あんてぃりーねのゆぐどらしる☆だい☆ぼう☆けん☆ ~泣き虫が伝説になるまで~ 作:だいだろすちひろ
前回のあらすじ
ぺロロンチーノはたまに良い事を言う。
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それは、唐突に現れた。
まるで、地の底から這い上がるかのように。
悪意、憎悪、恐怖、その全てを具現化したかのように。
身を震わせそうな不気味な音を鳴り響かせながら。
それは、現れた。
それの名は―――
♦
ナインズ・オウン・ゴール改め、アインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバーはヘルヘイム辺境の地である、猛毒の沼地―――”紫毒の沼地”から数百メートル離れた場所、”突き刺す水晶平原”に集まっていた。
突き刺す水晶平原―――凍てついた植物の葉が水晶でできた刃の様に鋭く尖り、歩くだけでもダメージを負ってしまう危険地帯である。その水晶は
この平原の手前の荒野はそれ程難易度も高くはなく、初心者でも立ち入れるのであるが、一歩平原に足を踏み入れればこの有様だ。初見殺しと言うかなんと言うか、イージーモードに慣れて調子に乗った初心者達を、急なハードモードで叩きのめしてやろうと言う、運営と制作陣の悪意がまじまじと見てとれる。
このユグドラシルと言うゲームの九つの世界に共通する部分に、世界の中央から端に―――辺境に行くにつれて難易度が高くなる傾向がある。
特に異形種のプレイヤーが集まりやすい三世界―――ニブルヘイム、ムスペルヘイム、ヘルヘイムの三世界はそれが露骨であり、その中でも異形種のホームグラウンドである”ヘルヘイム”はその傾向が特に強い。出現するモンスター以上に、フィールド自体が罠ともいえる様な仕様になっている。
しかしながら、アインズ・ウール・ゴウンのメンバーにとってはこの程度の危険はそれ程頭を悩ませるほどでもない。なぜならば彼らは異形種だからだ、確かに何らかの対策は必要かもしれない、しかし彼ら異形種は人間種の様に貧弱な種族ではない、異形種特有の様々な耐性が、この水晶平原の難易度を大幅に下げていっている。実際に刺突耐性を持つギルメンは、水晶にどかりと座り準備を進めている姿が目に見えた。
一見緊張感が無いようにも見えるがそれは違う。ギルメン達の周囲には無数の防御魔法が展開され、探知系の魔法で周囲の警戒まで行われている。さらには最高位の幻術魔法である
「さてと…それでは皆さん準備は終わりましたか?」
ギルマスであるモモンガがそう言うと、ギルメン達から了解の意が聞こえて来た。今回の未探索ダンジョン攻略部隊である、計二十七名の声が。
モモンガを合わせて二十八名。これはアインズ・ウール・ゴウンの全ギルドメンバーが集結したという事に他ならない。
全ギルメン達の名前がコンソールに表示されているのを見て、モモンガは胸が熱くなっていく。頼もしい仲間達と共に未知の攻略に挑む感動と、こんな無謀な事に協力してくれている事に対する感謝の気持ちが沸いてくる。
しかし嬉しい反面、重圧もある。それも特大の。
(胃がキリキリする…いや!俺は鈴木悟ではない!俺はモモンガだ!胃はない!だからキリキリしない!うん!)
新しいギルド―――アインズ・ウール・ゴウンの門出を祝う最初のイベントであり、大事なイベントだ、失敗は許されない、これが失敗すれば縁起の悪い門出になってしまうだろう。本来であるならば、もっと簡単なイベントで済ませるのが普通であり、それが正解なのかも知れない。
(簡単じゃ駄目なんだ…それじゃ駄目なんだ。)
簡単では駄目。これがモモンガをモモンガらしくない行動に移らした原因であり、それが今回の、この”未探索ダンジョン初見攻略”に繋がっていった。
簡単では駄目なのだそれでは―――団結できない。
恐らくここで団結できなければ、このギルドは遠くない内にバラバラになるのではないか?という予感がモモンガにはあった。一癖も二癖もあるような連中の集まりだ、ギルドとなり、できる事が増えて行けば意見の対立は今よりも強くなるだろう。
だからこそ、強い団結力をモモンガは望んだ。団結は困難であれば困難である程に強まり、深い印象をギルメン達に与えていく事が出来るだろう。極限状況下では敵対者同士でも手をとり合う様に、困難がギルドを纏め上げてくれるのでは、と言う思惑がモモンガにはあった。
だからこそ簡単では駄目だった。だからこそ最高難易度の、未探索ダンジョン初見攻略という事だ。
「それでは出発しましょうか…先行チーム、案内よろしくお願いします。」
「たらら~んっとな♪俺達に任しとけ。」
斥候チームの代表である弐式が代表して返事をした。
斥候チームに続くかのように、ギルメン達は各々が歩を進めていく。そこには油断は微塵もない、熟練のプレイヤーの雰囲気だけがそこには合った。
「よし、私達も続きましょうか。リーネ乗れ。」
「は~い、お邪魔しま~す。」
モモンガの言葉の後に、リーネがモモンガの巨体をよじ登り出す。うんしょうんしょと言いながらよじ登っていく姿は少し可愛く見えた。
「
「煩いな、静かにしてくれ…。」
モモンガに肩車されている形になったリーネが拳を突きあげそう叫んでいく。
水晶平原の周囲の葉達は斬撃の特性を有しているが、モモンガには斬撃に対する耐性がある為に大して通用はしない。足元に生える草たちは刺突の特性があるが、モモンガは刺突の完全耐性までもを種族特性で持っており、なんら問題はない。
しかしリーネは違う、彼女は人間種であり、脆弱だ。全ての特性に耐性など持ってはいない。アイテムで耐性を付与してもいいが、水晶平原を走破する為だけに装備枠を二つも潰していくのは勿体ない。この先には紫毒の沼地も続いている事も考えれば、毒の完全耐性を持つモモンガに乗せて行ってもらうのが一番効率がいいからだ。
「斬撃無効!刺突無効!毒、病気、麻痺、睡眠、即死無効!私は人間を超えた!私は人間を支配できる!こぉぉいジョナサン!ウリィィィィ!!」
「だから煩いって…耳元で騒ぐなよ。あと、斬撃は無効じゃないぞ。」
モモンガの持つ耐性を、さも自分も得たかのようにリーネは振舞う。
実の所、紫毒の沼地には病気や麻痺を付与してくるモンスターや、強力な睡眠効果を齎す毒の花などが咲いている。そう考えると、この先に広がる毒沼の地獄はモモンガの独壇場とも言えるかも知れない。
「不死身ぃぃぃ!!不老不死ぃぃぃ!!モモンガパワー!!!」
リーネは人差し指でこめかみをぐりぐりしながら大声で叫ぶ。最高にハイって奴だ!
「―――あっ…私とした事がうっかりしてたわ。ごめんねモモンガさん。」
「あぁん?お次はなんだよ?」
「
「お前なんかに乗っ取られてたまるかよ!振り落としてやろうかこいつ!」
下らない会話を繰り広げながら、リネンガは水晶平原を進んで行く。
ここを抜ければ、目的の場所はあと少しだ。
♦
「マジかよ…マジであったよ。」
その言葉を吐きだしたのは誰であろうか。
紫毒の沼地を進み続けるうちに、ギルメン達の視界モニター頭上に表示されたフィールド名が変わっていく。
グレンデラ沼地―――毒耐性ツヴェーク達が支配する場所であり、紫毒の沼地の中で最も難易度の高い地獄である。
八十LVのツヴェーク・グレンべラと言うモンスターを筆頭に―――
八十三LV・ツヴェーク・ファイター・グレンべラ
八十三LV・ツヴェーク・プリースト・グレンべラ
八十四LV・ツヴェーク・ナイト・グレンべラ
八十五LV・ツヴェーク・ウォーロード・グレンべラ
―――と言う高LVのモンスター達が蠢く地獄の様な沼地である。
最も恐ろしいのは、その内の一匹とでも戦闘に入ってしまえば、ツヴェークは奇声を発し仲間を呼んでくると言う事だ。
通常ツヴェークだけでなく、先に挙げた、四体のそれぞれの特性を持ったツヴェークがワラワラと集まり、数の暴力が始まっていく。
そんな地獄をアインズ・ウール・ゴウンの面々が難なく走破していったのは、弐式炎雷の存在が大きい。
ツヴェークは”静かににじり寄って、首を切り裂いて一撃死させれば、仲間に敵襲を知らせたりはしない”。
言葉にすれば簡単な様にも聞こえるが、実際に行えばその限りではない。神業にも等しい行為を、弐式はギルメン達の目の前で事も無げに体現していく。弐式一人の行動範囲だけでなく、ギルメン全員の進む道を切り開く為に、大量のツヴェークを葬った弐式であるが、余りにも膨大な量の為、数匹打ち漏らしたが、そこは斥候チームであった、打ち漏らしたツヴェークは叫ぶ間もなく、他のメンバーに打ち取られて行った。
そしてグレンデラ沼地を進んで行くギルメン達の視界モニターに映り込むある物体。
毒の沼地に悠々と聳え立つ、小島の様な物体―――墓地らしき残骸があった。
余りに崩壊が進み、墓石らしき物も崩れ落ちてしまっている。中央にはそれなりに大きな霊廟らしき物も見えるが、それも崩落していた。
間違いない、ここが未探索のダンジョン、ナザリック地下墳墓だ。そうギルメン達全員が思う程の存在感がそこにはあった。
その光景を目の当たりにしてからの先程のギルメンの言葉だ。信用していない訳では無かったのだが、実際に実物を目の当たりにしてしまっては、その様な言葉が出てもしょうがない様にも思える。
遠目に墳墓を見つめるモモンガは気を引き締めていく。肩に乗っているリーネも同じだ、そこには軽口を叩いていた時の雰囲気はない。そこにあるのは熟練の古参プレイヤーの姿―――一騎当千の猛者の様な雰囲気を纏っている。
まぁ、肩車の状態では少し間抜けにも見えるが。
「皆さん、近づくのは少し待って下さい。私が少し探ります。」
そうギルメン達に言い放ったモモンガが魔法を唱え、墳墓の周囲を遠隔で確認していく。この様な場所に出てくるのはアンデッドと相場が決まっており、アンデッドならばモモンガの探知を掻い潜るのは不可能に近い。
アンデッドがいれば絶対に見つけてやる。その様な意気込みで周囲を探索したモモンガであったが、どうやらアンデッドの反応は無かったようである。モモンガはその事をギルメン達全員に伝えていく。
「アンデッドの反応はありませんね。弐式さんそちらはどうですか?」
「こっちもだ、モモンガさん。生命反応もない。」
同じく周囲を探索していた弐式からモモンガへ返答が来る。状況を理解したギルメン達が墳墓に集まって来る。無論警戒は怠らずに。
「不気味な程何もいないな。」
「急にボス戦…ってことはないみてぇだな。このぼろい建物に入ってから戦闘が始まる感じか?」
「いや、あの霊廟…霊廟でいいのか?ぼろ過ぎて分からないな。まぁ、多分あそこから地下に潜って行ってってパターンじゃないかな?」
たっちの言葉に対し、ウルベルトとベルリバーがそう推測していく。
その間も周囲の探索は他のギルメン達により進められており、探索を終えたギルメン達が墳墓に集まってきた。そこには当然、モモンガの姿もある。
「探索はおおむね終わりましたが…気になる様な物はありませんでしたね。やはりこの墳墓の中がダンジョンでしょう。」
モモンガの言葉にギルメン達が頷いていく。肩に乗っているリーネも同じだ。それ以外にないと言う感じで頷く。
頷くギルメン達を見渡した後にモモンガが提案を持ち出していく。
「皆さん、取りあえずはここで少し休憩をし、減少したMPとHPの自動回復を待ちましょう。それと同時に、ここでパーティーメンバーの変更を希望します。」
モモンガの言葉を皮切りに、各々が意見を出し合う。
モモンガの意見に賛成のぷにっと派閥と反対のタブラ派閥とが意見を出し合っていく。
どちらの意見も分かる物であり、どちらの派閥が多いという事も無い。このままでは埒が空かないと判断したモモンガは切り札を切っていく。
「中々決まりませんね。それでは皆さん、多数決をしましょう。チーム変更派は私の右手、このまま進む派は左手の方に来てもらえますか?」
ざわざわしながら、ギルメン達は各々の思う方に集まっていく。全員が集まり終えた後にモモンガは数を数え、結論を出していった。
「このまま進む派の方が多いですね。それでは皆さん、おおむね回復も終わった事ですし、警戒を怠らずに、墳墓の中へと進みましょう。」
モモンガの言葉にギルメン達からは了解の意が聞こえてくる。頷くモモンガがついでとばかりにギルメン達に新たな意見―――頼み事を言っていく。
「そして皆さん、これからは意見が対立したり、中々決まらなかったりした場合は、こうやって多数決制にしていきませんか?どうでしょうか、他に良い意見がある方はいますでしょうか?いないならばこれでいきたいのですが。」
しーん。誰も意見を口にしようとはしない。この静寂は本日二度目だ。
(だよな!そうなるよな!)
これも前回の静寂と同じ、会社でよくある”何か意見はありますか?”からの、しーんの流れだ。実際には意見が無いのではなく、発言することで自分に生まれる責任や否定された際の不快感から意見を言わない事が多い。
再度ギルメン達を見渡したモモンガの目には、若干不満そうな者が複数見てとれた。その者達とはどこかで時間を見つけ、個別に話し合う必要があると心のメモに書き込んでいく。
それでは進みましょう。モモンガの言葉を聞き、ギルメン達は最大限の警戒をしながら墳墓の中に進んで行った。
斥候チームと前衛チームが進んで行く。そろそろ後衛の自分達だと思っていた時、モモンガはある事に気づいていく。
顔を上に見上げる形で上げれば、そこにはリーネの顔がドアップで見えた。
「…おい、そういやお前いつまでそうやってるつもりだ?」
「へ…?ああ、自然体過ぎて忘れてた。」
既に墳墓まで付いている以上、毒沼の心配はない。モモンガと離れ、前衛のチームで進まなければならない人物が未だ自分の肩に乗っかかっているのに気づく。よくよく考えて見ればこいつは多数決の時も乗っかかってなかったか。
「お前ふざけんなよ!?もう前衛皆入っていったぞ!ていうかお前多数決参加してねぇだろ!」
「したわよ?私チーム変更派だったし。」
「分かるかぁ!!お・り・ろ!お・り・ろ!」
怒れるモモンガを一瞥した後に、リーネはモモンガの肩から飛び降りる。空中でくるくる回転しながら着地していく様は見事な物だった。
「あ~あ、
「モモリーネな!モモリーネ!断じてお前が先じゃない!」
「モモンガさん、後衛チームも早く行かないと。リーネの件は良いよ、実際、罠で分断されたりしたら前衛がいれば助かるし。」
やまいこの言葉を聞き、モモンガは我に返る。やまいこの言う通りだ、ここでごたごたしていても始まらない。今は先に進むべきだ。
「そうですね、やまいこさんの言う通りです。おい、お前今日何も仕事してないんだからちょっとは働けよ。」
「なによう、その言い方。私が悪いのは認めるけどさ…あ。モモンガさんそれ社畜に向けた上司の言葉ね、いやだぁ~、モモンガさん率いるアインズ・ウール・ゴウンはブラック企業だったのね~♪」
グハァ!リーネの特大の悪口により、墳墓突入前に瀕死のダメージを心に食らっていったモモンガであった。
♦
警戒をしながら墳墓内を進んで行くモモンガ達後衛チームとリーネであったが、不思議な事に未だ何の脅威も現れてはいない。まだダンジョン内に侵入したばかりだ、いきなり鬼畜な事が怒る訳もないと思いたい所だが、このゲームの運営と制作陣は生粋のサディスト達だ、何も起きない事の方が、かえって不気味に感じられる。引き締めていた気を更に引き締めていくモモンガであったが、他のメンバー達はその限りではないらしい。
「そんでね~、白虎さんとも長い付き合いだから、名前つけてあげたんだ。ねぇねぇ、やまちゃん、名前なんだと思う?」
「え~、何だろ?僕ならなんてつけるかな?」
良くないな。モモンガの脳裏にその言葉が浮かぶ。気を引き締め最大限の警戒をしていたのは事実だが、待ち受けていたのはこの何も起きない状況。拍子抜けしていくのは分かるが余りにも気を抜き過ぎであろう。
ここは未知のダンジョン、気を抜く事は一時も許されないと、気の抜けているメンバー達に言葉をかけていく。
「皆さん、この状況で気が抜けるのは分かりますが、少し抜き過ぎです。今一度気を引き締める様にお願いします。」
「…モモンガさんの言う通りだね。ごめんモモンガさん、少したるんでたみたい。」
「そうだね、モモンガさん。でもさ、白虎さんの名前だけでも聞いてよ。その後はきっちり引き締めるから。」
ハッとした雰囲気で二人がモモンガに言葉を返していく。そして最後に名前だけでも聞いて欲しいと言うリーネに対し、それぐらいなら良いかとモモンガはその名前を聞いていく。
「しょうがないな、なんていう名前になったんだ?白虎さんは?」
「ふっふっふっ、私のセンスに脱帽しなさい!白虎さんの新しい名前は―――」
少し間を置き、リーネは力強く言い放った。
「”らいおん”!!ひらがなで!らいおん!!」
ズガァァァン。モモンガの背に稲妻でも落ちたかの様な衝撃が襲っていく。
虎である白虎に付けた名前、それはらいおんだ!と言い放ったリーネの言葉にモモンガの動きが止まっていく。
「なん…だと…。」
「ん?どうしたの、モモンガさん?誰かの霊圧でも消えた?ペロさんかな?」
ペロの霊圧が消えたとでも言わんばかりの台詞を吐いた後、しばし固まるモモンガを心配したのか、やまいこがモモンガの様子を伺っていく。
そんな中、モモンガが口を開く。
「虎なのに…らいおん…く、くぅそがぁ…カッコイイじゃないか、なんというネーミングセンスだ。」
右手を握りぷるぷるさせるモモンガ。いつも自分のネーミングセンスを馬鹿にして来る人物が果たしてどの様な名前を付けたのかと思い、場合によっては馬鹿にしてやろうと思っていたのだが、付けられた名前は何ともカッコイイ名前だった。余程悔しかったのか、未だ右手はぷるぷる震えている。
へっへっへと鼻を指でさするリーネに対し、プライドを捨て弟子入りを頼もうかと思っていた矢先―――タブラからメッセージが入ってくる。
『モモンガさん、この先も安全です…ですけど、少し作戦を練り直さなければならないかもしれません。説明は全員が合流してします。』
「皆さん、タブラさんからメッセージを貰いました。この先でメンバーが集まっている様なので、私たちも速やかに向かいましょう。」
モモンガの言葉を聞いた後衛チームが各々頷いていく。そして無駄話は切り上げ、速足で斥候チームの元まで向かっていった。
♦
急ぎタブラ達の元まで進むモモンガ達後衛チーム。進みながらも周囲を見渡せば、外壁とは違い、内部は中々に豪華な作りになっている―――いや、立派と言った方が正しいのか。
進んでいく内にタブラ達の姿が視認できる距離まで近づいてきた頃に、モモンガの目に飛び込んできたのは、鎮座した”五つの像”である。その像の足元には石板がはめ込まれた石碑があるのが見てとれた。
嫌な予感がモモンガを襲っていく。この様な作りのダンジョンに心当たりがあるからだ。
先程まであった熱意が急激に冷めていく、その様な感覚に見舞われて行った。
タブラの元まで駆けつければ、当然ながら既に全ギルメン達が集結していた。モモンガ達後衛チームが到着したのを確認したタブラが、恐らく合っているだろう自分の考えを述べていく。
「着きましたね、モモンガさん。おそらくここは”同時攻略系ダンジョン”ですよ。それも最難関の”五チーム編成タイプ”のね。」
想像通りの言葉にモモンガは心の中で舌を打った。嫌な予感は当たっていたからだ。
同時攻略系ダンジョン―――通称ぼっち殺しダンジョンは、同時に複数のチームを編成し、攻略する事を要求される。
「まぁ、
「…そうですね。」
タブラの言う言葉も最もだろう。実際それであったならば、ギルドの人数が足りていない以上攻略に掛かる事は出来ない。実際の所、五チーム編成ですら人数は二名程足りてはいないのだが、そこは一旦都市まで戻って傭兵NPCを契約してくれば、どうにか穴埋めは出来るだろう。
不幸中の幸いと思うべきなのだろうが、モモンガはもう一度心で舌を打つ。気に入らないからだ。
複数のチームを編成し攻略しなければならないという事は、他のギルメン達と離れ離れになるという事に他ならない。糞運営の仕掛けた罠に腹を立て、ドロップしたアイテムに一喜一憂していく。それを皆で共感し、攻略していくのでなければ、その楽しさも、嬉しさも半減されたような物―――いや、それ以下にも感じられた。
「それじゃ…チーム分けはどうするの?ちょっとこれ、真面目に考えないといけないと思うんですけど。」
モモンガの内心のショックを無視するように、リーネがチーム分けを提案し始める。
基本的にユグドラシルのチーム編成はタンクが一人、アタッカーが二人、ヒーラーが一人、シーカーが一人、そして臨機応変に行動できるもの、ワイルドが一人と言うのが最も好ましい。
今いるメンバーで―――二十八名と傭兵NPCとで戦力の振り分けを行っていく必要が出て来た。これは非常に重要で、頭を抱える事だ。各員が持つスキルや収めているクラスだけではなく、その者の技能までも考え振り分けねばならない。
こういったダンジョンでよくあるのは、ボスの間で合流できるようになっており、そこにレイドボスが待ち受けていると言う場合が多い。
そうなってくると、必然的に全パーティーの能力の平均化が求められていく―――誰も欠ける事無くボスの元に辿り着きたいからだ。
チームの振り分けを、リーネはぷにっと萌えに託していく。彼はアインズ・ウール・ゴウンの軍師とも言われる程の人物だ。リーネが頭を回すより、彼に託すのが賢明だろう。
「モモンガさん、ショックなのは分かるけど気を取り直そ。私もこれは流石にちょっとイラっときてるけど…、
モモンガの気持ちを見透かしているかの様な言葉―――実際見透かされているのだろう。ふぅっと一つ息を吐き、モモンガは気持ちを切り替えていく。
「お前に励まされるとは…俺ももう終わりか?」
「なによう!ああ言えばこう言うわね、この骸骨!久々に噛みついてやろうか!」
口がガシガシ動くエフェクトをリーネは発動させ、モモンガに詰め寄る。そんな時だった、ぷにっとが皆の前に立ち、チーム分けの内容を話し出す。このままじゃれ合っている暇はないと、二人はぷにっとに向き直った。
そしてしばらく話した後に、ぷにっとはギルメン達に聞こえるようにチーム分けを公表していった。
モモンガのパーティは。
魔法火力役=ウルベルト・アレイン・オードル。
物理火力役=アンティリーネ。
防御役=ぶくぶく茶釜。
回復役=やまいこ。
探索役=弐式炎雷。
そして特殊役のモモンガと言う編成になった。
編成を聞き終わった後に、モモンガは驚きの声を上げていく。隣にいるリーネも同じだ声は上げてはいないが、驚愕しているのが感じ取れたからだ。
それもその筈だ、アインズ・ウール・ゴウンに置いて、ダンジョン攻略を容易い物に変えてしまう優秀なメンバーが、このチームには半数以上集まっている。
まず、ウルベルトだ。ワールド・ディザスターと言われる最強の魔法職に就いており、魔法火力では他の追随を許さない。
次にリーネだ。アインズ・ウール・ゴウンだけに留まらず、既にヘルヘイム最強の一角に数えられる程の剣士であり、接近戦のエキスパートだ。対人戦に振り切り過ぎる余り、若干モンスターとの戦闘に不安があるが、それでも建御雷と並ぶ、ギルドの双剣の一振りである。
防御役のぶくぶく茶釜は防御にこれでもかと言う程に特化しており”不沈”と言われる程である。そしてその名に見合うだけの技量も持っている。
回復役のやまいこは
探索役の弐式炎雷は―――もはや語る事はない。忍びに二撃はない。それを体現した人物である。
「え…ちょっとぷにっと萌えさん…大丈夫なんですかこれで?」
「おや?モモンガさん、何か不味い点がありましたか?」
「えぇ…、ちょっと
モモンガは周囲を見渡す。NPCを入れるチームは幾人かが都市まで戻り、契約をしに行っているのだろう。転移を使用すれば仲間の元まで即座に帰れるので、沼地を渡る心配もない。
「確かに偏りはあります。しかし、今回のダンジョンは未知です。均等に戦力を分けるのではなく、
ぷにっとの言葉を聞き、再度モモンガは周囲を見渡し、ある人物を探していく。その人物とは勿論、たっち・みーだ。強いチームを作るのであれば、この人物は切り離せない。
彼の周りを見れば、確かにこのギルドにおける猛者達が揃っている。モモンガの視線の先を見つめながら、ぷにっとは言う。
「そうですよ、彼らです。最悪の場合、モモンガさん達とたっちさん達の二チームでボスを倒してもらう形になるかも知れませんが…無理難題を言っているのは重々承知です、けれどこのダンジョンの攻略は、モモンガさんの提案と―――」
言葉を喋りながら、ぷにっとは視線を逸らしていく。その視線の先にいるのはリーネだ。
「―――リーネの我儘でしょ?だったら、その無理難題を跳ね返して、二人で見事攻略して下さいよ。ねぇ、
ぷにっとは少しの間を置き―――熱の籠った声音で言い放った。
「無茶で、無謀で、馬鹿な事を…その道理を投げ飛ばして見せろよ、リーネ!私達に、ギルドの皆に、その
リーネは腹から沸々と熱が沸き上がっていくのを感じていく。これ程滾るのはいつ以来だろうか。ぱちんと右の拳を左の掌に打ち付けていく。
「任せて下さい、ぷにっとさん。その無茶で、無謀で、馬鹿な道理を背負い投げでぶん投げて、馬乗りにしてボッコボッコにしてやるわよ!!」
「「いや、そこまでせんでいい。」」
熱に当てられたリーネの言葉に対し、モモンガとぷにっとの声がはもっていく。そして両者の脳内に浮かぶ言葉も、また一緒であった。
((こいつこわぁー。))
♦
チーム編成は終わり、各チームが五つの像の前に立つ。準備は整った、気持ちも十分、後は全力で攻略するだけだ。
像の前に立っていたチームメンバー達を眩い光が包み込みだす。恐らくは、既定の人数で一定時間その場に留まると言うのが条件になっているのだろう。
光は徐々に強くなっていく―――転移が始まる。
光と共にモモンガの鼓動もまた大きく高鳴り出す。
失敗は許されない、ギルドマスターとしての威厳を魅せねば、様々な気持ちが心の中で渦を巻くが、それでもやはり、最も大きな割合を占めているのは―――
(楽しみだ。本当に、楽しみだ。)
―――楽しみと言う感情である。
リーネは言った、それでは勿体ないと、負の感情を持ったまま、ギルメン達と―――仲間達と冒険をするなどこれ程勿体ない事はない。
眩い光が更に一層強くなっていき―――モモンガはギルメン達に叫んでいく。
「皆さん、私はこのメンバーなら…いや、このメンバーだからこそ、この未知のダンジョンを攻略できると信じています。次に会う時は―――笑って会いましょう!」
その言葉と共に、歓声が沸き上がる。
「流石ですね、モモンガさん、最高のタイミングですよ。」
―――ガキン。
右手に持つ剣を地面に突き立て、たっちが左手を自らの胸の前まで持ってくる。
「行ってきます、我が王よ!正義を成さんが為に!」
「おぉ、たっちさんスイッチ入りましたね。それならば私も…うおっほん―――このヘロヘロの拳は全てを打ち砕く、王の道を作る為に!アンティリーネちゃん、凡才も頑張るんで、そっちも頑張って!」
「うっす、行ってくるぜ、モモンガさん。姉貴、モモンガさんを―――俺達の王様を守ってくれよぉ!」
「
「おおう?タブラさんなんだそりゃ?まぁいい…行ってくるぜ、モモンガさん!二シやん、リーネ、気張ってけよ!」
「甲殻類舐めんなよぉぉぉ!リーネ、モモンガさんを助けてやれよ!後これが終わったら沢山武器作ってやるからな!」
歓声が巻き起こる中、瞬間、光がまるで破裂したかのように膨れ上がり、はじけ飛んで行った。
静寂が辺りを包み込み、その場には既に―――誰もいなかった。
悲報、武人建御雷さんメインパーティーから弾かれる。
どうもちひろです。
モモンガのパーティーのアタッカーは、特典小説だと武人建御雷さんでした。
しかしこの作品の主人公はアンティリーネさんです。
当然の如く弾かれて行きました。ごめんね建やん!
次回も、捏造、独自展開、改変で進んで行きます。
お付き合い頂ければなと思いますね。
それでは!シュバ!