「ぶっっ」
"ソレ"の発言に吹き出してしまう俺。
え? セックスフレンド?
今俺にセフレになってって言ったかこいつ?
え?声可愛いしもちろんなりますけど?
いや脳内海綿体か俺は。
他3人が相手にしてくれないせいでセルフツッコミのキレが良くなっている。
いやそんなことはどうでも良く。
この状況は非常にまずい。
「俺は、この世から消えてしまったのか……?」
どうすればいいか分からず、正体も姿形も分からぬ"何か"に問いかける。
「んー、ちょっと違うかな。」
「君自身に自己検閲特性を付与しただけだよ。」
自己検閲……?
はい?
「つまり、周りの人や環境に自らの情報が拡散するのを妨害したり阻止したりする性質ってこと。反ミームとも言うね。」
……は???
いや、全く意味わからん……
とりあえず、紗雪たちは俺の事を認識できないのは分かった。
それならこれでどうだ!
俺は教室の前の黒板に、3人へ危険を知らせるためにチョークを走らせた。
「俺自身が見えなくとも、俺が書いた文字なら読めるはずだろ!」
誰でも良い、気づいてくれ……!
「あれ、黒板になんか書いてる……?」
そう時間をかけることなく、蒼姫が俺のメッセージに気づいてくれた。
これさえ伝わればなんとかなるはずだ……!
「マリアさん、これ何て書いてあるか読めますか?」
「黒板に……あら、全然気づきませんでしたね」
「えーっと……これは……」
紗雪も俺が黒板に書いたメッセージに気づき、視線を移す。
その場にはしばらくの沈黙が流れた。
いやいやいやおかしいだろ!!普通に書いた文字が読めないなんてそんなこと
…………あれ。
俺、自分で書いたはずなのに……読めない……?
「どういう意味なんでしょうか、この文章は……」
というか、さっき書いたはずなのに何を書いたか覚えてないって、そんなことあるか……?
「だからいったでしょ。」
"それ"が、意地悪くクスクスと笑った。
「あなたの発信する情報は、それが文章であろうと、私を紙にスケッチしようと写真で撮ろうと、自分にも他者にも拡散することは出来ない。」
「これが、反ミームだよ。」
パチン、と指を鳴らすような音が聞こえたと同時に、俺はずっと視界に捉えていたものを正しく認識できるようになった。
赤髪ショートの、金色と水色のオッドアイ。年は俺と同じくらいだろうか、水色のカチューシャを身につけている。膝丈のスカートとソックスの合間には思わずすべすべしたくなりそうな綺麗な足が確認でき、膨らみかけの胸と細い指先が──
「なーんかやらしい目線」
「ご、ごめん」
いや、何反射的に謝ってんだ俺。もっと気を引き締めろよ!!
どうする……どうする!?
紗雪もマリアも蒼姫も、俺の事が見えないだけじゃなく多分記憶も消されてる……!
授業としての時間が終わるまで、あと40分。
チャイムが鳴ってしまえば、彼女らはバッジを回収して次の教室へ向かうだろう。
俺のことは、完全に記憶から消えたまま……
クソ!クソ!!
考えろ考えろ考えろ!!!
この状況を打開する方法を!!!
…………
…………いや、ちょっと待て。
「なぁ」
俺は危険を承知で、その女に尋ねる。
「なーに?」
「ここに来る前に、張り紙を見たんだ……この学園の案内図と、講義が行われている場所の一覧表だ」
「うんうん」
「そこで俺たちは……愛の単位の取得率が100%ってのを見て単位を稼ごうとここを選んだんだ」
「ぷ~くすくす」
「……やっぱりあれは、俺たちみたいなのを嵌めるためのデマだったと」
そいつは頬に人差し指を当て、少し間を溜めてから口を開いた。
「うーん、嵌めたいわけではないかな」
「だってアレ、作ってるの私じゃないもん」
……?
「まぁ簡単に言うと、この部屋から出られなかった人は"最初からいなかった"ことになっちゃうからね」
「私の反ミームの能力下に置かれたものは、敵味方からも、学園さえも認識不能になる」
「別に私はあの子らに手を出すつもりはないよ。興味ないし」
「適当にパズルでも解いてもらって、愛の単位を持って帰ってもらう……君のお仲間の生存率100%は保証するよ」
「ま、あのバッジ自体が反ミーム物体だから教室を出た瞬間に取得したことすら忘れちゃうけどね♪」
……ん?
バッジ自体が反ミーム物体なら、なんで現時点であれを認識出来てるんだ……?
いや、この教室自体が既にこいつの支配下だ……あまり深く考えても仕方ない。
「で、俺は誰にも忘れ去られて一人でお前の相手をすると」
俺は能力を解放し、臨戦態勢を取った。
自前のトライデントを生成して構え、翼を展開し敵の反応を見る。
教室という高さがとれない狭い空間ではあまり役に立たないかもしれないが、ないよりマシだ。
こいつを倒せば、意味の分からん能力の効果も切れるはず……
効果が切れた時、蒼姫たちが俺のことを覚えていてくれてるのかは分からないけど。
……蒼姫。
蒼姫がこちらの世界に来るには、俺という存在が必須のはずだ。それなのに
いや、そんな理屈どうでもいい。
共に生きると誓ったはずの蒼姫の記憶には、俺はもう……いないってのか?
嘘だろ?
嘘だと言ってくれよ……
「蒼姫ぇ!!!!」
俺の怒号に近い呼びかけにも蒼姫は応じず、箱の中身を覗き込んでいる。
待ってろよ、蒼姫、紗雪、マリア。
俺は絶対、そっち側に戻ってやる。
「えー、別に私は君とも戦うつもりないんだけど」
「知るか。俺はお前を倒して全部元通りにするんだよ!!」
「私を倒す……?」
「あっはっはっは!!」
「私のこと、なーんにも覚えてないくせに。」
絶対的な自信からか、俺の言葉を盛大に笑い飛ばす彼女。
「私を倒すって言ったってねぇ……」
頬杖をつきながら、ニマニマと俺をほくそ笑む。
「私はセフレが欲しいだけなんだけどなぁ」
「ぶっっ」
こいつ、かわいい顔しておきながらえげつないこと言うな……
「でもみ~んなすぐ力尽きちゃうんだよねぇ」
「腕一本落としたぐらいだったら良い声で鳴いてくれるんだけど」
…………は??
「だるまにする頃にはとっくに意識失っちゃってさ~」
なんだこいつ……薄い本にでも出てきそうなかわいい性欲強めの女の子かと思ったらただのサイコパスじゃねぇか!!
3cmぐらい期待した俺がバカだった……。
「ところで、君。誕生日は?」
「わざわざお前に教えるわけねぇだろ」
「え~、こっちはいっぱい話してあげたのにアンフェアだなぁ。」
「そうかい。俺は10月31日生まれ、ハロウィンの能力者だ!!」
俺は一歩踏み込み、奴の喉元めがけて槍を突き刺した。
回避も反撃もしないルルを、矛先が正確に貫く。しかし人体を突いたような感触はなく、ぬるりとした感覚を残してあっけなく抜けてしまった。
「そんなもので攻撃したって意味ないよ~……」
「意味がねえか、やってみねえと分かんねえだろ!」
俺は槍を構えなおし、余裕綽綽とした可愛い顔に容赦なく一太刀を浴びせた。