豪勢な館の裏庭。唸るモーター音、重い金属音が響く巨大な闘技場
その中で、荒々しい赤い稲妻のペイントがはいった銀色の甲冑を纏った巨人と、白と黒で統一され落ち着いた色合いの、まるでメイドのような巨人が剣を交えていた
巨大な刀身が太陽の光をキラキラと反射し、2体の戦いを美しく魅せる
甲冑の巨人は赤く光る刃を持つ片刃の銃剣を振るい、メイドの巨人は蛇の模様が入った大型の盾で塞ぎ、激しい攻防をしている
その様子を観戦席から真剣な眼差しを送る桃色の少女が1人。
「有我様!シエルナさん!そろそろお茶にしましょう!もうすぐ3時ですよ!」
彼女は立ち上がると、巨人に向かって大声で叫ぶ
彼女の声に気づいた巨人達はぴたりと動きを止めると、剣を納めそれぞれ反対側から退場した
色鮮やかな花が飾る庭を眺めながら紅茶を飲む3人
銀髪に真っ白いコートを羽織る少年、大和有我。先の少女、わずか16歳にしてこの館の当主、リーチェ・スリン・アーテ。そして、リーチェに仕える短い金髪に青い瞳のメイド、シエルナ
「やっぱり、もの凄く強いですね。流石は上位で騎士試験に合格した有我様。おかげで『X-Ⅰ(クロス-アイ)』のデータ収集は順調です」
「X-Ⅰ…新機構を組み込んだクロスフレームの試験機。フレームを伸縮させて騎士一人一人に合わせた体格に調整可能。これが男女問わずに出来ると言うから恐ろしい。これが完成すれば三大魔動甲冑は更新されるだろうな」
「あくまで完成すれば。ですがね。男女両方に合わせることは出来ますが個人レベルの微調整はまだ出来ません。現実的な理想は『X-Ⅱ(クロス-ツー)』でそれを成し『X-Ⅲ』で量産化ですね。もっと欲張るとX-Ⅱで量産化したいですが流石に夢物語すぎます」
「なるほど。ひとつ気になるんだがこんないい機体、どこに売るつもりだ?この国に売ったパーシバルはまだまだ現役だ。少なくとも卒業するまでは他の国には売らせてもらえないぞ」
「私の私兵用ですよ。今はパーシバルを使って頂いてますが、もしものことがあっては困りますから。武器を売る時はそれ以上の武器がなければ……ですよ」
「おぉ…怖い怖い」
仲良く話す2人を不機嫌そうにジーッと見つめるシエルナ
「もちろん、シエルナさんのデータも役に立ってますよ。雌型はシエルナさん無しでは作れませんから。いつも頼りにしてますよ」
そう言ってシエルナの手を握り微笑むリーチェ。いきなり手を握られた彼女は一瞬で顔を真っ赤に染め、
「は、ひゃい…」
と弱々しく返事をするしかなかった
「そうだ!これを有我様にと思ってたんでした」
リーチェに渡された一通の手紙
丁寧に閉じられた封筒を開くとそこには、
『大和有我殿
この依頼は、先の騎士試験で優秀な結果を残した貴公の腕を見込んでのことである。
命ずるは、サーヴァントの護衛。
1ヶ月後、フェオ城にて行われるサーヴァントの主従式で公開される新型サーヴァントを迎えに行って欲しい。
期限は1週間。
移動中、もしサーヴァントに何らかの危害が加えられた場合、最悪死を覚悟して欲しい。
詳細はもう1枚の紙に書いてある。よく目を通すように。
フェオ王国サーヴァント省主従式担当委員会』
「凄いじゃないですか。いきなりサーヴァントの護衛を頼まれるだなんて!王国に期待されてる証拠ですよ!」
有我の肩から顔を出し、手紙を覗き読みしていたリーチェはとても嬉しそうに笑う
「そうなのか?あまり実感湧かないもんだが……そういえば俺宛にお披露目会の招待状が届いてたが、リーチェには届かなかったのか?」
「はい。サーヴァントは1人しか持てないので、私はシエルナさんがいますから招待されないんですよ。まぁ、私は招待されなくても行けるんですけどねぇ」
「あぁ、そういえばそうだったな」
苦笑するリーチェを見て、有我もまた苦笑する
「にしても、地図で見ると遠いな」
「でも、帰りはキャリーに乗りますから多少は楽ですし」
「だとしても戻って来るのに2、3日かかるぞ。この距離は。オマケに行きの方法は書いてないし、今までどうしてたんだ?」
詳細を書いた紙にはご丁寧に地図も描かれているが、とても数日で行ける距離ではない
「いつもなら発表前に近くまでに来てるのですが……どうしたんでしょうか?シエルナさん。何か知ってます?」
しばし考えて、シエルナは口を開く
「……思いつくものとしては、完成が遅れたのではないでしょうか?だから途中まで護衛する騎士の予定が取れなかったのでは?」
「なるほど…」
彼女の意見を聞いて頷くリーチェ
「理由は後でいい。今はどうやって行くかが問題だ」
「あ、それならアレを使ってください。ちょうど試作品が完成したんですよ」
そう言うと彼女はテーブルを立ち、格納庫へと向かった。
それに付属し、有我とシエルナも続く
闘技場に直結する格納庫では3機の魔動甲冑『パーシバル』と2機のX-Ⅰが管理されている
パーシバルの内2機は先程まで闘技場で闘っていたものと同様のカラーリングとマーキングが施されている。一機は予備機だろうか。全身が白一色で何のマークも付いていない。とてもシンプルな外観だ
そして、パーシバルとは別に管理されている物が1つ。それは数年前にリーチェの父が偶然発見したもの。かなり大型のエンジンらしいが、古代文明の産物であること以外詳細がほとんど分かっていない
王国に報告はしたらしいが、詳細が分からない以上危険がないと言いきれず、この家で解析、管理することになったらしい
要するに『何があるか分からんけど貴重な物だから任せた!責任はそっちでよろ!』
そんな格納庫の一室に入ると、リーチェの言う『あれ』が目に飛び込んで来る
スタイリッシュなボディーに前後に並ぶ細い2本のタイヤ。それはまさに、我々の世界で言うバイクそのものだ
「なんじゃこりゃ?」
「お嬢様、これは何でしょうか?」
が、この世界にバイクなんてあるわけもなく、見せられた2人は首を傾げるしかない
「あれ?言ってませんでしたっけ?」
見せた本人も首を傾げる
「うん。これは聞いてないな」
「あちゃ〜、まぁいいか。ではこの場で説明します!」
なんとも軽い言葉が飛び出したが、周りはいつものことなのか2人は一切気にしない
「これは簡単に言うと、とにかく小回りとスピードを重視したキャリーです。まず見て分かる通りこれは人1人か2人しか乗れません。あと、荷物も全然積めません。さらに、タイヤを2本にし、ボディーも最小限に抑えることで空気抵抗も減らしました。そのおかげで、最高時速は約600k!スピードに定評のある小型キャリーの倍以上です!どうです。凄いでしょう!」
と、自信満々に話すリーチェ。2人は思わず拍手を送っていた
「流石はお嬢様、とても素晴らしい発明です」
キラキラと目を輝かせ、賞賛の声を送るシエルナ
「おぉ…」
有我は言葉も出ないといった感じだ
「所でお嬢様、こちらは何という名前でしょうか?」
「『ころころ号』です」
「「………」」
まさかすぎる名前に2人の脳は停止した
「ふっふっふ。あまりに素晴らしい名前に絶句してしまいますか。いえいえ、無理もありません。なんせ私自身もこの名前を思い付いた時は感動の涙を流しましたから」
一方の本人は謎に満足気である。この自身はどこから湧いてくるのだろうか。それは誰にも分からない
2人は脳の活動を再開するとリーチェに背を向け、聞こえないように小声で会話する
「なぁ、お前の主のネーミングセンス壊滅的過ぎないか?」
「貴様、お嬢様のお付けになられたお名前を侮辱する気か?それに、お嬢様は貴様の主でもあるんだぞ」
「いやお前もさっき固まってただろ」
「…………なんの事だかさっぱりだ」
「おい待て今の間は何だ」
後ろでリーチェが口を開く
「2人とも、なんの話しをしてるんですか?」
「「いえ、何も」」
真顔で否定する2人の顔をじーっと見つめるリーチェ。怪しまれているのは確かだが特別気にしないのか、すぐに視線をころころ号に戻す。
「とりあえずこれを使えば1日もかからないはずなので、あとは外に出して走らせれば……あ」
顔から血の気がサーっと引いき、冷や汗がドッと吹き出す。まるで何かやらかした様に
「どうした?何か問題でもあるのか?」
固まる背中に問いかける有我。リーチェはゆっくり振り向くと、100点満点の笑みで、
「王国に走行許可取るの忘れてました!」
「しっかりやらかしたな!?」
突然シエルナの胸に顔を埋めるリーチェ
「うえーん、どうしましょう!?今申請しても試作機だし造ったことすら言ってないから審査やら何やらで最低1週間は掛かるんですよ!今から行っても意味無いじゃないですかー!」
自分の胸の中で泣きわめく主に顔を赤くして頬に手を当てニヤニヤしているメイド。百合の華が漂うようだ
「あ、そうだ!」
「んん!」
何か思い付いたらしく、胸に顔を埋めたまま声を上げるリーチェ。シエルナから甘い声が漏れた
「いい方法があるのか?」
「ふっふっふ…ちょっと権力を使うだけですよ…」
不敵な笑みを浮かべ怪しい発言をしながらフガフガしているリーチェ。シエルナは鼻血を流し始めた。だいぶ危ない雰囲気になりつつあるが、それはリーチェが顔を離したことで解除された。
「と、言うことでちょっと行ってきます!」
早速権力を行使すべく、格納庫を飛び出した
「さて俺は……携帯食でも準備するかな」
そう言うと有我は手紙裏の地図を見ながら部屋を出る
残ったシエルナは鼻血を拭いて真顔に戻ると、外に置いて来たティーセットを片付けに行った
「走行許可貰ってきましたー!」
勢いよく玄関の扉を開けるリーチェ
出て行って1時間程で許可を貰って来た。その手には王国の印が描かれた許可証がある
「おかえりなさいませ。お嬢様」
迎えるは、まるでこの時間に帰ってくるのが分かっていたかのように数秒前に待機したシエルナ
主の帰りを完璧に把握する彼女は、まさにメイドの鏡だ
「お荷物、お持ちします」
「ありがとうございます。シエルナさん」
リーチェは出掛け用のバックを持ってくれるシエルナに礼を言う
「いえ」
微笑みながらそう言うシエルナ
2人はころころ号と有我の待つ格納庫へと足を進めた