Ghost Flowered   作:伝説の超三毛猫

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女心と秋の空。英語圏では4月の空に例えられるそう。
第6話です。原作第4話。さかなー!ちんあなごー!そして…?


Woman is as fickle as April weather.

「…たきな、トランクスは流石に駄目だよ」

 

 紫は顔を引き攣らせた。

 たきなは、どうして紫がそんなリアクションするのかが分からない。しかし、女性としては由々しき問題であった。

 何を隠そう井ノ上たきなという少女、トランクスを履いていたのだ。その情報が千束によって齎された時の紫のリアクションが上記の台詞である。

 千束がこのことを知ったのは偶然だ。VRゲームを頼んでたきなにやってもらった時に見えてしまったというだけのこと。だが、知ってしまった以上見て見ぬふりは出来なかった。

 そもそも、何故たきなはトランクスを履いていたのか? その疑問を尋ねたところ……

 

「制服はこっちで用意するから、下着だけは自分で確保して欲しいと店長が」

 

「…ミカさんが? え、それで下着、どうしたの?」

 

「好みを尋ねた結果です」

 

「「先生ッ!!!!」」

 

 千束と紫はミカに掴みかかった。

 ミカは誇らしげにしていたが、JKにパンツの好みを訊かれて、トランクスと答える男がいていいものだろうか? ……よく想像しなくても事案である。

 華の女子高生がこのままは100%……どころか1000%マズいので、急遽次の日、12時に駅前集合で買い物に行くことに相成った。千束は、たきなに「制服で来んなよ、私服な」と言い残して去っていく。

 

「店長」

 

「なんだ?」

 

「指定の私服はありますか?」

 

「それは最早私服じゃないからね?」

 

 というか指定の私服って何だよ。

 そうツッコまなかった自分自身を褒めたい紫であった。

 

 

 

 翌日。

 千束とたきなは、約束の時間通りに駅前に集合していた。

 千束は黒のシャツと白のデニムパンツの上から赤いハーフコートを纏うオシャレぶり。

 対するたきなは……グレーのシャツ、黒のズボン。終わり。………といった、オシャレなど知らんわと言わんばかりの無頓着レベルの質素さであった。必死に言葉を選んだ千束が「…新鮮だな」以外の感想に困るくらいには、女子として酷い恰好だった。

 

「問題ないですか?」

 

「…銃持ってきたな貴様?」

 

 リコリスとしては間違ってはいないのかもしれないが、リコリスの特権は制服の時でしか使えない。今のたきなは私服であるため、銃を抜いたら逮捕されてしまう。

 抜くなよと釘を指す千束の言葉を聞きながら、たきなは周囲を見回す。ここに来るべき、もう一人がいないからだ。

 

「紫が来てませんが?」

 

「もうそろそろ来るって。いつも服が派手だからすぐに分かると思うぞ」

 

「…ひょっとしてアレですか?」

 

「んー? ……あー、間違いない。あのバカ、あんなハリウッド女優みたいな服装すんなよ…!」

 

 しばらくして、千束へ来た連絡通りに紫は来た。その姿は、赤い制服で気配を消してた彼女とは思い難い。

 まず目についたのはエメラルドのレーストップスと、薄い青色のジーンズ。その上から黒のロングコートを肩掛けし、フラットシューズでこちらに歩いてくる、陽光さえ跳ね返さんばかりの真っ黒なサングラスをした少女がそこにはいた。

 まさしく空港から日本に降り立った、有名女優みたいな格好に、千束はたきなの服を見た時とは別ベクトルで愕然とした。

 

 ―――いくらオシャレしてとはいえ、これはこの街には似合わな過ぎる。影の薄いこの少女を、取り敢えず一発ひっぱたいてやると決意した千束だ。

 

「ごめ〜ん、待った?」

 

「馬鹿野郎」

 

「痛い! 何で殴ったの!?」

 

「時と場合を考えろっていつも言ってるでしょ! なんでグラサンかけてくんの!」

 

「だって、これくらいド派手に決めないと誰も気付いてくれないんだもん!」

 

「限度があんだろうが。せめてこれは外しなよ!」

 

「あぁん、私のサングラス~!」

 

「…あの、買い物はどうしたんです?」

 

「「行く!」」

 

 千束と紫の言い争いから始まった買い物は、たきなの服をマトモにするところから始まった。

 たきなは純真培養の、どこに出しても恥ずかしくないリコリスだったため、ファッションなるものは一切分からない。

 それ故に、どんな服が良いかと千束に聞かれても、「何でもいいから千束と紫が選んでください」としか答えることが出来なかった。

 

「たきなは何でも似合うねぇー! 可愛いよ!」

 

「うん…確かに、私セレクションのド派手ファッションも似合ってるよ!」

 

「紫のそれは派手すぎるって、これはこっちに変えようよ!」

 

「えー? それだと地味すぎない? それ着るなら、せめてネックレスをこっちの大きいのにしてさー」

 

「だぁから派手すぎだっての!」

 

 ―――結果、千束と紫に着せ替え人形にされる未来がたきなには待っていた。

 千束の値は張らないが色の組み合わせでハイカラを演出するコーディネートと、紫のハリウッド女優が愛用する服装のような、ゴージャスでファビュラスなコーディネートを交互に着せ替えられる。

 

「…えぇと。似合っているんですか?」

 

「めっちゃかわいい!」

 

「超似合ってる! 最高だよ」

 

「………そうですか」

 

 結局、似合っているのかどうかが、千束と紫の言葉に拠るものしかなかったため、着せ替えられた服をほぼ全て購入することとなった。

 財布はかなり軽くなったが、人体の臓器構造では言い表せないような、胸の奥の方まで軽くなったような気がするたきなである。

 それでもなおショッピングに熱中する二人に、そろそろ本題のものをと促すたきなによって、三人娘は次にランジェリーショップに立ち寄ることにした。

 

「何か欲しいものある?」

 

「仕事に向いているものが欲しいですね」

 

「あぁ~、銃撃戦向けのランジェリーですか? そんなもんあるかっ!!」

 

 どこまでも仕事熱心なたきなの頓珍漢な要望を千束が一刀両断する。

 一体どこの世界にそんな用途がマニアックすぎるアイテムが転がっているのだろうか。100万歩譲ってそんなものが存在していたとしても、東京のショッピングモールには絶対に並んでいないだろう。

 だがここで、紫が良い事を―――否、悪い事を思いついた。

 

「いや、あるよ~」

 

「はぁぁっ!!?」

 

「この店だと……これとこれ、あと、これだね」

 

「え、ちょっ、紫!? 嘘だよね? なんで堂々と選んでるの!!?」

 

 千束の動揺を気にしないかのように、そつなくサラッとブラジャーとショーツ、そしてナイトウェアを選んでいく紫。

 ありえないものをあると断言した長年の相棒の言葉に動揺する千束と、自分のニーズにしっかり答えているように見える紫を尊敬の目で見直すたきな。

 正反対のリアクションを取る二人に、紫は続ける。

 

「余計なコトに気を取られたら戦場(あそこ)では命取りだからねー。一応こんな感じのがそうなんだけど、一番は自分に合ったヤツを選ぶのが重要―――」

 

「ちょいちょいちょいちょいちょい!!」

 

 なんだかどんどんおかしな方向へ話が盛られている気がする。

 ファーストの勘でそう判断した千束は、紫と肩を組んで、たきなへの説明を中断させる。

 

「まさかオメー、デタラメ言って適当にたきなを言いくるめる気じゃねーだろうな」

 

 千束からすれば、紫が適当言ってたきなに思い通りの下着を着せてやろうとか、そういう風にしか見えなかった。そもそも、そんな都合よく銃撃戦用のランジェリーがあるものか。たきなは疑っていないが、絶対デタラメに決まっている。

 紫は、そう迫ってきた千束に対して、余裕の笑みを崩さぬまま―――

 

「千束、これはデタラメじゃないよ。ただこの前見たアニメの子が着てた下着を思い出しただけなんだよ、今」

 

「「フンッ!!」」

 

「ぐえええええっ!?」

 

 ―――千束の懸念は見事的中していた。

 紫は、銃撃戦用のランジェリーを選んでいなかった。ただアニオタ魂(YOKUBOU)に忠実なだけだった。

 アホなことを抜かした紫を、千束とたきなは即座に捕まえて締め上げる。

 

「それをデタラメって言うんだこの野郎!」

 

「真面目に話を聞いた私がバカでした」

 

「あ゛あぁぁぁぁっ!! ギブギブギブギブ!

 ごめんなさい! 悪かったから!悪かったから離して! し、締まる…!」

 

「罰として紫のを見せてください。選ぶ参考として」

 

「えええええええっ! ちょ、何言ってんのたきなさ……イダダダダダダあ゛あ゛あ゛ぁぁぁ関節は駄目! そっちには曲がらないから!それ以上いけなイダダダダダダっ!!!」

 

 調子に乗った紫は、この後試着室でたきなと千束に下着を見せる羽目になった。なお、「参考にならない」といってたきなが千束のパンツにターゲットを変えた際は、仕返しだと言わんばかりに紫も手を貸し躊躇しなかった。

 最終的にたきなは女物の下着を買う事ができたものの、千束のも紫のも参考にしなかった。乙女二人の威厳は死んだ。

 

 

❀❀❀❀❀

 

 

 正午を回り、昼食を済ませた千束たちは、水族館に来ていた。千束の年間パスの恩恵だった。

 たきなは下着を買ったことで今日の用事はもう済んだと言っていたが、千束がもっと付き合ってと言った結果、ここまで来たのだ。ちなみに紫も、千束と同じく「用事だけ済ませて終わりじゃつまらない」と水族館に同行していた。

 

「千束、何してるんですか?」

 

「え、チンアナゴだけど」

 

「『チンアナゴだけど』じゃないでしょ」

 

 チンアナゴの水槽の前で、千束が両腕を掲げて身体全体を波打つように踊らせる謎の踊りを踊る。

 両腕を海底の砂から顔を出すチンアナゴに見立てて踊っているようだ。

 

「人が見てますよ。リコリスが目立つ行動は…」

 

「なんで?」

 

「なんでって私達リコリスですよ」

 

「制服着てない時はリコリスじゃありませ~ん」

 

 たきなが注意しても、どこ吹く風といった様子だ。

 場所を水族館の中央に移してもなお、千束は大きな水槽の前でチンアナゴの舞をやめなかった。

 水槽越しには、大小様々な魚たちが、まるで空を飛んでいるかのように、縦横無尽に泳いでいる。

 たきなと紫はそんな魚たちと千束を、水槽の前に備え付けられた四角いベンチに腰掛けながら眺めていた。

 

「千束」

 

「ん~?」

 

「あの弾、いつから使ってるんです?」

 

 ふとたきなは問うた。千束が、ミカ謹製の赤い非殺傷弾をいつから使っているのか。いつから…不殺を誓っているのか、と。

 初めて自分自身に興味を持ってくれた千束は、嬉しそうに茶化すが、やがてたきなの隣………紫と、たきなを挟むようにベンチに座ると、ぽつりぽつりと話し出した。

 

「気分が良くない。誰かを殺すのは気分が良くない」

 

「気分?」

 

「悪人にそんな気持ちにされるのはも~っとムカつく。だから、死なない程度にブッ飛ばす!」

 

 それは、いつものふざけた雰囲気とは少し違う。千束がたきなに初めて見せた………そして紫にとっては何度目かの、大人びた雰囲気だった。

 誰かの時間を奪う……それを心から嫌っているかのようであり、テロリストを秘密裏に処刑するリコリスにはあるまじき信念だった。

 だが、この場において、それを否定する者は誰もいなかった。

 そういえば、とたきなは紫に向き直る。

 

「紫はどうなんですか、殺さない理由。

 確か前『約束』って言ってましたよね」

 

「あぁ~……覚えてたんだ」

 

「えぇ、まぁ」

 

「…千束ほど立派な理由じゃないよ」

 

 話を振られた紫は語り始める。

 己の過去を。千束のそれとは毛色のだいぶ異なる、「不殺」のルーツを。

 

「そもそも私、相手をあんま殺さないんだ」

 

 そこから切り出した紫。

 紫はかつて、身内であるはずのリリベルから散々狙われたことがある。

 その時には、リリベルは誰も殺さなかった。いくらガチで紫の命を狙ったとはいえ日本政府の組織が拾った孤児という意味では身内だ。殺してしまえば、正真正銘の「仲間殺し」になり、本当に居場所がなくなる。そういう意味では、この頃には既に、紫の中に「不殺」が確立していた。

 だがそれはまだたきなに話すべきじゃないと判断した。よって、もう一つの「理由」を語る。

 

「私は知ってるんだ。

 ―――世の中には、死ぬよりも辛い事なんて山ほどある」

 

「!」

 

「ずーっといない子扱いされて来たからね。生きてて嬉しい日なんてなかった。

 だからDAで任務こなしてた時も必要な時以外は大抵殺さなかった。代わりにこれでもかって程痛めつけて、命以外は全部壊し尽くす。そんなことばっかやってた。()()()()()()()()()()()()()、って思いながらね」

 

 たきなは絶句した。紫の不殺の理由が、千束とは正反対だったのだ。

 千束が「気分が良くないから」殺しを嫌うのである、一種の慈悲から来るのなら、紫は「死ぬより辛い目に遭わせるため」更に「誰も咎めないだろうから」と敢えて命を取らないという、鼠を甚振る猫のような無慈悲さから来ている。

 たきなは信じられないような顔付きで紫を見る。対する紫は、過去を懐かしむような穏やかな笑顔だった。そこに、険しい顔をした千束が割って入ってくる。

 

「紫。今は違うでしょ」

 

「そう。その頃に千束と会ってね。当然、戦いのポリシーが合わなくて大喧嘩して、私が初めてボロ負けして………そんでリコリコに転属になって、今に至ってる」

 

「はぁ…」

 

「そん時に千束と約束したの。『周りを呪わないこと』『人を殺さないこと』『必要以上に甚振らないこと』………元から殺してなかったから、簡単に慣れちゃった」

 

「昔の紫はやばかったんだよ〜?

 リコリコに来たばっかのたきなのね、50倍はおっかなかった」

 

「私、そんな怖くありません!」

 

「まぁー、リコリコ(うち)に来たての頃のたきなはガチガチだったね。今はちょっと柔らかくなったかな?」

 

 そこまで言うと、紫は柔らかな笑顔のまま、たきなの頬に指を立てた。爪を切り揃えた指が、真っ白なもち肌に沈んでいく。

 それを見た千束も、悪戯を思いついた子供のように紫に続いてもう片方の頬をつんつんしだした。

 

「そうね〜、私達のこと「さん」抜きで話せるようになったしね〜」

 

「ちょっ……二人とも、やめてください!」

 

 千束がつつき、紫がつつき、たきなが反撃するように手を振り払って二人の頬を狙い、じゃれ合う三人。

 その姿は、傍から見れば普通の女子高生にしか見えなかった。

 そうした頬のつつきあいからしばらくして、たきなが「思ったんですけど」と話を再開した。

 

「どうしてリコリコにいるんですか、お二人は。殺さないだけならDAでもできたでしょう」

 

「私、千束と喧嘩した後で、千束と一緒にいないと駄目だーって上からお達しがあってね。それでリコリコにいるの。

 千束は………人探し、だったよね。確か」

 

「うん。これ、くれた人をね」

 

 千束が取り出したのは、金色の梟のチャームだった。どこかで見たことのあるような、そんなチャームはスマホで調べればすぐに答えが出た。

 アラン機関。世界中から病気やお金で困っている「天才」を探し出し、支援を行う謎の組織。金梟のチャームはそんなアラン機関が「天才」と認めた証なのである。

 

「まぁーつまり、千束はそんな怪しい団体に『才能』を認められて、(ソレ)貰ったんだよ」

 

「怪しい言うな。……私にとっては、恩人に違いないよ。コレくれた人」

 

「見つかったんですか?」

 

「いいや。ぜーんぜん」

 

「10年も探してるのに?」

 

「……もう、会えないのかもね。ひとこと、お礼言いたいだけなんだけどな」

 

 そう言って、千束が見せた笑顔は、どこか張り付いているようで。

 無理をしているのが丸わかりだった。たきなは、そんな千束も、これ程に思っている少女の前に一向に現れない“恩人”も、たきなは嫌だった。

 明らかに気分が沈んだ千束の為に、たきなは、先程まで彼女がやっていたチンアナゴのモノマネにならった。

 

「さかなー!」

 

 両手を合わせて突きだし、片足立ちになって足を後ろへ伸ばす。

 二人の知っているたきなとはかけ離れた行動に、紫は目を見開いたが、千束には笑顔が宿る。そこには、先程までとは違い、中身が伴っていた。

 

「チンアナゴ~!」

 

 続いて、千束のチンアナゴの舞。

 あまりに理解不能で、どういうルールか分からないため、紫も笑うしかない、といった具合に口角があがり、やがて笑顔になった。

 

「ほら! 紫も!」

 

「えっ、私も!?」

 

「何でも良いから早く!」

 

 紫は千束に急かされるまま、さかなのたきなとチンアナゴの千束の隣に立つ。

 そして、考えがまとまらないまま、両手足を大きく広げて―――

 

「ヒトデ~!」

 

 ―――と。

 しばらくそうしていたが、誰かが吹き出すのを皮切りに、三人とも笑いをこらえきれず、声を上げて笑い出したのであった。

 ちなみに、この魚とチンアナゴとヒトデが、後日ツイッ○ーでバズるのはまた別の話である。

 

 

❀❀❀❀❀

 

 

 リコリスとは思えない三人娘が魚とチンアナゴとヒトデのモノマネを終え、ペンギン島へ向かっている頃。

 その付近の地下鉄の駅内では複数人の男たちが、物々しい長物のバックを携えて訪れていた。

 目元を隠すサングラスに揃いのツナギ。明らかに堅気ではない雰囲気。

 その中に、2名ほど他とは一線を画す容姿とオーラの人間がいた。

 

 一人はクセがついてボサボサになった髪を毒々しい緑に染めた、ピンクの柄シャツの上からロングコートを纏う男。

 もう一人は、腰まで伸ばしたツヤのある金髪を二つに分け、ストライプのYシャツの上から真っ赤な上下スーツを着た、背の高い男。

 

 恐らく緑髪の方の男が連中の頭目なのだろう。ボストンバッグに入っていたものを彼の部下に取り出させた。

 

「臭う…臭うなぁ。消毒され、漂白された…健康的で不健全な嘘の臭いだ……そうだろう、狩埼?」

 

「あぁ、そうだな真島の兄さん。アルコールや漂白剤が可愛く感じるレベルだ。地味すぎて吐き気がする」

 

「バランス取らねぇとなぁ…?」

 

 真っ赤なスーツの男―――狩埼に「真島の兄さん」と呼ばれた男がバッグに入っていたソレを構えるのを合図に、狩埼や他の部下もソレを構えた。

 

「さぁ、来るぞォ……!

 始まり、始まり―――」

 

 夕刻。それは帰りの通勤ラッシュの時間帯。

 何も知らずにホームにやって来る地下鉄には、無辜の国民が鮨詰めのごとく乗っているはずだ。

 それに向かって真島や狩埼、彼の部下たちは取り出したもの―――PMK軽機関銃や、AKアサルトライフルを向ける。

 そして。

 

「―――始まりィ…!」

 

 トリガーが引かれ、一斉に銃口から火を吹かせ始めた。

 7.62x39mmの弾丸の嵐が、ガラスをあっさり破り、ステンレス合金製の車体に風穴を開け、整った車体をボロボロにしていく。

 

「ハハハハハハハハハハハハッ!」

 

 無論、戦闘訓練どころか刃物を向けられただけで竦む日本人にはひとたまりもない。

 真島と彼の部下たちによって放たれた一斉掃射によって、車内がどす黒い赤の惨状になっている―――かと思ったが。

 

 

 

 

 

「…は?」

 

 硝煙の晴れた先には、死体どころか血の一滴さえなかった。

 割れたガラスが散乱するばかりで、まるでたった今やってきた電車の中に、誰も乗っていなかったかのような、完全な無人だった。

 

 

 ―――ぱん。

 

「あひゅ」

 

 いや、無人ではなかった。

 電車の車体から身を乗り出して放たれたのは―――銃撃。先ほどまで自分達が一方的に行使する側であったはずの暴力。

 それを放ったのは、ベージュの制服を身に付けた、年端も行かない少女。どう見ても女子高生にしか見えないが、たった今、手にしたグロックで、真島の武装集団の一人の頭蓋を撃ち抜いた。

 銃が厳格に規制されている筈の国で、テロリスト達に暴力を振るう、少女の姿をした軍隊。

 その名を―――リコリス。

 

「やっべ…!」

 

 あまりに現実離れした光景に、一瞬だけ武装集団の行動が遅れる。

 互いに銃を持っているこの戦場で、それが命取りになる。

 

 火薬音が再び炸裂しだす。

 

「がぁっ!」

 

「うお――」

 

「ごっ!」

 

 サングラスとツナギの男たちが次々と銃殺されていく中、真島はホームの柱まで一直線に走っていく。

 途中、腕を撃ち抜かれても止まる事は無い。撃たれているのに撃っている時と同じような狂騒的な笑みもまた、崩れない。

 だが、彼はほぼ袋のネズミだ。電車に乗っていたリコリス達の総数は、ホームにいた部下たちの比ではない。

 回り込んできたリコリス二人と目が合う。そして―――

 

「あ゛」

 

「ご」

 

 その二人の頭部が、()()()。人間とは思えない生き物の小さな断末魔を上げて崩れ落ちる。

 二名のリコリスの命を刈り取った弾丸を放ったのは―――狩埼だ。真島と違ってどこも撃ち抜かれていないのは、リコリスの反撃を即座に察知して、すぐさまAKを捨てて物陰に隠れたのだろう。

 両腕に持っている拳銃も異様だ。片や長すぎる銃身の、大型リボルバー。片や.44マグナム弾さえ撃てるオートマチックの拳銃・デザートイーグルだ。懐に隠し持っていたのだろうそれで、リコリスに超強力なマグナム弾をお見舞いしたのだ。

 巨大リボルバーとデザートイーグル両手に、狩埼は隣の柱から叫ぶ。

 

「兄さん! 早く()()を!!」

 

「分かってるよぉ!」

 

 真島が懐から取り出したのは―――プラスチック爆弾の起爆装置。 

 証拠隠滅用に持っていたそれを躊躇いなく押した。

 

「間違いない、兄さん…奴らから、()()()!」

 

「そうかァ……つまりィッ!」

 

「「()()()()がッ!!」」

 

 真島と狩埼の、何かを確信したような啖呵は、爆弾の強烈な熱波と衝撃波に巻き込まれ、崩落する駅の天井にかき消されていった。

 

 




井ノ上たきな
 ……さかなー!

錦木千束
 ……チンアナゴー!

八仙紫
 ……ヒトデー!

真島
 ……地下鉄でテロリストへ対抗する組織を知る。

狩埼
 ……真島を「兄さん」と慕う、金髪で筋肉モリモリマッチョマン、真島以上の高身長持ちなテロリスト。イメージはCV小西さん。愛銃はS&WのM500(S&W社の超絶化け物リボルバー)とデザートイーグル(マグナム弾撃てるオートマ)。真島の右腕的存在。味方だけ強化するのはバランスが悪いから敵側も戦力アップ。なお、この人に真島のことを「真島の兄さん」って呼ばせるか否かはまるまる1か月は悩んだ。
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