あんてぃりーねのゆぐどらしる☆だい☆ぼう☆けん☆ ~泣き虫が伝説になるまで~ 作:だいだろすちひろ
二週間近く投稿を休んだおかげでやっとこのすば三期を見れました。
やっぱ小清水さんは神やで(ΦωΦ)
♦︎ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦
『先輩…先輩…。』
(あぁ…分かる…。)
『先輩…先輩…。』
(分かる…これは夢だ…。)
『嫌だ…辞めないで…。』
(あの時の…夢…。)
『先輩…辞めないで下さい…。』
(忘れもしない…先輩が道場から去って行った…あの時の夢。)
『先輩…私…まだ先輩と一緒に空手がしたい…。』
(駄目…泣くな…泣かないで…あの人に失望される…泣くな…。)
『先輩…私…わた…し…。』
(駄目…言っては駄目…。)
『先輩に…まだ沢山…教えて貰いたい事があるんです。』
(駄目…駄目…嫌だ…嫌だ…聞きたくない。)
『君の様な天才が僕に何を教わると言うんだい。』
(やめて…やめて…。)
『嫌味かい?』
(違う…違うんです…私はそんなつもりじゃ…。)
『先輩…せん…ぱい…行っちゃやだぁ…。』
(泣くな…泣くな…もっと嫌われる…泣くな…。)
『行っちゃ…やだあぁぁぁ…。』
(先輩…嫌だ…嫌いにならないで…先輩…行かないで。)
♦︎
「…嫌な夢を見たわね…。いや、いい夢になるのかしら?」
酷くか細い声を出しながら、女性がベッドから起き上がる。
その女性は少しの間放心した後に、目尻を人差し指で拭う。その拭った人差し指は湿っていく。
そして直ぐに枕元に目が行く。
そこには湿って色が変色した枕が目についた。
「そこそこの量ね…。随分とまぁ…泣いたものだわ。」
独り言を呟やきながら、女性はベッドから降り立ち上がる。
そしてまだ少し重い足を動かしながら進んでいく。
女性が立ち止まる。立ち止まった女性の前には全身鏡が置いてあるのが見てとれた。
「あらあら…、酷い顔ね…、目も少し赤いわ。」
鏡に映った自分の顔を見た女性がそう呟く。
そしてしばしの間、自分の顔と睨めっこをした後に身支度を始める。
身支度はそれほど長くはかからずに終わる。
「さてと、少し早いけど行こうかな。そうね、いい事を思いついたわ。こっそりと“営内“にでも行こうかしら。まだ寝てる“班員“がいたら叩き起こしてあげましょうかね。まっ、私の班員に限ってはそんな事はないでしょうけど。」
意地悪な笑顔を見せながら、女性は部屋の入り口まで歩いて行く。寝起きとは打って変わってその足取りは軽い。
「ふふ…でも本当に…懐かしい夢をみたわね…。夢でも…久しぶりに“先輩“の顔を拝めたんですもの。嫌な夢なんて失言だったわ。すいませんでした、先輩。」
独り言を呟きながら、女性が入口のドアノブに手をかける。
身支度を済ませ―――緑と黒の模様の服を着た女性が。
「先輩…貴方は今どこで何をしているんでしょうね…。いつかまた出会えたら…その時は…お話だけでもしたいです。許して…貰えますか…。」
独り言を呟きながら女性がドアノブを回していく。
そして部屋を出る。
緑と黒の模様の服を着た―――日本の自衛隊員の戦闘着を着た女性が部屋を出ていく。
バタンと言うドアの閉まる音を響かせて。
♦︎
自衛隊―――国外部からの武力攻撃からの防衛及び国内における自然災害の復興や国民の救護を行う日本の組織である。
西暦2130年―――企業に支配されたと言われる現代においても、その役割はさほど変わる事はなく、今に至る。
警察と同じく、現代に今尚残る大きな国家機関の一つだ。
そんな自衛隊員達が駐在する場所は
今も昔も変わらぬ呼び方をされるその場所であるが、変わらぬのは呼び方だけで見た目は幾分か変わってはいた。
駐屯地の半分以上はドームで覆われ、その内部に建物が建てられている。
ドーム内の空気は清潔に調整されており、マスク等も内部では必要ない。
マスクを着けずにランニングをする事も、完備された施設でトレーニングをする事も用意だ。
流石は国家機関と言った所であろうか、至れり尽くせりだ。
残り半分のドーム外の部分は、実践訓練や災害救助訓練の為に用いられる。
実際の話、自衛隊員が出動する場合はこの様に設備が完備された場所ではなく、汚染された外での活動になっていく為に、マスク着用の完全防備での活動を想定した訓練を行わなければならない為である。
そんな自衛隊の基地―――駐屯地ドーム内部に、先程の女性がもう一人の女性―――自分より少し若いであろう女性と歩きながら雑談をしていた。
「うぅ…班長酷いですよ。急にくるのは反則ですよ。」
「酷くないわよ?私も昔よく班長にやられてたもの。油断大敵よ。覚えておきなさい。」
班長と呼ばれる女性―――ショートで黒髪の綺麗な顔立ちの女性が若い女性、恐らくは班員であろう女性にそう言葉を吐く。
班員の女性が起床ラッパ後にも起きずにグゥグゥ寝ている所を、班長である黒髪の女性がこっそり部屋に忍び込み、叩き起こした。
そして現在に至る。そうお説教タイムである。
「明日からは起床ラッパが鳴ったら直ぐに起床しなさい。格闘訓練隊に配属されてるんだから、出来れば早起きしてランニング、ストレッチまでして欲しい所だけど、そこまでは言わないわ。だから起床時間くらいは守りなさい。分かったかしら?」
「はい!了解しました!」
カツン。
班員の女性が姿勢を正すと同時に
「返事は良いのよね、全く。あ、後
「もちのろんです!基本教練と勢いよく謝るのは得意です!」
「何を威張って言ってるのよ貴女。」
はぁ、と班長の女性から溜め息が漏れていく。
そして本当にこの子はと思った後に二度目の溜め息をついた。
その後に始まったのは談笑だ。
どうやら班員に毒気を完全に抜かれてしまった様である。
「でも班長凄いですよね。その若さでもう
「そうかしら?他にも凄い人いるわよ?」
「いやぁ、班長が一番凄いと思いますよ?少なくとも私はそう思います。格闘紀章持ちだし、女だから行けないけど、班長が男ならレンジャー余裕だと思います。いや、絶対そうです!」
「あら?やけに持ち上げるわね?おだててもお寝坊の件はチャラにはならないわよ?」
「おだててないですよ~。私は本気で思ってるんですけどね。班長凄いんだから、いっその事、幹部になっちゃえばいいじゃないですか。班長頭も良いしいけるでしょ?」
「幹部?嫌よ、柄じゃないわ。それに幹部になると…ふふ、もう貴女の班長ではいられないわね。」
「あ…あぁ…それは…嫌ですね―――うわ。」
班員の言葉を聞いた班長が、班員の頭をくしゃくしゃ撫でていく。
その顔は―――表情は嬉しそうだ。少々むず痒そうだが。
「全く貴女は、可愛がられるすべを良く分かってるわね。悪い子はこうよ。」
「そんなんじゃありませんって。まぁ、どのみち班長なら最終的には幹部までいけるでしょうけどね。三尉くらいまでいけるんじゃないです?」
「どうかしら?三尉は無理じゃない?いけて准尉くらいでしょ。」
談笑を続ける二人だが、程なくして談笑は終わりを迎える。
「三島。
「―――はい。どうされましたか?」
班長の女性―――三島愛理沙二槽がそう言いながら振り向く。
振り向いた先には上官の姿があった。
「すまない、訓練を行いたいのだが、中隊の人数が少々足らなくてな。今日は格闘訓練隊から中隊に配置されてはくれないか?」
「
「うむ、何かあるか?」
「本官が急に抜ければ、格闘訓練に支障が生じます。後任の者に訓練内容を申し送りたいので、少々お時間を頂ければと具申します。」
「宜しい、申し送りを済ませた後に、中隊に配置される様に。」
「はい、了解しました。本日の格闘訓練内容を後任者に申し送った後に、速やかに中隊へと配置転換します。」
カツン。
半長靴を叩く音と共に敬礼を行っていく。
綺麗な敬礼だ。切れも然ることながら、品がある。先程の班員の敬礼よりも数段上を思わせる程だ。
上官がいなくなるまで静かに見ていた班員が口を開く。
「うへぇ…班長ドンマイですね。中隊とか…だるう…。」
「そう?私は嫌いじゃないわよ?
「班長…それ
「……嫌み……じゃないわよ…。本当よ。」
急に暗い雰囲気になった班長を見て班員が驚く。いつもはこんな事はないのだが、今日はどうしたと言うのだろうか。
「班長?冗談じゃないですか。班長は嫌みなんか言いませんもんね。」
「はぁ…全く貴女は…気の利く子だ事。さぁ、格闘所に行きましょうか。」
「了解しました~♪」
そして二人は歩を進めていく。格闘所に向けて。
♦
「はぁ…たまには中隊も良いものね。刺激になるわ。ちょっと疲れたけれど。」
班長の女性―――三島愛理沙がそう呟く。
今日の稼業はもう終了している。現在は帰宅し、シャワーを浴び終わった所である。
わしゃわしゃと濡れた髪をタオルで拭いていく。
露になった裸体は妖艶さを醸し出す。
妖艶さを醸し出す―――が、醸し出す雰囲気はそれだけではない。
目を見張るのは引き締まった肉体。トップアスリートですら顔負けと言った風だ。流石は格闘訓練隊の教官をしているだけの事はあるだろう。
よくよく見てみれば、身長も女性にしては驚く程に大きい。180cmはあるのではと思う程だ。
「ふぅ…さてと。仕事も終わった事だし、本日のメインイベントと行きましょうか…ふふ。」
ラフな格好に着替え、三島愛理沙が部屋に置いてある椅子に腰かける。その顔には微笑みが見える。なんと言うか、もう待ちきれないといった表情だ。
椅子に腰かけて直ぐに、コードを接続し、ヘルメットを被っていく。
三島愛理沙の視界が変貌していく。
ある場所の風景に―――YGGDRASILの風景に。
そしてアナウンスが流れていく。
##ステラさんがINしました##
三島愛理沙が―――ステラがINして直ぐに右手を握っていく。そして直ぐ開く、また握っていく。恐らくは現実とゲームでの動きの差異を調べているのだろう。
「うぅん…流石に現実よりは感度が下がるのよね。まぁ、仕方ないわね。」
ステラがそう一人でごちる。
そしてコンソールを開き、文章を浮かび上がらせる。なにやら色々と書いている内容を読み終わった後に、収納していた装備を取り出し装備していく。
「さてと…まだ少し時間があるわね。取り敢えずはムスペルヘイムに向かうとして…レアドロップでも狙おうかしら。」
しばらく思考した後に、ステラは歩を進め出す。どうやら予定は決まった様だ。
ステラが―――金髪の女性が歩を進めていく。
ステラは―――長身の女性は歩を進める。
―――両の手に奇怪な大楯を持ちながら―――
♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦
「能力向上…能力超向上…打撃強化…打撃超強化…行くわよ?準備はいい?」
「うん…いいよ、お母さん。」
法都を出て、少し離れた場所に少し錆びれた大きな建造物達が建てられている。
廃墟の様にも見えなくはないが、この場所は法国軍の施設であり、一般の人間は立ち入る所か近づく事さえ許されてはいない。それもかなり離れた距離から立ち入り規制が掛けられている。
建物の周囲には開け広げた草原が見え、その少し奥には緑豊かな森が顔を覗かせる。そうかと思えばゴツゴツとした大きな岩が点在している場所や、驚く事に湖の様な物まで目に入ってくる。
後者の二つは人工的に造られた物であり、元々はここに存在していた物ではないが。
なぜこの様な幅の広い環境がこの場所に存在するのかと言えば、先程も言った様に、この場所は法国の”軍”の施設であるからだ。
そう、つまりこの場所は法国軍の訓練所である。
少々特殊な、と言う言葉が続くが。
法国の軍は対人間を想定した軍ではない。亜人や魔獣などに代表されるモンスターだけにとどまらず、相対する機会は非常に少ない物の、悪魔やドラゴンなども想定の範囲に入っている。
幅広い種族との戦闘を想定している以上、訓練もまた幅広い環境で行わざるを得ない。水辺の種族との戦いならば水辺で、森林を縄張りにする種族なら森林で―――と言う事だ。
様々な種族を想定したこの法国軍の訓練所であるのだが、一つ不釣り合いな物が浮かび上がる。
そう、この大きな建造物達―――廃墟である。
モンスター達との戦いの訓練に、この様な建造物―――文化的な建物は必要は無いようにも思えるが。ある意味、この建造物達が一番大事とも言えるかも知れない。
この建造物達の使用目的は言わずもがな―――市街地戦闘を目的に作られている。
周辺国家間のモンスター達を間引いている法国ではある物の、法国が絶対の存在と言う訳では無い。人間は弱い、弱いからこそ間引き、数を減らし有利性を保っているだけに過ぎないのだ。
もし仮に、亜人や魔獣などに代表されるモンスター達が手を組み、雪雪崩の様に攻めてくれば、流石の方国でも一溜りもないであろう。
法国は人類の守護者であり、最後の砦である。絶対に落ちる訳にはいかないのだ。亜人やモンスター達の猛攻を防ぎながら、援軍を待つ為に、法都に陣取る可能性も考えられるのである。
その為のこの建造物―――市街地を想定した籠城戦の為の施設である。
そんな法国軍の訓練施設であるこの場所ではあるが、実の所、この場所は法国軍人ならば誰もが使用できるわけではない。これが先程言った、少々特殊なと言う言葉の意味だ。
この場所は法国軍人ならば誰もが使用できる訳ではない。この場所を利用できるのは、法国の特殊部隊―――六色聖典に限られる。
弱い人間が亜人達に勝つ為には、強い人間がどれだけ多くの亜人達を葬れるかがカギになっていく。
この施設は非常に広いのではあるが、法国軍人が全員収納できるかと言えばノーである。
故にこの施設は限られた者達しか使用する事は許されてはいない。強き者達が、更に強く成る為に作られた場所であり、その強き者達こそが―――六色聖典なのである。
ゲリラ戦に長けた火滅は森林を、殲滅に長けた陽光は開け広げた環境の中で訓練を行っていく。
そしてもう一つ、この場所を利用する事が許可されている六色聖典ではあるが、その使用の優先度には明確な差がある。
この場所を最優先で使用できる聖典―――強き者達を更に強くする為に作られたこの場所に相応しき最強の人間達であり、たった一人で戦況を覆す事が出来る程の一騎当千の猛者達であり、正しく人類の守護者たる人物達。
そう―――漆黒聖典である。
その漆黒聖典の中でも、最強と言われ隊長と呼ばれる者、神の力を宿し、その力を覚醒させた神人―――その女性はこの場所を最優先で使用する事が出来る。
「心配しなくても、ここには誰もこないわ。神官長達には誰の使用も許可させないと伝えてあるし…本気で動くから巻き込まれて誰か死んでもしらないわよって脅してあるしね…ふふ。」
(ママン怖い…悪い顔してる。)
悪い顔をしながらニヤリと笑うファーインを見たリーネが軽く引く。母は怒ると怖い上に悪知恵も良く働く様である。
そんな事を考えている間に、ファーインが手に持つ大こん棒を上段に振りかざしていった。
「さぁ!いくわよ!結構強く行くから失敗すれば大怪我するからね!法都まで轟音を轟かせてやるわ!神官長達の引きつった馬鹿面が目に浮かぶ様ね!」
そして―――大こん棒を振り落とす。
「武技―――超強打!」
振り落とされた大こん棒が迫る中、リーネは両手でガードの構えに入って行く。
「武技―――」
―――不落”超”要塞―――
リーネのガードした両腕に大こん棒が接触した瞬間に武技が発動していく。
武技を重ね掛けしたファーインの大こん棒が一瞬にして弾かれるだけではなく、驚く事に、ファーインが勢いに負け後方に仰け反っていく。
「――~~~!!なっ!?”超”ですって!?」
ファーインが驚きの言葉を叫ぶ。それから少し遅れて―――辺り一面に轟音と衝撃波が巻き起こされて行った。
遠く離れた森林の木々が葉をまき散らしながら揺れていく、湖は波打ち、津波の如く荒れ狂う。そして地面が揺れる、まるで地震でも起きたかのように。
(で、出来た!!お母さんでも…いや、今まで誰も使用も開発も出来なかった武技、不落超要塞!物にしてあげたわよ!!)
要塞の上位の武技―――不落要塞。この先はもう無いと全ての戦士達が諦めたその先に、リーネは今足を踏み入れていった。
高揚感が全身を覆っていく。その内に少しばかりの優越感も含めながら。
それがいけなかったのかも知れない。それが彼女を
(お母さん驚いてるわね~♪ってか隙だらけ…よし!驚かせたついでにくっついて頭に軽くチョップ入れちゃお♪)
普段なら絶対にしない事。打ち合わせにない事をリーネは企み、実行に移そうと、新たな武技を使用していく。
高揚感が、優越感が、彼女を調子に乗らしてしまった。
武技が発動していく。
「武技―――疾風超走破!」
「―――な!?」
態勢を崩したファーインに超速で飛び込んでいく。誰もが視認出来ない程の速度で母に近づく事に成功していった。
肌と肌が触れ合うのではと言う程の距離まで詰めたリーネが悪戯が成功した子供の様な無邪気な笑顔で母の顔を伺う。
そして母と目が合った瞬間―――全身を悪寒が包み込んで行った。
もう一度言う、彼女は調子に乗っていた。調子に乗ってしまったが故に普段は絶対にしない打ち合わせ外の行動を取ってしまった。その行動は母の―――ファーインの意表を突いてしまったのは言うまでもないだろう。
ファーインは意表を突かれた、それは想定外の事であっただろう。想定外の事が、自分よりも
自分の間合いに―――命を取り合う間合いに、自分よりも強き者が無遠慮に侵入してきたその事実が、ファーインの”生存本能”と”闘争本能”を刺激した。
母と目が合ったリーネであるが、そこにあったのは母の瞳ではなかった、そこに会ったのは―――血濡れの修羅の瞳だった。
自分の首に死神の鎌が掛かっているかの様な錯覚に襲われて行く。
頭の中で危険センサーがぎゅるんぎゅるん鳴り響く。
離れなくてはと―――そう思った瞬間だった。
こつん。
可愛らしい音が耳に届く。それはとてもとても小さな音だった。耳に届いたのが不思議なくらいのとても小さな音。
その音と共に感じたのはちょっとした違和感。なにやら少し、
ただそれだけの筈だった。
音が聞こえたその瞬間にリーネは後方に下がろうとバックステップを踏んでいく。
バックステップを―――踏んだ筈だった。
「あ…あで…?」
バックステップを踏んだ筈であったが、なぜか足に力が入らずに、足をもつらせながらその場に倒れ込む。
倒れながらも目を見つめ続けていたリーネの目に飛び込んできたのは、先程とはまるで違う瞳。
そこにあったのは紛れもなく母の瞳であった。そしてその瞳は、倒れる自分の姿を見つめた後に見開かれる。
「ア、アンティリーネ!?あぁ、なんて事を…。だ、大丈夫!?」
「え…だ、だいどうぶだよ…あで…あしが…あ…あれ?」
「大丈夫じゃない!呂律が回ってないじゃない!」
言葉が上手く発せない、視界もぐちゃぐちゃになり、手足が痙攣を起こしている。
動揺したファーインが即座に駆けつけ、娘のそばに寄っていく。そこには未だ痙攣を続ける娘の姿があった。
「私はなんて事を…ごめんなさい…ごめんなさい…。」
「あ…ちがうよ…わだしがわる―――」
痙攣を続ける体に新たな感覚が押し寄せてくる。
その感覚は吐き気―――嘔吐が始まる。
「―――うえぇ…あぁ…うえぇぇ…。」
「アンティリーネ!?あぁ…ナズル!ナズル!至急来て下さい!早く!!」
神官長達の監視が来る事も想定して潜ませていたナズルを大声で呼んでいく。
最早なりふり構ってはいられない、早く安静にさせなければ。
「うえあ…あ…はぁ…はぁ…、お、おがあざ…ん。」
「あぁ、大丈夫!?どうしたの!?」
「い…いっぽに…ぼでーぶ…ぶろーをくだった…げどみぢも…こんなきぶん…だったのがな…。」
その言葉を聞いたファーインが両手で口元を覆っていく。
その手は震えていた。
「あぁ…あぁ…訳の分からない事を喋り出してしまったわ…。思考が混濁しているのね…そこまで
「ファーイン様!どうされたのですか!?」
「ナズル!ナズル早く来なさい!
「ぼ…ぼでーぶどー…がぜどぅぱんぢ…でんぶじーろーる…。」
「アンティリーネ!アンティリーネしっかりしてぇぇぇ!!」
♦
錆びれた建物が多く並ぶ、その数ある建物の中の一室に三人の姿があった。
部屋の中にはベッドが複数置かれており、アンティリーネはそのベッドの一つに寝かされ休まされていた。
ベッドからは少し離れた場所に椅子を置き、ファーインとナズルはその椅子に腰かけ、アンティリーネの回復を待っている。
「はぁ…やってしまった…。母親としてあるまじき行為だわ…。普通に考えて娘の脳を揺らす様な母親はいないでしょ…はぁ。」
「その様な神業を行えるような母親も普通はいませんが…。まぁ、今回はお嬢様が悪いですね。」
椅子に座り頭を抱えるファーインをナズルが慰める。
ナズルが少し離れたベッドに視線を移す。そこにはベッドに横になるアンティリーネの姿があった。
はぁ、とナズルが一つ溜息を吐く。この子は自らの力の大きさを理解できてはいない。たまに行うこの様な訓練も、ファーインがどれ程神経をすり減らしているのか分かってはいないのだろう。一歩間違えば即座に自らの命が絶たれる様な相手と、訓練とはいえ、いつも相対しているのだから。そんな中悪戯に刺激すればこうなっても仕方ないだろう。
今やこの二人の力の差は途轍もなく開いた。ファーインが相対出来ているのは、法国の血で血を洗いながら紡いできた技術と知識、そしてファーインが血に濡れながら練り上げて来た技があるからこそなのだから。
(法国五百年の集大成と言われるファーインだからこそ、力の差を埋める事が出来ていると言う事をお嬢様には少し理解して貰わないと…。ふむ…そうなるとやはりファーインが悪いのか?ファーインが凄すぎるからこそ、お嬢様は自分の力の凄さが分からないのだろうか?)
「ナズル?どうかしましたか…?」
「…いえ、なんでもありませんよファーイン様。お嬢様の体調が戻り次第、今日はもう帰るとしましょう。」
「そうですね、私もその意見には賛成です。申し訳ありませんが…帰りの警戒もよろしくお願いしますね。」
「お任せください、ファーイン様。しかし、流石ですな、あれ程の力を持つお嬢様をいとも簡単に…お嬢様も人間である以上は、貴女には敵わぬと言う事ですかな。」
「…人間である以上は、倒す術はいくらでもあります。殺す術ならばもっと多くある。いくら強かろうと、つくべき弱点をつけば…あの通りです。今回は私の失態ですが、良い機会です、あの子にはその辺を良く言い聞かせなくては…実体験も済んだ事ですしね。」
(簡単に言うの…その弱点をつくのも、つける状態に持っていくのも…お前にしか出来ぬよ…ファーイン―――。)
ギシリと二人の会話の最中に物音がする。
二人が音の方向に視線を移せば、そこには頭を押さえながら歩いてくるアンティリーネの姿があった。
「アンティリーネ…もう大丈夫?」
「うん…だいぶ良くなった。」
「そう…それじゃあ、帰りましょうか。」
その言葉を聞き、アンティリーネは頷いていった。
♦
(うぅぅ…気持ち悪いぃぃ。)
母とナズルに連れられてベッドで休むリーネであるが、体調はまだ少し悪い。幾分かはマシにはなった物の、体はだるく、気分もすぐれない様だ。
(うぅぅ…やっちゃった…やっちゃった…。)
ベッドで休みながらも、今日の自分の失敗を思い出していく。
調子に乗り、母からの反撃を受け―――
(ゲロっちゃったよぉぉぉ!!)
―――盛大にゲロってしまった。
今や彼女も微妙なお年頃である。人前でゲロるなど言語道断、恥辱の極みだ。
(まずい…絶対に皆には言えない…言ったら最後ね。その瞬間から私のあだ名はゲロリーネよ…。)
少し赤みが戻ってきた顔がまた少し青ざめていく。仲間にこの事がバレるのは非常に不味い、山羊頭のデーモンがケラケラ笑いながら馬鹿にして来るのが目に浮かぶようだ。
別の意味で頭痛が再来してきた頭を左手で擦っていく。そうしながら、今日の出来事を思い出す。失敗は確かにあった、しかし成功もあった筈だ。
(不落超要塞…、密かに練習はしていたけど、成功したのは初めてね。しかも効果も規格外ときたか…。武技…奥が深いわ。)
ユグドラシルとは違うこの世界での特有の能力の一つである武技へと思いを馳せる。不可能と言われた武技―――不落要塞のその先を自分は垣間見た。
頭を擦っていた左手が動きを止めていく。その左手を顔の前にまで持ってきたリーネが、ぐっと拳を握り締めた。
(能力超向上…疾風超走破…不落超要塞…。超って付く最高峰の武技…。それが武技の最終段階なの?…いや違う…超の先が…武技には―――更に先がある!)
拳を更に強く握り締める。不落のその先を垣間見たリーネだからこその確信がそこにはあった。
(見てなさい…いつの日か必ず…掴み取ってみせるわよ!)
熱い思いが胸の内に沸き上がってくる。その思いに当てられたのか、なにやら体調も良くなってきた。
リーネはベッドから起き上がり、ゆっくりと椅子に座っている二人の元まで歩いていった。
「アンティリーネ…もう大丈夫?」
「うん…だいぶ良くなった。」
「そう…それじゃあ、帰りましょうか。」
「うん―――お、お母さん?」
リーネが頷くと同時に、母が自分の後頭部を優しく擦っていく。
「ごめんなさいね。」
「ううん…こっちこそごめんなさい…私、調子に乗った。」
「そう…帰ったらまたお話しましょう。」
ナズル帰りますよと母が言った後に、ナズルが支度を始めていく。
リーネは自分の後頭部を擦る。冷静になった今だから分かる。あの時のこつんと言う音は、後頭部を小突かれた際に生じた音であろう。そして脳を揺らされたと言う訳だ。
どの様な力で、どの様な角度で、どの様な速度で小突けばあれ程脳を揺らせるのか非常に気になる。
(う~ん…考えれば考える程に意味不明なんですけど…というか―――)
「ファーイン様、お嬢様、帰り仕度は済みましたよ。」
「―――あっ、はーい。」
返事をしながらナズルの元に向かうリーネ。その間に思う。
あの時、小突かれた事にすら気づかなかった。それもその筈だ、なぜなら母の動きに何の違和感も感じなかったからだ。
手が動いた感じも、身構えた感じもしなかった。小突かれた後ですら何かされた事にすら気づかなかった。
まるで―――
♦
「―――分かったかしらアンティリーネ。貴女より弱い私でも、やろうと思えばあれくらいの事は出来るの。自分が強いからといって安心しては駄目よ。慢心は死を招くと心得なさい。」
「は~い、分かりました。」
「本当かしら?返事が軽いわね。」
屋敷に帰ってきた三人が、夕食の後に今日の訓練を振り返っていく。
振り返りとは言うが、半分以上はお説教だ。グチグチ言う母に気が滅入っていく。
「それと私からも一つ。お嬢様はご自身の力の大きさをもっと自覚された方がよろしいかと。」
「え?自覚してるよ?」
「本当でしょうか?これから先、お嬢様もこの屋敷を出ていく日が来るやもしれません。その時に、何も考えずにその力を振るってしまえば…厄介な事になりかねませんよ?」
「えぇ!?出て行っちゃうの!?そんなの嫌よ!」
「…ファーイン様は少し黙っていて下さい。」
「…そ、そんな事しないよ。」
「何ですか今の間は。」
母のお説教の後は今度はナズルからのお説教が始まる。
二人共今日はやけに厳しい。一体自分が何をしたと言うのか。
「不用意に力を使った結果、国家に睨まれればそれこそ面倒になりますよ?暗殺者など送られかねません。」
「暗殺者?イジャニーヤとか?上等じゃない!ぶっ飛ばしてやるわよ!」
「ほら、結局は力づくではないですか。既に自覚していませんよ、それは。」
「アンティリーネに暗殺者を!?上等じゃない!私がぶっ殺してあげるわ!漆黒聖典総出撃よ!」
「ファーイン様…お黙りなさい。」
ファーインを言葉で制したナズルが、娘であるアンティリーネに諭す様に言葉を発していく。
「お嬢様、先程のファーイン様の言葉を理解できていますか?お嬢様は強くても人間である事には変わりありません。正面から戦わずとも、毒を盛られたり、卑劣な罠に嵌められる可能性もございます。それに、四六時中命を狙われると言うのはそれだけで精神を疲労してしまいます。」
くどくどナズルからのお説教は続く。次第にアンティリーネの瞳から光が失われて行き、只々はいと答えるだけのマシーンと化していく。
「―――わかりましたか?」
「ハイワカリマシタ…イジャニーヤコワイ…アンサツコワイ。」
「イジャニーヤが怖いのはそうなのですが…少々言い過ぎましたか?」
「ナズル言い過ぎですよ。頭がパンクしてるわ。この子は脳に詰め込める量が少ないのだからあんまり言い過ぎては駄目です。酷いわ。」
「酷いのは貴女では?」
イジャニーヤコワイ…イジャニーヤコワイと言い続ける娘の頬をファーインは優しくパンパンと叩いていく。
するとアンティリーネの瞳に光が戻っていく。
「アンティリーネ、イジャニーヤが怖いのは本当だし覚えておいて欲しい事だけれど…もう一つ覚えておいて欲しいの…
「うえ?ふー?」
「そう、
「ファーイン様…確かに、失念していました。お嬢様、ファーイン様の言う通りです。
「?うん、分かった、ふーだね。」
「そう、分かってくれたなら良いわ…今日は疲れたでしょう、部屋でお休みなさい。」
「そうね…確かに疲れたかも…もう寝るわ…お休みなさい。」
「えぇ、お休みなさい。」
そう言葉を残し、アンティリーネは部屋から出ていく。
部屋の中には、ナズルとファーインの二人だけになっていく。
「だいぶ体調も戻った見たいね…良かった、心配だったのよ。」
「あのお嬢様をあそこまでにするとは…ファーイン様…
そしてこの二人の会話の中に出てくる虚とは―――意識外の事だ。
例えば一人の人間にげんこつをしたとしよう。
げんこつをされる際に、叩かれると
げんこつが来ると認識し、身構えて言った場合と、完全に意識の外から急に殴られた時とでは比べるべくもない。
ファーインの行ったのはそういう事だ。意識の外、言うなれば虚無の部分―――虚ろだ。
アンティリーネの後頭部を意識の外から小突いていった。否応なく脳は揺れる。
「…そうよ、それがあの場では一番効率的だったし…人間種相手ではそれで脳を揺らすのが
(簡単だと!?襲撃をしたのではなく、相対した状況で…聞けば密着に近い状態であった筈…一体どのようにして虚を突いた…ばけも―――)
そう問題はどのようにして虚を突いたかだ。それはナズルにも分からない。漆黒聖典に所属し、幾多の修羅場を潜ってきた猛者である人物にすら理解が及ばない。
ナズルの脳裏に化け物と言う言葉が一瞬浮かび上がりそうになるが、頭を振りかき消していく。それは思ってはならない言葉だからだ。
「ふふ…どうしたのかしら?」
「あ…いえ…いや、見透かされていますか…。」
「ふふ、いいのよ、なれてるから。それに皆は間違ってないわよ…私はばけも―――」
「おやめください…その様な事を言うのは。」
クスクス笑うファーインをナズルは見つめる。彼女は笑ってはいる、しかしその表情はどこか寂しそうだ。
人類の守護者スレイン法国、その法国の集大成とまで言われる彼女は正しく人類の守護神だろう。
それでも、人類を守る為とは言え、一人の人間がここまでの孤独を抱えなければならぬのかと、ナズルは戦慄していく。
「ふぅ…それにしてもファーイン様、お嬢様の件ですが…流石でございます。このナズル、
気まずい雰囲気を払拭しようとナズルが強引に話題をシフトしていく。
そしてそれは功をそうした、ファーインの雰囲気が変わる。不機嫌な雰囲気にだが。
「ふん…娘に
「そこに
その言葉を聞いたファーインが更に不機嫌になっていく。
「愛ですって?あいつらにそんな物があるわけないわ。あいつらが
「落ち着いて下さい、ファーイン様。」
ファーインの言葉が進むに連れて熱を帯びていく。最後の言葉など怒鳴り声に近い。
息を荒げるファーインを見つめながらナズルは思う。そうだ、この娘も―――ファーインもまた同じような目に合った。強き力を取り込むために、愚王に腹まされ、あの娘を生んだのだから。拒否反応を起こして当然だ。
「今日の話も聞いたでしょう?不可能とされていた不落の先…前人未踏の領域に足を踏み入れた…持つ力だけでなく、潜在するセンスも桁が違うの。
「失言でした…
「信用できない。とにかく、
「
「いいや!駄目ーーー!とにかく
「子供みたいな事言っては駄目ですよファーイン様。」
夜の屋敷にファーインの言葉が木霊する。
この二人の会話は、どうやらまだまだ続きそうである。
♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦
「お~い…お~い…。」
声が聞こえてくる。いつもよく聞いている声だ。
「お~い…もしも~し…お~い。」
次第に声が大きくなっていく。いや、大きくなっていくと言うよりも意識がはっきりしてきているのだろう。
「マジで寝てんの~…お~い。」
意識がはっきりしだした。声も綺麗に聞こえてくる。
「お~い…シャイニング~…ひっかり~ん…おきろ~。」
お目覚めの時間だ。
♦
少し浅めの眠りから、アロービーチは目を覚ます。その瞬間に目の前に飛び込んできたのは、金髪ウェーブの伊達男の顔だった。それも非常に近い、寝覚めの一発にはいささか強烈だ。
「…ちけぇよ。」
「お?起きた?ていうかマジで寝てたんだ。」
ベッドから起き上がりながら、アロービーチは伊達男―――ジャンを右手で押しのける。
この男はいつもこんな感じだ。フレンドリィなのはいい事だが、たまに少々鬱陶しくなる時がある。
「う~ん…おう、なんか寝ちまってたわ。良い気分だ…悪くねぇ。」
「は~、君凄いね。
ギィ―――アロービーチとジャンの会話の最中に物音が割り込んでくる。扉が開く音だ。その音に続いて陽気な声音が部屋中に響き渡る。こちらは少々大きな音量で。
「イエェェェイ!ひかりっちぃぃぃ!調子はどうっスかぁぁぁ!いやっほぉぉぉ!」
「おい…煩いヨ…少し黙るネ。」
「よう…調子か?絶好調だ…良すぎるくらいだぜ。」
陽気な声音で叫びながらクシリンが部屋の中に飛び込んでくる。それに少し遅れて龍も入ってきた。龍は両手で耳を塞いでいる。クシリンが煩すぎるのだ。鬱陶しそうな雰囲気を醸し出す。
そんな鬱陶しそうな龍の後ろには二つの人影が見てとれた。
「クシリン、気持ちが上がるのは分かるが、少々はしゃぎすぎだ。」
「忍、忍。」
二つの人影―――山荒とギルバートが遅れて部屋にやって来た。
クランのメンツが部屋の中に一堂に会していく。少しいつもと違うのは、この部屋は何時もの豪華な留置所ではない。殺風景な質素な部屋である。
アロービーチは五人を見渡す。いつものメンツだ、気の置けない馬鹿達。
そう、
何とも言えない心情の中、五人を見渡すアロービーチに向かって音が聞こえてくる。
コツ、コツ、コツと、その音はアロービーチの目の前で止んでいく。
「調子はどうでござるか?アロービーチ殿。忍、忍。」
音の主はギルバート。アロービーチの前で歩を止めたギルバートが、声を掛けていく。
「おう、さっきもいったんだが…絶好調って奴だ…それもとびっきりな。」
「ほう、そうでござるか。
ギルバートの声音に喜びの感情が含まれている事を察したアロービーチは苦笑いをしていく。上々ね、それは
「あぁ、上々だ。わりぃなギル…おめぇさんの
「悪い?何も悪くはござらんよ、アロービーチ殿。」
「手加減はしないぜ?」
「手加減?そんなものを出来る余裕が果たしてあるのでござろうか。」
「はっ、ちげぇねぇ。」
会話を続ける二人が同時に笑いだす。
そんな笑う二人の会話の中に、他の三人も割って入って行く。
「ひかりっちぃぃぃ!いけるッスよぉぉぉ!!目に物見せてやるッスよぉぉぉ!」
「だから煩い…アロビ、お前負けるナイ。叩きのめすヨロシ。」
「そうそう、いつも道理圧勝しちゃっていいからね。」
「おう任せとけよ。でっけぇ花火打ち上げてやるよ。」
アロービーチの言葉を聞き、三人が大盛り上がりを見せていく。そこには過去このクランで見た事も無い程の熱気があった。
盛り上がる三人から、アロービーチは視線を逸らす。逸らしたその先には、大柄の男、山荒の姿があった。
「よう、山さん。俺とあんたで始まったこの集まりも、何やら面白れぇ事になったもんだな。」
その言葉を聞きながらも、山荒は黙したままだ、腕を組み、じっとアロービーチの言葉を聞いている。
山荒に向けた視線を再び残りのメンツに戻した後に、アロービーチは破顔する。本当に、しょうがない連中だと―――そう思った瞬間にアラーム音が鳴り響く。音の発信場所は先程アロービーチが寝ていたベッドの付近。そこにはレトロな目覚まし時計が置かれていた。
「さてと…ちょいとばかり運動の時間だな…。」
そう言った後に、アロービーチは部屋を出ようとする。そして部屋を出る寸前に、声を掛けられていく。
声の主は―――山荒だ。
「アロービーチ殿…多くは語らぬ…武運を。」
「…あぁ、軽く捻り潰してくるぜ。」
そう言葉を言い残し、アロービーチは部屋を出ていった。
♦
コツ、コツ、コツ。
廊下を歩く音が鳴り響く。
コツ、コツ、コツ。
音は次第に聞こえにくくなる。
足音よりも主張の激しい音が聞こえだしたからだ。
(おぉおぉおぉ。すげぇなこりゃまた。)
足を進める度に音の主張は激しくなっていく。
人々の―――プレイヤー達の声が聞こえてくる。
大音量で声が聞こえてくる―――熱気と言う名の声が。
(…はっ…こりゃまた…。)
アロービーチは歩を進める、熱気に向かい、ゆっくり着実に進んで行く。
その身に高揚感を沸き上がらせながら歩く―――いや歩いていたのだが。
(全く…想像以上だなこりゃよ…この感覚は…
高揚感をかき消すかのように、ある感覚がアロービーチを襲っていく。
それは危機感だ。
危険センサーが鳴り響く。ぎゅるんぎゅるん鳴り響く。
逃げろと―――勝てないと。
(こりゃあ…最高だな。この感覚は中々味わえんぜ…滾るな。)
アロービーチは歩を進める。ゆっくり着実に。そして行き止まる。目の前には大きな、それでいて重厚な扉が目に入ってくる。
しばし扉の前で立ち止まったアロービーチの目の前で、大きく重厚な扉が自動的に開きだした。
鈍い音を立てながら、ゆっくりと開いていく―――時間が来たのだ。
薄暗い廊下の中に眩い光が入り込む。
外からの光が入り込む。
これは祝福の光なのか―――それとも。
扉は開ききった。アロービーチは眩いばかりの光に包まれ、それと同時に熱気と言う名の声も浴びていく。
アロービーチは歩を進めていく。
眩い光も、熱気と言う名の声も、もうアロービーチには届かない。
真っ直ぐに前を見つめながら、歩を進めていく。
視線は逸らさない、真っ直ぐに前を見つめる―――自分と同じように、歩いてくる人物を見つめる。
アロービーチは歩を進める。
(最高だな…あぁ、最高だ…熱くさせてくれよ―――)
―――
部下の女性官「班長、愛理沙って名前可愛いですね。」
愛理沙「そう?ありがと、うちの家系は代々男共は皆名前に”八”がついてね、古臭いから女くらいは可愛くしようって言ってそうなったらしいの。」
部下の女性官「そうなんですか?八って言うと?」
愛理沙「ひいおじいちゃんは仁八でしょ、おじいちゃんは平八でしょ、お父さんは一八って言うのよ。格闘一家なんだから。」
部下の女性官「はえ~、なんか凄いですね。」
※深い意味はありません。
どうもちひろです。
オバロ世界にまだ自衛隊は存在しているのだろうか?謎ですね、まぁここではあるという事で。
ユグドラシル内ではまったく話に出てきませんが、アンティリーネは現実では一生懸命武技の修行&研究を頑張っています。
百年後はとんでもない事になっている…と思いますよ。
幕間の最後の部分は、次章のメインの話の部分の前日談…前日談?的なやつです。
ここで書くのが一番いいのかな?と思い書きました。
これで三章は完全に終わりです。次回から四章に入ります。
NPCももう制作されてますよ!あんまり出ませんが…。
それでは、読んでくれてありがとう。次章も読んでくださいね。シュバ!