これから始まるのは、物語を締めくくる短い短いエピローグ…… なんかではありません!!
「やってきました! ここはジャポン! 伝統と神秘の島国に、今上陸! です!」
「お声が大きい。 はしたなくございます」
「や、メイド長やめてください! その目は、その目はー!!」
「……いやあ、遠かったですねぇ」
「どっこいしょ」と、大荷物を一手に背負っていてくれた執事くんが波止場の脇で腰掛けます。
近代的な船舶を一歩降りれば、目の前には木造を基本とした物資保管の倉が連なります。
って、今おろされたコンテナを運んでいった乗り物、どうみてもフォークリフトですね……
並んでいるのは前世でも見られないほどに和風然というか、江戸風な建築物なのに、平然と近代機器が動いていて、そんなちぐはぐさに笑ってしまいそうです。
携帯電話と忍者が共存する世界観、やっぱりジャポンはジャポンであって日本ではないのですよねぇ。
「うーん、異文化。 お嬢様、どうしてわざわざこんなところまで? そりゃあ旅団も、こんな辺境までは追ってこないでしょうけれど」
「私がジャポン好きだからですね!」
「そこそこ長いこと一緒にいましたが、それ初めて聞きましたよ僕」
「それだけじゃりません! この国の女性は、私たちで言うところの下着を着ないと聞いたのです! ぱんつをはけない今の私でも大丈夫! です!」
「あ、それ迷信らしいですよ」
「え?」
「今の時代にノーパンは男女関係なく普通に恥ずかしい、なんて闘技場時代の友人が言ってました」
「そんなー!」
わたしのわりには珍しく妙案だと思っていましたのに……
わたしの和服への熱い期待が、音をたてて崩れていきそうです。
さてちなみに、いまのわたしはぱんつをはいていません。
というか、はけなくなってしまいました。
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発動の条件を満たして不発で終わればともかく、能力が変に暴走する危険があるのです。
まったく、離れたあとまではた迷惑な”俺”ですね。
「と、まぁ、ノーパンうんぬんは本命の理由ではないので別によいのですが」
「……少しは期待していたのでは?」
「あーあーきこえないですー」
茶々をいれない!
「あーあ、執事君、そんなこと言うならもう容赦しませんからね!」
「あ、イヤな予感がしますね」
「はいこれ」
「……ええ、お金?」
「軍資金です。 これで行ける行ってきてください。 ふふふ私のおごりですよ」
「……ううむ、目的語がありませんね。 いったい僕はどちらへ行けば?」
「それはもちろん、風俗街へ! これだけあれば相当遊べるでしょう!」
「ほんとになぜ??」
驚く執事君にほくそ笑む私。
いやいや、わかっていませんね。
ならば教えて差し上げます!
「執事君も知っているはずです。 我がお父様は、性産業の地位向上と発展に尽力し、たった30年で娼婦という身分を誇るべき職業の一つに加えた、性風俗界の傑物中の傑物!」
「ああ旦那様、教育に悪いとお嬢様には隠されていたのに……」
「そのネームドエイチの血を引く私は、このジャポンというブルーオーシャンで、お父様の意志を受け継ぎ、立身出世を目指します!」
「なにもわざわざそんな業界を狙わなくとも……」
「たとえば私の束縛に対する異様な理解力って、そのあたりの才能を受け継いだ結果な気もするんですよね。 だから正直、わりとイケるのでは? と」
「……それは否めませんが」
「旦那様も
「だから執事くん、これは偵察です!」
「はぁ」
「ジャポン人はおとなしそうな顔をして、その腹に秘める性への情熱はすさまじいものがあると聞きます」
「まぁ、らしいですね」
「ですから! ありとあらゆる風俗店を巡って、この国の実態を探ってきていただきたいのです!」
「……仮にも自らの伴侶に、どうして風俗体験レポートをあげなくてはならないのでしょうか」
「やぁん、誰よりも美しい愛しの我が伴侶だなんてそんな…… テレちゃいます」
「そこまでは言ってません」
てれてれと身をよじって、気恥ずかしさを発散して。
本音を言えば、私自身で実地の空気を感じてみたいのですが、やはり女の身で殿方の楽園に赴いて空気を悪くしてしまうのも心外ですからね。
ここは執事くんにお任せすることにいたします。
さて、一通りコミカルな流れは済ませましたので、ここでひとつ真面目な話を、少々語らせてくださいな。
「……True END。 "俺"が言っていたでしょう? それを目指す、という話なのです」
何か言い掛けた執事くんとメイド長を目で制して、続けます。
「ジャンルを変えてしまいましょう。 この物語は、硬派でダークファンタジーな能力バトルものではありません。 もっと単純でミーハーな、ほのぼの異世界立身出世ものであると、考え直します」
それくらい気楽にいきましょう。
「そして目指すは大往生。 山あり谷あり、なんだかんだで栄華を極めて、多くの子孫に囲まれて成功を胸に老衰を迎える」
だれもが幸せなエンディングを迎えましょう。
「福利厚生たっぷりな事業を成功させて、関係者全てを幸せにして、山ほどの寄付で多くの恵まれない人々を救って、たくさんの人から別れを惜しまれながら、笑って命を送ってもらう」
決して遠くではなく、この現実を、足元を見つめて、夢を紡ぎます。
「そんな幸せの終点でこの人生を飾れるよう、今日をまた始めようとしているのです」
難しく言いましたが、結局の所を大きく声に出すならば。
「目標は大きく! 私は玄孫100人に直接指導の下、束縛の秘奥と喜びを受け継いで欲しいのです!」
「それはやめた方がいいと思います」
「殺生な!」
よよよ、と泣き崩れるふりをして、二人をみれば、どちらも微笑みで返してくれました。
一瞬、もうこの幸せで十分なのでは、なんて思いかけましたが……
「私、がんばりますから。 ……執事くん、メイド長、これからもご協力いただけますか?」
「もちろん、老い先短いこの老婆でよろしければ」
「……ぼくもまぁ、そういうことなら手伝うのもやぶさかではありませんね」
「うへへ」
だらしない笑いをこらえずに漏らしてみせ、さらに二人の笑いを誘います。
……ねぇ、"俺"、聞こえていますか?
あなたの人格とオーラの宿ったぱんつ、荷物の一番底に追いやられて、窮屈には思ってはいませんか?
あなたの理想はもっと劇的な最期なのでしょうが、この辺を妥協点にしてはいただけませんか?
次の世があるかなんて、終わってみなければ解りません。
私は開き直って今世を全力で楽しむことに決めました。
背負った罪を覆すだけの善行を積んでいこうと決めました。
「……だから、ね?」
「どうかいたしましたか?お嬢様」
「いえ、なんでもありません」
あなたのことは憎たらしいですが、やっぱり"俺"は"わたし"でもありますから、いつかまた、お話できるといいですね。
――適当なお人形にそのぱんつを被せたら、案外しゃべりだしたりして。
そんなさまを想像して、頭に浮かんだ絵面に苦笑して。
「さぁ行きましょう! まずはこの街で一番の荒縄を探しに!」
「いやいやいやまずは宿を、生活の拠点を」
「あ、執事くんはしばらく夜のお店を梯子してどうにかしてくださいね」
「それはちょっとスパルタがすぎるのでは!?」
「くっくっ……」
「あ、メイド長が声を出して笑ってます! え、珍しい!」
「笑ってないで少しくらい僕のこと助けていただきたいのですが!」
わーわーぎゃーぎゃーと騒ぎ立て、目立つ異邦人として注目をうけながら、往来を練り歩きます。
ああ楽しいな。 この先の未知へのちょっとした不安なんて吹き飛んでしまいそう。
わたしの未来、きっと今までとはまた違った苦難や悲痛に見舞われることもあるかもしれません。
それでも最期につかむのは、なによりも得難い私だけの最高のエンディングであると信じて。
「わたしたちの物語はまだ、始まったばかり、です!」
こんな打ち切りの定型のような文言を胸に、これからの世を絶対に、絶対に謳歌してやるのですから!
高い高い、初めてみる異国の空に、握った縄を突き上げました。
おしまい
ここまで読んでいただけまして、そして多くの評価、お気に入り登録をいただけまして、本当に嬉しいです。
ご愛読、ありがとうございました。