あんてぃりーねのゆぐどらしる☆だい☆ぼう☆けん☆ ~泣き虫が伝説になるまで~   作:だいだろすちひろ

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 前回のあらすじ

 宇宙海賊みたいな人、出オチに使われてしまう。


大妖怪よだれジジイ現る/ExtraEpisodeⅡ

 

 

 

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

 

 ―――カラン、カラン。

 

 砕け散ったスケリトル・ドラゴンの骨の音が無情に響く。

 

 辺りに散らばった骨を無言で見つめながら、リーネの額から、つぅーと、一つ汗が流れた。

 

 そして、唖然としている死者の大魔法使い(エルダー・リッチ)と視線が合う。

 

 「…い、いやぁ~…なんか体を形成するのが限界だったみたい…急に爆発しちゃった…ははは。」

 

 「嘘をつけ!嘘を!お主がやったんじゃろ!?」

 

 当然のツッコミが返って来る。苦し紛れにした言い訳にしても、それはちょっと苦しすぎるだろと言いたくなる。

 

 「違う!違うの!殺すつもりは無かったの!ちょっと小突いちゃっただけなの!」

 

 冷汗を垂らしながら、必死に言い訳を重ねていく。先程言った、ちょっと小突いたと言う言葉は嘘ではない。しかし、相手が悪かった、それはリーネが強いと言う事もあるが、スケリトル・ドラゴンにも関係してくる―――相性も悪かったのだ。

 

 スケリトル・ドラゴンはスケルトンの特性を持つ、つまりは、殴打系統の攻撃に対し非常に脆い。リーネは小突いたと言っているが、正確には”鉄槌”の要領で拳をぶつけていった、それすなわち、殴打だ。

 

 そして上手い具合に、その殴打が、スケリトル・ドラゴンの急所にピンポイントにヒットしていった。つまりは、ゲーム風に言えば、クリティカル判定を取っていったという事だ。

 

 リーネ+弱点+クリティカル=爆散である。

 

 必死に言い訳をするリーネの姿を見ながら、ふるふると首を横に振った後、死者の大魔法使い(エルダー・リッチ)は口を開く。そして、吐き出された言葉には、諦めが混じっている様に感じられた。

 

 「ふぅ…もういい…この仮初の命も、長い事さまよった物じゃ…ここいらで潮時かの。深淵を覗けなかったのが、ちと心残りじゃが…お主程の者に消されるのなら諦めも着くという物…。」

 

 なにやら急に自己完結していく死者の大魔法使い(エルダー・リッチ)が、両手を広げだす。

 

 「さぁ、やるがよい…なぁに、逃げはせん…逃げれるとは思えないからのぉ。」

 

 ―――ヒュゥゥゥ。

 

 カッツェ平野に風が流れる音が響いた。

 

 無言で固まる両者の耳に、その音は非常に大きく聞こえてくる。

 

 風が言っているのだ、急にどうしたお前?と。

 

 「え、えっとぉ~…状況が理解できないんだけど…。」

 

 「どうした、早く殺すがいい。お主は儂を殺す為に人間共が送り込んできた刺客じゃろう?長くさまよった、お主程の強者に殺されるならば悔いはない。地獄で自慢できようて。」

 

 「殺さないよ?」

 

 「―――え?」

 

 「―――え?」

 

 ―――ヒュゥゥゥ。

 

 無言で固まる両者の耳に、流れる風の音が聞こえてくる。

 

 それはそれは、非常に大きく聞こえたそうだ。

 

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

 

 「気分はどう?」

 

 「あぁ…普段に戻ったみたいじゃな。」

 

 邂逅からの即座に始まった勘違いを正す為に、話し合いを始めた両者が、言葉を交わす。

 

 どうやら、この死者の大魔法使い(エルダー・リッチ)の名前は、グラギオス・グランソンと言う名だそうだ。その名は、つい先ほど出会った海賊船の船長である、バーロックが言っていた余所者の名前だ。やはりこの死者の大魔法使い(エルダー・リッチ)がその余所者だったのかと思うと同時に、どの様な理由でここ、カッツェ平野に来たのかと理由を追求していった。

 

 グラギオスが語った理由は―――魔法の知識を求める為。

 

 大陸中央部を渡り歩いたグラギオスは、大陸中央部に見切りを付け、遥か南にある大国へと向かう最中であったと言う。

 

 その国は、様々な種族が住んでおり、もしかしたらアンデッドでも受け入れて貰えるかも知れないと思った様だ。なんでも、その国の王様―――桜帝(おうてい)と呼ばれる人物は、()()魔法に精通する人物なのだと言う。

 

 服従を差し出し、その魔法の知識と、研究できる環境を得られればと、一縷の望みをかけ、南に向かう最中だったが、このカッツェ平野にて、人間の軍に遭遇し、討伐対象になってしまった事を語った。

 

 求めるは魔法の深淵。それ以外に興味はなく、人間に対する憎悪など欠片もないと言い張るグラギオスの言葉を、リーネは信じ―――てはいなかった。

 

 正確には、完全に信用はしてはいなかったと言う事になるだろう。

 

 グラギオスは人間の軍を一度襲っている。襲っていると言う言葉は少し違うかも知れないが、人間側に死者が出たのは事実だ。それなのに、グラギオスの言葉だけで信用する程、リーネは馬鹿ではない。口八丁で騙されているかも知れないからだ。戦闘をした際に、魔法を明らかに外して、傷つかない様に配慮してきたバーロックとは違う。こいつはまだ未知の存在だ。

 

 ”お前は甘ちゃんだからな、物事を決めるのを早まるな”、オラサーダルクに良く言われる言葉が脳裏に過ったリーネはある行動を取っていった。

 

 それは―――尋問だ。

 

 ”完全なる狂騒”と言う名のアイテムがある。普通なら精神攻撃を無効化するアンデッドにも、精神攻撃を効くようにできるアイテムだ。

 

 完全なる狂騒を使用し、支配(ドミネイト)の魔法をアイテムで発動させたリーネ尋問官による尋問の末、グラギオスの言葉が嘘ではない事が発覚していった。

 

 しかし、この完全なる狂騒と言うアイテムは非常に恐ろしいアイテムだとリーネは思った。使用した際、グラギオスが急にテンション爆上りで、超超超、良い感じ、超超超超いい感じと叫びながら、手裏剣をシュッシュッするポーズを取った時は流石にドン引きした物だ。

 

 完全なる狂騒の効果が完全に切れたグラギオスに、リーネはぺこりと頭をさげ、謝罪していく。疑って悪かったと言う意味だ。しょうがない事とはいえ、心が痛む。

 

 そんなリーネに、グラギオスは気にしてはいないと言葉を返す。中々に器量の大きいアンデッドの様だ。

 

 「ていうか、こんな危険を冒してまで、知識って欲しい物なの?」

 

 「当然じゃ、儂にとっては、魔法の知識だけが宝。大陸の中央部には、その宝がゴロゴロ眠っておった筈じゃが、見つける事は叶わなんだ、口惜しい。せめて”精霊の都”くらいは見つけ出したかったものじゃ。」

 

 「精霊の都?」

 

 投げかけた疑問に対し、返ってきた言葉の中に、なにやら気になる単語が混じる。明らかに興味がありそうなリーネの雰囲気を感じ取ったグラギオスが、その精霊の都について語り出した。

 

 「儂もそれ程詳しい情報は持ってはおらんが、大陸中央部にあるのだ、精霊達の住まう都が。そこは強力な幻術の結界で守られていて、視認する事は出来んと聞く。そこに住まう精霊達の長―――”炎の大精霊”は常軌を逸した大魔法を行使すると聞いた事がある。」

 

 「炎の大精霊…なんかカッコいいわね。」

 

 「そうじゃろうか?エルフの美的感覚は儂には分からんが、お主がそう思うのならそうなのじゃろうな。炎の大精霊がその身を最後に露わにしたのは”魔神戦争”の時と言われておる。つまりは、あの魔神戦争すら生き抜いた超常の存在という事になるの。」

 

 魔神―――百年程前に大陸中を荒らしまわった超常の存在達の名称だ。

 

 滅ぼされた国家は数知れず、それは、この周辺国家も例外ではない、法国が存在しなければ、間違いなく、この周辺は更地になっていただろう。

 

 十三英雄と呼ばれる者達が、長い旅路の末に、魔神を駆逐したと言われている。しかし、それは表向きの話であって、中には、完全に殺し切れず、封印された者や、自ら眠りに付き、傷を癒しながら、虎視眈々と復活の時を待っている存在達も居ると母から聞いた事がある。

 

 いずれにせよ、超常の力を持つ存在、それが魔神だ。そんな存在とぶつかって、今尚存在している事を考えれば、確かに大精霊と呼ばれるのも頷けるという物だ。

 

 自分の知らない世界―――未知に対して、非常に好奇心を燻ぶられる。冒険心が沸き上がってくる。どうやら自分は、どこまでいってもユグドラシルプレイヤーの様だ。

 

 言葉を淡々と語るグラギオスが、少し悔しそうな、寂しそうな雰囲気を纏ったのを感じ取った。結局は見つける事が出来なかった。求める知識に辿り着けなかった事が悔しく、どうしようもなく悲しいのだろう。

 

 なんか可哀そうだなと思ったリーネが、グラギオスにある言葉を―――提案を投げ掛けた。

 

 「ねぇ、魔法の知識さえあれば、人間を襲ったりはしないんだよね?」

 

 「…ん?そうじゃな、それは無いと言い切れるぞ。」

 

 「じゃあさ、あげるよ、その知識。その代わりに…ちょっと頼みたい事があるんだ。」

 

 「は?お主は一体何を―――」

 

 グラギオスが言葉を言いきるよりも僅かに早く、リーネは魔導書を取り出した。そして、その魔導書を、グラギオスに手渡していく。

 

 「これは…。」

 

 「魔法の本。これは”第七位階”の本かな。」

 

 「――~~~!!」

 

 手渡された本に対し疑問を口にする、そして返ってきた言葉を聞いたグラギオスの体に衝撃が走る。それもその筈だ、手に取った魔導書は第七位階の魔導書なのだから。

 

 第七位階、それは―――神話の魔法だ。

 

 恥を惜しむことなく、グラギオスは魔導書を即座に捲り、内容を確認していく。

 

 そして。

 

 「よ、読めん!!」

 

 どうやら読めなかった様だ。

 

 その言葉を聞き、リーネは思い出す。本の内容は日本語で記されていたと。テヘペロと言う様な表情を浮かべたリーネが、自らが掛けている眼鏡を外し、グラギオスに手渡していく。

 

 眼鏡を掛けたグラギオスが、魔導書を捲っていく。

 

 「おぉ…おぉ…何という事じゃ…この様な魔法がこの世に存在しているとは…。これがこの魔法の理論なのか…こうやって魔力が練られ、形成されていくのか。」

 

 感動を隠そうともしないグラギオスを見つめ、脳裏に浮かぶ言葉があった。

 

 理解できている、魔法を、その理を。自分の勘は間違っていなかったと思ったリーネが、グラギオスに更に言葉を発する。

 

 ここからが、提案―――プレゼンなのだから。

 

 「うおっほん…その様な魔導書は、()()()()()()。位階もそれが上限ではありません、私は”()()()()”までの魔導書を持っております。つまりは、()()()()()()()()()()()()という事です。」

 

 「だ、第十位階…そんな馬鹿な…その様な領域があると…本当なのか…いや、なのですか。」

 

 「その通りです。そして、私は先程、貴方に提供できると言いましたが、それは、その様な魔導書だけではありません。魔法を研究できる環境、それも最高峰の環境を提供する事が出来ます。誰にも邪魔をされず、誰からも害されない、魔法の知識だけを求めれる空間を貴方に提供できます。」

 

 グラギオスが固まる、絶句しているのだ。自らが求めた全てがそこにはあり、それら全てを提供できると目の前にいる存在が言うのだから無理もないだろう。

 

 リーネは心の中で笑う。反応は上々、少し良すぎる気もするが、悪い方向には転がってはいない。

 

 ふぅっと心の中で一つ溜息を吐いていく。ここからが本番だ、ここから先が、リーネの求める物なのだから。少し気が重くなる、気分を害されないかドキドキしながらも、プレゼンの本題に入って行った。

 

 「仮に貴方が私の提供を受けたいのであれば…一つ条件があります。」

 

 「――~~~!!なんじゃ、何なのですか!?その条件とは!?」

 

 おっふ。余りの剣幕に少し引きながらも、その条件を口にしていった。

 

 「それは…私の提供により、貴方が得る事が出来た魔法の知識と…研究の成果をこちらに頂きたい…ある者に提供して貰いたいんです。」

 

 ―――ゴクリ。

 

 一つ心の中で息をのむ。知識とは力であり、財産だ。研究結果ともなれば、その者にとっては何より大事な宝となるだろう。個人が努力の末に手に入れた結晶を、仮に環境を提供した立場の者であっても軽々しく貰っていい筈もない。価値が余りにも釣り合わないとすら思える。

 

 ドキドキドキと心臓の鼓動が早まる。この間は非常に嫌だ、早く答えが欲しいと思う。ふざけるな!と言われ、プレゼンがご破算になる様なマイナスの思考だけが渦を巻いていく。モモンガは凄い、この様な緊張感をいつも耐えているのだから。

 

 しばし、続いた静寂を破る様に、グラギオスから返答が返って来る。

 

 「…そ、その様な物だけで良いのですか?たったそれだけで…。」

 

 「―――は?」

 

 たったそれだけでと言われたリーネが間の抜けた声を出した。

 

 想像していた言葉と違う。承諾を得れたとしても、ギリギリの攻防になると踏んでいたからだ。

 

 「い、いや…それだけって…良いんですか?貰っちゃって…貴方の研究成果ですよ?」

 

 「何を言いますか!貴女の提供が無ければ、そもそもその研究すら出来はしない!儂は魔法の深淵を覗きたいだけ!それが出来るのなら喜んで差し上げますぞ!!」

 

 そうなの?少々頭が混乱してきた、どうらやグラギオスにとっては、この様な条件は大した物ではないらしい。

 

 頭を数回振ったリーネが、気を取り直し、プレゼンを行っていく。ここまでくれば成功した様な物だ、後は詰める所を詰めながら、話を進めていくだけである。

 

 そしてプレゼンは終了する―――成功と言う形で。

 

 「という事で、トブの大森林に今仮の拠点があるから、そこに向かって欲しいの。そのアイテムを使えば一発で飛べるから、ハムスケ…仲間には連絡入れとくから心配しないで。」

 

 「本当に、感謝を…お名前を教えていただけませんか?」

 

 その言葉に対し、迷わず答えていく。

 

 「アンティリーネ。私はアンティリーネ・ヘラン・フーシェ。グラギオス、私からもう一つ条件を追加するわよ。」

 

 「なんなりと、アンティリーネ様。」

 

 「それだよそれ。私と…いや、私達は対等よ。まぁ、私は軍団の頭だしその辺はちょっと難しいけど…私達は対等、これからは敬語も禁止!」

 

 グラギオスが口元を覆う。なにやら考えている様だ。そんなに難しい事は言ってはいない様な気もするが、彼の中でも葛藤があるのだろう。

 

 しばし考えた後、口元を覆っていた手を離したグラギオスが言葉を発した。

 

 「分かった。そうする事にするぞ、アンティリーネ。しかし、これだけは言わせてほしい。ありがとう。」

 

 「いんやぁ~、まだ完全には環境を提供できてないからお礼言われるとむず痒いのよね。待っててね、いつかすんごい研究施設作ってあげるから!それと魔導書だけど、それ以上の位階はまた今度ね。」

 

 グラギオスの手には三冊の魔導書が握られていた。

 

 第五位階が二冊と、第六位階が一冊。当面はこれで十分だと言う。

 

 「あぁ、十分じゃ。余り儂を買い被り過ぎるなよ?解読には時間が掛かるかも知れんぞ?」

 

 「それならそれで良いんじゃない?時間はいくらでもあるでしょ、あんたは。」

 

 「ふふふ、お互い様じゃがな。」

 

 軽い談笑を済ませ、アイテムを起動させたグラギオスは、トブの大森林へと転移していった。

 

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

 

 

 

 グラギオスと別れたリーネは、今尚このカッツェ平野に居た。プレゼンとか言うなれない事をした所為で非常に疲れた。

 

 休憩がてら、グラギオスに渡した魔導書と同じ物――こちらは第七位階だが――を、気晴らしにリーネはパラパラ捲っていく。

 

 「やっぱ分かんないな~。なんで理解できるの?意味不明なんですけど。」

 

 パラパラと魔導書を捲り、次の魔導書に手を伸ばす。そこには、オラサーダルクの為にナザリックから持ってきた魔導書が山の様に積まれていた。

 

 どれか一冊でも、自分でも理解できる物はないかとパラパラと魔導書を捲っていると。

 

 「何者じゃ。」

 

 「ん?」

 

 後ろから声が聞こえてくる。この爺さん口調はグラギオスかと思いながら、振り向きもせずに言葉を返していく。

 

 しかし、妙な違和感もあった。声が何やら違う様な気もしたが、気にせず言葉を返す。

 

 「なに~?()()()()()()()はまた今度って話だったでしょ~?やっぱ()()()()()が欲しくなったの?」

 

 「魔導書…じゃと?」

 

 やはり何か変だ、会話が成立しない。先程からあった妙な違和感も後押しし、魔導書を呼んでいたリーネが振り向けば、そこには、真っ白な長い髭を生やした、老人の姿があった。

 

 「…いや、誰?」

 

 「それはこっちの台詞じゃがのう。」

 

 「フールーダ様、こやつエルフです!あの長い耳が何よりの証拠、おい、エルフの娘、この様な場所で何をしている!」

 

 フールーダと呼ばれる老人のそばに居た三人の若い男性の内、一人がこちらに向かい喋り掛けて来た。ローブを纏っている所を見れば、恐らくは魔法詠唱者だろうか。

 

 高圧的な態度に少しムッと来たが、問われた質問に対し、答えを投げ返していく。

 

 「観光。」

 

 「嘘をつけ!嘘を!」

 

 まただ、また怒鳴られた。毎回毎回怒鳴りやがって、ぶっ飛ばすぞお前らと思っていると。

 

 「よすのだお前達。弟子がすまぬの、儂はフールーダと言う。」

 

 「そうなんだ。私はアサギリ。」

 

 名乗ってきた相手に名乗り返せば、ほう、と何やらフールーダが驚いている。

 

 「儂の名を聞いて驚かぬとは、アサギリよ、この辺りのエルフではないな。」

 

 「まぁね、旅してるから。」

 

 飯屋の店主と会話した際に作ったキャラ設定がここで役に立っていく。すらすら言えたのはその設定のお陰だ。

 

 「ほう、旅とな。それはまた酔狂な。時にお主、先程魔導書とか言っておったな。それがその魔導書か?」

 

 フールーダが指さす先には、大量の魔導書が積まれている。ゆっくりと魔導書の前まで足を運んだフールーダがその魔導書の一つを手に取っていく。

 

 そしてパラパラと捲りだした。

 

 「なんじゃこれは…読めぬぞ。」

 

 魔導書に目を通したフールーダが、そう言葉を溢した。それはその筈だ、なぜならその文字は日本語なのだから。

 

 「あぁ、この眼鏡がないと読めないわよ。」

 

 リーネは自らの掛けた眼鏡を指さす。そうすれば、フールーダはその眼鏡を「貸せ」と言いながら、奪い取り、眼鏡を掛けた後に魔導書に目を通していく。

 

 なんじゃこの失礼な爺はと思っていると、先程高圧的な態度を取ってきた男性が、また喋り掛けてくる。

 

 「おい、アサギリと言ったな。ここには強大なアンデッドである死者の大魔法使い(エルダー・リッチ)が今徘徊している。命が惜しければ即刻立ち去れ。」

 

 恐らくはグラギオスの事だろう。そう考えれば、恐らくはこの者達は、グラギオス討伐に向けカッツェ平野にやって来た魔法詠唱者達だろうか。

 

 グラギオスはもうここには居ないが、バーロックの件もある。勘違いでバーロックが攻撃されては可哀そうだと思い、嘘の内容を伝えていく。

 

 「あぁ、その死者の大魔法使い(エルダー・リッチ)はもう退治したわよ。」

 

 「嘘をつけ!嘘を!先程から聞いていれば、口から出る言葉はでまかせばかり、エルフとはここまで不快な生き物だったか!」

 

 「いや、嘘じゃない―――」

 

 「なんじゃあぁぁぁこれはぁぁぁ!」

 

 急な大声にビクゥッと肩が浮いていく。目の前の男性もそうだ、急な事に驚きを隠せないでいる。

 

 恐る恐る声の発生源―――フールーダの方に振り向いていく。

 

 そしてそこには―――妖怪がいた。

 

 「はぁ、はぁ…だ、第七位階…これは第七位階の魔導書…なんじゃ…なんじゃぁぁぁこれはぁぁぁ!」

 

 ―――ギュルン。

 

 フールーダの首が高速でこちらに向いていく。「その細い首折れちゃうよ!」と言いそうになったが、言葉は出なかった。余りの気迫に圧倒されたからだ。

 

 「アサギリ!この魔導書をどこで手に入れた!そこにある魔導書も同じ物なのか!!」

 

 「ひぇ!あ…いや…その…。」

 

 「早く答えんかぁぁぁ!!」

 

 余りの剣幕に言葉が上手く出ない。そうこうしていると、フールーダ―――妖怪ジジイがこちらを睨みつけてくる。

 

 ジリジリと妖怪がこちらに歩み寄ってくる。その目は先程とは全く違う、真っ赤に充血し、瞳孔が開いている。

 

 余りの剣幕にパニックに陥ったリーネが、手元の近くにあった魔導書を投げつけていった。

 

 「ひぃ!来ないで!」

 

 ―――ゴン。

 

 凄い勢いで投げつけられた魔導書が、フールーダに当たり、フールーダが吹き飛んで行く。軽く投げたつもりだったが、どうやら恐怖で上手く力を制御できなかった様だ。

 

 吹き飛んだ先で、フールーダが倒れ込む、ピクピクと腕を振るわせながらも、投げつけられた魔導書をその手に取り、パラパラと捲っていく。

 

 魔導書はどうやら顔に当たってしまった様だ、ボタボタ鼻血を垂らしながらも、魔導書を捲る手を止めない。

 

 そして、魔導書を捲っていたフールーダの口元がニヤリと三日月を描いたかと思えば―――大声で笑いだした。

 

 「ははは…はあーはっはぁ!!これは第八位階!第八位階ぃぃぃ!!ウゥアサギリィィまだあるのかぁぁ…これ以上の位階は今度と言っていたなぁぁ…。」

 

 ―――ズルズル。

 

 倒れ込みながらも、その身を引きずりながら、フールーダがこちらまで着々と進んでいる。その目は先程よりも血走り、大きく開けた口からは涎がまき散らされる。その涎が、鼻血と混じりあい、恐怖を倍増させてくる。

 

 「ひ、ひぃ!来ないで!来ないで!」

 

 手元にある魔導書を投げつけ続ける。ガン、ガンと顔面に魔導書を食らいながらも、フールーダがは投げつけられた魔導書に目を通す――そしてまた笑いだす。

 

 「ひっひひひぃぃ!これも第八位階!素晴らしい!素晴らしいぃぃぃ!もっとだぁぁもっとあるのだろう!儂に授けてくれ…魔法の深淵をぉぉぉ!」

 

 ガクガク、ブルブル。手足が笑う。余りの恐怖にもう言葉が出ない。ジワリと少し股間辺りが湿る感触があったが、最早そんな物気にする余裕はない。

 

 震える手をどうにか突き上げ、リーネは叫んだ。

 

 「ググググ、上位転移(グレーター・テレポーテーション)!!」

 

 間一髪、転移の指輪の効果を発動させたリーネがその場から姿を消していく。

 

 リーネが姿を消したその場には、詰まれた魔導書を抱きかかえながら、笑い続ける大妖怪の姿があったと言う。

 

 

 

 

 

 

       アンティリーネの大冒険 

  

       ―――Mission②―――

       ―――Complete―――

    ―――平野の大妖怪を見つけた――― 

 

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

 目を閉じながらも、響く言葉に耳を澄ませながら、オラサーダルクはその大きな体を巻き蹲っている。

 

 あけみ達と楽しそうにはしゃぐアオの声を聞いていると、何やら心が休まっていく気がした。

 

 いつからだろうか、この様な感情を抱きだしたのは。休まる声を聞きながら、オラサーダルクが深い眠りに落ちそうになった―――その時。

 

 ―――ゴン。

 

 頭上から何かが降ってき、盛大にオラサーダルクの頭に直撃していった。

 

 「ぬお!!な、なんだ!?」

 

 「はぁ、はぁ、はぁ。ヤバい…ヤバい奴がいた!」

 

 転移してきたリーネが盛大にオラサーダルクの頭に落ちてくる。途轍もない恐怖だったのだろう。未だ息を荒げている。

 

 ぶつかってきた対象を確認したオラサーダルクが目を見開き怒り狂う。

 

 「な、なにしやがる!テ、テメェ!!?」

 

 「はぁ、はぁ…ダルク!ヤ、ヤバい奴がいた!!」

 

 「ヤバいのは貴様だぁぁぁ!!!」

 

 「ボケナスがぁぁぁ!!」と叫びながら、怒り狂ったオラサーダルクがブレスを吐き散らしながら暴れ出す。その光景を見つめながら、アオがキャッキャと言いながら可愛く笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 ―――ExtraEpisodeⅡ ”魔法”―――

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

 

 「―――という事が昔あったんじゃ。」

 

 「爺、それは何度も聞いた。」

 

 バハルス帝国の首都―――帝都アーウィンタール。

 

 帝都に聳える、豪華な居城の一室―――皇帝の間にて、二人の人物が会話を行っていた。

 

 一人は金髪をなびかせる美青年であり、このバハルス帝国の皇帝である”ジルクニフ・ファーン・ロード・エルニクス”。

 

 そしてもう一人は、大陸に片手で数える程しか存在しない、逸脱者と呼ばれし、大魔法使い―――三重魔法詠唱者(トライアッド)フールーダ・パラダインである。

 

 真っ白な長い髭をファサファサと触りながら、フールーダが笑い声を出す。

 

 その笑い声を聞き、ジルクニフは一つ溜息を漏らす。この話は何度聞いたか分からない。暇があればいつも聞かされる話であり、文字通り耳にタコが出来そうな程だ。

 

 赤い髪のエルフ―――アサギリ。

 

 フールーダが今尚捜索を続けている人物であり、このバハルス帝国に大きな恩恵を齎した人物でもある。

 

 百年ほど前のアサギリとの邂逅の際に手に入れた魔導書達―――帝国の秘宝とも呼ばれる魔導書達は、フールーダの魔法の幅と質を大きく上昇させた。それに伴い、様々な魔法がフールーダの手により、この百年間で生み出されて行ったからだ。

 

 今では、帝国が誇る魔法省は周辺国家の追随を許さない。魔法と言う部門だけであれば、あのスレイン法国さえも上回っていると自負する程だ。

 

 齎された恩恵は、今尚膨れ上がっている。帝国魔法省の研究により、あの魔導書から様々な派生魔法が誕生し続けているからだ。

 

 ファサファサと髭を触りながら、フールーダが口を開く。

 

 「しかし、口惜しい物だ…未だ”第六位階”の先には進めなんだ…。ここが儂の限界なのか…。」

 

 この言葉も耳にタコができる程に聞いた。なぜなら、アサギリの昔話の後には、この言葉が必ずついてくるからだ。

 

 秘宝たる魔導書を手にして百年経つ今でも、フールーダは未だ第六位階の先に到達する事は出来てはいない。様々な魔法は生み出してきたが、それだけだ。位階は未だ進みはしてはいない。

 

 だからこそ、フールーダはアサギリを求め、この百年間、帝国の力を使い、捜索を進めている。帝国としても、アサギリの手によって、フールーダが第六位階の先に進めるのであれば、これ程の利益はない。全ての費用などおつりがくるだろう。故に探索を進めているが、現状なんの成果も得られてはいない。

 

 (本当に存在するのか?)

 

 ジルクニフがそう思うのも無理はないだろう。国家単位で捜索を続けて、今尚、その影さえ掴めない。疑問に思うのも当然だろうが、証拠があるのもまた事実である―――魔導書と言う証拠が。

 

 秘宝たる魔導書、特にその内の十冊は非常に価値が高い。第七位階が五冊、第八位階が五冊―――この計十冊は、バハルス帝国のどの様な物品より価値のある物だ。

 

 「陛下、引き続き、アサギリの捜索は続けさせてもらいますぞ。」

 

 「うむ、許す。しかしだ爺、これからは少し人員と費用を減らさなければならぬかもしれん。」

 

 「()()()調()()…ですかな?」

 

 フールーダの言葉に対し、ジルクニフが頷く。非常に様になっている、正に皇帝と呼べる程の堂々とした振る舞い。これが生まれてから支配する立場になる為に教育された者の姿なのかと思う程だ。

 

 「情報によれば、このバハルス帝国と王国の領土の近くには、かつて大陸を焦土と化しかけた魔神が封印されているとの情報が入った。」

 

 「二百年以上の封印から解かれるか、はたまた眠りから覚めるか…言い回しはどうあれ、その情報が本当なら一大事ですな。」

 

 「法国から抜き取った情報だ、かなり信憑性は高い。」

 

 数日前に、魔神戦争時に封印された魔神の復活が、スレイン法国で予期されているとの情報が帝国の諜報員からジルクニフの元に届いた。

 

 魔神は全て滅ぼされたと思っていたが、何やらその情報によれば、混乱を回避する為にその様に伝承されて行ったらしい。

 

 いつか復活するやもしれぬ魔神が自らの住まう地に居るなどと知れば、心配で夜も眠れないだろう。配慮は嬉しいが、復活する時代に生まれた者達からしたら笑えない話だ。

 

 「ふん、”十三英雄”の奴らめ、中途半端な仕事をしてくれる。」

 

 「”参謀殿”の話ですと、スレイン法国はわざとここ、帝国に情報を漏らしたのではと言う意見が出ていますぞ。」

 

 「ほう、それはあり得るな。爺と魔法省の力があるのだ、お前達も一仕事しろ。そういうメッセージなのかもしれん。」

 

 「ふむ、なるほど。流石は陛下…そして参謀殿ですな。」

 

 「アイツの頭脳は俺を超えるやもしれんからな。少しアイツと話し合う必要があるか。」

 

 「ホッホッホ、頼もしいですな。それと陛下、カリスマは陛下の方が上ですぞ。」

 

 フールーダの言葉に、ジルクニフは手をひらひらさせながら言葉を制していく。お世辞は要らんと言う意味なのか、はたまた当然だと言う意味なのか。

 

 そして、二人の会話が途切れた時、皇帝の間の大きな扉から、コンコンと言う音が聞こえてくる。

 

 この音が意味する事は、来訪者が来たという事だ。

 

 「入れ。」

 

 扉が開くと共に、皇帝の間にカツカツと足音を立てながら、鎧を着た女騎士が入室してきた。

 

 金髪の髪を長く伸ばした綺麗な女性だ。顔の右半分はその金色の髪で隠されており見えない。まるで、見られたくない物を隠しているかの様だ。

 

 この綺麗な女性こそ、帝国騎士団の頂点である帝国”四騎士”の一人、レイナース・ロックブルズである。

 

 豪華な椅子に座るジルクニフの元まで歩いてきたレイナースが片膝を付き頭を垂れる。その後にジルクニフの言葉と共に面を上げたレイナースが、ジルクニフに要件を伝えていく。

 

 「皇帝陛下お時間です。、執務室にて参謀殿が待たれております。」

 

 「ほう、もうその様な時間か。余り待たせるのも可哀そうか…明芳(メイファン)に伝えろ、準備が出来次第向かうとな。」

 

 「かしこまりました。」

 

 立ち上がったレイナースが退出しようとした時、フールーダと目が合った。

 

 「ごきげんよう、パラダイン様、例の件の進展はいかがですか?」

 

 「未だ見つからぬよ、何の情報も得られていない。」

 

 そうですかと言葉を残し、レイナースは退出しようと歩を進めていく。

 

 この二人の会話に出た例の件、それはアサギリの件だ。レイナースもまた、アサギリを探している。

 

 コツコツと歩を進めるレイナースを見つめるフールーダの口元が歪む。そして、フールーダには見えてはいないが、レイナースの口元も同じ様に歪んでいた。

 

 (逃がさぬぞ―――)

 

 歪む―――二人の口が。

 

 (逃がさないわ―――)

 

 二人の口が歪む―――三日月に。

 

 ((―――アサギリ。))

 

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

 

 

 「ぶえっくちょい!!」

 

 「うん?どうしたんです、”絶死”様?風邪ですか?」

 

 「う~ん…誰かが私の噂をしてるわね。」

 

 ズルズルと鼻を鳴らしながら、絶死と呼ばれた人物―――アンティリーネ・ヘラン・フーシェがそうごちた。

 

 ここは法国の首都―――シクルサンテクス。

 

 その首都に建てられた聖殿であり、法国神官長達の居座る聖殿だ。

 

 他の国に当てはめれば、王宮と言えるだろう。

 

 その聖殿の内部―――非常に広い部屋の室内に、漆黒聖典番外席次こと絶死絶命、アンティリーネ・ヘラン・フーシェの姿があった。

 

 ここは、絶死の聖殿内での自室であり、非番の日以外は基本的にこの部屋で、待機と言う名のぐーたら生活を送っている。

 

 そんな絶死と会話をしているこの男性は、特殊部隊、漆黒聖典の隊長を務める男で、二つ名は”漆黒聖典”、六大神の力を覚醒させた、神人と呼ばれる先祖返りだ。

 

 ズルズル鼻を鳴らす絶死に対し、隊長が口を開いた。

 

 「噂ですか?またどこで悪さして来たんですか?」

 

 「…ねぇ、噂と聞いて言う言葉がそれな訳?あんた私を何だと思ってるのよ。」

 

 隊長の言葉に、絶死は口を尖らせる。口を開けば悪さとか言ってくる相手に対し不満の言葉を口にする。

 

 「えぇ?何を今更…だって余計な事しかしないじゃないですか―――いて!」

 

 口の減らない隊長に、絶死の人差し指が突き刺さる。

 

 「いてててて!」と悶絶する隊長を鋭い眼光で見つめる絶死は何やら奇妙な動きを始めた。ゆらりゆらりと両手を動かしながら、ついでに「ふぉ~」とかなんとか訳の分からん掛け声を呟きだす。

 

 そしてぴたりと動きが止まっていく。

 

 「アンティリーネ神拳奥義!秘孔五連突きぃぃ!あた!あた!あた!おぉわった!」

 

 「いててて!もぉう、やめて下さいよ。俺じゃなきゃ死んでますよそれ。うん?ていうか、今四回しか突いてませんよね。」

 

 「お前はもう死んでいる。」

 

 「もぉう、怖い事言わないで下さいよ。」

 

 隊長の嫌そうな顔を見て、絶死がケラケラと笑っている。非常に楽しそうだ。その楽しそうな雰囲気の中には、深い信頼関係が見てとれる。

 

 人類の守護神―――”番外席次・絶死絶命”

 

 漆黒聖典に所属はしているが、はっきり言って、他の十二席とは格が違う。いや、そう言うのもおこがましい程に別格だ。

 

 そんな彼女だ、同僚―――漆黒聖典隊員達の前ではそれなりの振る舞いをしなければならない。この様に気を張らず、仲良く接していける者達は限られている。

 

 目の前にいる隊長以外に後”三人”しかいない。

 

 パタパタパタと隊長が絶死の部屋を掃除用具で掃除している。ホコリを払っているのだ。絶死はとんでもない程ずぼらだ。こうやって隊長が掃除してあげないと、直ぐにゴミだらけにして汚してしまう。

 

 漆黒聖典隊長として、危険な任務を請け負う隊長だが、神官長達から任された仕事の中で最も大事な仕事がこの仕事”絶死絶命の世話役”だ。

 

 掃除を続ける隊長が、テーブルを拭こうと近づいた時、ある物がテーブルに置かれているのが目に入ってくる。

 

 「もぉう、絶死様、こんな所に置いちゃ駄目ですって。誰かに見られたら大変ですよ?」

 

 「ん?あ、忘れてた。」

 

 隊長がその見られては困る物を手に取り、絶死の元まで持っていく。それは写真だ。数々の異形の者が、魔王を取り囲む様に集っている。

 

 そして、その魔王の目の前に、剣を突き立て仁王立ちしている人物が見える。異形の者の中にあって、唯一の人間種である、絶死の姿が。

 

 「懐かしくってさ…たまに見たくなるのよね。これはナザリックを攻略した時の写真。本当に…懐かしい。」

 

 絶死は目を細める。只でさえ美しい絶死の顔が、哀愁が漂う事により更に美しく見えてくる。

 

 その姿と写真を見ながら、隊長もまた目を細める。

 

 普通の者がこの写真を見れば絶句しそうなものだが、隊長にその気配はない。知っているからだ、絶死の秘密を、神官長達すら知らない秘密を―――異世界を旅した秘密を。

 

 この絶死の秘密を知っているのはたった四人しかいない。隊長と、先程言った、気兼ねなく接していける三人だけだ。

 

 「いつか…会えると良いですね。」

 

 「そうね…いつまでも待つわよ…()()()()()()()()()。」

 

 しんみりとした雰囲気の中、隊長が絶死に新たな話題を振っていく。この様な雰囲気は苦手だ。なんだかんだ、先程の様なふざけた雰囲気の方が良いからだ。

 

 「そういえば聞きました?魔神の件。」

 

 「…ん?魔神?あぁ、占星千里が予言した奴?あれ本当なのかしら。」

 

 「本当かどうかは俺の口からは何とも…絶死様が占星千里を信じられないなら、嘘でも良いんじゃないですか?」

 

 隊長の意地悪な言い方に、絶死はまた口を尖らせる。

 

 漆黒聖典”第七席次・占星千里”二つ名の通り占星術による未来予知や、自分が見た光景をホログラムの様に幻術で具現化する千里眼じみた能力を行使出来る。予知夢の様な物を見る事もあり、今回は後者だ。仄暗い闇の中で、蠢く魔神の姿を垣間見たのだと言う。

 

 占星千里の力は良く知っている、彼女が言うのならば魔神復活の可能性は極めて高いだろう。

 

 「神官長達もかなり重く見てるみたいですよ。帝国にワザと情報を漏らして巻き込もうとしてますし…あそこにはフールーダ・パラダインがいますからね。」

 

 「フールーダ…ねぇ。私あの妖怪ジジイ嫌いなのよね。誰かぶっ殺してくれないかしら。」

 

 「”天上天下”さんにでも頼めばいいじゃないですか、ぶっ殺してこぉ~いって。」

 

 おどける隊長を絶死はジロリと睨む。本当にコイツは私の事を何だと思ってるんだと思う。

 

 「はぁ…冗談に決まってるでしょ。ていうか、腐ってもあのジジイは逸脱者なの。アンタ以外の隊員じゃ手に余る、勝てる見込みはかなり薄い…いや、まず勝てないんじゃないかな。」

 

 「()()()()じゃないですか、()()()()()()()。」

 

 隊長のその言葉に、絶死は押し黙る。誰の事を言っているのか理解しているからだ。

 

 「あの”法国の怪物”とやり合えば、いかにフールーダとて只では済まないでしょう。」

 

 隊長のその言葉に、同意の意味を込め、絶死はこくりと一つ頷く。

 

 頷きながら心の中に浮かぶのは、隊長の「勝てそうな」と言う言葉だ。勝てそうではない―――勝てる。一応は恐らくと言う言葉が付くが、勝利はほぼ間違いないと言ってもいい程だ。戦いという物を知り尽くしている絶死を持ってして、そう思ってしまう程の人物が漆黒聖典には存在している。

 

 常軌を逸した存在―――なるほど、法国の怪物とは良く言った物だ、中々に的を得ている―――得ているが。

 

 「いや…怪物って。ちょっと酷くない?もしかして本人にも怪物って言ってるんじゃないでしょうね?」

 

 「まさか、そんな事言いませんよ、怒られちゃいますって。普段怒んない人が怒ると…何というか、メンタルに来るものがあるんですよね。怒鳴られでもしたら俺しばらく引きこもっちゃいますよ。」

 

 渋い顔をした隊長のその言葉を聞きながら、はぁっと、絶死は二度目の溜息をつく。そして未だ渋い顔をした隊長に向かい口を開く。

 

 「あの子には…あんまり血なまぐさい事はして欲しくないわ。いつも通りほんわかしてて欲しいもの。できればいつまでも。」

 

 「あぁ、その言葉には俺も同意ですね。俺としても、聖典を抜けて、ゆっくり人生を送って欲しいと思う程ですから…まぁ、無理なんですけどね。」

 

 「ふふ…意外と頑固よね、あの子。」

 

 件の人物を思い浮かべる二人が、にこやかに笑い合う。二人の脳内では、ぽわぽわしたあの笑顔が浮かび上がり、その後また笑いあった。

 

 「そう言えば、神官長達は王国には情報を漏らさなかったのね。ついでに巻き込みなさいよ、不公平じゃない。」

 

 「王国に漏らした所で意味なくないですか?馬鹿貴族しかいないからどの道信じませんよ?」

 

 確かにと絶死は思う。王国は貴族派閥と王派閥に分かれ対立している。一枚岩ではないのだ。仮に情報を漏らし、会議に発展したとしても、「何を馬鹿な事を」などと言いだし派閥同士が罵り合いを始めるだろう。結局いつもの馬鹿な貴族共の言い合いで終わり、魔神の件など忘れ去られてしまいそうだ。

 

 (…それでも、王国には”キーちゃん”がいる…王国を無視するのは愚策な気がするわ。)

 

 蒼の薔薇のイビルアイ―――キーノ・ファスリス・インベルン。

 

 彼女を巻きこむ事が出来るのなら、魔神に対しての強力な手札を手に入れる事に他ならない。かつての魔神戦争を生き抜いた、生ける伝説たる彼女なら魔神に対する切り札になりえるだろう。魔神の事は、恐らく彼女が一番よく知っているだろうから。

 

 ただ一つ悩みの種があるとするならば、その事を知っているのは自分も含め限られた者達だけという事だ、目の前にいる隊長もその事は知らない。大切な友達の情報をばらまく訳にはいかない、特に神官長達の耳になどに入れるわけにはいかないだろう。

 

 隊長を含めた四人になら話しても秘密にしていてくれるとは思うが、それでも躊躇われる。万が一情報が洩れ、キーノに迷惑はかけたくない。

 

 (こっそりキーちゃんにだけ情報を伝える?う~ん、でも変に気を張らしてもな…確定って訳でもない訳だし…。)

 

 非常に悩ましい。自分が出張れれば話は早いのであるが、色々な事情がありそういう訳にもいかない。漆黒聖典とてそうだ、彼らは裏の人間達、極力表に出るべきではない、余程危機的状況にならない限りは出張る事はないだろう。

 

 考えれば考える程キーノの力を借りたい。それに、王国にはキーノ以外にも、強力な冒険者達がひしめき合っている。軍事力としてはそれ程強力な戦力を保有している訳では無い王国であるが、それ以外に目を向ければ無視はできない強力な戦力があるという事だ。

 

 やはり王国を無視するのは愚策な様な気がすると、絶死が一人悩んでいると。

 

 「それに、貴族共が仮に信じて、王国が動いたとしても使えるのなんて”ガゼフ・ストロノーフ”くらいですよ?」

 

 「ガゼフ…ストロノーフねぇ。」

 

 隊長のその言葉を聞いた途端、絶死が何やら暗い雰囲気を纏う。これは隊長の言葉の中にあったある人物の名前を聞いたからだ。

 

 「おや?どうしたんです?ストロノーフも嫌いなんですか?」

 

 「いやぁ…嫌いとかじゃなくてね。はぁ、長く生きてるとさ…色々あるのよ。おばあちゃんにも色々あるのよ。」

 

 ガゼフ・ストロノーフ―――リ・エスティーゼ王国における、国王ランポッサ三世の剣であり、王国戦士長の役職を持つ男だ。

 

 周辺国家最強の戦士と言われる程の実力を誇るが、それは漆黒聖典が表舞台に出ていないからだ。仮に漆黒聖典が表舞台に出てしまえば、恐らくその座は奪われてしまうだろう。

 

 「周辺国家最強の戦士!王国戦士長ガゼフ・ストロノーフ!なんか、”究極の武技”とかいう物を習得しているらしいですよ?絶死様の”究極の武技”とどっちが凄いんですかね?」

 

 「さぁ…どうかなぁ、比べないと分かんないわね。ていうか…王国戦士長ねぇ…”そうなれば、血は争えないという事になるな”だったわね…はぁ。」

 

 「今日は溜息が多いですね。疲れてるなら今日は非番にしますか?」

 

 「いやぁ、別に疲れてる訳じゃないわ。色々あんのよ、長く生きてると色々あんのよ。」

 

 「おばあちゃん、それはさっき言ったでしょ?」

 

 「おい!ボケ老人に接するような言葉を使うのやめろ!まだボケてねぇから!おばあちゃんだけどさ!」

 

 隊長の言葉に鋭いツッコミが飛んでいく。この様な会話も日常茶飯事だ。それだけ、二人の仲が良いと言う事の証明だろう。

 

 突っ込み終えた絶死が何やらゴソゴソ準備を始めた。楽しい会話も終わりという事だ、今からは、番外席次・絶死絶命として自らの少ない仕事に従事していくのだから。

 

 「さってっと、たまには仕事しなくちゃね。()()()()()()()でも見守ってきますか。」

 

 「…この様な仕事ばかり、本当に心苦しいばかりです。”ツァインドルクス”さえいなければ、絶死様も変装などしなくても、気軽に外に出る事が出来ると言うのに。」

 

 「それは言っても詮無い事でしょ?」

 

 「それはそうですが…ツァインドルクスがいかに強かろうが、絶死様なら()()()()()筈…だからこそ、この現状が悔しいのです。」

 

 「…アイツは頭が良い…勝てないと踏めば、別の手段でくる。正面から戦うのだけが戦いじゃないわ…覚えておきなさい…それにね―――」

 

 瞳を閉じた絶死がゆっくりと瞳を開け、言い聞かせるように語り掛ける。

 

 「―――”強い者が必ずしも勝つとは限らない、戦いは終わるまで分からない”のよ。絶対の強者(つわもの)なんて存在しない…私を余り買いかぶらない事ね。」

 

 「…心得ました。その言葉、胸に刻み込んでおきます。」

 

 「よろしい。それじゃ行ってくるわね。返って来るまでにご飯用意しといてね。」

 

 「おばあちゃん、ご飯はさっき食べたでしょ?」

 

 「だからボケてねぇよ!まだボケてねぇよ!もう!行ってくる!」

 

 ―――バン。

 

 扉が閉まり、絶死はいつもの職務―――六大神の秘宝の守護の為に、宝物庫まで向かっていく。

 

 いってらっしゃいとひらひら手を振った隊長が、一つ背伸びをした後に、自らの仕事の続きである掃除を続けていく。

 

 掃除をしながら、隊長が今日の晩御飯の献立を考えて行く。今日は何にしよう、ジャンバラヤはこの間作ってあげたから、今日はハンバーグにしようか、いや、半人半鳥(ハルピュイア)の卵がまだあった筈だ、なにかそれを使った料理を作ろうかなどと考える。

 

 (そういや最近”シオニー”さんから野菜を貰ってたな…確かまだ余ってた筈だ。きちんと消費しないと”シオニスト”共が煩いからな…「ヤサイソマツニスルナ…ヤサイソマツニスルナ」ってな…野菜も使わないとだな―――うん?)

 

 ―――コンコン。

 

 入り口の扉がなる音が聞こえてくる。

 

 誰だと一瞬思うが、恐らくは、あの三人の内の誰かだろうと思い、隊長はゆっくりと部屋の扉を開けていった。

 

 「お?隊長だけですかい?姉さんはどこに行ったんで?」

 

 部屋を訪ねて来たのは、漆黒聖典”第二席次・時間乱流”、綺麗な顔をした好青年であり、女性と間違われそうな程の美青年だ。

 

 気軽に姉さんと言っている所を見れば、恐らくはこの青年が先程の気軽に接する事が出来る残りの三人の内の一人だと言う事だろう。

 

 「あぁ、宝物庫に向かいましたよ。今職務中ですから。逆に俺は今世話係から外れましたから、職務外になりますね、いつも通りでいいですよ?」

 

 隊長の言葉を聞いた時間乱流が、そうですかい?と言いながら部屋の中まで入ってきた。そして隊長と談笑を始めていく。

 

 「ならそうさせてもらいますぜ、坊ちゃん。」

 

 隊長に向かい、時間乱流はある事か坊ちゃんなどと呼んでいく。普通ならあり得ないが、今は任務中でも無ければ職務中でもない。プライベートで呼んでいる様に、坊ちゃんと呼んでいるだけだ。

 

 ちなみに、いかにプライベートと言えど、他の隊員の前ではこの呼び方は使わない。隊長の沽券に関わるうえに、隊員達の士気にも関わっていくからだ。この呼び方は他の隊員達がいない時―――絶死と、あの二人の隊員達しかいない時だけだ。

 

 のんびりとソファに座りながら、特徴的な口調で隊長に話しかけ続ける。ころころと変わり続ける話の内容を、掃除を続けながらも聞き続ける。

 

 本当に自由な男だ。隊長はそう思う。掴み所のない、空を流れる雲、その様な物を連想してしまう。

 

 話題は変わり続ける、そうすれば、やはりと言おうか、今最も聖典内ではホットな話題である、魔神の件へと話題はシフトする。

 

 「本当に魔神が復活すれば一大事でさぁ、コイツは冒険者さん達にも人肌脱いでもらう羽目になりそうですね、坊ちゃん。」

 

 あぁ、なるほど。冒険者と言う単語を聞いた隊長に閃きが起きる。絶死の言っていた王国を巻き込めとは、軍だけではなく、冒険者達の事を言っていたのだろう。

 

 周辺国家を見渡しても、王国の冒険者達は層が厚い。それだけ、王国が国家の防衛を冒険者達に丸投げしているとも取れるのであるが。

 

 ”薔薇”に”雫”、二組のアダマンタイト級冒険者チームを筆頭に、粒揃いのオリハルコン級冒険者チームが揃っている。

 

 (引退したとは言え、”リグリット”や”ヴェスチャー”も王国には在住している…か。ん?まだいたんだっけか?まぁ、とにかく、確かに巻き込みたいメンツが揃ってるな…なんだ、意外と考えてるじゃないか。)

 

 何も考えていない様に見えて、絶死は意外と物を考えている様だ。今度褒めてやろうと隊長は思う。

 

 「おっ、そう言えば坊ちゃん、最近ぐいぐい来てる冒険者がいるんでさぁ。」

 

 まただ、また話題が変わった。魔神の話題を一瞬でポイしていく時間乱流に、隊長は苦笑いする。どう考えてもそんな簡単に変わる話題ではないだろう。本当に恐ろしい男だと思う。

 

 「メリィ―――”メリィ・カルティア・デイル・クラウザー”。最近エ・ランテルで活躍してる冒険者なんですがね、破竹の勢いらしいですぜ。」

 

 「名前が四つ…もしかしなくても、貴族じゃないですか?名前からして女性ですかね。」

 

 貴族を証明する四つの名前を聞いた隊長の表情が変わる。時間乱流と話していて、始めて興味を持ったと言った表情だ。

 

 「ですぜ、辺境の”男爵”の娘らしいんですがね、蒼薔薇にでも憧れたんですかね?」

 

 「へぇ、蒼薔薇のラキュース以外にも、物好きがいるもんですね。」

 

 「ですね…それとですね、坊ちゃん、そのメリィってお嬢さんは、すんごい美人らしいですぜ?」

 

 ―――ピクリ。

 

 今まで静かに話を聞いていた隊長が、今日初めて大きな反応を示していく。

 

 時間乱流はそれを見逃さない、ニコっと笑い、話を続ける。

 

 「いやぁ、金髪の特大の美人らしいですぜ。綺麗とも言えるし、可愛いとも言えるみたいでさぁ、年齢は十八くらいだったかなぁ。」

 

 ―――ぷくぅ。

 

 隊長の鼻が膨らんでいく。そしてそわそわしだした。

 

 「へ…へぇ、そ、そうなんですね…へぇ…十八ですか、ま、まぁ自分は余り興味ないですけどね。」

 

 きょどる隊長が、口を尖らせながら、早口で物を言う。

 

 この思春期めがと思いながら、時間乱流はまたニコっと笑う。

 

 隊長も()()()()()()だ、女の子に興味がない訳はない、色恋沙汰くらいさせてあげたい所だが、この様な組織に所属しているのだ、その様な暇など有る筈もなく、たまにこの様に、()()()()の女の話をしてあげるとそわそわしだすのだ。

 

 聖典内にも女性隊員はいるのであるが、皆どこかイカれている。隊長が女嫌いになる前に、誰か良い女とくっつけてあげたいものだ。

 

 「エ・ランテルの若きエースで、通称”怪力メリィ”って呼ばれてるみたいでさぁ、なんでもとんでもない馬鹿力みたいですぜ。」

 

 「…え、なにそれ、怖い。」

 

 隊長のテンションが急降下していく。キラキラした瞳から一気に光が消え失せていった。

 

 なるほど、怪力女は嫌いかと、時間乱流は心のメモに記入していく。

 

 「なんか、大型の”アイアン・タートル”を放り投げて、大木にぶつけたら、大木がへし折れたとか、後は”トロール”に鯖折りして背骨をへし折ったとか聞きましたね。」

 

 「いやぁー!怖いぃぃ、怖いぃぃ!」

 

 聞きたくないと両手で耳を塞ぐ隊長を見ていると、なんだか面白くなってくる。

 

 「まぁでも、見た目はそれ程ごつくはないみたいですぜ、蒼薔薇のガガーラン見たいじゃなくて、意外とスタイリッシュだとか。」

 

 「…本当ですか?」

 

 隊長の興味が少し戻った、なるほど、細身の女の方が好みかと、心のメモに記入していく。

 

 「もしかしたら着やせするタイプなのかもしれませんね、脱げば凄いとか、ちなみに、身長はガガーランより大きいみたいですぜ。」

 

 「デカッ!デカすぎでしょ!ガガーラン180㌢くらいありますよ!俺より余裕でデカいじゃないですか!」

 

 小さい女の方が好みと、心のメモに記入していく。中々有意義な会話になった、隊長の好み―――あくまで見た目だけだが、ある程度把握できた。

 

 今度姉さんと相談と心のメモに記入し、心のメモを閉じていく。

 

 「そしてそのメリィに、”メルビナ”が最近同行しだしたとか…神官長達の会議にも多分上がってますぜ。」

 

 「メルビナ?誰ですそれ?」

 

 「坊ちゃんは知らないんで?自分も”風花”から聞いただけなんですが、王国のやべぇ奴の一人です。”ブレイン・アングラウス”と並んで、特級戦力の一人でさぁ、法国の最優先スカウト候補の一人ですね。」

 

 ほうっと、隊長が顎に手を置いた。法国は人類の為に日夜戦いに明け暮れている。強い者はいくらいても困らない。なんの組織にも所属していない強者をただ放って置くなどと言う勿体ない事はしたくない、故に法国自らがスカウトにおもむき、人類の為に戦って貰おうとする事がある。

 

 現在こそいないが、歴史を紐解けば、六色聖典にも、スカウト組は幾人か在籍していた事がある。

 

 ブレイン・アングラウスと並ぶという事は、相当な強者であるという事だ。少し職務を疎かにし過ぎていた様だ、今度時間がある時に、風花から情報を貰う必要があると隊長は思う。

 

 「結構やべぇ女みたいで、見た目は”無限魔力”の姉さんにちょっと似てるみたいですぜ、あんな感じの戦士って話です。」

 

 「うわぁ~、やさぐれてるなぁ…。」

 

 「ですね…あっ、無限魔力の姉さんで思い出しやした、そう言えば坊ちゃん、忘れてたんですが、さっき無限魔力の姉さんと”疾風走破”の姉さんが言い合いしてやしたぜ、止めに行かなくていいんで?」

 

 「え?嫌ですよ、今聖典の職務からは外れてますから。掃除のが忙しいです、溜めると碌な事にならないですからね。ていうか、言うの遅すぎません、そんな大事な事。」

 

 またもや話題がコロッと変わる。今更そんな事を言うのかと、眉をしかめた隊長が、止めていた手を動かし出し、掃除を始める。会話をしながらも、テキパキと掃除を続けていく。見事な手さばきだ、日頃どれだけ掃除を行っているのか一目で分かる。

 

 「そんな事言ってて良いんですかい?おっぱじまるかもしれませんぜ?」

 

 「んもぉう…皆血の気が多いな。我が強いとでも言うのか?ていうかあの二人職務中でしょ?勤務時間に何してんですか…はぁ、もしそうなりそうだったら、誰かが言うでしょ、”絶死様に言いつけるぞ”って。」

 

 時間乱流が苦笑いをしていく、漆黒聖典は先程隊長が言った様に、非常に我が強く、個性的な連中の集まりだ。

 

 生まれてこの方敗北など知らず、最強の名を欲しいままにして来た様な連中だ、必然的に我は強く育っていくだろう。中には歪な程に成長し膨れ上がった強烈な我を持つ者もいるが、そういう者はいくら強かろうが、組織に置くのは非常に不味い。

 

 そう言う者達はある場所に送られる。肥大した性格を叩き直す為の矯正施設―――通称、絶死の部屋である。

 

 膨れ上がった自らが最強と言う固定概念を、更に強い力で粉々に打ち砕かれていく。皆が皆この矯正施設に送られる訳では無いが、それなりの人数は入隊時に送られていく。

 

 英雄級の集まりの漆黒聖典に置いても、絶死送りとまで言われる恐怖の部屋だ。

 

 ちなみに、絶死自体はこの制度は嫌いらしい。強大な力を持つが故に、力の加減も難しく、かなり神経をすり減らす様だ。しかしそれ以上に、彼女は人を叩くのを好まない、優しい彼女には嫌な制度である。

 

 この様に、多くの隊員達が絶死の手によってそのプライドを打ち砕かれて行った。故に絶死に言いつけるぞと言う言葉は、漆黒聖典内の揉め事を止めるには一番効率的で効果の高い言葉になる。

 

 「そんな事言えば、無限魔力の姉さんが泡拭いて倒れますぜ?」

 

 二人の話の中に出てくる隊員―――無限魔力も、絶死送りになった隊員の一人だ。ただ一つ他の隊員と違う点は、絶死が少しやり過ぎてしまったと言う点だろうか。

 

 それからというもの、無限魔力は絶死に対し過剰なまでの恐怖心を抱くようになってしまった。故に絶死に言いつけるぞと言う言葉は<きゅうしょにあたった、こうかはばつぐんだ>くらいに効く。

 

 もう一人の疾風走破は絶死送りにはされてはいないが、彼女には別の意味で効く。彼女は絶死を崇拝している、言いつけられて嫌われたくはないのだ、だからこそ、矛を簡単に収めてくれる。

 

 「良いですよ別に。それくらいしないとあの人言う事聞いてくれませんから。無限魔力さんも疾風走破さんも、取りあえずそれ言っとけば勝ちですからね。」

 

 ぶつぶつ言いながらも、目線はこちらに合わせずに、隊長は一生懸命掃除を行っていく。そんな姿を見ながら、時間乱流に、苦労人だなと言う気持ちが沸いてきた。

 

 目の前で一生懸命掃除を続けるこの漆黒聖典隊長”漆黒聖典第一席次・漆黒聖典”は非常に若い。見た目は好青年を思わせるが、実は年齢はまだ十五と少年だ。この顔も、マジックアイテムで無理やり年齢を引き上げているに過ぎない。

 

 血を覚醒させ、若くしてこの様な血なまぐさい世界に放られながらも、一生懸命我の強い集団を纏め上げようと努力している人物に、時間乱流は少し尊敬の念を抱く。

 

 たまには少し息抜きでもして貰いたいものだと思いながら、そのたまの息抜きの為の話し合いをしようと、掃除を続けている隊長に向かい、言葉を発していく。

 

 「…しかし、姉さんがいないのは逆に好都合でさぁ。ちょいと”来月”の打ち合わせでもしやしょうぜ、坊ちゃん。」

 

 「来月…?あぁ、もうそんな時期ですか。」

 

 「そうでさぁ。確かあの二人も非番でしたぜ?四人で話でもしやしょうや。」

 

 テキパキと動いていた手が少し止まる。もうその様な時期かと思いながら、あの二人も来るのであれば、休憩がてらそれも良いかも知れない。そう思いながら、隊長は掃除を辞め、部屋のキッチンに歩を進めていく。

 

 茶菓子でも用意するか―――そう思いながら。

 

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

 

 この世界で最強の種族は何かと聞かれれば、大抵の者はこう答えるだろう―――ドラゴンだと。

 

 強靭な肉体に、強力なブレスを吐き出し、挙句の果てには魔法まで行使してくる。

 

 言葉を紡げば紡ぐほどに、その理不尽さが露骨に感じ取られていくだろう。

 

 ドラゴンは強者だ、この世界に置いて比類なき強さを持つ強者。だからこそ、ドラゴンは基本的には群れる事はない。それは弱者の行う事だからだ、強者のする事ではないと理解し、それを曲げる者は少ないだろう。

 

 先程も言ったが、ドラゴンは基本的に群れる事はない。しかし、今この居城には、複数のドラゴンが、”家族”と言うありえない形を作り、その場に居座っていた。

 

 豪華な調度品が数多く置かれた、広い部屋、正に王の間に相応しいかの様な部屋で、四体のドラゴンが、体を巻き、蹲っていた。

 

 その内の一体、最も大きな体をしたドラゴンが、ある言葉と共に、閉じられていた瞳をゆっくりと開いていった。

 

 「…グラギオスか…何用だ。」

 

 閉じられた瞳をゆっくりと開いた最も大きな体のドラゴン―――オラサーダルクがそう言葉を発した途端、飛び起きるかのように、他の三体のドラゴンがその大きな体を浮かしていく。

 

 そして現れる―――幻術が解かれていく。

 

 現れたのは、アンデッドの魔法詠唱者。完全に肉がなくなり、白亜の骨が剥き出しになっている。額からは、小さな角の様な骨がちょこんと可愛く突き出している。

 

 この世に存在する強大なアンデッド、死者の大魔法使い(エルダー・リッチ)の更に進化した存在―――ナイト・リッチがそこには現れた。 

 

 「流石じゃのうダルクよ。あけみの()を真似てみたんじゃが。」

 

 「ふん、貴様如きがあの()()()の真似などできるか、身の程を知れ。」

 

 オラサーダルクにそう言われた存在―――グラギオスがくつくつ笑う。

 

 「化け物か…確かにお主の言う通りじゃの、あけみは化け物じゃて。しかし、戦えばお主の方が強かろう?そう考えれば、お主の方が化け物と言う事になるの。」

 

 グラギオスの言葉に、蹲っていたオラサーダルクがゆっくりとその体を起き上がらせていく。そして言われた言葉に対し、一つ鼻で笑った後に、言葉を返していった。

 

 「”強い者が必ずしも勝つとは限らない”。忘れた訳ではなかろう?俺の方が強いからと言って、俺があけみに勝てるとは限らん。アイツはそう言う奴だ。」

 

 「分かっておるよ、只言って見ただけじゃて…本当にお主は恐ろしい奴じゃの。」

 

 おどける様にして、グラギオスは肩を浮かしていく。返ってきた言葉は、この世界最強と呼ばれるドラゴンの言葉とは思えない。

 

 絶対の強者(つわもの)など存在しない。それを完全に理解している者の言葉だ。人間などに代表される弱小種族ではなく、最強種族であるドラゴンがその事を理解している。その事実が非常に恐ろしい。

 

 怖い怖いとおどけるグラギオスが癪に障るのか、オラサーダルクが目を細め、少々不機嫌な表情を作る。しかしそれだけだ、怒鳴ったり暴れたりはしない。

 

 「ふん、それで何用だ、遊びに来たのなら帰れ。」

 

 「おやおや、機嫌を損ねてしまったの。そう邪険にするな、のんびり寝とるくらいじゃ、どうせ暇なのじゃろ?」

 

 「余り気軽に外には出れんものでな。」

 

 そう言いながら、オラサーダルクがそのドラゴン特有の長い首を動かす。そしてある場所を見据え、顎を二回ほど動かしていく。

 

 見て見ろと言わんばかりに顎を動かしたその先には―――オラサーダルクの後方には非常に大きな扉が見えてくる。

 

 この王の間に相応しいかの様な豪華な扉はドラゴンであるオラサーダルクでさえ軽々と通過できる程の大きさだ。

 

 そんな大きな、それでいて豪華な扉の周囲には、青白く光を放つ、魔方陣が展開されている。魔方陣は何重にも重ねられ、浮かび上がった文字が現れては消えていく。

 

 まるで封印でも施されているかの様なその扉だが、正にその通りだ、この扉は幾多のマジックアイテムの力により封印され開かなくされている。

 

 この封印を解く事が出来るのは二人だけ、オラサーダルクと彼の百年来の悪友だけだ。

 

 その二人以外がこの扉を開けるには、この幾重にも張り巡らされた封印魔法を破るほかない。そしてそれは容易な事ではない、封印魔法を解除できる魔法詠唱者と、その後に扉に掛かっている鍵を開ける事が出来る盗賊職の者が必要になって来るからだ―――難度三百クラスの。

 

 これほどの封印が施された扉の先がどうでも良い場所である筈もない、それは誰が見ても明らかだ。そんな、誰が見ても明らかに重要なこの場所の正体は”宝物庫”、秘宝が眠りし空間だ。

 

 「盗人がいつ来るか分からんからな、簡単には離れられん。」

 

 重々しい声音で話すオラサーダルクを見て、グラギオスに少しの罪悪感が沸いてきた。暇人などと言ってからかったのが申し訳なく思えてきたのだ。

 

 「まぁどの道、あの扉を開けれる様な者がくれば俺など一たまりもないだろうがな。だがそれでも、あの馬鹿に連絡する事くらいは出来る。」

 

 先程も言った様に、生半可な者ではあの扉は開ける事は出来ない。それが出来るのは汚物くらいの物だ。それを理解しているからこその、オラサーダルクの言葉だ。

 

 「…俺が死ぬくらいなら良い…しかし、()()()を外の世界に流出させる事は避けねばならん。巡り巡って、もしあれらがツァインドルクスの手などに渡れば()()()()()()。そうなればあの馬鹿が苦労する…。」

 

 「…良くはない、死んではならぬよ、お主は。」

 

 「ふん、たとえ話だ、死ぬ気など毛頭ない。」

 

 いつもの偉そうな雰囲気に戻ったのを見て、グラギオスは安心する。しかしそれでも、隠してはいるが覚悟の気配は消え切ってはいない。

 

この様な話をする為にここに来たわけではないのにと、やれやれと首を振っていると―――この部屋の中において、非常に小さな存在が目に飛び込んできた。

 

 ドラゴン達の体躯に隠れ気づかなかったが、その存在は、欠伸を上げながら、こちらまで歩いてくる。

 

 「おぉ、”らいおん”、こんな所にいたのか。すまぬの、起こしてしまったか?」

 

 欠伸を上げながら、白虎と呼ばれる神獣―――らいおんがゆっくりとグラギオスの元まで歩いてき、そして歩を止めていった。

 

 「がる…がるがる。(久しぶりね、グラギオス。)」

 

 「おぉおぉ、そうかそうか。全然言ってることが分からんぞい。」

 

 「がるるる。(でしょうね。)」

 

 グラギオスに挨拶をしたらいおんが、また一つ欠伸を上げ、元居た場所まで戻っていく。そしてまた、すやすやと居眠りを始めていった。

 

 「主に似て自由な奴じゃて―――ん?」

 

 らいおんを見つめていたグラギオスの耳に、ドスドスと何やら妙な音が聞こえてくる。音は次第に大きくなり、この部屋まで近づいてくる。

 

 「待て!待ってくれ姉者(あねじゃ)!!」

 

 「アオイちゃ~ん…パ~ンチ!」

 

 けたたましい音が鳴り響き、この部屋―――王の間の部屋の大きな扉が開いていく。そして開くと同時に、部屋の中にドラゴンが一体吹き飛ばされてきた。吹き飛ばされてきたドラゴンの名前は”トランジェリット”、オラサーダルクの息子であり、かつては山脈の竜王の座をオラサーダルクと争ったメスのドラゴンとの子供だ。

 

 吹き飛ばされたトランジェリットが、グラギオスの目の前に転げながら飛んでくる。気になり顔を覗いてみれば、白目になり気絶していた。

 

 その後に、吹き飛ばした存在に視線を移す。そこに居たのは、グラギオスの思っていた通りのドラゴンだった。

 

 「おぉ、”アオ”久しぶりじゃの。相変わらず元気そうで何よりじゃ。」

 

 「あっ!グラ爺!こんにちは!!」

 

 「あぁ、こんにちは。今は夜じゃがな。」

 

 霧の竜(フロスト・ドラゴン)特有の青白い鱗の中でも、特に青みが多い鱗を持つドラゴン―――アオイがグラギオスに対し、大きな声で挨拶をして来た。

 

 オラサーダルクの子供達の中において、このアオイだけは、オラサーダルクの実の子供ではない。母親は、かつてアゼルリシア山脈に君臨した、霧の竜の女王(クイーン)エルミレであり、忘れ形見だ。

 

 「アオ、今日も元気が良いな、元気が良いのは良い事だ。」

 

 ぶしつけにも王の間の扉を吹き飛ばす様な勢いで開き飛び込んできたアオに対し、オラサーダルクが憤慨していくかと思われたが、その様な気配はさらさらない。目を細め、喋り掛ける姿は優しい父親の姿すら幻想させるほどだ。

 

 アオに優しく声をかけたオラサーダルクが、白目を剥いたまま気絶しているトランジェリットに視線を移した。

 

 そして。

 

 「トランジェリットォォォ!キサマァァァ、この俺様の部屋に飛び込んでくるとはいい度胸だな!食い殺されたいかぁぁぁ!」

 

 盛大にブチ切れていく。

 

 オラサーダルクの叫び声を聞いたトランジェリットが、向いた白目を戻し、慌てて立ち上がっていく。

 

 一瞬で気絶から回復していく辺り、余程父親の事が怖いのだろう。

 

 「ち、父上!ち、違うのです!あ、姉者が―――」

 

 「キサマァァァ!言い訳などしおって!それがドラゴンたる者の―――」

 

 「おじちゃん、おじちゃん。」

 

 「―――なんだい、アオ?」

 

 言葉を遮られたにも関わらず、オラサーダルクは怒らない。この様な事を非常に嫌う筈ではあるが、言葉をかけてきたアオに対し、まるで豹変したかのようににこりと笑っていった。

 

 「お話中だったんだね、ごめんなさい。アオまたトランジェリットと遊んでくるね。」

 

 「ヒィィィ!!?」

 

 「おぉ、そうか。ゆっくり遊んできなさい―――トランジェリットォォォ!次やったら許さんからな!」

 

 ズルズルとアオに引きずられ、トランジェリットが部屋の外まで連れていかれる。連れて行かれまいとトランジェリットは必死に抵抗するが、アオはビクともしない。

 

 違い過ぎるのだ―――腕力が。

 

 「ちょ、ま、待って、待って、姉者待ってくれ!父上ぇぇぇ助けてぇぇぇ!」

 

 「ねぇねぇ、トランジェリット、聞いて聞いて!お姉ちゃんね、この間”(えん)エン”と一緒にね、悪者を退治したんだよ!なんかね、悪い貴族だって、冒険者の子が言ってたんだぁ。だから成敗してあげたんだ。あ、冒険者って言うのはね―――」

 

 「嫌だぁぁぁ!嫌だぁぁぁ!待ってくれ姉者ぁぁぁ!」

 

 必死の抵抗も虚しく、叫び声を上げながら、トランジェリットはアオに引きずられ、王の間から退出していった。

 

 「うぅむ、トランジェリットをああも易々と。アオの奴め、とんでもないの。」

 

 年齢は遥かにアオの方が上だが、それでも、トランジェリットは強い。そのトランジェリットを易々と引きずっていくアオにグラギオスは驚愕していく。

 

 やはり霧の竜の女王(クイーン)の娘、秘めたる力は半端ではない。

 

 「オラサーダルク…アオに対する接し方を考えた方が良いと思うわ。いつまでたっても、アオが子供から抜け出せない…もう百歳を超えるのよ?」

 

 言葉を発したのはムンウィニア、トランジェリットの母親にして、オラサーダルクと竜王の座を争った、メスの猛者ドラゴンだ。

 

 ムンウィニアの言葉に対し、他の二体のドラゴン―――妃たちも、ムンウィニアの言葉に賛同の声を上げていく。

 

 「なぜだ…別によかろう…まだ子供ではないか、子供が子供らしくしていて何が悪い。」

 

 子供じゃねぇよとムンウィニアは言いそうになるが、グッと堪える。どの道言っても聞きはしない。いつもは冷静に物事を考えるオラサーダルクが完全に馬鹿になっているのを分かっているからだ。

 

 やれやれと首を振ったムンウィニアが、また蹲る。最早語る言葉もない様だ。

 

 「…好きにさせてやれ…いつの日か、アオも子供のままではいられぬ時が来る…それが竜の定めだ…その時までは、好きに…な。」

 

 そう言い蹲りそうになるオラサーダルクを、グラギオスが静止していく。

 

 「おい、待て待て、寝るな。」

 

 「ん…グラギオスか、そう言えば居たな。」

 

 「お主なぁ~、なんと酷い奴じゃ、変わらんのぉ~。」

 

 完全に存在を忘れられたグラギオスが肩を落としていく。自分は用があってきたのだ、忘れるなと思ってしまう。

 

 「”来月の件”についてお主と話し合おうと思っての。ちと時間を作れ。」

 

 「来月…?ふん…そうか、もう来月か。」

 

 「早い物じゃ、”フレイ”の奴もおると踏んできたのじゃが、どうやらおらぬようじゃな。」

 

 「フレイは最近見てはおらんな、あの小娘ならあけみの所に居そうなものだがな。」

 

 「そうか、なる程の…しかし小娘か、”激震(げきしん)”の異名を持つ、あの”大森林の覇王”も、主から見れば小娘とは、流石は”白き竜王”様じゃ。」

 

 グラギオスはまたもや軽くおどけてみせる。嫌みったらしく竜王の名を出していく辺り忘れられていた事に対するやり返しなのかも知れない。

 

 あまり言い過ぎると本気で怒りそうだと思っていると、オラサーダルクの目が少し鋭くなっていく。不味い、怒らしたかと思い、浮かした肩を落としていくと。

 

 「覇王か…()()()()()()だな。」

 

 覇王、どうやらオラサーダルクはこの二つ名が気に入らない様だ。明らかに先程より不機嫌になったのが見てとれた。

 

 「そうか?覇王と呼ばれるには十分な実力だと思うがの。」

 

 グラギオスの言葉に、瞳を閉じたオラサーダルクが、首を横にふるふる振っていく。

 

 「まだまだ青二才だ、確かにフレイは強い、だが()()()()()、強いだけの者程、脆い者はない。あの小娘がいつの日か、真に”ヨン”の言葉を理解した時…その時こそ、小娘から覇王になる時だ。」

 

 そう言い、鋭い眼光をグラギオスに向けていく。いやぁ、儂を睨まれてもと思うが、そんな事は言わない。珍しく仲間の事を気にかけているのだ、ここで茶化すのは違うだろう。

 

 「そうか、お主が言うのならそうなのだろうな。それでは、来月の話をしようではないか。それとじゃ…その話のついでに、最近考えた新しい魔法を伝えにきた、お主に合えば良いが。」

 

 にたりとオラサーダルクは笑う。この笑いは、後者の話に興味が沸いたからだ。居眠りしようと丸めかけた体を起こしながら、グラギオスにその凶悪な歯を見せていく。

 

 「来月の件など後だ、先にその魔法を教えろ。」

 

 「かぁ~、相変わらず上からじゃの~、本当に変わらんわい、お主は。何様じゃって。」

 

 「俺は俺だ、俺様だ。いいからさっさと教えろ。」

 

 

 

 

 

 ドラゴン達の住まう居城の中で、今日もまた、ドラゴンがアンデッドから魔法を享受していく。

 

 百年以上の長きに渡り続くその関係は、これからもまだまだ続いていく事だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 NextEpisode → ExtraEpisode Ⅲ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 究極の魔法とは関節技(サブミッション)である。
 昔ある作品でそれを学びました。

 どうもちひろです。

 魔法をメインにしたお話でした。
 軍団にグラギオスが加入していった事により、オラサーダルクがパワーアップを果たしていきました。
 
 前回のExtraEpisodeの後書きで書いた、”国家規模で影響を受けている所”にあたるバハルス帝国さん。
 これにはジルクニフもにっこりですね。
 この異世界の強みとしては、魔法の研究でオリジナルの魔法を生み出せると言う所が、個人的には強みだと思っています。
 位階自体は低くても、魔導書のおかげで、かなり幅広くオリジナル魔法が生み出されていると思っていてください。
 魔法省も原作より大幅に発展していますし、魔法学園もそうです。
 それに伴って、ジルクニフの近衛部隊の装備している魔法装備も、原作より強化されてますし、ロイヤルガードの人達の装備もそうです。
 この様に、マジックアイテムにも、大きく影響が出てしまっています。つまり原作より帝国は強化されてしまった…アンティリーネさん、やっちまったな。
 多分王国とマジでやりあったら、王国は軽く捻り潰されます。
 フールーダが何故第六位階止まりで先の位階に進めていないのかはと言うと、この作品では”レベルキャップ”が存在するからです。
 原作のオーバーロードでも、ちひろはレベルキャップが存在する派ですので、そこはこの作品にも組み込んでいます。
 ちひろの中でレベルキャップがあると確信に近い物に変わったのが、原作七巻でアルシェのキャラクター・プロフィールに書いてあった”あくまで早熟の秀才であり、既に能力的には成長の限界に到達しかかっていた”と言う文章を読んだときですかね。
 明確に限界と書いていた筈です。
 なるほど、やはり個人個人でレベルの限界値があるのかと思ったのをよく覚えています。 
 イビルアイやガゼフも言っていたのですが、クライムは才能がないのでこれ以上は強くはなれないみたいな内容もあった気がします。
 この才能と言うのが、レベルの限界値であり、才能がある者の方がより高いレベルまで到達できる?的な認識をちひろは持っています。
 そして、才能も様々で、そのキャラの限界値が20レベルだったとして、アルシェの様に早熟の秀才と呼ばれる者は、経験値取得量が多い?もしくは次のレベルに到達するまでの必要経験値が少ない?とかそういう諸々な個人差があるのでは?という物ですね。
 そして、ここが一番重要なのですが、この作品では、”人間の限界値”もあると言う設定があります。
 この作品での人間の種族としての限界値―――レベルキャップは40レベルです。
 これは、アインズ様が人間を媒介に中位アンデッドを作成した時、40レベルまでのアンデッドまでしか作れない事から、その様な設定にさせて頂きました。
 後は魔法では、位階は7レベル区切りも設定に入れさせてもらってます。
 ウィキと同じと思って頂ければいいです。
 そして、このレベルキャップと言う概念が適用されないのが、”ドラゴン”と”アンデッド”いわゆる異形種の面々ですね。
 異形種はオーバーロードにおいてかなり強く描かれているので、レベルキャップがないは言い過ぎにしても、人間や亜人よりもかなり高い粋までレベルが上がるんじゃないかと思ってます。ナイトリッチなんか正にそうだと思います。
 問題はどのようにしてクラスチェンジするかなんですよね。
 単純にレベルが上がると上位種にクラスチェンジするのか、はたまた規定レベルに達した後に専用のアイテムを使用する事なのか、そうだとしたら、そんなアイテム異世界になくね?とも思います。条件が厳しすぎる様な気もします。
 一応ナイトリッチの説明には、膨大な魔力を得てとかあった気がします、それが経験値なのかなとか思ってます。
 グラギオスも特に特殊な方法は取らず、クラスチェンジしたと思っていて下さい。
 後はこのレベルキャップを超えるのは、人間で言えばプレイヤーの血を引いた者達とかですかね。
 確か昔、何かで、コキュートスが子供を作れば80レベルが限界値、その子供の子供は60レベルが限界値とか言う内容を見たのを覚えてます。※かなり古いので間違ってるかも?
 血が薄まれば薄まる程、レベルキャップは浅くなるみたいですね。
 法国はこの辺りを何となく分かってるから、血が薄まらない様に努力してるんでしょうね。
 長くなりましたが、この作品のレベルと魔法関連はこの様な設定になってます。

 ―――魔神の件

 魔神封印とか、息を潜めてるとかは、完全オリジナルです。
 そういうのあっても良くない?と思ったからです。
 何やらプレアデスの力は、現地勢からしたらラスボス級の強さだとかなんとか言うのを昔見た気がします。
 つまり魔神もその様な位置づけですね。
 現地勢が手を取り合い、総力戦をしかけてどうにか勝利できるみたいな感じです。
 もし仮に魔神が復活したら、読者目線では、どうにかなりそうなゲヘナ見たいになると思います。
 絶死が手を出さずとも、リーネ軍団が出張れば即決着はつくのだろうが、軍団も派手に動く気はありません※何人かは動くかな?約一名はド派手にいく?
 必然的に、王国、帝国がメインになるでしょう。
 
 
 ・キャラクタープロフィール

 ――オラサーダルク・へイリリアル――

 身長―凄く大きい㍍ 体重―凄く重い㌧

 住居 ドワーフ旧王都王城※原作通り
 種族 ドラゴン
 レベル ※百年後

 ・ドラゴリング 10LV
 ・ヤング 10LV
 ・アダルト 10LV
 ・オールド 10LV
 ・エルダー 5LV
 ・エインシャント 1LV
 ・ウィザード(ドラゴン) 10LV
 ・ハイ・ウィザード(ドラゴン) 1LV
 ・エレメンタリスト(アイス) 5LV
 ・計 62LV

 カルマ値 -25 ※原作通り
 好きな物 お宝
 頭脳 とても良い
 警戒している連中 汚物 真なる竜王※特に六竜
 命より大事な物 家族と軍団
 最近ハマっている物 ヌークの燻製と麦酒の組み合わせ

 前に後書きで、百年後はちょっと?かなり?強くなってますと説明されたオラサーダルクさんこと、ダルクニキ。
 設定を見直してみると普通に強かったですね、これにはちひろもびっくりです。
 汚物や真なる竜王に対して、それなりの知識を持ってるのは、先の展開に関わるのでちょっと説明できません。
 このダルクさんは、原作と同じように傲慢な部分が見てとれます、しかし、慢心はしていません、自分の命を脅かす存在は無数にいて、弱き者達もその部類に入るときちんと理解しています。
 魔法を勉強する際にグラギオスと方針を決めたのですが、ダルクさんがとった方針は、自らの得意分野である、冷気属性の特化です。
 これは炎や雷、風などの系統とは違い、冷気は氷と言う物質としての形を取る事が出来るからです。
 対策として耐性を確保された場合、雷や炎なんかより応用が利くと睨んだからですね。
 例えばですが、エルダーリッチは冷気が効きません、ダルクの鍛えた冷気属性の魔法は全て無力と化します。しかし、氷と言う物質としての形をとればそうはなりません。つららで相手を抑え、動きを束縛したり、極端に言えば、そのつららをこん棒みたいにして殴りかかってきたりします。エルダーリッチは殴打が弱点なので、そのまま爆散します。
 人間などの生物が相手の時もそうです。場所によっては、湖の中に人間を叩きこみ、そのまま湖を凍らせたりします。脱出不可能になった人間はそのまま溺死します。
 地面を凍らせて滑りやすくし、動きに制限を掛け、俊敏性を無くしたり、明るい場所なら、氷で光を反射して目くらまししたりしますね。
 この様に、耐性を付与されても、戦闘において無駄にならず、幅広く活用できる冷気属性に目を付け、なおかつ得意分野という事から、習得も他の系統より楽であり、特化型を目指しました。エレメンタリストまで修めているので、効果は絶大です。
 そして冷気は物質意外の形も成します、人間などが耐性を保有していなければ、ダルクさんお得意の口八丁で意識を逸らされ、霧状に分散された冷気が、じわじわ肺を凍らせていったりします。機能を徐々に低下された肺は機能不全に陥り、チアノーゼなどの症状を引き起こします、気づいた時には後の祭りと言った具合ですね。
 ダルクさんに油断も慢心もありません、どの様な弱い存在でも、戦闘に入れば本気で殺しに来ます。
 例えば漆黒の剣とかと戦闘になったとしても、ブラフ、奇策、お得意の口八丁で全力で殺しに来ます。
 どんなに弱い存在でも、自分を一撃で殺せる切り札や、アイテムを持っているかもしれないときちんと理解しているからです。
 未知の相手ならきちんと情報を集め、必要とあらば撤退したり、わざと劣勢に立ったりします。
 ドラゴン版モモンガと思って頂ければいいです。
 百年以上軍団の皆と居た所為で、ポテンシャル以上に強くなった気がしますね。
 傲慢で怒りっぽい所は余り変わりませんが、戦闘に入った途端急に冷静になります。
 軍団が舐められるのを極端に嫌うので、舐めた相手がいたら、作戦をたててブチ殺そうとするので、軍団の仲間が全力で宥めたりするみたいですよ。

 ここまで長い後書きを書いたのは初めてです。
 今回は情報量が多かったので致し方なしですね。
 それでは、次回からユグドラシルの話に戻ります。
 次からが4章のメインのお話になります。
 それでは、また読んでくださいね!シュバ!
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