あんてぃりーねのゆぐどらしる☆だい☆ぼう☆けん☆ ~泣き虫が伝説になるまで~ 作:だいだろすちひろ
リーネちゃん異世界カムバック
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―――鳥の囀る声が聞こえる...
―――もう朝なの?...鳥...?
―――瞼に仄かに日の光が刺す...暖かい...
―――日の光...?暖かい...?
―――暖かい...?
日の光による暖かさが長い夜が終え朝が訪れた事を知らせる。それを感じ取った少女がゆっくりと―――恐る恐ると言った風に―――重い瞼を広げた...―――微かな違和感と共に...
「もう...朝なの...?」
自分の中にある体内時計が狂ってしまったのでは?そう思わせる程酷く短いスパンで訪れた翌日に困惑し、また微かな違和感と共に心に何かが引っかかる。こんな事が前にもあった気がすると。
そして寝ぼけまなこの少女の目のぼやけが薄っすらと取れていき徐々に周囲の風景が浮かび上がってくる。そう―――”見慣れた天井”が
「...はっ?...えっ?ちょっと?」
―――そして遅れて混乱も...
「嘘...ここ”私の部屋”...?”帰ってきた”の?」
昨日就寝した時に見た天井とは違う。そう、見間違えるはずはないこの天井は知っている。混乱した少女が勢い良くベッドから飛び起き周囲を見渡す。そして再度混乱が押し寄せる。ここは”間違いなく”自分の”元の部屋”だ。
「なんで...?あんなに”ログアウト”しても帰れなかったのに...。」
夢?そう脳裏によぎるが即座に否定する。―――あれは間違いなく夢ではない
頭の中で疑問が大きな渦を巻き荒ぶっている。答えを出そうと子供の脳をフル回転させ考え事をしていると...
コンコン―――扉を叩く音が聞こえた。
「!はっ、はい!」
急な音に体をビクリと震わせ少女が慌てて言葉を―――震えた声を―――発する。そのすぐ後に”失礼します”と来訪者の声が扉越しに伝わってきた。
―――ギィ...扉の開く音が聞こえ一人の女性―――ふくよかな―――が部屋の中に入ってくる。―――ナズルおばちゃんだ。
「おはようございます。お嬢様今日も...!?お嬢様!?」
部屋への来訪者、ナズルが挨拶した後急に顔色を変えた。一体どうしたというのだろう?そう思い少女が何かに気づく―――頬を伝った何かに
(あっ...私”泣いてる”...)
頬を伝った”何か”の正体それは”涙”だ。大粒の涙が目から止めどなく溢れてきている。
この涙は果たして元の世界に帰ってきた”安堵”による物なのか。それとも―――ある”二人”に会えなくなってしまった”悲しみ”からなのか...それは少女にも分からない。
「お嬢様!?どうなされたのですか?具合でも悪いのですか!?」
ナズルが血相を変え大きな声でそう喋りかけてくる。目の前で急に少女が涙を流したのだから当然だ。
「だっ大丈夫だよナズルおばちゃんちょっとだけ...うん...”怖い夢”を見ただけ...。」
ほんの少しだけ”戸惑い”が生じる。”怖い夢”確かに怖かった...追いかけられ殺されかけた...でもそれ以上に”楽しい事”もあったのだ。この”言葉”はあの二人を”拒絶”してしまうような...あの”時間”を”否定”してしまうかのような気がしてしまったから...
感傷に浸っていた少女がふと我に返り目の前の人物ナズルに言葉を発する―――言わなければならない事があると...
「ナズルおばちゃんごめんなさい。家を留守にして...心配かけたよね...?」
きっと心配していただろう。そう思うと胸が張り裂けそうになる...罪悪感がじわじわ押し寄せてき、帰ってこれた”安堵”と二人に会えない”悲しみ”とが混じり合い少女を押しつぶそうとする。
その言葉を聞きナズルが言葉を返す。非常に複雑そうな表情で紡がれた言葉は少女の中に渦巻く感情を―――
―――全て吹き飛ばした
「留守...?”昨日”の夜からどこかいかれてたのですか?」
「...えっ...?」
夜更かしはいけませんよ。そう子供に対して至極当然の説教をするナズルをまるで信じられない者でも見るかのように凝視する。”昨日”?”夜”?訳が分からない...間違いなく”一週間”は経っているはずだ。
「えっ?どういう...?昨日って...」
「?えぇ。昨日の夜就寝前に合われたではないですか?」
益々混乱している少女の姿を見てナズルの顔色が悪くなる。明らかに様子がおかしい。
「お嬢様、昨日のダメ―ジ...疲れが残っているのではないですか?今日からしばらく”ファーイン”様も”用事”で帰ってきません。今日はゆっくり休まれた方がいいでしょう。」
「あっ...うん。そうだね。疲れてるんだよね...そうする。」
自分の体調を考えるに恐らく疲れてはいないだろう。しかし今は一人で考える時間が欲しい。ナズルにはこれで納得してもらうほかないだろう。
「...ゆっくりお休みください。ファーイン様が”お帰りに”なられるまでは”訓練”はありませんので...それでは失礼します。」
―――バタン...扉が閉まりナズルが部屋から退出した
(どういう事なの?”こっち”は時間が進んでいないの?...もう訳がわからないよ。)
迷い込んだ世界でも色々と訳が分からない事だらけだったが今回が一番だ。この一週間で自分は何回一番を更新しなければならないのか...
「もう分かんない...体動かしたいな...”いつもの場所”に行こう。」
この心のもやもやを解消したいと少女は思いナズルの言葉を無視してある場所に向かおうとする―――そして
「お嬢様...か...。」
”久しぶり”の言葉...”聞き馴染んだ”言葉...少女が一つため息を吐き部屋を出ようとする。その脳裏に一つの言葉を浮かべて―――
―――リーネとは呼んでもらえないよね...
♦
「うんしょ...着いたー!」
ここは”法都”付近に佇む裏山―――それほど大きくはない―――入り組んだ林を掻き分け進んでいった先にある山の頂上である。見晴らしの良い丘からは法都が見渡せ家族でピクニックにでも来たら最高であろう。
スレイン法国は軍備もしっかり整って―――周辺国家随一―――いるのでモンスターの間引きも徹底されておりこの裏山も危険はほとんどない。しかしそれでも近づく者は少ない。危険は0ではないのだから。
「うーーん!いい風!お家どこかな~。」
あっ。あったあった。そう無邪気にはしゃぐ子供がそこにはいた。不用意に自然に近づく危険を全く理解できてはいないが子供なのでしょうがないだろう。―――彼女は”世間”に疎いのだ
「よ~し。秘密の特訓よ~!」
そう言葉を発しガサガサと草むらから”こん棒”を引っ張り出してきて素振りを開始する。目線の先には傷だらけの”大木”が映る。恐らくこん棒で打ち付けた跡であろう。
(あれ?こん棒こんなに”軽かった”っけ?)
軽く素振りをしているはずなのに明らかに”風切り音”が尋常ではない。そういえばこの場所に到達するのもいつもより簡単に来れた気がする。前はゼェゼェ言っていた筈だ。どうやら今日は抜群に調子が良いらしい。
「武技も使えなくなっちゃたし。頑張って特訓しないと。」
やるぞー!―――一人でそう叫び虚しさが全身を駆け巡る”昨日”まではそんな事はなかった。
「―――!駄目駄目、気を引き締めないと!とりあえず”使えなくなった”武技の練習からだよね!頑張れ!”リーネ”!」
自分で自分の愛称を呼び虚しさが倍増してくる。そして追加で羞恥までも感じ出した。長い耳を真っ赤に火照らせながら―――あぁもう!!っとリーネが特訓を開始する。
―――武技!斬撃!―――そして
こん棒の切っ先から斬撃が現れ空中を一直線に駆け抜ける。進行方向には傷だらけの大木があり―――
―――斬撃が大木を”真っ二つ”にした
その斬撃はそれだけでは飽き足らず後方に存在していた他の木をも切り倒しその後消滅する。けたたましい重低音があたり一面に鳴り響き斬られた木らが地面に激突する。
斬撃が通った地面は衝撃波で軽くえぐられている―――控えめに言って大惨事である。
「............。」
余りの出来事に言葉が出ない...今までどんなに驚いても悲鳴くらいは発していた物だしかし今回ばかりは言葉が出ない―――現実を受け止められない
(す...すっご~い。わたしもうぶぎのかんかくとりもどした~わたしてんさいかも~。)
―――リーネは知らないそれは現実逃避という物だ
本日二回目の一番を更新したリーネが、はは...はは...と笑いながらもう一度”斬撃”を放つ決意をする。ちょっとだけ。確認...確認だから...―――そして
「ぶ...武技、ざんげき~。」
―――結果は変わらなかった...いやむしろ前より酷い結果になった。
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「あんなのなくない?」
自分の部屋に戻ってきたリーネがそう一人ごちる。あれは流石にあんまりだ。一体自分に何が起きたのだ。
考えられる事はただ一つ―――
「レベルアップかな?”ステータス”が一個LV上げる事に”物凄く”上がってたもん。」
レベルアップによるクラスアップ、それに伴うステータスの上昇。ユグドラシルは他のゲームとは訳が違う1LVの上昇だけでも雲泥の差でありまた前衛の戦闘職なら猶更であろう。
「あれってあの”世界”だけの力じゃないの?ここでも使えるの?訳わかんないよ。」
向こうでは武技は使えなかったのにこちらの世界では使用できる。しかも向こうで振るった力をこちらの世界では振るう事ができるのだ。―――スキルさえも
「えっと~思い出すのよ~私。モモンガさん達と初めてコンソールを開いた時は~確か12だった?今は確か35...よね?」
ユグドラシルにおいてある程度のLVまでは簡単に上げれてしまう。デスペナを恐れての世界への探求を妨害しない為に運営が配慮した結果だ。
リーネは知らないそのLVはこの世界において”英雄の領域”を軽々と侵し”逸脱者”に迫る勢いだという事を―――しかも
「たっちさんが確か最適なびるど?バランスの良いくらすこうせい?とか言ってた。」
只の35ではない。たっちがユグドラシルの知識を余す事無く使い前衛として―――彼女に最も適した―――バチバチに整えた35LVである。
―――この世界においてその力は”破格だ”
「怖いな...扱い切れるかな?」
子供が持つには過ぎた力だ。闇雲に振るえば人間など軽々と殺せるだろう―――リーネにはそれがとても”恐ろしい”
「お母さんに”怪我”させちゃうかな?それともお母さんは”もっと強い”?」
この力を母に無造作に振るい怪我をさせてしまう光景が浮かんでくる。しかしそれでも母なら受け止められるのでは?とも思う。母の真の力など知らないのだから。
コンコン―――扉が鳴らされる。続いてナズルが部屋に入ってきた。
「お嬢様お夕飯の時間ですよ。今日は大好きな”オムレツ”です。」
「―――――!!やったーー!ナズルおばちゃんのオムレツ大好き!」
オッムレツ!オッムレツ!無邪気にはしゃぐ姿を見てナズルが目を白黒させている。
「お嬢様?どうなされたのですか?そんなにはしゃいで...”前まで”はそんな事なかったのに。」
無邪気に...リーネは無邪気とは無縁だった、子供であるにも関わらず...それは押し殺していたからであろう―――母に認められる為に...子供らしさを...この姿こそが本当の姿なのかもしれない。子供らしいこの姿こそが。
―――それを引き出したのはあの二人だ
「あっ...ごめんなさい。」
「謝らないで下さい。私は”そっち”のお嬢様の方が好きですよ。」
さぁお夕飯にしましょう。その言葉を聞き満面の笑みをこぼした―――
―――それから七日後ファーインが屋敷に帰ってきた
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屋敷の前―――広い庭に二人の女性が相対している。”ファーイン”と”アンティリーネ”である。その後ろにはそれを見守るナズルの姿がある。
これはいつもの見慣れた光景―――訓練という名の虐待である
―――あるはずであった
「――――!!」
「うっ!はぁ!」
ファーインの振るうこん棒がリーネに迫る。みなれた光景であり、そしてこの後に続くのは吹き飛び転がる姿―――そうであったはずだ―――だがそうはならない。
迫るこん棒をリーネが”受ける”驚愕に目を見開くファーインにリーネの”体当たり”が炸裂する―――このような”戦法”をとる”子”ではなかった
(剣は攻撃手段の一つ!戦いは全てを使う!そうですよね!たっちさん!)
「~~~――!!」
不意を突かれたがそれでもファーインは”崩れない”当たり前だ、彼女は”神人”法国”最強”の女なのだから―――不意を突かれた。想定していなかった戦法をとられた。しかし彼女を最も驚愕させているのは―――
(重い!!なぜこれほどまでに!?)
明らかなフィジカルの向上―――たった七日で...ありえない。これは異常だ
―――考えられるのは”たった一つ”
目の前には体を前傾に尖らせ小さくしている相対者の姿がある―――的を狭めているのだろう。小賢しい。
リーネの頭の中で母の次の一手を”今までの経験”―――母との訓練―――を用いて予測していく。思考が回転していく。選択肢は無数にある―――どれでくる?―――そう考え
―――終わりよ...
唐突に訓練の終わりが告げられた―――
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「えっ?終わり?”今日”はまだ始めたばかり―――」
なのに―――そう続けようとして
―――信じられない言葉が飛び出した
「今日?何を言っているの?この”訓練”自体”終わり”と言ったのよ?」
「―――!!そっそれって!」
認められた...認められたのだ。母に認めて貰えた。目から涙が溢れそうになり―――
「そうよ”この訓練”はもう”用済み”...だから...」
―――明日には”家を出ていきなさい”
「えっ...?えっ...?」
「あら?聞こえなかったの?私の目の前から”消え去れ”と言ったの。お分かりかしら?」
膝から崩れ落ち目の前が真っ白になっていく―――言ってる意味が分からない
「ファーイン!!」
まるで大地を揺らすかのような怒号が屋敷の前に響き渡る―――いや実際”揺れている”のかもしれない。この雰囲気は...迫力は...”人間の域”を超えている。
「なにかしら?ナズル?家事手伝い如きが屋敷の主である私に口出しするの?それとも”元上司”としての言葉かしら?ねぇ―――」
―――元”漆黒聖典第3席次”
「この子が!この子がどれだけ!貴様それでも母親か!」
「ドラゴンは子供が育ちきる前に捨てて一人で生き抜かせるのよ?それと―――」
「黙れ!!!」
二人が何かを言い争っている。しかしその意味までは理解できない―――全て雑音に聞こえる。脳が思考を停止しているのだ。
「煩いわね...じゃあどうするの?力づくで私を説き伏せてみる?...できるのかしら?”貴女に”。」
瞬間雰囲気が豹変した、大気を揺らすかのような強大な圧力がファーインから発せられる。”元漆黒聖典”を持ってして耐えられない程の―――
「~~~――!!」
ファーインが―――法国最強の女が足音を立て近づいてくる―――しかし体が動かない。動くのを拒否している。そして...ゆっくりとナズルの隣を歩き去っていく。
「いいですね?”明日”までです。それまでにしっかりと”コレ”に準備をさせなさい。分かったかしら?ナズル。」
お金くらいは渡してあげるわ。母親ですもの。ファーインが小さな声でそう言葉を続けて屋敷に戻る―――ゆっくりと...ゆっくりと。
「ファーイン...貴様は...”人”ではない!」
ナズルの血を吐くかの様な罵声がまるで嚙みつくかの様に飛び交う、そして―――
「人じゃない?えぇそうよ―――」
―――私は”神人”だもの
その言葉が重く宙を舞い―――風に溶けていった
♦
「お嬢様...申し訳ありません。本当に...。」
彼女が悪い訳ではない。しかしそれでも謝罪の言葉は止まらない。想像を絶する無力感が彼女を襲っている。―――元漆黒聖典―――その言葉のなんと”薄っぺらい物”か、子供一人”守れない”のだから
「......。」
ナズルが何かを言っている...何かを...良く”聞こえない””聞きたくない”。
「お嬢様...。」
「...って...。」
「えっ?」
「出て行って!!もう嫌だ!!もう沢山よ!!頑張ったのに!!頑張ってきたのに!!」
リーネの口からおびただしい量の憎悪が溢れ出す。行き場をなくしたその言葉は目の前の存在に斬りかかる―――言葉と言う名の刃が
「――――申し訳ありません。...失礼いたします。」
扉が閉まる音が響きナズルが部屋を退出する。一人にして欲しいから―――いや...もう...
―――ずっと一人か
「――――――。」
涙は枯れつくした...もう流れてこない―――しかし悲しみだけはいつまでも湧き上がってくる―――止まらない。
「嫌だよ...。」
嫌だ...嫌だ...一人は嫌だ...
「なんでなの?なんで?私が悪い子だから?」
いつもの囁きが体全てを駆け巡る―――ほらね?嫌いだったでしょ?ほらね?捨てられたでしょ。お前は―――
―――いらない子なんだよ
「もう...嫌...助けて...助けてよ―――」
―――モモンガさん...
―――カチリ...
―――歯車が噛み合うような音がした
―――リーネの”耳”に音が飛び込んでくる
「?なに...?」
―――周囲の空間が歪み”リーネ”を包む
「――――!!?なっ!!?なんなの!!?」
―――彼女は”接続”する
―――何度でも
―――彼女は行き来する
―――何度でも
―――”世界を行き来する”―――
リーネちゃん「七日で英雄超えたったwww」
ガゼフ「......。」
ブレイン「......。」
サキュロント「えっ!?俺!?」