あんてぃりーねのゆぐどらしる☆だい☆ぼう☆けん☆ ~泣き虫が伝説になるまで~ 作:だいだろすちひろ
前回のあらすじ
タレント暴走中、タレント暴走中。
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あるきっかけで、妹に勧められたゲーム。余りこういう物はやって来なかったから初めは結構戸惑った物だが、やればやる程にどんどんその魅力に魅了されて行った。ドはまりと言う奴だろうか、自分にしては珍しい。
色々な事をされた、色々な事もした、そして色々な人と出会って、沢山の仲間に出会った。大切な仲間達だ。仲間達の年齢は自分と余り変わらないくらい、いわゆる社会人と呼ばれる人達だ。会社が、上司が、残業が、そんな愚痴が飛び交う連中の集まりの中で、ひょっこりと異彩を放つ存在がいた。可愛い可愛い―――馬鹿な子供だ。
可愛い可愛い妹の様な存在、いや、それは自分だけではないだろう。仲間達皆の可愛い可愛い妹分。まぁ実際はあっちの方が集まりの中では古参―――いや、最古参であり、ゲームに置ける大先輩ではあるのだが、そんな事はあまり関係ない、可愛い妹分だ。
素直で、可愛くて、ちょっぴりお馬鹿。褒めればパァっと明るくなるし、怒ればシュンと萎れていく、馬鹿にすればプンスカ怒り出す、そんな奴だ。今この場で自分が―――いや、自分達が必死になっているのも可愛い妹分が我儘を言ったからに他ならない。皆気持ちは一緒だ、叶えてあげたい”馬鹿な我儘”を。だから皆必死になっている。
どこまでも素直に、真っ直ぐに走り続けるあの子の言葉だからこそ皆今必死になっている。どこまでも真っ直ぐに自分の”目標”に向け走り続けるあの子の姿を見ているからこそ、皆叶えてあげたいんだ。
目標に向け一心不乱に頑張る姿を見ていると気持ちが昂ってくる。多分自分だけじゃない、皆そうなんだろう。眩しいその姿に皆当てられてしまっている。それは―――自分達が失くしてしまった物だから。
目標に向けて振るわれる剣、鍛え上げられていく技術、それはとても眩しい物だ。だからこそ、皆が手を差し伸べる。目標とする者の大きさを知っているから、だからこそ届いて欲しいから。まぁ、その目標は”なんか凄く頑張ってるな”くらいにしか思ってはいないが。あの鈍感ポリス今度一発殴ってやろうか。
信念に裏打ちされた力―――努力に裏打ちされた技術、それはとても眩しくて、とても美しいと思った。少なくとも自分はそう思う。
その眩しく光り輝く剣技が―――もはや見る影もない。
やまいこの眼前では暴風雨が吹き荒れる、実際はその様な物は起きてはいないが、比喩表現と言う奴だ、その様な表現を使いたくなるくらいの強大な力の嵐が巻き起こっている。
掴み、投げ飛ばし、蹴り上げ、殴り続け、無造作に振るわれていく―――剣。
そこにあるのは美しく輝く剣技などではない、全てを蹂躙し、一方的に叩きのめす、圧倒的な力―――どす黒い力の本流が巻き起こる。
「…なに…なんなの…これ。」
今まで見た事も無い彼女の姿にやまいこは動揺を隠せない。何が今自分の目の前で起きているのか理解が出来ない。今まで手も足も出なかったナザリックを、今度は彼女が一方的に打ちのめしている。そこには技術も何もあった物ではない。まるで、二人の時間の流れが違うかの様な、違う時間の流れの中で、ナザリックが一方的にやられている様な、そんな違和感を感じていく。
そんな今まで見た事も無い彼女の姿に、今まで彼女に対して感じた事の無い感情がやまいこの中で芽生えてくる。
「…違うよ…違うよリーネ…こんなの…。」
やまいこの声は震えている。彼女の中で芽生えた感情、それは―――恐怖心だ。
一方的にナザリックを打ちのめす彼女―――リーネに対し”怖い”と言う感情が芽生えていく。なぜなら、そこにいるのはやまいこの知るリーネではないから、まるで知らない人物でも居るかのような感覚が更に恐怖心を煽る。
「…こんなの違うよ…こんなのはあなたの剣術じゃない…こんなの―――」
そこにはやまいこの知る美しい剣はない、信念に裏打ちされた剣などない、そこにあるのは只の―――
「―――こんなの只の”暴力”だ。」
只々純粋なまでの暴力がそこにはあった。やまいこの言葉は虚しく宙を舞う。そして暴力の奏でる音にかき消され消えていく。
暴力が吹き荒れる―――巨大な力と言う天災が牙を剥いていく。
♦
炎で形作られた剣が無情にも空を斬っていく、そしてその後に鳴り響く、鈍い音。
「…おっせ…寝てろ、どん亀。」
ひらりと身をかわし、そのまま右足を軸に回転した後に、肘打ちがナザリックに見舞われる。後頭部付近に衝撃を受けたナザリックが膝をついていく。即座に態勢を立て直し、攻撃に転じようとするが―――最早それすら敵わない。
顔面に新たな衝撃が伝わってくる。右膝蹴りが炸裂していく。剣を杖に代わりに膝を付いていたナザリックの周囲がピリッと言う音と共に光り輝く。
―――<木星の大あら―――
ブスリ。そう効果音が聞こえてきそうな程、綺麗にナザリックの胸部に剣が突き刺されていく。それと同時に発動される筈だった技<水星の大嵐>がキャンセルされていく。ユグドラシルのスキルは――敵味方問わず――発動の際タイミングよく攻撃をヒットさせればスキルの発生を阻止する事が可能だ。
発動までのモーションも少なく、即発動に近いスキルのキャンセルを事も無げに行っていく。それは最早人間業ではない様に思えた。
「あっは、ごめん。あんまりにも遅い物だから手がでちゃ―――った!!」
突き刺した剣ごとナザリックを持ち上げ投げ飛ばしていく。胸部から剣が引き抜かれると同時に、鈍い音を立て床に叩きつけられていく。彼女が正常ならば、意趣返しのつもりだろうと思う所だが、今の彼女にその時の記憶があるかは怪しい。
―――<太陽ばくは―――
無様に床を這いつくばるナザリックが技を発動させようとするが、当然ながらそれは叶わない。腹部を踏み付けられたナザリックからゴリュっと気持ちの悪い音が聞こえてくる。
「だからぁー…うっぜぇなぁ雑魚が!!」
踏み付ける、踏み付ける、踏み付ける。急に激怒を初め踏み付け続ける。これは格闘技で言えばストンピングと呼ばれる物だ。ストンピングの嵐がナザリックを襲っていく。
そして幾度も踏み抜いた足がピタリと止まる。無様に這いつくばっていたナザリックが立ち上がろうとする様を、優雅に見降ろしていく。
表情は動かない、いや、動くはずがない。なぜならここはユグドラシルだからだ。しかしこの光景を見た者は皆こういうだろう。虫けらを見る様な、冷たい目だと。
絶対的強者が虫けらを見下ろす中、ナザリックがふわりと浮かび上がる―――上がろうとするが。
「あっは…のろま…遂に
既に今の彼女には、ナザリックの動きが止まっている程に遅く見えている。
汚染は加速していく―――禁忌に蝕まれていく。
轟音が轟いた、ナザリックがその身体諸共吹き飛んで行く。一回転、二回転、ぎゅらぎゅらと回転しながら後方まで吹き飛ぶ。
かつてはその身にも受けた技、格闘技の禁じ手であり、血も涙もない無慈悲な豪打―――<
吹き飛ぶナザリックを見据える彼女の表情が歪む――実際には動いていないが――次はどういたぶってやろうか―――その時。
―――ピキーン。
彼女の中に言い知れぬ感覚が襲う。
「…あ?」
その感覚に襲われた彼女が目にしたのは”床”、気づけば自分は膝を付き、顔を伏せている。
感情は不安定になり、記憶は曖昧になる、思考は混濁を起こし、迫りくるは―――幻聴、幻覚。
風景は歪に変化を起こす、そして誰かが現れる―――奴が現れる。
「…はっ…はっ…な、なに…?」
ギシリ…ギシリ…。噛み合っていた歯車の音が鈍くなっていく。
禁忌に染まりし者よ、更なる力を求めるか是非を問う。
力を求めるのであれば、代償を払え。
代償を払い―――人間の領域を超えた報いを受けよ。
♦
「凄まじいな。」
眼前で繰り広げられる異常な光景にモモンガはそう言葉を吐いた。口から出た声音は意外にも冷静な物であり、吐いた自分でさえ驚く程だ。既にモモンガの脳のキャパシティは限界を迎えている。どうやらこれは一周回ってなんとやらと言う奴なのかも知れない。
リーネがナザリックを滅多打ちにする様も、リーネがあれ程乱暴に攻撃する様も、いくら考えた所で答えは出ないだろう。考えても答えの出ない事を一生懸命考える程モモンガは真面目な人間ではない。そして、そんな余裕は今はない。モモンガは静かに静観する、勝機を得るために。
##モモンガお兄ちゃん、時間だよ##
モモンガの左手から可愛い声が聞こえ、モモンガにある時間が来たことを告げていく。
(…来たか…。)
モモンガの、いや、チームの待ちわびた勝機、それが今手の届く所まで来ている。最早二度目を打つことは叶わないと思っていたが、全ては彼女の―――リーネのお陰だ。
(頼りっぱなしだな…何もかも押し付けて…自分の不甲斐なさに泣けてくる…いや…嘆くのは違うな。)
コンソールを開いたモモンガは慣れた手つきでウィンドウのボタンを押していく。非常にスムーズだ、一度の間違いもなく、ボタンを押していく―――ある魔法を発動させる為に。
目的の魔法を見つけたモモンガの指がピタリと動きを止めていく。勝機は今だ、今しかない、そう分かっているが、ボタンを押すのが躊躇われる。
これは諸刃の剣だ、発動までの時間も長く、その場から動く事も出来ない、発動のキャンセルも容易にされてしまう。だからこそ、分かってはいても、本当に今なのかと勘ぐってしまう。
頼りの綱はリーネ只一人、このまま彼女が抑え付けていられるか、そこが勝利へのターニングポイントになるだろう。
目まぐるしく思考を廻らせるモモンガの正面―――リーネに突如異変が起きていく。
ナザリックを蹴り飛ばしたリーネが突如膝を付く。何が起きたのかとモモンガが驚き、リーネを見つめていく。
このままでは作戦は御破算だ、このまま彼女が切り崩されれば、ナザリックは最大限のヘイトをモモンガに向けていくだろう。今の茶釜ではそれ以上のヘイトを買う事は出来ない。動きの遅い茶釜では、押さえようにもすり抜けられてしまうだろう。ナザリックの機動力は異常だ、十中八九そうなるだろう。
モモンガは迷う、間違いなく今日一番の迷いだ。どれだけ考えても、この作戦のカギを握るのはリーネだ、そのリーネがあの状況、立て直せるのか、信じても良いのか―――そう考えて行った時、ストンと胸に落ちる物があった。
(あぁ…そうだな…それは違うな…。)
一度だけ息を吸い、そして吐き出していく。
そして―――迷いなくボタンを押す。
その瞬間、巨大な魔方陣がモモンガの周囲に展開されていく。その瞬間、モモンガは見逃さなかった、這いつくばりながらも、瞬時にこちらに反応をしていった者に。
(そうだよな…ウルベルトさん相手にあれ程の分身を作っていくんだ。”超位魔法”は最優先で潰す様にプログラムされてるよな。)
床からふわりとナザリックは立ち上がっていく。その際も、リーネは膝を付いたままだ。だからこそ―――モモンガは叫ぶ。
「リーネ―――」
♦
風景が変わっていく。先程の風景とは―――円形闘技場とは全くの別物、薄暗く、何もない。
(なに…なんなの?)
混乱が渦を巻く、体がだるい、頭が痛い、言葉が出ない。薄暗いこの空間で感じる時間は先程と同じ―――いや、それ以上に長く感じられた。
「もっとだ…もっと叩きのめせ…躊躇うな。」
薄暗い空間の中で声が聞こえてくる、聞いた事の無い声だ、その筈なのだが、でもなぜだろう、理由は分からないが
声の方に振り向いていく、そこには一人の男が立っていた、正確には男かどうかは分からないが、声と体格を見る限り、男であることは間違いないように思える。
長い耳、エルフの耳だ、頭には…王冠だろうか、恐らくはその様な物を被っている。不思議にも顔は分からない、黒塗りののっぺらぼうがそこには立っていた。
「躊躇うな…振るえ…力を。」
(言われなくても…。)
黒塗りの男の背からどす黒い瘴気が溢れ出す。どす黒い力の本流が―――暴力が溢れてくる。
手を伸ばしていく、暴力に飲まれるために、そして近づけば近づく程に感じていく。なにやら懐かしい感じがすると、まるで目の前の人物を知っているかの様な感覚に陥っていく。
懐かしい感覚が伝わってくる―――冷たく暗い感覚が。
手が届く、あと少しで。手を伸ばし続けていると、目の前の男がおもむろに両手を広げていく。直感した、本能が理解した、目の前の男は自分を抱きしめようとしてくれていると、目頭が熱くなってくる。懐かしさが全身を包み込もうとした―――その時。
「本当に良いの?」
後ろから響く声があった。優しく、暖かい―――自分の大好きな声だ。
(おかあ…さん。)
後ろを振り向き、そこにあったのは母の姿だ。真っ白な光を放ちながら、母はそこに立っている。真っ白で、優しくて、暖かい、そして、斬りつける様な鋭さを持った光に包まれながら、母は困った様にこちらを見ている。
いう事を聞かない困った娘を見る様に、どうやって言い聞かせようかと考えているかの様な、そんな笑顔。
なんでそんな顔をしているの?どうしたの?そう喋り掛けようとした時、男が叫ぶ。
「力を振るえ!力とは
懐かしい声が聞こえてくる。呼ばれた、行かなくては、そう思い振り向いた自分を、母は優しく抱きしめた。
戸惑う自分の顔を、先程と同じように困った表情で見つめた後に、キッと男を睨みつけていく。
「お前は…消えろ。」
母の光が男の黒い瘴気を押し戻していく。たじろぐ男から視線を逸らし、再度母は自分の方に向き直る。
そして、こつんと自分のでこを人差し指で付いていく。
「可愛い子…そんなに可愛いと捕まっちゃうわよ?」
クスリと笑った母は両手を広げていく、そしてちょこんと人差し指を立て、ある方向を指さしていく。
二つの方向を。
左手には黒い瘴気を纏った男が見えてくる―――右手には。
(…あ。)
遠い遠い所、姿形がやっと確認できるかと言う場所で、暗闇の中、眩い光を放ちながら走り続ける人物の姿がそこには見えた。
純銀の鎧を纏い、真っ赤なマントをたなびかせながら、真っ直ぐに前を見つめ、走り続ける人物の姿。
その姿を見つめていると、母の優しい声が聞こえてくる。
「さぁ…貴女の行く道は…どっち?」
にこりと母がほほ笑む、その時、自分の頬に一粒の涙が零れていく。
そんな自分の頭を母は優しく撫でていく。そして優しく喋り掛けてくる。
「迷う事は沢山ある…間違える事はもっとあるかも知れない…でもね、間違えたら、ごめんなさいして、また進もうね。何度でも言ってあげる…何度でも一緒に、ごめんなさいしてあげるから…ね。」
そう言って頭から手を放し、先程と同じく、両手を広げていく。
「さぁ、もう一度聞くわよ?貴女の行く道はどっち?」
その言葉を聞き、リーネは涙を拭う。そうすると母はほほ笑んだ。二人で見つめ合い、頷き合う。
「行ってきます。」
「…行ってらっしゃい。」
リーネは駆け出す、純銀の聖騎士を追い駆けて、薄暗い空間が明るくなっていく。幻聴が消えていく、幻覚が消えていく。
少しづつ、少しづつ。
「お行きなさい、貴女の空へ。」
その声はもう聞こえない、幻覚と―――幻想と共に消え去っていく。
「躊躇うな!力を振るえ!全てを奪いつくせ!」
消え去る幻想と共に男の叫びが木霊していく。
その瞬間―――切り裂かれる様な光が男を襲っていく。
「知ってるわよね、私が同じ事を何度も言うのは嫌いだって事を。お前は消えろ…そう言ったはずよ…二度言わせるなぁぁぁ!」
白き光は赤く染まっていき、修羅の刃となっていく。
それもまた、幻想と共に消え去っていった。
カチリ…カチリ…。歯車は回る、綺麗な音で。
異物は取り除かれた―――調整は終わった。
♦
意識が正常に戻っていく、頭痛も、身を押しつぶされそうな倦怠感ももうそこには無い。思考が正常に戻った事により、先程まで自身の身に起きた異常について思いを馳せていく。
全てが緩やかに、スローモーションの様になっていき、その現象が徐々に加速していく、最後の方などまるで時が止まったかのようだった。
魔法、スキル、状態異常、様々な現象を経験してきたがあのような感覚には身に覚えがない。時間系統の魔法やスキルとも全く違う感覚、リアル過ぎるのだ、余りにも。思考もぐちゃぐちゃになり、まるで自分が自分では無いかの様だった。
そして極めつけは―――ブラックアウト。一瞬だが意識が飛んでしまった。こんな事もユグドラシルに来て今まで起きた事はない。まるで現実で意識が落ちた時と同じような感覚だった。
先程自身の身に起きた異常事態を振り返っていたリーネは、ハッと我に返っていく。この様な事を考えている暇は無かったからだ。
(不味い!アイツは!?)
伏せていた顔を勢いよく上げ、前を向いていく。そこには蹴り飛ばされ、床に這いつくばるナザリックの姿があった。ナザリックの態勢が未だ整っていない事にホッと安寧の息を漏らした瞬間、ナザリックの反応が変わる。何やら、何かに気づいたような、その様な反応だ。戦闘中とは全く違う反応に、違和感を感じたその瞬間ナザリックがふわりと立ち上がっていく。不味い、そう思った直後―――後方から声が聞こえてくる。
「リーネ―――」
聞こえてきたのはモモンガの声だ、リーネは後ろを振り向いていく。振り向き一番最初に目に飛び込んできたのはモモンガの姿―――ではなく、巨大な魔方陣の姿。
それを見た瞬間、全てを悟っていく。ナザリックの反応も、モモンガが自分を呼ぶ意味も、全てが繋がっていった。
モモンガが叫ぶ―――言葉の続きを。
「―――俺を守れ!!」
ぶるりと体が震えていく。熱い物がこみあげてくる。そして自らの真横を高速で通り過ぎようとする影が見えた時、リーネは反射的に体を動かしていた。
「うらぁぁぁ!!」
ナザリックにリーネの体当たりが直撃していく。吹き飛ばされたナザリックが空中でくるりと回転を決めながら床に着地していく。なんとも優雅だ、着地した時の音もしない程に。
ナザリックが着地を決めていく間に、リーネは後方に飛び退いていく。そしてモモンガの正面に立った後、ナザリックに右手に持つ剣を突きつけていく。
「こっから先は通さない。私がモモンガさんを…
エネミーであるナザリックからは当然の如く言葉など返ってくる筈もない。そんな事は分かっている、これはゲームだ、現実ではない。
それでも、滾る心に嘘はつけない、己を昂らせ、リーネは静かに剣を構えていく。剣を構え、姿勢を落とし―――体を軽く丸めていく、被弾面積を減らす為に。この姿勢は何時ぶりだろうか、長らく忘れていた、回避と防御に振られた、”守る為の型”。
「ディフェンス能力の高さは強さに直結する…だったわね、たっちさん。」
ぽつりと呟き、その場に陣取るかのように、
ふわりとナザリックが浮き上がり、一直線にこちらまで向かってくる。一瞬にして間を詰めて来たナザリックを見ながら思う。やはり先程の異常な状態は終わっている、あの時は動きが止まって見える程遅かったものだが、今はその前―――滅多打ちにされていた時と同じ速さに感じる。
超位魔法の発動を防ぐためモモンガに斬りかかろうとするナザリック、そのモモンガを守る為に正面に陣取るリーネを、まるで邪魔だと言わんばかりにナザリックが斬りつけていく。
―――カァン。
甲高い音と共にナザリックの剣が弾かれていく。それはパリィなどと言う高度な物ではない、只弾いただけだ。実際にナザリックの態勢は崩れてはいない、踵を返す様に二撃目が振るわれていく。
剣が振り上げられる、先程と同じ動きで。ゆらりと舐める様に振り上げられた剣であるが中々振り下ろされない、間が開けられていく、絶妙に掛けられたディレイから”刺突”が繰り出された。
カァン―――二撃目も弾かれていく。
刺突を弾いたリーネの目には更なる攻撃―――三撃目が目に映る。
ゆるやかに、舐める様に持ち上げられる剣、厄介な動きだと思う。今斬るぞ、今斬るぞ、そう言われながら振り上げられているかの様な感覚に陥る。そして絶妙に間を空けられ、気づけば振り下ろされているのだから、同モーションからの攻撃の種類がいくつもあるのも質が悪い。今もそうだ、斬るぞ、斬るぞと言われている様な気がする―――だが。
(そんな物はもう、関係ない。)
甲高い音がまたも鳴る、三撃目が弾かれた音だ。モーションも、ディレイも、最早関係ない、もう惑わされない。
ふぅと一つ息を吐く。そして右足を更に力強く踏みしめる。攻撃は捨てた、回避も捨てた、全てを捨て、只守る事にだけ集中していく。
モーション、ディレイ、攻撃の種類、その過程の先にある来るべき剣にだけ集中力を割いていく。
剣が迫ってくる、自らを切り捨てる為に。そして間合いに入り込んだ瞬間―――甲高い音が鳴る。四撃目が弾かれた音だ。
リーネは全集中力を一点に絞り込み、只
信念に裏打ちされた力、努力に裏打ちされた技術、純銀の聖騎士を追い駆け続けた彼女の力が更に洗練されていく。
自らの目標の為でなく、自らの大切な者を守る為に。
「ごめんなさい、ヘロヘロさん…もう
一人の天才が言った―――武とは弱き者が強き者を倒す為にあると。
滾る闘志を剥き出しに、眼前の敵を見据えていく。
舞台は今、
♦
右からの袈裟懸け―――頭上で弾く。
弾かれてからの上段からの打ち下ろし―――またもや頭上で弾く。
横薙ぎ一閃―――腹部付近で柄により下方に弾き落とす。
刺突―――左上方に弾き上げる。
迫りくる連撃を全て悉く弾いていく。それは完璧なタイミングの物からきわどいタイミングの物まで様々であるが、それでも全てを弾き、捌いていく。捌けばその後はただひたすらに待つ。待つと言う行為は、単純だがそれでいて攻略の難しい行為でもある。動くと言う行為は捨てた。相手の動きに合わせ回避する事も無い、回避した後の行動も考える事も無い、その後に続ける攻撃も、仲間との連携も、何も考える必要は無い。余計な思考は全て省き、ただただ間合いに入ってくる攻撃だけに集中力を割いていく。巨木の様にどっしりと地に足を付けていく様はまるで堅牢な城を思わせる―――だが。
「……ふぅ……。」
重い溜息をリーネは一つ吐いていく。この溜息の意味を考えて行った時、当てはまる物は恐らく疲労だろう。ユグドラシルと言うゲームに置いて、ステータス上の疲労と言うバッドステータスは確かに存在しているが、肉体的な疲労と言う物は当然ながらない。それは異世界からゲーム世界に迷い込んできてしまっているリーネも例外ではない。
ならばこの溜息は疲労ではないのか?否、これはれっきとした疲労である、精神的なと言う言葉が続いていくが。
迫る攻撃を全て弾く為の集中力、HPも残り僅かな為に一撃でも貰えばそれが致命傷になりかねない。極めつけは後ろに控えるモモンガの存在だ。
モモンガを守る為に弾き続けなければならない重圧が重く伸し掛かってくる、否が応にも精神をすり減らしてしまう。
完全無欠の技などこの世に存在しない、限界は刻一刻と近づいてきている。
(不味い…意識が飛びそう…まだなの…まだなの、モモン―――)
超位魔法の発動に気を取られそうになったリーネは心の中で首を振っていく。その様な無駄な物に思考を割く余裕など自分にはない。自分がする事はたった一つ、シンプルな物だ、超位魔法の発動まで
そう心の中で思った瞬間―――刺突が目の前まで迫って来ていた。
余りにもバッドなタイミングに何時もなら舌を打つ所だがそんな余裕は今は無い。間合いに入った瞬間、刺突を弾く―――つもりであったが、それは叶わず、いなす形になり刺突は
(あ…。)
流れていった剣先を目で追いかけようとしたリーネであったが、歯を食いしばり耐えていく、ナザリックから目を離す事は出来ない、振り向くなど論外だ。
ナザリックを見据えるリーネの目には、未だ自分達を包む程の巨大な魔方陣が目に入る。それが意味する所は発動のキャンセルは行われなかったという事だ。
安寧しそうになる自分の心に蹴りを入れていく。気を抜くな、全てを捌く、そう意気込んだのもつかの間―――ナザリックがふわりと少し後方に飛び退いていく。
極度の集中状態にあったリーネの耳にある音が飛び込んでくる―――ピリッと言う電撃音の様な物が。
背筋に冷たいものが流れる様な感覚に襲われていく。ここにきて、その言葉が脳裏に浮かぶ。待つ為に振っていた集中力が全て飛散していく。リーネは悪い頭を最大限働かせながら打開策を模索していくが案は浮かんでこない。かくなるうえは、
ドスリ―――その音と共にハジケそうな程輝いた光は拡散していく。
覚悟を決めていたリーネは呆気に取られていく。スキルの発動すら忘れてしまう程に。ドスリと言う音と共に、ナザリックの首筋に光る矢が突き刺さっていく。
光る矢が―――
モモンガは超位魔法の発動待ちだ、魔法を放つ事は出来ない。やまいこは魔力系の魔法は修めてはいない。なら考えられる人物は一人だけ。
ゆっくりと
「よう、ちんちく、真打登場ってぇやつでいいんか、これ?」
最もナザリックに魔法を当てる事が難しい人物の方角に―――ウルベルトの方角に。
その言葉を聞いても、リーネは何も答えない。呆然とウルベルトを見据える。これが現実なら開いた口が塞がらない所だ。魔法特化ナザリックと空中で魔法戦をしている合間も、ウルベルトはこちらを気にかけていた、そして<木星の大嵐>が発動される瞬間を見計らって、
空中で戦闘をしながらでだ。、ナザリックを相手取りながら、正確にスキル発動の瞬間を見極め、標的との距離と、矢の速度とを計算して。
そこにあったのは確かな―――神業だった。
ありえない、信じられない、様々な言葉が脳裏に浮かび上がる。自分は今声を大にして叫びたい、こいつイカれてやがると。
「俺
円形闘技場の上空からこれでもかと言う程の大声量でウルベルトの声が降り注いでくる。恐らく拡声機能を使用しているのだろう。今この時、最も輝いているのは彼だ、それを自覚しているからこそ、盛大にアピールしてくる。本当に目立ちたがりな男だとリーネが思った瞬間―――ウルベルトに魔法特化ナザリックの爆撃魔法が直撃していった。
あぁぁぁ~と情けない声を上げながらウルベルトが地面に墜落していっている。そして、それが合図と言わんばかりに―――円形闘技場の上空からナザリックに掛けて、一直線に黒い線が走っていった。
上空からナザリック目掛けて、一直線に黒い線が走り、ナザリックに突き刺さる。
「待たせたな。」
黒い線の正体は弐式。ウルベルトの神業に勝機を見た弐式が、潜んでいた上空から一直線にナザリック目掛けて急降下してきたのだ。ナザリックの右肩に弐式の短刀が突き刺さっていく。
「ニ…ニシやん…うそ、いつから?」
その言葉に弐式からの返答はない。食い込んだ短刀を更に奥深く突き刺していく。
弐式は潜んでいた、後方に撤退し、やまいこに微量の回復を施して貰った後、それからすぐに。
リーネが滅多打ちにされていた時も、暴力に身を落とした時も、モモンガが超位魔法を発動させた時も、リーネがモモンガを守っている間もずっと、上空で潜んでいた。歯を食いしばりながら―――勝機を掴む為に。
忍びとは忍ぶ者―――身を潜め、必殺の一撃を見舞う為に。
忍びとは耐え忍ぶ者―――どんな事があろうとも、心を殺し、闇に潜む。
ボロボロの仲間達を上空から見降ろしながら、可愛い妹分が滅多打ちにされる様を見下ろしながら、耐えた。
そう耐えた、そして今こそ、この時こそが、弐式にとって―――待ちわびた勝機。
グチャリ―――弐式の短刀が更に深く突き刺さる。
弐式の―――忍びの信念が突き刺さっていく。
ナザリックのHPが見る見る減少を始めたが、HPが尽きる一歩手前で止まっていく。あわよくばこの攻撃で終わりにしたかったが、どうやら無理だった様だ。だが、それならそれで良い、本当の目的は別にある。
―――<影縛り>―――
弐式の周囲から影が溢れ出し、ナザリックを覆っていく。<頭殺し>などに代表される優秀な拘束系スキルはもう底を付いている。残っているのはこのスキルくらいの物だ、このスキルは遠距離から拘束する事は不可能、ある程度の距離まで接近しようやく束縛する事が出来る。
<頭殺し>などと違って近づかなければならない分、紙装甲の弐式にとってはリスクの高いスキルだ―――が、その分”拘束力は高い”。
影がナザリックに巻き付き拘束していく。ナザリックが暴れる、弐式を振り払うつもりなのだろう。<影縛り>に拘束されている内はスキルの使用も不可能だ、力任せに弐式を振り払おうと、ナザリックが暴れ回っていると。
「墳墓の主如きが、随分と調子に乗ってくれたじゃあないか。」
声が聞こえてくる、低く太い声が―――怒りを内に秘めた声が。
♦
長い―――只々その言葉だけが脳裏に浮かぶ。未だかつて超位魔法の発動がこれ程長く感じた事はモモンガには無い。目の前では自分を守る為にリーネがナザリックの攻撃を捌き続けている。そこには少し前の圧倒的な動きは無い。一体あれは何だったのか、そんな事を考えてしまう程、今のモモンガには出来る事など無かった。
(今の俺に出来る事などない…今の俺に出来る事は、たった一つだけだ。)
そう心の中で思った時、音が鳴り響く。剣と剣とが接触した音、つまりはリーネがナザリックの攻撃を弾いた音に他ならない―――が、音が若干だが違う。
甲高い音の後に続く、ギャリギャリと言う擦れる様な音。今までと違う異音にモモンガの思考は飛散し、前方を注視していく。
前方からは迫りくる剣先が目に入る。先程の音はリーネが弾いたのではなく、いなした際に生じた音だとこの時点で気づく。打ち損じたのだ、打ち漏らしがこちらに迫る。
超位魔法の発動待機中の為モモンガは行動が出来ない。いつもなら慌てふためく所だが、モモンガは静かに剣先を見つめる。
迫る剣先はそのままの勢いでモモンガに迫り―――左の頬骨を掠めていった。
間一髪と言う言葉が相応しいかの様な状況でも、モモンガは焦らない。
モモンガは信じているから、仲間が―――リーネが自分を守ってくれると。
超位魔法の発動まで、モモンガに出来る事などない、出来る事はただ一つ、仲間を―――リーネを信じる事だけだ。
モモンガは前を見据える、自分を守る為に今尚剣を構え続ける人物を見つめていく。
出会ってからどれくらいの月日が経っただろうか。ギルドの中でも、自分とコイツは飛びぬけてIN率が高い、一緒に遊んだ時間も間違いなくギルドで一番だろう。何度コイツに助けられただろう、本当に頼れるやつになった、そう思う。こんな頼れるやつを信じないなどと言う選択肢は初めから無かったんだ。
今までも信じて来た、だからこそ、今回も信じる。そしてこれからも、
(ここでコイツを信じられないなら、仲間を信じられないのなら、俺は―――ギルド長になる資格は無い!)
ギルド長として、仲間を信じる、それこそがモモンガの信念。
ピリッとナザリックから電流が迸る。それでも、モモンガは動じない、信じているからだ。仲間を信じ続けるモモンガがギロリとナザリックを睨みつけていく。睨みつけ、心の中で吐き捨てていく。
俺の仲間を、俺のギルメンを―――なめるなよ、ナザリック。
ドスリ―――
「俺達の目の黒い内は、王様には手を出させねぇって!なぁ、モモンガさん―――いや、魔王様!」
拡声機能を使用したウルベルトからモモンガへと声が届く。本当に目立ちたがり屋な男だ。
(ウルベルトさんノリノリだな…て言うか、魔王ってなんだよ!俺はそんな物騒なもんじゃないぞ!まぁ…それっぽいけどな!)
魔王と言う単語に反応するモモンガの目の前で調子に乗ったウルベルトが爆撃され地面まで墜落して行っている。何やってんのぉ!?と思った瞬間に、黒い線が一直線に落ちてくる。その正体は弐式だ。弐式の短刀がナザリックに突き刺さり、スキルで拘束されていく。
暴れ回るナザリックと振り落とされないようしがみつく弐式を見つめていた時、モモンガの周囲に展開されていたドーム状の魔方陣の青みがかった発光が最高潮に達していった―――発動可能時間に達したのだ。
終わりだ。長き戦いに終止符を打つ為にモモンガが超位魔法を発動しようとした時、ある事を考え付く。
(…魔王か…ふふ…そうか魔王か。それも存外…悪くないかもな。えぇい!俺も男だ!やってやるよ!)
そしてモモンガの口から、低い声音が発せられていく。
「墳墓の主如きが、随分と調子に乗ってくれたじゃあないか。」
その言葉と共に、力強く、そして仰々しく腕を振るっていく。
「俺は”アインズ・ウール・ゴウン”のモモンガ!敗北はありえない!魔王に楯突いた事を後悔しながら―――塵と消えよ!」
(おとーさん、おとーさん、魔王が今ー、
超位魔法発動―――<
瞬間、辺りが白く染め上げられていく。荒れ狂う灼熱が全てを包み込み、ナザリックを貪りつくしていった。
待ちリーネ「ソォニックブゥーム…ソォニックブゥーム…サァマァソォルト!」
ウルベルト「おぉぉい!ずりぃぞテメェ!!」
どうもちひろです。
既存の攻撃用超位魔法がフォールンダウンしかない…。
オリジナルのカッコイイの使ってみたいけど思いつかない…。
まぁ、モモンガさんといえばフォールンダウンみたいな所あるしこれはこれでありかな。
驚愕のボス二連戦でした、運営糞過ぎです。
この滅茶苦茶強かった”ナザリック”さんにはモチーフにされたキャラがいまして、それは”ダークソウルⅢ”のボス”法王サリヴァーン”です。
調べればすぐに出てくるので、イメージしにくい方がいれば、見て頂ければ大体風貌が分かると思います。
最初は綺麗な女性が三段階変身をしてきて、ボス四連戦!?みたいな形にしようかなとも思っていました。
こちらもモロ、ダークソウルⅢの黒い炎のフリーデでしたね。ですがやめました。
正統派に強いボスをバンと出して戦わした方がリーネが際立つと思ったからです。
次話で三章も終わりです。出来るだけ早く投稿したいと思っています。
それでは!シュバ!