S級隊員如月伸太郎   作:Argo(不定期更新)

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 焼き肉食べたい。塩ダレがいい。


本編
初邂逅


 その(ゲート)が開いた時、伸太郎は丁度近くの雑貨屋にいた。とある少女にプレゼントを買う為だった。

 

『緊急警報 緊急警報

 (ゲート)が市街地に発生します

 市民の皆様は直ちに避難してください

 繰り返します──』

 

 市全体に響かんばかりの警報に持っていた商品を置いて伸太郎は頭を抱える。

 

「くそ、今日2度目じゃねぇか。ったく、どうなってるか後で鬼怒田さんに聞きに行かねぇと」

「お、おい!お兄さん、逃げないと」

「大丈夫です。ここからはオレに任せてください。店員さんは他の方々を頼みます」

 

 ぶつぶつと呟く伸太郎に声を掛ける店員だったが、伸太郎は安心させるような力強い声でそう言って外へ出る。

ゆっくりと(ゲート)から出てきたのは空を遊泳する巨大な鯨のようなトリオン兵だった。距離はかなり近いから他の部隊や隊員を待つよりも伸太郎が対処するのが良いだろう。

 

「《トリガー起動(オン)》」

 

 数秒もしないうちに、そこには服装の変わった伸太郎がいた。ぱっと見は軍服で、腰には黒い鞘と持ち手の太刀がある。

 その場で伸太郎は建物の上へ跳躍し、屋根を伝ってトリオン兵に1番近づける鉄橋の上を目指す。鉄骨に飛び乗った辺りで伸太郎は見慣れた顔と鉢合わせた。

 

木虎(きとら)じゃないか」

「如月先輩!」

「木虎が来てたんならオレが来る必要なんて無かったな」

「いえ、この近界民(ネイバー)は初めて見るので如月先輩がいてくださった方が安心します」

「そうか?・・・おっと、爆撃はさせんぞ」

 

 トリオン兵が市街地を目指して落下させた爆弾をみた伸太郎は弧月型の(ブラック)トリガーを構えて力強くその場で振った。その瞬間、爆弾は透明な壁に当たったかのようにその場で爆発した。

 

「木虎、オレはここで爆撃を防いでおく。奴の直接の対処は任せていいか?」

「はい!任せてください!」

「よし、頼んだ!」

 

 木虎がワイヤーでトリオン兵の背に乗ったのを確認し、伸太郎は軽く息を吐いた。

 

「アイツなら余程のことがない限り大丈夫だろ。オレは爆撃対処で終わりかな・・・」

 

 伸太郎は立派なフラグを立てている事には気づかず、淡々と爆撃を処理する。といっても、側から見ればただ太刀を振るっているだけにしか見えないのだが。

さて、そんな伸太郎の予想とは裏腹に異変はすぐに現れた。

 

「ん?爆撃が止まったのは良いとして、背中からなんか生えたか?しかも木虎のやつ、焦ってオレがいること忘れてんな」

 

 必死に外装を剥いだ部分を銃で撃ってるが、ゆっくり市街地へ落ちていくのを見るに恐らくこのトリオン兵はこのまま自らを爆弾として落ちるのだろう。文字通り自爆特攻という奴だ。そうなった時、人も街も甚大な被害を受けることは想像に難くない。

 

「こういう時は、細切れにすれば良し」

 

 腰を落として、伸太郎は素早く太刀を振るった。伸太郎から放たれた不可視の斬撃は細かくトリオン兵を刻み、そのまま川へと切り落とした。そうなると当然その上で戦っていた木虎も川へ真っ逆さまだ、伸太郎は鉄骨を踏み込んで、木虎をキャッチする。

 

「よし、回収!」

 

 しっかりと抱えてから大きめの破片を踏み台にする事で川に落ちることもなく、伸太郎は無事に堤防に降り立った。

 

「木虎、大丈夫か?」

「はい、ありがとうございます。すみません、折角任せていただいたのに期待に応えられませんでした・・・」

「気にするな、同じボーダーの隊員なんだ。助け合うのが普通だろ」

 

 少し沈んだような表情だったが、どうにか持ち直したらしい。真面目なのも良いが、自分を追い込みすぎるきらいがあるのでもう少し自分に甘くても良いのではないかと思うのだが、そこら辺は嵐山が上手く声を掛けてくれるだろう。

 

「で、何で木虎がここに?」

「昼間のイレギュラー(ゲート)は覚えてますよね?あの時、私たち嵐山隊が駆けつけたのですが、C級の隊員がトリガーを使用してトリオン兵を倒したんです」

「規則違反だから連行してるってことか?」

「その通りです」

 

 トリガー解除をして普通の服装に戻ると、丁度二人の中学生が駆け寄ってきた。片方は眼鏡の男子、もう片方は珍しい白髪で、身長だけ見れば小学生と間違えてしまいそうな男子だ。

 

「木虎、今のは一体・・・。その人は?」

「如月先輩よ。先輩、この眼鏡の(ほう)が・・・」

「お前が例のC級隊員か。初めましてS級隊員の如月(きさらぎ)伸太郎(しんたろう)だ。規則を破ったのは別として人の命を救おうとしたのは評価するぞ」

「あ、ありがとうございます・・・。えっと、C級隊員の三雲(みくも)(おさむ)です」

「で、横のちびっ子は誰だ?」

「ちびっ子こと、空閑(くが)遊真(ゆうま)だ。よろしく頼む」

 

 頬に冷や汗をかきながらぎこちない動きで握手をする三雲と目を三の様にして謎のキメ顔で自己紹介する空閑。それにしても、空閑か・・・。空閑ねぇ・・・。

 

「ふむ、空閑か・・・」

「先輩?」

「ん?ああ、気にするな。ところで空閑、会ったばかりで悪いが話したいことができた。今から時間をくれないか?」

「えー、オサムを送るとこまでついて行こうと思ったのに」

「頼む。美味い飯奢ってやるから、な?」

「ふむ・・・、それなら交渉成立だ」

「さんきゅ。木虎、報告とか諸々任せても良いか?今度何か奢るからさ」

「もちろんです!」

「ありがとな、じゃあまた今度」

「はい!」

 

 去っていく三雲と木虎を見送ってから伸太郎は改めて遊真に向き合った。

 

「改めて、オレの名前は如月伸太郎だ。如月でも、伸太郎でも好きに呼べ」

「おれは空閑遊真だ。おれも遊真とか好きに呼んで。最近、日本に来た。よろしく、シンタローさん」

 

 しっかりと握手を交わしてから、伸太郎は雑貨屋近くに停めていた車まで遊真と歩く。その間、遊真は伸太郎に日本のことについて質問し、伸太郎はそれに対して丁寧に説明して答えたりした。車に乗った遊真はまるで初めて乗ったかのように、かなりワクワクした様子で伸太郎をまた質問攻めにした。伸太郎はこれまたしっかり答えながらも目的地である焼き肉屋まで運転をした。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「ここはオレの奢りだ。好きなだけ食え。」

「おー!!では遠慮なく」

 

 伸太郎が肉を焼く係を担当するお陰で遊真は食べるのに専念できる。調味料をひと通り試して塩ダレが気に入ったのか、肉をそれに付けて米と一緒に掻き込んだ。

 

「んで、シンタローさんは何の用でおれと話そうと思ったんだ?おれはボーダー隊員じゃないぞ」

「いや、どうしてもお前に確認しなきゃならないことがあってな。」

 

 伸太郎は真剣な目で遊真を見る。遊真はマイペースに肉を食べながら不思議そうに伸太郎を見た。

 

「お前、有吾(ゆうご)さんって知ってるか?」

「どうしてその名を?」

 

 僅かに警戒する素振りを見せる遊真に唐突にすまないと謝って伸太郎は話を続ける。

 

「有吾さんは昔父さんと友達だった人なんだよ。空閑っていう名字は珍しいからもしかしたらと思ったんだが、どうやら当たりだったみたいだな。」

「有吾はおれの親父だ。・・・ってことは、シンタローさんは最上宗一って人は知ってるか?」

「もちろん知ってるが、それはオレが話すべきことではないな。多分、悠一の奴が近々何かやらかすだろうからその時に聞くといい。その代わり困ったらオレに相談しろ、できる限り手伝ってやる」

「おー、それはありがたい」

 

 《有吾》の名前が出た瞬間は鋭い空気に包まれた二人だったが、互いに敵意や他意が無いことを悟るとすぐに和やかな雰囲気へ戻った。しかし、伸太郎は最後の最後でそれを壊すような爆弾をぶっ込んだ。

 

「最後にひとつだけ聞くぞ」

「なに?」

「お前は近界民、違うか?」

「んー、嘘言っても仕方なさそうだ。そうだよ、おれは近界民だ。あっちで色々あって《最上(もがみ)宗一(そういち)》って人を頼りにここまで来た。どうする?おれを捕まえるか?」

「いいや、そんなことはしない。父さんの友達の子だっていうならオレからしたら弟みたいなもんだ。お前が三門市に敵意を持って暴れない限り、オレはお前を傷つけない」

「・・・ありがと」

 

 

 

 その後、すっかり打ち解けた2人は時間いっぱい焼き肉を楽しみ、遊真は伸太郎にすっかり懐いたのだった。

レプリカのことを紹介されて驚く伸太郎とか、雑貨屋さんでついぞプレゼントを買い忘れて絶望する伸太郎だとかはまた別の話。




木虎は伸太郎のことを先輩としてきちんと尊敬してます。A級の先輩が変な人が多すぎて、相対的に伸太郎の評価がジワジワと上がっている模様。ちなみに、木虎が言うには星輪女学院で那須さんと伸太郎の話は有名であるらしい。
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