あんてぃりーねのゆぐどらしる☆だい☆ぼう☆けん☆ ~泣き虫が伝説になるまで~   作:だいだろすちひろ

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 前回のあらすじ 
 
 最後の攻防が始まる。


燃え上がれ!熱戦!烈戦!超激戦!

 

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

 

 いざ尋常に―――勝負!!

 

 最後の攻防が始まった。

 

 即座に動いたのは―――リーネ。

 

 体を丸め込む様に縮め、前傾に尖らせる。小柄の利点である被弾面積の少なさを、更に活用していく為の姿勢である。縮められたバネを離した時の様に、弾ける様に突き進む。

 

 その姿勢は低い、地面擦れ擦れを滑空するかのように、低く、低く突き進む。アロービーチの長身、野太刀の長リーチの弱点である下方への奇襲をしかけていく。

 

 片手剣の線の向かう先は―――脛。

 

 対するアロービーチは、これを飛び上り回避していく。

 

 片手剣が―――空を切った。

 

 飛び上がったアロービーチは、空中で野太刀を持ち変えていく。視線の先にいるのは、地面に密着しているのではと思う程、低い姿勢の相対者―――狙うは脳天。

 

 着地と同時に、野太刀の切っ先を突き立てていく。

 

 ―――パシリ。

 

 右手に持つ片手剣を、左手に放り投げたリーネが、突き下ろされる野太刀の刀身に打ち付けていく。金属音が鳴り響く。甲高く、擦り付けられるような金属音が。軌道を変えられた野太刀の切っ先が、リーネの頬を掠めていく。

 

 咄嗟の機転により、間一髪これは回避する。そして金属音は止まない。野太刀の刀身を滑る様に片手剣は進んで行く。火花が散るかのような錯覚が見えそうな程、鋭利に進んで行く片手剣の向かう先は―――アロービーチの首筋。

 

 しかしこの攻撃は、鈍い音と共に受け止められる。

 

 リーネの前腕部とアロービーチの前腕部が交差している。

 

 片手剣の切っ先が、アロービーチの首筋付近でピタリと静止していく。

 

 避ける事は叶わない、剣を弾く事も叶わない、であるならば―――打ち手を抑えていく。

 

 攻撃を抑えられたリーネの横腹に膝蹴りが襲い来る。視覚の死角から繰り出された膝蹴りが横腹に突き刺さる。

 

 小柄なリーネの体が揺らぐ。体勢は後方に仰け反った、好機と見たアロービーチは、距離を確保する為にバックステップを踏む―――が、途中で静止されていく。

 

 後方へ下がる事は叶わない、理由は即座に判明する、リーネの右足が、アロービーチの右足を踏み付けているからだ。

 

 アロービーチは後方へ下がる事ができなかった、そこには一瞬の間が生まれる。後方に仰け反ったリーネの体が、反発したゴムの様に戻ってくる。

 

 片手剣の左上部からの斬りつけがアロービーチを襲う。右足は抑え込まれている、退避は不可能、抑え込みも間に合わない。

 

 誰の目に見ても明らかだ、確実に当たる。そう思わせる程完璧なタイミングの斬りつけだ。片手剣が迫る中、アロービーチがとった行動は”前進”―――”一歩踏み込んだ”。

 

 踏み込んだアロービーチの額と、リーネの片手剣を持った腕が接触する。

 

 アロービーチの取った戦法は―――頭突き。

 

 避けれない、弾けない、押さえられない―――であれば、当りにいく。

 

 腕ごと弾き飛ばされていき、またもや後方に仰け反っていく―――先程よりも大きく。

 

 踏み付けた右足も離された、行動を束縛する術を失ったリーネの目に飛び込んできたのは、深く姿勢を落としたアロービーチの姿。

 

 深い姿勢、それは―――居合の構え。

 

 ―――不可能だ。

 

 野太刀での居合は現実的ではない、それに加え、この至近距離、居合など成立する訳はない。これ程の攻防だ、下手な事をすれば一発で持っていかれる―――その筈だ。

 

 目的はなんだ。思考が目まぐるしく回転した時、目に入って来るのは右手だけでとっている居合の姿勢―――左手は添えていない。

 

 その瞬間―――危険センサーが鳴り響いた。

 

 アロービーチが、踏み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 ―――柄部(つかぶ)()き。

 

 

 

 

 

 

 

 

 爆速―――正にその言葉が相応しいかの様な速度で、柄が迫ってくる。

 

 回避する術は―――一つしかない。

 

 仰け反ったリーネはそのまま後方に倒れ込む。野太刀の柄が、倒れ込むリーネの鼻先を掠めていく。間一髪と言う奴だ、一瞬でも迷えば、回避は不可能だった。

 

 後方に倒れるが、受け身を取り、姿勢を確保していったリーネは、倒れたままスルリと回転していく。右手を軸に回転した後に、左手を伸ばしていく。目的は―――足だ。足を掴み取り、引き倒そうとする。

 

 しかし、アロービーチは気づき、後方へバックステップで退避していく―――距離が開く。

 

 そうはさせない―――空かした左手を使い、即座に立ち上がったリーネは、姿勢を尖らせ、弾かれたバネの様に追走していく。

 

 そんなリーネの目に飛び込んでくる物。

 

 野太刀の持ち方が変わっている。切っ先が正面を向いている。追走するリーネの正面で、バックステップの状態のまま、野太刀の切っ先がこちらを見据えていた。

 

 

 

 

 

 

 ―――究極の(とつ)

 

 

 

 

 

 

 鈍い金属音が炸裂した。

 

 片手剣の剣身で辛うじて受ける事を成功するが、衝撃がリーネを襲う。力を受け流す様に、自ら体を翻し、空中で回転していく。

 

 ―――ありえない。

 

 あんな姿勢から―――バックステップ中の姿勢から突きは繰り出されて行った。

 

 安定感のない姿勢から繰り出されたとは到底思えない程、完成された突きが繰り出された。

 

 侮っていたと言わざるを得ないだろう。あの突きは、どの様な姿勢からでも繰り出す事ができる突き―――正に究極の(とつ)

 

 空中で回転したリーネが地面に激突する。受け身が間に合わなかった、体勢を立て直した瞬間目に入ってきたのは、上段の構え。

 

 袈裟斬りが自らを襲う。即座に立ち上がり、回避するが、次は二の矢が襲う―――逆袈裟斬りだ。

 

 ―――両手持ち。

 

 片手と両手では、威力が段違いだ。ここは回避が妥当な判断だ―――が、このタイミングでは回避は間に合わない。

 

 ―――受ける。

 

 鈍い金属音が鳴り響くと同時に、強烈な衝撃が襲い来る。剣身に前腕部を押し付け、体全体で野太刀を受け止めるが衝撃を完全に抑え込む事は叶わず、地に付いていた足が、浮き上がる、体が振られる。

 

 そして―――均衡が崩れる。

 

 ―――メシリ。

 

 腹部に突き刺さるような衝撃が襲う―――三日月蹴りが突き刺さった。

 

 見えない―――見えない。

 

 揺らぐ体勢に、向かってくる野太刀。左手のみに持ち変えられた野太刀が横薙ぎに襲い来る。返す刀だ、これは片手持ち、これも剣身で受ける、いや―――受ける他ない。

 

 二度の受け、そして三日月蹴りによる崩しにより、左右に振られていく。安定感が失われ、足が上手く地に付かない。

 

 そんな中、目に入ってくる―――居合の構え。

 

 ―――柄部(つかぶ)()きが襲い来る。

 

 受ける為、片手剣の持ち方を変えた瞬間、アロービーチは足を力強く踏み込み―――こちらまで突進してくる。

 

 予想とは全く違う行動に、(きょ)を突かれ、一瞬の間が訪れていく―――(うつろ)が姿を表した。

 

 柄部(つかぶ)()きに警戒を割かれ過ぎた、あの居合の構えはフェイントだ、この行動の為の。

 

 アロービーチの右手が、リーネの頭部に伸びていく。ガシリと掴まれたのは髪の毛だ。不味い、そう思った時にはもう遅かった。

 

 ―――ゴジュリ。

 

 右膝蹴りが顔面に炸裂していく。

 

 顔面は弾け飛び、天を仰ぐであろう程に強力な物だ、しかし、そうはならない、アロービーチの右手は、未だ髪を鷲掴みにしている。

 

 ―――ゴジュリ、ゴジュリ、ゴジュリ、ゴジュリ。

 

 膝蹴りの連打が始まる。視界が歪む、朦朧が襲い来る。

 

 六度目の膝蹴りに、辛うじて右手をすり込ませたリーネはアロービーチを引き剥がす。このままでは不味いと、体勢を立て直そうとする―――が。

 

 ―――メシリ。

 

 左の膝蹴りが腹部に突き刺さる。

 

 視覚の死角から―――見えない、見えない、見えない!!

 

 度重なる顔面への膝蹴りによる打撃、そこにすかさず腹部に撃ち込まれた膝蹴りにより、今日初めて、リーネの体がくの字に折れる。

 

 それを見逃す―――アロービーチではない。

 

 くの字に折れた体を、アロービーチは、抱きかかえるようにすくい上げていく。小柄なリーネの体は軽々と持ち上げられ―――地面に投げつけられた。

 

 鈍い音が炸裂した。体が地面に無造作に叩きつけられていった音だ。受け身を取る事は叶わない―――後頭部から叩きつけられていく。

 

 朦朧は加速的に増していく―――視界にノイズが走る。

 

 

 

 

 

 

 ―――強い。

 

 

 

 

 

 只々その言葉が浮かぶ。

 

 完成されたと言ってもいい程の基礎に、野生の獣を彷彿とさせるような荒々しい動きが、完全に融合している。

 

 長距離からの究極の(とつ)、至近距離からの柄部(つかぶ)()きを組み合わせ、フェイントを混ぜ、(きょ)をついてくる。

 

 そして、どんな状況にも臨機応変に対応してくる、機転と言う名の引き出しの多さに加え、数々の見えない攻撃を持っている。

 

 これが、ムスペルヘイム最強―――いや、ユグドラシル最強の男。

 

 ワールド・チャンピオンは、正しくユグドラシル最強の戦士だ。しかし、あれは公式公認のチートであり、言うなれば、強さのランキングから弾かれた様な存在と言えるだろう。

 

 そんな連中を除けば、アロービーチは、最強の戦士だ。ムスペルヘイム最強などと呼ばれているが、それはこの男が、ムスペルヘイム出身だからそう呼ばれているだけだ。

 

 ワールド・チャンピオンを除けば、最強の戦士、すなわち、ユグドラシル最強の男。

 

 思い知らされた、そう思う―――思ってしまう。

 

 即座に立ち上がる―――が、ガクリと膝が折れる。

 

 手足が言う事を聞かない、完全なる状態異常、朦朧の兆候がそこにはあった。

 

 跪く様な姿勢で、敵を見据えたその目に飛び込んできた物。

 

 ノイズが走る視界の中、微かに見えるアロービーチの姿は―――上段構え。

 

 (俺の勝ちだ―――ヘルヘイム最凶(アンティリーネ)!!)

 

 野太刀が―――振り下ろされる。

 

 ―――負ける。

 

 そう思った。

 

 ―――嫌だ。

 

 そう思った。

 

 ―――負けたくない。

 

 (負けたくない―――負けたくない!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――ギシリ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 歯車の音が、鈍く軋んだ―――現実の理が持ち込まれたが為に。

 

 迫りくる野太刀。

 

 リーネのノイズの走った視界モニターに映る野太刀の速度が緩やかな物になっていく。

 

 ―――これは。

 

 その言葉が浮かぶ。

 

 忘れもしない、この感覚は、ナザリック攻略戦時に、ナザリックと戦っている際に起きた現象だ。

 

 野太刀が迫る―――が、緩やかに、スローになっていく。

 

 ―――ゾワリと黒い物が心を蝕もうとする。

 

 しかし―――「もう、間違えないよね?」

 

 ―――声が聞こえた気がした。

 

 心を蝕もうとした黒い物が晴れていく。

 

 そう、もう大丈夫だ。

 

 もう彼女は間違えない―――飲まれない。

 

 リーネは歯を食いしばる。

 

 震える左手を、必死で動かす。

 

 動け―――動け!

 

 朦朧に蝕まれた体が、軋みを上げ動く。

 

 野太刀が迫る、ゆっくりながら―――確実に。

 

 スローで振り下ろされる野太刀の刀身を注視する。

 

 角度を計算し、最も効率良く弾けるポイントを探す。

 

 体が言う事を聞かない、刀身の急所を探せ、トリガー部を見つけだせ。

 

 そして―――見つけた。

 

 左手が―――肘が鋭利に尖る。

 

 届け―――奴より速く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――ギャリ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 小さな音が響いた。

 

 それはそれは、小さな音。

 

 観客の歓声が響く中、レフェリーにすらその音は聞こえなかった。

 

 そう―――二人を除いては。

 

 (―――!?)

 

 野太刀の軌道が変わる―――肘が軌道を変えていく。

 

 振り下ろしは地面にぶつかっていく―――リーネをすり抜けて。

 

 朦朧に蝕まれながらも、なんとかリーネは立ち上がる。

 

 上手く体が動かない。視界も未だノイズが走っている。しかし、アロービーチに向かっていく。

 

 

 

 

 

 

 歯車は正常に戻る。

 

 一度暴走した事により、調整の精度が上がっている。

 

 調整が完了する日も―――近い。

 

 血濡れの技(現実の理)の調整が。

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

 

 (――~~~!肘だと!?)

 

 野太刀は当たる筈だった、間違いなく。だが、そうはならなかった。

 

 ―――ここにきて。

 

 アロービーチにその言葉が浮かび上がる。

 

 なぜだ?肘の精度は低かった。この最後の攻防のレベルに見合うだけの精度は無かったはずだ。なのに、ここにきてなぜ、肘での受けを成立させていく―――自らの苦手な筈の上段への攻撃に。

 

 朦朧により、視界はぐちゃぐちゃのはず、身体操作だって上手くはいかないだろう。そんな状況下に置かれながら、ここに来ての、肘での受け。

 

 再浮上してきた肘の脅威―――アロービーチの警戒心が跳ね上がる。

 

 無数の疑問が渦巻くアロービーチへと、リーネは進む。

 

 上手く体が動かない。視界もぐちゃぐちゃだ。だが、動かなければ負ける―――負けたくない。

 

 チャキッとアロービーチが構えに入る。

 

 あぁ、正常だ。

 

 さっき見たいに、スローではない。

 

 今回は、あの状態は長くは続かなかった様だ。だが、一瞬の間が生まれた。ここを逃せばもう勝機はない。

 

 リーネは突き進む。足はふらつき、速度は出ない。運足などもってのほかだ、素人の()と同じ、つたない物。いつ以来だろうか、こんなに酷い動きは。

 

 両手に片手剣を握り締める。片手剣をだ、本当に笑いが出てくる、まんま素人じゃないか。

 

 しかし、もう片手で剣を振るう力は残ってはいない。ふらつくリーネは大振りに振りかぶった、本当に只の素人の様に、大きく振りかぶる。

 

 そんな無様な動きに対するアロービーチは―――野太刀の刀身に左手を添える。

 

 弾くでも、避けるでもなく、アロービーチの取った行動は、受けだ。

 

 想像の斜めをいく行動がそこにはあった。こんな素人同然の動きで、素人の様に振りかぶっただけの攻撃を、アロービーチともあろう者が受けようとしている。

 

 野太刀の一振りで、リーネは倒せる。しかし、アロービーチはそうは取っていないという事だ。

 

 それはなぜか?それは―――過剰な警戒心。

 

 ここに来て、息を吹き返した相手に、アロービーチは最大限の警戒を取っている。

 

 何がある?その動きはブラフか―――あるいは?

 

 ―――切り札は肘か?

 

 目まぐるしく渦を巻く疑問に囚われてしまっている。

 

 その姿を見たリーネは―――笑った。

 

 違うよ。なんの意味もないよ。これしかできないんだ。こんな事しかできないんだ。だって、体が言う事を聞かないから。

 

 でも、まぁ―――ありがとう。

 

 全力で振りかぶった片手剣を横薙ぎに振るっていく。

 

 アロービーチが構えた―――受けるつもりだ。

 

 野太刀に、片手剣が接触する―――かに思われた。

 

 ―――スッ。

 

 しかし、そうはならず、片手剣は野太刀の一歩手前で振り切られていく。

 

 予想に反した攻撃により、アロービーチは一瞬の硬直に陥っていく。

 

 片手剣は接触せず、空振りに終わる。そのまま体勢を崩し、リーネが倒れていくかに思われた―――が、回転する。

 

 体を軸に―――回る。

 

 リーネは思う。本当にいつ以来だと、こんな、単純な攻撃をするのはと。記憶を遡るが、中々見つからない。遡って、遡って、遡って―――思い出す。

 

 リーネはまた笑う。

 

 思い出した。あったなそんな事も。

 

 ()()()()―――()()()()()

 

 体を軸に―――回る。

 

 遠心力を乗せ―――回る。

 

 

 

 

 

 ―――お返しだアロービーチ。

 

 

 

 

 

 鈍い金属音が鳴り響く。

 

 遠心力を乗せられた片手剣が、只々力任せに振るわれた片手剣が―――野太刀を弾く。

 

 ―――してやられた。

 

 過剰に警戒し過ぎる余り、判断を誤った。アロービーチが一つ舌を打ち―――そして。

 

 今日初めて、アロービーチが仰け反った。

 

 

 

 

 

 垣間見えた―――勝機。

 

 

 

 

 

 リーネにとって、今日初めての、最大にして、最初にして、最後の―――勝機。

 

 この勝機を逃す―――リーネではない。

 

 仰け反ったアロービーチの懐に入り込む。よろめきながらも、入り込む。左手がくの字に曲がり、鋭利な刃物の様な姿を見せた肘が、ギラリと光ったかのように見えた。

 

 仰け反ったアロービーチの喉元に向かい、肘が進んで行く―――が。

 

 

 

 

 ―――()()()、肘か。

 

 

 

 

 

 即座に、アロービーチは体勢立て直す、そんな付け焼刃が通用するかと、舐めるなよと言っているかの様な気迫を纏う。

 

 受けて、弾いて―――突く。

 

 それで決める―――身構えた、その時。

 

 ―――ピタリ。

 

 肘が―――静止する。

 

 肘は動きを止めた、それは―――寸止め。

 

 身構えたアロービーチの時が止まる。

 

 (きょ)をつかれた―――(うつろ)が姿を表す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 沸き上がる会場の観戦席に、その女はいた。

 

 腕を組み、悠々と闘技場を見据えるその女は、微笑を浮かべ、ゆっくりと、優しく、言い聞かせるように、小さく囁いた。

 

 坊や、その子ね―――()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 ―――パシリ。

 

 

 

 

 

 

 アロービーチの視界が傾いた。

 

 

 

 

 

 ―――足払い。

 

 

 

 

 

 

 (うつろ)をつかれたアロービーチが崩れ落ちる。

 

 ゆっくりと崩れ落ちるアロービーチの元に、静止した肘が狙いを定め、動き出す。

 

 崩れ落ちるアロービーチの()()を―――肘が捉えた。

 

 

 

 

 

 ―――それは、リーネに残された最後の力だった。

 

 

 

 

 

 朦朧は未だ体を蝕んでいる。

 

 手足が上手く動かない。

 

 視界もぐちゃぐちゃだ、良く見えない。

 

 だが―――捉えた。

 

 アロービーチが崩れ落ちる―――()()()()()()()()()()()()()()

 

 リーネは崩れ落ちる―――アロービーチの喉元に、()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 崩れ落ちるリーネに、沢山の記憶が駆け巡る。それは、さながら走馬灯の様だった。

 

 

 

 

 そうだ、()()()()()()()()()

 

 

 

 

 ()()()()()()()―――()()()()

 

 

 

 

 崩れ落ちる―――二人が。

 

 

 

 

 あの時から―――始まった。

 

 

 

 

 あの時から―――()()()()()()()()()()んだ。

 

 

 

 

 崩れ落ちた二人が地面に倒れ伏す。

 

 

 

 

 そうだ、()()()()()()()()んだ。

 

 

 

 

 地面に倒れ伏したアロービーチの喉元を、肘が捉えた。

 

 喉元を―――肘で抑え込む。

 

 

 

 

 ここから―――始まったんだ。

 

 

 

 

 ここから―――()()()()()()()()()んだ。

 

 

 

 

 あの時から―――ここから。

 

 

 

 

 ―――()()()()()()()()()んだ。

 

 

 

 

 喉元を捉えられたアロービーチが藻掻く―――が、動けない。

 

 喉と同時に、全身を抑えられている。

 

 抑え込めるだけの力は残ってはいない筈、だが力は関係ない。

 

 関節の可動域を抑え込む―――力の流れを封殺する。

 

 

 

 

 

 

 逮捕術と言う体系がこの世には存在する。

 「突き」「蹴り」「投げ」「締め」「固め」までも収める体術だ。

 さながら、総合格闘技を思わせるが、その実、少し違う。

 逮捕術は『武器』を使う。

 警棒と言う短い獲物を武器に、格闘を主体にする体術だ。

 そして、逮捕術の真髄は、敵を倒す事ではない。

 逮捕術の真髄は―――『制圧』。

 悪漢を抑え込み―――制圧する。

 一たび捕まれば、逃れる術は―――無い。

 

 

 

 

 

 

 

 逮捕術―――捕縛完了。

 

 

 

 

 

 

 視界が歪む、アロービーチの姿はおぼろげだ。

 

 だが―――外しはしない。

 

 藻掻くアロービーチを見下ろし、片手剣を振り上げた。

 

 狙うは―――胸元。

 

 振り上げられた片手剣の切っ先が、ギラリと光り輝き、振り下ろされた。

 

 振り下ろされ―――突き刺さる。

 

 胸元に切っ先が突き刺さり、アロービーチのHPが急激に減少を始める。

 

 胸元は人体の急所、すなわち―――クリティカル。

 

 ―――HP10%

 

 ―――HP5%

 

 アロービーチは藻掻く―――が、脱出はできない。

 

 そして―――

 

 ―――0%

 

 アロービーチの動きが―――止まった。

 

 

 

 

 

 

 ―――勝負あり!

 

 

 

 

 

 

 沸き起こる歓声の中―――信田の声が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      あの時から―――始まった。

 

 

 

 

 

 

 あんてぃりーねのゆぐどらしる☆だい☆ぼう☆けん☆

 

 

           第三話

 

 

「もえあがれ?ねっせん?れっせん?ちょうげきせん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      あの時から―――ここから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もえあがれ?ねっせん?れっせん?ちょうげきせん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あんてぃりーねのゆぐどらしる☆だい☆ぼう☆けん☆

 

          第四十六話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『  燃え上がれ!

     熱戦!烈戦!超激戦!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの時から―――ここから。

 

 そして、私は目標に向かい、これからも走る。

 

 赤いマントをたなびかせた、あの人を追い駆けて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 どうもちひろです。

 物語の終盤の大ボスや、ラスボスなんかに、物語の序盤の必殺技や、決め技で勝利を決めていくような展開は凄く好きです。
 悟空がどれだけ強くなっても、最後は元気玉で決着をつけるのと一緒ですね。
 ちひろはこれを元気玉理論と名付けています。
 今回のこの『ワールド・チャンピオン編』は正にその元気玉理論…みたいなものです。
 初めての強敵に勝った時の、拙い遠心力からの弾き飛ばし、只の力技を、この大舞台の決め手にしたかったんです。
 ユグドラシルにきて、始めて戦った強敵、あの振り回しから、ここから、彼女の戦いは始まりました。
 そして、たっちさんに制圧され、手も足も出なかった、あの時から、彼女の目標は決まりました。
 この二つのお話のタイトル名は、一緒ですが、三話はひらがなと?マークで、四十六話は漢字と!マークです。
 これは、三話は物語の始まりであり、彼女がまだ子供であると言う意味を、ちひろなりに込めています。
 漢字よりも幼い字―――ひらがな。
 戦いと言う物がまだよく分かっていない―――?マークです。
 そして今回の四十六話まで、彼女は沢山の強敵と戦い、仲間を作り、友達を作り、そして、大人になり、いっぱしの戦士になった。
 様々な経験を経て、大人の女性になった、そう言う意味をちひろなりに込めています。
 ひらがなよりも大人な字―――漢字。
 いっぱしの戦士となった―――!マーク。
 ですね。
 タイトルについては、そんな感じです。
 ちひろはそう言う意味を込めて、このタイトルにして、最初のお話と、この大舞台を繋げたつもりです。
 ちなみに、この三話のタイトル
 「もえあがれ?ねっせん?れっせん?ちょうげきせん?」は、かの超有名作品から拝借してます。
 最初は、三話のタイトルは「げきせん?」でした。
 そして、この四十六話は「激戦!」にする予定でした。
 しかし、三話を投稿する、直前です。
 本当に直前に「…すぅ~…なんか地味だなぁ~」となりました。
 よく覚えています。
 そこでちひろは考えていると、頭の中で「化け物…違うな…俺は悪魔だ。」と言う言葉がフラッシュバックした結果、気づいたら…ブロっちまってたんですよ。
 タイトルを見たちひろは、コナック星が爆発した時の様に、とぅどぅーと言う効果音が脳内に流れて…そのままこのタイトルになりましたとさ。
 この、明らかにブロっちまったタイトル名はこうして産まれました。
 タイトルが、薄くなって震えているのは、なんか、ブブブ…ブブブって漢字に変わっている様な、変化している様な演出のつもりです。 

 長く続いた『ワールド・チャンピオン編』もこれで決着です。
 彼女はまだまだ、目標を追い駆け、走り続けるでしょう。

 ちなみに、四章は後、二話あります。
 もう少し続きますので、お付き合いいただけたらなと思いますね。

 それでは、読んでくれてありがとう。
 また読んでくださいね。
 シュバ!!

 
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