4月18日 昼休み
エヴァンジェリンから依頼されたヴァンパイアキャットの修理を終えたハカセ。ネギにつけられた裂傷と焼痕は綺麗に治り、持ち主のもとへ返される。
「悪いな。先週もおまえに頼んだばかりなのに」
「いいですよ、それが私の役目なので。それにしても、エヴァさんほどの実力者があれほどのダメージを受けたなんて、信じられません。誰にやられたんですか?」
「それは……おまえには関係ないだろ? ちょっと油断しただけだ」
LBCSの存在を知らないハカセは『エヴァンジェリンがLBXバトルで負けた』と思い込んでいる。真相を隠し、言葉を濁すエヴァンジェリン。
「ふーん? まあ、それはともかく。実は私、オリジナルのLBXを開発してまして」
「オリジナル?」
ハカセは自信ありげな顔で一機のLBXを取り出した。
「見てください! これが私のオリジナルLBX"ファントム"です!」
青いコウモリのような容姿のLBX、ファントム。武器は二重螺旋の槍デモンズランス。マントのように広がる翼には五基のブースターが仕込まれている。ハカセのこれまでの研究成果を詰め込んだ意欲作である。
「ほう。禍々しくてかっこいいじゃないか」
「茶々丸に搭載したジェット推進機構を小型化して、アーマーフレームに組み込んでみたんです。早速ですが、ファントムのテストをお願いできますか?」
「テスト? 市販化でもするのか?」
「私の目標は自分で開発したLBXの一般販売です! 腕のいいLBXプレイヤーにファントムのテストをやってもらいたいんですよ」
「私じゃなくてもいいだろ」
「エヴァさんのLBXプレイヤーとしての腕を評価しての人選です。ダメですか?」
「……まあどうせ今は暇だし、やってやるよ」
「ありがとうございます! まずはジオラマの外周をブースターの飛行だけで一周してください」
エヴァンジェリンはCCMでファントムの操作を始める。ブースターを噴射し浮遊するファントム。真っ直ぐ飛行することに関しては問題なかったのだが……
「姿勢制御がかなり難しいな」
「クイーンやホーネットのようなホバータイプとは違い、ブースターで浮遊してますから仕方ありません。エヴァさんでも難しいですか」
方向転換するとなるとブースターの向きを変える必要があり、空中でフラフラとぎこちなく飛んだ挙げ句、マジックダンボールの壁に衝突して墜落した。
「……なるほど、操作に慣れが必要だな。空中戦ができるのが強みではあるが、この操作性じゃ一般販売は厳しいかもな」
「まだまだ改良の余地がありそうですね。では次のテスト項目を」
「もうやらんぞ。使いづらいったらありゃしない」
「えー? もう少し協力してくださいよー」
「別に熟練者じゃなくてもできるだろ。今までのLBXとは違うから、むしろ熟練者の方がファントムの操作に馴染みにくいんじゃないか?」
「なるほど……経験の浅い人にテストしてもらうのもアリですね」
その日の放課後
ハカセは3-Aのクラスメイトにテストプレイヤーの募集をかけた。
「というわけで、このファントムを使ってバトルをしてもらいたいんですよ。できればそのままテストプレイヤーになってくれたら嬉しいのですが」
ハカセが作ったオリジナルLBXに興味を持つ一同。朝倉はカメラを持ち、ファントムの写真を撮る。
「そういうのはハカセが自分でするもんじゃないの?」
「私はLBXバトルが得意ではないので。作っておいてなんですが、ファントムの操作なんて私にはとても……」
苦笑いしながら頭を掻くハカセ。
「のどか、これは引き受けるべきです。自分のLBX欲しがってたじゃないですか」
「う、うん……やってみようかなー」
のどかは読んでいた"LBX戦術論"をしまい、自分のCCMにファントムを同期させる。
「では宮崎さん、お願いしますね。極力ブースターを使って飛びながら戦ってください」
「バトルの相手は誰がするですか?」
「ここは同じくテストプレイヤーであるこの私が…」
「はいはーい! 私のキャットちゃんとバトルしよー!」
委員長を押し退けしゃしゃり出るまき絵。LBXの操作と楽しさを憶えたばかりで、バトルがしたくてしかたがなかった。
「じゃあまきちゃん、よろしくね」
「出番を取られましたわ……」
「委員長と宮崎だと実力差がありすぎじゃない? 佐々木くらいが丁度いいんだって」
ジオラマの中で相対するファントムとヴァンパイアキャット。のどかはハカセの指示に従い、浮遊しながら相手に槍を向ける。
「なんか飛び方がめちゃくちゃじゃない?」
「う、うまくいかないんですー……」
方向転換のタイミングが合わず、空中でスピンするファントム。さらにブースターの威力の加減ができておらず、急発進と急停止を繰り返す。のどかはLBXの操作の初心者ということもあり、エヴァンジェリン以上に操作に苦戦していた。
「隙だらけだよー!」
空中でブースターを急に止められたファントムは墜落し、ヴァンパイアキャットの槍の一撃をもらう。
「やはり姿勢制御が難しいみたいですね。制御しやすいようにブースターを減らしてみるか? でもそれだと直進時の推進力が低下、コンセプトである"ハイレベルな空中戦"が実現できませんね。クイーンのようなホバータイプと同レベルになるのでは開発した意味がありません……いや、ブースターを減らさなくても、姿勢制御用のCPUを組み込んでみるというのは…?」
「のどか、使いにくいなら無理しなくていいです」
「も、もうちょっとだけやらせて……」
槍をついて立ち上がり、今度は真っ直ぐに飛行する。ヴァンパイアキャットの間合いまで接近し、槍同士をぶつけ合う。
「いっくよー! 覚えたての必殺ファンクション!」
『アタックファンクション ライトスピア』
「ガ、ガード…!」
ヴァンパイアキャットの槍から一筋の光が伸びる。のどかはCCMで防御の指示を出したが、ファントムは横ステップで回避した。
「ナイス回避です!」
「私、ガードしたはずなんですけどー……」
「ん? システムエラーかな? 宮崎さん、ファントムのコントロールを切ってください」
「は、はいー……」
「え~? もう終わり?」
「仕方ないです。LBXが誤作動したら危ないので」
ファントムの操作を切ったはずだったが、ファントムは地上を一歩一歩踏みしめ、前へと進む。
「え? 勝手に歩き始めた……?」
「わ、私動かしてないですよー?」
のどかやハカセの顔を見上げ、両手を挙げて激しく動かすファントム。
「なんか手振ってるです!」
「そんなバカな! ファントムが勝手に動くなんてありえません! まさか…ブレインジャック!?」
「これはスクープ! 題して『LBXの暴走!』」パシャパシャ
動揺するハカセを他所に呑気に写真を撮る朝倉。ファントムは急に両手を下ろし、何故か項垂れる。
「ど、どうなってるのー?」
To be continued
余談
のどかが読んでたLBX戦術論は前回ちづ姉が買い逃した本です。ちゃっかり発売日に買っていました。