。その瞬間リーネは右手を上げ―――

 

 「は~い、じゃあ私がギルド長しま~す。」

 

 ―――本日何度目かも分からぬ爆弾を投下していった。

 

 「はぁぁぁーーー!!!?」

 

 爆弾発言に我を忘れたモモンガがリーネの肩を掴む。そして揺さぶる。がっしがっしと揺さぶっていく。

 

 「お前ぇぇぇ!適当な事言うなぁぁぁ!」

 

 「あ~、あうあうあ~。」

 

 揺さぶられ、リーネの首が触れる。マキシマムなヘドバンにも引けを取らない程だ。

 

 「だって~、モモンガさん嫌なんでしょ~、だから変わってあげようかな~って。」

 

 「馬鹿野郎!簡単に言うなぁぁぁ!お前にさせたらギルドが崩壊するわ!」

 

 「え~、じゃあ誰がするの~?誰もしないなら、もう私しかいないじゃ―――」

 

 「お前にさせるくらいなら!ギルドをぶっ壊すくらいなら!俺がするわぁぁぁ―――」

 

 「―――へぇ―――」

 

 ―――()()()()()()()

 

 ピタリとモモンガの腕が止まる。いや、腕だけではない、モモンガが止まる。まるで彼だけ時間が停止してしまったかの様に。

 

 すっと掴まれた腕を払い、リーネはモモンガに近づく。そしてモモンガの耳元に口を近づけていく。その距離は近い、唇が触れるかも知れない程だ。

 

 そして。

 

 「言質取ったわよ。」

 

 小さな声で囁いた。

 

 くすくすと悪女の様に笑いながら、固まるモモンガを横目に、リーネは周囲のメンバーに―――クラン全員に向け、大きな声で、高々に宣言していく。

 

 「みんなーーーモモンガさんギルド長してくれるってーーー!」

 

 その瞬間、辺りから今日一番の歓声が巻き起こり、拍手の雨が降り注いでいった。

 

 その中、リーネはモモンガの肩に手を回す。そして再度耳元で囁く。

 

 「頼りにしてるからね、ギルド長。」

 

 先程の様な悪い声音はそこには無い、あるのは純粋な激励の言葉、しかしモモンガには聞こえない。リーネの言葉も、拍手の音も。

 

 なぜなら。

 

 「……………。」

 

 モモンガは本日二度目の失神をしていた。

 

 そしてすぐさま現実界に舞い戻る。

 

 「…ウボァー!」

 

 留置所の室内に響くモモンガの奇声は、歓声と拍手にかき消されて行った。

 

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

 

 「くそう…くそうくそう。」

 

 「もう、モモンガさん、やすなじゃないんだから。べいべ…ぷりーず…きるみーよ」

 

 「あぁん!?何だそれ!つーか誰の所為だよ!誰の!」

 

 頭を抱えるモモンガの肩を叩きながら、リーネが励ましていく。ぶっちゃけた話、誰の所為だと言われたらたっちの所為なのであるが、そんな事は言わない。

 

 (ま、()()()()()()()()()()。)

 

 リーネの頭の中に先程の出来事が思い出される。モモンガが右往左往している中、自分宛に飛び込んできた三通のメールの事が。

 

 宛先人は、”ぷにっと萌え””タブラ・スマラグディナ””ベルリバー”この三人だ。

 

 (モモンガさん以外がギルド長になればギルドが割れる…最悪空中分解…か。)

 

 ほぼ同タイミングで送られてきた三通のメール、その内容はおおむね同じであった。モモンガ以外がギルド長になればギルドが割れる。だからこそ、彼をギルド長にする為に協力して欲しいと言う物だ。

 

 (そんなの絶対に嫌…ごめんねモモンガさん…。でも…本当にそこまでいくのかな?分かんない。まぁ、頭の良いあの三人が言うんだしそうなんでしょうね…クランの頭脳って言われる三人だし、なぁ~んか、色々考えてそう。)

 

 あの場で自分がああ言えば、モモンガは間違いなくこういう行動を取るだろうと言う確信があった。伊達に長年一緒にはいない、モモンガにとっては、たっちの次に長い付き合いなのだから。それも遊んだ時間だけで言えばたっちよりも遥かに多い。あの三人もモモンガに決意させるには、自分が最適だと思ったのだろう。 

 

 自分としてもモモンガにギルド長をして欲しい気持ちはあった、しかしそれでも今回の件は少し心が痛い。

 

 「はぁ…全く…やるしかないか~。」

 

 「おっ、モモンガさんやる気になった?」

 

 両の頬を叩きながら、モモンガが重い腰を上げていく。普通ならパチンパチンと聞こえる所だが、モモンガの頬には肉が無い、カツンカツンと高い音が響く。

 

 なんか痛そうだなとかリーネが思っていると。

 

 「やるしかないだろ~!もういいよ!やってやるよ!!」

 

 「おぉー!復活!復活!モモンガさん復活!」

 

 観念したモモンガが、から元気を出し拳を握る。そこはやってやるよ!じゃなくて、やあってやるぜ!だろと思うが口には出さない、ここは茶化す所ではないからだ。

 

 立ち上がったモモンガはメンバー全員に聞こえるよう、大きな声で語り出す。

 

 「え~、皆さん、本日このクランは解散され、新しくギルドとなり生まれ変わります。そしてそのギルドのギルドマスターを、私モモンガが務めさせていただきます。」

 

 歓声が沸き起こる。盛大な拍手がモモンガを迎える。

 

 「え~、まず早速なんですが、”ギルド名”はどうしましょうか。あれならギルマスとしての初の仕事として、()()()()()()()()のですが。」

 

 その瞬間、空気が震えたような気がした、ギルメン達の動揺が押し寄せてくるかの様な感覚が感じられる。

 

 「い、いや…それには及ばないんじゃないかなって、私おも―――」

 

 「正気?モモンガさん。皆の名前なんだし皆で考えようよ。」

 

 陰鬱な空気を切り裂くかのように、茶釜が早口で言葉を発していったその直後、被せるかのようにリーネの言葉がモモンガを打つ。

 

 直後、賛同する声が幾つも上がっていく、皆隠そうとはしているが、声は慌てているのが分かる。

 

 「うん!そうだな、リーネの言う通りだな!大事な事だもんな!」

 

 「でしょ?ちなみにモモンガさんならなんて名前つけるの?」

 

 ごくり。ギルメン達が息をのむ。

 

 「俺か?う~ん…”異形種動物園”とかか?」

 

 ほらみてみろ!その様な反応になるだろうと身構えていたギルメン達はあっけに取られる。なぜならばモモンガの考えた名前にしては思いのほかマシだったからだ。ちなみに、マシなだけで良いとは皆は思ってはいない。これで決定は無い思う気持ちは皆同じだったので、モモンガの後に各人が意見を出し合っていく。

 

 「なんか…これだ!っていうのでないよね。僕としては今までのクランネームを完全に捨てるのは勿体ないって言うか…なんか嫌だなぁ。」

 

 そう意見を出していったのはやまいこだ。その意見には賛同する者も多くいた、その中にはモモンガも含まれる。ナインズ・オウン・ゴールと言う思い出深い名前をどうにかして受け継がせたいと、各々が考えを巡らせる中、またもや皆の気持ちを掴んで行ったのはこの人物であった。

 

 「…アインズとかどうだ?ナインズの”N”、Nはひらがなで”ん”終わりの字だ、その字を始まりの字である”あ”と入れ替えてアインズ…どうよ?」

 

 建御雷の意見を聞き、おぉ、とギルメン達から声が漏れる。賛同する者達が多く現れる中で、ぷにっとが更に意見を述べていく。

 

 オウン・ゴールを”ウール・ゴウン”に変え、”アインズ・ウール・ゴウン”でどうかと言う意見だ。

 

 この意見が駄目押しとなった、ギルメン達は沸き上がり、口々にアインズ・ウール・ゴウンという単語を口から漏らす。

 

 「…皆さん気に入った見たいですね。それでは皆さん、アインズ・ウール・ゴウン、これがギルドの名前でよろしいでしょうか?」

 

 いいで~す。モモンガの発言に対し、ギルメン達はそう言葉を返していく。

 

 沸き上がるギルメン達を見つめるモモンガに一人の人物が声を掛けてくる。その人物はたっちだ。静かにギルメンを見つめていたモモンガに、たっちは一本の巻物を手渡していく。

 

 それはギルド設立申請書と呼ばれるアイテムだった。そのアイテムを手に取ったモモンガはしばしの沈黙の後に、一つ頷いていった。

 

 そんなモモンガを見たたっちが、ふっと軽く笑い声を出した後に、ギルメン達に告げた。

 

 「それでは皆さん、これよりクランの解散、及び…。」

 

 「…ギルドの設立を行います。」

 

 たっちの言葉に少し遅れてモモンガがギルメン達にそう告げた。沸き上がっていたギルメン達の声が止んでいく。

 

 静寂に包まれた室内に、重々しくも悲しい音が鳴っていった。それはたっちのいる場所から―――クランが解散された音だ。

 

 しんみりとしているギルメン達の元に今度は巻物が出現していく。先程のギルド設立申請書がモモンガによって発信されたからだ。

 

 その巻物を、ギルメン達が開封し、そして入力していく。皆が一様に同じ動きをしているのを見ていたモモンガは少し面白くなり笑ってしまいそうになるがなんとか耐えていった。流石にこの空気では笑いずらい。

 

 やがて、ナインズ・オウン・ゴールの全メンバーが、ギルド、アインズ・ウール・ゴウンに所属を変えていった。

 

 これでかつてのクラン―――ナインズ・オウン・ゴールは完全に消え去った。

 

 今これより、新たなるギルドが―――アインズ・ウール・ゴウンがユグドラシルに生れ落ちる。

 

       ―――伝説が始まる―――

 

 少し寂しい気持ちがモモンガを襲うが、それは一瞬だった。寂しがってばかりもいられないからだ、これからはギルド長として皆を引っ張っていかなければならないのだから。

 

 皆を引っ張って、皆に楽しんでもらわないといけない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ふぅ、とモモンガは今日何度目になるか分からない溜息を吐いていく。やめるならば今しかない、ここが運命の分かれ道―――分岐点であるだろう。

 

 逃げたい、言いたくない、そんな気持ちに支配されそうになったモモンガは大きく息を吸い込み、声を張り上げていった。

 

 「皆さん!聞いて下さい!」

 

 急に大きな声を出したモモンガにギルメン達の視線が突き刺さっていく。

 

 重圧がのしかかる―――ギルド長としての重圧が。

 

 言った、言ってしまった。緊張で吐きそうになりながらも、モモンガは心の中で笑う。これで良いと―――退路は断たれたと。

 

 不思議そうに見つめるギルメン達にモモンガは高らかに宣言していく。

 

 「私としては、これからアインズ・ウール・ゴウン最初のイベントとして、今日の会議の議題でもあった、未探索ダンジョンへ向かいたいと考えています。皆さんと力を合わせ…その未探索ダンジョンを―――”ナザリック地下墳墓”を―――」

 

  ―――一発で攻略しようではありませんか―――

 

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

 

 どよめきが起きていく。それも至極当然の反応であろう。未探索ダンジョンの初見攻略と言う言葉がどれ程の意味を持つか、その意味を知っている者達だからこその反応であり、当然の結果であった。

 

 それでも、リーネの胸は躍った。鼓動が高鳴りを上げていく。体の内が熱を持ち、心が滾っていく―――が、それはリーネだけの様だ。

 

 どよめきは激しさを増していく。それが否定の言葉へと姿を変えるにはそれほど時間はかからなかった。

 

 リーネの耳に一つの言葉が飛び込んでくる。流石にそれは無理じゃないですか。これはベルリバーの声だろうか、頭の良い彼の事だ、モモンガの言葉の意味を―――難しさをよく理解できている。

 

 無謀だ、無茶だ、その言葉だけが飛び交い続けた。

 

 (だよね…そうなるよね…。デメリットが大きすぎるし…それに新ギルド一発目のイベントは皆失敗したくないものね。モモンガさんも滅茶苦茶ね…なんで()()()()()()の?)

 

 ギルド結成一発目にしては随分とハードな内容にリーネは疑問を持つ。彼は―――モモンガはこんな無茶を言う様な人間ではないからだ。そこが非常に引っかかる。

 

 (こんな馬鹿な事言っちゃ駄目だよモモンガさん…空気読まなくちゃ…昔と違うんだから、こんな馬鹿な事誰もしたがらない…こんな…馬鹿な事…。)

 

 馬鹿な事と言う言葉が脳裏に浮かぶ、そして思い起こされて行く、今までの記憶が。無謀だ、無茶だ、そんな道理を蹴っ飛ばし、馬鹿な事をし続けていた昔の事を。

 

 やりたい、皆と、ギルドの皆と馬鹿がしたい。その思いを押し殺すリーネにある人物が声を掛けてきた。

 

 「ようよう♪どうしたよリネちん、黙ってよ?びっくりしてんのか?まぁビビるよな、まさかモモンガさんがあんな事言うなんてな。」

 

 声を掛けてきたのは”変態紳士”ぺロロンチーノであった。リーネと同じく、彼もまたモモンガの言動には疑問を持ったようだ。

 

 ヘラヘラとリーネに喋り続けるぺロロンチーノであったが、ふと気づく。リーネの纏う雰囲気に。

 

 「…なんだよ?お前…攻略したいのか?」

 

 「―――!?」

 

 図星を突かれたリーネの体がビクついていく。その様子を見たぺロロンチーノが当たっていたと言わんばかりの態度をとっていく。

 

 「やっぱそうなん?んじゃ言えよ。このままじゃ間違いなくこの話おじゃんだぜ?」

 

 「…別に、行きたくないし。そんな事言ったら空気悪くなるじゃない…私は皆が行くなら行く…それだけよ。」

 

 「…ふぅ~ん、そうなん?()()()()()()()()()()()空気悪くなんのこのギルド?別に悪口言ってるわけでもないし、誰かけなしてる訳でもないんだぜ?自分の意見言っただけで空気悪くなんだ…その程度の連中なんだ?」

 

 「いや!別にそういう訳じゃ…いや、そうよね、今のは私の言い方が悪いよね…いや、ですね。すいません―――あた!?」

 

 徐々に声が小さくなっていくリーネを見つめるぺロロンチーノが、人差し指でこつんとリーネのおでこを突いていく。そして再度喋り掛ける。

 

 「はぁ…リネちんさぁ…お前が思ってるよりも、()()()()()()()()()()()()()んだぞ?」

 

 「…え?」

 

 「つ・ま・り・だ…皆お前の事がなぁぁぁ…()()()()()()だよ―――」

 

 にやりと笑うかの様な雰囲気と共に、ぺロロンチーノの頭上にピコンとアイコンが表示されて行く。そのアイコンは美少女の変顔―――もとい、あへ顔のアイコンだ。

 

 「…は?」

 

 「―――あ、間違えた…へへへ、ちょっと今のなし。うおっほん…つ・ま・り・だ…皆お前の事がなぁぁぁ…好きだって事だよ―――」

 

 にやりと笑うかの様な雰囲気と共に、ぺロロンチーノの頭上にピコンとアイコンが表示されて行く。そのアイコンはサムズアップしたぺロロンチーノのアイコンだった。

 

 「―――あんま気ぃ使ってんじゃねぇぞ、馬鹿野郎!おーい、みんなー!リネちんが攻略したいってよぉ!」

 

 「はぁ!?ちょっと!?」

 

 大声で叫ぶペロンチーノにギルメン達が振り向く。そして言葉の意味を理解したギルメン達が一斉にリーネに視線を移す。

 

 ギルメン達の視線が突き刺さる。

 

 無言のプレッシャーにしどろもどろになるリーネに、真っ先に声を掛けていったのはぷにっとだった。

 

 「攻略したいって?本気で言ってるのリーネ?意味分かって言ってる?初見だよ?」

 

 「あ…いや…それは…。」

 

 「言えよ。」

 

 聞こえた声は後ろからだ―――ぺロロンチーノの声が聞こえてくる。

 

 「言いたい事言ってみろよ。そんなに俺ら信用ない?」

 

 声が聞こえる。自分の背中を押してくれる声が。しばしの沈黙の後、リーネは口を開いた。

 

 「…やろうよ。」

 

 それはとても小さな声だった。そんな小さな声が、ギルメン達にはとても大きく聞こえた。

 

 「無謀でも…無茶でも…馬鹿でもいい…やろうよ。少なくとも、私はしたい…攻略がしたい…ここにいる皆で…馬鹿で無謀なダンジョン攻略がしたいよ!」

 

 「それで全滅したら本当の馬鹿だね。」

 

 ビクリと体が震える。ぷにっとの正論が牙を剥いていく。しかし、それでも、リーネは引かない。

 

 「ゲームなんだよ!ゲーム!全滅もまた楽しみの一つじゃないの!?ちがうのぷにっとさん!本当の馬鹿?そうだよ馬鹿だよ!馬鹿だから…だから私達”ナインズ・オウン・ゴール”だったんでしょ!?」

 

 止めていた思いが決壊していき、濁流の様に口から流れ出す。

 

 言葉は止まらない―――思いは止まらない。

 

 「馬鹿な事ばっかりして…他のプレイヤーに笑われて…それでも馬鹿だったからこうして集まれた!皆と出会えたんだ!でもいつからか、皆馬鹿を止めてお上品になっちゃった。いや違う、あの時からだ…初めて手に入れた世界級(ワールド)アイテムを奪われた時から―――セラフィムの糞野郎共に奪われた時からだ!」

 

 叫び声に近い声を上げていくリーネを、ギルメン達は無言で見つめていく。

 

 モモンガも、たっちも、ウルベルトも、ヘロヘロも。皆が黙して聞いている。

 

 「全滅するかなんてまだ分かんないじゃないか!そんなの今までなんども乗り越えて来たでしょ!?最初から(はなっから)諦めてんじゃねぇよ!!私…私は…あぁ…あぁ…もう…。」

 

 何言ってるか分かんなくなってきた。そう言いながら、自分の頭を両手で掻き乱す。

 

 「だから…。」

 

 「だから?だからなんだい?」

 

 ぷにっとの声がやけに大きく聞こえてくる。続けなよ、そう言われたリーネは叫んだ。

 

 「だから…だから私は!皆と…大好きな皆と―――」

 

   ―――馬鹿やりたいよぉぉぉぉぉ―――

 

 言い切った、言いたい事は伝えた。何が言いたいのか、自分でもよく分からなくなりながらも、確かに自分の気持ちは伝えていった。

 

 皆に嫌われたかもしれない。そう心に過った瞬間にぷにっとの声が聞こえて来た。

 

 「全滅して、皆が頑張って作った愛着のあるアイテムもなくなって、そんな事になるかも知れないのに、馬鹿みたいに未知のダンジョンに突撃しろ。君はそう言うんだ。本当に困らせてくれるね。」

 

 ビクリと体が動く、震えが襲ってきそうになった―――その時。

 

 「本当に困らせてくれるね、この我儘姫は…いいよ、やってやろうじゃないか。」

 

 「…え?」

 

 想像もしていなかった言葉が聞こえて来た。そしてその言葉に惹かれる様に新たな言葉も聞こえてくる。

 

 「あぁ…ぷにっとさんの言う通りだな、お前さん達―――やろうぜ。」

 

 その言葉を発した人物を見た時に、リーネは目を疑う―――いや、リーネだけではなくギルメン達全員が驚いている様だった。

 

 言葉の主は―――あまのまひとつだ。

 

 「ようお前さん達、俺の仕事は二つある、なんだか分かるか?一つは鍛冶士としての仕事だ、皆の装備を作るのが俺の仕事だ…そしてもう一つは…こいつの我儘を聞く事だ!」

 

 そう言いながら、あまのまは右手のハサミをリーネに突きつけていく。

 

 「どんだけお前の我儘で武器作ってきたと思ってやがる!それをお前、急に我儘言わなくなりやがって、寂しいじゃねぇかよ!久々の特大の我儘だ、皆が何と言おうと俺は行くぞ!」

 

 あまのまの言葉に続く様に、賛同する者達の声が聞こえてくる。その声はどんどん増えていく。どんどん大きくなっていく。

 

 「はん、やればできるじゃねぇか、ちんちく。俺がいないと寂しいだろ?一緒に行ってやるよ。」

 

 「久々の我儘が特大級だな、リーネ…二度も泣かせてすまない。俺も一緒に行かせてくれ。」

 

 「凡才の身ですが、できる限り頑張って見ますよ、アンティリーネちゃん。」

 

 「腕がなるぜ…なぁ、ニシやん!」

 

 「あぁ、熱くなりすぎて忍べなくなりそうだぜ建やん。」

 

 「うおぉぉぉ!!滾る!滾る!滾るぅぅぅ!」

 

 「やまちゃん気合入り過ぎだって♪折角のリーネの我儘だし、聞いてあげようよ、あんちゃん。」

 

 「そうだね、かぜっち。」

 

 「知らないよ、俺は止めたからね。」

 

 「まぁまぁ、ベルリバーそう言うなって。」

 

 ガンガンガンガンとガントレットを打ち付けるやまいこを見てギルメン達は大笑いしていく。そんなガントレットが打ち付けられる音に紛れて、リーネの後ろから声が届く。

 

 「言えたじゃねぇか。」

 

 「ペロさん…。」

 

 腕を組むペロンチーノがゆっくりと歩いてくる。そしてリーネの目の前で歩を止めた。

 

 「お前の我儘聞くくらいな、皆朝飯前なんだよ。少しは言いたい事言わないと損ってもんだぜ?」

 

 「ありがとう…本当に。」

 

 「礼を言われる程でもないんだけどな…お、見て見ろ、モモンガさんが何か言うみたいだぞ。」

 

 本日一番の盛り上がりを見せるギルメン達の前に立ち、モモンガが大きな声でギルメン達に伝えていく。

 

 「皆さん、この盛り上がり…イエスと取りますよ?」

 

 モモンガの言葉の後にギルメン達からはやる気に満ち溢れた声が聞こえる。

 

 「やりましょう!皆さん!ナザリック地下墳墓初見攻略!新ギルド、アインズ・ウール・ゴウンの初のイベント―――派手にかましてやろうぜ!!」

 

 割れんばかりの歓声、そして止む事のない拍手がモモンガを包む。

 

 この様な活気はいつ以来だろうか、リーネの記憶を探してもかなり古い記憶まで遡らなければならない程、それほど久しくこの様な活気は記憶にない。

 

 「気合入ってんなモモンガさん、なぁリネちん。」

 

 「そうね…ねぇ、ペロさん…今日は本当にありがとう。」

 

 怯えていた、自分の我儘で仲間が嫌な気持ちになり、やめて行ってしまうのではないかと。言い聞かせていた、もう子供じゃないと、大人になれと。壁を作っていた、自分から仲間に―――大切な仲間達に。

 

 空気を読むと言うのも大事な事なのかも知れない。でも素直さを―――自分らしさを忘れない事も大事だと気づかされた。

 

 まぁ、相手がぺロロンチーノと言うのが少し悔しいが。

 

 「え?なんて?」

 

 「ん~?いや、いいや。何でもないよ。」

 

 「あっそ。あっそういやよ!」

 

 「ん?なに?」

 

 ぺロロンチーノと言う人物を見誤っていた自分を恥じていた時、そのぺロロンチーノが何やら言いたそうにしている。聞き直したリーネに向かいぺロロンチーノは言った。

 

 「あのあへ顔幼女アイコンの事なんだけど、姉貴には言わないでくれよ。殺されるからさ。なぁに礼はたんまりとしますぜアネゴ…うっへっへ。」

 

 「…だぁ~いなし…。」

 

 前言撤回、やはりこいつは只の変態だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 遂にナザリック攻略スタート…スタートラインにも入ってませんけど!?

 どうもちひろです。

 こんなに長くなる予定はありませんでした。
 本当はナザリックの攻略は、結構ばっさり簡略に行く予定だったんですけどね。
 ※ある場面をのぞいて。
 実は理由もありまして、このナザリックの攻略って”特典小説”なんですよね。
 皆が皆このナザリック攻略の特典小説を読んでいる訳ではないと思います。 
 なので、原作やアニメでしかオーバーロードを知らない方達に少しでも、こんな感じで攻略してたんだよって伝えたいとちひろは思いました。
 ウルベルトさんがたっちさんに糞が!見たいな事を言ってましたが、実際にあれは特典小説内で言ってるんですよね。
 そんな感じで、この人こんな事言うの!?みたいな事や、この人こんな感じなんだ見たいな事が結構あるんで、それを伝えたいなと思い、方向転換して、結構細かく書く様にしました。
 四割くらいはオリジナルの内容で、捏造、改変など有りますが、六割くらいは特典小説の内容で進んで行くと思います。
 ちょっと長くなるとは思いますが、お付き合い頂ければなと思いますね。

 それでは!シュバ!
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