「推薦書?なんでサーヴァント省が俺にそんなものくれるんだ?何かした覚えは無いが」
受け取った封筒を切って中の手紙に目を通す。
最後に書かれた名前は、以前アルルを預けた大臣のものだった。
(そういえば、何か礼がしたいと言っていたが、なるほど、これのことか。あの時感じた嫌悪感は消えないが、まぁ悪い人間では無いのかもな)
手紙を封筒に戻して、リーチェに聞いた。
「ところで、この推薦書はどこに出せばいい?手続きの方法が全く書かれていないから、俺にはどうしようもないぞ」
「では、私にお任せ下さい。こういった手続きは主の仕事ですから」
「悪いな」
推薦書をリーチェに渡す。
「いえいえ、お任せ下さい。そういえば、学科は騎士科でいいですか?」
「俺にそれ以外出来ると思うか?」
快く笑顔で受け取とり、そのまま部屋から出て行った。
「では、また後程」
閉じる扉を見つめる有我。思い出したように、
(新聞取りに行くか)
リーチェに続き部屋を出た。
6日後
有我は1枚の紙を懐にしまって朝から外出している。
フェオ王国の都市ウルブス。政治的中心である他、経済的中心でもあり、大体の物はここで揃うと言われている。
また、目的ごとに東西南北で地域を分割、中心に王城を配置することで効率よく管理、運用を可能にした。
有我が来たのは生活地域で、そこにある『国立ジケル学園』で行われる入学試験に参加する為だ。
受験番号を取得後、学園の中庭で待機しているが、周りに視線を配ると皆一定の強さを持っているのが気配や仕草で分かる。
そして分かることがもう1つ、ほとんどの者が互いに警戒している。
対象的に一部の者は一見警戒をしていない様に見えるが、それは自らの強さに自信がある故か、警戒していない様に見せているかのどちらかだ。
(数はざっと190、3クラスに分かれてそれぞれ10人ずつだから、定員は30人だったか。確実に受かる奴は8人程いるが、それ以外は誰が来るかお楽しみ。お手並み拝見といこうか)
試験は難なく進み、最終試験に入る。
最後の試験は受験者同士の模擬戦だ。
闘技場に移動してランダムで選ばれた相手と3回戦う。対人でどれほど動けるか、対応力や得意不得意などの審査になるため勝敗は関係ない。
ちょっとした体験授業の様なものだ。
共同休憩室でコーヒー片手に有我は思う。
(どんな相手が来るか楽しみだな。勝敗は関係ないと言ってもやはり、勝ちたいものは勝ちたいからな。とはいえ、観戦席の奴らは制服を着ているが先輩か?何やら盛り上がっているが、試験だぞ。そんなに自由に見せていいものなのか?)
そう考えていると1回戦の予鈴が鳴り、コーヒーを飲み干して闘技場へと向かった。
ちなみに騎士科の最終試験はこの学園の名物で、在校生なら誰でも観戦出来る。
単純に楽しむ者、実力を見に来た者、賭けを楽しむ者、男探しや女探しに来た者など理由は三者三様だ。
ちなみに観戦者に値段を盛った飲食物を売る生徒もいる。
2回戦を終えて共同休憩室に入ろうとした時、中から騒がしい声が聞こえてきた。
一瞬入るべきか躊躇したが、他に行くあてもないので仕方なく入る。
どうやらガラの悪い男がナンパしているらしい。他の受験者は周りで嫌なものを見る目をしているが、誰も止めるどころか近寄ろうともしない。
ナンパされている丸眼鏡にボサっとした髪の暗い女子は明らかに嫌がっているが強く言えない様子だ。
対して男の方はローブを羽織り、鋭い目付きに赤みの強い茶色い髪、ギザ歯にお世辞でも穏やかとは言えない口調といういかにもな奴だ。
有我は流石にうるさいなぁと思いながらもコップにコーヒーを注ぎ、近くの空いてる席に座る。
(次の相手はどんな奴だろうな。そろそろ強い奴と戦いたいところだが…)
隣ではナンパがされているが、有我は特別気にするようなことも無くのんびりと暖かいコーヒーを口に運ぶ。
1口飲んでコップをテーブルに置いた時チラッと横を見るとナンパしている男と目が合った。
「あぁ?何見てんだてめぇ」
「別に」
有我は何事もなかったかのようにコーヒーに目を移すが、その行動が男は気に入らなかったらしい。
「おいてめぇ。呑気にコーヒーなんか飲みやがって。すかしてカッコつけてんのかぁ?」
「いや、少しばかりうるさいな。と思っただけだ。俺のことを気にする事はない。勝手にやってろ」
この言葉が本格的に男の怒りを買ってしまった。頬を引き攣らせて言う。
「てめぇ、いい度胸だな。いいだろう…」
壁に付けられた連絡機で試験担当に繋ぐと、
「おい!オレの3回戦の相手、この男にしろ!どうせコイツも3回戦はまだだろう?」
無茶苦茶なことを言い出した。
(そんな要求受け入れられる訳が─)
『了解しました。ダスターさんの3回戦の相手を有我さんに設定します』
(受け入れんのかよ。ん?俺の意思さりげなく無視されてないか?まぁ俺の方ですぐにキャンセルすればいいか)
以外にもすんなりと了承された。有我も多少困惑するが、即座に断れば問題ないと判断した。
『ダスターさんと有我さんの3回戦を開始します。両者、闘技場にすぐ集合して下さい』
「え…」
断る隙など無かったが。
闘技場
闘技場に入って真っ先に有我の目についたのは、先の2戦とは非にならない人数に見られている。
満席と言っても過言では無いほどに埋まった観戦席。眼差しや声援が注がれる中、有我はダスターの待つ中央へと歩みを進める。
銃剣を抜き対峙すると観戦席は静まり返り、充満していた熱気は緊張に変わった。
生徒達が固唾を飲み見守る中、火蓋が切って落とされた。
同時にダスターの姿が目の前に現れ高速の突きが繰り出される。
反射的に刃の腹を当てて軌道を逸らし反撃の回し蹴りを繰り出すが、いつの間にか消えていた。
続いて後ろから斬撃が来るが即座に反応。弾き返し、姿勢が崩れた隙に銃剣を振り下ろすがまた消えた。
手応えはない。視認出来ないほどの速度で躱されたのだ。
だが、単純な力では勝りギリギリ反応も出来る。
だが鍔迫り合いが発生する前に相手が身を引くため力を発揮する時間がない。
(5mも離れればなんとか目で追えるが、どうにかなる速度じゃないな。
これは…持久戦に持ち込めば勝機はあるか?)
互いに決定打の無いまま数分が過ぎ、体力も尽きてきた頃。
(コイツ…なんて野郎だ!この速度を何分も維持している!強すぎる。こんな奴が何で学校に来るんだ?!)
有我に若干の焦りが見え始める。時間が経つほど削られる体力、集中力。
(この速度を封じる手…どうにか止めることが出来れば…)
思考に気を取られた一瞬。ダスターの切っ先が高速で突き出された。
銃剣を盾にして防ぐも力を逸らすことが出来ず、身体が後方に吹き飛ぶ。
「がぁ!」
背中を激痛が、内臓を衝撃が襲った。壁にぶつかった反動で倒れる身体を、剣を杖に支えて耐える。
「どんな威力してんだ、コイツの突きは。速度を乗せるだけじゃここまでなんねぇぞ」
(だがまぁ、おかげで打開策が開けた。あとは待つだけだ)
2本の足でゆっくりと立ち上がる。地面を踏み込み全周囲に神経を張り巡らせる。
数秒、ダスターの空を切る音だけが耳を通る。
正面から一直線に切っ先が飛んで来た。
今までに無い程の速度を乗せた高速の突きは、必ずトドメを刺すという意志の現れだ。
有我は動きを見せず、ただじっと立っている。
「ハッ!とうとう諦めたか!そのまま大人しくやられろ!」
ダスターの切っ先が繰り出される瞬間、
「BOOM!」
その言葉と同時、強烈な爆発音と共に有我は高速の突きよりもなお速く腰を捻り回避した。
「んだと?!」
トドメを刺すことを前提にされた動かされた身体は有我の間合にしっかり入ってしまっていた。
そしてダスターの脳は回避されることを想定しておらず激しく困惑している。
回避の勢いを利用した高速の振り上げが迫っていることに気がづけないほどに。そして気がついた時には遅かった。
脇腹に押し込まれる銃剣の刃が内蔵を圧迫し押し上げられた血液が血反吐となって吐き出される。
吹き飛ばされるダスターのローブの脇腹の裂け目から流れる血液が空中に赤い弧を描いた。
ダスターが地面にドサっと落ちる。
『勝者、大和有我!』
決着のゴングが鳴ると観戦席から拍手喝采が闘技場を震わせる程けたたましく充満した。
勝利の余韻に浸ることなく帰ろうとした足を止めて、倒れるダスターを担ぎ運ぶ。
学園の保健室
ダスターが意識を戻すと、ベッドの横の椅子に腰掛けて本を読む有我の姿があった。
「あの…少し、いいスか?」
「なんだ?」
「あざっス!おかげで呪いが解けました!」
突然頭を下げるダスターに困惑する有我。
「待て、どういう事だ?俺は呪いを解いた覚えなんて一切ないぞ。そもそもお前、そんなキャラだったか?」
「…実はですね、オレ、何年も前から呪いで洗脳されてるんスよ。一応、丁度1年ぐらい前に山賊をやらされてる時に殺されて呪いは解けたんスけど、その後すぐに復活させられてまた呪われまして……」
「ますます意味が分からん。お前の言うことが事実なら、死者を蘇生する魔法があるということになる。可能性はゼロではないが、限りなくゼロに近い。第1、そんな禁忌が許されるはずがないし、噂にも聞かないのはあまりにも不自然だ。信憑性に欠ける」
(面倒くさい奴を相手にしたな)と思い背もたれに体を預ける。
(ん?1年前…山賊…)
思い当たる節があるのか、有我は聴いた。
「お前、1年前に殺されたと言ったな。その時の状況を思い出せるか?」
「え?いいスけど、ちょっと待って下さい」
虚を突く質問に数秒考えて答える
「たしか、夜の森でどっかのお嬢様が乗る馬車を襲って、そのお嬢様を犯そうとしたら、馬車の下敷きになってた銀髪の男に殺されたっス」
「まさかと思うが、そのお嬢様の髪は桃色か?」
「そうッス。よく分かりましたね」
「はぁ~~」
「?」
何となく全てを悟った有我の口から、ため息が吐かれた。ダスターは何が何だか分からず、首を傾げる。
「その銀髪の男、俺だ。状況的に間違いない。まさかこんなことになろうとは…」
「………」
「冗談だろ」と頭に手をやる有我と、だんまりするダスター。ボソッと口を開く。
「……と……て下さい……」
「どうした?」
一瞬でベッドの上で正座になり、元気な声で言った。
「アニキと呼ばせて下さい!」
正座ではなく土下座だった。手本のような美しい土下座だ。
「断わる。そういうのは好かん」
こちらも手本のような即答だ。
「なら勝手に呼びます!」
「話聞いてたか?」
有我のツッコミも意に介さず嬉しそうに言う。ベッドから飛び降りて肩を揉み始めた。
「アニキー」
「いやだから…」
「一生着いて行くッスー!」
あまりの元気に押されてとうとう諦めた。
「もう勝手にしろ…」
こうして有我に舎弟が出来た。