あんてぃりーねのゆぐどらしる☆だい☆ぼう☆けん☆ ~泣き虫が伝説になるまで~   作:だいだろすちひろ

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 前回のあらすじ

 異世界での六大神☆集☆結☆


番外編 そのころあいつらは その⑥

 

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

 

 DMMORPG-ユグドラシルのサービスが開始されて六年の月日が経っていた。

 

 その六年という月日は、人気のゲームにとってはそれ程長寿と言う訳では無いかも知れないが、短い月日でもありはしない。むしろ、人気ゲームですらその人気に陰りが見えてき、衰退を始めてもいいくらいには時間が経っているだろう。

 

 そんな六年と言う一つの節目を迎えたユグドラシルはと言うと。人気に陰りが見える素振りなど微塵も見せない、それどころか今尚ユーザーの上昇が起きているほどだ。

 

 一つのゲームが終焉を迎えてもおかしくない程の時を刻みながらも、今尚熱気冷めや間ぬユグドラシル。今尚、最盛期ではなく、これから先、もっと激しく、もっと熱く、もっと激しく燃え上がるのではないかと言う予感さえ思わせる程の熱気と活気に溢れ返っている。

 

 「アインズ・ウール・ゴウンがまた暴れ回ってるらしいぜ。」

 

 「マジかよ…けっ、おちおち探索にもいけねぇな。」

 

 

 

 「この間俺さ、異業種姫とPVPしたんだけどよ…ありゃ駄目だ…あれはもう同じプレイヤーとは思えねぇ…。」

 

 「マジ?やっぱクッソ強いのか?」

 

 「強いとか弱いとか、勝つとか負けるとか、そんな次元じゃねぇよ。ありゃ駄目だ。俺もう戦闘職やめるわ。」

 

 「心折れてんじゃん…つぅかそんな強いなら、もう勝てる奴いねぇな…いや、一人いるか。」

 

 

 

 「糞がぁぁぁ!アインズ・ウール・ゴウンの野郎共!!希少金属鉱山を独占しやがって!お陰で装備が作れねぇ!」

 

 「そりゃ災難だな、もう露店で鉱石買うしかねぇな。」

 

 「馬鹿野郎!あいつらが独占して市場にも流さねぇから数が全くねぇんだよ!七色鉱なんかはあそこ以外じゃ中々掘れねぇからよ…物価は上がる一方だぜ!クソが!」

 

 

 

 「ねぇねぇ、モモンガ様がまたギルド潰したらしいわよ!キャー、モモンガ様カッコイイ♪」

 

 「えぇ~、只の骸骨じゃん、あんた趣味悪。」

 

 「そんな事ないよぉ!モモンガ様カッコイイじゃない!見て見て、これ買っちゃった♪」

 

 「え?何それ?」

 

 「モモンガ様人形♪」

 

 ユグドラシルの熱気は治まる事を知らない。都市の内部を少し出歩くだけでも、道行く人々―――ユグドラシルプレイヤー達の会話がそこらかしこから聞こえてくる。

 

 そして聞こえてくる会話の内容はにはある共通点が多く見られる。

 

 そう【アインズ・ウール・ゴウン】という単語である。

 

 アインズ・ウール・ゴウン―――熱気冷めや間ぬユグドラシルにおいて、いま話題の中心に上がる集団であり、大型ギルドである。

 

 その性質は悪―――いや、極悪でありユグドラシル非公式魔王軍とも呼ばれる集団である。

 

 無慈悲なPK、敵対ギルドの抹消、希少金属鉱山の独占など挙げていけばキリは無い。

 

 その様な極悪ギルドの横暴がまかり通っている様な状況にもかかわらず、ユグドラシルの人気上昇は止まらない。普通なら嫌気がさしてユーザーが減少しそうな物であるが、その様な事はなく、むしろその逆で、熱気はうなぎ上りであった。

 

 それは何故だろうか。 

 

 理由としては、アインズ・ウール・ゴウンの性質が極悪と言う事が最も大きいだろう。極善ではなく―――極悪だからだ。

 

 いい事を成すよりも、悪い事を成した方が情報は早く周り、噂は大きく大きく広がっていく。そして、アインズ・ウール・ゴウンはその悪事をさもやって当然とばかりに堂々と行っていく。その風貌、そして振る舞いは、正に悪の権化である。

 

 そしてついには非公式魔王軍とまで呼ばれてしまうのである、そう魔王軍だ。そこが最も重要なポイントである。

 

 どれだけ悪さをしたとて、そこまで言われてしまう集団はそうそういないだろう。どんな酷いPKをしたとて、どんな酷い制裁を加えたとて、中々この様な名称は付かない。

 

 特徴的な風貌、個性的な軍団、突き抜けたロールプレイが、異彩を放ち、強烈なカリスマ性を発揮している。

 

 悪の軍団と言うが、見方を変えれば、アインズ・ウール・ゴウンはエンタメ性に突き抜けた存在であると言えるだろう。

 

 ゲームにとって、これほど()()()()()()もいないであろう。

 

 人間は自分に出来ない事を成す者に憧れを抱く者も多い。堂々と悪さをし全く悪びれる様子もない。そんなぶっ飛んだ事を行う集団に魅せられている者達がいるのもまた事実。

 

 そんな魅せられた者達が、他の者達に語り、そして語られた者達が、怖い物見たさに調べあげ、また魅せられていく。そして噂が噂を呼び、その名は更に轟いていく。

 

 悪の軍団と言う―――魔王軍と言うスターへの道にどんどん進んで行く。

 

 どんな好きな食べ物も、食べ過ぎれば飽きてしまう。時にはスパイスも必要であろう。

 

 刺激と言う名のスパイスが―――魔王軍と言う名のスパイスが。

 

 アインズ・ウールゴウンはスパイスなのかも知れない。このユグドラシルと言う名の最高級の食べ物の、悪と言う名のスパイス、それも―――とびっきり中毒性の高い。

 

 六年の月日が経ちながらも以前成長を続けるユグドラシル。

 

 この冷めぬ熱気と言う名の火が燃え続けているのは、非公式魔王軍と言う彼らが、今尚燃料を投入し続けているからなのかも知れない。

 

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

 

 「アインズ・ウール・ゴウンが―――」

 

 「アインズ・ウール―――」

 

 「アインズ―――」

 

 

 

 「おぉうおぉうおぉう。どこもかしこもアインズ・ウール・ゴウン、アインズ・ウール・ゴウンって…飽きねぇのかよ。」

 

 「あの集団は派手だからねぇ。話題には事欠かないね。」

 

 道行く人々が口々にアインズ・ウール・ゴウンの話題で盛り上がっているのを見て、アラフがそうごちた。

 

 いつものメンツで都市を歩くスルシャーナ達であるが、聞こえてくる言葉はアインズ・ウール・ゴウンの話題ばかり。うんざりだとばかりにアラフが天を仰ぐ。

 

 「まぁでも、ブレずに悪を貫き通す所は凄いと思う。うあっついわ!」

 

 「はぁ…あんたいつもそればっかね。」

 

 「マジかよ、兄ちゃん明日休みなのか?いいなぁ、俺仕事だぜ。」

 

 「んあん?まじか?じゃあ夕方からしかINできねぇな、これがな。」

 

 「あ~あ、仕事行きたくねぇな~。まだ学生だったらなぁ~。」

 

 「こら、ガンジョウ。あんた小学校まできちんと卒業できたんでしょ。親御さんに感謝しな、恵まれてるんだよあんた。」

 

 「分かってるって、ルビ姉は厳しいな。」

 

 「分かってるならよし。」

 

 アインズ・ウール・ゴウンの話題が飛び交う中、この六人の会話はいつも通り、たわいもない会話である。

 

 たわいもない会話をしながら歩く六人の耳に、またもや周囲の人間の言葉が飛び込んでくる。だがその内容には先程とはまた違った名称が含まれていた。

 

 

 

 「アロビだ。」

 

 「おい、アロービーチじゃねぇか?」

 

 

 

 「おぉん?」

 

 アロービーチと言う単語が耳に入り、アラフが眉をしかめていく。

 

 周囲に目をやり、言葉を発した人物達の視線を追っていく。

 

 その視線の先は自分達の真正面、進行方向である。アラフが目を細め、正面を見やる。

 

 正面を見やったアラフの視線の先には、四人の人間種プレイヤーが歩いてきているのが確認できた。

 

 「アラフ…。」

 

 「おうおう、分かってるって、喧嘩売ったりしねぇよ。俺は相手によって態度を変える男だからな。」

 

 警告をしようとしたルビアスの言葉にアラフがそう返す。その返ってきたあんまりな言葉にルビアスが少し苦笑いを浮かべながらも、正面を見つめ直していく。

 

 コツコツコツと正面から四人組が歩いてくる。

 

 その四人組の真ん中で、まるで肩で風を切るかのように悠々と歩いてくる人物が目に入る。

 

 間違いない、この男がアロービーチだとルビアスは思う。額のバンダナと腰に据えた刀が、この男がアロービーチだと証明している。

 

 (…はん。何こいつ…偉そうに。気に入らないわね。)

 

 (おうおう、雰囲気あるねぇ。流石は()()()()()()()()()の男だ。)

 

 目の前で悠々と歩いてくる人物に対して、ルビアスは心の中で悪態を付いていく。そんなルビアスの周囲で歩く他の仲間は何も喋らない。いつもはうるさい炎火やガンジョウですらだ。

 

 飲まれている、この男の纏う強者の雰囲気に。

 

 アロービーチ―――正式なプレイヤーネームは”シャイニング=アロービーチ”。

 

 アラフの言う様に、ムスペルヘイム最強と言われているプレイヤーである。

 

 正確にはワールド・チャンピオンを除いてと言う言葉が続くのだが。

 

 ムスペルヘイム最強と言われているが、それはこの人物の出身がムスペルヘイムであるだけであり、ワールド・チャンピオンを除けばこの人物は九つの世界(ユグドラシル)最強との呼び声も高い猛者である。

 

 (絡まれませんようにぃ…ちょ!ねこにゃん!?)

 

 喧嘩しても間違いなく負ける様な相手に目を付けられたくないと、アラフが気配を薄めながら歩いていく。肩でもぶつかっていちゃもんでも付けられた日には最悪だと、少し距離も空けている。

 

 他の仲間もそうだ。出来るだけ目立たない様に、目線すら合わせていない。

 

 たった一人―――ねこにゃんを除いて。

 

 (ちょ…ねこ!なにやってんの!?)

 

 (う()ぃ~、うあっつい目線で睨まないでぇ~。)

 

 アロービーチ達とスルシャーナ達が直線状ですれ違っていく際、アロービーチとねこにゃんの視線がぶつかり合う。

 

 お互い一度も視線を逸らす事無く睨み合い―――そのまますれ違っていった。

 

 (ふう…揉めずにすんだわね…ていうか…どうしたのねこの奴…随分ピリついてるわね。)

 

 (ふぅぅ~何はともあれ、どうにかなったなぁ~、取りあえずは生き延び―――)

 

 「…んん?ちょっと待つッス。」

 

 (―――てなかぁったぁ~、はい、俺達死~んだ。)

 

 何事もなく通り過ぎるかと思われた瞬間、スルシャーナ達は後ろから声を掛けられる。間違いなくアロービーチの仲間であろう。先程のねこにゃんの件だろうと思いながらスルシャーナ達が振り向いていく。その際、ふと思う。なんだか聞いた事のある声だと。

 

 「おぉぉ!やっぱそうッス!スルっち達じゃないッスかぁ!久しぶりッスね!」

 

 「は…?え、クシリン!?」

 

 聞いた事のある声の正体はクシリンであった。アロービーチにばかり気を取られて残りの仲間には目が行ってなかったスルシャーナが驚きの声を上げていった。

 

 「ねこちんもお久ッス♪」

 

 「んあん、久しぶりだなクシリン。ていうかお前、ソロじゃなかったんだな。」

 

 「あれれ?言ってなかったッスかね、仲間がいるって?」

 

 「んあん、お前さんの言葉は嘘か本当かわっかんねぇからな。あんま信じてなかっただけだぞ。」

 

 「ひど!酷いッス…おやおや?」

 

 いつもの調子で会話を続けるクシリンの目線がアラフに向かう。いつもはうるさい筈のこの男がやけに静かだと、不思議に思い喋り掛けていく。

 

 「アラフさぁ~ん。」

 

 「……。」

 

 「アラフッさぁぁん?」

 

 「……。」

 

 返事がない只の屍の様だ。やけに静かなこの男にクシリンの脳内には?マークが浮かぶ。疑問符を浮かべるクシリンの視界の端に、歩を止め、自分を待っている仲間達の姿が見える、その中の一人である、アロービーチが見えた途端―――ニヤリと悪い笑みを浮かべていった。

 

 「おやぁぁ?おやおやぁ?どうしたんッス?アラフさぁん、アラフさぁん、アラフォーさぁん♪」

 

 「……うっせぇよ……話なら今度でいいだろ、さっさといけよ。」

 

 理由を察しておちょくってくるクシリンに対して、アラフが小声で応戦していく。しかしこれは悪手だ。小声でぼそぼそ言うアラフの姿を見て、クシリンの悪い笑顔が更に悪く歪んでいく。

 

 「えぇぇ!?なんだってぇぇ!?聞こえない、聞こえないッスよぉぉ!!!」

 

 「…てめぇ…。」

 

 「クシリン、もういくヨ。山さん達これ以上待たせるナイ、雑談なら今度にするヨロシ。」

 

 「おっとぉ~、さぁ~せんね。そんじゃスルっち達、また今度遊ぶッス。じゃあねぇ~。」 

 

 だらだらと雑談を続けるクシリンに痺れを切らしたのか、仲間の中華風プレイヤーから中断の言葉が投げかけられていく。

 

 仲間の元に戻っていくクシリンの後ろ姿をスルシャーナ達は見つめ続ける。クシリン達の姿が消えるまで。

 

 「なんだったのあの女。ていうかアンタやけにピリついてたわね。やめてよねそう言うの。」

 

 「んあん…あぁ、すまねぇな、これがな。」

 

 「……どうだった?ねこにゃん。」

 

 スルシャーナの言葉にルビアスは眉を顰める。どうだったとはどういう事なのかと。

 

 「んあん…やっべぇなあいつ、噂以上かもしれねぇ。」

 

 「……勝てそうか?」

 

 「はぁ?アラフあんた何言ってんの?勝てる訳ないでしょ。」

 

 「ん~、さぁな、()って見ない事には分からんな、これがな。」

 

 予想外な言葉が耳に入り、ルビアスがねこにゃんを睨みつける。相手はアロービーチ、ユグドラシル最強とまで言われる人物に対して余りにも強がりが過ぎると思ったからだ。

 

 「何強がってんのアンタ?その強がりで、もしかしたら仲間が危険な目に合ったかもしれないってのに…皆がいない時にやんなさいよ…。」

 

 「んんん…そんなつもりじゃなかったんだが…うん!ごめんな!これがな!」

 

 清々しい程の謝罪の言葉を投げつけられ、ルビアスが押し黙る。流石にこの後に文句を言う程自分は空気が読めない女ではない。溜息と共にねこにゃんから視線をそらす。

 

 「ふぅ…まぁでも、気持ちは分からないでもない。自分の顔に最強って書いて歩いてるような雰囲気だしやがって…気に入らないわね。」

 

 「ルビー、やめとけよ。流石のお前さんでも、あれはどうにもなんねぇ。こう言うのも何だが、勝負にもならんぜ、これがな。」

 

 「うっせ。分かってるわよ、手を出したりしないっての。」

 

 「まぁまぁ、二人共、その辺で良くないかい?続きは留置所でしよう、ね。」

 

 スルシャーナの言葉を聞き二人が頷いていく。そして思い出す、そう言えば自分達は留置所に向かう途中であったのだと。

 

 重い空気を軽い物に変えながら六人は帰路についていく。

 

 そして帰路につくルビアスがふと疑問を抱く。ねこにゃんが強がった時、スルシャーナとアラフだけが、やけに冷静だったなと。

 

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

 

 「知り合いか?クシリン?」

 

 「ん~、そうッスよ。いつもはもっとうるさい連中なんッスけど…ひかりっちがいたから大人しかったッスね。にしし。」

 

 「俺の所為か?別に取って食ったりしないんだがな…。」

 

 「アロビ自分の知名度考えるヨロシ。ビビられて当然ヨ?」

 

 はぁと溜息をつきながら、アロービーチが額に手を当てる。自分は一度たりともその様な弱い者いじめの様な事はした事は無いのだが、知名度とは恐ろしい物だと溜息をついていく。

 

 「有名税ヨ、有名税。諦めるネ。」

 

 「そういうもんかねぇ。」

 

 「まぁでも、皆が皆ビビってるわけじゃなさそうヨ。一人睨みつけてる奴いたネ。」

 

 「あぁ…あいつか…はは。」

 

 「?どうしたカ?」

 

 龍の言葉を聞き、思い出したかのようにアロービーチが笑いだす。急にどうしたのだろうと龍が不思議に思っていると。

 

 「ユグドラシルも狭いな…。まさかこんな近くに、あれほどの()()がいるとはよ。」

 

 アロービーチが語った言葉は龍の想像もしていなかった言葉であった。龍が驚きの余り目を見開く。

 

 「はぁ?あいつがカ?何かの間違いじゃないカ?」

 

 「()って見ない事には分からんがな…まぁでも、結構ヤバめな奴だぞ、アイツは。」

 

 「…勘カ?」

 

 「あぁ、勘だな。ちっこい頃から武道に明け暮れてるとな、何となく分かんだ…あ、コイツやべぇってな…それはここでも変わんねぇみたいだ。」

 

 龍とアロービーチとの会話を聞きながら、クシリンは目的地に向かい歩を進めていく。

 

 (はえ~、ねこちんそんな強いんッスかぁ。んあんんあん言ってるイメージしか沸かないッス。)

 

 「忍。」

 

 (まぁでも、ひかりっちが言うんならそうなんでしょうね。知らんかったッス。)

 

 「忍。」

 

 (おちょくるのやめようかなぁ。)

 

 「忍、忍…忍。」

 

 (そうそう、忍忍っス…ん?)

 

 二人の会話を聞きながら歩くクシリンの耳に、聞きなれた単語が届く。クシリンが振り向けばそこには印を結んだ忍者―――ギルバート・リーが立っていた。

 

 「…え?私…ッスか?」

 

 「忍忍、忍。」

 

 一緒に目的地に向かう人物、ギルバートがクシリンを呼び続ける。忍忍呼び続けたギルバートが、気づいたクシリンに対し喋り掛けた。

 

 「クシリン殿、あの者達は其方の知り合いか?」

 

 「う~ん?そうッスよ。それがどうかしたッスか?」

 

 「其方が外に知り合いを作るなど珍しいでござるな。こういうのも悪いでござるが、其方は簡単には腹の内を見せぬ方…それ程までに…()()()()()()()()なのでござるか?」

 

 「できる。」

 

 「ほう、即答でござるか。」

 

 ギルバートの問いに対してクシリンは即、答えを返していく。なんか色々失礼な事を言われた気もするが、実際自分はかなり慎重な方である。あながちギルバートの言う言葉も間違いではない。

 

 「あいつらは馬鹿だけど間違いなく信用は出来る。絶対に仲間を裏切ったりはしないわ。他の三人は良く知らないけど…それでもあの三人が選んだ仲間だもの、きっと同じくらい、真っ直ぐな連中よ。」

 

 「ほう…それはそれは…それとクシリン殿…口調が変わっておられるぞ。」

 

 「おっとぉ…ッス、ッス、ッス~♪」

 

 「其方がそこまで気を許す方達でござるか…ふふ…クシリン殿。あの方達を拙者に紹介しては下さらぬか?」

 

 その言葉を聞いた途端にクシリンの表情が険しくなっていく。

 

 「あら…ギル、何する気?事と次第によっては―――」

 

 「ふふ…心配するな、悪いようにはせんでござるよ。」

 

 「―――そう、信じるわよ。それで紹介してどうするの?」

 

 剣呑な雰囲気を醸し出したクシリンの言葉を、ギルバートはするりと躱していく。そしてニヤリと笑った。

 

 「少々頼みたい事があるでござるよ。それに()()()()()()()と思うでござるよ。忍忍。」

 

 「…およよ?頼み?」

 

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

 「ルビちゃん、ルビちゃん、どこいこっか?」

 

 「ん~、まぁどこでもいいけど、レアドロでも狙いにいく?」

 

 アロービーチとの邂逅の後に留置所に戻ったスルシャーナ達であったが、現在INしているのは炎火とルビアスの二人だけである。

 

 他の四人はどうやら用事があるらしく、現在ログアウト中だ。次にINして来るのは夕方になるのだと言う。

 

 火、火、火(ひひひ)~と笑い声を上げながら炎火がスキップを刻む。女子二人で出かける事など滅多にある事ではない。たまには同性だけで楽しくお出かけと言うのも乙な物だ。

 

 レアドロを狙う為に二人は狩りに出かけようと都市を出ようとする。楽しく喋りながら歩を進めていく二人の目の前には賭博場が見えてくる。都市の出口はすぐそこだと言いながら、二人が歩を進めていると。

 

 「どういう事よ!!信じられない!!」

 

 「おっ焔、焔、焔(ほほほ)~…およ?」

 

 「…なに?」

 

 都市を出ようとした二人であったが、大きな叫び声が聞こえてき、そちらに振り向いていく。

 

 そこには二人の男女の姿が見えた。

 

 「遊びだったっての!?信じらんない!」

 

 「ちゃうねん!ちゃうねん!話聞いてぇなぁ!」

 

 二人の男女が、賭博場の近くで大喧嘩をしている。痴話喧嘩か?と思った二人は一度顔を見合わせる。そしてニヤリと笑い、野次馬根性で近づいて行った。

 

 「何が違うのよ!」

 

 「あんなぁ、あんなぁ、そう言う事やなくてなぁ。」

 

 「そういう事ってなによ!浮気しといて!」

 

 二人の耳がぴくぴく動く。実際には動いてはいないがその様な雰囲気を醸し出している。二人の思った通り、これは痴話喧嘩の様だ。どうやら男の方が浮気をし、それに気づいた女が詰め寄っているのだろう。

 

 女の怒声を聞いた男の体がピクリと動いた。そして女を見つめ―――叫ぶ。

 

 「舐めるなぁぁぁぁ!!」

 

 男の凄まじい剣幕に、お次は女の体がビクっと動く。

 

 二人が目を細めながら男女を見つめる。表情が動くのであれば口元はにやけているであろう。ワクワクドキドキしながら二人は男女を見つめる。あれ程の剣幕で男は叫んだのだ。舐めるなと。続く言葉が気になってしょうがない。

 

 男が叫んだ後に、しばし間が空く。そしてもう一度叫ぶ。

 

 男が叫ぶ―――その言葉とは。

 

 「浮気やなぁぁぁい!!!」

 

 ((おおおおお!!!))

 

 「本気やぁぁぁ!!!」

 

 ((…はあぁぁぁいぃぃぃぃ?))

 

 男が叫んだその言葉は、それはそれは―――クズな言葉だったと言う。

 

 「俺を舐めるなぁぁぁ!そんな半端な気持ちでやっとりゃせん―――あべし!」

 

 男が言葉を言い終わる前に、女のグーパンが男の顔面に炸裂していく。見事に振り抜かれたその拳に、男が吹き飛ばされて行った。

 

 「死ねぇぇぇ!!このクズゥゥゥ!!」

 

 そう言葉を言い残し、女の姿は消えていく。恐らくはログアウトしていったのであろう。

 

 地面に倒れ伏す男を見つめる二人。その表情は動かない、なぜならここはユグドラシルであるからだ。

 

 もし仮に、ここが現実であり、二人の表情が分かる状況であったとしたなら、二人は軽蔑の眼差しを向け、ゴミを見る様な表情をしている事であろう。

 

 地面に倒れ伏した男がゆっくりと立ち上がる。ぱんぱんと服に着いたゴミを取り払う様な仕草をしながら。

 

 そして立ち上がった男がある場所を見つめる。

 

 そう―――賭博場だ。

 

 「ふぅ…酷い目にあったで。」

 

 ((酷いのはお前だろ!!))

 

 「…ん~…スロット打と。」

 

 その言葉の後、男は賭博場内部まで入って行った。

 

 「…やば…。」

 

 「…うん、やばいね。」

 

 「あのメガネ。」

 

 「あのハット。」

 

 二人の言葉がハモリ、男の特徴を言っていくが、どうやらポイントが違うようである。

 

 「え?あだ名付けるならハットじゃない?」

 

 「違うよルビちゃん、メガネでしょ。」

 

 「ん~、まぁそれでもいいけど。やばいなアイツ。まぁ、ある意味堂々としてるから感心するけどさ。」

 

 「ルビちゃん感心しちゃ駄目。もう行こ、時間盗られちゃった。」

 

 野次馬根性で見届けた痴話喧嘩であったが、とんでもない物を見てしまった。気づけば結構な時間が盗られてしまっている。

 

 気持ちを切り替え二人は出口に向かい歩を進めていく。

 

 その際、ルビアスが少し気になったのか、炎火に対して問いかけていった。

 

 「まぁでもさ、あんなクズ発言大声で叫べるんだし、ある意味あの男、うあっつい男なんじゃない?」

 

 「は?何言ってんの?全然熱くないでしょ、浮気してるんだし、寒すぎて鳥肌も立たないよ。」

 

 「ですよね。」

 

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

 ゴミクズハットメガネの奇行を目撃した後、気を取り直しムスペルヘイムの外れにある平原へとやって来た炎火とルビアスの二人。この平原には”麒麟”と呼ばれるモンスターがPOPする事で有名な場所だ。そして二人の目的も、無論この麒麟である。

 

 「ファイアー!」

 

 「うっさ…はい終わり。」

 

 炎火の修めるエンジュツシのスキルで放たれた炎の龍が麒麟を束縛した瞬間に、ルビアスが自慢の大剣で袈裟懸けに斬り込んでいく。

 

 斬りつけられた麒麟が小さな呻き声を上げながら力なく地面に倒れ込み―――消滅していった。

 

 「こい!こい!ファイアー!うっ()ぃ~、出ないね。」

 

 「仕方ないね、中々でないからレアなんだし。」

 

 二人が狙っているドロップ品はこの麒麟の頭に生える一本角である。中々に有能な素材アイテムであり、回復アイテム――それも高品質――の素材にもなり、バフ、デバフを与えるアイテムの素材から、武器、防具にも使用する事ができる。有能な素材であるが為に出現率はそれなりであり、レアドロに分類される。

 

 黙々と麒麟を倒し続ける二人であるが中々お目当ての素材は出ない。嫌気がさしてきたのではないかと思われる二人であるが、案外そうでもなかった。

 

 その理由は、麒麟は角以外にも旨味があるからだ、実はこのモンスターは討伐時には必ず”空のデータクリスタル”をドロップしていく。品質――データ量上限――は様々であるが、最低でもそれなりの品質の物である。

 

 データクリスタルとは、内包されたデータ―――耐性や能力、特殊効果などを既存の武器、防具、アクセサリーなどに組み込み、作成する為のアイテムである。

 

 簡単に言えば個人の一品を作る為に欠かせないアイテムである。

 

 例えばオリハルコンで鍛冶士に剣を一本作成して貰ったとする。ユグドラシルに置いてはオリハルコンは低級金属であり、大した剣は出来ないだろう、なまくら一本出来て終了である。

 

 切れ味、重量、耐久力、どれもなまくらに相応しい剣である、そこでデータクリスタルの出番である。例えばこの剣を長く使用したいと考えた時、空のデータクリスタルに耐久性の高い素材をデータに分解し、それをクリスタルに移し込む、そしてそれをなまくらに組み込む事によって、なまくらに相応しい切れ味と重量を持った”高耐久”の剣が出来上がると言う事だ。

 

 切れ味を上昇させたいのなら鋭利な素材を、重量を減少し手数を増やしたいならば軽い素材を、重量を上昇させ、重き一撃で相手の強靭をゴリゴリ削りたいのなら重い素材をデータ化し、クリスタルに移し込み組み込む。そうする事で自らに需要のあるアイテムや装備を作り出す事が可能なのである。

 

 このように、作成アイテムに特色を持たせる事が出来るのがデータクリスタルである。ならば最高級のデータクリスタルを持っていれば最高級のアイテムが作れるのかと言うとそれはNoだ。このゲームは―――ユグドラシルはその様な単純な物ではない。

 

 先程も言った様に、重量を上昇させ重き一撃に特化させた剣を作成したとしよう。重い剣を力任せに振るったとしよう、そうすればどうなるか―――そう剣に掛かる負担が増えるという事、剣に蓄積されるダメージが増えると言う事になる。剣の耐久力の減少が加速していき、幾ばくもせぬ内に剣は使用不可能になるであろう。軽くし手数を増やしたとしても同様だ、手数が増えれば剣の接触回数は増える、耐久の減少は加速していく。

 

 ならば耐久力をと思うだろう、しかしそれは出来ない。剣に内包できるデータ量が限られているからだ。

 

 オリハルコンで制作し、100のデータを内包できる剣には、100のデータを内包したクリスタルまでしか組み込めない。キャパオーバーと言う奴だ。

 

 その結果、均等に振り分ければ出来上がるのはちょっといいなまくらであるだろう、何かに秀でたいのであれば何かを捨てる―――ユグドラシルの常識だ。

 

 追加で説明をするのであれば、同じオリハルコンで作成した剣であっても、作成した鍛冶士の能力、スキルに比例する。作成時の環境も同様だ。簡易な作業台で剣を打った場合と最高級の工房で剣を打った場合とでは段違いと言う意味だ。

 

 同じ素材を使用した場合でも、初期能力も段違いであり、内包データ量にも大きな差が出てくる。こうなってくると最高の鍛冶士を抱え、最高級の工房を所持するギルドと留置所に居座るだけの小さなクランとでは露骨に差が開くだろう。一応ソロプレイヤーや小クランでも、報酬次第では作成を代行してくれる鍛冶士は沢山いる。無論素材はこちら持ちであるし、求められる報酬は莫大であるが。

 

 最高級の素材、最高級の鍛冶士、最高級の環境で作成された最高級のアイテムと言う器に最高級のデータクリスタルを組み込む事で出来上がる物。

 

 それが―――神話級(ゴッズ)アイテムである。

 

 その神話級(ゴッズ)アイテムですら完璧には程遠い。

 

 メリットとデメリットはこのユグドラシルには悠然と存在している。バランスを整える事は出来ても完璧な物を作る事は不可能だ。完全無欠などと言う言葉はこのユグドラシルには無い。

 

 素材、データクリスタル、鍛冶士、環境、そして途方もない数のクラス。その数の分存在する構成、スキル、そして種族。

 

 それら全てを組み合わせ、メリットとデメリットを天秤に掛けていく。

 

 そこに正解はない、プレイヤーの数だけ色が有る。

 

 だからこそユグドラシルは楽しい、完璧と言う物が存在しないから、誰もが特別になれるのだから。

 

 完璧、そんな物があれば、それは只の―――糞ゲーだ。

 

 「ファイアー!ファイアーファイアー!!」

 

 「もう…暑苦しいな…。」

 

 麒麟のPOPを発見した瞬間に炎火がスキルで爆炎を巻き上げる。もうかなりの数を討伐しているのであるが一本角はドロップしてはいない。確定ドロップ品のデータクリスタルだけを黙々と回収している。余り品質の良いクリスタルはドロップしてはいないが、空のクリスタルはいくつあっても問題はない。内包データ150の外装―――器に100のクリスタルを組み込んだ余りに、質の低い50のクリスタルを組み込んだりできるからだ。

 

 ちなみに、50、50、50、で組み込んでも悪くはないが、同じ効果のクリスタルは一つの外装に複数組み込む事は出来ない。特化させたいのであれば、結果的に高品質が必要になってくる。簡単には強くできない様になっている辺りは、ユグドラシルのあくどい所であり楽しい所だ。

 

 「つ~の♪つ~の♪ゲットしたらクリスタルに移して角付き兜に組み込むのよ!そして一角獣ビームでアラフを吹き飛ばしてやるわ!ファイアー!」

 

 「させねぇよ!!ふざけんな!!」

 

 「え~、なんで?最高にうあっつじゃない!」

 

 「うあっついじゃない、じゃねぇんだよ!そんな勿体ない事絶対許さないからね!素材もそうだし麒麟の角のデータ量なめないでよね!そんな高容量クリスタル使わせるか!」

 

 ルビアスの言う様に、クリスタルにデータ量が有る以上、素材アイテムにも当然データ量は存在している。麒麟の角はレア素材であり、データ量もそれなりだ、低品質クリスタルではキャパオーバーになり移し込む事が出来ない。

 

 貴重なアイテムをおふざけに使おうとしている炎火をルビアスが怒鳴りつける。自分達はたった六人しかいない小さなクランだ。持っているアイテム達は仲間達の努力の結晶であり気軽に使っていい物ではない。そんな事が許されるのは大手ギルドくらいの物だ。ルビアスが怒るのも無理はない。

 

 「え~、駄目~?」

 

 「え~、じゃない!ぶっ叩くよあんた!空は貴重なんだよ!固有クリスタルがドロップした時にやりなさい!」

 

 ルビアスの言う固有クリスタルとは、データを移し込む空のクリスタルとは違い、()()()()()()()()()()()()が内包されたクリスタルの事だ。

 

 一つ例をあげるのであれば、”火の巨人スルト”と言うボスモンスターが存在している。このスルトのドロップ品―――非常に低確率―――に”原初の火”や”深淵のかがり火”と言う物があり、これは素材アイテムではなく、火の巨人と呼ばれるスルト特有の能力や効果が内包されたデータクリスタルになる。

 

 固有と言う言葉の通り、この内包された効果は作成で再現する事は出来ない。スルトからのみドロップできる一点物だ。

 

 そしてこの様な一点物の固有クリスタルは一体のモンスターに複数の種類が存在する場合、シリーズと呼ばれたりもする。この場合は一つの外装や、装備全般に組み合わせる事により特殊な効果を生み出したりもする。

 

 最高級のメダリオンに、原初の火と深淵のかがり火を組み込む事により、通常では召喚する事が出来ない九十LVモンスターである”イフリート”を二十四時間に一度召喚できたり、――この場合はメダリオンに特殊な宝石が必要になる――武器、防具に原初の火を組み込む事により、スルト装備となり、シリーズボーナスが付与され、現状の能力より更に強力になったりする。

 

 レアドロップならではの強力な物が多いが、固有である以上、必要な用途がなければ無意味と言っても過言ではないだろう。結局は強力な外装が必要になる以上は、取りあえず作っとくかと言う結論にも至り辛い。

 

 色々と手間暇かかるが、それでもやはり、空のデータクリスタルの方が遥かに凡庸性は高いだろう。

 

 「じゃあその時は外装もよろしくぅ~♪」

 

 「自分で作れ!」

 

 炎火とルビアスが漫才を繰り広げていると、いい具合に麒麟の再沸きが始まった。

 

 下らない話を止め、さぁもう一狩とでも言う様にルビアスが麒麟に斬りかかろうとした―――その時。

 

 「ファイアフレェ~イム。」

 

 「はぁ?なに―――ギャアァァ!!」

 

 ルビアスの大剣が麒麟を切り裂こうとしたその刹那、ルビアスの周囲に火柱が迸る。爆音と共に天高くまで伸びた火柱に巻き込まれたルビアスが後方まで吹き飛んで行った。

 

 「ぎゃん!!ちょ、ちょっとなに!?」

 

 「だ、大丈夫ルビちゃん!?な、何なの!?このうあっつい炎は―――あ、あなたは!?」

 

 ルビアスを心配し声を掛けた炎火が即座に発火点に視線を移す。その視線の先には炎に焼かれ、悶える麒麟が光の粒子になり消滅していく姿が目に入ってきた。

 

 そしてその光の背後に見え隠れする異様な存在の姿も。

 

 辺り一面に飛び散った残り火は未だ鎮火せず揺ら揺らと発火点の周囲で燃え続ける。大小の火が揺ら揺らと、まるで陽炎が如く熱気が立ち上る中、その存在は立ち尽くしていた。

 

 その存在―――人物の出で立ちは奇怪な物であった。

 

 忍び装束の様にも見えるが、侍の装束にも見えなくもない。しかし着目するのはそこではない、異様なのは露出部分だ。

 

 装束の露出部全てが真っ白な包帯でぐるぐる巻きに覆われている。それは手や足、胸部に留まらない。その顔まで覆われている。

 

 正確に言えば顔全てが覆われている訳では無い。口と鼻、目の部分は開けている。そして頭まで覆われた包帯の隙間―――前髪や頭部の髪の毛がまばらに、申し訳程度に飛び出ている。

 

 その異様な人物を目にした炎火が叫ぶ。

 

 「シシォー!!」

 

 「…はぁ?師匠…?なにあれ、マミーじゃん。」

 

 「マミーじゃないよルビちゃん!それに師匠じゃないよ!シシォーだよ!」

 

 「いやいや、一緒じゃん。」

 

 「違うよ!最後伸ばすの!それと最後はオなの!う、じゃないの!」

 

 「ハァロォ~ウ、炎火。」

 

 「あぁ?挨拶の前に謝れよ。なにが…ハァロォ~ウ…だ!スカしてんじゃねぇぞ、うっぜぇなお前!つーかもうホント…私の周りは…一々英語で言うんじゃねぇよ!日本人なんだから日本語で言えば分かるっつうの!」

 

 「ソォ~リィ~。」

 

 「あぁ!あぁもう!だからぁ!あぁもう!きっしょいなぁもう!無駄に良い声なのがまた腹立つぅぅぅ!!」

 

 こちらの言葉を、まるで聞いてもいないかのような返答にゾワゾワした何かを感じ取ったルビアスが体中をまさぐりだす。

 

 自分の周りはいつもそうだ。もしかして自分はきしょいお馬鹿ホイホイなのかと軽く絶望感に見舞われた。

 

 「ルビちゃん、この人が―――」

 

 「イエェ~ス。」

 

 「だぁー!だからぁー!」

 

 「このユグドラシル一うあっついと言われる私と同等の熱さを持った人―――」

 

 「イエェ~ス、アイアァ~ム。」

 

 「あぁー!あぁもう!きめぇなぁ!」

 

 「”マコトシシォー”なんだよ!」

 

 「そうだ、俺がユグドラシル一熱い男、マコトシシォーだ。」

 

 「……英語で言えよぉぉぉぉ!!!」

 

 なんなんだよ!なんなんだよホント!そう叫びながらルビアスが盛大に地団駄を踏みだした。がっしりと握りこぶしを作ったルビアスがズシンズシンと地団駄を踏む。歯を食いしばりながら、右足で地面を踏み付ける。

 

 「ルビちゃんご乱心!ルビちゃんご乱心―――あっ!ちょ、ルビちゃん!」

 

 「んがぁ!!あぁん!?お次はなんだ!?ぶっ殺してやる!」

 

 騒ぎ続ける自分達の周囲に麒麟が群がっているのを炎火が気づく。少々騒ぎすぎてしまった様だ、盛大に麒麟にヘイトを買われてしまった。

 

 応戦しなければ袋叩きに合ってしまうと短刀を炎火が構えようとした時、マコトシシォーが言葉を発した。

 

 「まぁ待て、そこで見ていろ炎火、見る事もまた…ファイティングだ。」

 

 「シ、シシォー…その台詞…うあっつい。」

 

 「…あっ…あ、やば…なんか一周した…イラつき通り越したわよこれ…マジアイツ殺したい…。」

 

 怒りを通り越したルビアスが殺意に目覚めそうになったその瞬間、マコトシシォーの両の手から炎が吹き上がる。

 

 いや、これはもはや炎などと言う生易しい物ではない、獄炎だ。そして拭き上がる獄炎は両の手では収まらなかった。体中の至る所から獄炎が吹き上がっていく。

 

 そう、それはまるで―――発火している様に見えた。

 

 「シシォー!!シ☆シォー♪」

 

 「ち!うるせぇな!マジでぶっ叩くよあんた!!」

 

 二人のじゃれ合いを横目に―――マコトシシォーが右手を振るう。

 

 「シシォー☆シシォー☆ヒュゥー☆うあっついぃぃ♪」

 

 振るわれた右手から炎の竜が解き放たれのたうち回る。瞬く間に麒麟を業火に包んでいく。その圧倒的な光景を目にしたルビアス―――であったが。

 

 「カグヅチのスキルじゃない…このお馬鹿があそこまで熱い熱いって騒ぐからそうじゃないかと思ってたけど。」

 

 特に驚いてはいなかった。

 

 「シショー☆シショー☆マコトシショー☆」

 

 「えぇい、うっさいな。あんたと変わんないじゃない。」

 

 「シシォー☆シシォー☆マコトシシォー♪マ☆コ☆ト☆シ☆シ☆オ♪」

 

 「だからうっさい―――今なんかイントネーション違うくなかった!?」

 

 「シシォー♪」

 

 炎火のシシォーコールを背に受けたマコトシシォーが、気を良くしたのか更に派手に暴れ回る。しかし流石はカグヅチと言った所か、数の理をまるで物ともしていない。いや、元より多勢こそがカグヅチの真骨頂という事なのだろう。

 

 そして気持ちよく暴れていたマコトシシォーの動きが止まり―――ゆっくりと右手を正面に突き出した。

 

 「!!?シシォー!出すのね!”秘剣”を!」

 

 「はん…秘剣?だっさ。」

 

 右手を突き出すポーズをとったマコトシシォーに炎火が問いかける。

 

 秘剣を出すのかと。

 

 「シィ~クレェットソォォォォド。」

 

 「秘剣って言えや。何がシークレットソードよ。無駄に良い声だし…ていうかそっちの方がダサいからな。」

 

 ルビアスのツッコミなど聞く耳持たず、高速で右手を引っ込めたマコトシシォーが「アアアアアアア」と叫びながら空中迄飛び上がっていく。

 

 「…あぁ…あぁ…やばい…また一周しそう…。」

 

 右手なんだったんだ!?秘剣だろ!?なぜ飛ぶ!?剣術じゃねぇのか!?疑問が目まぐるしく脳内で渦を巻く。一度振り切ったルビアスの感情が驚異の二週目に入ってきた。走り去っていった怒りが全速力で戻ってきている。言うなれば、お帰りなさい怒髪天。

 

 「出るわよルビちゃん!!秘剣”マコト零式(ぜろしき)”!」

 

 「だからぁ…ダッセぇぇ―――」

 

 「マコトゼロスタァ~イル。」

 

 その言葉を聞いた途端、ルビアスの脳内に何やら、ただいまと言う声が聞こえたような気がした。

 

 「零式って言えよぉー!!!」

 

 お帰りなさい怒髪天―――ただいまルビガール。

 

 「オレノヒノキワミ(俺の火の極み)―――」

 

 「シシォー♪」

 

 「おい…待てって―――」

 

 ルビアスは呟く。頭を抱えながら。

 

 「――――アアアアア!」

 

 「ちょっと…待ってよ…それ…。」

 

 待てと呟く。なぜならそれは。

 

 「シシォー☆シシォー☆うあっついわぁぁぁ♪」

 

 「もぉう…やだぁ…もう…それ…。」

 

 そう、それは、その技は。

 

 「見るのよルビちゃん!秘剣!マコト零式!俺の火の極み!しかしその名は仮の名前!本当の!最高にうあっつい真名はぁぁぁ!」

 

 「それ…それ只の―――」

 

 「アアアアアアアア!」

 

 そう、シークレットソード・マコトゼロスタイル・オレノヒノキワミ。その技の本当の名は―――

 

 「火炎焱燚(かえんえんいつ)じゃない…。」

 

 その技の真実の名は―――火炎焱燚(かえんえんいつ)

 

 平原全てが覆われていく。

 

 全てが焼き払われていく。

 

 麒麟も、周囲のその他のモンスター達も皆。

 

 当然、ルビアスも。

 

 自らのHPゲージがゴリゴリと削れて行く様を死んだ目でルビアスは見つめる。ふと隣に目を向ければ、炎火はぴんぴんしている。なるほど、フレンド登録は済んでいる様だ、フレンドリィ・ファイアのお陰で今尚はしゃぎ続けている。

 

 (あぁ…もういいや…久しぶりに疲れたわ―――)

 

 「「ギャアァァァァァァ!!!」」

 

 (―――え?なに?)

 

 HPゲージが無くなるその瞬間、ルビアスの耳に悲鳴が飛び込んできた。しかし悲鳴と言っても微かに聞こえる程度だ。眉を顰めながらルビアスが悲鳴の方角を見渡すが特に何も見当たらない。やはり非常に遠い所の様だ。

 

 (他にプレイヤーでも居たんかな…残念だったわね…馬鹿二人が居たのが運の尽きだわ。)

 

 そしてルビアスのHPは尽き、消滅していった。

 

 ガランガランと装備の落ちる音を残して。

 

 誰も居なくなった平原に、二人のプレイヤーが向かい合わせに立っていた。

 

 その二人は、しばらく向かい合った後に一糸乱れぬタイミングで拳と拳をくっつけた。

 

 「「ナァ~イス…フレェ~イム。」」

 

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

 

 「災難だったね。」

 

 自分達がログアウトしている間の話を聞いたスルシャーナが、そう言ってルビアスを労わった。

 

 用事を済ませINしてきたと思ったら、とんでもない雰囲気をまき散らすルビアスに少々戸惑ったものだが。事の顛末を聞いた今では憐みの感情しか沸かない。むしろ自分はいなくて良かったと思ってるほどだ。

 

 「チッ…最悪…あのマミー今度会ったらケジメつけさせなきゃ。」

 

 「ル、ルビ姉こわ…。」

 

 「あんま派手に殺んなよ?ひっそりと殺れ…な?」

 

 あれから結構な時間が経っているだろうが、ルビアスの機嫌は直らない。不機嫌なルビアスに、スルシャーナ、アラフ、ガンジョウの三人が気まずそうにしていると。

 

 ##輝皇天使ねこにゃんがINしました##

 

 あかん奴がINしてきた。

 

 「チッ…いつ聞いてもダッセェ名前…。」

 

 「んあん。すまんな、遅くなったぜ、これがな―――んあん?炎火何してんだ?正座なんかして?」

 

 「反省のぉぉぉ!うあっつい正座の最中よぉぉぉ!」

 

 INして来るなり正座をしている炎火を、ねこにゃんが不思議そうに見つめ尋ねる。そして返ってきた言葉は反省だと言う。なんかやらかしたのかと思っていると。

 

 「…おい…誰が喋って良いっつったよ?」

 

 「()ぃぃぃ!すんませんっしたぁぁぁ!!」

 

 震える炎火を目にしながら、これはまた盛大になんかやらかしたなと思う。いかにねこにゃんと言えどもこの状況で茶々を入れる程馬鹿ではない。

 

 くわばらくわばらと、気まずそうにしている男性陣の輪に入る為に、部屋の中を進んで行く。

 

 すると。

 

 ##ピンポーン、ピンポーン##

 

 来訪者を告げるアナウンスが部屋中に鳴り響いた。

 

 「あぁ…うっさいなぁ…誰よ一体?」

 

 「あ!いいよいいよ、僕が出るから!ルビアスは座ってて、今日は疲れたでしょ?ははは…。」

 

 扉に向かおうとしたルビアスをスルシャーナが止めた。これほど機嫌の悪い彼女に応対させるのは余りにまずいと思ったからだ。もしかしなくても血の雨が降りそうな予感がした。

 

 スルシャーナに止められればルビアスも黙るしかない。機嫌の悪い彼女だが、気を使われている事くらいは分かるからだ。それもどの様な理由で気を使われているのかも。

 

 複雑な気分になりながらルビアスがドカッと椅子に座り直していく。これが現実なら間違いなくブスっとした顔をしている事だろう。

 

 素直に言う事を聞いてくれたルビアスを見ながらスルシャーナが安寧の吐息を漏らしていき、続いて部屋の入口まで歩きだす。

 

 (最悪のタイミングだな~。しかし誰だろう?クシリンかな?)

 

 疑問を抱えながらスルシャーナがゆっくりと扉を開けていく。

 

 そこに立っていた人物とは。

 

 「よっス!来ちゃったっス!」

 

 「やっぱりクシリンか。」

 

 想像通りの人物が目の前に立っていた。

 

 「お邪魔しますッスよぉ~。」

 

 「あ、ちょっと…はぁ…相変わらずズカズカくるね―――」

 

 いつも道理の彼女に対し、スルシャーナが一つ溜息をついく。その後気づく。なにやら見慣れぬ人物がいる事に。

 

 「忍。」

 

 「え?忍…?」

 

 「忍、忍。」

 

 「…いやぁ…二回言われましても…。」

 

 「あ!そうだった!紹介するッスよ、スルちん。この変なのは”ギルバート・リー”私の仲間ッス。」

 

 クシリンの言葉を聞き、部屋中に衝撃が走った。

 

 「は!?え…ちょ…え?」

 

 「んあん?マジかよ。」

 

 「モノホンかそいつ…?」

 

 「…冗談…よね?」

 

 「う()ゃ!?」

 

 「なぁなぁ、ぎるばーとりーって何だ?」

 

 メンバー達が驚愕に身を強張らせる。約一名は良く分かっていないようだが。

 

 そんな大物がこんな所に何の用だ、そもそも本物なのか、クシリンの悪戯か。色々な疑念が渦巻きメンバーが混乱しそうになっていく。

 

 「びっくりしたッス?言っとくけど本物ッスよ。正真正銘本人ッス。」

 

 「いや…急過ぎて…ていうかクシリン、仮にその人が本物だったとして、ここに連れてくる理由はなんなんだい?」

 

 「ん~。何かギルが話したい事があるから紹介してくれって言うからッスね~。ねぇギル。」

 

 「は、話…?」

 

 クシリンにそう言われたギルバートが一歩前に歩み出る。そして戸惑うスルシャーナ達に向かい、静かに語り出した。

 

 「忍。お初にお目にかかる。拙者、ギルバート・リーと申すでござるよ。単刀直入に言うでござる。少々()()()()()があるでござるよ。忍、忍。」

 

 この様な大物が―――ギルバート・リーともあろう者が、自分達如き小さなクランに頼み事があると言う。

 

 スルシャーナは益々意味が分からなくなる。その頼みとは一体どんな物なのか。少々とは言っているが、安請け合いしていい代物なのか。

 

 余りに唐突な話題にスルシャーナが思考していると。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「んあん。良いぞ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 → To Be continued...

 

 





 マコトシシォーお金かえしてぇな!

 どうもちひろです(ΦωΦ)

 ユグドラシル関連でお話を作ると決めた時、アイテムの制作方法をかなり悩みました。
 データクリスタルを組み込み、装備品を作るのは原作と一緒ですが、もっと自由度を上げたいと考えたからです。
 そこで考えた苦肉の策が空のデータクリスタルです。
 原作ではこんな物多分なかったと思います。
 と言うか、データクリスタル系統の説明もそれ程詳しくはされてはいなかったんじゃないでしょうか?
 ドロップ品の決められた能力値、特殊能力が付与されたデータクリスタルだけでなく、もっと微調整できて、ニーズに合ったものを作れる様に空と言う任意でデータを内容できるクリスタルを考えて見ました。
 これにより自由度は原作より上がったと思います。
 それと同時に作成難易度も原作よりも上がったと思ってます。
 帳尻としてはいい塩梅ではないでしょうか?
 それと、もう一つは、作成者、作成に用いるクラフト用具でも露骨に差がひろがる様に調整しています。
 その辺の普通のプレイヤーが作成した物と、あまのまが作成した物とでは、同じ素材でも、能力値がまるで違う物となるという事です。
 そしてあまのまと同格のクラフターが作成したとしても、アインズ・ウール・ゴウンの誇る超一級のクラフト工房ではまた仕上がりに大きな差がひらきます。
 こうやって、プレイヤーだけでなく、道具によっても差がひらく様にすることで、大きな拠点を持つメリットと、ギルドの保有する財力によって、多プレイヤー達と作成アイテム一つとっても明確な力関係ができる様にしたかったんです。
 その力は当然の如くアンティリーネさんに振るってもらいます。
 主にユグドラシルではなく、異世界で…ですが。
 
 長いお話を読んでくれてありがとうございます。
 中々に古いネタをぶち込めて、ちひろは大満足です。
 エルデンリングのDLCが出てしまった…獅子舞の時点で結構ヤバいです…レベル120じゃ無理っぽいですね、既に10回くらい、クソゲー!と叫びました。
 執筆に影響がでそうですが…頑張って執筆します! 
 それでは!シュバ!
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