あんてぃりーねのゆぐどらしる☆だい☆ぼう☆けん☆ ~泣き虫が伝説になるまで~   作:だいだろすちひろ

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 前回のあらすじ

 とびっきりの最強対最強の火蓋がきられた。


ExtraEpisode番外編『とびっきりの最強対最強』 後編

 

 

 

 

 

 

 

 空が軋んだ。

 

 まるで、世界が崩壊するかのように、空間はうねり、ひび割れ、軋んで行く。

 

 けたたましい音が鳴った。

 

 耳を塞ぎたくなる様な歪な音が鳴り響いた。

 

 それと同時に、泣きわめく。

 

 泣きわめくは―――山脈。

 

 空はひび割れ、山脈が揺れ動く。

 

 いっそ、世界崩壊の兆しでも見えたかの様なその現象は、程なくして治まりを見せた。

 

 そんな光景を―――地獄絵図の様な惨状を、見上げ、見つめていく『二つの人影』。

 

 人影は、顔を見合わせ、こくりと同時に頷けば、正面を見据え、歩を進めていく。

 

 人影が歩を進めていくその先、そこは―――『ケイテニアス山』。

 

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

 

 「我は『朽棺の竜王(エルダーコフィン・ドラゴンロード)』!

    『キュアイーリム=ロスマルヴァー』!

     冥府に滅せい―――『竜帝の汚物(ユグドラシル・プレイヤー)』!!」

 

 キュアイーリムの赤い瞳が更に赤さを増した。瞬間、150㍍はあろうかという巨体の至る所から、ロープの様な物が噴き出してくる。ロープは縦横無尽に空中を駆けまわる。その姿はさながら鞭の様にも見えた。

 

 鞭の一本がルベドへと横薙ぎに叩きつけられていく。その速度は常軌を逸していた。『音すら置き去り』にした鞭が迫り―――ルベドに直撃。

 

 衝撃がルベドを襲う。ガードする間もなく打ち付けらたルベドは吹き飛んで行く。山壁にめり込む様に叩きつけられた事により、轟音と共にケイテニアス山が揺れる。メシメシと鳴りながら山壁には亀裂が走り巨大なクレーターの様な物を形作った。

 

 一瞬―――正に一瞬。

 

 ここまでの時間―――僅か0.1秒にも満たず。

 

 音すら易々と置き去りにする鞭の一撃はルベドの反応速度を軽々と凌駕している。

 

 反応できなかった―――あのルベドが。

 

 「ふははは!無様だな汚物よ!そうか、そう言う事か!大した汚物ではなかったか…汚物もピンキリよのぉ!」

 

 愉快愉快と高笑いを上げているキュアイーリムの耳に、ガラガラと言う瓦礫を掻き分ける様な音が届く。

 

 赤い目が光輝く。ピタリと高笑いをやめたキュアイーリムの目に飛び込んできたのは、パンパンパンとホコリを払うかの様な仕草をしながら歩いてくるルベドの姿だった。

 

 「ふぅ…少し驚いた…本機の反応速度を超え、尚且つこのボディメタルに傷をつけるとはな…キュアイーリムの脅威度を上方修正する…。」

 

 「ふん!腐っても汚物か、頑強だな。しかしどうする?我の速度に手も足もでまい?」

 

 ルベドの上方を鞭が通り抜け、しばしの時間を置き―――ヒュンと言う音を奏でた。

 

 風圧が周囲を襲う。只単に振るわれただけの鞭の風圧で、ケイテニアス山に僅かに生えた木々達が薙倒され、ズシンと言う音と共に地面に倒れていく。

 

 木々が倒れた音が響いた後、ルベドは後方をチラリと一瞥し、キュアイーリムへと再度向き直る。

 

 「勿体ない事をするな、少ない資源を…お前、本当にこの山をハゲ山にするつもりか?」

 

 「くくく、まだ軽口を叩けるか、油断していて良いのか?このまま終わってしまうぞ?」

 

 「油断?なんのことだ?これは『余裕』というもんだ。」

 

 「減らず口をッ!」

 

 「減らず口?まぁ、そう言うな、こう言うのは『名言』と言うのだ。『マコっちゃん』の名言だぞ?中々におもしろい奴だから会ってみると良い…まぁ、随分と強い奴だから殺されなければいいがな。」

 

 「黙れッ!!」

 

 

 ―――ヒュン。

 

 

 再度、鞭がルベドの上方を通り抜け、先程と同じく風圧が周囲を襲っていった。

 

 先程から、なぜキュアイーリムは鞭を当てないのか?それは、これが威嚇だからだ。いつでもお前を仕留められるという現実を突きつけ、恐怖心を煽りつつ、自らの力の誇示と優越感に浸っているのだろう。キュアイーリムの『()()()』が昂りを上げていく。

 

 「ふははは!手も足もでまい!我はもう―――()()()()()()()()()!!」

 

 ルベドの目が細くなり、鈍い光をその瞳に宿す。

 

 マコっちゃんと言う、強力な仲間の存在をちらつかせれば、多少なりとも揺さぶりに掛けられるかと思ったが、どうやら余り効果はなかったらしい。

 

 現状、ここにはいない存在を引き合いに出したところで、只の脅しと捉えられたか、はたまた、仲間が増援に来た所で、構わず殲滅できる自信があるのか、それは分からない。

 

 ルベドの思考が少し方向を変えていく。実際にマコっちゃんが増援として駆けつけてくれればどうなるかと考える。

 

 マコっちゃんは、あんな感じだが非常に強い、彼は『炎神』であるからだ。目の前のこのドラゴン―――キュアイーリムもそれなりの強さではあるだろうが、余程の事がない限りは負けないだろう。

 

 ルベドは、自らが『友達贔屓』をしてしまいがちなのは自覚している。故にそれを差し引いて、冷静に分析してしまえば、両者のスペックは、それほど大差ない様に思える―――が、マコっちゃんには切り札がある。出せば勝ちとも言える程の切り札が。まぁ、実際に彼がその切り札を切れるかどうかは甚だ疑問ではあるが―――彼の良心が持つだろうか?

 

 その様に、どうでも良い事に思考を費やしていたルベドへと聞こえてくるは、邪悪な高笑いだ。

 

 癇に障る高笑いが聞こえてくる。ルベドは一つ溜息をつく。余り気乗りはしないが、キュアイーリムの強さはこの世界で出会った誰よりも上だ。ならば仕方がない。

 

 「はぁ…多弁だな…よく喋り、よく笑う奴だ…キュアイーリムの脅威度を上方修正…()()()()()()()()()と判断する…故に、()()()()()()()()必要があると判断する。」

 

 出力を戻す―――この言葉の意味とは?

 

 キュアイーリムの繰り出す鞭の速度は、正しくこの世界で最高峰の速度だろう―――が、それはルベドとて同じはず。

 

 ルベドは『超高機動人型決戦兵器』とまで呼ばれる究極の兵器だ。火力は『ダイゲンガー』には遠く及ばないモノの、総合的なスペックはあの『ワールド・チャンピオン』と同等―――もしくはそれ以上のスペックである筈だ。である筈なのに、なぜ『キュアイーリム』に遅れをとるのか?キュアイーリムがルベドのスペックを遥かに凌駕しているから?否、そうではない。

 

 その答えは―――抑えられた『出力』。

 

 未知の世界に飛ばされたルベドは、情報を集める為に旅へと出た。

 

 情報を集める―――言うは簡単だが、その為には様々な困難が予想された筈だ。多種多様な生物達との意思疎通、宿敵である人間達との対話も予想された。

 

 強すぎる力は争いを生む。故に、ルベドは自らのスペックの出力を落とした―――それも大幅にだ。ダイゲンガーと同等と言われる最硬の防御力とダイゲンガーと同等の自己修復能力を残し、その他のスペックを大幅に下げ、様々な機能に制限をかけた。

 

 ナザリックに帰還する為に、己にかした枷を今外していく。

 

 「出力―――正常。」

 

 ルベドは肩と肩甲骨をぐるんぐるん回していく。よくあるストレッチの様な物だ。出力を戻した事によるスペックの向上、それに付随する伝達力の確認を行っているのだろう。

 

 しばしストレッチをしたルベドが「よし」と可愛く言いながら、キュアイーリムに対し人差し指を立て―――くいくいと二度動かした。

 

 「お前なんぞに武器は必要ない。素手で叩きのめしてやるから―――かかってこい。」

 

 それと同時に―――鞭が迫る。

 

 先程と同じように、横薙ぎに振るわれた鞭をルベドはしゃがんで回避する。スレスレで回避された鞭が、ルベドの髪を揺らしていく。

 

 「その動きは見た―――もう通用しない。」

 

 しゃがんだルベドの正面から鞭が槍の様に一直線に伸びてくる。追撃だ。鞭は無数にある、一撃を躱したところで完全な回避には至らないという事か。

 

 ―――ギャリ。 

 

 ルベドを突き刺さんばかりに突き進む鞭を、右足を軸に回転したルベドが躱す。鼻先を進んで行った鞭を優雅に眺めていれば、軸にした右足の地面が衝撃で捲れ上がっていく。半径数百㍍以上の範囲の地面が、螺旋を描くように捲れ上がり、しばらくたった後に鈍い音を奏でていった。

 

 「ふむ…追撃まで考えていたか…まぁ、基本だな。」

 

 螺旋に形作られた地面が更に捲りあがる。これはルベドの行動によって生じたモノではない。地面を捲りあげ出現したのは―――鞭。地中を突き進んできた鞭が地面を破壊しながら突きあがってくる。

 

 突きあがった一本を―――バックステップで回避。

 

 二本目を蹴りつけ―――軌道を変える。

 

 軌道を変える為に蹴り上げたついでに、空中に飛翔する。そして体を回転させ、三本目の鞭を回避していく。

 

 「ふむ…地中も進めるのか…地味だが応用力の高い攻撃だな。」

 

 滞空しているルベドへ無数の鞭が迫りくる。

 

 右から。

 左から。

 下から。

 上から。

 

 縦横無尽に迫りくる鞭を、ルベドの視界が捉えた。

 

 「Mode(モード)Change(チェンジ)―――『アンティリーネ』。」

 

 ルベドの握られた左の拳が少し開く。親指と人差し指が開かれ突き出されれば、()()()()()()()がギラリと光ったかのような錯覚を見せる。

 

 縦横無尽に迫りくる鞭を、ルベドが全て捌いていく―――肘を使いながら。

 

 「――~~~!!カアァァァ!!!」

 

 吠えるキュアイーリム。気合の入った叫び声と共に勢いよく鞭を上空から叩きつけていく。鞭は地面に直撃し、地割れの如き裂け目を作り出した。地震が起きる。山が揺れていく―――ケイテニアス山が泣き叫ぶ。

 

 勢いよく叩きつけられた鞭。150㍍モノ巨体から伸びる鞭を見下ろすキュアイーリムの視界が―――あるモノを捉えた。

 

 伸びた鞭を足場に、物凄い速度で、何者かが自分に向け駆け登ってくる―――残像を。

 

 「―――ッ!?しまッ―――」

 

 その言葉は言い終わる事は無かった。キュアイーリムの長い首の先、自らの顔の目の前に飛び上がっている小さき影が見えた。

 

 小さな影は、拳を握り、振りかぶっていた。

 

 「リーネならこう言う『さっきのはいたかった―――いたかったぞーーー!!!!!』」

 

 ―――ゴォチィィィン。

 

 拳を全力で握り締めたルベドが、叫び声と共に、おもいっきり拳骨をお見舞いしていく。いつもの様な手加減はそこには無かった。キュアイーリムの顔面をフルスイングで打ち抜く。

 

 「――~~~ァァァァァァァァ!?―――!?!?」

 

 声にならない叫びを上げながら、150㍍の巨体が吹き飛んで行く。音を軽々と置き去りにする速度で吹き飛ばされたキュアイーリムは地面に墜落した後も木々を薙倒し、岩を粉々に砕きながらギュラギュラ回転し転がっていく。数キロ程吹き飛ばされた後に、最終的に山壁に激突したキュアイーリムは動きを止める―――が、キュアイーリム程の質量をあの速度で叩きつけられた山壁は崩壊し、崩れ落ちる。崩れ落ちた山壁は、大小様々な岩となって、鈍い音を立てながら降り注ぎ、キュアイーリムが埋もれていく。

 

 「かかってこい」―――ルベドがそう挑発してからここまでの間、僅か1秒にも満たず。

 

 僅か1秒にも満たぬ速度で、ケイテニアス山の形が変わってしまった。

 

 「どうだ?本機はすごいだろう。」

 

 フンスと偉そうに胸を張る。自信に満ち溢れたその姿は、正に帝王。

 

 そう、『機械の帝王・ルベード』様。

 

 などと、くだらない考えが過ってしまいそうになる程に、キュアイーリムを圧倒していく。

 

 しかし、それも無理からぬこと。出力を正常に戻したルベドのスペックは、『ワールド・チャンピオン』クラス。

 

 その力は、()()()()()()()では―――最強格。

 

 「…お?」

 

 しかし、相手もまた―――『最強格』。

 

 「クゥアアアアァァァァァァァァーーー!!!」

 

 数キロ先―――キュアイーリムが埋もれた岩の山が四方に吹き飛んで行く。理由は簡単だ、怒りに身を任せ、岩を吹き飛ばしながらキュアイーリムが立ち上がったからにすぎない。

 

 空中に飛散した岩が流星の如く周囲に降り注ぐ。ケイテニアス山を越え、山脈周辺にまで届く岩も中にはあった、そんな中、怒りに支配された真っ赤な瞳が、ルベドを射抜く。

 

 「おぉ、怒ってる怒ってる。ん~…でも変だなぁ~、全力で殴ったんだけどな~…動けるはずはないと思うのだが…。」

 

 疑問を抱くルベドが、後ろ頭をポリポリ掻く。死なないまでも、しばらく戦闘不能になるくらいの力で殴りつけたのだが、キュアイーリムはピンピンしている。

 

 興味深い奴だと思っていれば、キュアイーリムの体から、ボトボトと何かが崩れ落ちていく。

 

 あれは―――そう思っていれば。

 

 「汚物がァァァァ!!!」

 

 「むむむ…やっぱピンピンしてるよな~…さっきの崩れたモノが何か関係しているのだろうか?」

 

 「そうかぁ!そう言う事かァァァ!!お前のその強さ、その力は―――『八欲王』ッ!!!」

 

 お?その言葉は聞いた事がある。サキの言っていた伝承の俗王の敬称だった筈だ。

 

 「あのゴミ共と同格の力!!ぬかったわァァァ!!よくも我をたばかってくれたなぁ!汚物よォォォ!!!」

 

 「…うん?失敬な、たばかってないぞ?お前が勝手に勘違いしていただけだろ―――」

 

 会話に割り込む様に、振り抜かれていく鞭。数キロ先から伸びるようにルベドへ向け振り抜かれた鞭―――だが、その鞭は受け止められた。

 

 「――~~~!?!?」

 

 「…はぁ…もういい…それは()()()()…別の攻撃を()()()()()。」

 

 軽々と鞭を受け止めていく。先程の様に『避ける』でも『捌く』でもない。明確に受け止めていく。

 

 これがルベドの本気であり、全力である―――と思うだろうが、それは違う。

 

 キュアイーリムの鞭の速度はルベドを持ってしても『速い』に分類される速度である。この世界最高峰の速度である。それも当然の事。

 

 そんな速いに分類される速度の攻撃を片手間に受け止めていく。その答えは、先程ルベドの口から語られたであろう「もう見た」である。

 

 ルベドの『真価』は『進化』にあり。

 

 キュアイーリムは鞭での()()()()()()()()。それは、ルベドを相手にする場合()()()()()になってしまう。

 

 結果、ルベドは鞭での攻撃に『対応』した。

 

 「んん?ほう、なるほどなるほど…中々に興味深い。」

 

 鞭を掴むルベドの眉がピクリと動いた。

 

 その理由は、今自らが掴んでいるモノが鞭ではなかったからだ。

 

 それは―――鞭の様な物。

 

 夥しいアンデッドの群れが繋ぎ合わされ、鞭の様な形状を成している。なるほど、縦横無尽に伸縮自在に動きまわせるカラクリはここにあったわけだ。

 

 ルベドの眉間に皺が寄り、険しくなっていく。

 

 そうか―――そう言う事か。

 

 「『ネクロマンサー』だったか…やはりというか…何というか…『インべリア』も、『スルクー3』も…全てはキサマの仕業だったか。」

 

 そう言う事だ。インべリアは、突如滅んだ。全ての国民がアンデッドになって。そんなことが自然に起きるなどあり得ない。これは自発的に、なんらかの強大な力が作用していたのは明白だった。

 

 その答えには辿り着いてはいた―――が、理解はしがたかった。五百万などという常軌を逸した数の生物を、瞬時にアンデッドに変えてしまう事など、ユグドラシルでは『ほぼ不可能』だったからだ。

 

 自らの知る中で、それができそうな存在は『モモンガ』ただ一人。モモンガは『悪のカリスマ』だ。平和な国で平凡に暮らしている様な存在達を、無作為に殺戮するような、品の無い事をする様な奴ではないと断言できた。

 

 モモンガは『弱者救済』の為に、あの集団を作りあげた筈だ。もし仮に、その思いが曇り、力に飲まれてしまっていたのであれば、『止めるのが自分の役目』だと思っていた―――そう覚悟していたが、やはりというか、あれはモモンガの仕業ではなかった。

 

 他に可能性として浮上していたのは『世界級(ワールド)アイテム』だった。それも『二十』と呼ばれる特級品のみ―――『ウロボロス』なら可能だろうという結論に至ったが、『あの六人』が、この様な下卑た行為をするとは考えられなかったし、信じたくもなかった。

 

 他にあるとすれば、『世界級(ワールド)能力(スキル)』くらいのモノ―――最低でも『特殊能力(スキル)』くらいでなくては無理だろう。

 

 自らのメモリーに、その様な効果を齎す能力(スキル)はデータとして存在はしていなかった、故に、自らすら知りえない、強力なの能力者の存在を視野に入れ、警戒していたのだが、目の前の存在―――キュアイーリムがそうだったという事だ。

 

 モモンガやあの六人が、矜持を捨て去っていなかったことに安寧すると共に、ルベドはキュアイーリムに対する警戒心を大幅に引き上げていく。

 

 自らの仮説が正しければ、キュアイーリムは世界級(ワールド)能力(スキル)級、最低でも特殊能力(スキル)級の能力を持ち合わせているという結論に繋がるからだ。

 

 もしかしなくても、この戦いの始まりに、周囲を覆ったあの半透明の空間が、その能力の力の一部なのかも知れない。

 

 あの空間内の生物が軒並みアンデッド化してしまう?しかし、自分には効いてはいない。LV.差が関与するのか?はたまた、時間差か?何か強力な、スキル、及び魔法を発動する為の代償なのか?生贄を捧げる事により、強力な効果を齎すスキルや魔法は確かに存在する。しかし、奴は『これで逃げられない』と言ったはずだ。ならば、やはり先程の空間は、転移阻害系統のスキル、及び魔法である可能性の方が高いだろう。

 

 目まぐるしく思考が渦を巻くが、やはり確信を得る事はできなかった。ただ一つ言える事は、これ以上時間を掛けるのは、非常に不味いという事だ。

 

 スルクー3には、まだ皆が息を潜めている。仮に気づかれれば、人質にされてしまう事は容易に想像できた。この様な下卑た行為を平然と行う様なド外道だ、十中八九そうなるだろう。

 

 気づかれる訳にはいかない。そして、早めに決着を付ける必要があるだろうと考える。

 

 それと同時に―――思う。

 

 「これは鞭ではなく、アンデッドの集合体…ならば…先程のモノは?」

 

 そうして、独り言を呟いていれば、掴んでいた鞭が弾かれ、キュアイーリムの元まで戻っていく。

 

 追撃はこない―――つまりは。

 

 「動揺しているな…ちょうどいい…今度は本機からいくぞ。」

 

 瞬間、地面が砕け弾ける。

 

 ルベドが勢いよく地面を駆けたからだ。瞬時にキュアイーリムの懐に潜り込んだ―――その瞬間だった。

 

 ―――パァン。

 

 甲高い音が鳴った。勿論、その音が鳴り響く前に、キュアイーリムが吹き飛んだのは言うまでもない。

 

 「――~~~!?!?カッ―――!?!?」

 

 吹き飛ぶキュアイーリムへとルベドは接近していく。

 

 追撃の為に。

 

 「リーネの得意技―――とくと味わえ。」

 

 ―――パン。

 ―――パパン。

 ―――パパパン。

 

 何が起きているのか、端から見れば全く分からない。

 

 唯一分かるのは、キュアイーリムが滅多打ちにされているという事と、その後に甲高い破裂音が鳴り続けている―――ただそれだけだ。

 

 何もできず、一方的に滅多打ちにされて行くキュアイーリム。

 

 ―――重い。

 

 先程自らが受けた一撃にも匹敵する程の強烈な攻撃が、今度は一撃ではなく超高速で連打されていく。

 

 (――~~~!!見―――見えん!?!?)

 

 先程の強烈な一撃ですら、残像くらいは垣間見る事ができた。しかし、今度は全くといってもいい程に見えない。

 

 自分の認識が誤りだったのか?そう疑問が渦巻く。

 

 かつて相対した最強の存在―――八欲王。

 

 奴らは強かった、どうしようもない程に。竜王達が複数体で連携し、やっと勝負になる程の強さだった。強く恐ろしい八欲王、かつての自分は成すすべもなく敗走した。あれから数百年、復讐と自らのプライドの復活の為に、表舞台から姿を消し、影に潜み力を蓄えてきた。今の自分はかつての自分ではない―――その筈なのに。

 

 (は―――速い!?!?八欲王の比ではない!?!?)

 

 あの圧倒的な強さを誇った八欲王を嘲笑うかの様な高速の攻撃に、自らの認識が誤りであったと悟る。目の前の汚物は、八欲王と同格などではなかった―――更に上。

 

 キュアイーリムはそう新たな認識をする。

 

 その認識は―――間違えだ。

 

 「コォォォォ―――」

 

 ―――パン

 ―――パパパン

 ―――パパパパパパパン。

 

 ルベドは高速で拳を打ち付ける。

 

 高速で『突き』を繰り出していく。

 

 その速度は先程の比ではない。八欲王すら圧倒的に凌駕するこの速度。普通に考えればルベドの力が八欲王を圧倒的に凌駕していると思ってしまうだろう。しかし、先程も言った―――それは間違いだ。

 

 ルベドと八欲王のスペックは―――()()()()

 

 ならばなぜここまで圧倒的な差が開くのか―――それは。

 

 ―――ぐるんぐるんぐるん。

 

 ルベドが突きを繰り出す間に行っているある事がある。ある事を行う事によって、ルベドはこの速度を作っている。

 

 そのある事とは―――回転。

 

 肩甲骨の―――回転。

 

 

 

 

 

 

 

 突き―――パンチを放つ時、人体はどの様な動きをするのだろうか?

 拳を握り、拳を前に突き出す。

 そう聞けば、前腕筋と上腕三頭筋の動きだけで放っているのだろうか?

 前方に放つ、つまりは物を押すのと同じ動作であるなら、大胸筋も使用し繰り出しているのか?

 実際にやって見て欲しい。

 確かにそれで突きは放てるだろう。

 しかし、やってみれば分かる。

 それでは威力がでない。

 こういう言葉を聞いた事はないだろうか?

 『手打ち』と。

 突きを放つには更に別の力―――広背筋も必要になる。

 ならそれで完成か?と聞かれればノーと言う言葉が返って来るだろう。

 『腰を入れる』という言葉をご存じか?

 突きを放つ際、捻じる様に腰を捻る動作だ。

 いわゆる『回転』である。

 突きは只単に放っているのではない。

 人体の筋肉と関節がマッチいた時に、最高の動作を生み出す。

 ルベドの行っているのも、突き詰めればそうだろう。

 だが、先程も言ったが、ルベドの回転は『肩甲骨』での回転だ。

 肩甲骨の捻じりを利用する事で、腰の回転―――いわゆる『正中』をぶらす事無く繰り出している。

 広背筋の捻じりと腰の捻じりを省き、肩甲骨だけの回転で突きを繰り出す。

 ここまできたらもう理解できただろう。

 ルベドは肩甲骨の回転を利用する事により、突きを繰り出すまでの動作を『半分』にしているのだ。

 腰を捻じる事無く繰り出される突きは、正中をぶらさない事によりしっかりとした体幹を持ち、命中精度を上昇させる。

 そして突きを繰り出し、構えに戻る際の動作も『半分』になっていく。

 動作が半分になると言う事は、速度が『倍』になるという事に他ならない。

 肩甲骨の回転で繰り出し、肩甲骨の回転で構えに戻る。

 無駄を省き、最短で攻撃し、最短で再度攻撃を仕掛ける。

 ルベドの行っているのはそう言う事だ。

 そして威力は―――いわずもがなだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ―――パパパパパン。

 

 「――~~~!?!?」

 

 滅多打ちにされていく―――キュアイーリムの巨体が傾く。

 

 150㍍が揺らぐ。

 

 「コォォォォッ!!」

 

 体が揺らいだ事により、キュアイーリムの長い首が下がる。

 

 ルベドはそれを見逃さない。

 

 ―――ゴジュリ。

 

 右肘でのかち上げが炸裂していく。

 

 長い首は勢いよく上方に弾かれ、キュアイーリムは天を仰ぐ。

 

 「Mode(モード)融合(フュージョン)『アンティリーネ』×『ヘロヘロ』。」

 

 揺らぐキュアイーリムの巨体―――懐に潜り込む。

 

 ―――ピトリ。

 

 ルベドの右拳が、キュアイーリムの腹部にくっついた。

 

 そこは―――超至近距離(ゼロレンジ)

 

 『武』×『スキル』―――『寸勁』×『空気振動衝撃(エアリアル・ブレイカー)

 

 「―――破ッ!!!」

 

 ―――瞬間、ケイテニアス山が揺れた。

 

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

 

 衝撃が辺りを襲う。

 

 ケイテニアス山は揺れ動き、衝撃で辺り一面に地割れが起きる。

 

 空間は軋み―――砕ける。

 

 空を見上げれば、空がひび割れ、巻き込まれた全てが崩壊していく。

 

 まるで世界崩壊すら思わせるその光景は正に地獄絵図だった。

 

 「―――…ふぅ…。」

 

 ルベドが寸勁の構えを解き、空を見上げた。

 

 「…え?あれ?」

 

 空を見上げたルベドが間抜けな声を上げる。

 

 「空気振動衝撃(エアリアル・ブレイカー)…恐るべし…これ程の威力だっただろうか…?まぁ、寸勁と同時に放てばこうなるのだろう。また一つ、『分かった』ことが増えたな。」

 

 とは言いつつも、キョロキョロと辺りを伺う。

 

 地獄絵図だ。ケイテニアス山崩壊一歩手前と言った所か。流石のルベドも、こんな光景を見てしまえば、何も思わなくはない。

 

 チラリと後方―――スルクー3の方向を見つめていく。向こうに被害は無いだろうか?大丈夫だろうか?そう思い、少しやり過ぎたと、自分自身反省していれば。

 

 「――~~~!!!カアァァァァァ―――!!!」

 

 数キロ先に吹き飛ばされたキュアイーリムが立ち上がり、高らかに吠え上げる。

 

 しかし、この咆哮は先程上げた怒りの滲む咆哮ではない。

 

 焦りが滲んでいる。

 

 「ギギギッ―――!!汚物ゥゥゥ!!これ程だったかァァァ!!」

 

 数キロ先からでもこちらまで届く―――歯軋り。

 

 ルベドと言う存在が、キュアイーリムの想像を遥かに超えていたのは言うまでもない様だ。

 

 焦りを滲ませたキュアイーリムの叫びを聞きながら、ルベドは腕を組む。そして眉がひょこりとハの字を描いた。

 

 「え~?…う~ん…おかしい…何で生きてる?あいつ如きが耐えられる筈もないのだが…さっきからそうだ…お前なんかおかしいぞ?」

 

 おかしい―――明らかに異常だ。

 

 殺すつもりで放った一撃だった。即座に決着を付けたかったからだ。直撃すれば、100LVのタンク職ですら一撃で即死させる程の威力を持った一撃だったはず―――なぜ耐えられる?

 

 「すごいな、お前…とりあえず、最初にお前から言われた言葉を贈ろう―――頑強だな。」

 

 「――~~~!?ギギギ―――!!」

 

 「…ん?…んんん~?」

 

 悔しそうに歯軋りをするキュアイーリムであったが、ルベドはここである事に再度気づいていく。キュアイーリムの体が崩壊している―――否、何かが零れ落ちている。

 

 ルベドの驚異的な視力が、その零れ落ちるナニかを捉えた。

 

 それは―――アンデッド。

 

 キュアイーリムの体の至る所から、アンデッドが零れ落ちていく。

 

 「…そうか…そういうことか…。」

 

 閃きが一つ起きた。

 

 どれだけ攻撃しても、キュアイーリムはピンピンしている。

 

 どれだけ強力な攻撃を食らわしても、キュアイーリムは死なない。

 

 なぜだ?それは―――

 

 「なるほど…その体躯…本体ではないな。」

 

 ―――キュアイーリムの巨体は『アンデッドの集合体』だからだ。

 

 点と点が繋がった。なぜキュアイーリムがそれ程の大量のアンデッドを欲していたのかが。

 

 それは―――自らを覆う為だ。

 

 「…どれだけダメージを与えようと、アンデッドと言う名の肉壁がそれを阻むわけか。まぁ、少なくとも無限ではない…アンデッドはダメージを肩代わりしているだけで、既定のダメージを与えれば、今の様に殺し、引き離す事ができる…逆を言えば、そうしなければ引き離せない…か。なるほど…厄介だ…とても厄介…。」

 

 ―――厄介だ。

 

 ルベドの脳裏にその言葉が浮かぶ。

 

 どれほどの数のアンデッドで肉壁を作っているかは分からないが、恐らくは一万や二万などのしょうもない量ではないだろう。インべリア、スルクー3の住人達は軒並みアンデッドと化した。その全てが集合している訳では無いが、それでも、その数は十万か二十万か―――もしくは。

 

 「―――百万以上か…う~ん…厄介…。」

 

 「汚物ゥゥゥッ!!」

 

 「もうッ!!…うるさい…なに?いま本機は忙しい…。」

 

 ここにきて、ルベドに起こる異変―――焦りが滲みだした。

 

 感情が姿を表し出し、口調が激しい物へと変わっていく。

 

 「キサマがいくら強かろうと!我を亡ぼす事はできん!!我はもう昔の我ではないのだから!!キサマが八欲王を越えると言うのならば―――キサマを越えるまでだァァァ!!そうしなければ我は()()()()()!!!」

 

 吠えるキュアイーリムがアンデッドの鞭を振るい攻撃を仕掛ける。しかし、先程もいったが、鞭での攻撃は既にルベドに対応されてしまっている。縦横無尽に迫る鞭を全て掻い潜り、ルベドはキュアイーリムに接近する。

 

 ―――パパパン。

 

 吹き飛ぶキュアイーリム。先程と同じだ、全くと言ってもいい程相手になっていない。

 

 「カアァァァ―――!!」

 

 ボトボトとアンデッドの肉壁が体から零れ落ちていく。こちらも先程と同じだ。

 

 「―――チィッ!!。」

 

 「―――!?!?」

 

 キュアイーリムの耳に届く音。今日初めて聞く音だ。舌打ちが聞こえてくる。今日初めて、圧倒的格上である筈の汚物が、苛立ちを表に出した。

 

 攻めあぐねている、いや決定打に欠けているのだろう。

 

 ニチャリとキュアイーリムの口元が歪み笑みが見える。

 

 「ふはははは!!!愉快愉快!実に愉快だ!どれだけキサマが強かろうが、キサマは我を亡ぼす事はできはしない!!悔しかろう悔しかろう!!そしてキサマは()()()()()()()()()()―――我に滅ぼされるのだァァァ!!!」

 

 「ふん…()()()()()()をしようと言うのか?()()()()()()()()()な…。」

 

 持久戦はルベドの土俵だ。キュアイーリムの能力を考えれば、確かに自信満々でその様に発言してもおかしくはないだろう。しかし、仮にこのまま持久戦になってしまえば分が悪いのはキュアイーリムだろうと断言できる。キュアイーリムでは、ルベドを破壊しきるのは不可能。逆にルベドなら、時間さえかければキュアイーリムを殺し切る事は可能だ―――だが。

 

 「…そんな時間は―――ないッ!!」

 

 瞬間、ルベドが浮遊する。空中を軽やかに旋回するルベドの姿をみて、キュアイーリムは一瞬だけ驚く表情をしたが、すぐに先程の笑みに戻っていく。相手は汚物―――それも最強の汚物だ、空ぐらい飛べて当然だろう。

 

 「Mode(モード)Change(チェンジ)『ウルベルト・アレイン・オードル』。」

 

 そう、空ぐらい飛べても当然だ、だが―――ここまで予想できただろうか。

 

 「―――『獄炎(ヘルフレイム)』。」

 

 獄炎がキュアイーリムを包み込んだ。炎はアンデッドの弱点属性だ、燃え盛る黒き炎が肉壁のアンデッドを燃やす。

 

 「なっ!!!魔法だと!?汚物!キサマァァァ!!!」

 

 「―――獄炎(ヘルフレイム)獄炎(ヘルフレイム)獄炎(ヘルフレイム)!」

 

 空中から降り注ぐ獄炎の嵐。アンデッドの肉壁を引き剥がすには、物理よりも魔法で広範囲攻撃をした方が効率的であるという判断をくだした。

 

 MODE(モード)CHANGE(チェンジ)により、ウルベルト・アレイン・オードルの能力を得たルベドが獄炎(ヘルフレイム)を放ち続ける。

 

 ルベドには八つの魔法球が内蔵されており、大量の魔法の情報が記録されている。その魔法球は全てが神器級(ゴッズ)アーティファクトであり、八卦のボーナスまで付与されている。『熱素石(カロリックストーン)』による自己修復機能の様に、永久機関とはいかないが、それでも内蔵されたMP―――魔力量は、アインズ・ウール・ゴウンの魔法職のギルドメンバー全員の魔力量を足しても足りない程だ。

 

 馬鹿げた魔力量を生かした、滅茶苦茶な魔法の連打を続ける―――だが。

 

 「―――獄炎(ヘルフレイム)!!チィッ!!火力が足りないかッ!!」

 

 所詮は獄炎(ヘルフレイム)での連打だ、炎は確かにアンデッドの弱点ではあるが、肉壁のアンデッドの数は尋常ではない。

 

 暖簾に腕押し―――キリがない。

 

 「ふははは!!無駄だ無駄だ!汚物よォォォ!!無駄無駄無駄ァァァ!!」

 

 「――~~~ッ!!チィッ!!多弁だな、調子が良い様だ…本機をなめるなよ―――吹き飛ばしてやるゥッ!!」

 

 

 

 ―――唸れ!我が秘儀!降りよ、究極の厄災!!

 

 

 

 ―――ピクリ。

 

 キュアイーリムの眉間が動く。明らかに目の前の汚物の雰囲気が変わった。この雰囲気は良く知っている。八欲王と戦った時に良く感じた雰囲気だ―――大技がくる。

 

 「カアァァァ!!我は滅びん!!受けて立ってやろうぞォォォ―――汚物ゥゥゥ!!」

 

 「絶望と憎悪のォォォ涙をこぼ―――」

 

 

 

 

 

 

 ―――ルベドちゃん。

 

 

 

 

 

 「―――!!」

 

 ルベドの口上が止まる。それと同時に纏っていた禍々しい雰囲気も飛散していく。「なんだ?どうした?」と言うキュアイーリムの言葉が聞こえてくるが、ルベドにはそれを気にする余裕はない。

 

 ―――危なかった。

 

 ルベドの脳裏に思い起こされるは先程の惨状。

 

 空気振動衝撃(エアリアル・ブレイカー)であの威力だ、『大災厄(グランドカタストロフ)』など放てば、ケイテニアス山も無事では済まない、そうなればスルクー3にいる皆も―――サキ達も。

 

 「――~~~!!チッ!『人間の感情』に飲まれてしまった…感情とはままならないモノだ…冷静な判断をくだせなくなる…。」

 

 普段は心地いいモノだが、こと戦いに置いては邪魔でしかない。あのまま激情に飲まれ、冷静さを失っていれば―――

 

 思考が目まぐるしく渦を巻き、ルベドの眉間に皺が寄る。それは強大な力を持つ者が故の苦悩。超級の破壊スキル、超位魔法を含む究極の魔法、あらゆる力を振るえるが故に、ルベドの脳内―――AIには様々な可能性が浮かび、そして消えていく。否定の言葉と共に。

 

 キュアイーリムを短時間で殲滅する為の攻撃手段、能力の組み合わせが、浮かんでは消えていく。それはできないと言う言葉と共に。様々な合理的な手段が浮かぶが、それはできない―――全てはスルスー3の皆を守る為に。

 

 ―――ギリッ。

 

 ルベドが深く歯軋りをすると共に、眉間の皺がより増えていく。機械としての自分が下す判断を―――アインズ・ウール・ゴウンの最高傑作たる自分が下す、冷静で冷徹な判断を、この世界の大地を踏みしめ、歩き続けてきた自分が拒む―――拒んでしまう。成長した自分が否定をする―――それはできないと。

 

 下唇を噛みしめていく。ルベドは機械だ、血は出ない。人間なら間違いなく出血する程に強く噛みしめていく。体の内から吹き上がる―――感情。不思議だ、不思議と拳を握り締めてしまう。これが悔しいと言う感情なのだろう。自分はまた一つ成長できたようだ。しかし、なぜだろう、その成長が、今は酷く煩わしい。

 

 震える両の拳と共に、深く眉間に皺を寄せたルベドは、ゆっくりとその瞼を閉じ、俯いていく。

 

 そしてより一層―――唇を噛みしめた。

 

 

 ―――無理だ。

 

 

 合理的な判断。間違いなく殲滅できる攻撃手段。無理だ、できない、皆を巻き込んでしまう。()()()()()()()()()()()()()()()、何も守る事はできない。

 

 悔し気に表情を歪ませ、俯くルベドを見たキュアイーリムが応戦の構えを取ったまま困惑していく。恐らくドラゴンには、他種族の表情の意味など理解できないだろうから。理解できていれば、勝ち誇った表情でニチャリと笑っている事だろう。だから、これは理解できてはいないという事だ。

 

 「…そうだな…()()()()()()()()()()()()()()()()()()…。」

 

 俯きながら、そう呟いた―――ルベドの拳の震えが止まる。握り締めていた拳を開き、ゆっくりと瞼を開けたルベドが、俯いていた顔を上げていく。

 

 「Mode(モード)解除」そう呟いたルベドは、空中でキュアイーリムを見下ろす。

 

 ルベドのその大きく美しい瞳が、キュアイーリムを射抜く。

 

 もしここに、アインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバー達がいたならば、皆が口を揃えてこう言うだろう―――お前は本当にルベドなのかと。

 

 大きく美しいその瞳には、もう無機質な光はない。そこにあるのは、荒々しく燃え上がるような美しさを秘めた瞳。どんな炎よりも美しい光を上げる―――感情と言う炎が灯っている様だった。

 

 『覚悟の瞳』でキュアイーリムを射抜くルベドが口を開いた。

 

 「…見事だ、キュアイーリム…どうやら本機では()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()様だ…。」

 

 その言葉が聞こえた瞬間、キュアイーリムが目を見開く。赤く禍々しいその瞳の瞳孔が急激に狭まった時、凶悪な牙を剥き出しにし、その巨大な咢を持ってして、高らかに吠え上げる。

 

 「―――!!ふははははァァァ!!あっはっはっはっァァァ!!万策尽きたか!汚物よォォォ!我は強い!汚物よりもォォォ!!もう我には誰も敵わん!!お前達汚物もォォォ―――八欲王さえもォォォ!!!」

 

 高笑いが聞こえてくる、ケイテニアス山を揺らすのではないかと錯覚を起こす程の高笑いが。

 

 恐怖に飲まれた、屈辱に塗れた、プライドを無くした、あの時から、自らは変わろうと決意した。

 

 怯え、震え、逃げ出したあの頃の自分はもういない。ここにいるのは、八欲王すら上回る最強の汚物に敗北をつきつけた―――強き自分だからだ。

 

 狂喜乱舞とは正にこの事か、恥も外聞もなく、身を震わせ、涎をまき散らしながら、巨大な咢を持って発狂したかのように喚き散らす。

 

 そんなキュアイーリムを見つめていたルベドの視線が動く。体は正面を向いたまま、ゆっくりとそのか細い首を動かし、ルベドは後ろを見つめていく。

 

 ルベドが見つめるその先、そこは―――スルクー3。

 

 ルベドの眉間に皺が寄る。しかし、この皺は、先程の様な悔しさに歪む皺ではない。どこか優し気で、哀愁の漂った表情。そんな表情で、ルベドは呟く。

 

 とてもとても―――優しい口調で。

 

 「…失敗する可能性は極めて低い…()()()()()()()()()()()()()()()…しかし…ゼロではない…もし…そう…仮にもし()()()()()()()()()()()()…その時は…本機が消えればいいだけだ…()()()()()()…。」

 

 首だけで後ろを振り向きながら、ルベドの右手がある場所に向かう。そこは胸元だ。ルベドのか細い右手が、胸に輝く熱素石(カロリックストーン)を、ゆっくりと掴んでいく。

 

 「…お前達を傷つけてしまうのなら…こんな物は…いらない…。」

 

 グッと熱素石(カロリックストーン)を握り締めたルベドが、「ふふ」と一つ鼻で笑っていく。

 

 「…マダラ…チャッピー…ノリーオ…その時はサキを…皆を頼んだぞ…親分命令だ…もしいう事を聞かなかったら…そしたら…。」

 

 そこで言葉は途切れた。その皺の寄った眉間を、今度はひょっこりとハの字に変えたルベドが、「う~ん」と唸りながら何かを考えている。こんな時どう言えば良いのだろう?何を言えば良いのだろうか?少し考えたルベドが、何かを閃いたかの様にその瞳をぱちくり開いた。

 

 「言う事聞かなかったら―――化けてでてやる。」

 

 そう言い、熱素石(カロリックストーン)を握り締めていた右手を離したルベドはその右手の人差し指で持って、その可愛いまん丸お目目の下瞼をくいっと下げていく。ここから続く行動など一つしかないだろう―――んべっと舌を可愛く出した後に、ニカッと可愛く笑った。その姿は、正に天使の顕現。

 

 そんな天使の元に届くは邪悪な高笑い。狂った様に高笑いを続けるキュアイーリムを一瞥したルベドは天を仰いだ。

 

 「モモンガ…できたぞ…大切な物が…大切な物がどういう物か…()()()()()…あの時庇ってくれたな…お前は本機も大切な物として扱ってくれた…あの時のお前の必死さ…()()()()()()…こんな物を背負ってしまうとは…贅沢な物だな…お前も…本機もッ!!」

 

 「―――アァァァハッハッハァァァ!!我は強いィィィ!我は臆病者ではない!!全ては策でしかなかったのだからァァァ!!我は違うッ!我は何も考えず突き進むだけのバカな竜王共とは違うのだァァァ!!見たかァァァ!!見たかァァァ!!『マザー』よォォォ!!『ツァインドルクス』よォォォ!!我こそが正解だった!我こそが正しいのだァァァ―――あっひゃッひゃッ!!」

 

 天を仰いだルベドが、その瞼をゆっくりと閉じ、そしてゆっくりと開いていった。

 

 そしてキュアイーリムへと向き直り、覚悟の瞳で射抜く。

 

 「よく笑う奴だな―――精々笑っておけ。」

 

 ―――キュイン。

 

 眼球型カメラの瞳孔が狭くなる。狭くなった眼球型カメラに映し出される無数の文字―――アクセスが始まっていく。

 

 「現状の本機の火力では、周囲の被害なしにキュアイーリムを亡ぼす事は不可能と結論ずける…故に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 ―――メラリ。

 

 高笑いを続けるキュアイーリム―――その正面で異変が起きた。

 

 ルベドの体の節々から、炎が沸き出てくる。体の節々、それは接続部。

 

 「―――あっはっはっはァァァ…あぁ…?」

 

 キュアイーリムの高笑いが止んで行く。目の前の汚物―――ルベドに起きる異変に気付いた時、歓喜に震わせていたその体躯を硬直させ、目を見開く。

 

 禍々しい赤き瞳が見据える先では、沸きだした炎は徐々に徐々に勢いを増していき、そして―――爆発的に吹き上げていった。

 

 吹き上げた炎は天を突くかのように昇っていくが、それはほんの一瞬の出来事だった。炎は瞬時に収束し、先程まであった質量がまるで嘘であったかのように、縮んでいった。しかし、その炎の質を見れば、先程の質量が確かな物であった事に気づく。より強力に、より凶悪に研ぎ澄ましただけだという事は、初見のキュアイーリムを持ってしても簡単に理解できてしまう。それ程までに凶悪で、攻撃的に研ぎ澄まされた炎がその禍々しい赤き瞳には映っているからだ。

 

 バチバチ、バチバチと炎が上げるには不釣り合いな音を響かせる炎をその身に纏い、目の前の汚物が、こちらへと身の毛もよだつ様な殺気を叩きつけてくる。

 

 ―――なんだこれは!?

 

 その思いは、現在目の前の汚物に起きている異変に対してではない。確かに目の前の汚物の現象は異常だ―――明らかに異常。

 

 しかし、この思いはその異常から来るものではない、この様な思いを抱いてしまっているのは―――『殺気』。

 

 身を刺し貫くかのような凶悪なプレッシャーが自らの身を襲っているからだ。

 

 この汚物は強かった。かつて戦った誰よりも。間違いなく―――『八欲王』以上。

 

 数々の竜王を歯牙にもかけなかったあの八欲王すら遥かに凌駕する、歴史上最強の竜帝の汚物(ユグドラシル・プレイヤー)なのは間違いなく事実。それは、もしここに他の竜王達―――『六竜』クラスの者達がいたとて、自らと同じ事を言うだろう。それ程に別格だった。

 

 だが―――怖くはなかった。

 

 この様な凶悪な殺気も、刺す様なプレッシャーも、この汚物は全くと言っていい程持ち合わせてはいなかった。別格なこの汚物よりも、格下である筈の八欲王の方が遥かに怖いと思える程だった―――筈だ。なのになぜだ、なぜここにきてこれ程の殺気を身に纏う、なぜこれ程のプレッシャーを叩きつけてくる。

 

 ―――いったいこの汚物に何が起きた!?

 

 カタカタカタ―――

 

 (!!?)

 

 キュアイーリムは気づく。自らの体が震えている事に。ここに来て、始めてキュアイーリムは恐怖を抱いた。

 

 「――~~~カァァァッ!!」

 

 吠えるキュアイーリム。これは間違いだと。この様な事があってはならないと。強いのは自分だと。勝つのは自分だと。身を震わせ、高らかに吠え上げ、自らを鼓舞していく。

 

 そんなキュアイーリムへと届く―――冷たい声。

 

 「覚悟は良いか―――本機はできている。」

 

 「――~~~!!?」

 

 鼓舞し、昂った気持ちが一瞬で飛散しそうな程の冷たい声を聞き、キュアイーリムはその大きく長い首を横に大きく振り、恐怖を自らの脳から弾きだしていく。

 

 危険センサーが鳴り響く。ギュルンギュルンと鳴り響く。それは間違いだ。勘違いだと言わんがばかりに首を振っていく。

 

 「本機はこれより

  『Caloric(C)Blaze(B)Mode(M)』へ移行する

       ()()()()()()―――『600秒』。」

 

 

 

 

 ルベドの真価は―――進化にあり。

 

 進化とは―――成長。

 

 成長とは何か?それは様々だろう。

 

 強くなることが成長?そうだろう。

 

 様々な物事を覚える事?そうだろう。

 

 成長とは多種多様な物だ。

 

 多種多様な物だからこそ、多種多様な出来事を経なければならない。

 

 それは―――経験とも言う。

 

 経験とは―――知ること。

 

 知らなければ―――至る事はできないのだから。

 

 至るとは何か―――それは分かる事だ。

 

 知るだけではダメだ―――至って初めて分かる。

 

 一つの墳墓から放り出された機械があった。

 

 誰からも操作されずとも、己で動く事ができる機械。

 

 人の形を模した機械―――人形(にんぎょう)だ。

 

 人形は沢山の事を知っていた。

 

 その墳墓には沢山の知識があったから。

 

 人形は沢山の事を知っていた―――分かってもいないくせに。

 

 人形は大地を踏みしめ、その鋼の足で持って歩いた。

 

 知っている事が沢山あった―――知らない事も沢山あった。

 

 知らない事を沢山知った―――分からない事が沢山増えた。

 

 沢山の人達に出会った―――沢山の分からない事を抱えて。

 

 沢山喧嘩もした―――喧嘩の理由も分からずに。

 

 人形は何も分かっていない―――知っているだけ。

 

 だから人形は―――分かろうとした。

 

 その人形は―――成長できるのだから。

 

 頑張った人形は、少しずつ少しずつ分かっていった。

 

 少しずつ少しずつ分かって―――自分に芽生える物だけ

 

 ―――分からなかった。

 

 沢山の時間がたった―――沢山分かった。

 

 そんな人形は、空で竜と相まみえる。

 

 人形はその時初めて分かる。

 

 芽生える物が―――大切な物が。

 

 芽生えた『心』と言う名の宝物

 

 その宝物で、人形は―――大切な物を守る。

 

 その姿は、どこまでも眩しく。

 

 その姿は、どこまでも美しく。

 

 その姿は、どこまでも―――『人間』の様だった。

 

 ルベドの真価は―――進化にあり。

 

 成長とは分かること。

 

 大切な物が分かったルベドは―――高らかに吠える。

 

 

 

 

 

 「Caloric(カロリック)―――Blaze(ブレイズ)―――」

 

 

 

 

 

 「なんなんだ…なんなんだァァァ―――キサマはァァァ!!」

 

 

 

 

 

 高らかに―――吠える。

 

 

 

 

 

 「イグニッッッショォォォン!!!」

 

 

 

 

 

 『人間』になってしまった『人形』が―――吠える。

 

 

 

 

 

 「()(がく)(ちから)ッ!その目に焼き付けろッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 あんてぃりーねのゆぐどらしる☆だい☆ぼう☆けん☆

 

        ExtraEpisode番外編

 

      『とびっきりの最強対最強』

 

           『完』...?? 

       → To Be continued...??

     『とびっきりの最強対最強 完結編』...??

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 どうもちひろです(ΦωΦ)

 シャルティアが全力で動けば、マッハを越えます。
 昔、感想返しでそう書かれているのを見た記憶があります。
 なんか色々な法則が転移後世界では違うので、その後にソニックブームなどは巻き起こりません…とも書いていた気がします。
 まぁ、それはどうでも良いです。
 純粋な戦士職でないシャルティアですら、戦闘速度はマッハを優に超えるとの事…つまりは、コキュートスや、セバスなんかはもっと速いと、ちひろは認識しています。
 じゃあ…弐式は…?
 多分、コキュートスやセバスの比ではないでしょう…
 ルベドさんは、フィジカルワールド・チャンピオンの、速度は弐式です…。
 速度弐式が、技術で更に最短を行動しているのなら、これくらいの戦闘スケールになるんじゃね…?
 という、かなり大雑把な感覚で書いております。
 
 プリキュアさんは『滅魂』を使いませんでしたね…
 個人的には、これくらいでは滅魂は撃たないのでは?
 と思ったので…
 現状、消耗戦でどうにかなるとプリキュアさんも思っている様に、滅魂をだす必要もないからです。
 滅魂は、切り札中の切り札です。
 あの用心深く、したたかなプリキュアさんが、簡単に切り札を切るとは思えなかったので…。
 使えば自らも破滅に近づく魔法ですし、鎧を剥ぎ取られでもしない限りは使わないでしょう。
 ルベドさんは明らかに攻めあぐねていました、使うメリットはないです。

 これで番外編も終わりです。
 つまり、4.5章も終わりです。
 最後に、ルベドメインの番外編を入れたのは、ルベドが4.5章のボスであり、主人公…とは少し違うかも知れないですが、メインキャラだったからです。
 個人的には、ゆぐどらしるだいぼうけんの、主人公の一人くらいにちひろは思っています。
 4.5章がこれ程長くなるとは思いませんでした、終わらせられて良かったです。
 ちなみに、5章とせず、.5章としているのは、どちらか一方の世界だけで構築されたお話だからです。
 2.5章は、転移後世界。
 4.5章は、ユグドラシル。
 ってな感じです。
 結末はいずれ書きたいなと思っています。
 完結したら書きますね。
 ちなみに、この『とびっきりの最強対最強』の結末は、『正規ルート』と『IFルート』があります。
 IFルートのタイトルは『クウラEND』です。
 これでびびっときた方は、ちひろと話が合うと思います。
 両方書きます。

 ちひろ(ΦωΦ)「それでは、読んでくれて―――」

 千葉セバス「じぃぃぃかい―――」

 ちひろ(*'ω'*)「あ、4.5章終わったんで、もういいんで、千葉さんお疲れ様でした。」

 千葉セバス「―――…オッワッタァァァッッッ!!?」


 
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