2003年4月16日
修学旅行6日前の放課後、千鶴と夏美は商店街の書店で本を探していた。
「ちづ姉、ここも売り切れらしいよ」
「あらぁ、昨日入荷したばかりなのに?」
二人が探しているのはLBXバトルの専門書である。しかし、発売日当日に麻帆良中の書店から売り切れてしまい、新刊コーナーには同日発売の分厚い児童誌が残っていた。
「LBX関連は人気だからねー。っていうか、ちづ姉もLBX始めたんだ」
「私の実家のことは知ってるでしょ?」
「うん、那波重工だよね。デクーとか作ってるとこ」
「LBX事業に少しは貢献しろって言われて、『ジ・エンプレス』のテストプレイヤーをやらされてるんだけど、これが全然勝てないのよ~」
「あー、家の仕事を手伝えってやつね」
「負けてばかりだから、これじゃ試験データにならないって言われて……それで、専門書で勉強しようってわけ」
初心者向けのLBXの操作についてはLマガや分厚い児童誌にも記述があるが、千鶴はLBXの基本操作は既に習熟していた。千鶴が求めているのは"勝つ方法"である。
「専門書なんか読まなくても、誰かに稽古つけてもらったら?」
「それがね~、あやかは真面目すぎて説教くさいし、アスナさんや古菲ちゃんにはボコボコにされるし、双子ちゃんにはトラップに引っかけられるし、結局どう戦ったらいいかわからないのよー」
「ちづ姉、もっと相手を選んだ方がいいよ……」
「どっかにいい師匠いないかしら?」
二人が商店街を歩いていると、自分たちと同じ中等部の制服を着た少女が一人、商店街の一角にある模型店に入って行った。
「ん? あれ本屋ちゃんじゃない?」
「本屋ちゃんが模型店? 違和感あるわね……」
「気になるよね。ちょっと覗いてみよっか」
「いらっしゃい」
「こんにちはー。今日も使わせてもらいますねー」
のどかはこの店の店主を勤める熟年女性と挨拶を交わし、店の奥へと消えていった。
夏美は店の窓から中を覗き込もうとする。
「本屋ちゃん何してんのかな?」
「夏美ちゃん、覗き見なんて失礼よ。普通に入りましょ」
カランカランとドアベルが鳴り、二人は店に入る。店内には大量のプラモデルの箱が所狭しと並べられていた。
「いらっしゃい……あら、もしかしてあなた、那波重工のお嬢さんじゃない?」
「はい、千鶴と申します」
「ほらやっぱり! 那波重工製のLBX、結構売れてるのよ。特にデクーシリーズはミリタリー系が好きなお兄さんたちに人気でねー」
「そうなんですかー」
店主は最近流行りのLBXについて商談を始めるが、千鶴はあまり興味を示しておらず、生返事をする。
「そうそう、6月にタイニーマキナからオーディーンが発売されるじゃない? 発売前からすごい人気で、予約の電話が鳴り止まなくて困っちゃうのよ」
「へ、へぇー。すごい売れ行きですねー」
「那波重工からも何かない? オーディーンを超えるくらい売れそうな新商品」
「え、えーっと……」
LBXの知識が少ない千鶴は答えに詰まる。
突如、会話を遮るように年代物のダイヤル式電話が鳴り響いた。
「またアレの電話ね。もう予約いっぱいなのに。はいもしもし」
商談から解放された千鶴は思わず安堵の息を漏らす。
「夏美ちゃん、オーディンってなにかしら?」
「知らないの!? 今度発売のLBXの新機体だよ。ていうか伸ばし棒足りないよ!」
「ふーん」
「ふーんって……ちづ姉、実家のLBXをもっとアピールしなくていいの? このままじゃお客さん取られちゃうよ?」
「そんなこと言われても、私LBXのことはあんまり詳しくないし……」
「もう! ……あ、そうだ。本屋ちゃんは?」
「こっちよ。LBXの練習してるみたい」
店の奥のあまり広くはない空間。周囲の棚の中にはたくさんのプラモデルが飾られており、床にはマジックダンボール製のジオラマが四台設置されていた。店内に設けられた対戦スペースである。
のどかはジオラマの前に立ち、手元のCCMでLBXを操作している。
「本屋ちゃん、一人で練習?」
「……」
夏美の呼びかけに気づかないのどか。集中するあまり周囲が見えなくなるのは彼女の悪癖である。
「おーい、本屋ちゃーん」
「ひゃっ!? あ、那波さん、夏美さん……」
「それウォーリアーだよね。本屋ちゃんの?」
「いえ、お店から借りてるんですー。自分のLBXは持ってないので……」
「まだ買わないの?」
「いろんな機体を試してから決めようと思ってます。ウォーリアーは使いやすくてかっこいいけど、クノイチやクイーンはかわいいしー……」
「本屋ちゃんまでLBXに興味持ったのね。私はLBXの魅力なんてよくわからないわ」
「それテストプレイヤーのセリフじゃないよ……」
「え……那波さん、テストプレイヤーなんですか?」
「テストプレイヤーといっても、バトルして記録を集めてるだけよ。でも全然勝てないし、戦闘データの質が悪いってダメ出しされるし、もう辞めちゃおうかしら。そもそもLBXってテストプレイヤーなんかいなくても作れるんでしょ?」
「テストプレイヤーは必要だと思います……」
平日の放課後という時間帯もあり、店には学校帰りの学生の姿が増えてきた。
「あら、いらっしゃい」
「おばちゃん、こんにちはー」
「ジオラマ使わせてもらうよー」
LBXで対戦する子供たちを視界に入れながら、のどかは自分の意見を述べる。
「LBXは『危険なオモチャ』とも呼ばれてて、使い方を間違えるとケガをします。それでもLBXは子供たちを笑顔にしてくれるんです……テストプレイヤーというのは、子供たちの笑顔を作るために必要な仕事だと思うんですー……」
「そこだ! 必殺ファンクション!」
「うわっ、やられたー」
「みんな楽しそうだよね。LBXバトルって結構危険だから、テストプレイヤーがちゃんとデータを取らなきゃダメだよね」
子供たちの熱心な表情を見た千鶴。何のためにテストプレイヤーがあるのか。千鶴はようやくそれを理解した。
「言われてみれば、テストプレイヤーの役目なんて考えたことなかったわ。まさかあなたにお説教されるとはね」
「い、いえ……別にそんなつもりは……」
「本屋ちゃん、いい事言ったんだから自信持ちなって!」
「は、はいっ」
「そうねぇ……子供たちのためにも、まだまだ頑張ってみようかしら」
「あ、あの……那波さんのLBX、見せてもらってもいいですかー?」
千鶴はすぐにスクールバッグからLBXを取り出し、のどかに見せる。のどかは見たことのない機体に興味を持ち、それをまじまじと見つめる。
「ジ・エンプレスっていうのよ」
「ストライダーフレームですねー。装甲が薄くてスピードはありますが、打たれ弱いんですよねー」
「なるほど、だからすぐにやられてたのねぇ」
「避けながら戦えってこと?」
「そうですねー……戦い方はハルナに教えてもらうのがいいと思います。ハルナのジョーカーもストライダーフレームでハンマー使いなのでー」
「ハルナさんね、わかったわ。教えてくれてありがとね」
「じゃあねー」
店をあとにする二人にのどかは左手を振る。右手に持ったCCMでLBXの操作練習を再開した。
「早速パルのとこ行って教えてもらう?」
「そうねぇ。子供たちのお手本にもなりたいからね」
テストプレイヤーとしての認識を改め、子供のおもちゃに真剣に向き合うことにした千鶴であった。
「それにしても、みんなLBXにハマり過ぎじゃない? 家の事情でやらされてるちづ姉はともかく、本屋ちゃんまで興味持つなんて」
「夏美ちゃんは流行りに乗らないの?」
「私はやらないよ。LBXなんか持ってたら余計子供っぽく見られるもん」
「あら、そうなの?」
ちづ姉の異名は『女帝』ですので、ジ・エンプレスを持たせました。武器はハンマーのアフロディーテです。
ネタが思いつけば、"あやか編"も書いてみようと思います。