だいじなだいじな、わたしのぱんつ   作:がくらん

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第7話 虹の根元へ

 とある廃ビル、長年放置されて立てつけの悪くなった扉を、軽い体当たりで開いてまずは一言……

 

「……ただいま戻りましたー」

 

 その奥に広がっているのは廃材の高く積まれた大きなお部屋、すなわちわたしたち幻影旅団の臨時アジトです。

 ぱっと見る限り、ここにいたのはパクノダさんとコルトピさんと団長の三人だけでした。

 

「もー、他のみなさんはどこに行ったのですか? ちょっと文句言ってやらないといけないのです」

「あら? あなたウボォーと一緒にさらわれたんじゃないの?」

「え? さらわれた?」

 

 代表してパクノダさんが応えてくれましたが、何やら聞き捨てならない言葉が出てきました。

 

「えぇ、陰獣と戦ったあと鎖を使う能力者に連れ去られたそうよ? あなたに関しては何も言っていなかったからてっきり一緒だとおもってたわ」

「……わたしはさらわれてなんかいません」

「そうなの? それとシャル達なら、そのさらわれたウボォーを助けにいってるわね」

「…………」

 

 それにしてもうわー、シャルさん、わたしの存在は完全無視ですかー……

 もしかして素で忘れていたりしませんよね?

 確かにウボォーさんを誘拐された緊急事態ですが、一言くらい気にしてくれたっていいと思うのですよ。

 それはそうとして、鎖の“念”といえばクラピカくんでしょうか?

 

「ところであなた、ウボォーと一緒じゃなかったなら今までどこに行ってたのよ」

「えっと、ウボォーさんがさらわれる直前に偶然みなさんとはぐれたのですが…… え、あー、そのあとはその…………ぃご、です。」

「? ごめんなさい、最後のあたり聞こえなかったわ」

「だから…… 迷子、です」

 

 わたしの告白を聞いたパクノダさんは、ぽかんとで固まってしまいました。

 恥ずかしくって、顔があついです。

 

「……迷子って、シャル達が一度戻ってきたのですら4時間近く前よ? その間ずっと?」

「……だって、だって仕方ないじゃないですか! 車の運転はできないので町はずれの荒野からは歩いて帰って! お金も持っていないのでタクシーも拾えず! 移動の足はみなさんに頼っていたのでアジトのちゃんとした場所も覚えていない! こんな廃ビルが意外と都心部に近いこんな場所にあるなんて……! もっと離れたところかと思って歩き回って! 歩き回って! ……はぁ、はぁ」

「ちょ、ちょっと、落ち着きなさい」

 

 一度にまくし立てて、い、息が続きません……。

 もっと言ってやりたいことがたくさん、ホントにたくさんありますが、パクノダさんに言っても仕方がないことはわかっています。

 

 それにしても本当に大変でした。

 時間を知るすべはなかったのでひたすらにさまよった記憶しかありませんが、4時間って……尋常じゃありませんね……

 いざ明確な時間を知らされると疲れがどっと押し寄せてきました。

 迎えに来てくれるかも、という淡い期待を持ってあの岩山で結構な時間を待っていたので、4時間全てさまよっていたわけではないとはいえ、です……

 

「ちなみにシャルさんたち、あとどれくらいで戻ってきますかね?」

「さぁ? でも出て行ってから結構立つしそろそろじゃない?」

 

 そーですかー、と返事をしながら今後のことを考えます。

 正確なタイミングやなりゆきは覚えていないけれど、原作で言うところのこのヨークシン編の間にウボォーさんはクラピカくんと戦って、負けます。

 そしてクラピカくんにわたしの夢をかなえて(殺して)もらうためには、その戦いの場に居合わせるのが一番手っ取り早いと考えています。

 だからヨークシンでは一時たりともウボォーさんから離れないようにしようと思っていたのですが、こんな初めの頃からつまずいてしまいました。

 でもその決闘はもっと終盤だった気がするようなしないような……

 

 とりあえず、みなさんがかえってくるのを待つしかなさそうですね。

 そしたら今度こそウボォーさんから離れないように気をつけましょう。

 また投げられたりしたらたまりませんし、いっそわたしの縄をウボォーさんの腕にくくってやりますか。

 

 と、なんだか外からがやがやと話し声が聞こえてきました。

 

「――おう、団長! 今戻ったぜ!」

「あっ、フィンクスさん、それにみなさんもおかえりなさい。」

「あれ? お前なんでいるの?」

「ちょ、それはいくらなんでもひどいです!」

 

 ウボォーさん奪回部隊が戻ってきました。

 でも、肝心のウボォーさんがいないようですが、どうしたのでしょう?

 あ、シャルさんもいない。

 それに気づいた団長が怪訝そうに尋ねます。

 

「マチ、ウボォーはどうした」

「あぁ、ウボォーなら助けた後すぐに鎖野郎とケリを付けるって言って出てったよ。 あとそれにシャルもついてった。 大したことじゃないから好きにさせといたけど、問題あるかい?」

「いや、いい。 お前たち良くやってくれた。 あとは適当に休んでくれ」

 

 え? 話を聞く限りウボォーさんがクラピカくんの所にお礼参りに行ったってことですか?

 ま、まずいです、決闘イベントがこんなに早かったなんて!

 

「は、はい! わたしもウボォーさんと一緒に戦ってきたいです!!」

「……そうか、お前がいたか。 まぁいい、行ってこい」

「やった! ねぇマチさん、ウボォーさん達はどこにいるのかわかりますか?」

「ん、いまシャルの携帯にかけてみるからちょっと待ってな」

「わかりました!」

 

 よし、団長の了承は得ました。

 少し焦りもしましたが気づけばゴールまでもう少し、さぁもうひと踏ん張りがんばらなきゃですね。

 

「おい、きいたぞ?」

「ん? なんですか、フィンクスさん」

「4時間も迷子になってたんだって? はっ、お前やっぱアホだなぁ」

「なっ!」

 

 がっはっはとフィンクスさんが笑いながら話しかけてきました。

 アイコンタクト、パクノダさんへ…… 迷子のこと、話したのですか? ……ついっと目をそらされてしまいました。

 フィンクスさんはちょくちょく人をからかってくるので教えたくなかったのに!

 

「お前1人でいったらまた迷子になるんじゃねぇか?」

「もう、失礼ですね! そんなことありません!」

 

 それからもフィンクスさんのからかいは続き、そこに話を聞きつけた一部の人たちも入れて、マチさんの電話が終わるまでみんなしてわたしをネタにわいわいと談笑してくださいました。

 もう、悔しいやら恥ずかしいやら楽しいやら大変でしたよ……

 

 ―――でも後から気が付いたのですが、わたしがこの人たちと話すのは、この時が最後、だったのですよね―――

 

 

―――――――――

 

 

「シャルさーん、ウボォーさんは?」

「ウボォーならもういったよ」

「え」

 

 シャルさんは、とあるボロアパートの一室にいました。

 なんでも鎖野郎ことクラピカくんの居場所を特定するためにPCが必要だったので、適当なところに押し入ったそうです。

 かわいそうなことにここの元の住人は玄関あたりに転がって、すでに息を引き取っていました。

 ご愁傷様です。

 

「安心しなよ、君が来るのはわかってたからね。 やりあう場所の候補を幾つかここで決めておいてもらったから、そこを全部回ればどっかにはいると思うよ」

「おぉさすがシャルさん。 抜け目はありませんね!」

「……まぁね」

 

 カタカタとPCを操作して、簡単な地図をプリントアウトしてくれました。

 それを受け取ってそれではいざ出陣です!

 

「ちょっと、いいかな」

「? なんです?」

 

 意気揚々と出ようとしていたわたしに、なんだか暗い顔をしたシャルさんが近づいてきます。

 

「いや、なんだか妙な胸騒ぎがしてね。 ウボォーに限ってやられるようなことはないだろうけど、少し不安なんだ。 だから、さ……」

「……え?」

 

 シャルさんはトンとわたしの頭に手を置き、少しかがんで目線を合わせてから続けます。

 

「君には期待してる。 もし万が一のことがあったら、ウボォーのこと、頼んでもいいかな」

「…………」

 

 ……シャルさんから初めてもらった信頼の言葉に、思わず固まってしまいました。

 旅団に入って早いく年、絶対にわたしに対する警戒を解くことがなかったシャルさんが、わたしに大切な仲間を預けるようなことをしています。

 今、この人はどのような気持ちなのでしょうか。

 疑問に思いますが、わたしには人の心は読めません。

 

「そんなもの、おうと応えるまでもありません。 そう、思いませんか?」

「……そうだね。 じゃあ、がんばって」

「もちろんです!」

 

 そしてわたしは声援を背中に受けて、アパートの窓から深夜の街に繰り出します。

 

 ……人の気持ちは読むことのできないわたしですが、自身の心ならさすがにわかります。

 今このときわたしの心は、ひどく冷めていました。

 シャルさんも思いのほか、頭の悪い方だったのかもしれません。

 シャルさんが不安に感じるこの大一番でわたしを頼るだなんて、ほんとうにバカげています。

 冷めた心を抱えながら、教えられた町はずれの荒野に向かいます。

 この先で、クラピカくんはウボォーさんと戦っていることでしょう。

 

 そこはっきっと、わたしにとっての虹の根元。

 すばらしい宝物を目の前にして、こちらを見送っているであろう目を、振り返ることはしないのです。

 

 

――――――――

 

 

 わたしが目的の場所に着いた時、もうすでに二人の戦闘は始まっていました。

 それを岩山の陰から、こっそりと伺います。

 わたしは”絶”が苦手ですが、目の前の相手だけに集中している二人がわたしに気付く様子はありません。

 

 戦況はほぼ互角、それかウボォーさんよりでしょうか。

 クラピカくんは強力な鎖でウボォーさんを牽制し、ウボォーさんはそれを避けつつクラピカくんに力強い拳を叩きこみます。

 しかし、ウヴォーさんの拳も防がれて決定打にはならず、しかも防がれた際に砕けたはずのクラピカくんの腕は、ふと気がつけば無傷に巻き戻っています。

 

 牽制、避ける、衝突、防ぐ。

 

 両者が次第に本気になり、一撃一撃の威力が上がっていきつつも、均衡を保ったままひたすらに続くこの闘争。

 一見するだけならばどちらが勝つかは紙一重なこの状況ですが、わたしはクラピカくんが結果的に勝利を収めることを知っています。

 だからわたしはこのまま見学を続けて、決着がついてから、ウボォーさんの仇! とでも叫びつつクラピカくんに殴りかかればいい。

 強敵との激闘直後の気の立っているクラピカくん相手に、能力なしで殴りかかればきっとうまくいくはずです。

 

―――だからウボォーギン、お前はここで死ね。

 

「あ、ウボォーさんつかまった」

 

 どちらかがおこした目くらましの土煙が晴れたとき、そこにいたのは鎖で拘束されるウボォーさんでした。

 どうやら、捕獲されたウボォーさんは強制的に”絶”状態になっているようで、鎖から逃れることは難しそうです。

 あぁ、これは詰みましたね。

 ほらやっぱりクラピカくんが勝ちました。

 

「とと、そうとわかればわたしも能力を解いておかねばいけません」

 

 もうこうなってしまえば、わたしの出番まであまり時間もありません。

 クラピカくんがウボォーさん相手に問答をしている間に、自らを締め付ける荒縄を解いていきます。

 やろうと思えば一瞬で解けますが、最後くらいゆっくりと楽しみながら縄を解いていくのが風情というものです。

 

 死刑台に上る直前には皆、刹那の自由を得られるのです。

 

「……よし、これでさい―――っあ、ああぁーーーー!!」

 

 ―――え?

 最後に手首から縄を抜いた瞬間、わたしの口から意図しない大きな声が飛び出して、あたりに響き渡りました。

 

 え?な、体が、勝手に!!?

 

「あ、あ、あああああ、ああああああぁあぁああぁーーー!」

 

 わたしの体はわたしの意思を完全に無視して唐突に岩陰を飛び出し、奇声をあげながら全力で捕らえられたウボォーギンのもとへ突進します。

 そのまま自分でも驚くほどの速さで二人に迫ると、今まさにクラピカからウボォーギンの心臓へと放たれようとしていた小指の鎖を掴み取り、状況の変化にひるんだクラピカを殴りとばしました。

 

「っぐ! な、なんだお前は!」

「うるさい! だまってろ!!」

 

 クラピカはかろうじて急所への打撃は防ぎましたが、復讐を確信した瞬間に現れた新手を前に、戸惑いを隠せない様子です。

 わたしの口から出る罵倒を聞き、警戒したまま様子をうかがっています。

 そして、その後もわたしの体は、のどは、わたしの意思をおいてけぼりに動き続けます。

 

「よかった。 よかったよウボォー…… 間に合わないかと思った…… 間に合ってよかった……」

「……? あいつじゃねェな お前、シャルか?」

「……うん、そう。 こいつじゃない、オレだ、シャルナークだ。 くそ! こいつは、くそ!!」

 

 …………シャル、ナーク。

 

 操作系能力者。

 それにわたしの体の自由が奪われている。

 相手に特別なアンテナを刺すことでその体の自由を奪う能力を持つ旅団員。

 いつアンテナを刺したかなんて決まってる。

 

「こいつは裏切り者だ、ウボォー。 こいつはこの戦闘をずっと隠れて見てたんだ、ウボォーのことを見殺しにしようとしてたんだ……!」

「……・・・・・・」

「あぶなかった。 こいつの能力のせいで操作がはねつけられてたんだ……!もう少しで間に合わないところだった。 なんでこいつが能力を解いたのかは知らないけど、本当に危なかった……!」

「そうか」

 

 ここに向かう直前だ、アンテナを刺されたのは。

 ウボォーギンのもとに向かうわたしに声をかけるふりをして、信頼しているように見せかけて、頭に触れたあのときだ。

 

 ふざけるな。

 

「くそ! こいつは殺す。 あとで苦しめながら殺してやる! 拷問はフェイタンに任せ……、ってウボォー? なにしてんの?」

「いや、こいつはオレが始末する」

「え、ちょ、まってウボォー、頭にはアンテ――― っつ、ぅ、が……」

 

 ぺきっというアンテナの折れる音がどこからか聞こえてきたかと思うと、体の自由と、さりげなく感じていなかった痛覚がよみがえる。

 シャルナークがわたしの口を動かしている途中で、ウボォーギンはわたしの頭をその大きな手でわしづかみにしていた。

 ウボォーギンはそのまま、片手でわたしの体を持ち上げた。

 頭蓋のきしむ音が頭に響く。万力のように締め付けられて意識が飛びそうだ。

 

「が、や、めろ……。 ……はな……せ」

「あん? 戻ったのか? まぁいい、お前は俺が殺してやる。 それがお前を拾ってきたオレのケジメだ」

「……っな!」

 

 おい、おい、まてふざけるな!

 わたしは殺されるのか!? ここで!? 殺されるのか!?

 この下衆の腐った手であっけなく握りつぶされるだと!?

 ふざけるな。 ふざけるなふざけるなふざけるな!!

 俺を殺していいのは、クラピカのようなヒーローだけだ。

 俺が終わるには、復讐によって罪を裁かれなきゃいけないんだ!

 こいつに、こいつらなんかに殺されて、犯罪者の哀れな一被害者になんてなってたまるか!!

 

「……おい!」

「あ?」

 

 きしむ痛みを無理やり抑えつけて、怒鳴りつける。

 目をあわせて、最後に一言いわせろという意思を伝える。

 

 意図を正しく理解したらしいウボォーギンは加える力を少し緩めた。 ……馬鹿が。

 

「もう5年も前のことです。 あの地獄のなかで、あなたはわたしをさらいましたよね。

いまでも鮮明に覚えています。 多くの仲間が殺されました」

「あぁ」

 

 この状況は半ば詰んでいる。

 

「それから無理やり、あなた達の仕事につきあわされてきました。 わたしのこの珍しい力でもって」

「あぁ」

 

 わたしの力ではもう、この手を振り払うことはできない。

 

「わたしは一族の唯一の生き残りです。 だから一族の血を残すために今まで耐えてきました」

「あ?」

 

 ウボォーギンが怪訝な顔を向ける。こいつは何を言っているのか? と。

 

「それも今日までというのも侘しいですけど、まぁあきらめましょう。 ……だけど、いいのですか?」

「……」

 

 そんなものかまいやしない。 この短い言葉の中に、布石は積んだ。

 あとは決定的な言葉を放つだけ。

 

「これじゃ頭蓋と一緒に潰れます。 旅団のあなた達の大好きな、わたしの、緋の目が!!」

「……あ?」

「……っ!!! その手を離せ!」

 

 わたしの最後の言葉が響いた直後、様子見に徹して体力を回復していたクラピカが動いた。

 クラピカに俺がクルタ族の生き残りと誤認させる。

 事態が思うように動いたことに思わず口の端が上がるのが分かる。

 

「これ以上、私の同胞を殺させたりはしない!」

「なっ、なんだいきなり!」

 

 クラピカはわたしをつかむウボォーギンの腕めがけて中指からのびる鎖をふるう。

 それをウボォーギンはすんでのところで避けるが、俺から手を離してしまった。

 結果崩れ落ちそうになった俺の体は、駆け付けたクラピカに抱えられウボォーギンから距離をとった。

 

「……無事か?」

「…………」

 

 クラピカはウボォーギンを警戒しながら、両手で顔をかくした俺に声をかけた。

 まだだ、まだ終わっていない。

 わたしの勝利条件はクラピカに殺してもらうこと。

 ウボォーギンに殺されてしまう前に、クラピカに命を絶ってもらうこと。

 

 だから、ここからさらにたたみかける。

 

「……ふ、ふふ」

「……どうし―― ぐっ!」

 

 とりあえず目の前のクラピカの顔面に頭突きをお見舞いしてやる。

 ひるんでいる間に後ろに下がった。

 クラピカともウボォーギンとも同程度の距離が開くように。

 あぁクラピカ、せっかくの美系が鼻血のせいで台無しじゃないか。

 

「な、なにを……?」

「ふ、ふふ、ははは! まさかこんなにうまくいくとは思いませんでしたぁ!」

「……っ!」

 

 クラピカがわたしの目を見て、驚愕の表情を浮かべている。

 そこにはなんの変哲もない、ふつうの黒い瞳孔が踊っている。

 

「あはは、気づいちゃいましたぁ? そう! わたしは緋の目なんて持っていないし、

ましてやクルタ族なんて弱小マイナー民族の生き残りでもありません! 勘違い、恥ずかしいですねぇ!」

「っく!」

「もうあなたってホントに馬鹿なんですねぇ。 緋の目、緋の目、緋の目、緋の目って、そんなに赤い目が好きならうさぎさんでもプレゼントしてあげましょうかぁ?」

 

 クラピカはみるみるうちに憤怒の形相をみせ、その目だけでなく顔全体を真っ赤に染める。

 そうだ、もっと怒れ。

 わたしはお前を全力で煽る。 焚きつける。 挑発する。

 だから早くその怒りをわたしにぶつけてこい!

 

「そんなんだから、わたしみたいなのに利用されるのですよぉ? まったく、そもそもあなた以外に生き残りなんかいるわけないじゃないですかぁ。 なんせ、わたしが全部殺したのですもの!」

「な、あああぁぁぁ!」

 

 よし、かかった! クラピカが特大のオーラを込めた拳を振り上げる。

 そのままクラピカが怒りにまかせて近づいてくるのを、わたしは不遜な笑みを浮かべつつ自然体で受け止め―――

 

「――てめぇの相手はオレだろうが!!」

「なっ!」

「……え?」

 

 え? な、ウボォーギンがクラピカに殴りかかった!?

 完全に意識がわたしに向いていたクラピカは、何とか防いだものの踏ん張ることができず、荒野の大地を転がっていく。

 

「……な、なんで?」

「お前はオレが殺す。オレが殺さなけりゃなんねぇ。 あいつの片づけが終わるまでおとなしくしてろよ」

「―――」

 

 絶句。

 ウボォーギン、お前はまだわたしの邪魔をするのか。

 そしてウボォーギンはさらにクラピカへと追撃に向かう。

 そして再度始まるウボォーギンvs.クラピカの構図だが、明らかにクラピカの動きが疲労で鈍くなっている。

 このままでは早いうちにクラピカが負ける。 殺される。

 

「……っ! 助けなきゃ……!」

 

 俺を殺す前に、そんな野生児に殺されてくれるなよ・・・・・・!

 焦燥に駆られたわたしはとにかく立ち上がり、攻防を続ける二人に走り寄る。

 走りながらもさらに、取り出した縄で丁寧に上半身を拘束していく。

 

「おぅら!」

「……っく!」

 

 クラピカがウボォーギンの拳を避けきれずに体勢を崩した。

 ここぞとばかりにウボォーギンが信じられないほどのオーラを集めるその腕に集めていく。

 

まずい、[ 超破壊拳(ビックバンインパクト) ]がくる!

 

 懐から手錠もとりだす。

 倒れそうなクラピカの胴をウボォーギンはアッパーの形で狙っている。

 わたしはそこに割り入ろうとがむしゃらに飛び込んだ。

 これを、受けきれば、きっと、わたしの、勝ち!

 

「――これで最後だ! [ 超破壊拳(ビックバンインパクト) ]!」

「……っ、[ 束縛された安全地帯(レディースシェルター) ]!」

「うっ、ぐぁ!!」

 

―――ドンっ!!

 

 [ 超破壊拳(ビックバンインパクト) ]は、クラピカを押しのけたわたしの胸をとらえた。

 その時発せられた音はとてもじゃないがヒトの体同士がぶつかったときに出ていい音ではないように聞こえた。

 否、そう感じる暇もなくわたしの意識はふっと短い眠りについた。

 

 

 そうして、この(シーン)の幕は降りる―――。

 

 

―――――――

 

 

 ……目が覚めるとビュンビュンと自身が風を切っている音が絶え間なく聞こえました。

 あたりを見回すと、雲の切れ間から月と星、遠く眼下には都市部の夜景、ただただ広い夜空のど真ん中。

 あまりに強力な[ 超破壊拳(ビックバンインパクト) ]をもろにくらったわたしの体は、アッパー気味に打ち上げられたこともあり、そのまま遙か宙へと吹き飛ばされました。

 そしてそのまま、縄が後方に尾を引きながらも、高く早く、お空を飛んでいます。

 

 ・・・・・・着地前に意識が戻ってよかったですね。

 

 先刻ウボォーギンに投げられた時のように、いやむしろ今の方がずっと早く遠くへ風を切って飛んでいるようです。

 

 そこでふと思い出します。

 クラピカをかばうまでは本当に時間が引き延ばされたように感じました。

 そしてその長い長い時間の中でわたしは一つの奇策を講じたのです。

 この奇策が成っていれば、クラピカもろともあの場を逃れることができるはずでした。

 

 わたしは自身の後ろでたなびくロープの先を確認します。

 縄の先には手錠がくくられ、その手錠にクラピカの腕がはまっていました。

 腕に引っ張られたクラピカくん自身もちゃんと付いてます。

 さらに後ろを見ても、すでにウボォーさんは見えませんでした。

 

 よかった、です。 成功しましたね。

 

 [ 超破壊拳(ビックバンインパクト) ]にこめられたオーラをみて、もしかしてまた空を飛ぶ羽目になるかもしれないと感じたわたしは、とっさにそれを逃走手段にすることにしました。

 わたしと疲弊したクラピカくんじゃウボォーさんには到底かなわないと感じたのもあります。

 だからあの一瞬のなかで、わたしを縛る縄とつながった手錠を、クラピカくんにはめたのです。

 

 ……縄や手錠はわたしの能力の支配下なのでどんな威力でも壊れることはありませんが、クラピカくんの腕が引きちぎれないかだけが心配でした。

 みるかぎり意識もありそうですし、大丈夫なようですね。

 

 ……本当によかったです。

 

 わたしたちはまだまだ、中空を飛び続けます。

 っと、今気がついたのですが、着地はどうしましょう……?

 わたしは能力があればなんとかなるのですが、クラピカくんは……最悪ミンチ?

 

 うわ、まずい、……けどまぁクラピカくんのことですから自分で何とかしてくれるはず……?

 たぶん、きっと、おそらく……

 

 ちょっと不安になってきましたね。

 あぁそれならいっそ今のうちに言いたいことを言っておいてしまいましょう。

 

「クラピカくーん? きこえますー?」

「……目覚めたか」

「えぇ今さっき。 ところでちょっとお願いがあるのですよ」

「なんだ、この状況のことなら私にはどうにもできないぞ」

「……あははー。 まぁそれは後で考えることとして……」

 

 もうどうにでもなれと言った具合の雰囲気をしたクラピカくんの、その緋くない目を見つめてわたしは言います。

 

「ちょっと今すぐ、わたしのことを―――」

 

 ―――殺してみてはくれませんか?

 

 ちょっと、このタイミングは、図々しかったですかね?

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