あんてぃりーねのゆぐどらしる☆だい☆ぼう☆けん☆ ~泣き虫が伝説になるまで~   作:だいだろすちひろ

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 異世界カルテット三期制作決定おめでとう!

 からの、唐突なExtraEpisode投稿(ΦωΦ)

 ほのぼの回です。
 絶死さんが休暇を作ってイビルアイの所に遊びに行って、だらだらお喋りするだけの回です。
 


ExtraEpisode 番外編 ~キーちゃん遊びに来たよ~

 

 

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

 

 「う~ん、良い天気!」

 

 ぽかぽか陽気に包まれながら、漆黒聖典『番外席次』こと『絶死絶命』―――アンティリーネ・ヘラン・フーシェは背伸びをしながらそうごちた。

 

 基本的にシクルサンテクスの聖殿から出る事がない彼女には、この日差しは中々に気持ちのいいモノである。

 

 きょろり―――右を振り向く。

 

 人だかりができている、そこには雑貨店があった。

 

 きょろり―――左を振り向く。

 

 人だかりができている、そこには洋服店があった。

 

 絶死の口元が嬉しそうに緩む。普通の人間なら人だかりの多さにうんざりしそうなモノだが、絶死にとっては違う。久しぶりの外出だと、そう言う気分にしてくれるからだ。

 

 ここはリ・エスティーゼ王国の首都―――王都・リ・エスティーゼ。

 

 気が滅入るような聖殿勤務は今日はお休み、変装をした絶死が、久方ぶりの休暇を思う存分楽しむ為に、友人に会いにここまでやって来た。

 

 「ちょっとちょっと、絶死様、離れないで下さいよ。」

 

 「でさぁ。」

 

 絶死の耳に届く二つの声―――男性の声だ。

 

 一つは、漆黒聖典第一席次であり、漆黒聖典の隊長である『漆黒聖典』である。

 

 もう一つは、漆黒聖典第二席次『時間乱流』だ。

 

 絶死の存在は、秘匿中の秘匿。お供もなしに、外を出歩くなどありはしない。お目付け役の二人が、絶死に勝手な行動を取らない様に注意を促す。

 

 「いやいや、大丈夫だって、流石に迷子になる程子供じゃないわよ。」

 

 「姉さん、坊ちゃんの言いたい事はそう言う事じゃないと思いやすぜ。」

 

 「そうそう、目を離すと碌な事になんないんですから、あんた余計な事しかしないじゃないですか。」

 

 「はあぁん!?なによぉう!!ぶっ叩くわよあんた!!」

 

 「もぉう、やめて下さいよ、首もげちゃいますから、それ。」

 

 プンスカ怒る絶死の言葉に、隊長は軽い感じでそう言葉を返す。まぁ、軽く返してはいるが、その言葉には中々に物騒なワードが含まれているのだが。

 

 三人はわちゃわちゃと騒ぎながらも、歩む速度は落とさずに進んで行く。そして、ある場所で足を止めた。

 

 そこは、王都随一の高級宿の前だった。

 

 宿に足を踏み入れた三人は、受付に行き、ある人物に会いに来たことを伝える。そうして、宿のある一室まで進んで行った。

 

 ―――コンコン。

 

 絶死は扉をノックする。

 

 「どうもぉ~『リーネ・ヘラン』ですよ~。」

 

 大きな声で偽名を叫ぶ絶死の後ろでは、隊長と時間乱流は冷めた視線を送っている。なんじゃその偽名はと言ったような表情だ。

 

 ―――ガチャリ。

 

 そうこうしていれば、扉が開いていく。

 

 室内から顔を覗かせたのは、妙な仮面を被った少女だ。

 

 『蒼の薔薇』の『イビルアイ』が顔を覗かせた。

 

 ジロリと隊長の目が細くなる。

 

 蒼の薔薇のイビルアイ―――大物だ。

 

 休暇を取ってこの人物に会いに行くと聞いた時は隊長は耳を疑った。一体全体どこで知り合いに―――友人になったと言うのだろうか。

 

 その辺は非常に気になるが、重要なのはそこではない。絶死は、こともあろうにこの人物―――イビルアイに自分の素性を明かしたと言う。

 

 いやいや、大問題だろそれ―――と、隊長は頭を抱えたモノだ。

 

 絶死の存在は、秘匿中の秘匿―――と言うか、聖典自体秘匿された部隊である。気軽に言ってんじゃねぇぞこの野郎と怒りが沸いてくる。

 

 しかしながら、イビルアイもアダマンタイト級冒険者の端くれ、事の重大さくらいは把握しているはずだ。気やすく周囲にこの事を喋ってしまえば、自分に危険が及ぶであろうことをだ。

 

 (ホント、碌な事しねぇな、この人は。俺の身にもなれってんだよ、全く。)

 

 取りあえずは、この事を誰にも話してはいないかの確認と、他言無用だと口止めをしておく必要があると隊長は考える。

 

 「…おい、余り大きな声をだすな。」

 

 「おっは~!キ…アイちゃん!レイモンドだよぉ~!」

 

 「誰だレイモンドって!だから声デカいんだよお前!!」

 

 「いいからさっさと入れ」そう言いながら、絶死を室内に入れようとするイビルアイだったが、チラリと絶死から視線をずらす。

 

 そこにいたのは勿論、隊長と時間乱流だ。

 

 隊長と時間乱流はぺこりとイビルアイに頭を下げる。そうすれば、イビルアイは「フン」と一つ言い放ちながらも「入れ」と言い、三人を室内に招いた。

 

 絶死が室内に入れば、そこにはイビルアイの他に四人の女性の姿があった。

 

 筋骨隆々とした偉丈夫の女性、忍び装束の同じ顔をした女性が二人、そして、金髪の一際整った顔をした女性が一人。

 

 リーダーの『ラキュース』

 戦士の『ガガーラン』

 忍者の双子『ティア』『ティナ』

 

 がこちらを見つめていた。

 

 「仲間達だ。」

 

 「蒼の薔薇集結…っていう訳ね。」

 

 絶死の言葉の後、ラキュースが一つ頭を下げ、絶死に向かい言葉を吐く。

 

 「初めまして、エリザベスさん…いや、本名は『リーネ・ヘラン』さんかしら、私はイビルアイの保護者のラキュースです。」

 

 「おい。」

 

 ドスの効いた声を出したイビルアイの声を聞いても、ラキュースはくすくすと笑うばかりだ。絶死は微笑みを作る。仲間内の馬鹿な掛け合いがそこにはあった。なるほど、どうやら、自分と別れてから、とても良い仲間に巡り合えたようだ。

 

 くすくす笑うラキュースであったが、その笑いは長くは続かなかった。なぜならば、ある人物が室内に足を踏み入れたからだ。

 

 ラキュースの表情が一変する―――いや、ガガーランもティアもティナも、即座に身を構えた。

 

 足を踏み入れた人物―――時間乱流を鋭く見つめ、身を構える。

 

 室内に足を踏み入れた瞬間から、アダマンタイトの強烈なプレッシャーをぶつけられた時間乱流だが、その姿はどこ吹く風だ。時間乱流は周囲を見渡した後に、ぽりぽりと自らの頭を掻いていく。

 

 「う~ん、姉さん、やってくれますね。全く困ったお人ですぜ。」

 

 ラキュース達の目の前で、ひょうひょうとしながら、ぽりぽりと頭を掻くこの男―――尋常ではない。

 

 アダマンタイト級の自分達を持ってしても届かない。そう確信させるだけの感覚を叩きつけられたからだ。

 

 息が詰まるような感覚が続く、しかしそんな感覚すら生易しい程の感覚が、追い打ちをかけて来た。

 

 「え?なんです?やってくれたって何をしでかしたんです?」

 

 続いて現れた好青年をみた瞬間、血の気が引いた。

 

 余りにも桁違い―――次元が違う。

 

 ―――つぅー。

 

 ラキュースの額から汗が滴る―――が、なぜだろうか、何やら目の前の怪物の額からは自分以上に汗が滴っている。というか、何やら顔色も悪い。口もパクパクしている。

 

 金魚かな?そう思っていれば。

 

 「お前ェェェ!!?友達に会いに行くって言うから付いて来たら!なんだこりゃァ!?」

 

 「いや、会いにきたじゃない?」

 

 「イビルアイに会いに来たんだろう!?蒼の薔薇に会いにきたんじゃねぇんだぞぉ!?」

 

 「いや、どうせキ…アイちゃんには色々とバレてるから、仲間にバレるのも時間の問題でしょ?」

 

 「その色々の口止めの為にも来てんだよォォォ!?お前ェェェ俺達がどんだけ秘匿されてるか分かってんのかぁ!?」

 

 「ちょ、ちょっと、坊ちゃん、それ答え言ってやすぜ。」

 

 火山が大噴火したかのように、好青年は目の前のエリザベス―――絶死に大激怒している。

 

 余りにも訳の分からない状況に、ラキュースが仲間達に視線を移せば、仲間達もまた首を傾げている。

 

 そんな中、只一人イビルアイだけは「ドンマイ」となにか呟いていた。

 

 「ほんッッッと!お前!!余計な事しかしねぇな!!このブス!!」

 

 目の前の怪物が最後に言い放った言葉は、余りにもあんまりな言葉だった。

 

 「ぷっ」っと、ラキュースは先程までの緊張感が嘘だったとでも言わんがばかりに、笑いを漏らした。

 

 まるで、子供が苦し紛れに言い放った悪口の様な言葉が聞こえて来たからだ。自分達ですら、足がすくむ程のプレッシャーを感じる人物が言い放つには、余りにギャップが大きすぎたから、だから笑ってしまう。

 

 まぁ、ラキュース達は知らないが、隊長はマジックアイテムで変装をしているだけであって、実際はまだ子供であるのだが。

 

 隊長の感情に任せた子供じみた悪口にラキュースは笑っているが、ある人物だけは、笑わない―――ギロリと隊長を睨みつける。

 

 「―――は?ブス?死ぬかテメェ?」

 

 聞きずてならんと、絶死が隊長を睨みつける。

 

 「―――あぁ!?聞き間違えたかなぁ!?誰が死ぬって!?」

 

 メンチを切る両者であったが、先に動いたのは―――絶死。

 

 ゆっくりと両手を広げた絶死が、ピタリと両手で耳を塞いだ。聞こえませんのポーズだ。そして「べ~」と舌を出し隊長を挑発した。

 

 ―――ピープー。

 

 その行為を見た隊長が顔を真っ赤にして怒る。まるでゆでだこの様になった隊長が、絶死の背後に回り込み、首を締めあげた―――チョークスリーパーをかけていく。

 

 「お前ェェェ!!」と叫びながら、隊長は絶死の首を締め上げるが、残念ながら、絶死の首はそれぐらいではビクともしない。『ワールド・チャンピオン』は伊達ではないのだから。

 

 「んべぇ~」と挑発を続ける絶死の首を、隊長は全力で締め上げる。それを他所に、時間乱流は室内を歩き、蒼の薔薇の面々に対面していく。

 

 「騒がしくてすいませんね、お嬢さん方。まぁ、何となく察しはついていると思いやすが、他言無用にしてくだせぇ。こちらとしても、面倒な事にはしたくないんでね。」

 

 無言で見つめ合う蒼の薔薇の面々に、イビルアイが問題ないと言葉を掛けていく。その言葉を聞けば、蒼の薔薇の緊張が解けていく。

 

 こくりと一つ頷いたイビルアイが、時間乱流の肩をポンと叩いた。

 

 「大変だな、お前達も。」

 

 「ですね。まぁ、自分としては暇をしなくていいですがね。」

 

 「はん。」

 

 イビルアイは鼻を鳴らす。この男、ひょうひょうとしているが、どうやら中々に豪胆な男の様だ。

 

 「この野郎ォォォ!!」

 

 「んべぇ~。」

 

 イビルアイは視線を二人に移す。一つ溜息をついた後に、二人を落ち着かせようと歩み寄っていった。

 

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

 

 大陸の中央部、幾多の亜人達の国家がひしめく群雄割拠地帯。

 

 しかし今は―――見るも無残。

 

 崩壊した建造物―――荒れ果てた大地。

 

 何が起きたのか。

 

 誰がやったのか。

 

 それは分からない。

 

 そんな大陸中央部にポツンと絶死は佇んでいる。

 

 ゆっくりと絶死は構えを取り―――上空を見つめた。

 

 動かない。

 

 何も動いていない。

 

 まるで静止した時の中に放り込まれたかのようだった。

 

 絶死は空中を見つめる。

 

 動かない。

 

 何も動いていない―――ただ一つを除いては。

 

 空中からある物が降ってくる。

 

 炎の塊が。

 

 まるでそれは太陽の様だった。

 

 炎の塊が降ってくる―――物凄い速度で。

 

 静止した時の中を、まるで嘲笑うかの様に、物凄い速度で。

 

 ―――すぅー。

 

 絶死は一つ息を吸った。

 

 ―――はぁー。

 

 絶死は一つ息を吐いた。

 

 そして降ってくる炎の塊を見据え―――腰を一つ落とす。

 

 そして、一つの言葉が耳に届いてくる。

 

 「―――滅びよ、人と名乗る生命体よ。」

 

 絶死は全神経を研ぎ澄ます―――そして。

 

 「―――こい!」

 

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

 

 「―――って言う初夢をこの間見た訳よ。びっくりして…んが!?って起きちゃった。」

 

 「ほう、夢か。私には縁のないモノだな。」

 

 「え?ちょっと待って下さいよ。初夢って、今年始まってもう四ヶ月くらい経ちますけど、今まで夢見てなかったんですか?快眠すぎません?流石に。」

 

 紅茶を嗜みながら、絶死はイビルアイと談笑している。そんな二人の会話に割り込む形で、隊長が鋭いツッコミを入れていく。

 

 「まぁね、健康体ですから、私は。」

 

 「そう言うもんですか?」

 

 フンスと絶死は胸を張る。睡眠は絶死の特技の一つだ。パッと寝て、気づけば朝が来ているくらいには深い眠りに付く事ができる。

 

 夢は余り見る方ではない絶死だが、この夢を見た時は、実は勤務中だったりする。宝物庫で警備と言う名のぐーたらを楽しんでいた時に、居眠りをしてしまった時がある。

 

 一応は勤務中という事もあり、緊張感があったのだろう、眠りが浅くすぐに目が覚めた。

 

 実はその際、『占星千里』の装備であるセーラー服を着て遊んでいたのだが、気づいたら寝てしまっていた。危なかった、あのまま発見されていたら、自分のイメージは大暴落する所だったと冷汗をかいたのを良く覚えている。

 

 ちなみにこの事は隊長は知らない。言う訳がない、勤務中に寝てたなど知られたら何を言われるか分かったモノではないからだ。

 

 「と言うか、縁がないって、イビルアイさんも夢は見ないのですか?」

 

 ―――ドキン。

 

 隊長のその言葉に、イビルアイの動いていない筈の心臓が跳ねた様な感覚に襲われる。

 

 「そ、それはですね!イビルアイは魔法の研究が趣味で、睡眠をとらなくても良くなる魔法を良く使うからなんですよ!!」

 

 ドギマギするイビルアイを救助すべく、ラキュースが慌てて話に割って入ってくる。ラキュースの言葉を聞いた隊長は、少し感心した様な素振りを見せた後、納得をしてくれた。

 

 「ほぉ、なるほど。そんな魔法が…いや、オリジナルという事か。時間を有意義に使えそうだ、悪くない魔法ですね。」

 

 「でも、睡眠をとらないのは精神衛生上良くないですぜ?たまには寝た方が良いんじゃないですかい?」

 

 「え!?あ、あぁ…そうだな、たまには寝る事にしようか!は、はは!」

 

 取りあえずは、イビルアイは笑ってごまかす。笑いながらも、仮面越しに友人のツレ二人を見渡すが、どうやら怪しんでいる様な風には見えない。仮面がもしなかったら、表情で怪しまれていたかも知れないと仮面に感謝する、あと助け船を出してくれたラキュースにもだ。

 

 「しかしだ、世間は狭いねぇ、まさかこんな近くにこんな強さの人間がいるなんてよ。」

 

 笑いで誤魔化すイビルアイを他所に、ガガーランがそう言葉を発した。ガガーランが言葉を発した相手は時間乱流だ。

 

 壁にもたれ掛かり、腕を組んでいた時間乱流であったが、ガガーランのその言葉に組んだ腕を解き、右手の人差し指を口元に持っていく。しーのポーズだ。この事は秘密だと、そう言いたいのだろう。

 

 「…そうなるよな。安心しな、お前さん達クラスを隠し通せる様な所に目を付けられたくはねぇからよ。」

 

 「そうしてくだせぇ、こっちとしても面倒な事にはしたくないんでね。」

 

 「はは、そうかいそうかい…しかしあれだなお前さん達みたいなのがいるんなら、ガゼフのおっさんも大変だな、仮にやり合えば…周辺国家最強の座を返上しなきゃなんなくなるねぇ。」

 

 「その辺に関してはなんとも言えやせんね、勝負は終わるまで分かりやせんから。」

 

 「殊勝だねぇ。」

 

 「事実を言ってるだけでさぁ。」

 

 言葉を交わすガガーランと時間乱流の声が、絶死の耳にも届いてくる。

 

 ガゼフ・ストロノーフ―――周辺国家最強の剣士の名前が聞こえてくる。王国戦士長の役職に就く男の名だ。その役職は、絶死にとっては少々複雑な気持ちを抱いてしまう役職だが。

 

 「ガゼフ…ストロノーフねぇ。」

 

 「なんかいつもストロノーフの話題になるとしんみりしますよね、あなたは。」

 

 「ん~…色々とあんのよ。」

 

 「ガゼフか…純粋な力量ならあの男の方が上だろうが、王国の五宝物を装備してしまえばどうなるかは分からんぞ?」

 

 「五宝物?」

 

 「いやいや、なんで知らないんですか?王国の最高峰の装備ですよ。特に『レイザーズ・エッジ』は少々ヤバめな代物ですよ。」

 

 「レイザーズ・エッジか…あらゆるモノを切り裂く王国最強の宝剣だな。」

 

 そんな剣があるのかと、レイザーズ・エッジの説明をするイビルアイを見ながら絶死は思う。そしてその途中に、ふとある事を思い出す。

 

 「ん?レイザーズ・エッジ?あれ…『刀』は?」

 

 「ん?刀?」

 

 絶死の問いに対して、イビルアイは少し考える仕草をする。しばし考えている様子であったが、答えがでなかったのだろう、イビルアイは問いの内容をガガーランに投げかけた。

 

 「おい、筋肉。」

 

 「誰が筋肉だ!誰が!」

 

 「ガゼフ・ストロノーフが刀を使うなどと聞いた事があるか?」

 

 「あん?刀?刀って、南方から流れてくる、あの刀か?」

 

 「そうそう、その刀よ。」

 

 眉を顰めるガガーランが、ラキュース達に視線を送る。そうすれば、仲間達はふるふると首を振った。

 

 「皆聞いた事ねえってさ。ていうか、ガゼフのおっさんは刀なんて繊細な武器は苦手なんじゃねぇか?」

 

 「あ…そうなんだ…ふーん。」

 

 「そう言えば姉さん、武器と言えば、こちらのお嬢さんはあの十三英雄の伝説に出てくる魔剣の保有者らしいですぜ。」

 

 絶死の視線がラキュースに向く。蒼の薔薇のラキュースが、魔剣を持つと言うのは非常に有名な話だ。視線を向けられたラキュースは少し恥ずかし気な雰囲気を醸し出す。

 

 「かつて十三英雄の一人が振るったと言われる魔剣の一つ『キリネイラム』。暗黒の力を圧縮し放出する事ができる。」

 

 「え?なにそれ、凄い。」

 

 なにやら少しドヤッた感じでイビルアイは絶死に対し、得意げに説明を始める。魔剣キリネイラム、名前ぐらいは絶死も聞いた事はあるが、その性能はなんともロマン溢れるモノの様だ。

 

 「ふふん、そうだろ!ラキュースはこの技の名前を『暗黒刃超弩級衝撃波(ダークブレードメガインパクト)』と名付けてな!」

 

 「は?」

 

 「ちょ!ちょっとイビルアイ!?」

 

 慌てるラキュースに不思議そうな視線をイビルアイは向ける。いや、部屋の中にいる者達が―――ある一名を除いた者達が同じような視線を送る。

 

 「イビルアイ…その…その話はいいから。」

 

 「そ、そうか?あ…そうか…そう言う事か。」

 

 「何が!?」

 

 「リーネよ…恥ずかしながら、キリネイラムは暗黒の力が保有者の人格を蝕んでいくと言う特性があってな…。」

 

 「は?」

 

 「ちょ!?だからちょっと!?」

 

 焦るラキュースに振り向いたイビルアイは、ふるふると首を振った。

 

 「いいんだ、ラキュース。」

 

 「何が!?だから何が!?」

 

 焦るラキュースから視線を絶死に戻したイビルアイは、少し深刻そうな空気で、絶死に喋り掛ける。

 

 「特性とは言うが、一種の呪いなのだろうな。悔しいが、この様な呪いは私でも聞いた事がなく、対処のしようがないんだ…お前は何か知らないか?」

 

 「え?…あぁ…。」

 

 絶死はチラリとラキュースに視線を向ける。必死だ、顔は紅潮し額からは汗が滴っている。正に必死―――が、この必死さは何やら恥ずかしい事を隠したい時にする必死さにも見えてくる。

 

 もしやこの娘―――そう思っていると。

 

 「あぁ、そう言えば絶…リーネさん、前のあれなんかどうです?」

 

 「!?なんだ!なにか方法があるのか!?」

 

 「は?あれ?」

 

 「あれですよあれ…なんか、よく分からない文字が書かれた包帯を右手に巻いてた時があったじゃないですか?」

 

 ―――ピクリ。

 

 文字が書かれた包帯―――その言葉を聞いた時、ラキュースの眉が少し動いた。

 

 その反応を見た隊長は、少し間を空け、更に喋る。

 

 「…あぁ、なんでしたっけ?呪い退散…でしたっけ?」

 

 「ん?あぁ『忌呪帯法(いじゅたいほう)』のこと?」

 

 ―――ガタリ。

 

 忌呪帯法(いじゅたいほう)―――その言葉を発してすぐに、ラキュースが動いた。椅子に座っていたラキュースが、前のめりに乗り出し、絶死に強烈な視線を送っている。

 

 ラキュースの胸の鼓動が高まっていく。

 

 忌呪帯法(いじゅたいほう)、全く持って聞いた事の無い名前だ。だが、なぜだろうか、鼓動が高鳴る、なぜ自分はこれ程にこの聞いた事の無い言葉に魅入られる―――なぜ自分はこれほどにときめいている。

 

 「…ふぅ。」

 

 その姿を見た絶死は、一つ息を吐いた。

 

 「残念だけど…あれは無理ね。」

 

 「え?そうなんです?」

 

 「な!?そ…そうなのか。」

 

 隊長とイビルアイの言葉を聞いた絶死は辺りを見渡す。皆言葉を発してはいない、皆が真剣な眼差しを自分に送っているのが見える。

 

 絶死は―――ニヤける。

 

 右手をゆっくりと自らの口元に持っていった。

 

 ―――はぁはぁ。

 

 ラキュースの息が荒くなる。

 

 ただただ、右手で顔を覆っているだけだ、それなのになぜだろうか、このときめきは。この行為に、自分は魅入られてしまう、目を背けられない。 

 

 絶死は、必死に自らを見つめている女性―――ラキュースに向け、ある言葉を放つ。

 

 ニヤリと口角を吊り上げながら。

 

 「巻き方を忘れちまったからな。」

 

 ―――ダン。

 

 ラキュースが力強く両手を机に打ち付け、更に体を乗り出してくる。

 

 ―――ふーふー。

 

 荒い息の音が部屋の中に響く。

 

 「なんだそりゃ?相変わらず使えねぇなお前。」

 

 「なんだぁお前その言い方!?ていうか相変わらずってなんだ!?相変わらずって!?」

 

 隊長のそのあんまりな言葉に叫ぶ絶死だが、その際に再度周囲を見渡す。

 

 蒼の薔薇の面々は残念そうな表情をしている、そんな中、ラキュースだけは未だ鼻息荒く、目を見開きこちらに視線を送っていた。

 

 なるほど―――絶死はそう思う。

 

 傍から見れば、呪いを解くため必死になっている様に見えるだろう。しかし、絶死には分かる。鼻息荒く見開いたその瞳の中にある、キラキラとした輝きが。

 

 もっと聞かせろ。もっと他にはないのか。そう思い、期待しながら、キラキラ輝いている。

 

 少し残念そうに首を振ったイビルアイが、ラキュースを優しく椅子に座らせた。非常に名残惜しそうな表情に見える。

 

 その姿を見た、隊長、時間乱流、絶死の中に浮かぶ思い。

 

 (必死だな…しかし、キリネイラムにそんな凶悪な特性があったとは…神官長達に報告しておいた方がいいか?蒼の薔薇のラキュース…貴重な人類の戦力を失いたくはないな。ていうか、この人本当に使えねぇな、何が「巻き方を忘れた」だよ、覚えとけよな。)

 

 (魔を払うのが神官の真髄…そんな者が魔に侵食されつつあるのは恥じて当然でさぁ。)

 

 (あぁ、なるほどね、この娘『あっちの世界』にいっちゃった系だこれ。)

 

 あっちの世界―――それは『極めて近く限りなく遠い世界』。

 

 自らのすぐ傍にありながらも、その世界に足を踏み入れる事は容易な事ではない、なぜならば、理性が拒むからだ。

 

 どんな者であっても、その世界に行ってしまいそうになる事がある。この様子を見るに、未だ羞恥心は残っていそうだ、これならばまだこちらの世界に戻ってくる事ができそうだが、ウルベルトクラスまで踏み入ってしまえば、もうこちらの世界に戻る事は叶わないだろう。

 

 「あぁ…そう言えば、魔剣と言えば『聖剣』、聖王国の聖騎士長は聖剣『サファルリシア』を持っているとか。」

 

 空気を変える為、時間乱流は魔剣の対となる聖剣の話題を振っていく。気を使っているのだろう。

 

 「聖騎士長―――『レメディオス・カストディオ』ですね。相当な使い手と聞いた事があります。」

 

 「カストディオ―――『英雄の血筋』か。」

 

 隊長の後にイビルアイの言葉が続く。紅茶を一口飲んだ後、少し調子を取り戻したラキュースが、気を使われている事に気づき、恥ずかしそうに喋り出す。

 

 「聖王国の英雄『フォルカ・カストディオ』ですね。当時強大な亜人の長を単身撃退したと伝えられてますね。」

 

 「なんか、すんげぇ武技使ってたらしいぜ。大爆発するんだとさ。」

 

 「亜人を撃退した後も、己を鍛え続けた傑物。」

 

 「強くならなくては…それが口癖だったらしい。」

 

 「最初は力を隠していたとも聞いた事があるな、亜人の襲撃の際に隠していた力を使い、亜人の長を撃退、しかもその功績を鼻にかける事は一切なかったらしい…高潔な男だ…正に英雄だな。」

 

 時間乱流の作った流れに乗るべく、蒼の薔薇の面々がこぞって語り出す。

 

 フォルカ・カストディオ―――百年程前に存在した聖王国の英雄の話題は、昔話としてもかなり人気の高いモノだ。皆の口調が軽い。

 

 「私会ったことあるわよ。」

 

 皆が軽い口調で話している中、一人爆弾を投下する者がいた。

 

 「おいぃぃぃ!!お前ぇぇぇ!?」

 

 隊長が全力で叫ぶ。なんでコイツはペラペラと自分の情報を話すのだろうか。口を開けば余計な事しか言わない人物の両肩を掴み、全力で揺さぶっていく。

 

 ぐらぐら揺さぶられる絶死を見ていたラキュースがクスリと笑う。

 

 「大丈夫ですよ、ヘランさんが『ハーフエルフ』なのは皆知ってますから。」

 

 「…そうですか。」

 

 「そうだぞ、だからこの手を離せ。」

 

 「やかましい!」

 

 額に青筋を浮かべた隊長が絶死の肩を掴んでいた手を離す。

 

 (こいつら、一体どこまで知ってやがる…蒼の薔薇にこれ以上情報は渡したくはないな。)

 

 「ねぇ、なんでコイツ怒ってんの?」

 

 「姉さんが自由過ぎるからじゃねぇですかい?」

 

 ―――ピキ。

 

 隊長の額に新しい青筋が浮かぶ。

 

 「まぁまぁ、楽しくじゃれ合ってるとこわりぃがよ、会ったことあるってマジか?」

 

 「え?うん、会ったことあるわよ。」

 

 「凄いわね、長寿の種族って。」

 

 「なぁ、やっぱ武技凄かったか?」

 

 「う~ん…この話聞いてるといつも思うんだけど、爆発する武技とか使ってたかな?私あんまり覚えてないのよね。」

 

 「まぁ、昔の事だし、しょうがありやせんね。」

 

 「いや、それもあるんだけどさ、なんかその当時、私色々と忙しかった記憶あるのよね…不眠不休で色々やってて、だからあんま覚えてないのよね、立ったまんま寝てたくらいだし。」

 

 「不眠不休で悪さしてたんスか?絶対フォルカ・カストディオにもなんか余計な事してるだろ。」

 

 「なによう、ぶっ叩くわよ。」

 

 「やめて下さい、首がもげます。」

 

 二人のスムーズに進んで行く会話に、辺りから笑い声が零れる。こうして、楽しい時間は過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

 

 「それじゃあね、アイちゃん、また遊びに来るから。」

 

 「あぁ、今日は楽しかったよ。」

 

 楽しい時間は直ぐに過ぎていく。帰宅の時間がやって来た。名残惜しそうな雰囲気の絶死が、何やらごそごそと持ってきた鞄を漁る。取り出されたのは―――手紙。

 

 「アイちゃん―――これ、()()()()()()()()()。」

 

 「…そうか、分かった渡しておくよ。」

 

 「おい、キーちゃんって誰だ。」

 

 「ん?友達。大丈夫、これは余計な事じゃないからさ。」

 

 「…なら良いですけど。」

 

 絶死は名残惜しそうにイビルアイに手を振る。その後では、隊長と時間乱流が各々ぺこりと頭を下げた。

 

 そうして、絶死達は、法都に帰還していった。

 

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

 

 日が暮れた王都を月明かりが照らす。ここは王都の高級宿の一室であり、滞在者は蒼の薔薇のイビルアイ。

 

 明かりの付いていない部屋の窓から、月明かりが部屋の中に射し込んでいる。そんな窓の前に立ち、月明かりに照らされながら、イビルアイこと『キーノ・ファスリス・インベルン』は、絶死から手渡された手紙に目を通す。

 

 イビルアイは、手紙の内容を無言で読む。手紙の最初から最後まで、しっかりと目を通していく。

 

 読み終わったイビルアイは、ゆっくりと自らの仮面を取り外し、窓から見える月を見上げる。イビルアイの綺麗な金髪が、月明かりに照らされ輝く。その姿は非常に美しいモノだった。

 

 月を見上げたイビルアイの眉が顰められる。そして、ゆっくりと、小さな声で呟いた。

 

 「()()()()()()()をしてしまったツケが、どうやらまわって来たようだな、リーダーよ。」

 

 そう呟いたイビルアイは、ゆっくりと瞳を閉じた。過去の出来事に、自分達の旅に思いを馳せながら。

 

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

 

 イビルアイが思いを馳せている頃、隣の部屋では、同じように月明かりに照らされながら、『ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラ』が机に座り、何やら筆を走らせている。

 

 スムーズに筆を走らせるその姿を、窓から射す月明かりが照らせば、妖艶で美しいその顔が露わになる。

 

 艶めかしく口元を歪ませるその表情は、美しく不気味であった。

 

 ラキュースは筆を走らせる、羊皮紙にではなく―――包帯に。

 

 綴られる文字はどの国の文字なのだろうか、恐らくは誰にも分からないだろう、筆を走らせているラキュースにしか。

 

 歪で、禍々しい文字が綴られていく。

 

 長く走らせたその筆も、動きを止める。どうやら、文字は書き終えた様だ。

 

 ゆっくりと、ラキュースはその包帯を右手に巻いていく。蕩ける様な瞳で、右手に巻く包帯を見つめながら、「はぁはぁ」と息遣いを荒くする。顔は紅潮し、妖艶さを更に引き上げていく。

 

 右手に巻き終えた包帯を見つめれば、息遣いは更に荒くなる。顔は更に紅潮し、高鳴る鼓動が部屋全体に響き渡る様な錯覚さえ起こす程だ。

 

 ゆっくりと机から立ち上がったラキュースが歩を進めたその先にあったのは『魔剣・キリネイラム』。

 

 壁に立てかけられたキリネイラムを握り締めたラキュースが、剣を構える。

 

 始まるのは―――シャドー。

 

 仮想の敵との戦いが始まっていく。

 

 徐々に戦局は変貌していく。ラキュースの眉間が険しく歪んでいく。恐らくは追い詰められているのだろう。

 

 敵も然る者―――そう言う事だ。

 

 ピタリとラキュースは動きを止め、正面を見つめる。

 

 窓から射す月明かりが、横顔を照らす。その様は非常に美しかった。

 

 妖艶な笑みを浮かべたラキュースが、ゆっくりと左手を右手に向かわせる。

 

 そして口元を吊り上げ、小さな声で呟く。

 

 「もう―――」

 

 ―――シュルシュル。

 

 巻かれた包帯が解かれ、床に落ちていく。

 

 「後戻りはできないわよ―――」

 

 包帯が解かれ、床に全て落ち切った。

 

 そしてラキュースは、右手で自らの顔を覆った。

 

 「―――巻き方を忘れちまったからな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 日が沈み、月明かりに照らされた王都の高級宿の一室。

 

 そこは―――極めて近く限りなく遠い世界。

 

 

 

 

 

 

 





 
 北斗の拳の新作アニメが2026年に放送されるみたいです。


 どうもちひろです(ΦωΦ)

 ナザリック防衛戦が中々進みません。
 ただ、きちんと書いてはいます。
 現在三話できたくらいです。
 それでも、内容は半分も進んでいなく、もしかしたら10話くらいになるんじゃないかな?と少し思っています。
 このままでは、六月どころか七月に投稿するのも難しいと思い、生存してますよの意味を込めたExtraを急遽一本書きました。
 できれば七月中に全部書き終えて、修正しながら連続投稿したいなとか思っていたりいなかったり。
 七月中に4.5章ができあがらなければ、もう一本Extraを書いて投稿したいなと思ってます。
 しかし、Extraは100年後のお話なので、本編が進まないと書けない内容も多いです。
 現状王国しか、それも蒼薔薇くらいしか出せないと言うね。
 
 それでは、ちひろはまだ生存していますの報告でした。
 どうにか七月中には投稿したいです。
 シュバババ!!

 
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