Ghost Flowered   作:伝説の超三毛猫

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空気に気付かない愚か者は死神にも気づかない。
怒涛の第2話です。


Fool who is oblivious to the air is oblivious to the reaper.

 井ノ上たきなが『喫茶リコリコ』に配属されてから数日。

 DAの司令官・楠木から直接、八仙紫に指名の任務が来たのである。

 

 ―――某港で行われる予定である、暴力団の取引を阻止し、排除せよ。

 

 その命令を受け、紫はたきなと共に港へ向かう軽トラックの中にいた。

 

「司令も何を考えているんでしょうか。私たち二人だけで取引の阻止に向かえなんて…」

 

「だいじょーぶ。私ら二人でなんとかなる人数だってことだしね」

 

 ちなみに千束は別件の任務に動いている。

 作戦はたきなと紫の2名のみで行われるということらしい。

 バックアップにサードが何人か付く予定だと言っていたが、制圧はほぼ二人に丸投げするかのような作戦内容だ。

 たきなにとっては信じられない内容であった。いくら何でもこの前のボディーガードとはワケが違う。せめてバックアップだけでなく制圧部隊にサードが何人か欲しいのが本音であった。

 

「いえ、しかし多勢に無勢だと思います。慎重に行動するべきでは…」

 

「まずは合流ポイントで、サードの子達と打ち合わせをしようじゃないか。

 先生も、任務に向けて色々貸し出してくれたしね」

 

 紫が顎で後ろを示す。

 荷台にはショットガンやマシンガン、各種弾薬に加えて、フラッシュバンやなんだかよくわからない薬品まで色々と満載だ。警察に荷物検査をされたら1発アウトなものがズラリと並んでいる。

 

「何使っても良いよ。まぁ、私はコレさえあれば他の銃器はいらないし」

 

「コンバットマグナムって……正気ですか?」

 

 得意そうにM19を見せびらかす紫に、たきなはぴしゃりとそう言った。

 事実、たきなに限らずリコリスの常識内において、リボルバーは滅多に使われない。

 装弾数が平均6発と少なく、リロードも手間がかかる。スピードローダーを使えば手間は省けるには省けるが、それでもオートマチックのリロード(マグチェンジ)の方が隙も手間も少なく、合理的なのである。

 日常的に銃を使うリコリス達にとって、リボルバーのマグナムを使うという事自体……酔狂にしか見えないのは間違いない。

 それを指摘した上で、紫はノンノン、と銃を持つ手を振った。

 

「たきなさんが使っているのはグロック?」

 

「いえ、ミリポリです」

 

「あーイイねぇ、私の銃(S&WのM19)とおんなじ会社だ! でもね、私には会わないんだ。軽いし脆いし、何よりも浪漫(ロマン)に欠ける」

 

「?」

 

「それにね。私に限って言うなら、オートマよりもM19(こっち)の方が強いんだ」

 

「……よくわかりません」

 

「私と仕事してたらいずれ分かるよ。

 そろそろ下りる準備ね。合流地点だ」

 

 トラックが合流地点の駐車場に止まり、エンジンをふかす音が消えた。

 

「こんにちは〜」

「お待たせしました」

 

「今日は宜しくお願いします、井ノ上さん。

 ……あの、もう一人の実行部隊の人はどちらに?」

 

「〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!」

「え? あの、私の隣にいる……はずですけど…」

「え??」

「え???」

この野郎ッ!!!!

 

 尚、合流した際にサードリコリス隊の誰も、目の前にいて、「私ここにいますよ」アピールを必死でやっているはずの紫に気付かず、戸惑いだすたきなとサード達相手に紫がキレるトラブルが発生するが、具体的なことは割愛する。

 

 

❀❀❀❀❀

 

 

 何だかんだで直前打ち合わせが終わり。

 紫とたきなは作戦の所定の位置についていた。

 サードリコリス隊も偵察と準備は完了しており、いつでも突入できるようだ。

 

「…機嫌直してください紫さん」

 

「別に損ねてないし? サードちゃん達が私に気付かなかったとかこれっっっぽっちも、気にしてなんかないし? 泣きそうでもないもんね!」

 

 めっちゃ気にしてるじゃないですか。

 あと、涙目でそう言っても説得力ありませんよ。

 そこまであからさまに涙目で膨れる紫を見れば分かるというものだ。

 そう言いたかったたきなだが、彼女とて人の心の機敏が微塵も理解できない訳ではない。その手の色々察するテクニックに乏しいたきなでも、言わぬが情けなのは何となく理解できた。

 

「…作戦はいつでもいけるんですね?」

 

「うん。カウントは3からでお願いね。サードちゃん、バックアップ頼むよ~」

 

3(スリー)2(ツー)1(ワン)―――GO」

 

 たきながカウントをすると同時に、ファーストとセカンドが行動を開始した。

 疾風のように突入した二人が、次々と暴力団を黙らせていく。

 たきなはサプレッサーのついたM&Pで敵の肩や腿を撃ち抜いていく。低減されたガスの音は、男たちのくぐもった悲鳴と倒れる音にかき消された。

 一方の紫はというと、コンバットマグナムから派手に火を吹かしていた。サプレッサーがない分音は大きいが、それにお釣りが出る程の戦果を発揮する。

 

「ぐあああああああああっ!」

 

「手がぁぁぁぁっ!!」

 

 ―――それは、たきなの銃とは比較にならない程の攻撃力。

 黒い狂獣から放たれるマグナム弾は、肩や腕に文字通りの風穴を開け、肉を食い破り、骨を粉砕する。

 その餌食となった者たちは、いくら鉄火場に縁ある暴力団の輩といえども、銃を持つことすら不可能なほどに再起不能に陥っていく。

 

「実弾…!? 紫さん、どういう……」

 

「あ、意外だった? 私、場合によりけりで弾を使い分けてるの。非殺傷(ゴム)弾は命中悪いからね。

 でも安心して。致命傷になる傷は作ってないから。『命大事に』は()()()()守ってる。そういう約束なんだ」

 

 手榴弾とスモークグレネードを投げてから遮蔽物の陰でリボルバーのリロードを始める紫。

 たきなはまだ残弾数がある。たきながフォローに入ろうとした瞬間、紫が袖を引っ張って遮蔽に隠れさせ、「静かに」のハンドサインを送った。

 どういうことかと思ったが、男たちの声でその意図がすぐに分かった。

 

「くそっ! あのガキども、ただじゃおかんぞコラァ!」

 

「ぶっ殺してやる!」

 

「畜生! アイツらどこ行きやがった!」

 

「…なぁ、黒髪女の隣にいたヤツってどんな顔してたっけ?」

 

「はぁ?何言ってんだ、そんなん……アレ、どんな奴だっけ?」

 

「そもそも二人だったか……? 最初から一人だったような気がするんだが」

 

 たきなは己の耳を疑った。そして次に、煙の向こう側からする声の主たちの正気を疑った。

 なんか、紫さんが顔を認知されていないどころか、最初からいなかったことにされかけている!? あんなに派手にリボルバーで、マグナム弾をぶっ放しておいて。

 特にマグナム弾の被害は甚大だ。命に関わりはしないかもしれないが、五体満足とは決して言えないレベルの大怪我。だが、それすらも紫の仕業と認識されていないとは!

 

「おい、警戒しとけ! 俺らん中にさっきのが混じってるかも知らんだろ!」

 

「お、おう、そうだな。今言ったコイツは除外するとして……ん?今言ったの誰だ?」

 

「敵か!? 敵が混じりこんでやがるのか!!」

 

「お前かオラァ!」

 

「ば、バカ野郎! 俺は最初からいただろ!!」

 

「ハッ!! どーだかなぁぁ!!!」

 

 しかもなんか、ハスキーな声を皮切りに勝手に言い争う声が聞こえ、最終的に銃声が聞こえ始めたんですけど。

 たきなは傍から見ていただけなのに、どういうことかキツネにつままれたような気分であった。

 いつの間にか、たきなの隣でしてやったりの顔をしている紫が目に入ってくる。

 相変わらず、注意していないと余裕で見落としてしまいそうだ。

 

「へっへっへ、作戦大成功…!」

 

「…同士討ちを誘ったの、紫さんですか?」

 

「まぁ~ちょいと、声マネでね。あとは勝手にお仲間同士でつぶし合ってくれるよ。

 周囲に注意しつつ、銃声が止んだら残りを一網打尽ね」

 

 紫は影が薄い。

 喫茶リコリコで大方の客には気づかれないし、ミカやミズキもたまに見失うようだし、訓練も出席してるのにサボり扱いされるなど割と散々な目に遭っている。

 だが、その影の薄さは、戦場においては不可視の死神にもなる。

 気づかれずに敵を仕留めるのもそうだが、潜入や撹乱、ターゲットに近づいて毒殺もお手の物なのだ。

 今回はそれを応用しただけにすぎない。

 ちなみに、今紫は暴力団たちの後ろに回って、仲間割れのきっかけになる言葉を言っただけである。

 

「…紫さんって、凄いですね。短時間でこんな策を…」

 

「コレが戦術ってもんだ。だから、これ以上今の事については言及しないでね。泣くよ?私17だけど泣くよ?」

 

「……残りを仕留めますよ」

 

 先輩のファーストが派手に泣く姿など見たくないので、彼女の言う通りたきなは先程の不可思議現象について尋ねるのは止めた。

 ちなみにだが、この後の暴力団の制圧は、紫の同士討ち作戦で半数以上倒れていたこともあり、想定よりも呆気なく終了したことを記しておく。

 

 

❀❀❀❀❀

 

 

 任務から帰ってきた紫とたきなは、喫茶リコリコの業務に従事していた。

 千束は任務が終わったものの、遠出をしていたためにお土産集めをし始めたことで、帰りが1日遅くなったという。

 

「リコリスがお土産とか聞いたことありませんよ…」

 

「それが千束らしいというものだ」

 

「そうそう。今のうちに慣れといてね」

 

 ミカと紫の声がそう言うが、たきなにとっては非常識なファーストに変わりない。

 余計に時間を浪費するなんて非合理的ですよ―――そう言おうとして、振り向いた先に見えた姿に固まった。

 

 なんと、視線の先には和服を着たたきなそのものが立っていたのだ。

 鏡でも見ているかのような瓜二つの姿に、たきながフリーズしていると。

 

「こら、紫。たきなをからかうのはやめないか」

 

「あははは、めんごー。でも、こうした方がたきなに私の事色々と教えられそうだなーって」

 

「!? ……ゆ、紫さんですか!?」

 

「そうだよ。どう? 似てるでしょ?」

 

 似ているというレベルの話ではない。

 和服の柄の違いとミカに諌められての本人の自白さえなければ、紫の変装だと全く気が付かなかった。

 ここまで変装が上手いリコリスは、DAにいた頃でさえも見たことも聞いたこともなかった。

 

「それ、任務に使えるんですか?」

 

「当たり前でしょ。どんなテロリストでも、後ろから味方に撃たれるとは思わないじゃん?」

 

「…成程」

 

 確かに、変装のスキルは任務においては有用かもしれない。しかし、リコリスの本業は暗殺。悪事をしでかそうとする輩を事前に始末するのが仕事だ。

 

「たきなさんもやってみない〜?」

 

「結構です」

 

「えー! いいじゃんやろうよー!」

 

「やめときなって。どうせ影の薄いアンタの変装なんて、千束ならすぐに見破るから」

 

「ミズキっ!! 影薄いって言うのやめろォ!!!」

 

「たっだいまー! 千束が帰っ…紫!ミズキ!ケンカしないの!!」

 

 敵に顔を覚えられる前に始末すれば良いのでは。

 ミズキの一言にキレる紫と、ちょうど帰ってきた千束が二人の仲裁に入っていくのを見ながら、そんなことを考えるのであった。

 

 

「…紫さん、そろそろ変装解いてください」

「あ、そうだった!ごめーん!」

 

 …この職場、大丈夫かな。




八仙紫
 ……特技:変装・声マネ。敵に顔を覚えられない。ついでに味方にも顔と姿を認識してもらえない。千束やたきなに比べて、沸点がやや低いという欠点がある。リコリコの方針である『命大事に』を()()()()実行していて、悪・即・斬の一般的なリコリスと比べて積極的に殺しはしておらず、()()()()()()()()()()()()

井ノ上たきな
 ……現段階ではまだ塩たきな。敵に攻撃しているのに、認識されないどころか存在がなかったことにされてる紫をもはや別の生き物なんじゃないかと疑っている。

モブリコ達
 ……5話で死ぬことで有名なやけに見目の良いモブ。たきなに言われるまで紫の存在に気が付かなかった。
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