あんてぃりーねのゆぐどらしる☆だい☆ぼう☆けん☆ ~泣き虫が伝説になるまで~ 作:だいだろすちひろ
前回のあらすじ
幻獣平原炎上モード。
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賭博―――ギャンブルとも呼ばれるスリリングな大人の娯楽は、時に人間の理性さえも焼き切り、脳を震わせていく。
賭ける物は数知れず、失う物も数知れず、だからこそ、脳内麻薬は多量に分泌され、脳を絶頂の頂まで押し上げていく。
そしてここにも―――その絶頂に侵された人物がいた。
「まだまだまだクールフェイス…いつも!俺は!無敵の”JOKER”!!」
跳ねる様に歩を進め、一人の人物―――男が、歌を歌いながら進んで行く。
賭博場の施設まで。
「綺麗な女はい~らない!ケバイジュエルもつま~らない…麻薬なスリルが欲~しいのさぁ~!」
そして男はくるりと軽快にターンを決めていった。
「明日の事は…このコインにゆだねる…。」
―――キーン。
その言葉と共に、一枚のコインが宙を舞っていった。
♦
ムスペルヘイムの大都市、多くのプレイヤー達が賑わうその場所に、ひっそりとたたずむ小さな雑貨屋、店の内部には数多くの消耗アイテムや、武器、防具に限らずに、インゴッドや鉱石までもが並べられている。
その辺境の小さな雑貨屋の中に、現在進行形で巷を騒がせている、ギルド、アインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバーである、アンティリーネの姿があった。
「いつもすまないね、アンティリーネちゃん。」
「いやいや、いいッスよ。
リーネが店の店主と仲良さげに会話をしている。この店はNPCが運営しているお店ではない、都市の店舗を借りて、プレイヤーが運営しているお店だ。
先程の言葉の中に出て来た”独占”と言う言葉だが、それはリーネ達、アインズ・ウール・ゴウンが、希少金属が沸く巨大鉱山を独占している事に対しての物だ。現状発見されている鉱山の中でも間違いなく一番大きな鉱山であり、二番目の大きさの鉱山よりも頭一つ飛びぬけているほどの大きさだ。
採取できる金属の量は勿論の事多いのだが、それ以上に希少金属の七色鉱の沸き方が異常なのだ。七色鉱などは大きな鉱山でもそう易々と採取できはしない。それなのに、あの鉱山は驚く程採取できる。バグってんじゃないのと思う程だ。
「それでも、アンティリーネちゃんがいるからこうやって七色鉱を手に入れる事ができてるんだ、礼は言うさ。それに、アインズ・ウール・ゴウンのお陰で金属の値段はうなぎ上りだ、
「へっへっへ…親父さんも悪だねぇ。」
鉱山を独占しているアインズ・ウール・ゴウンはその金属を市場に出したりはしない。自分達の装備やアイテムの制作などに使用し、残った金属は全て、ギルド内に保管している。
そんな事をしていればどうなっていくのかと言うと、物資が枯渇していくのだ。ある程度のレベルに達した金属は、NPCが運営するお店―――公式店舗では購入する事ができない。入手するには、自分達で掘って手に入れるか、このようなプレイヤーが運営している店に行き、ユグドラシル金貨、あるいはそれ相応のアイテムと物々交換していくしかない。
しかし、先程も言った様に、七色鉱などそう簡単に採取できる物ではない。大きな鉱山に行っても簡単には沸いてはいない上に、他のプレイヤーも売買するよりは自分達の為に使いたいだろう。元々市場には出回りずらかった七色鉱であるが、鉱山の独占によりさらに数が減ってしまった。金属自体が出回りずらくなってしまった事により、物価―――レートは急上昇を続けている。
そんな中、独占をしている本人が、なぜこうしてこの店に金属を流しているのかと言うと、それは簡単な理由―――ただの付き合いだ。
実はこの店の店主―――異形種のプレイヤーは、昔ゲンガーと初めて会った時に助けたプレイヤーで、実はあの後も付き合いは続いていた。金属鉱石の枯渇で市場が苦しんでいる事を知ったリーネが、ギルドの共有財産ではなく、あくまで自分個人の分の金属を、定価以下で提供しているという事だ。
「あれから随分たったねぇ…今でもまだ飽きないよこのゲームは。それにあの時も随分と有名だったが…今ではとんでもない事になった物だ”PKプリンセス”。」
「そッスか?まぁ、色々やってるんでしょうがないッスね。悪がうちのカラーなんで。」
「ははは、”変装”も随分と上手くなったものだ。身バレする前に、早く帰った方がいいよ。」
頭をぽりぽりと掻きながら、リーネは少し苦笑いしていく。この様な大都市にあまり長く居座るのは店主の言う様に良くはないだろう。ムスペルヘイムは異形種にとっては第二のホームみたいな物だが、それでも自分達に恨みを持っている人物はそれなりにはいるだろう。
店主に別れを告げ、リーネは店の外まで出ていった。
♦
都市の出入り口に向かい、リーネは歩を進めていく。転移で一気に帰っても良かったのだが、ついでだ、ぶらぶらと都市内を観光しながら帰るのも悪くはない。
まったりと歩いていると、出入り口付近に大きな建物が見えてきた。ここは”賭博場”だ、なんでも、ユグドラシル金貨を用いて、ギャンブルと言う名の娯楽を楽しむ施設なのだという。
今まで余り縁の無かったこの賭博場であるが、実は昔から興味はあった。ただ、一人で行くのもなんか嫌だったので入店はした事はない。
興味本位で中を覗こうかなどと思っていると、賭博場の入り口付近に何やら妙な物が見えてくる。それは人間種のプレイヤーだ、地面に仰向け―――大の字になった男性プレイヤーの姿がそこにはあった。
ハットを被り、メガネをかけている男性プレイヤーが、もう無理ですと言わんばかりに倒れている。ハットを被っているとは言ったが、既に軽くずり落ちている。
なんだコイツ?目を細めながら、件の人物をまじまじと見つめていると。
「何見とんねん!見せもんちゃうぞコラァ!」
気に障ったのか、倒れている男性がこちらに向かい、大きな声で怒鳴ってきた。
―――カチン。
少し頭にきたリーネはその男性に文句を言っていく。
「はぁ?そんな所で倒れてたら普通みるでしょ?」
「普通ってなんや!普通って!お前の普通が世の皆様の普通って思うなや!しばき倒すぞボケェ!」
―――ブチ…ブチブチ。
屋上へ行こうぜ…久しぶりにキレちまったよ。その言葉が喉まで上がってきたが、済んでで堪えていく。
ここは都市内部であり、極力揉め事は避けたい。どのみち都市内は戦闘禁止区域の為に殴ろうが蹴ろうが余り意味も持たないのであるが。
怒りを必死に堪えていく、ここが現実なら物凄い顔をしている事だろう。ワナワナと拳を震わせていると、その男性が起き上がり、パンパンと服をはたいていく。ゲームなんだから汚れないだろと言いたくなる。
「はぁ、全く、エライ目にあったでほんま…。何が”イベント日”やねん、はたき倒したろか。」
小言の様にぶつぶつと文句を漏らす男性。恐らくは、この賭博場で金貨をだいぶすってしまったのだろう。行く方が悪いだろうと思うが、ギャンブル好きにそんな言葉は意味を成さない。
小言を呟いていた男性が、ワナワナと身を震わせるリーネに気づく。
「まぁまぁ、そんな怒んなや、軽いジョークやんか。」
「軽い…しばくが軽いの?よくもまぁぬけぬけと…。」
まるで何事もなかったかのように、軽い口調で男性はそう言い放った。
「まぁまぁ、ええやんか。そんなことじゃ器量が疑われるで、
「うっさい―――は?」
リーネが硬直する。
「そないビックリせんでも…こう見えても俺は”女の子”見る目だけはあんねんな。色々と試行錯誤しとるみたいやけど…あんた、アインズ・ウール・ゴウンのアンティリーネやろ。いやぁ、ビックリや、こないな所にどうも。」
たらりと冷汗が落ちそうになる、実際に落ちる事はないが、その様な気分に陥っていく。焦る気持ちとは裏腹に、少し目の前の男性に感心してしまう自分がいた。変装を見破った事もそうだが、自分の様な危険なプレイヤーを目の当たりにして、まるで動じている風でもない。
(豪胆なんだか…馬鹿なんだか…。)
いずれにしても、変装を見破られているのは非常に不味い。ここで大声でもあげられれば、わらわらとプレイヤー達が集まってくるかもしれない。自分はユグドラシルの嫌われ者だ、恨みなど沢山買っている。
硬直するリーネを見て、ふっと笑った男性が指を丸め、こちらに見せつけていく。この手は知っている、銭の手だ。
「なんも言わん言わん。ただなぁ…ちょいとお願いがあんねんな…あ、俺は”テラ”いいますねん…単刀直入に言うけど…
「…は?」
♦
賭博場の扉を開けていったその瞬間、目に飛び込んできたのは、未だかつて見た事も無い世界だった。
煩くも、何やら好奇心を揺さぶられそうな音。アナウンスや客の声、そして機械音、様々な音が混じり合い、脳に刺激を与えていく。
何もかもが新鮮だ、”遊技場”とはまた違った熱気がそこにはあった。
リーネが右を向く、そこにはカードを手に持つプレイヤー達が見える。机に置かれているのはユグドラシル金貨、なにやら”オールイン”とか言う声が聞こえる。
続いて左を向く、そこにもテーブルを囲むプレイヤー達の姿があった。あの遊びは知っている、確か”麻雀”とか言う奴だ。怒ったプレイヤーが文字の書かれたサイコロの様な物を盛大にぶちまけている。
そして正面を見据える、そこには巨大なモニターがあり、大勢のプレイヤー達がモニターを見ながら大声で叫んでいる。モニターに映し出されていたのは”馬”だ。競争する馬を見ながら一心不乱に応援している。罵声の声の方が大きい様にも思えるが。
なんだこれは。その言葉が脳裏に浮かぶ。見た事も無い世界、感じた事の無い異質な熱気、こんな場所がユグドラシルにあったのか。
凄い、只々そう思った。
キョロキョロと落ち着きのないリーネを見て、テラが笑う。
「はっは、凄いやろ、こないな熱気ここでしか味わえんでぇ~。」
「いや、本当に凄いわね…。凄い熱気…なんか…皆本気ね。」
「そらそうやろ、賭けとるもんがあるからな。負けたら賭けとるもんぜ~んぶおじゃんやで。」
パーンと両手を上げ、テラがそう言う。成程、だから不貞腐れて寝転がっていたのだろう。金貨を貸してくれと言っている辺り、恐らくは掛けている物はユグドラシル金貨だろうか。
一体何枚の金貨を失ったのか。好奇心に駆られ、テラに聞いていった。
「ちなみにさっきは何枚の金貨が無くなったの?」
そう聞かれたテラが腕を組む、そして得意げにこう言った。
「金貨”五千枚”や!」
「ご、五千!?」
返ってきた言葉の内容に衝撃を受けていく。想像の十倍は凄い枚数だったからだ。金貨五千枚もあれば、八十LV越えの最高位の傭兵モンスターを召喚できる程の枚数だ。豪華な留置所に一か月は住めるぞ。
コイツ狂ってやがる。先程までのほほんとした只の優男にしか見えなかったテラが急に怪物に見えて来た。不味い、これは非常に不味い。
「無理無理無理!!そんな大金持ってないわよ!いや、ギルドに帰ればあるにはあるけど…流石に貸せないから!ていうかあんた返す当てあるの!?」
流石にその枚数の持ち合わせは今はない。というか、そんな大金普通は持ち歩かないだろう。ギルドに帰れば、貯金が十億枚程はあるにはあるが、それでも五千枚は大金だ、この貯金も何かあった時や、ギルドの支払い――毎月の拠点の維持費を人数分で割ってだした枚数の徴収――の為にあるのだから、ギャンブルに使って支払いが出来ませんでしたなんて事にでもなればギルメン達に合わせる顔が無い。
焦るリーネをジッと見つめていたテラであったが、何かを思い付いたのであろう、ポンっと手を叩き、頭上に電球のアイコンを表示させていった。
「そうやんな、流石に多いよな。だったら、そんなに金かからんやつあんねん。そいつでちょっぴり遊ばせてもらえたらもうええで…あ、後な、一人やと寂しいから一緒に遊んでや。」
ホッと胸を撫で下ろす。そんなに金かからんがどの程度の物なのかは分からないが、金貨五千枚は難を逃れた様だ。
安心しているリーネに、テラの声が聞こえてくる。テラの方に目を向ければ、テラがある場所を指さしていた。そこには大きな扉が見えてくる。恐らくは、別館への入り口だろう。
「あっちやで、楽しいもんがぎょうさんあるから…
「え…?あ、うん、分かった。」
そしてテラと共に、別館へと足を踏み入れていった。
♦
テラと共に別館へと足を運んだリーネの目に飛び込んできたのは、先程とはまた違った風景。沢山の”機械”が並べられており、多くのプレイヤー達が、”椅子に座り”その機械の前に座っている。
機械から鳴り響く爆音。機械から放たれる派手な光。ここにもまた、今まで見た事も無い様な世界が広がっていた。
「なにこれぇ…?」
「凄いやろ?大昔はこの機械を使ってやな、ぎょうさんのギャンブラーが金賭けて遊んどったみたいやで…もう無くなってしもたけどな…。」
テラの声音に悲しみが滲む。百年前には娯楽の頂点を極めた程の人気を誇ったこの機械も、時代の流れには勝てなかった。
コインを入れ、レバーを叩く。ハンドルを回し、銀色の玉を飛ばしていく。沢山の人達が熱狂した一大娯楽も、最早過去の産物だ。
「この機械でちょいと遊ばしてくれたらいいで。俺これ大好きやねん。大丈夫、そんな金貨かからんで。」
「ふ~ん、まぁ、それなら―――」
##フォ~~~…アタ!アタ!オォワッタァ!##
会話の最中に聞こえてくる男の声。その声を聞いたリーネがピクリと反応していく。なぜならば、知っているからだ、この声を。
「ねぇねぇねぇ!私あれが良い!私あの作品大好きなの!」
リーネの目に映るのは先程の機械。その機械に付いている液晶画面には、胸に七つの傷を持つ男が、モヒカンの大男達をばったばったと殴り飛ばしている映像が映し出されていた。
椅子に座るプレイヤーが、機械のボタンを押していく。そうすれば、ジャラジャラと機械からコインが―――ユグドラシル金貨が出てきている。
「駄目や。」
「なんでよ!好きなので遊ばせてよ!私の金貨じゃない!」
「あれはちょっとムズイねん。素人さんが迂闊に手を出してええもんやないのよ。簡単なのいこか。」
そう言いながら、テラは別の場所に並べられた機械の元までリーネを連れていく。そこにあったのは先程の機械とはまた少し風貌の違う機械。
大きな液晶がある所までは一緒だが、何やら釘の様な物が沢山機械に打ち付けられている。そんな機械が横並びに並んでいる。
好きなのを選べ。そう言われ、沢山ある機械を見渡していた時―――
「―――あ、私これが良いな。」
大きな液晶の中で、真っ黒なドレスを着た美女が映し出されている。真っ黒なドレスに、綺麗な銀髪のロングヘア―。何やら”強欲”とか言う文字が見えるが、一体どういう意味だろうか。
「綺麗な絵ね。この画風気に入ったわ。私これが良い。」
その言葉を聞いたテラがぺちんと右手で額を叩く。
「かぁ~、流石や、流石やで”リネきち”、見る目あんなぁ~、それは大昔一世を風靡した最高のマッスゥイ~ンやで。いやぁ、お目が高い!」
「だって絵が綺麗なんだも―――は?リネきち?」
ぺちぺちと額を叩いているテラから、何やら聞きなれない呼び名が聞こえてくる。ついさっき会ったばかりなのにナチュラルにあだ名を付けていく辺り、やはりこの男あなどれない。
「リネきちはそれにすんねんな、なら俺はこれや。」
テラが隣の機械を指さしていく。そこにもまた綺麗な画風で描かれた美少女―――青い髪のメイド服を着た美少女が映し出されていた。
こちらは”鬼がかり”と言う文字が映し出されている。鬼がかり?一体何のことなのだろうか、非常に気になる。
リーネとテラが椅子に座っていく。するとテラは慣れた手つきで機械に金貨を投入していき―――ジャラジャラと銀の玉が機械から出て来た。
興味津々にその光景を見つめていると、テラが何やらリーネの機械をいじり出す。設定完了とか言っているが、なんのこっちゃだ。
見よう見まねでリーネも機械に金貨を入れていく。するとテラと同じく銀の玉がジャラジャラ出て来た。
「さ、いこか~。リネきち、俺の”台”もな…そっちに負けず劣らずの…モンスターマシンなんやで。」
そう言った後に、テラは何やらハンドルの様な物を回していく、すると。
―――カツ―ン、カツ―ン。
銀の玉が射出されて行く。
またもや見よう見まねでリーネもハンドルを回す。
―――カツ―ン、カツ―ン。
銀の玉が射出された。
銀の玉が中央の釘と釘の間に入った時、液晶画面の数字が回転しだす。
銀の玉が入る。数字が回る。銀の玉が入る。数字が回る。
その光景を見つめ、リーネは思う。
(いや…地味じゃね?)
テラが大好きと言うからどんな物かと期待していたが、何やら途轍もなく地味だ。隣を見れば、テラも無言で液晶を見つめている。
玉が入り、数字が回転していくだけの光景を延々と見せられていると非常に眠くなってくる。
金貨を追加し、玉を飛ばしていく。この作業の繰り返しだ。期待を裏切られたリーネががっくしきていると。
―――ポキューン。
耳をつんざくかの様な音が機械から流れた。
「うわ!え…なに?ビックリした。」
「キタでキタでキタでぇぇぇ!」
テラのテンションが急激に上昇していく。お前さっきまで無言だっただろ。そう思っていると。
「”ドナぷる”や!ドナぷるや!」
テラが機械を指さす。どなぷる?なんだそれは。そう思いながら、指さされた場所を見つめていく。
最初に液晶に映し出されていたキャラクターである、銀髪の美女のミニキャラが、何やらぷるぷる震えている。
可愛い。それを見ながらそう思った。
そして液晶に映し出されている映像が切り替わっていく。なにやら平原の様な場所に、ちょこんと可愛らしいテーブルが置かれ、銀髪の美女がそこに座っているのが見えた。
ついでに”目つきの悪いジャージの少年”も。
「茶会や!”魔女の茶会”や!」
テラのテンションが更に上がる。どんどんヒートアップしていく。
そのテンションに若干引きながらも、液晶をみれば、銀髪の美女が立ち上がり、くるくる回り出した。いや、回っているのは只の演出か、実際に美女が回っている訳では無いだろう。
銀髪の美女が綺麗な声で喋り出す。
##考えても見てくれ、君の持つ死に戻りそれは凄まじい賢能だ―――##
美女が喋る―――喋り続ける。ずっとずっと、いつまでも、いつまでも。
(長くない!?いつまで喋ってんのこの人!?)
喋り続けている美女の表情が少しづつ変わっていく。少しづつ、少しづつ、口を三日月に歪め、不気味な笑みへと変わっていく。
##―――それもまた僕の好奇心を満たす答えの一つだからね##
長く続いていた美女の演説めいた喋りは終わる。
リーネは思う。
(茶会の要素なくない?ていうか僕っ娘だったんだこの人。)
―――バキバキバキーン。
機械から先程の音を遥かに凌駕する爆音が流れ、液晶に金色の鎖が溢れ出していく。その派手な液晶の中で、銀髪の美女は両手を上げ、回っている。
どんだけ回れば気が済むんだコイツは。
「強欲や!強欲やぁぁぁ!!」
テラが叫びながら頭を抱えている。なにやら、汁が~、脳汁が~とか言っているが、無視する。知り合いと思われたくはないからだ。
そして液晶に新しい映像―――アニメーションが映し出された。
黒髪の綺麗な美女―――いや、着ている服を見ればセクシーと言う言葉が相応しいか。セクシーな美女が、虎の獣人――怪人虎男とでも呼ぼうか――と対峙している。
ここまで見せられれば、鈍感なリーネにも意味は分かる。美女は襲われているのだ、この怪人虎男に。ここから先、美女がされる事など一つしかない。卑猥な行為を力づくで実行しようとしている女の敵をキッと睨みつけていく。
(負けないでお姉さん!)
しかしリーネの思いは届かず、セクシーな美女は怪人虎男に襲われ―――ずに、ぐちゃりと潰されて行った。
(えっぐぅぅぅ!?)
そうくる!?余りの衝撃にリーネは放心していく。
何と言うアニメーションだ、こんな事が許されていいのか―――そう思っていると。
―――バキャーン。
液晶に同じ数字が三つ揃っていた。
「…え?」
「当たったでー!」
テラが握りこぶしを作りながらそう叫んだ。次々に襲い掛かる意味不明な現象に、堪らずテラに尋ねる。どういう事だと。
「いや、虎が味方やで。」
「なん…だと…。」
どう見ても悪役な風貌をした怪人虎男が味方だと言われ、霊圧が消えそうな台詞を吐いていく。
当たりを引いたリーネが、悶々としながら液晶を見つめる。すると、何やら可愛らしい兎の群れがぴょこぴょこと現れた。あ、可愛い。そう思ったのもつかの間、目つきの悪い少年が、その兎の群れを虐待し始めたではないか。
唖然としながら、虐待を続ける目つきの悪いジャージの少年を見つめていると―――その少年は、可愛らしい兎の群れを全て虐殺していった。
どうなってんだこの作品は!美女を潰し、あまつさえ動物を意気揚々と虐殺していく。あの少年は終始笑顔だった、とんでもないサイコ野郎だと、心の中で少年の顔にぺっと唾を吐いていった。
ジャラジャラと銀の玉が排出されている中、リーネの気分は重い。こんな筈では無かった。もっと可愛いキャラクターが、ニコニコ笑っている光景を想像したのに、笑っているのは目つきの悪いサイコ野郎だけだ、こんなのはあんまりだ。
良いのか?お前の人生それで良いのか?そんな事を思っていると、何やら液晶の映像が変わっていく。
##強欲ラッシュ##
その言葉と共に、映像は切り替わる。液晶の真ん中には銀髪の美女―――くるくる回る女が出現している。
玉が穴に入るたびに、液晶頭上の数字が減少していく。何が何やらと思っていると、テラが声をかけてきた。
「この数字がゼロになるまでに辺りを引けばええんや!ほら、一番楽しい所やで、きばれや、リネきち!」
当たりを引く?どうせこの女が回るんでしょ?そんな事を思いながら、玉を射出していく。
数字が減少していく―――そして。
―――ポキューン。
またあの音だ。ビクリとした瞬間、三つの数字が揃う。
「当たったでー!」
喜ぶテラを他所に、リーネの気持ちは浮かない。なぜなら、あの女が回っていないからだ。ここまできたんなら回れよお前。
謎に中毒性を持つ回転を見れずにがっくしきていると。
―――パーパラパーパラキキキキーン。
凄まじい発光と共に耳をつんざく様な音が響き渡る。
液晶には―――”3000”と言う数字が見えた。
(目が~!目が~!!)
発光しながら3000と言う数字がこれ見よがしに自らを主張してくる。
ジャラジャラ排出される玉を見ていて気付く、玉の量が先程よりも多い。恐らくあの数字は排出される玉の個数を表しているのだろう。表示されている数字を見つめていると、液晶がフリーズしていく。
3000と言う数字がギュンギュン上昇を続け、4500と言う数字になった時、リーネは気づく、これは得られる玉の個数を上乗せていったという事だろう。
強欲と言う文字が映し出されていた事の意味をここで初めて理解していく。なるほど、確かにこれは強欲だ。
「くるでぇ!構えんかい!」
「は?なによ。」
##お礼が聞こえないぞ##
「ありがとー!!何しとんの!?はよ言わな!」
「へ…あ、ありがとー!」
くるくる女にテラと一緒にお礼を言っていく。そして、きちんとお礼が言えたご褒美だろうか、テラの機械からも、ポキュンと言う音が聞こえる。
自分の機械はそっちのけで、テラの機械―――液晶に見入っていく。
テラの液晶には、何やら空中を飛行する”白いクジラ”の様な物が見える。
四分割された液晶に、四人のキャラクターが映し出される。パパパパパとルーレットが始まっていく様を見て、なにやら嫌な予感を覚えていく。
(ちょっと…まさか…。)
ルーレットが止まった場所に映っていたのは黒髪の気品溢れる綺麗な女性だ。一瞬名前が表示されたが、良く見えなかったのだが、何やら、なんちゃらカルステンとか言う名前の女が―――クジラに暴力を振るいだした。
(ほらぁぁぁ!やっぱり!)
クジラが悶える、非常に苦しそうだ。いたたまれない気持ちになりながらも、液晶を見続ける。
ルーレットがまた始まる。次に選ばれたのは、ダンディなおじ様だ。”セバス”みたいだなとか思った矢先、何やら”剣鬼”とか言う物騒な文字が見えてくる。
ダンディなおじ様は空中に浮かぶクジラの背中まで飛び上り―――その背に剣を突き立てていく。
(セバスゥゥゥ!!?)
剣鬼は走る、剣を突き立てたまま、クジラを切り裂いていく。
そしてまた始まっていく、か弱い動物を一方的にいたぶっていく―――残虐なルーレットが。
画面が分かれる。四分割に分かれた液晶の右下に、背筋を凍らせる様な残虐な笑顔と共に―――奴がいた。
(うそ…うそよ…やめてぇぇぇ!)
ルーレットは無慈悲に停止する、そして選ばれて行ったのは、残虐な笑顔を浮かべた―――
液晶にはクジラが空から地上に向け墜落している映像が流れている。その瞳には既に生気はない。息の根を止められ、クジラが地に伏していった。
地に伏したクジラを見ながら少年は笑う、満面の笑みだ。
その姿―――正に外道。
(クジラさぁぁぁん!!)
ガッツポーズをしながらこちらに振り向くテラの事など最早どうでもよかった。悲しみに意気消沈していくリーネを他所に、テラの無双劇が始まっていくのだった。
♦
―――パン。
両手を打ち鳴らす音が聞こえる。テラが叩いていった音だ。顔の前で両手を合わせたテラが、深々と頭を下げ、リーネにお礼を述べていく。
「おおきにな、リネきち。なんや晴れ晴れしたで。」
クジラを倒したテラはその後、無双と言う名の快進撃を始めていった。あれよあれよと玉が排出され、気づけば金貨は大幅なプラスで幕を閉じた。残念ながらリーネはあの後すぐに当たりは終わってしまったので、それ程プラスにはならなかったが、それでもプラスはプラスである。
遊び終わった二人は、現在賭博場の外―――入口付近にいる。興奮冷めや間ぬテラの相手を、リーネがしている最中だ。
身振り手振りでテラが先程の光景を語っていく。
(はぁ…幸せそうだなこの人。)
余程楽しかったのだろう、テンションも、声のトーンも先程よりも高い。いつまでも続くかと思われた自慢話であるが、それは唐突に終わりを迎えていった。
「―――おっと…もうこないな時間か…。」
「…え?うわ!もうこんな時間!?」
コンソールを開き時間を確認すれば、時刻は既に夕方に差し掛かろうとしていた。雑貨屋を出たのが昼過ぎだったのを考えれば、気づけば四時間近く経っている。それ程長く遊んでいたつもりも無かったのであるが、ギャンブル恐るべし。
「あちゃ~、楽しいと時間が経つのも早いな~、なぁ、リネきち、
「そうね、本当に楽しそうにしてたもんね、アンタってば―――は?今日は?」
聞き捨てならない言葉が聞こえた。
「なんやなんや、俺らもう爆連仲間やろ?またいこや~。」
「え…嫌なんだけど。」
「なんでぇ?」
「なんでって…あんなにはしゃがれたら恥ずかしいじゃない…。」
そう言われたテラが腕を組む。どうやら何かを考えている様だ。それ程時間を置かず、テラが言葉を発しだす。
「なぁ、リネきち、アインズ・ウール・ゴウンって悪のギルドやろ?それ相応の振る舞いしとるやんか、それは恥ずかしないんか?」
「恥ずかしくないわよ、それがうちのカラーだもの。」
「せやろ、俺も一緒やで、これが俺のカラーや。金貨のうなって、不貞腐れて寝転がって、なんや盛大に喚いて…そして、自分が楽しい時はとことん楽しむ。リネきち達だって、とことん楽しんだ末の悪もんやろ?あんま変わらんで。そう考えれば、俺の行動もちょっぴり可愛く見えるんちゃうか?」
「…へぇ、良い事言うじゃない。可愛いかどうかは別だけどね。」
楽しんだ末の行動、端から見れば、悪のロールプレイをしている自分達も、確かに随分と恥ずかしい事をしているのかもしれない。根っこは一緒、そう邪険にするなという事だ。
「なぁ、リネきち…あんなギャンブルな、もう現実では出来ひんねん。現実に戻れば、只々辛いもんが待っとるだけ…
困った様にリーネは笑う。表情が動かないで良かったと思いながら。
(全く―――)
―――馬鹿は皆同じ事を言うもんだ。
どこかで聞いた事のある様な言葉を聞きながら、はぁっと一つ溜息を吐く。
そしてコンソールを開いていった。
「ん…、フレンド登録しよっか。」
二人はフレンド登録を交わす。喜ぶテラを見ていると、また困った笑いが出てきそうになっていく。
「ていうかさ、あんた…テラさんは、私達の事怖くないの?最初からやけに普通に接してくるよね。」
「ん?怖いで。」
怖いんかい!心の中で一人ツッコミを入れていく。やはりこの男、読めない。
「ああ、ちゃうで、怖いんはアインズ・ウール・ゴウンであってリネきちやあらへんよ?リネきちは怖ないで。それにアインズ・ウール・ゴウンかて、
「…悪者じゃない?どうしてそう言いきれるの?」
「金属鉱山一つ取ってもそうやろ?あない大きな鉱山や、採掘したくなる奴らもぎょうさんおんねん、特に…
リーネの目が鋭い物に変わっていく。
「手薄になった中規模鉱山には、普段ならそこで採掘出来ひんくらいの弱いプレイヤーやクランが、追い出される事無くのびのびと採掘出来とる。いやぁ、流石やで、弱者には優しいもんな、リネきち達は…カラーが傷つかん程度に、分からん程度に弱者救済しとる。」
「……。」
「そして躍起になっとるごっついギルドは、どんどんリソースが削られんねん。そらそうや、採掘出来とらんのや、何もしてないのと一緒…いや、それより質が悪いな、リネきち達追い出すんに物資を使っとるんやからマイナスやな…かぁ~やれんなぁ。じわじわ時間かけて削っとんやろ?敵対ギルドの物資を。それも相手が諦めん様に上手い具合に調整しとる…弱者救済のついでに敵対ギルドもじわじわ疲弊させとる。いんねんやろ―――」
言葉を語るテラが、トントントンとこめかみを人差し指で三度叩いていく。
「―――ここがごっつ切れる奴が。」
言葉を語り終わったテラを見つめていたリーネが、はぁっと大きな溜息を吐いていく。
「…言わないでよ。」
「あぁ、言わへん言わへん。目をつけられたくないからな。」
ポリポリ頭を掻くテラが、言葉を続けていく。
「それに、リネきち達が独占を辞めても、別のごっついギルドが取って代わって独占するだけや…ほなら、俺はリネきち達に独占された方がええ。」
もうこないな時間や、早よ帰らな。喋り終わったテラがそう吐いていく。また連絡するでと言うテラの言葉を聞きながら、別れようとした―――その時。
「見つけたわよ!!」
―――ドキン。
リーネの心臓が勢いよく跳ねる。長居し過ぎた、遂に見つかってしまったかと思い振り向けば、そこには四人の女性プレイヤーの姿があった。
知らないぞこんな奴ら。そう思っていると―――テラが焦り出す。
「はぁぁぁ…マ…マリエーーー!!?」
喋り掛けて来た女性プレイヤーに、テラがそう名を呼んでいく。
しかし。
「マリエは私よ!!」
隣の女性プレイヤーがそう叫ぶ。どうやらこの人がマリエらしい。
「せ、せやんな…ア…アキラーーー!!?」
名前を間違えたテラが叫ぶ。どうやらこの人の本当の名前はアキラと言うらしい。
すると。
「アキラは私よ!!」
またもや違う女性が叫ぶ。どうやらこの人がアキラらしい。
「せ、せやんな、せやんな、分かっとるで…サキちゃーーーん!!?」
リーネは確信する―――別の女が叫ぶと。
「サキは私よ!!」
ほらな。
ワナワナと体を震わせながら、最初に叫んだ女が口を開こうとする。
リーネは考える。マリエ、アキラ、サキときて、この女の名前は何なのかと。この流れで言ったら日本風だろう、ショーコとかかな。
「私は―――リーゼロッテよ!!」
うわっはぁー、すんごい名前。この流れでそれくるんだと戦々恐々していく。
ずいずいと歩み寄ってくる女性プレイヤー達にテラが詰め寄られていく。テラは一体この女達になにをしたというのか。
「この…浮気者がぁぁぁ!!」
女性の叫びを聞いたリーネは思う、マジかよと。流石にそれは予想が出来なかった。四又は流石に無いだろうと、ゴミを見る様な目でテラを見つめる。
ちゃうねん、ちゃうねんと言い訳を続けるテラの元まで、ゆっくりと、ゆっくりと歩み寄っていく。
「あぁん!何あんた!?こいつの新しい女!?」
ふるふると顔を横に振っていくリーネを、まるで助けてくれと言う様な雰囲気を出しながら、テラが見つめている。
そんなテラを一瞥したリーネが、アイテムボックスからある物を取り出していく。
それは短刀だ―――脇差とも呼ぶ。
それをテラの手に優しく握らせたリーネは、優しい声でこう言った。
「テラさん―――ハラをキリなさい。」
6月6日6時投稿…
無理でした~。
ただ午後6時ではある…
この意味が分かる方達…
ハラをキリに行きましょう。
まだ間に合います。
どうもちひろです。
リゼロ&リーゼロッテ…
ただの駄洒落です。
想像以上にヴヴヴ要素がなかった…
オバロキャラに銀玉を弾かせるのが夢でした。
夢が一つ叶いました。
嬉しい。
誰かカジノギルドで転移して現地キャラに血走った眼で銀玉を弾かせる作品書いてくれないかなといつも思ってます。
それでは、趣味全快のお話を読んでくれてありがとうございます。
次回から少しずつ物語を進めていきます。
それでは!シュバ!