あんてぃりーねのゆぐどらしる☆だい☆ぼう☆けん☆ ~泣き虫が伝説になるまで~   作:だいだろすちひろ

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 前回のあらすじ

 ボス二連戦オワタ\(^o^)/


決戦!ナザリック!!

 

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

 

 酷く禍々しい音を立てながら、闇が一点に凝縮されて行き、形が形成されて行く。円形闘技場の中心で唐突に巻き起こるその異様な光景に、モモンガは―――いや、チームの全員は唖然とした表情でその光景を見つめた。

 

 見つめる全員の心に飛来する感情は皆同じ、ありえない、信じたくない。驚愕に支配された全員はその場に釘付けにされ、無言のままその光景を見つめ続けた。

 

 そしてそう時間はかからずに――モモンガ達には長く感じられたが――邪悪で禍々しいエフェクトは消え、その姿が露わになった。

 

 豪華な漆黒のローブを纏った老人がその場に姿を表す。右手には宝石がはめ込まれた金のスタッフが握られ、その頭には金の王冠がかぶられている。まるで王の様な風貌を醸し出すその存在を、全員が信じられないと言う様な雰囲気で見つめる。

 

 「冗談はよし子ちゃんだぜ…。」

 

 その言葉を吐いたのは誰だっただろうか、ウルベルトの声の様にも感じられたが、モモンガにはそれが誰か考える余裕などなかった。普段なら場の空気が和らぐその言葉も虚しく宙を舞っていく。

 

 信じられない状況に必死に思考を回転させるモモンガの脳裏にある言葉が思い起こされる。このダンジョンに潜った時―――転移して初めに聞こえた五つの声が発した言葉が。

 

 ――お前達の前に現れたるはこの墳墓の支配者――

 

 この墳墓の支配者、その言葉が脳裏を過る。

 

 五つの声の主は当然の如く、自分達五チームが戦ったレイドボスの声だろう。違和感が巻き起こる、この五人のレイドボスがこの墳墓の支配者なのであれば、続く言葉は”我ら”や”五人”などの複数を表す言葉になるのではないか。

 

 そう考えるモモンガに、また一つ言葉が思い起こされる。

 

 ―――我を倒しその力を示せ―――

 

 ぶわりと汗が体から吹き出す様な感覚にモモンガは襲われて行く。

 

 そうだ、最後に聞いた言葉は、”我を倒し”だった。今までの五人の声とは違う―――ヘルヘイムの城主の声で語られた言葉。

 

 全てが繋がり血の気が引いていくモモンガの視界に、ピコンと一つお知らせが届いていく。それはメッセージのお知らせだ。発信者は言わずもがな、ぷにっと萌えだ。

 

 モモンガはメッセージに応答していく―――聞きたくない言葉を聞く為に。

 

 『モモンガさん!まだですか!?こっちはそろそろヤバいですよ!』

 

 想像通りの言葉にモモンガは意図せず笑ってしまう。乾いた笑いが零れだす。

 

 「…レイドボスは倒しました。」

 

 『はぁ!?そんな馬鹿な!だって、まだこっちは沸きが治まらないんですよ!』

 

 ぷにっとの返答は最もな物だ。モモンガだってあちらの立場なら同じ言葉を言った事だろう。少し間を置き、モモンガはぷにっとに伝える。言いたくない言葉を、信じたくない状況を、ゆっくりと、厳かに。

 

 「レイドボスを倒した後、新たなボスが出現しました…恐らくこちらが本命でしょうね。」

 

 その言葉を聞いたぷにっとから驚愕の雰囲気が伝わってくる。そうなるよなと思いながら、モモンガは今日何度溢したか分からない乾いた笑いを溢していく。

 

 「それでは通信はここまでです…ぷにっとさん…すいませんが、もうしばらく耐えて下さい。」

 

 『ちょっと!?モモンガさん、モモ―――』

 

 ぷにっとの叫び声を無視するかの様に、モモンガはメッセージを強制的に切っていく。そして即座に視線を移す、目の前に立ちすくんでいるボスに向けて。

 

 (動かないな…何か行動までに条件でもあるのか?)

 

 ボスは未だ行動には移していない。連戦におけるクールタイムでも設けられているのかとモモンガは考える。それならば、少しは優しい所もあるじゃないかと心の中で糞運営に皮肉を言っていく。

 

 「…ボスを倒したと思ったらまたボス戦?なにそれ…アマンダラ・カマンダラの真似事?だったらブラッドテンプルにでも乗ってきてくれないかな。」

 

 モモンガの耳にリーネの訳の分からない言葉が飛び込んでくる。いつもなら即座に反応する所だが、残念ながら今のモモンガにそんな余裕はない。

 

 スキルはもう殆ど使い果たした、MPももう殆どない、空に近い状況だ。消費アイテムも底を尽きかけているうえに、集中力も散漫になってきている。

 

 疲労困憊、正にその言葉が相応しいかの様な状況の中―――目の前のボスが動く。

 

 『見事だ、侵入者共。お前達に敬意を表し、この墳墓の主たる、この”ナザリック”が相手をしてやろう。』

 

 聞こえてきたのはヘルヘイムの城主の声。その言葉に続く様に、墳墓の主―――ナザリックがモモンガ達に向けスタッフを突きつける。

 

 「総員退避しろぉぉぉーーー!!」

 

 スタッフが突きつけられた瞬間、モモンガの叫び声が全員の耳に飛び込んでいく。

 

 ―――<太陽爆発>―――

 

 ナザリックのスタッフから極大のスキルが発動されると共に、円形闘技場に壮大なBGMが鳴り響き―――モモンガ達の視界モニターにボスのHPゲージが無情にも伸びていく。そのHPゲージの下にはこう表記されていた。

 

 ―――墳墓の主ナザリック―――

 

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

 

 スタッフが突きつけられた時にモモンガの視界に表記された文字―――太陽爆発と言う文字を目にした瞬間、反射するかのようにモモンガは叫び声を上げていく。

 

 この技は先程のボス―――阿修羅との戦闘で幾度も見た文字であり、幾度も苦しめられた技だ。只、少しだけ阿修羅と違う点があるが。

 

 (技の発動までの時間が速い!エフェクトがカットされている!?)

 

 阿修羅がこの技を使用した際は剣が突きつけられた後に、真紅の円―――魔方陣の様な物が浮かび上がりそこから炎が吹き上がってきたのだが今回はそれが無い。真紅の円は出現せずに、即座に炎が吹き上がってきた。

 

 想定していた時間よりも遥かに速い技の発動に意表を突かれる形になってしまったモモンガは被弾する―――が、ダメージは無い。モモンガはこのダンジョンに入った瞬間から炎に対する完全耐性を得るアイテムを装備しているからだ。

 

 しかし、他のメンバーはその限りではない。周囲を見渡せば目に飛び込んでくるのは自分と同じように被弾したメンバー達の姿。他のメンバーも同じだ、発動時間の差異によって意表を突かれたメンバー達は被弾し、大なり小なりダメージを負ってしまっている。

 

 その光景を目にしたモモンガは、阿修羅を倒し緩み切っていた自分の脳に喝を入れる。回転を始めた脳が情報を集め、整理を始めていく。

 

 太陽爆発は阿修羅の使用した技だ。その他にも、阿修羅は二つの技―――<月の剣>と<海王星の光乱>と言う技を使用してきた。太陽爆発と同じように、その二つの技も使用してくるのか、はたまた使用して来ないのか。それとも、まだ別の―――ナザリック固有の技があるのか。答えは前者の様に思われた。いや、その様に思い行動した方が良いだろう。もしそうならば、その二つのエフェクトもカットされ発動時間が短縮されているのだろうか。冷気属性の海王星の光乱ならばそれ程怖くはないが、月の剣は厄介だ。あれは神聖属性の攻撃でありモモンガの弱点の一つになる。今回はそちらにまで耐性を振る余裕がなかった。食らえば大ダメージは避けられない。

 

 目まぐるしく思考を巡らせるモモンガがメンバーに指示を出していく。

 

 「茶釜さんヘイトを引き受けて下さい!情報が欲しいので出来るだけ攻撃を誘発するように努めて!リーネは隙あらば攻撃を!茶釜さんのヘイトを出来るだけ切らして欲しくはないが、クリティカルが狙えそうなら行って良し!弐式さんはかく乱と補助を!ウルベルトさんとやまいこさんは…。」

 

 流れる様に続いていった言葉が一瞬だけ途切れていく。ここは非常に重要な所だ。これから先の戦局を左右しかねない。一瞬だけ考え込んだモモンガが、残る二人に指示を出していく。

 

 「…二人は後方で待機し回復に努めて下さい!」

 

 指示を聞いたメンバーから了解の意が聞こえてくる。そして戦闘が始まっていく―――二度目のボス戦が。

 

 ボスの分析に入ったモモンガの視線の先ではナザリックを引き受け攻撃を受け続ける茶釜の姿が見える。茶釜のスキルももう殆ど底をついている、ヘイトを稼ぐのが非常に辛そうではあるが持ち前のプレイヤースキルで、なんとかヘイトを維持している様だ。

 

 茶釜にヘイトを向けるナザリックが魔法を数発放つ。ナザリックの風貌は漆黒のローブにスタッフと言う闇の魔法詠唱者を思わせる物だ。やはり主となるのは魔法なのかとモモンガは考えて行く。

 

 そんなナザリックと茶釜の周囲をリーネが円を描くかのように付きまとう。その距離感は絶妙だ、茶釜のヘイト管理に不備が出ない範囲を保ちながら、自分の攻撃が届く範囲をきちんと確保している。

 

 ナザリックの攻撃を誘発させ続ける茶釜の目の前でふわりとナザリックが後方に下がっていき―――大爆発が巻き起こる。

 

 茶釜が爆発に巻き込まれ後方まで吹き飛ばされる、しかしダメージはそれ程入っている様には見えない。ノックバックの意味での魔法なのだとモモンガは考えて行き、このタイミングで距離をとる事の意味を考えていると―――答えは即座に判明した。

 

 ―――<月の剣>―――

 

 距離を取った瞬間にナザリックがスタッフを一振りする。そうすれば先程阿修羅が使用し、モモンガが警戒するスキル<月の剣>が即座に発動されて行く。そして思っていた通り、その発動時間は阿修羅より速い。只、他にも少し阿修羅の時と違う点があるが。

 

 (斬撃が一つ…範囲攻撃ではなくなったか。)

 

 阿修羅の<月の剣>は複数の斬撃が飛び交っていたがナザリックの<月の剣>は斬撃が一つしか飛んでこない。茶釜のHPゲージを見るに威力も阿修羅とさほど変わっていない様に見える。気になるのは属性だが、これは阿修羅の時と同じ神聖属性であった。それに気づいたモモンガは舌を打つ。属性が変わっていてくれれば憂いの点が一つ消えた物の。

 

 <月の剣>と言う大技を放っていったナザリックの動きが少しだけ止まる。阿修羅の時もそうだが、大抵のボスは大技を放っていった後は隙が出来ていく。そして、その隙を逃すリーネではない。<月の剣>の発動後の隙を付き、袈裟懸けに斬り込む。斬り込み密着した後、体当たりにて態勢を崩し、更に数回斬りつけていく。その光景を見たモモンガは眉を顰めていく。

 

 (なんだあのダメージ量は…こいつ思いのほか柔らかいぞ。)

 

 数回斬り込んだだけでナザリックのHPは一割近く減少した。リーネは戦士ではあるが建御雷の様に火力に特化した様なビルドは組んではいない。一応戦士である以上は火力は低くは無いのであるが、逆を言えばその程度という事だ。そう考えて行った時、やはりナザリックの装甲、そしてHPがそれ程高くは無いと考えていいかも知れない。

 

 固い装甲に高いHPを持ち、範囲攻撃をバンバンしてくる阿修羅とは正反対のナザリックに対し、モモンガは()()()()を覚えていく。

 

 ―――<一突き(ひとつき)>―――

 

 リーネにより態勢を崩されてしまったナザリックに弐式の超火力の一撃が突き刺さっていく。その光景をモモンガは全神経を集中させ見据えていく、先程のダメージ量が、何か特殊な条件が重なって起きてしまったダメージ量なのか、そうではなく、やはりナザリックの装甲とHPが単純に低いのか、これではっきりするだろう。

 

 見据えるモモンガの目の前では、ナザリックのHPがどんどん削られて行く。もの凄い速度でHPゲージが減っていく。やはり先程の減少は特殊な条件などではなかった。超火力の一撃によって減っていくHPゲージを見るに、やはりこいつは柔らかい。

 

 やはりこいつは阿修羅とは正反対の性質を持つボスだと思い、()()()と言う感情が沸き上がってきたモモンガの目の前でHPゲージの減少が止まる。減少したHPゲージは驚愕に値するものだ、ナザリックのHPゲージはもう六割を切っている。一度情報を共有した方が良いとモモンガが口を開こうとした時―――眩い光が襲い掛かってくる。

 

 ―――<木星の大嵐>―――

 

 目も眩むような雷が荒れ狂い突風を巻き起こしていく。その範囲はそれ程広くはないが近くにいた三人―――リーネ、茶釜、弐式を巻き込み吹き飛ばしていった。

 

 やはりあったか。モモンガの脳裏にその言葉が浮かぶ。この様な技は阿修羅は使用してこなかった、ナザリック固有の技なのか、阿修羅が偶然にも発動させなかったのかは分からないが、初見で対応していくのはいかにあの三人と言っても難しいだろう。ほぼノーモーションに近い速度で発動された技に巻き込まれた三人が吹き飛ばされた後に、ピタリと動きを止めていく。

 

 (どうした三人共!?まさか…スタンしているのか!行動の阻害、それも耐性無視か、クソが!)

 

 よく目を凝らせば、三人の体の周りから微かにだが電気の様な物が走っているのが見えてくる。ぴりぴりと言う様な音が聞こえてきそうなエフェクトを見るに、恐らくは電気による行動の阻害――三人の体が少し動いているのを見れば完全阻害とまではいかないのかもしれないが――。電気耐性を付与していた茶釜もスタンしているのを見れば、耐性の貫通持ちと言った所か。

 

 スタンした三人の目の前で、ナザリックがスタッフを一振りする。<太陽爆発>が来る。そう思ったモモンガであったが、<太陽爆発>の発動は無かった。その代わりに、ナザリックのスタッフから炎が吹き荒れる。吹き荒れた炎は形を形成していく―――剣の様な形に。

 

 その姿を見た時、モモンガの中にあった悪い予感は確信に変わっていく。モモンガは舌を打つ。非常に不味い状況だからだ。

 

 ふわりと少し浮き上がるかのように飛んだナザリックが、その右手に持つスタッフ―――炎の剣を使いスタンしている茶釜に突進していく。

 

 突進からの刺突、その後再度ふわりと浮き上がり、サイドに回り込み、更に一撃を見舞っていく。ヒット&アウェイを思わせる様な優雅な攻撃が茶釜を襲っていく。

 

 誰が見ても一目瞭然だった。ボスの―――ナザリックの行動パターンが変わった。

 

 茶釜を助けるべく、スタン効果が切れたリーネがナザリックに相対していく。

 

 斬り込むリーネの剣にまるで合わせるかの如くナザリックが剣を振るう。ぎゃりぎゃりと剣と剣とが擦れ合う音と共に、リーネの剣が弾き飛ぶ。

 

 (嘘だろ!”パリィ”した!)

 

 この技術は誰でも知っている、パリィと呼ばれる物だ。パリィにより態勢の崩れたリーネに追い打ちをかけるかのように、ナザリックが魔法を放つ。先程茶釜に使用した魔法と同じ魔法を。爆発で吹き飛ばされたリーネをナザリックはふわりと浮かび追撃していく。

 

 このユグドラシルと言うゲームでは、ボスは三種類のボスに分けられる。

 

 最初に戦った阿修羅の様に、高い攻撃力に広い効果範囲を持つ技を使用し、高いHPと固い装甲でプレイヤーを苦しめていく類のボス。一見すると強敵の様に思えるが、行動パターンも単純なものが多く、また隙も大きい為戦いやすさで言えばそれ程難しいものではない。

 

 そして現在戦闘中のナザリックの様なボス、HPも装甲も低いが、優秀なモーションでこちらを圧倒してくるようなボスだ。高機動力に、スタミナの概念はよ!っと叫びたくなる様な途切れない連撃を繰り出してくる上に、優秀なAIが搭載され、プレイヤーにも引けを取らない様な技術を見せつけてくる。行動パターンも多く、また不規則な為、こちらのボスの方が遥かに厄介である。このボスは初見で攻略をする事は非常に難しい。パターンを見つけてもそのパターンに対応するのが難しいからだ。簡単に言えば、分かっていても避けられないという事。

 

 そして三種類最後のボスは、その二つを両方兼ね備えたボスだ。これは本当に特殊な部類で、そうそうお目にかかる事はない。この三種類目のボスはユグドラシルではこういう名前で呼ばれている―――”ワールドエネミー”と。

 

 リーネを追撃していったナザリックが剣を構えていく。これは先程茶釜に見舞った刺突の構えだ。いなす為に身構えるリーネにナザリックは刺突を放つ―――いや、放つと思われたが、刺突はやって来ない。一瞬の間が空き、リーネがたじろいだ後に―――刺突が突き刺さっていった。

 

 (~~~――!!ディレイ!それも相当高度な!)

 

 全く同じ構え、全く同じ攻撃。違うのは放たれるまでの”間”だ。その少しの間が感覚を狂わせていく。モモンガの視界の先ではリーネが滅多打ちにされている。あのリーネが、対人戦では無類の強さを誇るあのリーネが、人型のナザリックに完全に翻弄されている。

 

 (ちぃ!クソが!今まで戦ってきたボスの動きが健康体操に見えるぞ!死力を尽くした後にこんなボスを用意するとか…頭おかしいんじゃないのか!?えぇ!?どうなんだい、運営さんよ!糞運営さんよ!?) 

 

 翻弄されるリーネを助ける為に、スタン効果が切れた二人―――茶釜と弐式が戦闘に加入していく―――が、それでも攻めあぐねる。茶釜がヘイトを買っても、攻撃しようとした弐式に即座に反応していく。弐式の超スピードに反応し、挙句はパリィを成立させていく。魔法の直撃を受けた弐式が吹き飛び、そのHPが見る見る減っていく。弐式の紙装甲ではこれ以上は耐えれない。

 

 このままでは弐式がkillされてしまう、そう思い加勢したリーネをナザリックはまたもや一蹴していく。ディレイに対応できていない、翻弄され続けていく。

 

 不味い、このままでは前線が持たない―――崩壊する。そう思い、モモンガは後方で待機していた二人に声を掛けていく。

 

 「やまいこさん!()()()()()()()()()()!?ウルベルトさん、使えそうですか!?」

 

 「無理だよ!僕も満身創痍だったんだ、()()()()()()()()!」

 

 「…()()()()()()()()()()…もうそんな事も言ってられません。やまいこさんのお陰でそれなりには回復しました。私も出ます!」

 

 ウルベルトがそう言い放った瞬間、前方のナザリックが左手を前衛の三人に突きつける。

 

 ―――<金星の豪雨>―――

 

 発動したのはまたもや知らない技。酸の雨が降り注ぐ、酸を浴びた三人が一度距離を空けようとする―――が、動きが鈍い。即座には離れる事は叶わない。

 

 三人の動きが遅くなる。これは”鈍足”効果が付与された酸の雨だ。浴びてしまった三人の動きが亀の様に遅くなっていく。

 

 ―――<水星の光陰>―――

 

 ナザリックの体が青白い光で包まれて行く。恐らくは何かのバフかと思われたが、考えるまでもなく答えは出ていく。ナザリックの速度が速くなっている。それもちょっとやそっとではない。もはや加速(ヘイスト)などでは収まらない程の効果を付与されたナザリックが、鈍足を受け遅くなった三人に襲い掛かる。

 

 「不味い!ウルベルトさん!」

 

 「えぇ!ちょっくら行ってきますよ!まぁ、俺が行ってどうにかなれば良いですけどね!」

 

 そう言い放ったウルベルトが、転移魔法を発動させ、その場から消えていった。

 

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

 

 (なんなの…なんなのこいつ…化け物じゃない!)

 

 鈍足を付与されたリーネがそう心の中で盛大に罵声を飛ばしていく。体が言う事を効かない、見れば相手―――ナザリックは青白い光を纏いバフを付与している。

 

 これから何が起きるのかと考えて行った矢先、ナザリックがふわりと浮かび上がる。不味い、攻撃が来る。そう思った時、既にナザリックの剣がリーネの腹部に突き刺さっていた。

 

 リーネは目を見開く。速度が段違いに増している。こちらが鈍足を付与されている事など最早関係ない。鈍足状態でなくともこの一撃には反応できなかっただろうから。

 

 視界モニターにクリティカル判定が浮かび上がったのを横目で確認したリーネの体が宙に浮いていく。腹部に突き刺さった剣ごと、ナザリックがリーネを持ちあげているのだ。そしてナザリックは剣を振り抜く。突き刺さった剣が腹部から引き抜かれて行く―――投げ飛ばされる形で。

 

 床に盛大に打ち付けられたリーネの視界に新たなバッドステータスが浮かび上がる。それは朦朧だ。床に打ち付けられたことにより朦朧が付与されたリーネの視界が歪んでいく。

 

 (クソが!人間って本当に…脆いわね!)

 

 またもや盛大に罵声を飛ばしていく際、ナザリックの周囲から眩い光と共に雷が荒れ狂いだす。<木星の大嵐>を受けたリーネ達三人がスタン状態に陥り―――

 

 ―――<太陽爆発>―――

 

 ―――大爆発に巻き込まれて行く。

 

 「空気振動衝撃(エアリアル・ブレイカー)ぁぁぁ!!」

 

 爆発に巻き込まれる瞬間にどうにか左手を動かし一つのスキルを発動させていく。そしてそのスキルは自分に向けた物ではない。弐式の前方の空間がひび割れ爆発のダメージを軽減させていく。

 

 「ニシやん!離脱して!やまちゃんの所で回復を!」

 

 「ちぃ…お荷物かよ…クソッタレ。」

 

 そう吐き捨て、スタン効果が切れた瞬間に即座に弐式は戦線から離脱して行く。危なかった、あのまま直撃していれば間違いなく弐式はkillされていただろう。続いて自分のHPゲージが目に入ってくる。人の心配ばかりもしていられない様だ、自分も余り余力はない。

 

 そう思った瞬間―――目の前で大爆発が起こる。

 

 それは自分達に向けられた物ではなく、ナザリックに向けられた物だ。一回、二回、三回と巻き起こる爆発にナザリックが巻き込まれて行く。

 

 「よう、ざまぁねぇな。」

 

 「ウルさん!」

 

 ナザリックを空中から爆撃していくウルベルトが言い放った言葉がリーネの耳に飛び込んでくる。ゆらりとウルベルトに振り向いたナザリックが標的を変え―――空中まで飛び上がる。

 

 ―――<テレポーテーション>―――

 

 ナザリックが動くと同時にウルベルトは転移で位置を変えていく。

 

 「やべぇなこいつ…よくもまぁこんな奴と()()()()()()()()()。脳筋共乙。」

 

 ウルベルトが爆撃を再開していく。転移を駆使し様々な場所から魔法を放ってくるウルベルトをナザリックは鬱陶しそうに追いかけ回す。

 

 ナザリックのHPが徐々にだが確実に減っていく。これはウルベルトがリーネ達よりも強いからナザリックを相手に出来ているのではなく、要は相性の問題だ。

 

 近接に寄り、中距離型にシフトしたナザリックにとって、ウルベルトは非常に厄介な相手だろう。

 

 ウルベルトのお陰で回復の間を貰ったリーネと茶釜が消費アイテムを使いHPの回復を行っていく。これで消費アイテムは底をついた、もう回復の手段はやまいこしかない訳だが。

 

 (やまちゃんももう殆どMPはないよね…ウルさんに()()()()()()から。)

 

 やまいこには”MPの譲渡”と言うスキルがある。モモンガが後方に二人を下がらせたのもそれが原因だ。できれば”大災厄”を使用できるくらいに回復させたかったのだが、残念ながらやまいこいも満身創痍、そこまでのMPは残ってはいなかった。

 

 ウルベルトがちくちくとナザリックのHPを遠距離から削っていく。強力な魔法を使用したい所だが、只でさえMPの消費が激しいウルベルトだ。現状のMPなど、強力な魔法を放てばすぐに枯渇してしまう。中級の魔法を使い、空中からいやらしくちくちくナザリックを爆撃していく。

 

 そのせこせこしたやり方をみたリーネには少し希望が湧いてくる。ナザリックは最初は魔法を主として行動していたが、その魔法のどれもが近距離、中距離の物だった。恐らくは、もともとこのボスは遠距離を想定して作成されているボスではないのだろう。

 

 このせこい方法も、一つのナザリック攻略法なのかも知れない。

 

 まぁ、そんな攻略法を―――()()()()()()だが。

 

 爆撃の隙を見て、ふわりとナザリックが部屋の―――円形闘技場の中央付近まで移動していく。そして右手に持つスタッフ―――剣をくるくる回し、床に突き立てた。

 

 突き立てられた剣の先から床に光が広がっていく―――魔方陣の形に。

 

 「嘘でしょ…。」

 

 リーネの言葉が虚しく宙を舞っていく。声が出せただけマシかもしれない。他の仲間は声すら出せず、呆然としていた。

 

 魔方陣が強く光り輝いた後に姿を表したのは―――ナザリック。

 

 リーネ達六人の目の前には二人のナザリックが立っていた。

 

 ―――<土星の翼>―――

 

 新たに現れたナザリックが技を発動させた瞬間、その背に茶色い翼が生えてくる。ごつごつとした茶色い翼が。よく目を凝らせばそれは小さな石の集合体、まるで土星の輪の真似事かと言いたくなる様な翼を生やし、ウルベルト目掛けて飛び去っていく。

 

 自分へ向け一直線に飛んでくるナザリックに対し、ウルベルトが魔法を放つ。その魔法をナザリックが急旋回し回避していく。機動力が違い過ぎる、ウルベルトの放つ魔法を悉く回避したナザリックが右手を振りかざした。

 

 「だからよぉぉ!冗談はよし子ちゃんだってぇぇ!」

 

 反射的にウルベルトはその魔法を回避していく。そして回避していったウルベルトの隣で―――空間が切り裂かれて行く。

 

 冷汗が流れる様な感覚にウルベルトは襲われて行く。その魔法を知っているからこその焦りがそこにはあった。発動された魔法は<現断(リアリティ・スラッシュ)>、第十位階最強の攻撃魔法だ。

 

 「ちんちくぅぅぅ!こいつは俺が引き受ける!すまねぇがそっちを頼む!」

 

 その叫び声と共に空中戦が幕を開けていった。まるで飛行機雲が絵を描いているのではと幻想させる様な動きで、両者が魔法戦を繰り広げていく。

 

 言葉を聞いたリーネが前方を見据えていく。そこには最初の時と同じく、動きを止めたナザリックの姿が見える。またクールタイムかと思いながら、心の中で運営に対し罵声を飛ばし続ける。

 

 ここまで来てしまえば、リーネにも分かる。ナザリックが急に二人に分裂したのは、魔法詠唱者であるウルベルトが現れたからだ。魔法による遠距離攻撃を防ぐため、高機動の魔法特化型のナザリックが、魔法詠唱者の出現と共に現れるプログラムが組まれていたのだろう。

 

 「そう言う事…真正面から打ち破れって事ね…クソッタレ!」

 

 魔法なんぞ使ってんじゃねぇ!そう運営に言われた気がした。

 

 そんなせこい方法ではなく、正面から打ち破って見ろ。そう言われた気がしたのだ。

 

 ふわりとナザリックが浮かび上がる。そして右手に持つ剣を構え―――戦闘が再開された。

 

 ナザリックが剣を振るう。振るう振るう振るっていく。驚異のモーションに高度なディレイが織り交ぜられ、成すすべもなくリーネが滅多打ちにされて行く。

 

 勝てない―――負ける。

 

 その言葉が脳裏を過る。

 

 (嫌だ…嫌だ…。)

 

 自分が敗北すると言う事は、前線が崩壊するという事だ。そうなれば、茶釜だけでは対処は出来ない、茶釜が打ち滅ぼされた後は、残るは他の―――後衛の仲間と瀕死の弐式しかいない。そうなれば成すすべもなく他の仲間も打ち滅ぼされるだろう。

 

 (嫌だ…嫌だ…。)

 

 心とは裏腹に、HPは見る見るうちに減少していく。このままでは自分は負ける、そして残りの仲間も、踏ん張っているぷにっと達もそのまま数に押しつぶされて行くだろう。

 

 自分が負けたその時―――アインズ・ウール・ゴウンの敗北が決まる。

 

 (嫌だ…嫌だ…嫌だ!!)

 

 このまま負けるのは嫌だ、勝った後の事などどうでも良い。勝って得られる物よりも、負けて失う物の方が怖い。負けてしまえば、これから先、皆は以前にもまして消極的になるかも知れない。ぷにっとは言った”勲を見せつけてくれ”と、無茶で無謀で馬鹿な道理を投げ飛ばせと、あれ程冷静な男が、自分の我儘の為に動いてくれた、報いたい、その心に。見せたい、カッコイイ自分の姿を。笑いたい、皆と一緒に―――馬鹿だったねって。

 

 だから―――

 

 (―――負けたくない!)

 

 心とは裏腹に、ナザリックの凶刃がリーネを襲っていく。最高のディレイに最高のタイミングで放たれた最速の刺突がリーネの腹部に突き刺さり、そのまま無様に、滑稽に投げ捨てられる―――そうなる筈だった。

 

 (…あれ―――)

 

 ―――遅い?

 

 今まで反応すら出来ていなかった刺突が、まるで鈍足でも付与されて行ったかのように遅くなっていく。

 

 ゆっくりと自分の腹部に突き刺さろうとするナザリックの剣をリーネは見つめていく。

 

 カァン。

 

 甲高い音が響き、ナザリックが()()()()()いった。

 

 ―――<パリィ>―――

 

 刺突に合わせ、パリィを成立させていく。不思議だ、今までこれ程容易くパリィを決めていった事はない。なぜこれ程容易くパリィを決めていけたのか、その理由は簡単に分かる。ナザリックの動きが遅いからだ、刺突を視認した後に考える余裕すらあった。パリィを()()()()決めるなど容易い程。

 

 パリィによって態勢が崩れ、ナザリックが天を仰いでいく。そして不思議な事はまだ続いている。天を仰ぐナザリックの動きさえも、まだ遅い。

 

 ナザリックが崩れた体勢から即座に立て直し、再度剣を振るっていく。

 

 (…おっそ。)

 

 振るわれた剣を紙一重で躱す。続いて二撃目が迫るがそれも躱していく。ナザリックの攻撃全てを紙一重―――鼻先で躱していく。

 

 (…あっは…なにこいつ…()()()()()()()()。)

 

 最早どん亀の如き動きになってしまったナザリックを()()()()()後に、ナザリックが吹き飛んで行く。その理由はリーネがナザリックを()()()()()()からだ。前蹴りと言われる類の蹴り方で、ナザリックを前方に吹き飛ばしていった。

 

 「…あっは…よっわ。」

 

 その声音に含まれているのは愉悦の感情か。見下している、明らかに。普段であれば、この娘はこの様な言葉も、この様な下劣な感情を向ける事はない。

 

 吹き飛ばされたナザリックが即座にリーネに斬りかかるが、その全ては躱されて行く。

 

 「…だからぁ…ハエよりおせえって。」

 

 ごつんという鈍い音が響き、またもやナザリックが吹き飛ぶ。裏拳をナザリックの顔面にお見舞いしたリーネがぽりぽりと額をかいている。

 

 鬱陶しそうな、めんどくさそうな感情が声音には含まれている。先程の感情とはまるで真逆、()()()()()()()()()なっていく。

 

 吹き飛んだナザリックが立ち上がろとしている。そう立ち上がろうとしているのが見えてくる。その姿さえも酷く遅い。あくびが出そうな程に。愚鈍でのろまな亀に、リーネは言葉を吐き捨てる。

 

 「つーかさぁ…()()()()()()

 

 しきりに自分に向かってくる相手に対し疑問の言葉を吐き捨てていく。その後にふと思う、自分はいま何をしているのかと―――何をすればいいのかと。

 

 負けたくない、その一心で戦っていた彼女に異変が起きていく。

 

 その異変は、仲間への思いに答えたいと言う彼女の優しい心が、極度の集中力を発していった為なのか。

 

 それとも―――血脈に刻まれた血濡れの力なのか。

 

 ナザリックの連撃を鬱陶しそうに全て躱していく。その最中に少しの愉悦が顔を覗かせる。そしてその度に思うのだ、自分はなぜこんな事をしているのかと、こいつは誰なのかと、何をすればいいのかと。

 

 感情は混じり合い―――思考が混濁を始めていく。

 

 血は争えない、血脈に刻まれた力が溢れ出してくる。

 

 血塗られた血が呼び起こす。

 

 禁忌の技を―――血濡れの技を。

 

 (あぁ…そう言う事ね―――)

 

 何かに気づいたかの様に、リーネはナザリックの顔面を左手で鷲掴みにしていく。そして―――床に叩きつけていった。

 

 「―――この雑魚を叩きのめせばいいのね。」

 

 

 

 

 

 

 綺麗に噛み合っていた歯車が軋みだす―――鈍い音を奏で出す。

 

 

 

 

 

 

 現実の理が持ち込まれていく―――()()()()

 

 

 

 

 

 

 禁忌を侵し者よ―――血濡れの力の代償を払え。

 

 

 

 

 

 

 





 ゲームをプレイしていて、ボス二連戦された時の絶望感は異常。

 どうもちひろです。

 ナザリック攻略戦もラストスパートです!
 糞運営の繰り出した衝撃のボス二連戦と言う糞イベントに果たして打ち勝つ事が出来るのでしょうか!?
 
 それでは!シュバ!
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