あんてぃりーねのゆぐどらしる☆だい☆ぼう☆けん☆ ~泣き虫が伝説になるまで~   作:だいだろすちひろ

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 前回のあらすじ

 究極のボスエネミーと化したルベド
 相対するはナザリックの強者達
 究極レイド―――勃発!!
 …したけど皆ズタボロにされちゃった☆
 しかし、更なる強者達が集う!!


待ちわびた距離

 

 

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

 

 ―――時は少し遡る。

 

 大魔王対侵入者達の荒野での戦いを、天井の映像で見守っていた、ギルドメンバー達と集った強者達。

 

 余りにもあんまりな結末に、皆が一様にドン引きしていた。慈悲の欠片もない一方的な戦いを見守っていた、『第三階層』の面々も苦笑いと共に談笑にふける。

 

 「滅茶苦茶だな。」

 

 「やりすぎだってんだよ…これがな。」

 

 天井を見つめていたアロービーチがそう呟けば、自分も同じ気持ちだと言わんがばかりに、ねこにゃんからそう言葉が続いていった。

 

 やれやれと言わんがばかりに軽く手を上げおどけた様な仕草をねこにゃんが取れば―――チン。金属音が響く。音のした方向にねこにゃんは振り向く。そこには、野太刀を鞘に納めるアロービーチの姿があった。

 

 あれ程の長尺物を、いともたやすく鞘に納めていく。

 一片の乱れもないその仕草に、ねこにゃんはまた一つ、やれやれと言わんがばかりにおどけてみせる―――この男、どこまでも達人だと。

 

 「危機は去ったとみて良いのかね?なぁ、青髪。」

 

 「…んあん?あぁ…そうだな、もう残党もいねぇし勝利って事で良いんじゃねぇのか?」

 

 二人は周囲を見渡していく。見渡した風景は、先程とは打って変わった物だった。あれ程いた侵入者達はもうそこにはいない。あるのは、アインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバー達と共闘した仲間達の姿だけだ。

 

 天井の映像で、あれほど悲惨な結果をまざまざと見せつけられたのだ。あれで戦意を保てと言う方が無理という物。侵入者達は散り散りになって敗走していった。

 

 「祭りも終了か」アロービーチがそう言いながら、自らの仲間達に声を掛けていく。

 

 「お~い、おめぇら~帰るとしようや~。」

 

 山嵐がこくりと頷き、龍が―――なにやらキョロキョロしだす。

 

 「うん?どうしたよ、龍?」

 

 「いや…クシリンいないヨ?ずっと探してるヨ…どこ行ったカ…あいつ。」

 

 「あん?クシリン?そういや、確かにいねぇな。」

 

 「道中のトラップにでも引っかかったのでは?」

 

 龍と同じく、アロービーチもまた、周囲をキョロキョロ見渡していた時だった、なにやら山荒がその様な事を言ってきた時、二人は少し固まる。

 

 「…いやいや…え?マジで言ってんの?流石にそれは…ルートとか、トラップの内容とか、結構口酸っぱく伝えたんだが…え…マジで?」

 

 「おい!?クシリン…マジカ!?馬鹿だ馬鹿だとは思てたけど…マジの馬鹿だたヨ。」

 

 「あの『ギル』が、柄にもなく真面目に作戦を伝えていたと言うのに…クシリン…愚かな…。」

 

 三人は手で額を覆った。こんな大舞台で、なんの活躍もできぬまま散っていった仲間を憐れんでいるのか、もしくは呆れているのか。

 

 そんな三人に届く声―――振り向けば、そこにはねこにゃんがいた。

 

 「んあん?そういやよ、アロービーチ…ギルバートの奴はどったんだよ?」

 

 「あぁ?ギル?あいつなら、今頃せっせと情報拡散に勤しんでるんじゃねぇのか?ライブでこの防衛戦のインパクトはまざまざと見せつけたんだし、あとは細かい所に尾ひれつけて、アンティリーネの奴をもっと持ち上げんだろさ。」

 

 「んあん…なるほどな…しっかしそこまで来たら狂気だな…。」

 

 「だな。ぶっちゃけなんであそこまで固執すんのかは俺らもしらねんだが…つーか、ここにギル居たらやべぇだろ。」

 

 アロービーチのその言葉に、ねこにゃんは一瞬だけ、なんのこっちゃ?と言った風な雰囲気を出すが、すぐに閃きが起きる。確かに、この場にギルバートが姿を表すのは非常に不味い。

 

 ギルバートは情報屋だ、それもユグドラシル随一の。

 情報屋は『平等』でなくてはならない。特定の個人や、集団を贔屓にする訳にはいかないからだ。情報屋にとって大事な物は、鮮度の高い情報―――ではなく『信頼』だ。

 この様な防衛戦に、明らかにアインズ・ウール・ゴウンに肩入れする形で姿を表せば、ギルバートの信頼は失墜するだろう。すなわち、情報屋としてのギルバートはその瞬間死ぬという事だ。簡単に姿を表せる筈もない。

 

 「ぬぬぬ…有名人ってのは面倒だな…これがな。」

 

 「はは、だな。まぁ、おかげでしこたま助かってんだけどな。」

 

 「ねぇねぇ…話済んだわけ?もう帰ろ…私あんまここに長いしたくないからさ…絶対碌な事になんないでしょ。」

 

 談笑にふけるねこにゃんに声を掛けてきたのはルビアスだ。

 ルビアスは言う。ナザリックにこれ以上居たくないと。

 これ以上居れば、何かしら厄介ごとが舞い込んできそうだと。

 ルビアスの後ろでは、そわそわしているアラフとガンジョウの姿も見える。なるほど、二人も同じ意見の様だ。

 

 「んあん…そうだな…ん?炎火とスルシャーナはどうすんだ?」

 

 「あぁ…炎火の奴『マミー野郎』と一緒に先に言ったんだったか…スルシャーナの奴もどっか行ったし…どうしよっか?」

 

 「あら?帰るの?なら、私も一緒に帰ろうかしら。」

 

 会話の最中に割って入ってくる声。その場に居た全員が、その声の方向に振り向いていく。

 

 そこに立っていたのは―――ステラだ。

 

 ジリ―――ねこにゃんが一歩後ずさる。

 

 そしてそれはねこにゃんだけではなかった。

 アラフも、ガンジョウも、ルビアスも、龍も、山荒もが同じく一歩後ずさる。微動だにしていないのはアロービーチだけだ。

 

 本能が告げる、目の前の明らかな異質に対し、恐怖を。

 

 ピリつく空気の中、当の本人は呆けている。表情は動かないが、恐らく頭の上には?マークが浮かんでいるだろう雰囲気で、その長身に見合わぬ可愛らしい仕草で、小首を掲げた。

 

 皆は口には出さないが、頭の中で思っている事は奇しくも一緒であった。

 

 ―――怖ぇんだよ!オメェがよ!!

 

 「おう、姉さんも帰るか?ジャンの野郎は別にほっといてもいいだろ、気の済むまで遊んだら勝手に帰ってくんだろ~よ―――うん?どうした?」

 

 アロービーチがある事に気づく。後ろが何やら騒がしい。振り向けば、そこにいたのはヘロヘロを含むアインズ・ウール・ゴウンの面々だ。

 あのヘロヘロが妙に騒がしい。口から洩れる言葉には焦りが見えた。

 

 ちょっと普通じゃないな―――そう思い、声を掛けようと近づくが、アロービーチが喋るよりも先に、ヘロヘロが口を開く。

 

 「…愛理沙(ありさ)…そして皆さん…この防衛戦の助っ人、本当にありがとうございました…ここから先は私達の仕事ですので。」

 

 「こっから先?」

 

 「どう言う事ですか?先輩?」

 

 アロービーチとステラの言葉に、重々しい空気を纏いながら、ヘロヘロは再度口を開く。

 

 「少々厄介な事になったみたいでしてね…至急四階層に向かわなければならなくなりまして…この件はこちらのギルドメンバーの落ち度です、皆さんはお気になさらずに…お礼は後日改めて―――それでは。」

 

 そう言い残し、ヘロヘロの姿が消える―――いや、ヘロヘロだけではない。他の面々も同じ様に消えていった。

 

 「はぁッ!?て、転移しやがタ!?」

 

 「うぅむ…転移はできない物と思っていたが、ギルドメンバーだけは特別なのか?」

 

 転移したヘロヘロに疑問を抱く二人を他所に、アロービーチは軽い足取りで進みだす。その姿に驚く二人だが、しばし間を置き「はぁ」と一つ溜息を吐いた。

 

 「行くのですな…全く、しょうがない御仁だ。」

 

 「しゃあないネ…乗りかかタ船ヨ…いくヨ…俺も。」

 

 アロービーチは喋らない。しかし、雰囲気は悠然と物語っていた。「行くぞ」「ついてこい」と。長い時間を共にしてきた確かな絆がそこには感じ取る事ができた。

 

 そして、そんな空気の中―――ドギマギする三人。

 

 (…え?ちょっと待って…これ俺らも行かなきゃいけねぇ空気じゃねぇの?)

 

 チラリ―――アラフはガンジョウに視線を向ける。

 

 (…だな、兄ちゃん…嫌だよな…帰りてぇよな…絶対碌でもねぇもんな。)

 

 チラリ―――ガンジョウはルビアスに視線を向けた。

 

 (いやぁぁぁ!?いやぁぁぁ!?!?ほら見てぇぇぇ!碌でもない事になっちゃったじゃないのぉぉぉ!?!?だから帰ろっつったんだよ!!あぁ!もう!うっぜぇなぁ!マジで!!)

 

 ギロリ―――ルビアスはねこにゃんを睨みつけた。

 

 ねこにゃんは腕を組んだまま喋らない。しかし、雰囲気は悠然と物語っていた。長い時間を共にしてきた確かな絆が、続く言葉は一つしかないと、確信めいた気持ちを沸かせる。

 

 「んあん、待てよ俺達もいくぞ。」

 

      (((ですよねぇぇぇ!!)))

 

 こう言う事だ。しかも、ちゃっかり『俺達』と言っている所にねこにゃんの悪気のない悪意が垣間見える。

 

 もういいよ!いくよ!!三人は煮えくり返るはらわたをどうにか抑えながら、ねこにゃんと共に進む。

 

 「ん~…私は残ろうかしら?」

 

 「んあん?いいのか?先輩が大変なんだろ?」

 

 腕を組み、考え込んでいたステラが言う―――自分は残ると。

 

 意外なその言葉に、ねこにゃんは疑問の声をあげた。絶対についてくると思っていたからだ。

 

 「ん~…先輩って責任感強いのよね、ああいう時、良かれと思ってついていったら、凄く嫌な顔されるのよ…行かない方が気を使えてるのかもね。」

 

 「んあん…そうかよ…知った仲だからこそ…ってやつなんだな。」

 

 「まっそう言う事ね。だから私に構わず行ってあげて…ただ、もし余りに帰りが遅い様だったら…行くわ、私も。」

 

 こくり―――ねこにゃんは無言で頷き、踵を返し進んで行く。

 

 アロービーチ達と共に、何やら異変が起きているであろう『第四階層』へと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…それで?あなたはどうするの?」

 

 「俺はカメレオン…俺はカメレオン…俺はカメレオン…俺はカメレオン…。」

 

 

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

 

 「おいたはそこまでだぜ―――嬢ちゃん。」

 

 突きつけられた野太刀が黒々と鈍い光を放つ。この黒々と言うのは、野太刀が未だ鞘から引き抜かれていない事を示している。鞘の(こく)(しょく)が暴凶の音色を奏でるかのように、ルベドの吹き上がる炎の揺らめきに合わせなびく。

 

 残存しているギルメン達全員が驚愕する。まさか、彼らがここまで助けに来るとは思っていなかったからだ。防衛戦の手助けをして貰うだけに留まらず、ここまで手を貸してくれるのかと。

 

 ギルメン達の脳裏に、アロービーチならあるいは、と言う言葉が浮かび―――瞬時に掻き消えた。

 

 アロービーチは強い。それはここにいる誰もが疑う余地は無いだろう。ユグドラシルでも屈指の強者―――しかし、ルベドは最早そんな次元ではない。

 

 この暴走したルベドを簡単に言葉で表すならば『意志を持ったワールドエネミー』だ。行動プログラミングされたAIではなく、自立行動をとり果てには成長し続けるワールドエネミーを、誰がどうして止めれると言うのか。

 

 歓喜の後に押し寄せる―――絶望。

 

 ギルメン達は沈黙していく。

 

 そう、自分達は既に詰んでいるのだ。ルベドが暴走した、その瞬間に。

 

 そんな重苦しい雰囲気を吹き飛ばすかのように、アロービーチが深く腰を落とし、構えた。

 

 腰に寄せられた野太刀、柄を掴む手―――居合の構えだ。

 

 ―――柄部の突きか。

 

 ギルメン達の脳裏にその言葉が浮かぶが、恐らくそれは正しくはない。アロービーチの右手は柄を完全に握り締めている。それが意味する事は―――完全なる居合。

 

 切り伏せる気だ―――一刀の元に。

 

 ―――不可能だ。

 

 ギルメン達の脳裏に浮かぶその言葉。誰しもがその言葉を浮かべた。アロービーチはルベドの恐ろしさを知らない。自己修復機能は現在機能してはいない。破壊する事は確かに可能だ。しかし、ルベドの膨大なHP量は未だ健在だ、一撃で削り切る事など不可能。

 

 「新規個体複数出現…脅威度未知数…能力(ステータス)の分析開始…分析完了…その他の個体と大差なし…推定脅威度…ゼロ…本機のエネミー足りえる個体…なし…。」

 

 静かな地底湖に、ルベドの可愛らしい声が響いていく。突如出現した未知の敵に対し、ルベドが自らの機能を用いて能力の分析を始めた。

 

 そして、出された答えは―――ノーエネミー。

 

 その他とは、ギルメン達の事だろう。援軍に駆けつけたアロービーチ達も、ルベドはギルメン達と同じ、なんの脅威もない個体と認識したという事だ。

 

 「はん…敵じゃねぇってか…言ってくれるねぇ。」

 

 そう言葉を吐いた後、アロービーチは更に深く構える。

 

 目の前の能面少女と自らの距離、そして野太刀の長尺、それが意味する事は、そこは居合の間合い―――が。

 

 つーっと、冷や汗が滴り落ちるかのような感覚にアロービーチは襲われる。仮にこれが現実ならば、間違いなくそうなっているだろう。

 

 ―――遠い。

 

 物理的な距離は近い―――が、そこには余りにも絶望的な距離がある様に感じられた。

 

 あと一歩欲しい―――しかし、動けない。

 

 アロービーチの本能が告げる、今動けば―――死ぬのはこちらだと。

 

 そう、死ぬのはこちらだ、正し一人なら―――だ。

 

 「ホォワッタァァァ!!」

 

 ルベドを襲う飛び蹴り―――龍の蹴りがルベドの頭部へと向かう。

 

 寸分の狂い無く、こめかみを打ち抜くかと思われた飛び膝蹴りは、ピタリと空中で止まった。龍の迫る右足を、ルベドは苦も無く掴む。アロービーチに注意が向いている状況下の中での不意の一撃に、驚異的な速度で反応していく。

 

 掴まれた右足、飛び蹴りの態勢のまま空中で静止する龍とルベドの視線が交差する。能面少女の空虚な瞳が見えたその瞬間―――ルベドの顔面が弾けた。

 

 左回し蹴り一閃―――空中で、体幹の捻りを持って繰り出された蹴りが、ルベドの右のこめかみを打ち抜いた。

 

 飛び膝蹴りで注意を引かせ、追撃の死角からの一撃。

 

 

 

 こんな物は―――知らない。

 

 

 

 生まれたばかりのルベドに襲い掛かる『未知』と言う敵。駆け引きと言う名の未知が襲い掛かっていく。

 

 右のこめかみを打ち抜いた蹴りであったが、それでもルベドの体勢を傾かせる事は叶わなかった―――が、右足を掴んでいた手が開いた。

 

 「お前―――功夫(クンフー)が足りないヨッ!!」

 

 ―――タン。

 

 龍の両足が、地面を踏みしめた。

 

 「八門開打(はちもんかいだ)ッ!アァァァタタタタタタタタッ!!」

 

 ―――打打打打打打打打(だだだだだだだだ)

 

 嵐の様に繰り出される『打』の連打。

 

 八門開打(はちもんかいだ)―――瞬間的に『(けい)』を繰り出し、人体の急所、その全てを正確に打ち抜く拳の八打である。

 八極拳では、敵の防を打ち破る事を『開門』と呼ぶ。

 

 「アイヤァァァッッッ!!独歩頂膝(どっぽちょうしつ)ッ!!」

 

 地を更に強く踏みしめた龍の右膝が、ルベドの鳩尾(みぞおち)を穿つ。

 

 独歩頂膝(どっぽちょうしつ)―――それは、八極拳の蹴り技の中でも、特に瞬発力を要求される技である。

 鍛え上げられ、バネのきいた下半身から繰り出される強烈な膝蹴り―――その威力は計り知れない。

 

 「チィエアァァァッッッ!!鉄山靠(てつざんこう)ッ!」

 

 地に足を付けた龍が、くるりと翻す、腰を落とし、背をルベドに叩きつけていく。

 

 鉄山靠(てつざんこう)―――八極拳の代表的な技であり、強靭な足腰を持ってして、背中ごとぶつかっていく技である。

 並みの者なら、この一撃で、体骨が砕けるであろう。

 

 ―――ダァン。

 

 そして最後に鳴り響く―――地響き。

 

 鉄山靠(てつざんこう)から姿勢を戻した龍の右足が、地面を踏みしめた。

 

 「オォォォワッタァァァ!!」

 

 そして渾身の―――『発勁(はっけい)』。

 

 発勁(はっけい)―――中国武術において『丹田(たんでん)』から生まれるエネルギーである『(けい)』を、全身の連動と脱力、呼吸を用いて一点に集中させ、相手に伝える技術である。

 

 鈍い音が鳴り響いた。拳が全力でぶつかっていく音だ。

 

 ルベドの鳩尾(みぞおち)を打ち抜く、龍の渾身の発勁―――しかし。

 

 「…マ…マジかよ…。」

 

 拳がぶつかったのは、鳩尾ではない。小さな、小さな手のひら。

 

 発勁は弾ける事は無かった。直撃の寸前でルベドに掴まれていく。

 

 ミシミシと音でも鳴るかのように、掴まれた拳を見た龍は愕然としていく。

 

 龍の右拳を掴んだルベドは、そのまま龍を振り回した。

 

 「えい。」

 

 轟音が鳴る。ルベドに振り回された龍が地面に叩きつけられた音だ。余りの速度に、受け身をとる事すら叶わない。

 

 「えい…えい…。」

 

 一回、二回と龍は地面に叩きつけられる。まるで、子供がおもちゃで遊ぶかの様に、振り回され、叩きつけられていく。

 

 (――~~~!!何なんだコイツはッ!?どんだけの抜け道通りゃこんなんが作れんだよッ!?)

 

 「え~い。」

 

 叩きつけるのに飽きたのか、はたまた別の事がしたくなったのか、それは分からない。先程まで遊んでいたおもちゃを、無邪気な子供の様に放り投げる。

 

 放り投げられた龍が地面に接触し、耳を塞ぎたくなる様な音を立てながら転がっていく。地面を転がり、湖に到達し、やまいこと同じように、バウンドしながら吹き飛んだその先で、建造物に接触し、龍は動きを止めた。

 

 降り積もる瓦礫の山の下敷きになった龍は、瓦礫を掻き分け、ふらつきながらも体を起こしていく―――が、龍の目の前には、先回りしたルベドの姿があった。ゾクリとした感覚が龍に沸き上がるが、時既に遅しだった。ルベドに頭部を鷲掴みにされた龍が、顔面ごと地面に叩きつけられていく。

 

 ゴジュリ―――ゴジュリ。

 

 幾度となく地面に顔面を打ちつけられた龍は、既に虫の息だ。龍の頭部を掴んだまま、その手を上げ、ルベドは龍を持ち上げる。

 

 「…ち…ちくしょう…。」

 

 ピトリと、ルベドの可愛い手のひらが、龍の腹部に添えられた。

 

 「Ignition(イグニション)。」

 

 龍の腹部に添えた手のひらから、Caloric(カロリック)Blaze(ブレイズ)が噴き出す。暴れ回るかのような炎は、一瞬にして地底湖を照らしあげ、その凶悪さをまざまざと見せつけてくる。

 

 そして―――龍が燃え尽きた。

 

 「…わ~い…わ―――」

 

 ―――ガシリ。

 

 嬉しそうにバンザイしながらはしゃぐルベドを掴む、屈強な腕。

 

 その男―――身の丈2㍍を越える大男。

 

 最強の魔法職を修めながら、柔らの極意を体現せし者。

 

 「喜ぶな―――戦いの際中だ。」

 

 山荒が―――ルベドを掴む。

 

 (じゅう)(ごう)を制す―――(やわら)の一手『山嵐』。

 

 ―――ピタ。

 

 山荒の動きが―――止まる。

 

 山荒の山嵐が炸裂する―――そうなる筈だった。しかし、ルベドは動かない。ルベドは微動だにしない。

 

 完璧なタイミングだった。無防備にはしゃぐ瞬間に、最も体勢が定まっていない瞬間を狙った筈だった。

 

 しかし―――動かない。

 

 「――~~~!ぬぅぅ!これ程か!!」

 

 余りにも別次元。まるで(いわお)を背負っているかの様なこの感覚。隙だとか体勢だとか、そんなモノは、チャチなモノと言わんがばかりの―――圧倒的な『剛』がそこにはあった。

 

 (じゅう)(ごう)を制す―――否。

 

 圧倒的な剛の前に、柔とはかくも成すすべなきものか。

 

 技を掛けた姿勢のまま静止していた山荒の体がふわりと浮き上がる。それは、ルベドが力任せに体を動かしたからだ。瞬時に危険を察知した山荒は技を解き、即座に構えに入った―――その時だった。

 

 

 

 ―――ドガァァァンッ。

 

 

 

 爆発音の様な物が響いた。そして、その音は何かが爆発した物ではないと山荒は気づく。

 

 ルベドが―――右足で地面を踏みしめた音だ。

 

 山荒は硬直する。これが現実なら目を見開いている事だろう。

 

 不細工な音だ―――()()()()()()武音(ぶおん)とは比べるべくもない程の不細工で稚拙な武音(ぶおん)

 

 しかし、これは―――この動きは紛れもなく『発勁』。

 

 「えい。」

 

 ルベドの発勁モドキが、山荒の鳩尾(みぞおち)を打ち抜いた。

 

 「ぬぅぅぅ――~~~ァァァ~~~――!?!?」

 

 声にならない叫びを上げ、山荒は吹き飛んで行く。

 

 幾度も鳴り続ける、建造物を突き破る音。山荒は崩壊した神殿の瓦礫の山に突き刺さり、ガァンと言う金属音を奏でながら動きを止めた。

 

 「…わ~い…わ―――」

 

 先程できなかったバンザイをしようとした時だった、またも突如として姿を表した熾天使(セラフ)土の精霊(アースエレメンタル)がルベドを襲う。

 

 ―――ピタリ。

 

 ここにきて、始めてルベドに変化が訪れた。手を上げたまま、固まるルベド。自らを襲う二体の高位モンスターに視線を移した。

 

 「―――うわ~ん…うわ~ん。」

 

 ルベドが手を振り回し暴れ回る。ブンブン振り回された手を叩きつけられた二体は一瞬で絶命し、光の粒子になり消滅していく。

 

 ここにきて、始めて訪れた変化。今日初めて、ルベドが『癇癪(かんしゃく)』を起こした。

 

 ルベドは、この世に産み落とされたばかりの赤子に等しい。楽しいや悲しいなどの感情が、AIにあるのかは分からないが、それでも、今尚、様々な物を吸収し成長している真っただ中だ。

 

 楽しくおもちゃで遊び、一つの事を成しえる。そしてきちんとできた自分を褒めるかのように、バンザイしながらはしゃごうとしていれば、先程から邪魔ばかりされる。

 

 とるに足らない有象無象。自らの敵にすら成り得ない矮小な存在が、何をするのかと思えば、自分に対して嫌がらせばかりをしてくるのだ。

 

 果たしてこんな時、子供ならどうするだろうか?そう、怒るだろう。つまりは癇癪だ。暴走によって、ギルドの支配から外れたルベドにあるのは、自らの成長への欲求のみ。

 

 熾天使(セラフ)土の精霊(アースエレメンタル)が光の粒子になり消滅していくその瞬間、その眩い光を突き破って現れたのは―――『ねこにゃん』と『ルビアス』。

 

 二体は只の目くらまし、本命はこの二人による奇襲だ。

 

 ルベドの顔面の左右に向かい、二対の切っ先が迫りくる。

 

 (完璧なタイミング!!)

 

 (んあん!とった!!)

 

 

 

 ―――ピタ。

 

 

 

 そして当然の如く―――止められる。

 

 二対の刃の切っ先を、ルベドは両手の指でつまんで行く。後少し、ほんの少しで届きそうな程に寸でで、刃先は静止している。

 

 見えなかった―――なにも。

 

 ルビアスとねこにゃん、どちらも生半可ではない実力者だ。そんな二人を持ってしてもルベドの動きを視認する事は叶わなかった。

 

 龍が、山荒が、アラフとガンジョウが繋いだ一瞬の隙を目掛けて繰り出された最高の一撃―――それでもなお届かない。

 

 二人は剣を引き抜こうと足掻くが、剣はビクともしない。

 

 引いても、押しても、捻っても―――なにをしようが動かない。

 

 指でつままれただけの剣が微動だにしない。

 

 「うっそ!?なによコイツ!!わっけわかんないってば!?!?」

 

 「冗談じゃねぇぞ!?どうにもなんねえってこれ!!」

 

 悲鳴にも似た叫びを上げる両者だったが、同じタイミングでゾクリとした感覚が襲い来る。

 

 先程も言ったが、二人は然る者達だ。強き者達には鋭敏に研ぎ澄まされたある共通の感覚がある。

 

 それは―――危機感だ。

 

 二人の危険センサーが鳴り響く。このままでは死ぬと、最大の警報を鳴らしていく。鳴り響く危険センサーに従い、二人は即座に手に持つ剣を離し、全力でその場を離れていく。

 

 「Ignition(イグニション)。」

 

 ルベドが爆発した。弐式の時と同じだ、負の爆裂(ネガティブ・バースト)を思わせる様な全身から吹き上がる炎の噴出。ただ少しだけ弐式の時と違うのは、噴出した炎が暴れ狂い、全方位に飛散したと言う所だろうか。

 

 「Territory(テリトリー)展開。」

 

 暴れ狂う炎は無造作に周囲を襲うかと思われたが、ここにきて、また少し変化が起きる。炎は明確に標的を定めている。

 

 ルビアスとねこにゃん―――そして。

 

 「おわぁぁぁぁ!!なんじゃあぁぁぁこりゃぁぁ!!」

 

 「うわ!うわわ―――あぁぁぁ!?!?」

 

 「ガンジョウ!?」

 

 襲い来る炎を全て躱した二人だったが、標的は二人だけではなかった。召喚者の二人―――『アラフ』と『ガンジョウ』もその標的だった。自分の楽しみを邪魔した、煩わしい二人を始末しようという事だろう。

 

 からくも炎から逃げ延びたアラフだったが、ガンジョウはその限りではない。ガンジョウの周りで渦を巻く炎は収縮し、球体状になりガンジョウを閉じ込めていく。

 

 「え!?ちょっと待って!?なにこれ!なにこれ!?出れない!出れないって!!?」

 

 炎の球体内部をドンドン叩くガンジョウだが、炎の牢獄はビクともしない。余りにも意味不明な状況に、ガンジョウは喚き散らす。

 

 「Ignition(イグニション)。」

 

 「え!?ちょッ!まッ―――あぁぁぁッ!?」

 

 球体内部に吹き荒れる炎が、メラメラと辺りを照らしていく。その姿はさながら太陽だ。禍々しい光を輝かせる太陽が、パァンっと弾ければ、そこにはもうガンジョウの姿は無かった―――燃え尽きた。

 

 「…や…やぁぁぁろぉぉぉあぁぁぁ!!」

 

 サブウェポンを瞬時に右手に出現させたルビアスが怒りに任せ突進していく。不味い―――ねこにゃんはそう思うが、ルビアスはもう止まらない。ここで冷静さを欠けば、勝てる物も勝てなくなるだろう。だがもう遅い、全速力で駆けたルビアスの剣がルベドを斬りつける為振るわれたが、当然の如く止められた。

 

 誰の目にも明らかだった、ルビアスもここで死ぬ。そう全員が思った時、ルベドとルビアスの間に割り込む様に、巨大な氷柱が地面から突きあがっていく。

 

 ルベドとルビアスの両方に、一瞬の硬直が訪れる。先にその硬直から抜け出したのはルビアスだ。怒りに我を忘れていた思考が冷静さを取り戻すと共に、即座にルベドの周囲から離脱して行く。

 

 いったいこれは?全員があっけに取られている際中、地底湖が吹雪出す。地底湖全部を氷漬けにでもしようかというくらいの勢いで、地面が、湖が、建造物が、ピキピキと凍りだした。

 

 「ちょちょちょちょちょッ!?なにこれなにこれ!?防衛戦も終わって帰ろうと思って来てみたら!?いったい今どう言う状況なのこれッ!?」

 

 金髪ウェーブの伊達男―――『ジャン』がテンパりながらそう叫ぶ。

 

 そう、この現象は―――『氷結界(ひょうけっかい)』。

 

 帰ろうと思ってスキップしながら階層を登っていたら、何やらとんでもない状況に出くわしてしまった。ジャンは軽くパニックになりながらも、目の前の少女を氷漬けにしようと、氷結界(ひょうけっかい)の出力を最大まで引き上げていく。

 

 目の前の少女が敵かなど、まだ分からないだろうと言われそうだが、ことこの状況下に置かれれば誰にだってわかる、あんなメラメラ燃える訳の分からん奴が敵じゃない訳ないだろう。

 

 ルベドを囲む様に吹雪く大吹雪。ピキピキと周囲は凍り付き、ルベドを氷のオブジェにせんとする―――が。

 

 「Ignition(イグニション)。」

 

 吹き荒れる炎がそうはさせてはくれない。氷結界(ひょうけっかい)の極寒を、まるで嘲笑うかのように、炎は勢いを増していく。

 

 凍り掛けていた周囲も、巨大な氷柱も、瞬時に溶解されていった。

 

 「…は…はえ?」

 

 ジャンから間抜けな声が零れた。氷結界(ひょうけっかい)は究極の氷雪系スキルだ。『火炎焱燚(かえんえんいつ)』と並ぶ、究極の属性スキルであり、『特殊スキル』に分類される。完全耐性すらも突破し、何者も抗う事などできはしない絶対零度の空間の筈だ、そんな氷を溶解させる炎―――ありえない。

 

 そう、ジャンは間違ってはいない。普通ならこんな事はありえはしないだろう。ただジャンは知らないだけだ、目の前の炎が普通でないという事を。

 

 Caloric(カロリック)Blaze(ブレイズ)は原初の炎にして世界創生の炎だ。

 

 またの名を―――『World(ワールド)Blaze(ブレイズ)』。

 

 氷結界(ひょうけっかい)が抗えぬ特殊スキルであるならば、World(ワールド)Blaze(ブレイズ)は更にその先にあるスキル―――『世界級(ワールド)能力(スキル)』だからだ。

 

 ただそれだけの事だ―――簡単な事だ。

 

 ジャンが愕然としていく。開いた口が塞がらないとはこの事か、正に『鳩が豆鉄砲』。理解が追いつかず、思考がぐちゃぐちゃになっていたジャンの目の前から、ルベドの姿が消える。

 

 ―――ズガァァァン。

 

 ジャンの頭部に襲い来る衝撃。かつてこれ程の衝撃を受けた事があっただろうか。続いて襲うは違和感―――目の前が真っ暗になっていく。

 

 なぜ真っ暗になったのか?それは、ジャンの顔面が地面に埋もれていったからだ。自分に嫌がらせをしてくる奴に腹を立てたルベドが走ってジャンの前方まで行き、右手で頭を殴りつけていった。

 

 ルベドが動いたのに気づかなかっただけ、殴られたのに気づかなかっただけ、だからルベドが消えた瞬間に目の前が真っ暗になった―――ただそれだけの事だ。

 

 ―――ガシリ。

 

 そして今回のルベドは殴るだけでは終わらない。なぜならルベドは怒っているからだ。怒ったルベドは地面に埋もれたジャンの頭部を鷲掴みにしていく。

 

 「え~い。」

 

 可愛い掛け声と共に、ルベドの背中から炎が噴出された。まるでジャンボジェットの様に炎を噴出させたルベドが高速で低空飛行していく。

 

 ―――ガリガリガリガリガリガリガリガリ。

 

 ジャンの顔面で地面を抉りながら、ルベドは楽しく空中のお散歩を始めた。楽しくお散歩とは言うが、その速度は弐式の最高速の比ではない。これが現実なら、地面にはわだちができ、楽しいお絵かきができる事だろう。

 

 「え~い。」

 

 散歩に飽きたのか、ルベドはジャンを放り投げた。その投げ方を言葉で表すなら、ボウリングだ。ボウリングの玉をスイングするかのように、すくい上げるかのようにジャンを放り投げた。

 

 もはや視認すらできぬ程の速度で放り投げたジャンに向かい、ルベドは両手を突きだす。

 

 これも言葉で表すならば、どこかの惑星の野菜人の王子が、ファイナルなフラッシュを炸裂させる時のポーズとそっくりだと言おうか。

 

 「Ignition(イグニション)。」

 

 眩い光と共に閃光がジャンに向け放たれた。閃光と言う様に、この炎は先程までの炎とはまた違った物だ。先程までの吹き出す荒々しい炎とは違い、圧縮され、より殺傷力だけを突き詰めた様な炎。まるでレーザービームを思わせるかのような炎に、ギルメン達全員が目を見開く。なぜなら、このレーザービームをギルメン達は知っているからだ。

 

 

 

 ―――『ゲンガーブラスター』。

 

 

 

 『超大型人型決戦兵器』の誇る究極の破壊光線がジャンを打ち抜いた。

 

 レーザーが消滅していく。消滅したその場所には、もうジャンの姿は無い。塵芥となって消えた。

 

 ルベドが暴走してから、それなりの時間が経っている。ここにきてギルメン達は気づいていく。動きが、技が、徐々に洗練されつつある事に。

 

 技術の応用の片鱗を見せだしたルベドに、ギルメン達全員が本日何度目かも分からない戦慄を覚える。

 

 腕を突き出したまま静止するルベド。そのルベドの周囲に炎が吹き上がった。この炎は、Caloric(カロリック)Blaze(ブレイズ)とは違う炎だ。

 

 「うあっ()ィィィ!」

 

 「ファイアフレェェェイムッ!!」

 

 拭き上がる炎、それは―――カグツチの神炎。

 

 「あっちっちにも程があるわよォォォ!!メラメラちゃァァァん!!」

 

 「オォォォウ!!クレイジィィィガァァァルッ!!」

 

 炎火の両手が―――マコトシシォーの両手が『金色の炎』に包まれ、爆発的な熱量と共に膨れ上がった。

 

 

 

 

 

 

 その炎は―――神炎。

 この世の『穢土(えど)』を浄化し

 極楽へと(いざな)う神聖な炎。

 金色に輝く神炎は全ての罪を浄化し

 浄土へと至らせる。

 金色に輝く紅蓮の炎。

 その名は―――『紅蓮浄土』。

 

 

 

 

 

 

 

 『紅蓮浄土』×『紅蓮浄土』―――『(だい)紅蓮(ぐれん)浄土(じょうど)』。

 

 ルベドを包み込み、紅蓮浄土が燃え上がる。

 

 金色の炎は激しく燃え盛り、渦を巻き天を突いていく。さながらその姿は、炎の竜巻。メラメラバチバチと炎の音が響く中に、風が絡み合う音が混じる。

 

 「まったくもォォォう!なにがどうなってんのよ!ルビちゃん!ねこちゃん!アラフ!大丈夫ッ!?」

 

 「オォォォウ!オォォォォォウ!!ファァァイアストォォォムッ!!()ャッ()ャッ()ャッあァァァ!!!」

 

 叫ぶ二人に比例するかのように、炎の竜巻は更に勢いを増していく。ルベドの姿など最早欠片も見えない。ギュラギュラ舞い上がる炎の渦が青天井かのように燃え盛っていく。

 

 ルベドを燃やし尽くさんと激しさを増していく。徐々に徐々に勢いを増す炎が―――徐々に徐々に緩やかな炎に変わっていく。

 

 「…う…うそでしょ…?」

 

 「…オォォォウ…オォォォマイガァ…。」

 

 先程まで見えなかったルベドの姿が露わになっていく。炎の渦は姿を消した。だが、金色の炎がかき消されたかと言うと、実際はそうではない。ふよふよとルベドの周囲を漂う様に浮かび上がるのは、金色の炎―――紅蓮浄土だ。

 

 「Blaze(ブレイズ)Control(コントロール)。」

 

 ふよふよと漂う紅蓮浄土―――その理由は、ルベドに支配されたからだ。

 

  Caloric(カロリック)Blaze(ブレイズ)を身に纏うルベドにとって、全ての炎は下位互換。それはカグツチの神炎であっても例外ではない。全ての炎は、ルベドのおもちゃだ。それもとびっきり扱いやすいおもちゃである。カグツチの神炎ですら―――だ。

 

 そう、紅蓮浄土どころか、あの―――火炎焱燚(かえんえんいつ)ですらも。

 

 「えい。」

 

 ルベドが二人を指さした。それと同時に二人を襲う、金色の炎。ルベドの支配(コントロール)下に置かれた神炎が、元の支配者へと牙を剥く。

 

 二人は影縫いを用いて、空中へと対比していくが、紅蓮浄土は凄まじい速度でお追い縋ってくる。空中で旋回した炎火はどうにか回避に成功したが、踵を返した紅蓮浄土がマコトシシォーを覆っていった。

 

 ―――油断した。

 

 マコトシシォーの脳裏に過る言葉。

 

 いつものシシォーなら「油断?なんのことだ?これは『余裕』というもんだ。」とかなんとか訳の分からない言葉をほざくモノだが、今日に限ってはそんな軽口は流石に出なかった。

 

 「オォォォウ!!クレイジィィィガァァァル!!ナァァァイスフレェェェイム!!」

 

 紅蓮浄土が消滅する―――マコトシシォーと一緒に。

 

 空中でその光景をまざまざと見せつけられた炎火は言葉がでない。愕然とした表情で見つめていた視線の先に、突如出現するはルベド。先程まで地上にいた筈のルベドが既に炎火の目の前にいる―――終わった。

 

 炎火がそう思った時、ある方角から爆音が響いた。

 

 その方角は―――崩壊した神殿。

 

 瓦礫を吹き飛ばし、ドォンと言う爆音を轟かせながら空中へ飛び上がってくる巨大な物体がそこにはあった。

 

 炎火とルベドの真横まで、超高速で飛び上がってきた巨大な物体―――ダイゲンガーだ。

 

 「バカやろォォォ!!一瞬飛んじまったじゃねぇかァァァ!!お返しだァァァ!!」

 

 ―――『ベジタブルクラッシュ』。

 

 ダイゲンガーに叩きつけられたルベドが弾丸の様に地面まで急降下し、爆音を轟かせ地面に衝突する。

 

 そのまま地面に倒れ伏したルベド。このまま動かないでくれと言いたくなるが、そんな甘い話はこの世には無い。何食わぬ雰囲気で地面から、よっこいしょとルベドは立ち上がっていく。

 

 そう、ルベドは立ち上がる。

 

 立ち上がった場所は―――奴の目と鼻の先だった。

 

 「待ちわびたぜ―――」

 

 目と鼻の先にいたのは―――アロービーチ。

 

 右足が踏みしめられた。

 

 抜かれるは―――長尺の野太刀。

 

 寸分の狂いもない。いっそ芸術とも言える程の『線』が煌びやかに走った。

 

 

 

 

 

 

 ―――『居合』。

 

 

 

 

 

 

 ―――ピタ。

 

 野太刀の動きが―――止まった。

 

 野太刀の切っ先を掴むは、ルベドのか細い手だ。

 

 誰もが目を奪われる程の究極の線―――それでも届かなかった。

 

 地底湖に舞い降りるは絶望。

 

 あのアロービーチですら―――『その他』と同じ。

 

 ―――ギチリ。

 

 野太刀の切っ先を掴む力が増した―――その時だった。

 

 

 

 ―――ドジュリ。

 

 

 

 ルベドの腹部に突き刺さる―――(こく)(しょく)の獲物。

 

 右足で踏み込んだアロービーチだったが、現在の姿勢は違う―――左足が踏み込まれている。

 

 黒色の獲物、それは―――『鞘』。

 

 

 

 これは―――『鞘での突き』。

 

 

 

 不意を突かれたルベドから、一瞬だけ手の力が抜ける。その瞬間をアロービーチは見逃さない。握られていた野太刀が引き抜かれていく。

 

 引き抜かれた野太刀―――右手に握られた野太刀の刀身がギラリと光輝き、左手に持たれた黒色の獲物である『鞘』が鈍い光をあげていく。

 

 右手に『野太刀』―――左手に『鞘』。

 

 

 

 そう、それは―――『鞘二刀流』。

 

 

 

 アロービーチは言った―――待ちわびたと。

 

 そう―――待ちわびた。

 

 

 

 「―――この距離をよ!!」

 

 

 

 引き抜かれた野太刀が翻り、ルベドの顔面が―――弾けていく。

 

 

 

 

 

 

 





 おまけ ~ガァンと言う金属音~

 やまさん「あぁ~~~。」
 埋もれたダイゲンガー―――ガァン。
 げんさん「…んがッ!?」
 やまさん「もう…むりぽ…。」―――パタン。
 げんさん「な、なんだ…?」
 げんさん、ここで気づく。
 げんさん「はッ!?意識ぶっ飛んでたぜッ!」
 げんさん、起き上がる。
 げんさん「あんのッ!ちびすけェェェッ!」
 ダイゲンガーッ!発進ッ!
 ~♪夢が明日を呼んでいる~♪
 ~♪魂の叫びだ~♪
 ~♪レッツゴー~♪
 ~♪カール・ゴッチッ~♪



 千葉セバス「じぃぃぃかいよぉこくぅぅぅッ!!」

 BGM―――『Wild(ワイルド)〇ision(〇ィジョン)

 ~千葉セバスナレーション~
 
 あッひゃァァァッッッ!!
 あッぴょォォォッッッ!!
 あッパっぱッ破っPAAAAAAAッッッ!!
 誰が呼んだかポセイドンッッッ!!
 タンスに入れるはァァァッ!タンスにゴンッ!
 待ちわびたァァァッッッ!!
 待ちわびたぞォォォッッッ!!
 この距離をなァァァッッッ!!
 振るわれるはッ!野太刀ッッッ!!
 振るわれるはッ!鞘ァァァッッ!!
 掟破りのッ!!鞘二刀流ゥゥゥッ!!
 かませにならないライバルはァァァッ!!
 本当にかませにはならないんだァァァッ!!
 うッひゃァァァッッッ!!
 猛るアロォォォビィィィチィィィッッッ!!
 しかぁぁぁしッッッ!!
 ルベドもまたァァァッッッ!!
 新たな『力』を解放しようとォォォッ!!
 していたのだったァァァッッッ!!
 ぴゃァァァッッッ!!

           
           次回

 あんてぃりーねのゆぐどらしる☆だい☆ぼう☆けん☆

      「Tetractys(テトラクテュス)Grammaton(グラマトン)




 千葉セバス「機械風情がァァァッッッ!!
       十年早いんだよォォォッッッ!!
       八門開打(はちもんかいだ)ッッッ!!」
       猛虎硬爬山(もうここうはざん)ッッッ!!
       独歩頂膝(どっぽちょうしつ)ッッッ!!
       崩撃雲身双虎掌(ほうげきうんしんそうこしょう)ッッッ!!
       鉄山靠(てつざんこう)ッッッ!!
       あァァァッッッ!貼山靠(てんざんこう)ッッッ!」

 
 
 ちひろ( ゚Д゚)「なんか回を追うごとにテンション上がってませんかッ!?」

       
 千葉セバス「ゲホゲホッ!の、喉が…いやぁッ!まだいけるッ!」     
       

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