あんてぃりーねのゆぐどらしる☆だい☆ぼう☆けん☆ ~泣き虫が伝説になるまで~   作:だいだろすちひろ

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 前回のあらすじ

 ダイゲンガー起動!!
 侵入者達に唐突な無理ゲー感が襲い来る。


集う強者(つわもの)

 

 

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

 

 四階層『地底湖』で、侵入者達の猛撃をギルメン達が迎え撃っている間、その上の階層である、三階層『墳墓』では、未だヘロヘロ率いる迎撃部隊が、群がる侵入者達を相手に激闘を繰り広げている。

 

 「どんぐらい下に行った!?」

 

 「正確には分からないが、多分八割くらいかな?」

 

 「八割!?ほとんど突破されてんなおい!」

 

 「侵入者が二千と仮定して、ブラック・カプセル送りになった者達は百人くらいか…ここまで来たのが千九百と考えれば…千七百は下の階層までは進まれた感じかな?」

 

 朱雀の冷静な言葉を聞き、ウルベルトは周囲を見渡す。わらわらとプレイヤー達の姿が見えるが、五百や六百はいないだろう。

 

 「まぁ、確かにここに残ってるのは二百くらいか!なんでこいつらは下にいかねぇ!?」

 

 「そりゃあ、私達を叩き潰すつもりだろうさ、ギルド武器破壊は他の連中に任せて、自分達は直接自分達の手で積年の恨みを晴らそうって連中なんだろう。」

 

 「チィ!!はいはい!そう言う事ね!納得しましたよ!!あぁ!!うちの傭兵モンスターがぁぁぁ!!」

 

 前線ではヘロヘロが抑え、フラットが奇襲をしかけている。その中で、二人をサポートしているのが高レベルの傭兵モンスター達だ。

 

 この三階層には、八十レベル以上の最高位の傭兵モンスター達の大半が集められている。三階層は突破される事が前提であり、ギルメン達は少数に抑えているからだ。

 

 ヘロヘロが奮闘する中、そのヘロヘロを守る為に、傭兵モンスターがまた一匹、盾になり死んでいった。

 

 その光景を見たウルベルトは頭を抱える。

 

 「おぃぃぃ!!コスト考えろやぁぁぁ!!一匹にいくら掛かると思ってんのぉぉぉ!マジでぇぇぇ!!?」

 

 「ウルベルトくん、それは相手に言っても…。」

 

 叫ぶウルベルトが魔封じの水晶を掲げ、封じられた魔法を発動させ攻撃をしていく。

 

 魔封じの水晶、スクロール、ワンド、魔導書―――MPを無駄には消費はできない為の、消費アイテムを用いた攻撃を続ける。

 

 「チィ!フラットさんの速度バフが切れたか!掛け直さなきゃな―――てぇ!スクロールねぇ!?」

 

 「もうかい!?想像以上に消費が速いね!?」

 

 想像以上のアイテムの消費速度に、ウルベルトだけでなく朱雀も驚く。アイテムは十分すぎる程持ってきていた筈なのだが、早すぎると。

 

 理由は明白―――それは、ウルベルトが考え無しに消費をし続けたからだ。悪いのはウルベルトだ。しかし、それでウルベルトを責めるのは酷と言う物。理由は、ウルベルトがいつも居る立ち位置―――ポジションによるモノが、現在の戦闘とは全くの別物だからだ。

 

 

 ウルベルトは後方支援の魔法詠唱者である。しかし、ひとえに魔法詠唱者と言っても仕事は一つではない。ウルベルトは『アタッカー』だ。強力な魔法攻撃で後方から敵陣営を爆撃していく強力なアタッカー。後方から指揮官の様に、戦場を見渡し、バフ掛けなどの支援をしていく事など殆どない。つまり、慣れてはいないからだ。

 

 サポートをする人物は、なにも滅多やたらにバフを掛け続ければいいと言う物でもない。必要な時に必要な補助を、それを、自分のリソースを考えながら行っていかなければならない。最も大事なのは継戦能力なのだから。

 

 元より、『ワールド・ディザスター』などと言う燃費の悪いクラスに就く人物である。リソースの調整など殆ど考えた事の無いウルベルトには、今回のポジションは未知の領域だろう。これが『モモンガ』であったならば、話は大きく変わっていたであろうが。

 

 「仕方ない!私が陰陽術でサポートを変わろう!」

 

 「――~~~!!あぁぁぁ!もう!じれってぇなぁ!朱雀さん!一発ぶっ放していいか!!?」

 

 「良い訳ないだろう!?それやったら、ウルベルトくん完全にお荷物だよ!?」

 

 「あぁぁぁ!だよなぁぁぁ!クソッタレ!せめて『ロリ吸血鬼』くらい配置できんかったんかね!!?」

 

 「『シャルティア』がいた所で戦況は大きくは変わらないよ。まぁ、少し楽になる程度さ…あれには別の役目があるだろう?」

 

 「ぐぬぬぬ」と悔しそうな声をあげるウルベルトを横目に、朱雀が補助魔法を前衛に掛けていく。

 

 ヘロヘロとフラット、そして前衛を任せている傭兵モンスターの一部にバフを掛けていれば―――周囲が大爆発を起こした。

 

 侵入者達が吹き飛んで行く。余りにも唐突に放たれた魔法に、侵入者達は対処が効かなかった様だ。

 

 朱雀の目が点になる。放たれた魔法は『爆裂(エクスプロージョン)』だろう。爆裂(エクスプロージョン)は高位階の魔法であり、威力、範囲共に申し分ない―――が、この威力は異常だ。

 

 断じてアイテムでの発動などではないだろう。術者がスキルを用いて強化し、放った一撃―――それも強力なクラスに就いた術者がだ。

 

 (ウゥゥゥルベルトォォォ!!?)

 

 無駄にMPを使うなと今言ったばかりなのに、この体たらく。睨みつけるかのように振り向けば、そこには「何が起きたの?」と言わんがばかりの空気を纏ったウルベルトがいた。

 

 「え?は?す、朱雀さん…なにあれ?」

 

 「はぁ!?ウルベルトくんじゃないのかい!?」

 

 「いやいや、違うって!流石の俺もそこまで馬鹿じゃない…おい!朱雀さんあれ!?」

 

 ウルベルトが指を指した先―――空中に悠々と浮かぶある人物が見える。

 

 非常に大柄な人物だ。身長は190~200㌢の間くらいだろうか、まごう事なき大男がそこには浮いていた。

 

 間違いない、先程の爆裂(エクスプロージョン)は間違いなくこの男が放った。そう思わせるだけの空気がそこにはあった。大男は空中から猛スピードで地上まで降りてくる。降りて来た場所は、侵入者達の密集地帯―――大爆発が起きる。

 

 「核爆発(ニュークリアブラスト)…?」

 

 発動した魔法を小さく呟いたウルベルトの視線の先では、大男が指を顎に当て、体に似合わぬ小さな声で喋り出す。

 

 「ん~…いつも思うのだが、この魔法は絶対に自分も巻き込んでいるよな?これ、現実だと自分も吹き飛んではいないか?仮に現実なら絶対に使いたくはないな…ウルベルト殿…貴殿はどう思う?」

 

 大男はウルベルトに語り掛ける。この魔法ヤバくね?と。

 

 「あなたは!?」

 

 ヘロヘロが大男に向かい言い放つ。

 

 「あんたは!?」

 

 フラットが驚きの声をあげる。

 

 「君は…?」

 

 朱雀が小さく言葉を放つ。

 

 「いや…誰お前?」

 

 ウルベルトが、いきなりなんだお前と言わんがばかりにそう言った。

 

 ―――ズゴー。

 

 その様な効果音と共に、三人はズッコケそうになる。ウルベルトの知り合いか?と思っていれば、どうやら全く心当たりのない人物だった様だ。

 

 三人の張り詰めていた緊張感が少し切れた―――その瞬間、前衛のヘロヘロに侵入者が迫りくる。

 

 不味い油断した―――そう思った瞬間。

 

 「ホォワッタァァァ!!」

 

 侵入者が宙を舞った。ヘロヘロを守るかのように割り込んできた中華風の男に弾き飛ばされていく。

 

 「油断!駄目!絶対!ヘロヘロ!ワカタ!?」

 

 「えぇ、すいません。助かりましたよ…それで、誰です?あなたは?」

 

 まただ、また知らない奴が出て来た。一体何がどうなっている?とヘロヘロが思っていれば―――答えは唐突に姿を表した。

 

 侵入者達がまるで嵐にでも巻き込まれたかのように吹き飛ばされていく。それは、ある人物が猛威を振るっているからだ。

 

 ある人物が暴れ回る―――野太刀が猛威を振るう。

 

 「龍突っ込むなって、しかし山さん、相変わらず派手だなおい。」

 

 野太刀を巧みに扱いながら、その人物はヘロヘロの元までやって来た。

 

 「よう、ヘロさん―――加勢すんぞ。」

 

 「…誰です?あなたは?」

 

 「アロービーチだろぉがぁぁぁ!!」

 

 その人物は―――アロービーチ。

 

 ムスペルヘイム最強の男が姿を表した。

 

 「はっはっは、いやいや、冗談ですよ、えぇ。」

 

 「あんたの冗談は笑えねぇんだよ!」

 

 「はっはっは、すいません…この方達はあなたの仲間という事ですね。」

 

 「だな。ここが落とされちゃ俺の遊び場がなくなっちまう―――そいつは困るんでね。」

 

 「そうですか、それは心強い。」

 

 思いもよらぬ戦力の登場に、ヘロヘロは笑みを作る。実際は、アロービーチ達が加勢した所で焼け石に水だろうが、それでもこの状況での増援は願ったり叶ったりだ。

 

 侵入者達は一瞬混乱した様な仕草を見せたが、即座に臨戦態勢を整えていく。同時に、ヘロヘロ達も同じく臨戦態勢に入る。

 

 ヘロヘロが構え、その横で龍が構える。典型的な中国拳法の構えだ。淀みなく構えられた美しい構えに、ヘロヘロは目を細める。

 

 ―――なるほど、この男もまた達人か。

 

 そんなヘロヘロ達の目の前に、突如『天使』が出現する。

 

 「熾天使(セラフ)―――聖属性か、厄介な。」

 

 ヘロヘロが舌打ちする。自分のカルマ値を考えれば、格下と言えども侮れる相手ではない。侵入者達の猛攻をいなしながら、耐えるのは骨が折れるな―――そう思っていれば、熾天使(セラフ)が侵入者達に猛威を振るいだした。

 

 またもや混乱の時間が訪れた。辺りを伺えば、アロービーチ達も同じく混乱している。これはアロービーチ達とは無関係、そう考えていれば、次は最高位の土の精霊(アースエレメンタル)が姿を表した。

 

 土の精霊(アースエレメンタル)も同じだ、こちらを助けるかのように、侵入者達に向け攻撃を始め出した。

 

 「―――あぁ、なるほどね…ギルの野郎も本気っつうことかね。」

 

 「アロビくん!?あれは!?」

 

 くいっと、アロービーチは顎をしゃくる。あっちを見て見ろ、そう言う意味だ。

 

 そこにいたのは、切り結びながら、こちらまで近づいてくる『青い髪の男』と『黒い髪の女』が見えた。

 

 「んあん!加勢に来たってんだよ!これがな!」

 

 「私は来たくなかったけどね!!」

 

 ヘロヘロ達の前に現れたのは『ねこにゃん』と『ルビアス』の二人。

 

 「よう、青髪。ギルに巻き込まれちまったか?」

 

 「まぁ、そんなとこだけどよ、『嬢ちゃん』には昔悪い事しちまったからな、あの時はごめんなさいの意味もあるんでね、これがな!」

 

 「私はしてないけどね!!」

 

 「誰かは分かりませんが、助かります。あの天使と精霊もあなた達の仲間が?」

 

 「だな、これが…ん?そうだ!これがな!」

 

 暴れ回る天使と精霊の間から、二人の人物がこちらまで近づいてくる。

 

 ターバンを巻いた好青年と、なんか変な仮面を付けた神官風な男だ。

 

 「兄ちゃん達!キリねぇぞ!」

 

 「あぁ…想像以上にやべぇなこれ。アラ―――」

 

 「天使マンだ!!」

 

 なんか変な仮面を付けた人物が叫ぶ、俺は天使マンだと。

 

 全員の時が少しばかり止まる。

 

 「いや、遊んでる場合じゃないでしょ、アラ―――」

 

 「俺は!天使マンだ!」

 

 「いや、ここに来た時点でもう無理だって、諦めろよアラ―――」

 

 「違ぁぁぁう!!俺は…天使マン…だぁぁぁ!!」

 

 「アラフの兄ちゃん無理あんぞそれ。」

 

 「だぁぁぁ!やめろぉぉぉ!天使マンっつってんだろぉがぁぁぁ!アインズ・ウール・ゴウンに加勢したのは天使マンなの!今からやる全ての事は天使マンの所為なの!アラフって奴とはなにも関係ないんだよ!」

 

 必死―――正に必死。

 

 天使マンこと『アーラ・アラフ』は、ターバンを巻いた好青年『ガンジョウ』の肩を掴み揺さぶりながら叫ぶ。

 

 「俺はなぁ!来たくなかったんだよぉ!つえぇ奴らがよぉ!それよりつえぇ奴らにぶっ潰されんのをなぁ、ほくそ笑みながら麻雀でもしてライブ配信で見てようかと思ってたのによぉぉぉ!なんでここにいんの!ねぇ!?なんでこんなことになってんの!ねぇ!?」

 

 「おうおう、清々しい程のクズだなおい。」

 

 「んあん?そうか?アラフはいつもこんなもんだぞ?」

 

 「おぉん?なるほど、青髪、お前もちょいとネジ飛んでんのな。」

 

 泣き叫ぶかの様に喚き散らすアラフを見ていたヘロヘロに、ふいに妙案が浮かぶ。現実世界なら、ニヤニヤと悪い笑みでも作っていそうな雰囲気を纏い、ポンとアラフの肩に手を乗せた。

 

 「えぇ、えぇ、分かりますよ、その気持ち。僕達みたいな悪党につくのはリスクが高いですもんね、えぇ、えぇ、そうでしょう、そうでしょう。」

 

 「ったりめぇだろぉ!?俺達はちっせぇクランなの!吹けば飛ぶの!」

 

 「えぇ、えぇ、そうでしょう、そうでしょう。そこで提案があるんですよ、この防衛戦を乗り切れたら―――僕達がバックにつきますよ。」

 

 「……。」

 

 急に黙り込むアラフは、肩に乗せられたヘロヘロの右手を力強く払っていった。そしてその払った手を仮面に持っていき―――力強く仮面を投げ捨てた。

 

 「くぅらぁぁぁ!何が天使マンじゃぁぁぁ!馬鹿かぁぁぁ!?俺はアーラ・アラフっつうんじゃあぁぁぁい!かかってこいやぁぁぁ!」

 

 うぅん、クズ☆―――清々しいクズ☆

 

 「こいつやべぇなマジで。」

 

 「んあん?そうか?アラフはいつもこんなもんだぞ?」

 

 「やっぱお前、ネジ飛んでんな…この姉ちゃんも飛んでんのか?」

 

 「あぁん!?一緒にすんなこのクソが!引きずり回すぞ!!」

 

 「おい!漫才やってる場合じゃないヨ!」

 

 天使と精霊が消滅していく。気楽にお喋りしている暇はどうやらないらしい。

 

 「ふぅ」一つ息を吐き、ヘロヘロは集中する。戦闘体勢に気持ちを切り替えていく。正直この状況は良くは分からない―――が、この少ない会話の中で一つだけ分かった事がある。

 

 それは、仲間としてこの人物達を信じても良いという事だ。中々に馬鹿な連中だ、自分達に似て―――そう思う。

 

 (そして、実力も生半可ではありませんね…これならいける。)

 

 龍とヘロヘロが拳を構える。

 

 ねこにゃんとルビアスとアロービーチが剣と野太刀を構える。

 

 山荒が空中に浮かび上がり、アラフとガンジョウが、再度、天使と精霊を召喚した。

 

 フラットは影に潜み、後方はウルベルトと朱雀がバッファーとして控えている。

 

 思いもよらぬ形で揃った布陣にヘロヘロは笑みを作る。これならば時間稼ぎくらいはできそうだと。

 

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

 

 ―――『エインヘリヤル』

 

 ルビアスの分身が出現する。ルビアスは命令を飛ばし、エインヘリヤルを前方に突っ込ませた。かく乱要因として。

 

 暴れ回る天使と精霊の間を縫うようにして、エインヘリヤルはヒット&アウェイを繰り返す。

 

 天使の魔法に追従し、攻撃を仕掛け、反撃はタンクである精霊の影に隠れやり過ごす。召喚者であるルビアスはエインヘリヤルが崩した陣形に飛び込み、更に陣形を掻き乱していく。盾で防ぎ、剣で防ぎ、魔法で攻撃しつつ、自らの回復もこまめに行う、そして順次エインヘリアルへと命令を下しながら、まるで自らの手足の様に操作していく。

 

 崩された陣形に魔法が飛んでいく―――山荒だ。

 

 山荒が魔法でアタッカー支援をし、周囲の雑兵が纏まり過ぎないようにしていく。恐るべきはその魔法の精密さだ、ここに集まった人物達は、フレンド登録は澄ましてはいない、各々の攻撃は一歩間違えれば仲間を負傷させるに到る―――が、誰一人その魔法には当たらない。

 

 龍とヘロヘロはお互いがお互いを庇い合い、見事な連携を見せている。二人はタンクを受け持ち、崩れた相手にフラットが暗殺術で攻撃を加えていく。

 

 ―――尋常ではない。

 

 ここに集うは正しく強者(つわもの)達。一癖も二癖もあるような連中だが、こと実力に関しては折り紙付きという事だ。

 

 そして、そんな強者(つわもの)達の中で、特に異彩を放っている者達がいた。

 

 ねこにゃんとアロービーチは背中合わせの体勢で、襲い来る侵入者達をいなし続ける。この数、倒すのは不可能だ―――が、時間稼ぎくらいはできる。

 

 ならば―――『待ち』に入り、いなす。

 

 「流石だな、青髪。」

 

 「んあん、喋る余裕あんとかやっべぇなお前。」

 

 迫る猛攻をいなし続けながらも、喋り掛けてくるアロービーチにねこにゃんは戦慄する。

 

 ワールド・チャンピオンの公式大会で、アロービーチはアンティリーネに敗北を喫した。

 

 しかし、あの時点では間違いなく、実力はアロービーチの方が上だったと今でも思う。

 

 ―――この男、未だ底が見えない。

 

 「つーか、他の連中はどうした?骸骨とかいただろ?」

 

 「んあん―――とぉ!あぁ、うちの『()()()()』は別の所に言ってもらってんよ!」

 

 「あぁ、そう言う事―――ねっと!うちと一緒だな『切り札』はここじゃねぇよな!」

 

 いなしながら会話を続ける二人の近くでは、ヘロヘロと龍もまた会話をしながら猛攻を凌いでいるのが見える―――アロービーチの目が細まる。

 

 (やっぱ半端じゃねぇな、ヘロさんは…アンティリーネの師匠なだけはある。)

 

 龍も正しく達人だ―――が、ヘロヘロと比べてしまえば龍すら霞む。

 

 『ヘロヘロ』、『アンティリーネ』、そして『たっち・みー』、アインズ・ウール・ゴウンの層の厚さに舌を巻く。

 

 (つーか、あいつら以外も結構やべぇんだよな…マジでぶっ飛んでんな、このギルド―――ん?)

 

 前方の陣形が唐突に崩れ出す。魔法も傭兵モンスターも何かしたようには見えない。もしかして、また増援か?そう思っていれば、アロービーチの目が見開かれた。

 

 陣形が崩れ、侵入者の一人が吹き飛んでくる。そして吹き飛ばした人物の姿が露わになっていった。

 

 「おい…おいおい…。」

 

 侵入者の一人がその人物に向け襲い掛かる。

 

 

 

 

 ―――コン。

 

 

 

 

 そしてその人物は体勢を崩す、足を払われた。

 

 そしてその人物の顔面が弾け飛び、そのまま体ごと吹き飛んでいく。

 

 「もぉう、やめてくれない?そんな素人みたいな動きをするの。曲がりなりにもユグドラシル最凶のギルドに楯突こうとしてるんでしょ?」

 

 女性の声が聞こえる。綺麗で優しい声だ。その人物にまた一人襲い掛かる―――が、先程と同じだ、体勢を崩され、吹き飛ばされる。その女性の両の手に持つ盾に穿たれ、吹き飛んで行く。

 

 「ほら、あなたも。やめてよね、素人を殴るのは気が引けるわ。」

 

 「おい…なんであんたがここにいる?」

 

 アロービーチの声が聞こえたのか、その女性は巨大な盾をこちらに向け、可愛く振った。

 

 「あら、坊やじゃない、久しぶりね、お姉さんよ~。」

 

 「いやいや…ステラの姉さん、なんであんたがいんだよ?」

 

 「んあん!アロービーチ、気ぃ抜くんじゃねぇ!」

 

 アロービーチを襲う攻撃を、ねこにゃんが捌く。アロービーチに緊張感が戻ってくる。そうだった、今は気楽に話をしている場合ではなかった。

 

 「ギルバートに頼まれちゃってね―――はい、あなたもそんなんじゃ駄目よ。私ってばお嬢ちゃんの大ファンだから―――はい、残念。加勢しにきたって訳―――だから、もぉう素人さんね。」

 

 襲い掛かる侵入者達を、まるで散歩のついでの様になぎ倒しながら、ステラがゆっくりとこちらまで歩いてくる。

 

 その姿を見て―――その場にいる全員が戦慄した。

 

 「に、兄ちゃん…なにあいつ?」

 

 「…多分サイボーグって奴だな…取りあえず同じ人間じゃねぇ。」

 

 「何と言う女性だ…盾をあのように使うとは…まさか。」

 

 「いや!突っ込むとこそこかい!」

 

 「何ヨアイツ!?もしかして、アロビを昔負かした盾の女!?」

 

 「まさか…その声…その動き―――愛理沙(ありさ)…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――は?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ステラの時が止まる。

 

 今、このスライムは何と言った?

 

 愛理沙(ありさ)

 

 それは自分の本名だ。

 

 なぜそれを知っている?

 

 その動きはとはどう言う事だ?

 

 なぜ自分の動きを知っている?

 

 知り合いか?

 

 しかし、自分の事を愛理沙(ありさ)と呼ぶ者は限られている。

 

 親族以外で、自分の事を呼ぶとき、誰もが『三島』と呼ぶ。

 

 自分の事を愛理沙(ありさ)などと呼ぶ者は。

 

 愛理沙(ありさ)などと呼ぶ男性は。

 

 今まで―――一人しかいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「うそ…先…輩?」

 

 「おい!姉さん!ボケっと突っ立てんじゃねぇ!」

 

 両サイドから襲い来る刃、しかし、ステラの意識は既にそこにはない。彼女の意識は目の前のヘロヘロに釘付けになっている。

 

 凶刃が―――襲い来る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――カン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鳴り響くは―――金属音。

 

 両サイドから襲った凶刃は、ステラを傷つける事は叶わなかった。

 

 両の盾に阻まれる。

 

 ―――どけ。

 

 右の盾で剣の方向を変え、体勢を崩し足を払った。

 

 左の盾でも同じようにして体勢を崩し足を払う。

 

 襲った二人の侵入者は同じ方向に倒れ込む、そこはステラの前方。

 

 両の盾は結合し、一つの大楯へと形を変える。

 

 そして、その大楯を倒れ込んだ二人の侵入者の顔面へと叩きつけた。

 

 鈍い音が響いた。余りに容赦のない攻撃に、今度はステラ以外の全員の時が止まる。侵入してきたプレイヤー達も含めてだ。

 

 「…ん?あぁ、ごめんなさい、ちょっと別の所に意識が言ってたみたい。素人さんにこんなことしちゃ駄目よね。」

 

 

 

 

 

 

 三島愛理沙(ありさ)―――日本武術会の頂点である三島家に長女として生まれ、幼少期から空手を習う。

 

 三島は代々、格闘技に精通した者達が夫婦となり、武術の血を濃くしていく。

 

 ある時はボクシングの世界チャンピオンと柔道の世界チャンピオンの夫婦。ある時はテコンドーの世界チャンピオンとレスリングの世界チャンピオンの夫婦。

 

 三島家は代々武術の血を掛け合わせ―――それも優秀な血を掛け合わせてきた。

 

 それは大正から?明治から?更に昔からと言う話すらある程だ。

 

 そんな武術の家系が生んだ―――いや、生んでしまった『怪物』。

 

 それが『愛理沙(ありさ)』。

 

 三島の歴史上最高の才能を持つ怪物。

 

 『鬼神』『闘神』『武神』―――様々な異名を持つ三島の者達ですら、震えあがり、戦慄してしまう程の才能がそこにはあった。

 

 愛理沙(ありさ)にとって、意識の有無はそれ程重要な事ではない。彼女は意識が無くとも、本能で動くだろう。本能だけで、敵を迎え撃つ。

 

 

 

 

 

 

 「お…おい、アロービーチ…あの姉さんヤバくねぇか?」

 

 「あぁん?そうか?ステラの姉さんはいつもこんな感じだぞ?」

 

 「んあん…ネジ飛んでんなお前。」

 

 しばし止まっていた時が動き出す。全員が現実を受け止め、ざわめきが波紋を作り広がっていった。

 

 「愛理沙(ありさ)…やっぱり…愛理沙(ありさ)なんだね。」

 

 「うそ…先輩なんですか…本当に…。」

 

 懐かしい声―――優しい声がステラを包む。

 

 「間違いない!この容赦ない攻撃!間違いなく愛理沙(ありさ)だ!」

 

 「あぁ…先輩―――え?」

 

 ん?おかしい?懐かしい声から何やら信じたくない様な言葉が聞こえてくる。

 

 「一切の容赦なく!無慈悲に相手を叩きのめす!相手の闘争心すら…いや、見ている者達の闘争心すら容赦なくへし折る!間違いない、この圧倒的な暴力感!間違いない!」

 

 「え!?えぇ!?えぇぇぇ!!?」

 

 「久しぶりだね、愛理沙(ありさ)!元気そうで良かった!」

 

 「ちょ!?ちょっと待って!?本当に先輩なんですか!?」

 

 「強い者が!必ずしも勝つとは限らない!押忍!!」

 

 「え!?え!?しょ…勝負は…終わるまで分からない…押忍…?」

 

 「やっぱり愛理沙(ありさ)じゃないか!暴力の化身!明王の化身!武の権化!」

 

 「ちょっと!?先輩そんなこと思ってたんですか!?」

 

 「あれ?言った事ありませんでしたっけ?」

 

 「ないですよ!」

 

 嘘だ、嘘だ。先輩はこんな事を言わないと、ステラは混乱していく。幻想が崩れ落ちていく。

 

 そしてそんなステラの元に届くのは笑い声だ。昔と変わらない、優しく、無邪気な笑い声。

 

 「まぁまぁ、僕も大人になったという事ですよ…こんな事を言えるくらいには…ね。何も言わずに道場を去ってごめんね、愛理沙(ありさ)。」

 

 「―――!!」

 

 「それで、愛理沙(ありさ)。君は味方と思っていいのかな?」

 

 「…もちろんです。」

 

 「一緒に戦ってくれるかい?」

 

 「―――押忍!!」

 

 ヘロヘロは周囲を見渡す。どうやら、侵入者達に戦意が戻りつつあるようだ。愛理沙(ありさ)のあの姿を見て良くもまぁそんな気が起きる者だと思うが、数の利とゲームと言う仮想空間がそれを可能にしているのだと気づく。

 

 戦闘の再開が近づくのを感じ取るヘロヘロであったが、何やら後ろが騒がしい事に気づき、ふと後ろを振り返った。

 

 そうすれば、何やらウルベルトが一人で騒いでいる。恐らくはメッセージで会話をしているのだろう。メッセージを飛ばしてきているのは、間違いなく他階層のギルメン達だろう。

 

 「―――えぇ、分かりました…ヘロヘロさん!」

 

 「どうしたんです?」

 

 「ダイゲンガーが!」

 

 「そうですか…ダイゲンガーですか―――ん?ダイゲンガァァァー!?」

 

 「四階層でダイゲンガーが起動した!ゲンの野郎が来てやがる!」

 

 想像の斜め上を行く情報に、ヘロヘロの気持ちは昂っていく。そうか、彼もまた、友達の為に駆けつけてくれたのかと。

 

 「勝機は見えた―――愛理沙(ありさ)!」

 

 「押忍!」

 

 「ダイゲンガーが起動しました!僕達も全力でここの防衛を!」

 

 「押忍!先輩!」

 

 「なんですか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ダイゲンガーって何ですか!?押忍!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 おまけ ~クシリン~

 龍「おい!クシリンいないヨ!?どこいったネ!?」

 ブラック・カプセル

 ログアウトログアウトログアウトログアウトログアウトログアウトログアウトログアウトログアウトログアウトログアウト―――クシリン「おんぎゃぁーーー!?!?」ログアウトログアウトログアウトログアウトログアウトログアウト…

 
 ―――ち~ん。
 クシリン、アウト~。

 
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