ウマ娘~GEEN DESTINY~   作:煌めき

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第1R「至って普通のウマ娘」

 

 

「父さん! 行ってきます!」

 

 

 

 

 靴を履き、カバンを持ち鏡の前で気合を入れ、元気よく学園へと出かけていく少女。今日からかの有名なトレセン学園に入学することになり、緊張しているのか、その表情はやや強張っている。

 

 

 

 

 父「おい。そんなに気負ってたら、入学初日から疲れちゃうぞ。もうちょっと肩の力を抜け」

 

 

「やっぱ判っちゃうの?」

 

 

 父「分かる、お前を育てたんだ。ほら、手を出してみろ」

 

 

「まるでトレーナーみたいなことを言うね」

 

 

 父「前職はトレーナーだったからな」

 

 

 

 そう言って娘に手を差し出す父親。その差し出された手を握り返し、しっかりと握手を交わす。その手は温かく、どこか安心感を与えてくれるような感覚を覚えた。父の手を握ったまま数秒ほど見つめていた後、不意にハッとなって慌てて振り払う。恥ずかしかったのか、耳まで真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。

 

 

 娘は少しだけむくれているようだったが、すぐに機嫌を直して微笑んだ。

 

 

 彼女は思った。やっぱり父は凄い。いつも見守ってくれていて、いつでも相談に乗ってくれる。どんなことでも包み込んでくれて、どんなわがままでも聞いてくれる。

 

 

 娘は心の中で父に感謝した。そして願った。これからもこの幸せな日々が続きますようにと……。

 

 

 

 

「じゃあ改めて…………行ってきます!」

 

 

 父「体調に気を付けろよ!」

 

 

 

 

 父に見守られながら玄関を出ると、周りを見渡し誰もいないことを確認すると掛け声と共に一気に走り出した。

 

 

「ヒアー・ウィー・ゴー!」

 

 

 勘所が走った道は数秒の時間を置いて少し強い風が巻き起こる。それはまるで突風に煽られたかのような勢いで地面を蹴っていく。まるで重力などないかのように空中を駆け抜ける姿は、まさに風の如しだった。

 この光景を見たら誰でも驚くだろう。普通の人間には不可能な技である。それを可能としているのがウマ娘の身体能力であり、その中でも桁外れの速度を持つ彼女だからこそ可能な芸当なのだ。

 

 

 と、その時。トレセンへと続く橋が工事中という看板が置かれていたため迂回を余儀なくされた。と、普通の人やウマ娘はそう思うだろう。

 

 

 

「これぐらいの距離ならあの川から行ける…………」

 

 

 

 そう言い、道のギリギリまで後ろへ下がり助走をつける。そして走り出し力強く大地を踏み込み跳躍した次の瞬間。彼女の体は宙を舞っていた。そのまま数十mある向こう岸へと”ウルトラ着地”を決める。普通ならこのような行為は危険極まりないが、彼女はなんなくこなせる自信があった。その自信はどこにあるのか分からないが再び目的地に向かって走り出した。

 

 

 

 

 ~走ること10分後~

 

 

 

「着いた! …………以外に遠いな~ここ」

 

 

 

 目的地のトレセン学園へと到着した。辺り一面、桜の花びらが散り、綺麗な景観を作り出していた。

 だが、それに感動する暇もなく、早く自分の教室に行きたい気持ちが彼女を急がせた。校舎の方へ向かう途中、様々な人とすれ違う。殆どが新入生として期待に胸を膨らませていた。そんな中……ひときわ目立つウマ娘がそこにいた。

 

 

 そのウマ娘はかの有名な皇帝【シンボリルドルフ】だった。彼女が通り過ぎる度に誰もが振り返るほどの美しさを持っていた。運動神経抜群、頭脳明晰、才色兼備の完璧超人でもあった。え、盛りすぎ? そんなことはない、彼女は本当に天才と呼ばれるにふさわしい能力を持っているのだ。しかし、彼女自身はそういうことに一切興味がない。ただひたすらに自分が目指すべき理想の姿を追い求めていた。

 

 

 

 その姿は正に……夢を追いかけ続ける者……そのものだった。

 

 

 

「あれが皇帝…………カッコイイ…………!!」

 

 

 

 思わず憧れの目で見てしまう少女。その視線を感じたのか、ふと顔を上げてこちらを見てくる皇帝。すると……少女は目が合ってしまった。皇帝の瞳の中に映った自分をまじまじと見つめ、しばらくお互い固まったまま動けずにいた。それから少しして、ハッとなった少女はその場から立ち去った。

 

 

 

 ルドルフ「…………」

 

 

 

 場所は移り学園内の廊下。

 

 

 

「はぁ~…………まさか目が合うなんて思ってなかったな……」

 

 

 

 学園内を歩きながら、さっきの出来事を思い出していると不意に誰かにぶつかってしまう。

 

 

「(しまった、ボーっとしてた)す、すみません!」

 

 

 慌てて謝ろうとすると、そこには一人のウマ娘がいた。そのウマ娘はブルネットのボブカットに、鼻梁白の面相に白い前髪と、同色の三つ編みハーフアップが特徴で、右耳に青いリボンを付けていた。

 

 

 

「(て、【スペシャルウィーク】さん⁉ヤッバイ⁉かの日本総大将にぶつかっちゃったよ!!)」

 

 

 

 スペシャルウィーク(以降:スぺ)「大丈夫ですよ。気にしないでください」

 

 

 

 アワアワとする彼女にスペシャルウィークは微笑みかけてくれた。

 

 

 

「あ、ありがとうございます。それではこれで失礼します。(うぅ……緊張した……)」

 

 

 

 そそくさと逃げるように去っていく。その様子を見ていたスペシャルウィークは少し首を傾げていた。

 

 

 

 スズカ「スぺちゃん? どうかしたの?」

 

 

 

 スぺ「いえ…………」

 

 

 

 そして時間は過ぎ、入学式は無事終わりを迎えた。そして彼女は、今日この日から晴れてトレセン学園の生徒となったのであった。続いて実際出て走ることになるであろうレース場へと移動する。

 

 

「(すっごい! こんな大きい場所で走れるんだ! 僕もいつかはここで……)」

 

 

 キラキラとした目でレース場を見渡す。彼女にとってこの場所は夢の一歩なのだ。これからの夢への道を思い浮かべ、ワクワクが止まらない。と、その時。向こうからゴールに向かって走って来る2つの影が見えた。

 

 

 1人は前に白いメッシュを一房垂らし、鹿毛のロングヘアーをピンクのリボンでポニーテールにまとめた小柄で右耳に耳飾りを付けているウマ娘。もう1人は白に近い芦毛のロングでどこか気品が高いオーラを纏っているウマ娘。

 

 

 2人ともかなりの美人である。

 

 

 ゴール版を突っ切るとトレーナーらしき人が出て来て2人を出迎える。

 

 

 鹿毛のウマ娘「はぁ……! はぁ……! くっそー! あとちょっとだったのにぃ!!」

 

 

 白っぽい芦毛のウマ娘「ふふ、私の勝ですわね!」

 

 

「(あ、あの2人って帝王【トウカイテイオー】とターフの名優【メジロマックイーン】じゃん!! うわぁ~……!)」

 

 

 他の生徒も2人の走りを見てざわめいていた。そして、その2人が見ていた僕たちに向かって手を振ってくれた。生徒達も振り返す。こんなにも注目されるなんて、凄い人達なんだな……。その後、彼女を含まない生徒たちはテイオーとマックイーンに質問やサインをお願いする列が出来上がる。

 

 

 それを遠くから眺めている僕は「凄い……」と声が漏れてしまう。

 

 

 その日は何事もなく終え、放課後になる。今日は何もないけど、練習の見学はしたいと思っているのでトラックへ向かった。

 

 

 そこには1つのチームなのかトレーナーらしき人物と数名のウマ娘がトレーニングをしていた。

 

 

(あーやってトレーニングをするんだ…………)

 

 

 遠目からその光景を見ていた少女は呟く。すると、トレーナーらしき人物がこちらへ駆け寄ってきた。

 

 

 トレ「見学かい?」

 

 

 

「は、はい! トレーニングってどうやるのか気になってまして!」

 

 

 

 トレーナーという男性はこちらを不思議そうに見つめた後に笑顔を見せた。

 

 

 

 トレ「君は新入生かな?」

 

 

「は、はい! 先程入学式を終えたばかりで……これからどんな生活が始まるのだろうと楽しみで……!」

 

 

 たどたどしく喋ると、また彼は微笑んでくれた。

 

 

 トレ「君、名前は?」

 

 

「あ、まだ言ってませんでしたね! 僕はトウカイテイオーさんやメジロマックイーンさんみたいな夢を与えられるような強いウマ娘になりたいと思っています! それで、えっと、僕の名は……」

 

 

 テイオー「トレーナー!」

 

 

 

 名前を言おうとしたとき、後ろからトウカイテイオーがやって来た。

 

 

 

「あ。す、すみません! トレーニングの邪魔でしたよね!?」

 

 

 

 トレ「ははは、いいよ。大丈夫。それより君の事は覚えておくよ。頑張ってね」

 

 

 

 そういうと彼は手を振りながら離れていった。僕は深々と頭を下げて、ここを去った。

 

 

 

 テイオー「トレーナー? さっきの娘がどうかしたの?」

 

 

 トレ「ん? いや、ただ可愛いなって思ってね。あんな風に真っ直ぐな子ならすぐに強くなるだろうし、何よりあの容姿だ。きっとファンも増えるだろう」

 

 

 テイオー「ふーん。でも、ボクだって負けないし! なんたって無敵のテイオー様だからねっ!!」

 

 

 

 彼女は鼻を高くして自慢げに言った。

 

 

 

 トレ「(それにしてもあの娘、ルドルフに似てたな…………)」

 

 

 

 ──―

 

 

 

 夜。少女は寮の自分の部屋で、明日から始まる学園生活を待ち遠しにしていた。どんな人たちがいるのだろうか、どんな授業があるのだろうか。そんな想像が止まらないのだ。

 

 

 

「(楽しみだなぁ…………)」

 

 

 ベッドに横になり、天井を見上げながら笑みを浮かべる。そして、枕元に置いてある父親の写真を手に取り眺め始めた。その顔はとても幸せそうな表情であった。

 

 

「おやすみなさい。お父さん…………」

 

 秋川やよい「…………」

 

 

 

 理事長の秋川やよいは、無言でとある資料を読んでいた。それは、今朝方に学園にやってきた新入学生の資料だった。そこで一人の皇帝似のウマ娘が目に入った。

 

 

 

 やよい「至って普通のウマ娘か……」

 

 

 

 そう彼女は推薦とかではなく至って普通の経歴で受験に合格しトレセン学園にやって来た。だが、やよいはある事に気付いた。彼女の父親の名前に聞き覚えがあった。

 

 

 

 やよい「……この名、どこかで見たような気がするのだが……」

 

 

 

 その時、部屋の扉がノックされた。

 

 

 

 駿川たづな「失礼します。理事長、頼まれていた資料をお持ちしました」

 

 

 

 ガチャリと扉が開き、トレセン学園理事長の秘書を勤める女性である【駿川たづな】が入ってきた。

 

 

 

 やよい「うむ、ご苦労! 少し休んでくれたまえ!」

 

 

 たづな「いえ、私は大丈夫ですよ。すぐ終わりますから。それにしても…………随分熱心に見てますね」

 

 

 やよい「ああ、少し気になったウマ娘がいたのでな」

 

 

 

 

 やよいは手元にある資料を眺めながら言った。

 

 

 

 

 やよい「ふぅむ。特に変わった娘ではなさそうだが、この名はやはり引っ掛かる。それに、父親の名は確か……」

 

 

 たづな「…………理事長」

 

 

 やよい「ああすまん。少し考え事をしていてな。それより、例の件はどうなっている?」

 

 

 たづな「はい。問題ありません。すでに調査は終わっています」

 

 

 やよい「そうか、ならいい」

 

 

 たづな「しかし、どうしていきなりこんなことを? 別に問題はないと思うのですが」

 

 

 やよい「”そう言って何度起きたことやら”…………」

 

 

 たづな「あはは…………」

 

 

 やよい「まぁ今回は特に問題はなさそうだがな…………【ジーンディスティニー】か…………」

 

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