試験から1週間後、入学式を終えた有我達は教室で話していた。
「まさかここの学園長があの大臣だったとは…」
あの大臣とは以前、有我がアルルを届けたサーヴァント省の大臣のことである。
名はユージ・シュー・ストンテン。サーヴァントも通える学園として創設されたこのジケル学園の学園長を任されている。
「知らなかったんですか?今はサーヴァント省の大臣をやっていますが、昔は教育者だったんですよ。サーヴァントも通える学園にこれ以上の適任者はいないという事で先代の国王直々に任命されたそうです」
「よく知ってるな」
「私とシエルナさんは中等部からいましたから、必然的に知るんですよ」
納得したように有我は頷く。
「なるほど…もう1つ聞いていいか?」
「はい。何でしょう?」
「リーチェは整備科だろ?なんで騎士科の俺やシエルナと同じクラスなんだ?」
「学科毎に別れるのは午後からですので、午前中は一緒に授業を受けるんです。理由は簡単に言いますと、今の内に色々な所へコネを作っておく。てところですね」
「そんなところまでしっかりしてるのか」
末恐ろしいな、とため息をつく有我にリーチェが聞く。
「ところで有我さん、私も1ついいですか?」
「何だ?」
「肩を揉んでる方はどなたですか?」
「あぁ、こいつか」
視線を上にやると、有我の肩を揉むダスターと目が合う。
「ダスターです!アニキがいつもお世話になってます!」
「…アニキ?有我さんが?」
意味が分からない物を見る目で有我とダスターを行ったり来たりする視線。
「どういうことでしょうか?」
「気にするな、コイツが勝手に言ってるだけだ。」
バッサリ切り捨てる有我。
「そんなこと言わないで下さいよアニキー。アニキはオレの命の恩人なんスからー」
切り捨ててもしがみつくダスター。
「そうなんですか?」
意味が分からないリーチェ。
(少々静かにして欲しいですね。早く自分のクラスに帰ってくれないでしょうか)
騒がしいダスターに少しイラつくシエルナ。
シエルナの思う通り、ダスターは隣のクラスである。
休み時間なので同学年のクラスの行き来は自由だが、初日からやる者はなかなかいない。
その為ダスターはかなり悪目立ちする。ついでにそれに懐かれている有我も悪目立ちする。
(そろそろ授業が始まる頃だと思うが、コイツいつまで居るんだ?)
丁度、そう思ったところで予鈴が鳴った。
「オレ行かないと、じゃあアニキ!また後でー!」
「しばらく来んなー」
有我の言葉届かず、次の休み時間にもしっかり来た。
午前の授業が終わり食堂に向かう廊下で、後ろから声をかけられ足を止める。
聞き覚えのある声に振り向くと、制服を着た笑顔のアルルと目が合った。
「久しぶり。こんな所で会うなんて偶然だね」
「久しぶりだな。アルル。まさかお前もこの学校に通っているとは、少し驚いたな」
アルルが軽い足取りで隣に来ると、2人で歩き始める。
「ボクの方こそ驚いたよ。騎士科の新入生にとんでもなく強い人がいるって言うから見てみればキミだったんだから。でもまぁ、キミの実力だと噂が立つのも不思議じゃないかな」
「そうか?」
「うん。なんせ生身で魔動甲冑を撃退したんだもの。そんなこと出来るの、上位の騎士か傭兵ぐらいだよ」
「そうは言っても、あの銃剣が無かったら死んでいた。あの時撃退出来たのも、今ここにいるのもあの銃剣のおかげだ。俺の力はまだ、あの銃剣に追いついていない。俺自身は全然強くないさ」
アルルは笑顔と声を落として言う。
「そんなことないよ。力はないけど武器のおかげで成功してる騎士は少なくないし、逆に力があっても武器が弱くて死んだ騎士も多い。どんな武器を手にするかも、騎士の強さだよ。見たところキミの銃剣は神器に近い性質を持ってるみたいだし、もし神器と同じで人を選ぶようなら、その銃剣を持ってること自体がキミの強さの証拠だよ」
「強さの証拠…か…」
そう話していると、食堂に着いた。途端にアルルに笑顔が戻る。
「ほら、早く行かないと美味しいもの取られちゃうよ!」
「分かったから、少し落ち着け」
有我の手を引く姿はさながら、飼い主を引く子犬の様だ。
そんなアルルにつられて、有我は自然と微笑んだ。
「にしても以外だなぁ。キミがそんな物を食べるなんて」
奇妙なものを見る目で、それを食べる有我を見るアルル
「普段はちゃんとした物を食べるぞ。ここでの食事は初めてだからな。今回は様子見だ」
「あまり様子見で食べる物ではないと思うけど、それもメインの食事を抜いてまで」
食べる手を止めてアルルを向く。
「初回でパフェを頼むのがそんなにおかしいか?初めて行く所だといつも頼むんだが」
有我の手元にはパフェ、それもイチゴのソースがかかったアイスやその下には果実がゴロゴロと入った高さ25cm程の巨大なものだ。
「おかしくはないけど、あまりいないと思うよ。デザートを単品で頼むのはある程度ここに慣れた人じゃないかな」
「…」
黙々とパフェを口に運ぶ有我。
「それはそうと、キミがどんな人か少し知れて良かったよ」
「?」
「だって、こないだは任務で会っただろ?ボクはまだ仕事中のキミしか知らないわけだし、キミの好きなもの1つ知らなかったわけだ。けどこうして、一緒にご飯を食べたおかげでキミが甘党であることを知れた」
「少し度が過ぎる気もするけどね」と続けた。
底に残ったイチゴをほじり取ると、有我は言う。
「それで言ったら、俺もお前がどんな人間か少し知ることが出来た」
「え?」
「騎士の強さは武器でも能力でもない。その両方が合わさって強さなのだという本質をしっかり見ていた。ものの本質を捉えることが出来るということは、それだけ真摯に取り組んでいるということだ。普段のんびりとしているが、実際はよくものを見ている。それが俺の知った新たな一面だ」
と言ってスプーンに乗った最後のイチゴを口に運んだ。
「ご馳走様」
席を立ったところで袖を掴まれ止められる。
「まさか、そのまま教室に行くつもりかい?」
「そうだが?」
「ボクが食べ終わるまで待ってよ!誘いに乗ったからには最後まで付き合ってもらうよ!」
「はぁ…分かったよ」と観念してアルルが終わるまで待った。
午後の授業は科毎に分かれて行われる。
騎士科の特徴は戦闘技術を基礎から学ぶ所だが、肝心の基礎は中等部で学ぶためここでは最初に軽いおさらい程度で済まされることが多い。
そして、騎士科の特徴はもう1つ。それは生徒間では『強い人間が全てを制する』と言う暗黙の了解がある。
先輩後輩ならば緩和されるが、同級生となれば全てにおいて強さが物言う世界だ。
初対面から殺気が飛び交う地獄のような教室。そこに扉を開けて男が入ってきた。
スーツにシルクハットを被った、紳士のお手本の様な服装。
生徒間に飛び交う殺気を受け流しながら平然とした顔で教壇に立つと、帽子を取り淡々と自己紹介を始めた。
「俺はリード。お前達の担任を務めるリードだ。よろしく頼む」
帽子を被って隠れていた額の傷が顔を出すと、生徒達に動揺が走る。
「あの額の傷。リードって、まさかあのリードッスか?!」
「知っているのか?ダスター」
有我の問いにダスターは答える。
「知ってるも何も、王家の元親衛隊副隊長ッスよ。あの額の傷はその時に付けられたものッス。辞めたとは聞いてたけど、まさかこんな所で会えるなんて…」
「そんな強者がなんで学校なんかで教師をやっているんだ?王国騎士の教育係として勤めていた方が、個人としても国としても利益じゃないのか?」
「悪いが、その質問には答えかねるな。大和有我」
ごく自然に会話に入られたせいで反応が一瞬遅れた。
「…?!」
いつの間にか真横に来ていたリードに驚き立った拍子にバランスを崩し後方に転んだ。
思考が動揺に呑まれていく。
ずっと見ていたのに動きが見えなかった。それだけでも凄いが、なぜ言っていることがバレたのかが分からなかった。
有我の席は教卓から離れた場所にあり、声など聞こえるはずもない。
口の動きを見ようにも、口元を隠していたので読み解けるはずが無いのだ。
「その顔。俺が一瞬よりも早く移動したことよりも、なぜ言っていたことが分かったのか?という顔をしている。俺の動きが見えていたのか、あるいは偶然か…まぁいい。その疑問には答えてやる。あいにく俺は目が良くてな。口元を隠しても周りの筋肉の動きを見れば、何を言っているかぐらいなら分かる。という訳だ」
「…んな馬鹿な。いや、なるほど。だが…」
感情の読めないリードに対し、有我の顔は驚きに満ちていた。
それを気にもとめず、教卓にスタスタと戻った。
「今日は俺にとってもお前達にとっても初めての授業だ。お互い分からないことも多い。そこで、まずはお互いを知るところから始めようと思う。まずは3人1組、一個分隊を作れ。このクラス全体で一個小隊とする。理由は知っていると思うが、この学校の騎士科は授業の一環で実戦に出ることもある。その時、信頼出来る人間が仲間にいるだけでも結果はかなり良くなる。相手は慎重に選べ。出来た分隊から俺に報告するように。それとアルル、お前はまだマスターが決まっていない。申し訳ないが、マスターが決まってから好きな分隊に入れ。以上だ」
指示を終えると、リードの相手は手元の資料に移った。
「とりあえずシエルナ、お前は俺と組め。その方がリーチェにとっても都合がいい」
有我はとりあえず隣に座るシエルナを招いた。
「そうだな。貴様のことは好きでは無いが、信頼は出来る。何よりお嬢様に手間をかけるわけにはいかないからな」
渋々と言った感じで了承して貰えた。
「問題はあと1人、誰か心当たりはあるのか?」
シエルナの疑問に有我は頭を抱える。その後ろでダスターが跳ねてアピールしているが、2人は無視した。
「それがいないんだよなぁ。そもそも俺達が組んでいる時点で戦力としては十分だと思うが…」
尚もアピールするダスターを全力で無視する2人。うるさいのが苦手なシエルナとしつこいのが嫌いな有我は意地でも無視し続けた。
「とりあえず2人だけでいいかリード先生に聞いてくる。ダメだったら3人目を探すぞ」
「分かった」
結果2人だけの班が認められ、ダスターは他の班に移った。