Ghost Flowered   作:伝説の超三毛猫

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遅れても、やらないよりは良い。
第5話です。原作第3話後編。


Better late than never.

 

 ―――錦木千束と春川フキがバディで模擬戦を行う。

 

 その知らせは、あっという間にDA内のリコリス達に知れ渡った。

 片やリコリス内で有望なフキとそのバディ・サクラのコンビ。片や電波塔の英雄こと錦木千束と仲間にマシンガンをぶっ放した問題児こと井ノ上たきな。組み合わせも相まって噂の伝達スピードは加速していく。

 

「たきな来てるよ、会わなくて良いの?」

 

「……」

 

 それは、部屋で突っ伏している青制服の少女と、それに声をかける友人らしきセカンドリコリスの耳にも入っていた。

 (かがり)ヒバナもまた、模擬戦の噂を耳にし、ルームメイトである蛇ノ目(じゃのめ)エリカに模擬戦の観戦に誘っていた。

 

 エリカは、たきながリコリコに左遷された一件で、人質にされていた少女である。

 具体的に何があったのかというと、エリカ達が武器取引の制圧任務に行った際に、彼女は武器商人に人質にされた……のだが、たきなが機銃をぶっ放し、エリカを避けて武器商人だけを皆殺しにしたことで事なきを得たのである。

 結果的に助かったとはいえ、味方から撃たれたのは生きた心地がしなかったのだろう。そう思ったヒバナだったが…

 

「フキ先輩とサクラがお前の仇とってくれるって」

 

「仇じゃないっ!」

 

 エリカの意外な返事に、咄嗟に言葉が出なかった。

 彼女のバディとして活動してきたヒバナは、久しぶりにエリカの機嫌を意図せず損ねてしまった事に内心失敗したな、と思ったが。

 別の少女の声が、二人の間に割って入ってきたのだ。

 

「イヤ仇じゃないっスか。嘘つくのやめた方がいいっスよ、エリカ」

 

「サクラ…!?」

 

「…あんた、模擬戦じゃなかったの?」

 

 茶の髪をツーブロックにした少女・乙女(おとめ)サクラだった。

 エリカの言葉を否定するような、挑発じみた口ぶりに目元が険しくなるエリカと、模擬戦の準備をせずにここにいることを怪訝に思うヒバナ。そんな二人の様子を歯牙にもかけないといった様子で、サクラは得意げに続ける。

 

「アンタ、分かってんの? 殺されかけたんスよ?

 いくら怪我がなかったとはいえ、本来ありえないし、二度とここに戻れない位の不祥事だ。

 それだけのことを、あのたきなってのは犯してるんだ。そこんとこ、分かってんの~?」

 

「そうなんだけど……そうなんだけどっ…」

 

 更に煽るように続けるサクラ。エリカは何か言いたげだが、自分の中で言葉にまとめられていないのか、そこから先の言葉を言いだせずにいる。

 

「サクラ! いくら何でも、エリカに言い過ぎだよ!」

 

「え~? アタシなんか間違ったこと言った~?

 それともヒバナ、アンタまであの仲間殺しの肩持つんスかね~?」

 

「そうは言ってないでしょっ!」

 

 流石に見かねた様子のヒバナがサクラを諫めようとしても、話を逸らされて躱される。

 肩を抱きながら「お~、こわいこわい」と全く怖がっていない様子を見せるサクラに、ヒバナは怒りが増していき、エリカも感情で身がはちきれそうであった。

 そんな二人の事など知ったこっちゃないと言わんばかりに、サクラはこう締めくくる。

 

「今回の模擬戦、フキ先輩とアタシで華麗に勝つんで、見に来てくださいよ~?」

 

「随分余裕だね、サクラ…」

 

「当然! 相手はあの仲間殺しっスからね~!

 負ける気がしないってもんよ! もし負けたら、二人に奢ってやってもいいってくらいにはね!」

 

 絞り出した声のエリカに言うだけ言って、演習場に向かってスキップで去っていくサクラ。

 その背中を睨むエリカだったが、ヒバナはふと最近の彼女について思い出していた。

 

「……あれ、サクラって…前、金欠だって言ってなかったっけ………?」

 

 金に困っているサクラが奢っても良いなんて言うだろうか?

 ちょっとした矛盾だったが……

 

「…まぁ、それくらい自信持ってるってことか」

 

 いつもの勝気で野心家な彼女を知っているヒバナは、特段気にしないことにした。

 

 

❀❀❀❀❀

 

 

 井ノ上たきなは、いまだ噴水に座り込んでいた。

 このDAが全てであり、それを失った自分にはもう、何もないと思っていた。

 だがたきなを追ってきた千束はそれは違うと言った。

 誰かの期待に応えるために悲しくなるなんてつまらない。だから私はやりたいこと最優先で生きる。

 失って見える道もある。今は進む時だ。

 そして何より―――たきなに会えて嬉しい、と。千束は豊かな笑顔でそう言った。

 

 純粋な善意を受けたたきなは、しかし未だ迷いながら、演習場へ足を運べずにいた。

 そんなたきなに近付く影がひとつ。

 

「たきなさん」

 

「……」

 

「たきなさん」

 

「…! 紫さん…」

 

「忘れ物だよ」

 

「……ありがとう、ございます」

 

 手渡されたのは、M&P9―――たきなの愛銃だった。

 きっと、射撃場に置いて来てしまったのだ。紫は、それを拾ってくれたんだろう。

 忘れ物を渡した紫は、たきなの隣に無言で座ると、しばらくそのまま黙っていた。まるで、何かを必死で考え、伝えようとしているかのように。

 

「……えっと……」

 

「……」

 

「…………ぅぅ」

 

「………? 紫さん?」

 

「あああああやっぱ無理! 千束みたいなこと言えないや。

 何言えばいいかなんて、すぐに浮かんでこない……」

 

「何ですかそれ」

 

 自分が絶望に落ちていたというのに、紫の方が途方に暮れているような言い方。

 千束の言葉で毒気を抜かれていたたきなからすれば、なんだそれはと呆れてしまう。

 ただ、紫もずっとそうしているわけでもなく、「よし」と一言呟くと、立ち上がってたきなに向き直った。

 

「たきなさん。私が死を呼ぶ幽霊(ホロゴースト)って言われてる理由、知ってる?」

 

「? いえ」

 

「全員ブチのめしてきたからだよ。私を見ようともせずに、否定した奴らを、ひとり残らずね」

 

 瞬間、紫の表情から穏やかな笑みが消えた。瞳から、光が消えた。

 今までに見たこともない真剣で、吸い込まれそうで、だが恐ろしさすら感じる表情に、たきなは息を忘れる。

 

「私、もとから影が…いや、存在感というか、気付いてもらえない事が多くてさ」

 

「…生まれつきだったんですか、影の薄さ(アレ)

 

「うっ……やめて、泣いちゃう………

 えっと、だからね。私は気付いてもらうために色々頑張ったし、誰よりも戦場に行った自負があるんだ」

 

 そんなこの世のものとは思えない表情も、影の薄さを指摘されて一転、あっという間に涙目になった。それでも紫は続ける。……たきなに、行くべき場所へ行ってもらうために。

 

「まぁ…頑張りすぎて味方からもやっかみを受けたし、面倒な連中の相手ばっかさせられたけどね。

 でも私は生きている。私の前に立ちはだかる奴は全員ブッ飛ばしたし、後悔もさせた。

 そんな私から、たきなさんに言えるのは、ただ一つ」

 

 涙をやせ我慢で引っ込めて、ぐっと拳を握って、言葉を紡ぐ。

 

「―――戦って、()()()。今を戦わない人に、未来はやってこない」

 

 そう言って見据える紫の瞳の、曇りなき純粋な未来への闘志。

 それが今、たきなの心の奥に燻っていた、何かに燃え移ったような気がした。

 

 分かりきっていたことだ。

 ラジアータのハッキングや上層部のミスなど、些細な事。あの時、機銃掃射を決断したのは、他でもない自分なのだから。

 全て―――己が弱かったからだ。

 千束であったら、華麗にセカンド(エリカ)を救出し武器商人を殺さず捕縛できただろう。

 紫であったら、至近距離から敵を撃ち抜いて、誰にも気付かれることなく人質を取り戻せただろう。

 

 たきなには、異能の眼などない。膨大な戦闘経験も、隔絶した隠密の恩寵も。

 

「……ゆかり、さん…」

 

 でも、それは。きっと。

 

「………私は、」

 

 諦めて全てを投げ出す理由には、ならない。

 

「私も、あなたたちみたいに……」

 

 溢れてしまいそうな、揺れる瞳で、紫を見つめるたきな。

 震える唇を無理矢理にでも開いて、問うた。

 

「…強く、なれますか?」

 

「当たり前じゃん。

 だって、私の手刀にちょっと気づいてたもの」

 

「紫さん……!」

 

「さぁ、行って。そんで、あんな奴らブチのめしてきちゃえ」

 

 笑顔を浮かべて即答する紫を見るなり、たきなは弾かれたように走っていった。その表情には、先程までの迷いは、もうない。

 彼女はこの時、ひとつの決意を固めたのである。……ありふれた正解よりも価値のある、一つだけの答え。それを掴むために、手を伸ばす決意を。

 

 あっという間に小さくなっていくたきなの背中を、笑顔で見送っていった紫。

 

「……さて」

 

 たきなの姿が見えなくなってから、紫も演習場へ歩きだした。

 勝敗に興味はない。そんなもの分かりきっている。ただ、二人の行動の結末を見届けるために、模擬戦の会場へと向かったのだ。

 

「今からあのセカンド(クソ野郎)のリアクションが楽しみだなー」

 

 紫がポケットから取り出したのは、折りたたまれた茶髪のツーブロックスタイルの、変装用マスク。ちなみに青の制服の方は既に元の場所に戻してある。

 急拵えだったが、布石は打っておいた。それが役割を果たすのが楽しみだというのもまた、演習場へ赴く目的であった。

 

 

❀❀❀❀❀

 

 

 一方その頃、喫茶リコリコでは。

 

「なぁ、ミカ」

 

「どうした、クルミ」

 

「紫について聞きたいことがある」

 

 客のいないリコリコの座敷でタブレットを弄っていたクルミが、そこから目を逸らさぬままミカに声をかけた。液晶には、先の依頼―――ウォールナット護衛任務の時の映像が映っていた。

 

「どうして僕は紫に気づけなかった?

 映像を見返す限り、紫は千束やたきなと一緒に車に乗っている。それもこっそりとかじゃない。他の二人と同じように、普通に乗った上で、だ。」

 

「何故そんなことを訊く」

 

「無知なのが嫌いなだけだ」

 

 クルミの純粋な知的好奇心に、ミカはうーむと考える素振りをする。一瞬だけミズキと目配せをすると、頷いて説明を始めた。

 

「簡単に言うと…紫は、人の無意識に潜り込むのが物凄く上手なんだ」

 

「無意識に潜り込む?」

 

「人は誰しも、目の前の光景に100%意識している訳ではない。一面の視界でも、意識している部分と、意識していない部分があるのだ。

 また、人には人の呼吸がある。そのタイミングからズレることで、その人物の注意から逃れることができるんだ。傭兵の上級テクニックだな。

 紫は、意識してない部分に自然に紛れ込んだり、誰かの呼吸からズレて気配を消す天才なんだよ。」

 

「マジックの視線誘導あるでしょ? アレの上位互換バージョンよ」

 

 話を聞いていたミズキが立ち上がり、左手を銃の形にして、クルミに向けた。

 

「大抵のやつは、この位置からでも紫を撃つことはできない。

 当てる以前に、狙いをつける前に見失っちゃうから。もう一度探している間に撃たれちゃうしね~」

 

「……そんな事が可能なのか?

 人の認識機能・呼吸のタイミング・その時その時の視界……ぜんぶ丸々一緒じゃない。

 おんなじスペックのパソコンが数台並ぶのとはワケが違うんだぞ?」

 

「それでも、隊の全員が紫を見失った、という報告は日常茶飯事だった。誰にも見つからないタイミングを見抜いて、そこに潜り込んでいるのさ。無意識的にな」

 

「ま、そのせいでしょっちゅうアタシらも紫のこと見失うんだけど」

 

 クルミの指摘は尤もだ。

 気配を断つ、或いは一度見つかった敵から視線を逸らすというのは、一人相手なら可能なのだろう。

 しかし、紫は二人以上……それも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことが出来るという。

 更に、それを戦闘経験の豊富なリコリス……及びリリベル相手にやってのけている。それを可能にするものの名前を、スーパーハッカーのクルミといえども一つしか知らなかった。

 

「……言っちゃ悪いが、化け物だな」

 

「そうねぇ。千束がいなけりゃどうなっていたことか」

 

「? なんでそこで千束が出てくる?」

 

「それはだな。千束が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ」

 

 ミカもミズキも、元々DAにいたから、昔の紫の活躍は知っている。

 命令の最終目的は守るが、それ以外は全く守らなかったという話から………派遣されたリリベルを全員返り討ちにした上に漢女(オカマ)にした、という凶暴さまで。オマケに、リコリコに引き取られる前の紫は、だいぶ()()()()()のも、その目で見ている。

 千束が紫をなんとかしてくれたから良いものの、そうでなければどうなっていたか分からない。

 起こりえない未来予測と、当時の千束の様子を思い出して、ミカとミズキの口元が緩んだ。

 

「興味深いな。そっちの話も是非聞かせて欲しいもんだ」

 

「千束は、物凄く目が良い。銃を向けた相手の身体の僅かな筋肉の動きだけでどこに撃ってくるかが分かるくらいにはな」

 

「そっちもそっちでスゲーな」

 

「そ。それくらいに目が良いから、紫が気配を断つ瞬間を見て、見失わないように目で追うことが出来るんだって!」

 

「成程。死角に逃れられる前に目で追えれば、見失わないのは当然ということか」

 

 こうして、新たな喫茶店のメンバーの好奇心に付き合うままに、大人たちは、自慢の看板娘たちの話に花を咲かせていった。

 

 

「……そういえば、紫がまた『自動ドアが動いてくれなかった』って嘆いてたが…アレは紫の才能でどうにかなるのか?」

「無理だな。センサーがある以上、人が乗れば必ず反応する。人間と違って、機械は与えられた役割には確実だ」

「…アイツ、ほんとに影が薄いだけじゃないのかしら?」

「そんな非合理的な結論あるか。やっぱり反応しないセンサー範囲外を連続で踏みぬいたとかだろ」

 

 なお、自動ドアが紫に反応してくれない理由だけは、電子戦最強のウォールナットの頭脳をもってしても、確実な結論に辿り着くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その夜、リコリコの常連客が集まって、ボードゲーム大会を開くことが決定した。

 ミカが千束にその旨を送ると、一枚の写真と共に、返事が返ってきた。

 それを見て、ミカは破願し、嬉しさが零れだす。

 

『もちろん、3人で参加させてもらうぜぃ!』

 

 ミズキやクルミも一緒になって覗き込んだその写真には、太陽のように思いきり笑う千束といつものように微笑む紫、そして年相応の、すっかり柔らかくなった笑みを浮かべてピースサインをしているたきなが写っていた。

 リコリコの三人娘の笑顔が、大人たちにも伝播する。リコリコの、知らないハズなのに心地の良いようなノスタルジックな雰囲気の理由が、ひとつ分かった気がしたクルミであった。




八仙紫
 ……個人的なイメージはCV花守ゆみりさん。なでしこやはなこみたいなかわ世キャラと銀ちゃんみたいな超絶少年兵ボイスの中間みたいな、バランスのいい演技もできそうなんだよね。

錦木千束
 ……紫のいない間に「会えて嬉しい!」の百合ーゴーランドはしっかりやった。

井ノ上たきな
 ……千束の新たな道へ進む時って話と、紫の戦って未来を切り拓けって励ましに助けられ、フキを殴りに行くことに。

春川フキ
 ……原作の焼き直しにしかならないので、模擬戦シーンは全カットした。めんご。

乙女サクラ
 ……この後、仲間二人に身に覚えのない奢りの約束を迫られて実行するハメになり、財布が死ぬ。

篝ヒバナ
 ……容赦はしなかった(奢り的な意味で)。

蛇ノ目エリカ
 ……容赦はしなかった(奢り的な意味で)。

クルミ/ウォールナット
 ……紫も千束も、二人揃って天才級の化け物だなと認識。でもゲーム大会に行くときの笑顔を見て、JKでもあるなと感じた。


銃の腕
たきな>>紫≧千束

目の良さ
千束>>>>>たきな=紫

隠密性能
紫>>>越えられない壁>>>千束≧たきな
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