「シノビ……偵察用のステルス機か。兵器を積んでいないキャリーへの攻撃は条約違反だぞ。そんな馬鹿な事する奴なんて居るはずが…まさか賊か!」
有我の推測を聞いた、恐怖に呑まれたアルルは今度は命乞いを提案する。
「そんな…こ、殺される……大人しく投降しようよ…命だけは助けてくれるかもしれないよ…」
見ると、重い衝撃の中、ソファの上で毛布にくるまり体育座りで肩を抱きしめていた。
「ほら、投降しようよ…ねぇ早く…」
恐怖で支配された震える声でそう言うと、有我に歩み寄り、まるで幼い子供のようにコートの広い袖をつまんで引っ張る。
「ねぇ、ねぇったら──」
「おのれ貴様、何者か!」
突然の大声に震える肩がビクンと跳ね上がった。
涙目で有我の顔を見上げると、今までとは違う、両の目をカッと開き紅い右眼の爬虫類のような瞳孔が怪しく光り、アルルの目を貫いた。
人が変わった様な雰囲気。否、人を超えた様な存在をアルルは見た。
「貴様はサーヴァントだ、そして騎士だ!騎士が主の為ではなく、まして民の為でもなく、ただ我が身1つの為に白旗を上げるなど愚の骨頂!もしそれでも白旗を上げ生き延びたならばその命、恥と知れ!」
「……」
圧倒的な気迫に押され一瞬思考を失う。
「…そんなこと言ったって」
それでも言葉を振り絞る。考えることはなく、ただただ感情に乗せて、自身の気持ちを吐き出す。
「そんなこと言ったって、ボクにはまだ主はいないんだよ!それにボクは騎士である前にサーヴァントだ!主のいないサーヴァントに価値なんて無いんだよ!」
涙が溢れ視界が霞む。だが言葉を紡ぐことはやめない。
「どうせキミも依頼だからボクを守ってるだけだろ、キミだって結局自分の為じゃないか!」
アルルの的をえた言葉を否定せずに受け止め、信念を伝える。
「そうだ。俺も自分の為にお前を守る。だからこそ、命をかけて守ってみせる。自分の為だ、自分の命も惜しくはない」
人に戻って気迫を失い、代わりに悲しみと後悔、そして決意に満ちた声。
「…え?」
てっきり強く言われると思っていたアルルは、視界を遮る涙を拭って有我の顔を真っ直ぐ睨み返す。
先程と変わらない強い表情の中に、声と同じ暗い感情が混ざっているのを見逃さなかった。
「だから俺は、お前が自分自身を賊に差し出すなんてことはさせない。それに、今はまだ価値が無くても、王国で主に出会えば価値も生まれるだろ?安心しろ。必ず王国に送り届けて、お前に価値を与えてやる」
メキメキと金属を引き剥がすような音に怯むことなく、彼は優しい声で想いを伝えると、フッと微笑んで見せた。
アルルは顔がほのかに熱くなるのを感じた。
「わかったよ、仕方ないな…そこまで言われたら、ボクも諦められないじゃないか…」
有我の微笑みに彼女もまた、微笑んで返す。
その瞬間、キャリーの屋根が吹き飛び、青く小さな単眼を持った漆黒の巨人がこちらを見下ろしていた。
「コイツを使って逃げろ!」
そう言って有我が投げた物はアルルの手に収まる。
「?…これはなんの鍵だい?!」
開いた手の中には何かのキーがあった。
「俺が乗ってた魔駆双輪のキーだ!挿せば操縦マニュアルが表示される!倉庫にあるからとっとと行け!」
「でも…」
不安がるアルルに、口角を上げて応えた。
「安心しろ。逃げ切る時間ぐらい稼いでやる」
直後、シノビの左手が有我を叩く。
「それに…」
巻き上がる煙の中から、紅黒い稲妻がシノビの左腕を駆け上がり、龍頭を模した鎧を纏う右腕で銃剣を薙ぐ。
「ダメだ!魔動甲冑の装甲を生身で切るなんて出来ないよ!」
押し当てられた紅く光る刃が装甲を溶断し、人工繊維を切り骨を断つ。
「この程度の相手に殺される程、ヤワな特訓はしちゃいない」
二の腕を切り落とされた衝撃と驚きで後ろに土煙を立てて倒れるシノビ。
巨体が倒れた衝撃が大地にヒビを入れ、木々を揺るがせ、草花を舞い上がらせる。
コクピットのある首元に着地し、切っ先を向けた。
「機体を降りて降伏しろ。さもなくば、このまま串刺しにしてお前を殺す」
数秒の沈黙。開かれたハッチから小さな筒が飛び出た。
「?!」
空に向かって投げられたそれに気を取られた直後、視点がぐらりと星空に映り変わった。
足裏の踏む感覚が消えた。背中を何か抗えないものに掴まれ、その何かに引っ張られる。
一瞬の戸惑い。だが即座に理解して状況を整理した。
(しまった、振り落とされた。シノビの大きさなどから逆算して今の高さは最低約5m。身体が僅かに回転している?何故だ。そうか、右手の剣の重さが引かれているのか。ならば…)
僅か数瞬の間にまとめた思考を全身の筋肉に命令する。
右腕を地面に向けて振り、握り締める銃剣の重みを利用したAMBAC効果で素早く銃口を下に構える。
勢いを残した体の正面に地面を捉え、左手を銃剣に添えてしっかりと狙いを定め、赤黒く光る高圧縮された魔力の弾丸を打ち込んだ。
圧縮された魔力は地面に当たると水風船のように爆発。爆風は有我の落下を優しく受け止めた。
解放された残留魔力の赤黒い煙が晴れると、シノビはどこかへと消えていた。
※投稿ペースを守るため短くなっています