シリアスを無意識にシリアルにしてしまいそうになる病気の治療法はないだろうか・・・。
「おー、来た来た」
「太刀川さんと三輪隊に風間さんたちか。城戸さんはかなり本気なようだな」
イーグレットのスコープで遠くを見ていると走ってくる影に気づく。軽く見ただけでも豪華な顔ぶれだ。彼らは皆、ボーダーのトップに名を連ねる人たちだ。だが、負けるつもりは微塵もない。
実は昨日、レプリカはラッド駆除の時の個体を通して遊真の過去について話してくれた。遊真が三門市を訪れた理由も、黒トリガーや遊真の体の状態についても。元々、遊真には全力で手を貸すつもりだったが、昨日の話でその決意は更に固まった。
「止まれ!」
あちらも気づいたらしく、先頭を走っていた太刀川さんが後続に指示を出し、自らも止まる。
「なるほど、そう来るか・・・。って、伸太郎もいるのかよ!」
「伸太郎さん!?なんであなたまで・・・!」
「よ、秀次。悪いな、オレにも譲れないものがあるんだよ」
太刀川さんも秀次も揃いも揃って嫌そうな顔をする。失礼だな。
「うおっ、迅さんじゃん!伸太郎さんも!なんで?」
「よう、当真。冬島さんはどうした?」
「うちの隊長は船酔いでダウンしてるよ。で、伸太郎さんは?」
「お前たちが狙ってる奴がな、オレの守るべき対象だったんだよ。あと、悠一の奴に頼まれたからだな」
「へー、伸太郎さんがそこまで言う奴なのか」
「余計なことをしゃべるな、当真」
このノリが軽めのリーゼントは《
そんな当真を咎めるのは《
「こんなとこで待ち構えてたってことは俺たちの目的もわかってるわけだな?」
「うちの隊員にちょっかい出しに来たんだろ?最近、玉狛の後輩たちはかなりいい感じだからジャマしないでほしいんだけど」
「そりゃ無理だ。と、言ったら?」
「その場合は仕方ない。実力派エリートとして、かわいい後輩たちを守んなきゃいけないな」
《
「いつになくやる気だな迅。その上、伸太郎までいるときた。S級が二人となるとかなりやりづらいんだが」
「ん?あぁ、安心してくれよ太刀川さん。オレは今回、柑夕は使わない」
「は?」
それまでヘラリと笑っていた太刀川さんがオレの言葉に目を丸くする。黒トリガーを使えば確実に太刀川さん達を圧倒出来るだろう。だが、
「オレは派閥争いに巻き込まれたくないんだよ、面倒だし。それに今後、目の敵にされて動きにくくなるのが嫌なんだ。オレにはオレの優先順位がある、その上でオレは好き勝手に動く」
「なんというか、お前らしいな・・・」
太刀川さんに呆れられた顔をされるのは解せないが、自分がこれからも守りたいものの為に自由に動くし、ここで黒トリガーを使って上層部に黒トリガーを取り上げられる理由を作ろうとは思わない。
「で、どーなってんだ?これ、迅さんと伸太郎さんと戦う流れ?」
「『模擬戦を除くボーダー隊員同士の戦闘を固く禁ずる』隊務規定違反で厳罰を受ける覚悟はあるんだろうな?迅、如月」
「それを言うならうちの後輩だって立派なボーダー隊員だよ。あんたらがやろうとしていることもルール違反だろ、風間さん」
「だってさ、風間さん。それに、さっきも言った通り、オレにはオレの優先順位がある。遊真は既にオレが守るべき相手だ。約束もしたしな」
「・・・・・・!」
風間さんはそれを聞いてほとんど表情は変わらないが驚いたような反応をした。ただ、その言葉が秀次は気に入らなかったらしい。
「『立派なボーダー隊員』『守るべき相手』だと・・・!?ふざけるな!近界民を匿ってるだけだろうが!伸太郎さんも、その近界民があなたの大切な人を害すかもしれないんだぞ!」
「害す?遊真はそんなことしないさ。短い間ではあるが接してきたからこそ分かる、アイツにはアイツなりのルールがある。こっちがそれに土足で踏み入ろうとしない限り、アイツから何かをしようとはしない」
「それに、近界民を入隊させちゃならないって規則はどこにもない。正式な手続きを踏んで入隊した正真正銘のボーダー隊員だ。誰にも文句は言わせないよ」
「なん・・・・・・」
悠一の追撃に口を噤む秀次。このまま退いてくれると楽なのにな、なんて思うがそれで済むなら悠一はここにオレを呼ぶことなどなかっただろう。案の定、太刀川さんがバックワームを解いて前に出てくる。
《
「いや、迅。おまえの後輩はまだ正式な隊員じゃないぞ。玉狛での入隊手続きが済んでても正式入隊日を迎えるまでは本部ではボーダー隊員と認めていない」
バックワームと代わるように太刀川さんの右腰にもう一本、弧月が現れる。太刀川さんは表情を崩すことなく続ける。
「俺たちにとっておまえらの後輩は1月8日まではただの野良近界民だ。仕留めるのに何の問題もないな」
「・・・・・・」
「へぇ・・・・・・」
「確かに」
「いやいや、納得すんのかよ」
太刀川さんの言うことにも一理ある。遊真の奴はまだ入隊式を済ませてない、これは間違いのない事実だ。だが、オレはひとつ言いたい。
「太刀川さん、あんたそんなに頭が回るんならレポートは今度からひとりでしてくれ」
「え」
「ふぅ、これでようやく解放されるな・・・」
「・・・・・・!・・・・・・・・・!!」
太刀川さんが声にならない声でこちらに訴えてくるが知ったことではない。何が好きで他人のレポートを毎回毎回手伝わされなきゃならんのだ。
太刀川さんの情けない姿を見ていられなくなったのか風間さんが口を開く。
「とにかく、邪魔をするな。迅、如月。おまえたちと争ってても仕方がない。俺たちは任務を続行する。あと太刀川、俺もおまえの面倒は見ないぞ」
「・・・・・・!!」
あ、風間さんから追撃が入った。あの人もなんだかんだレポート手伝わされてたからな、妥当だと思うぞ太刀川さん。
元気がなくなってきた太刀川さんをまるで気にせず、風間さんは冷静に対話を進める。
「本部と支部のパワーバランスが並ぶことは別としても、黒トリガーを持った近界民が野放しにされている状況はボーダーとして許すわけにはいかない。城戸司令はどんな手を使っても玉狛の黒トリガーを本部の管理下に置くだろう。玉狛が抵抗しても遅いか早いかの違いでしかない」
「しかもオレに関しては本部所属だけど、城戸さんの命令に従う忠実な駒ではないしな」
自分で補足を入れたが、これも城戸さんが遊真の黒トリガーを求める理由のひとつだと思う。オレはかなり自由に動いてるし、これまでの功績やらで城戸さんですら好きにさせてる始末。あれ、遊真が危険なのってオレのせいもある?いや、だが悠一の方がかなり酷いような・・・。
「それは伸太郎が自由すぎるんだよ」
「いやいや、おまえら両方ともだぞ?」
「「そんな馬鹿な・・・!」」
思考を読んだかのように悠一の奴が茶々を入れるが、少し復活した太刀川さんに即座にぶった斬られる。さっきからシリアスな場面のはずなのにどこか緩いのは何故だ?
あ、やばい風間さんの目付きが鋭くなってきた。口挟んですみません・・・。
「おとなしく渡した方が身のためだ。・・・それとも黒トリガーの力を使って本部と戦争でもするつもりか?」
「・・・・・・風間さん、アンタたちにとってはただの黒トリガーかもしれない。戦闘の為の道具かもしれない。だが、少なくともオレにとっては父さんの形見であるように、アイツの黒トリガーにはアイツなりに大切な意味がある」
「・・・・・・」
風刃だって元々は悠一の大切な人だった。黒トリガーは誰かの命と引き換えに生まれるものだから。奪うにせよ、戦うにせよ、それを忘れて欲しくない。これはオレの我が儘だ。
「そういうわけだ。別に戦争するつもりはないけど、おとなしく渡すわけにはいかないな」
「あくまで、抵抗を選ぶか。遠征部隊に選ばれるのは黒トリガーに対抗できると判断された部隊だけだ。S級が二人とはいえ片方は今回はノーマルトリガー、他の連中相手ならともかく、俺たちの部隊を相手にたった二人で勝てるつもりか?」
「おれはそこまで自惚れてないよ、遠征部隊の強さは知ってる。それに加えてA級三輪隊もいる。おれが黒トリガーを使ったとしても勝率は五分だろう。『おれ一人だったら』の話だけど」
「その為にオレが呼ばれた。風間さんたちとノーマルトリガーで戦ったことはなかったけど、伊達に旧ボーダー時代からいるわけじゃないぜ?それに・・・」
「・・・・・・!?・・・・・・なに!?」
風間さんが何かに気づいたかのように右側の建物の上に顔を向ける。次いで『ダンっ!』と力強く着地する音が聞こえたのか、太刀川さん達もバッとその方向を凝視した。
「嵐山隊現着した。忍田本部長の命により、玉狛支部に加勢する!」
真っ赤な隊服が特徴的で、テレビなどでもよく目にするボーダーの顔。木虎が所属している部隊であり、A級5位の名に恥じない実力を持つ部隊。それこそが《
「嵐山・・・・・・!」
「嵐山隊・・・・・・!?」
「忍田本部長派と手を組んだのか・・・・・・!」
流石の風間さんもこれには驚いたらしい、先ほどよりも表情を険しくさせている。太刀川さんは相変わらず冷静だが、言葉から少し驚きが感じられる。
そんな彼らとは対照的に嵐山隊が屋根からこちらへと降りてくる。特に嵐山はいつも通りにこやかだ。
「遅くなったな、迅。ってあれ?如月もいるのか?」
「よ、嵐山。オレはコイツに頼まれてな」
「なにはともあれ、いいタイミングだ嵐山。助かるぜ」
この爽やかな黒髪イケメンは《
「如月先輩!」
「木虎はこの間振りだな。元気にしてたか?」
イルガーの時にも会った《
「はい!お気遣いありがとうございます!」
「あれ、木虎、おれは?」
「迅さん、いたんですね」
悠一に辛辣な木虎だがそれも仕方ないのかもしれない、悠一の奴は本部で女性の敵と言われても仕方のないセクハラをしているのだから。肩を落とした悠一は拗ねたように嵐山と話し始めた。
「如月先輩いるんなら、おれたち要らなかったんじゃないんですか?」
「そう言うなよ、時枝。オレは今回ノーマルトリガーで戦うから全然必要だぞ」
「え、レアシーンじゃないですか」
この眠そうなキノコ頭は《
木虎の辛辣な言葉から立ち直った悠一が太刀川さんたちを真っ直ぐ見据える。
「役者は揃った。嵐山隊に伸太郎、こいつらがいればはっきり言ってこっちが勝つよ。オレのサイドエフェクトがそう言ってる。
おれだって別に本部とケンカしたいわけじゃない。退いてくれると嬉しいんだけどな、太刀川さん」
悠一は最後の説得を試みる。ギリギリまで対話による解決を望んでいるみたいだが、太刀川さんの性格を考えると・・・。
「なるほど、《未来視》のサイドエフェクトか。ここまで本気のお前は久々に見るな、おもしろい」
やはりと言うべきか、太刀川さんは左腰の弧月を徐々に抜いていく。それと同時に奈良坂たち狙撃手組は移動を始め、秀次、風間隊などの攻撃手たちは戦闘体勢に入った。同じくオレと嵐山隊も戦闘体勢をとる。
「お前の予知を覆したくなった」
「やれやれ、そう言うだろうなと思ったよ」
不敵に笑いながら、悠一も薄緑色の輝きを放つ《
伸太郎はあんなこと言ってますが、仮にここで黒トリガーを使ったとしても上層部は取り上げることは出来ないでしょう。
理由1:伸太郎の父親がかなり城戸さんたちと仲が良かったから。その息子にあまり強く出れない。
理由2:伸太郎はボーダー初期から近界民と戦っており、その功績も多く、市民にも馴染みが深い存在です。迂闊な扱いが出来ません。ボーダー隊員にも彼を慕う者は多く、場合によっては城戸派ですら伸太郎の為に牙を剥きます。つまり、マイナスの方が大きいよねって話。
理由3:最後に《柑夕の記憶》は如月父が伸太郎に託した専用トリガー。適合者は伸太郎以外におらず、強力な能力とは引き換えに好き嫌いが非常に激しい黒トリガーです。扱える者がいるわけでもないのに、伸太郎から取り上げてしまえばただ意味のないパワーダウンとなります。いくら派閥争いがあれど、ボーダーの本来の敵は近界民。4年半前の大規模侵攻が起こらない確証もないのに取り上げてしまえば、いざという時の戦力が足りなくなる。
派閥争いって言ってるけど、多分伸太郎の周りの人はあんまり気にしてないし、黒トリガー使ったとしてもそこまで確執は起きないと思う。原作の雰囲気的にあんまり派閥争いは感じないから。要は伸太郎が気にしすぎてるだけ。