あんてぃりーねのゆぐどらしる☆だい☆ぼう☆けん☆ ~泣き虫が伝説になるまで~ 作:だいだろすちひろ
前回のあらすじ
アルベドさんマジ聖女!
アルベドさんマジ聖母!
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第八階層―――『荒野』。
そこには何もなかった。広がるのは、見渡す限りの荒野だけ。数々の濃ゆい階層の中に置いて、この第八階層は特に異質であった。この階層はナザリックの最終防衛ラインであり、ここを突破される事は事実上、ギルドの崩壊を意味する。なぜなら、ここより先は防衛用に作られた階層ではないが為だ。
そんな、最終決戦の舞台に相応しい広さを持つこの荒野に、『モモンガ』と『たっち・みー』の二人が並び立つ。隣り合わせで立つ二人の目の前では、天使の輪っかを頭上に浮かばせる異形の生物が、ふよふよと空中に浮かぶ。
ふよふよと空中に浮かぶ、異形の『天使』―――『ヴィクティム』。
またの名を―――『生贄の赤子』。
「…遂に侵入を許しましたね。」
たっち・みーのその言葉に、モモンガが「えぇ」と言いながら、こくりと一つ頷いた。
静かだった荒野に、少しずつ音が混じり出す。混じる音は嫌な音だ。非常に不快な、侵入者達の叫び声が聞こえてくる。
荒野に―――最終防衛ラインに、遂に招かれざる客人達が足を踏み入れて来たようだ。
招かれざる客人達は、ぞろぞろと言う擬音が相応しいかの様に、荒野へ侵入してくる。
その光景を見たモモンガは思う―――想定より少ないと。
その理由は、モモンガには分かっている。アインズ・ウール・ゴウンを助けるべく集まった、猛者達の活躍があってこその、この数だと。
一人の少女が紡いだ絆が、巡り巡ってこの結果を形作った。モモンガは心の中で感謝の言葉を浮かべる。
そして、次にこうも思うのだ。
「…まだか…リーネ。」
侵入者達は幾ばくもせぬ内に、この荒野を埋め尽くしていくだろう。最早一刻の猶予もない。作戦の決行が、刻一刻と迫って来ていた。
「モモンガさん、機を逃せば敗北はこちらです。」
「えぇ…分かっていますよ…けれど、まだ時間はある。」
「そうですね、ギリギリまで待ちましょう。しかし、それでもリーネが来ない様であれば…その時は。」
「…分かっています…分かっていますよ。」
たっちとモモンガの会話はそこで途切れる。
二人は無言で、増え続ける侵入者達を見つめていく。
まだか―――リーネ。
♦
闘技場に鳴り響く戦闘音。高い音、低い音、様々な音が響く。動き続ける人影と共に響き続ける。仮にこの場に武芸者が居たのならば、その者はこの動き回る人影と、響く音とを同時に見てしまえば、間違いなくこう言う事だろう。
尋常じゃない―――次元が違うと。
一人の少女が、八人の猛撃を『受け』続け、『打ち』『投げ』『組み』『斬る』。
これが『約束組手』であると言われても、その武芸者は戦慄する事だろう。
それ程の次元だ。そして今行われているのは、約束組手などではなく『実戦』。
正に異次元と言わざるを得ないだろう。
そんな動き回る人影に、徐々にだが変化が訪れていく。
数が減り出した―――少女が押している。
淀みなく動く少女が、一人、また一人と相手を葬っていく。
その姿は、鬼神か、または闘神か、それとも―――武神か。
九人が動き始めてから、幾ばくかの時間が流れた。
九と言う数は随分と減った。
残るは二人だけ―――決着の時は近い。
「はん―――怪物が。」
「言ったでしょ?今の私は、私史上最強だって。」
構える二人の足元から、ジリジリと地面を擦る音が響く。
次の一撃が、この二人の最後の一撃になるだろう。そう確信を持って言える程の気迫を纏う。
「死んだふりして不意打ちしていたガキが、よくもまぁ、ここまでなったもんだ。」
「へぇ、懐かしいわね…ある人に出会ってね…その人に次に会う時に、恥ずかしい自分ではいたくなかったから。」
「そうか…俺は『
「悪いが、潰したプレイヤーの名前は覚えてない。」
「それを言うなら、百から先は覚えてない…だろ?」
「それとはまた違ったやつよ。」
「そうかよ。」
ジリジリと地面を擦る音がまた響く。
リーネの集中力は最高潮にまで高まる。技のキレも過去一と言っていい程だ。紛れもなく、自分史上最強。
地面を擦る音が止んだ―――二人が動く。
―――カラン。
剣が地面を叩く音に続いて―――
倒れた
「…強かったわよ、
言い終わったリーネは、ふらふらと体を揺らした後に、ドサリと尻餅をついていく。急激に込み上げてきた疲労の為だ。精神的な疲労が大波を打って押し寄せてきた。
「…はぁ…勝ったよ…みんな。」
疲れたようにそう呟いた。
そして思う。あれは一体何だったのかと?
今までも色々な事が起きた。体と精神に異変をきたしたのも今回が初ではない。ナザリックの時などは意識が吹き飛んだほどだ。あの時の事はぶっちゃけ良くは覚えていない。妙な感覚―――繋がりがあったのは覚えているが、それぐらいの物だ。
しかし、今回は明確に記憶がある。NPCの声が聞こえた?そんな訳があるか、ふざけているのか―――聞けばそう思うだろう。しかし、確かに自分には聞こえた。
精神に異常をきたした者は、幻覚、幻聴を経て記憶まで混濁を起こすと言う。あれから自分はネットを使い良く調べた。自分の世界とは比べるべくもない程に発達している『日本医学』その医者達がそう言っているのだ、ならば、そう言う事なのだろう。
自分が狂いつつあるのか?それはあの感覚の所為なのか?どれだけ考えても答えは出なかった。
「…わっかんね…とりあえずは異常ね…まっ、私がここにいる事自体が異常なんだし…考えても仕方ないか。」
世界を行き来する自分と言う存在自体が、言ってしまえば異常だろう。子供の頃はそこまでは深くは考えなかった物だが、歳を重ねていけば、自分自身の異常性が良く分かってくる。
「…まっ、なるようになりまっせ…ってね…少し疲れたわね…ちょっとだけ休憩して、モモンガさんの元まで向かわないと。」
尻餅を付きながらへこたれるリーネが、天を仰いだ。第六階層の空が見える。凄まじいクオリティだ。
「ブルプラさん、やりすぎ―――」
『ブルー・プラネット』の異常な拘りに呆れる様な雰囲気を出したその時、異変が起きる。
リーネの後方からけたたましい音が鳴り響く。勢いよく振り返れば、そこには巨大な石壁が出現していた。
「…は?
―――はい、俺救世主。
「―――は…?」
声が聞こえた―――懐かしい声だ。
懐かしい声が聞こえた―――幻聴か?
本当に自分は狂ってしまったのかと思う。
そう思いながらも、リーネは声の方向に振り向く。
「…うそ…。」
ふるふるとリーネは首を振る。
「…うそよ…。」
ふるふるとリーネは首を振る。
そこには、信じられない光景が見えたから。
「…なんで…うそ…うそよ…。」
闘技場の中に一人佇む男がそこにはいた。
銀髪の赤い瞳の
人を小ばかにしたような、あっかんべーのアイコンだ。
「残念、ホントなんだな―――ちんちくりん。」
「…ツーヤさん…。」
そこにいたのは、ツーヤ―――『ツーヤ・タメーヤ』。
ツーヤは指を動かし、つんつんと何かを指すかのような仕草をする。振り向くリーネの目の前には
どう言う事だ?そう思った瞬間だった。白銀の神槍が
唐突な『清浄投擲槍』の発動に、訳が分からないリーネであったが、答えは直ぐに姿を表す。清浄投擲槍に突き刺された場所から、一人のプレイヤーの姿が現れた。
リーネは身構える。プレイヤーの集団は壊滅させた筈だったが、それは勘違いだったと気づく。このプレイヤーはどさくさに紛れて、幻術で姿を隠していたのだろう。アイテムを使用すれば造作もない事だ。そして、決着がつき、リーネの気が緩んだ瞬間に襲撃するつもりであったという事だ。
「言ったろ?俺救世主―――ってな。」
ツーヤの魔法が雨あられの様に降り注いでいく。一方的に滅多打ちにされたプレイヤーの胸に清浄投擲槍が再度突き刺さり、プレイヤーは消滅していった。
「…プギャ☆残念、俺ってば意外と強いのよ~ん―――おっと?」
笑うツーヤにドンッと衝撃が襲う。衝撃を感じるのは胸の辺りだ。見れば、ぶつかってきたリーネがツーヤの胸に顔をうずめているのが見えた。
「―――ばか…やろう。」
「え?なに?ばか―――」
「ばかやろぉ!ばかやろばかやろばかやろばかやろばかやろぉぉぉぉ!!」
「―――いやいや、俺はバカだけどそこまでじゃないぞ?」
「いいや!ばかだ!ばかばかばかばかばかばかばかばかぁぁぁ!!」
怒涛の如き言葉の連打に、ツーヤがたじたじになっていく。
そして当然ながら、言葉はまだ止まない。
「ふざけんな!勝手にいなくなりやがって!勝手にどっか行きやがって!私がどれだけ寂しかったと思ってる!私がどれだけ悲しかったと思ってる!ふざけんな!ふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなぁぁぁ!!!」
「…そっか、ごめんな。」
「…うぅ…うぅ…あぁぁぁ…。」
言いたい事だけ好きなだけ言って、満足して次は大泣きを始める。
「はいはい…全く、いつになっても変わらんな…お前の泣き虫は。」
ツーヤが胸で泣きじゃくるリーネの頭を、ポンポンと優しく叩いていった。
♦
「それじゃあ、最終決戦へと行きますか。」
リーネの指にはめられた『リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』が光輝く。目指すは八階層『荒野』―――最後の戦いが始まる。
「おう、大暴れしてこい。」
「ん~、まぁ私が暴れる事はないかな~。演出の為に行くみたいなもんだし。」
「ほ~う、そうなんか?なんか企んでんだな?まぁ、モモンガさんの事だ、抜かりないんだろ~な。」
くすりとリーネは笑う。やはりこの男は良く分かっている。自分とモモンガとツーヤは良く三人でつるんでいたから。
そうつるんでいたから―――だから。
「ねぇ、ツーヤさん…また昔みたいにさ、ギルドで一緒に…私達と―――うぇ!?」
パチンとリーネのおでこにデコピンが見舞われる。
「もう俺の入る余地なんかね~よ―――ば~か。」
「うえぇ!?断られた!!」
「プギャ!なんだお前、まだ―――うえぇ!!…とか言ってんの?」
「…あ…へへへ…なんかでちゃった。」
少しの間の後、二人はくすくす笑い合った。
そうだ、もう自分達は『クラン』ではない、『ギルド』だ。『ナインズ・オウン・ゴール』はもうない。あるのはアインズ・ウール・ゴウンだ。
かつて去った男が今更戻った所で、不和にしかならないだろう。ツーヤはもう吹っ切れている、吹っ切れていないのは自分なんだ。
「ふふふ…そうね…そうかも。それじゃあ、ツーヤさん…私行かなきゃ。」
「おう!行ってこい!!俺も言えなかった事が言えてスッキリした…じゃあな―――アンティリーネ!」
「―――…うん…じゃあね、ツーヤさん。」
リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンによる転移が始まる。
転移が始まるその瞬間、急に何かを思い出したかのように、ツーヤが叫ぶ。
「あ!そうだ!わりぃ、『ギルバート』にあったら言っといてくれ、『飯代』立て替えてっから、ちゃんと返せよなってなッ!」
「ギルバート??あぁ…うん、分かった。」
そして、リーネの姿が消える―――第八階層に向かう為。
リーネの姿が消えてもなお、ツーヤはしばしその場に立ち尽くしていく。
「…まったく、子供の成長は早いもんだね。」
ぽつりと呟いたツーヤは踵を返し、歩を進めていく。
「あばよ…もう会う事もねぇだろ、達者でな。」
その言葉は、誰にも聞こえない。虚しく宙を舞った言葉と共に、ツーヤはナザリックから姿を消した。
♦
「モモンガさん…時間いっぱいです…これ以上は。」
「…えぇ…分かりました。」
荒野に群がるプレイヤーの山を見つめるモモンガが動く。どうやら、リーネは間に合わなかった様だ。
ブンブンブンと、モモンガは首を振る。集中ができていない。ここからが『ギルド長』としての大一番だ、頬をパチンパチンと叩き気合を入れ直す。
「元よりこの作戦、リーネがいようがいまいが、戦局には何も問題ありません、というか、私も別にいらないんですけどね。」
「まぁ、そうなんですけどね。けれど、この大舞台は三人で迎えたかった。」
少し悲し気な雰囲気をしたモモンガが、作戦を決行しようとした―――その時。
「ちょいちょいちょい、なに二人で始めようとしてんのよ。」
二人に声が届く。その瞬間、二人は勢いよく振り向いていった。
「リーネ!間に合ったか!」
「まったく!おっそいんだよぉ!お前は!!」
「ははは、ごめんごめん…それじゃあ…やりますかッ!!」
三人は隣り合わせで並び合う。中央に並んだモモンガが、コンソールを開き、何やら操作をしだした。モモンガの操作が完了したその瞬間、八階層の天井にモニターが展開され、映像が映し出された。映し出されるのは、八階層の映像だ。大量のプレイヤー達が天井のモニターに映し出されていく。そして、このモニターはここ、八階層だけではなく、『全階層』に映し出されていた。
「よくぞここまで辿り着いた―――侵入者達よ。」
モモンガのその言葉が、全階層に響き渡る。
侵入者達との最終決戦が始まる―――最後の攻防が。
どうもちひろです(ΦωΦ)
ツーヤさん再登場―――からの即さよなら。
これで完全にこの人の出番は終わりです。
さよならだけが人生だ…ツーヤさん今までお疲れ様です。
今回は少し短めでドロンです。
読んでくれてありがとう。また読んでくださいね。