あんてぃりーねのゆぐどらしる☆だい☆ぼう☆けん☆ ~泣き虫が伝説になるまで~   作:だいだろすちひろ

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 前回のあらすじ

 伊豆です二連発は無理ゲーでくさ。


胸を張って生きなさい

 

 

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

 

 ―――『死せる勇者の魂(エインヘリアル)

 

 シャルティアの隣に、もう一人のシャルティアが出現する。全身白色のシャルティアが放たれた弓矢の如く、敵陣へ突っ込んで行く。

 

 死せる勇者の魂(エインヘリアル)は本人そっくりの人造物を生み出す。魔法行使能力やスキルの一部は使えないが、武装や能力値や耐性は本人と同じだ。

 

 開戦一番に切り札を切ったシャルティアが、自らも遅れて敵陣に突っ込む。分身と共に、歪な槍―――『スポイトランス』を振り回し、かく乱を始めた。

 

 シャルティアの強みはバランス力だ。何か一つに振り切っているNPCに比べれば、得意分野では劣るが、柔軟性は群を抜いている。極端に言えば、なんでもできるからだ。攻撃力、機動力、防御力が高水準でまとまっており、極めつけは魔法まで使用する。魔法も、攻撃魔法だけではなく、回復魔法から特殊まで幅広く使用できる。召喚スキルによる増援も可能であり、かく乱役には持ってこいだ。

 

 高い機動力と魔法を生かし、ヒット&アウェイを繰り返すシャルティアに、プレイヤー達は苛立ちを隠せない。近づいてきた所を攻撃しようと動けば、今度は弓と魔法の援護が飛んでくる。後方から、二人のダークエルフが遠距離攻撃を仕掛けてくるからだ。特に少年の方は鬱陶しい、放たれるのは広範囲の殲滅魔法であるからだ。

 

 この威力にこの範囲―――ディサイプル・オブ・ディザスターか。プレイヤー達に苛立ちが募る。

 

 鬱陶しい魔法とシャルティアの攻撃を掻き分けていれば、目の前に現れるのは純銀の聖騎士―――プレイヤー達の動きが止まる。それもその筈だ、相手はワールド・チャンピオンであると同時に、ユグドラシルの帝王でもある。警戒して当然の相手だ。そこに付け入られる。

 

 野太刀の切っ先がプレイヤー達を斬りつける。警戒し、動きの止まったプレイヤー達の間に『コキュートス』が割って入って来たからだ。四本の手には、建御雷がこしらえてきた至高の武器達が握られており、それが同時に襲い来る。プレイヤー達は面を食らう―――回転力が半端ではない。

 

 四本の武器による斬撃の雨あられに面を食らったプレイヤー達だが、敵も然る者だ、即座に対応し、コキュートスに斬りかかった―――が。

 

 ―――カツン。

 

 斬りつけた剣の軌道が変わった。その答えは、ある者がコキュートスとプレイヤー達の間に割って入って来たからだ。

 

 剣の軌道が変わる―――肘が軌道を変えていく。

 

 割り込んできたのは―――『アンティリーネ』。

 

 軌道を下方にずらされた剣が地面に接触すれば、甲高い音が鳴り響いた。即座に立て直そうと、プレイヤーは構えに入ろうとするが、それは叶わない。剣が持ち上がらない、地面と接触したままだ。なぜか?それは、アンティリーネが―――リーネが剣を踏み付けているからだ。

 

 ―――『次元断絶(ワールド・ブレイク)』。

 

 ワールド・チャンピオンのみに許された究極の攻撃スキルが炸裂していく。斬りつけられたプレイヤーは後方へ吹き飛び、その威力に驚愕している様が一目で分かる。それ程の動揺を露わにした。

 

 リーネとコキュートスが背中合わせになっていく。全方位から迫る猛攻を、リーネが肘で捌き、入れ替わる様に振り向いたコキュートスが斬りつける。剣を振り切っているコキュートスに攻撃が向かえば、割って入るかのようにリーネが肘で捌いていく。

 

 流れる様な攻防。二人は円を描くかのように入れ替わり、縦横無尽に迫りくる猛攻をいなし続ける。

 

 ―――『最終戦争・悪(アーマゲドン・イビル)

 

 眼鏡の悪魔が―――『デミウルゴス』が第十位階の召喚魔法を唱える。そして、その姿は先程とはまた一風変わった風貌をしている。先程の様な人間然とした姿ではなく、より悪魔らしい風貌だ。しかし、ゴリゴリの巨悪と言った風な感じではなく、スタイリッシュでどこかカッコイイ。

 

 最終戦争・悪(アーマゲドン・イビル)によって現れた悪魔たちが、嵐のように吹き荒れ、プレイヤー達を襲う。これは攻撃の意味はない、かく乱の意味を持つ。

 

 シャルティアのかく乱と悪魔達のかく乱により、纏まっていたプレイヤー達は徐々に分断を始めていく。

 

 シャルティアと死せる勇者の魂(エインヘリアル)のグループと、リーネとコキュートスのグループ、そしてその他と言った具合だ。

 

 そのその他に突っ込んで行く『竜人』―――『セバス』が徒手空拳で応戦していく。こちらもデミウルゴスと同様、一風変わった風貌だ。この竜人形態こそが、セバスの本来の姿だ。

 

 本来の姿―――力を取り戻したセバスの攻撃は並ではない。どの辺が?と聞かれれば、それは攻撃の頻度だ。武器を振り回すのとは違い、徒手空拳の次行動への速度は速い。リーチが短い物を振り回しているのだから当然だろう。そんな手数の徒手空拳と、身体能力が売りの竜人は抜群の相性を持つ。その回転力は半端ではない。

 

 迫りくる猛撃を掻い潜り、拳がプレイヤーを穿つ。孤軍奮闘するセバスへと増援が駆け付ける。漆黒の全身鎧を身に纏った女性の悪魔―――『アルベド』がセバスの盾となる。

 

 異常な回転力で拳を繰り出していくセバスに迫る攻撃を、甲高い音を響かせ、アルベドが防ぐ。アルベドの真髄は―――盾だ。ナザリックNPC最硬の盾と最速の矛とが絡み合う。

 

 シャルティアグループ。リーネグループ。セバスグループ。そこに後方支援のダークエルフ『アウラ』と『マーレ』に加え特殊役のデミウルゴスの支援が入り、三十人ものプレイヤー達と渡り合っている。

 

 これが最凶ギルド、アインズ・ウール・ゴウンの本粋である―――本当にそうだろうか。

 

 「…普通じゃないな…キナくせぇ…どこにカラクリがありやがる。」

 

 確かに、相手のこの布陣は強い。しかし、強すぎる。集められたプレイヤー達は、戦士職に依存した集団だ。柔軟性という意味では圧倒的な不利がある。魔法も使えなければ、遠距離攻撃のできるスキルも限られてくる、召喚で数を増やす事もできない。

 

 それに加えて、相手は後方支援に特殊役、かく乱要因に近接戦のスペシャリストが集まっているのだ、不利は否めない。しかし、それでもこちらの数は、あちらの三倍以上にもなる。LVも全員がカンストであり、スペックで決定的に劣っている訳でもない。あちらはワールド・チャンピオンを二人も抱えているが、それでもこの数の利を相手に、ここまで食い下がれるのは流石におかしい。装備品の差かとも思わないでもないが、こちらとて、全身を覆うは『伝説級(レジェンド)』以上の装備群だ。それほど圧倒的に劣っている訳でもない。

 

 何かがあるのだ、この数の利に食い下がれる何かが。

 

 思考を巡らせる一人のプレイヤーが、動こうとしたその時、純銀の聖騎士が阻む。ピクリと体が瞬間的な硬直を見せる。跳ね上がる警戒心が、危険信号を鳴らすからだ。この距離は不味いと、プレイヤーは後方へ飛び退く―――その直後、シャルティアのスポイトランスが後方から背に突き刺さる。

 

 バランスを崩すプレイヤーの目に飛び込むのは、別のグループの元まで移動していく純銀の聖騎士の姿だった。

 

 ―――まただ。

 

 このプレイヤーはある事に気づく。この純銀の聖騎士『たっち・みー』は、依然として攻撃には参加していない。強烈なプレッシャーだけを与えて、特に何もせずに別のグループまで援護に行き、そして、またプレッシャーを与えていく。

 

 なぜだ?なぜ攻撃に参加しない?この戦況下に置いて、どこかのグループにたっち・みーが加われば、そのまま瓦解させる事も可能な筈だ。特に異形種姫のグループなどにたっち・みーが加入すれば、ほぼ間違いなくあのグループは瓦解するだろう。あの蟲王(ヴァ―ミン・ロード)にワールド・チャンピオンが二人も加われば間違いなくそうなると確信を持って言える。

 

 相手がこの数の利を打破するには、最高戦力で持って各個こちらを撃破していくしかないはずだ、その為のかく乱による分断の筈。しかし、たっち・みーはそうしない、なぜだ。

 

 しないのか―――もしくは。

 

 「―――できないのか…か。」

 

 プレイヤーはそう言いながら、地面を蹴り、駆けていく。目標は勿論、純銀の聖騎士『たっち・みー』だ。

 

 プレイヤーの直剣がたっち・みーに迫り、甲高い音を上げていく。みれば、たっち・みーの剣とプレイヤーの直剣が重なり迫り合っているではないか。

 

 剣と剣とが重なり、競り合う―――そんな筈はない。

 

 「でぇぇぇい!!」

 

 プレイヤーが前蹴りを見舞えば、たっち・みーの腹部に直撃し、後方へ仰け反り後退していく。その姿を見て、プレイヤーは確信を得た。

 

 「やっぱりか!お前ら!騙されんな!こいつはたっち・みーじゃねぇ!!」

 

 やはりそうだ。先程から感じていた違和感はこれで答えが出た。この人物はたっち・みーではない。姿を真似た誰かだ。相手はワールド・チャンピオンであり、ユグドラシルの帝王とまで言われる程の人物だ、自分如きの攻撃で揺らぐなどあり得はしない。

 

 「やってくれたな!!」

 

 相手の手のひらで踊っていた事を知り、怒りが沸き上がる。ネームバリューとはかくも恐ろしい物か。最強最悪と言うイメージが、思い込みと重なり、相手の姿を途轍もなく大きな物に変貌させていた。跳ね上がる過剰な警戒心は、動きに制限をかけ、付け入る隙へと変わっていく。

 

 謎が解けた事により、プレイヤーに冷静さが戻ってくる。それと同時に浮かび上がるもう一つの謎。プレイヤーはあるアイテムを取り出し―――探知を始めた。

 

 「―――!!そこか!!」

 

 探知アイテムに引っかかる、ある存在。プレイヤーは反応場所に向け一直線に駆ける。到達したその場所で、剣を振り抜いた。

 

 剣が何かに接触していく。剣が接触したその何かは、ノイズを走らせ姿を表す。姿を表したのは、巫女服を着た女。恐ろしい程の美貌を持った巫女が、斬りつけられた事によりよろめいていく。

 

 「やはりな!お前が『指揮官』か!!」

 

 おかしいとは思っていた。いくら相手が強くても、これ程の数を相手に何故にここまで食い下がれると。その答えがこの女だ。間違いなく指揮官系統のクラスを有するこの女が、幻術で身を隠しながら、全員にバフをかけ、強化していたという事だ。

 

 よろめく巫女―――『オーレオール・オメガ』が急速に空中まで浮遊していく。「ちぃッ」プレイヤーは一つ舌を打った。恐らくはNPCだろうこの女は、こちらが戦士職と見るや、即座に手の届かぬ位置まで移動する。優秀なAIだ。いや、行動プログラムと言うべきか、他のNPCもそうだ、これ程優秀なAIを生成するには、複雑なプログラムを要求される筈。先程の舌打ちは、小賢しいNPCに対してではなく、アインズ・ウール・ゴウンに所属する優秀なプログラマーに対する苛立ちの意味を持つ。

 

 「ふぅ」と今度は一つ息を吐く。このまま冷静さを欠けば相手の思うつぼだろう。カラクリが割れた以上、脅威度は大幅に落ちた。たっち・みーがいないと分かれば、他の連中も冷静になれるだろう。

 

 勝負はこれからだ。

 

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

 

 

 

 拮抗していた戦況は徐々に偏りが見え始める。押されだしたのはリーネ達だ。それでも必死で食らいつき、プレイヤー達の集団を一人、また一人と倒していく。

 

 しかし、限界はすぐそこまで近づいていた。

 

 (くそ…くそう!!)

 

 疲労困憊―――HPには未だ十分な余裕があるが、余裕がないのは精神の方だ。迫る猛撃の数々を掻い潜り続け、相手を仕留め続けるだけの正確さを要求される一挙手一投足は確実にリーネの気力を削っていた。

 

 NPC達にも、最早余力は残ってはいない。このままでは、相手を倒し切るまでにこちらが瓦解してしまう。最重要はワールド・チャンピオンである自分だ、NPCに気を配りながら、相手に致命の一撃をお見舞いし続けなければならない。

 

 気が遠くなる―――考えるだけで気力が削られる。

 

 相手の剣がこちらに迫ってくる。シラットの構えに移行したリーネが肘でいなす―――が。

 

 (―――!!しまった!!)

 

 剣の軌道が変わらない。トリガー部の打ち抜きに失敗したからだ。シラットの肘は無敵の技術と思われがちだがそれは違う、寸分違わぬ正確性を求められる肘はデメリットも大きい。

 

 剣が直撃する。揺らいだリーネに迫るは別の刃だ。不味い、このままでは崩れる。自分が崩れれば、この戦いは終わりだ。余力の残っていないNPC達では幾ばくも持たない。十分な時間稼ぎはできた、このまま自分達が敗北しても対極には影響はないだろう―――しかし。

 

 (いやだ!ここまで来て!いやだ!負けたくない!!)

 

 これは自分とNPC達の大舞台だ。この防衛戦に置いて、NPC達の重要性など皆無に等しい。正直に言ってしまえば、いてもいなくても何も変わらない、結果には直接干渉はしてこないだろう―――でもだ。

 

 NPCも―――この子達も立派なナザリックの一員だ、自分達が手塩にかけて作った。なぜこの子達は作られた、わざわざ百.LVまでポイントを振ってまで。それは防衛の為の筈だ、ならばここで活躍させねばどこで活躍すればいい。

 

 この闘技場での戦いも、只単に自分の我儘にすぎない。そもそもがこんな戦いは必要ないのだから。第八階層で計画されている作戦が成功すれば、この程度の数のプレイヤーが増えた所で痛くもかゆくもないだろう、塵あくたとなって消える。

 

 だからこれは我儘だ、NPC達を活躍させてあげたいと言う、自分の我儘。だって、あんまりじゃないか、防衛戦で、只の肉壁になって消えるだけなど。

 

 この防衛戦は、ライブで現在生配信されているだろう。だからこそ、見せつけてやるんだ。このギルドには、素晴らしいNPCがいるんだって。ナザリックのNPCはスゲーんだって。舐めるなよって―――だから。

 

 「負けない!負けたくない!!」

 

 言葉が宙を舞う。迫る切っ先を見つめ、リーネの目がギラリと光る。受け流し、叩き切る―――そう思った瞬間だった。

 

 割り込む様に自分の前方に飛び込んでくる存在がいた―――シャルティアだ。自分を庇うかの様に割り込んできたシャルティアに切っ先が突き刺さる。

 

 「―――あ…。」

 

 リーネの虚しい声が口から漏れ出す。

 

 ―――カチリ。

 

 ある感覚が押し寄せる。この感覚は良く知っている。時折感じるあの感覚だ。リーネはこの感覚を『繋がり』と呼ぶ。自分に何か異変が起きる時、この感覚は不意に姿を表す。何かに繋がったかのような感覚を齎すから、繋がりと呼ぶ。

 

 (―――つぅ!!?)

 

 そしてこの感覚も久方ぶりだ。急に襲い来る頭痛。ここはゲームである為痛覚などはない、しかしリーネは時折この感覚に見舞われる事がある。最後に味わったのは『ナザリック』との戦いの時だったか、あの時の痛みはこんな物ではなかったが。

 

 そんな繋がりが起きるが、不思議な事に今回は自分には異変は見られない。異変が起きたのは―――シャルティアだ。

 

 『―――あぁ…間に合った。』

 

 「…え?」

 

 急にどうしたと言うのか、自分は気でも狂ってしまったのか。声が聞こえた気がしたからだ―――シャルティアの。

 

 そして、それは気のせいではなかった。

 

 斬りつけられたのがトドメとなったのか、シャルティアが光輝き消滅していく。

 

 消滅するさなか、確かに声が聞こえてくるのだ。

 

 『あぁ…我が麗しのリーネ…どうか…死なないでおくんなまし…。』

 

 ―――カランカラン。

 

 真紅の鎧とスポイトランスが甲高い音を鳴らした。

 

 シャルティアが―――消滅した。

 

 「――~~~!!あぁぁぁ!!」

 

 ―――次元断絶(ワールド・ブレイク)

 

 シャルティアを斬りつけたプレイヤーが一刀の元に切り伏せられ消滅していく。そして、左方から新たな切っ先がギラリと光る。それを肘でいなし体勢を崩した。

 

 ―――次元断絶(ワールド・ブレイク)

 

 返す刀で切り伏せる、また一人消滅した。続く後方のプレイヤーに左での肘打ちが炸裂し、体がくの字に折れた。即座に振り向き、折れた体勢へと―――下がった顔面へと肘のかち上げを炸裂させていく。

 

 怒涛の連撃によって、堪らず後方へ仰け反るプレイヤーへと次元断絶(ワールド・ブレイク)が炸裂する。

 

 また一人消滅した。シャルティアが繋いだ隙が、三人のプレイヤーを屠っていく。

 

 しかし、この攻撃は余りに考え無しだった。できたる隙もまた大きく、凶刃がリーネに向かう―――が、その凶刃は阻まれる、コキュートスによって。

 

 仁王立ちで凶刃を受けきったコキュートスが消滅していく。

 

 そしてまた―――聞こえてくる。

 

 『ハッハッハッ…ドウダ…ジイハツヨイダロウ…。』

 

 ―――カランカランカランカラン。

 

 斬神刀皇を含めた四本の武器が音を鳴らす。

 

 ―――コキュートスが消滅した。

 

 怒りがリーネを包む。そこには技術もへったくれもなかった。次元断絶(ワールド・ブレイク)の乱れ打ちで力任せに敵を消滅させていく。

 

 そして、スペックによるごり押しの代償は大きく、全方位から凶刃が迫り―――アウラとマーレが庇い消滅していく。

 

 『怒っちゃやだなぁ…そんなリーネ見たくないや。』

 

 『そ、そうだよ…リーネはにっこりしてなきゃ。』

 

 『だからさ…。』

 

 『だからね…。』

 

 『『リーネ…笑って。』』

 

 装備が落ちる音が響く―――アウラとマーレが消滅した。

 

 リーネは怒り狂う―――強大な力を無造作に振るい続ける。

 

 そんなリーネを庇う―――デミウルゴスとセバス。

 

 『全く…感情も制御できないとはね…ウルベルト様の親友たる者、もう少し気品を持ちたまえ…でも、怒ってくれて…嬉しいよ。』

 

 ―――デミウルゴスが消滅した。

 

 そして、立て続けにリーネを庇ったセバスが消滅していく。

 

 『喝!!ナザリックの主たるものがその様な無様を晒してどうする!!胸を張れ!前を見よ!力に振り回される事なかれ!技に溺れるな!技に使われるなッ!アンティリーネ!!』

 

 ―――セバスが消滅した。

 

 「無理だよ―――無理だよォォォ!!」

 

 ―――次元断絶(ワールド・ブレイク)

 ―――次元断絶(ワールド・ブレイク)

 ―――次元断絶(ワールド・ブレイク)

 ―――次元断絶(ワールド・ブレイク)

 

 怒りに身を任せ暴れ回る、その姿―――正に鬼神。

 

 敵も随分と数を減らしたものだ―――が、それでもまだ存在している。

 

 暴れ回るリーネを庇う、純銀の聖騎士『パンドラズ・アクター』とオーレオール・オメガ―――二人が消滅する。

 

 『んーーー!真打!登☆場ゥゥゥ!!ミィィィィス!ウワンティリィィィィネン☆素敵な!うぅぅぅんレディィィになぁぁぁりましたねぇぇぇ!!ここで貴女が死なれると!私の主ィィィ!モ―――モモモモモ!モモンガ様がかなし―――』

 

 ―――パンドラズ・アクターが消滅した。

 

 『リーネちゃん…私の大好きな大好きなリーネちゃん…いつも会いに来てくれてありがとう…だから私、八階層でも寂しくないよ…だから…いつものお礼―――今度は私が守るね。』

 

 ―――オーレオール・オメガが消滅した。

 

 「無理だよ…無理だよ…。」

 

 ぶつぶつと独り言を呟きだした。動きが止まる。そんなリーネに迫る凶刃。複数の切っ先がリーネを捉えた。

 

 しかし、その切っ先は悉く―――弾かれていく。

 

 

 

 

 

 

 ―――『不落要塞』。

 

 

 

 

 

 

 

 リーネの声にノイズが走る。綺麗なあの声音の面影はそこには無い。呪詛を吐くかのようなおぞましい声が聞こえてくる。

 

 「もういい…死ねよ…お前ら。」

 

 ―――ガチリガチリガチリ。

 

 歯車は軋みを上げていく。かつてない程の歪な音を立てながら。

 

 リーネの瞳から光が消えていき、時間が緩やかな物へと変わっていく。

 

 遂にリーネ自身に異変が起きていく。それはかつて感じた事がない程の物だ。

 

 ―――生まれ持った異能(タレント)が暴走を始めた。

 

 『ゲームプログラム』だけならまだ良かった、しかし。

 

 「能力向上…能力超向上…。」

 

 ―――ガチガチ。

 

 歯車の音が更に歪に鳴り響く。

 

 『血濡れ(ファーイン)』の技だけではなく、更に歪な現実の理を持ち込んで行く。

 

 「可能性知覚…可能性超知覚…。」

 

 繋がりは―――『接続』はかつてない規模だ。

 

 『あの時』から、生まれ持った異能(タレント)の練度は飛躍的に向上している―――が、それでも。

 

 「速度向上…速度超向上…筋力向上…筋力超向上…。」

 

 それでも―――『調整』が間に合わない。

 

 ファーインの技(タキサイキア)に加えて『武技』と言う現実の理が無造作にゲームに持ち込まれていく。

 

 皮肉な物だ。ナザリック戦の暴走を経て、生まれ持った異能(タレント)の練度は、かつてとは比べるべくもない物にまでなった。今では少々の接続では、調整不足に陥る事はない―――だからこそ、より多くに、より複雑に、より深部にまで接続できてしまう。かつては『意識』しても接続できなかった物に『無意識』で接続できてしまう程に。

 

 このまま接続を続ければ、理は現実に逆流し、リーネごとこの世界から弾きだされてしまうだろう。その衝撃に、リーネは耐えられない―――存在が耐えられない。

 

 消滅する―――存在ごと。

 

 「『()(みゃく)解放』…『(こう)()』…。」

 

 瞬間、リーネの体から神々しく光り輝く闘氣が迸る。闘氣は天を突き抜けるかの如く吹き出し、辺り一面まで侵食するかのように走っていく。

 

 更に歪な理―――オリジナル武技が発動された。

 

 ―――ジジジ。

 

 リーネの体にノイズが走り、グラフィックが歪みだす。ここにきて、流石のプレイヤー達もたじろいだ。いくら何でもこの現象はおかしい。

 

 ―――バグか?

 

 誰かがそう言った。そして、事実その通りだろう。リーネの体に―――グラフィックにバグが生じだした。

 

 これが意味する事はただ一つ。

 

 ユグドラシル(ゲーム)がリーネを拒絶しだしたという事だ。

 

 最早一刻の猶予もない。

 

 このままでは弾かれる―――その時だった。

 

 

 

 

 

 

 『やめなさい。』

 

 

 

 

 

 

 優しい声―――芯のこもった強い声が聞こえる。

 

 守られるかのような優しい声に包まれて、心に染み渡る安堵―――光氣の嵐が止む。

 

 緩やかになっていった時間が正常に戻っていく。

 

 タキサイキアが治まっていく。

 

 グラフィックに生じていたバグも消えた。

 

 正気を取り戻したリーネの目の前に、自分を守るかのように敵に立ちふさがる一人の女性がいた。

 

 漆黒の全身鎧を身に纏った女性―――アルベドだ。

 

 『あなたはいつも人の事ばかりね、もう少し自分の事も考えてあげなさい。』

 

 アルベドはプレイヤー達へと突き進む。バグに気を取られていたプレイヤー達は虚をつかれ、対応が遅れている。

 

 しかし、相手はプレイヤーだ。NPCであるアルベドが敵う筈もなく―――切り伏せられた。

 

 「…あ…あ…。」 

 

 『しっかりしなさい…あなたはこの墳墓の主の一人なのだから…これから先も、幾多の困難が襲おうとも…くじけては駄目…胸を張ってちょうだい―――ねぇ、私の…可愛い…可愛い…アンティリーネ…胸を張って…しっかり生きて…決して…溺れないで…。』

 

 ―――カランカラン。

 

 鎧とハルバートが音を鳴らす。

 

 ―――アルベドが消滅した。

 

 「………。」

 

 俯くリーネは言葉を発しはしない。無言でアルベドの残した装備を見つめる。

 

 残るプレイヤーは八人。万全の状態であっても一切気が抜けない程の数だ。気を強く持たねば、敗北する。

 

 一瞬の静寂―――しかし、それは長くは持たず、プレイヤー達が動く。

 

 ―――カン。

 

 甲高い音と共に、一人のプレイヤーの剣の軌道が変わる。

 

 ―――ゴッ。

 

 揺らぐ体勢に打ち付けられた掌底が顎を打ち抜いた。

 

 視界にノイズが走る―――朦朧が襲い来る。

 

 二つの切っ先が背後から襲い来る。

 

 朦朧にふらつくプレイヤーの頭部を、リーネはガチリと掴む。そのまま振り回す様にプレイヤーを後方まで押し出し、迫る二つの切っ先へと突きつける。

 

 プレイヤーを肉壁にしたリーネが、肉壁にしたプレイヤーの背中付近を蹴り上げていく。そうすれば、蹴り上げられたプレイヤーは前方に飛び出し、鈍い音と共にプレイヤーの集団に覆いかぶさった。

 

 プレイヤー達に動揺が走る。

 

 動きが変わった―――明らかに。

 

 技が走ると言う言葉があるが、正にそれを体現したかのような動き。

 

 技がキレている―――先程とは全く違う。

 

 動揺するプレイヤー達の目の前で、リーネはスタンスを広く取り、肘を折り曲げる。

 

 ―――技に使われるなッ!

 ―――溺れないで。

 

 二人の言葉が脳裏に浮かぶ。くすりとリーネは一つ笑った。

 

 なんだろう、喝を入れられるなど、どれくらいぶりだろうか。

 

 自分はまだまだ、こんなにも青い―――教えてくれてありがとう。

 

 「滾るわね―――きなさい。」

 

 動揺するプレイヤー達に、その声は非常に良く聞こえてきた。

 

 「今の私は出鱈目に強いわよ―――()()()()()ってところね。」

 

 

 

 

 

 

 『接続』は途切れた、理の波は鳴りを潜め『調整』はいつもの様にされて行く。

 

 武技の効果はもう残ってはいない。

 

 タキサイキアも消え失せた。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()彼女はこう言った。

 

 今の自分は―――自分史上最強だと。

 

 彼女は胸を張りそう言った。

 

 例えこの戦いの結果がどうであれ、彼女は胸を張ってこう言うだろう。

 

 胸を張って『彼女』に伝えるだろう。

 

 「全力で戦ったよ」―――そう言うだろう。

 

 

 

 

 

 

 





 おまけ ~もし100年後にナザリックが転移してきたら~

 シャルティア「その時!私がリーネを颯爽と助けたでありんすえッ!そして抱きかかえて…二人で見つめ合って…うへへへ…。」

 デミウルゴス「記憶を改ざんしすぎではないかね?私の記憶では、君は早々に退場した筈だが。」

 コキュートス「ハッハッハッ!ジイハリーネヲマモリシニマシタゾ!ブジンノホマレデアル。」

 アウラ「リーネ笑ってくれたかな?ねぇ、マーレ?」

 マーレ「う、うんお姉ちゃん…リーネは笑ったよ、絶対!」

 パンドラ「おぉう…おぉぉぉう!ウワンティリィィィネンッ!」

 オーレオール「リーネちゃん…あれぐらいでしかお礼できなかったの…私上手く守れたかな…。」

 セバス「あのような無様な動き…あれはアンティリーネお嬢様の信ずる武ではありませんでした。その所為で、つい喝を入れてしまいました…お会いしたら謝らねばなりませんね。」

 アルベド「あら、セバス、その必要はなくってよ…あの子はきちんと理解してくれている…きちんと理解して…胸を張って全力で戦った…私には分かるわ。」

 


 どうもちひろです(ΦωΦ)

 ナザリック戦に引き続き、アンティリーネさん少年漫画の主人公ムーブをかます第二弾!!
 タレントの全貌も、徐々に明らかになってきてます。
 真相が明かされる日も近い…のかな?
 本人も今回の異常は流石に思う所があるとおもいます。
 パンドラズ・アクターってこの頃いたんでしょうかね?
 原作モモンガさんの様子を見れば、ギルメン達が去っていきだしてから作ったような気もしますが、こんな大舞台に、パンドラがいないなんて寂しいですよね!
 だから強制出場です(`・ω・´)
 仲間のおかげで覚醒!!って程」凄くはないですが、迷いのなくなった彼女は強いです。
 こんな事言うと身も蓋もありませんが、NPC守りながら戦ってたら、そりゃあ実力を発揮なんてできません。
 これは彼女の我儘です。NPC達と勝利したいと言う。
 侵入者達との防衛戦も、後半に差し掛かっています。
 決着ももうすぐつくでしょう。
 しかし、4.5章はまだ終わりませんッ!
 なぜだッ!?!?

 ちなみに皆さん、動く絶死さんみました?
 三日前くらいにYouTubeみてびびりました。
 え?いつの間に5期始まってた?ってなりましたよ。
 ファンが作ってたみたいですね。
 AIってすげーわ(+o+)

 それでは、読んでくれてありがとうございます。
 それとコメントを下さる皆さまありがとうございます。
 大変励みになります!
 それでは!シュババババババッ!!

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